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魂繋 最後の訪問者

作者: 滝川拳

久し振りに小説家になろうに投稿します。

滝川です。

このページを開いて頂き、ありがとうございます。

物語としては短い物です。

暫くの間、私の話にお付き合い下さい。

最後の訪問者


魂は母親のお腹に生命が宿る時、同時に天から降りてくる。その生命が母親の体から外の世界に出ると、人の人生が始まる。月日が流れ、肉体の寿命が来た時、人生を終えた魂は肉体を脱ぎ捨て天に帰る。それを繰り返し魂も成長する。



六車線に及ぶ大きな国道沿いの歩道を中年の夫婦が歩いていた。


「婆ちゃん、亡くなる前不思議な事を言ってたよな?」


「そう? 懐かしい人に会えたから、そう言ったと思うんだけど。だってお婆さん亡くなる迄、凄く嬉しそうな顔をしてたもの」


妻は夫の考える難しい事には興味がなかった。ただ祖母の亡くなる前の笑顔が印象に残っていた。


「そうだな……」


妻の話に夫は物足りず、そこで話を止めて黙ってしまった。



八畳の和室の真ん中に布団が敷かれ八十過ぎの女性が寝ていた。布団の横には女性の掛かりつけの医者が静かに正座していた。医者の左右には女性の子供と思われる六十前後の男性が胡坐をかいて座っている。

女性は肺炎を患った事で危篤状態に陥っている。朝方危篤状態に陥ってから気の許せない時間が流れ、丁度二十三時を過ぎた頃だった。女性の周りに座る身内に疲れの様子が見えた頃、突然家の扉が開き二十前後の若者が入ってきた。扉の近くで胡坐をかいていた男性が夜の訪問者を見上げた。


「こんばんは」


若者は胡坐をかいている男性を見下ろし軽く挨拶をしたが、胡坐をかいている男性は若者に見覚えがない。


「君は?」


「私は久方と言います。静江さんに昔お世話になった者です。突然で申し訳ないのですがお見舞いに伺いました」


胡坐をかいている男性は、静かに眠る母親の姿を見た。


「申し訳ないが……、今日は……。今晩が山になるらしい……」


男性の悲しい声は、静かな部屋を風のように流れすすり泣きに変わった。若者は悲しむ男性を無視して女性を真ん中にして医者の座る反対側に回った。


「私だ善郎だ。静江、私の声が聞こえるか!」


突如若者の声は太く貫禄のある男性の声の物に変わった。中年から初老迄の人が居る中、若者の声が身内の者の誰よりも大きな存在に感じた。


「善郎って……。うちの母の兄の名じゃないのか?」


医者の左に座る六十過ぎの男性が若者の方を見た。若者の方を見たのは、この家の主で静江の長男の茂だった。

茂は善郎と言う伯父が太平洋戦争で戦死した事を小さい頃母から聞かされていた。不思議な気持ちを抱かされ若者の方を見ると、身内にも思える存在を感じた。


「あの……。失礼なのですが、どなたでしょうか?」


若者は茂を見下ろし微笑んだ。


「私は佐竹善郎と言います。こんな状態で伺うのも迷惑をお掛けする事は分かっていましたが、静江と最後に会っておきたかったのでね」


身内の中には若者の発言に気分を悪くしている者もいた。


「兄さん、何を馬鹿げた話を信じてるんだ! 君も君で我々を身内の者を馬鹿にしてるのか!」


若者は声を荒げた男性の方を見た。


「馬鹿にしてる? 君は私の何を知っていると言うのか!」


若者に一喝された男性は目を見開き圧倒されていた。


その時だった。


「あん……ちゃ……ん……」


布団で眠る静江の目が薄く開き涙で零れた。

小さな声で兄を呼ぶ静江の声に若者は反応した。


「静江!」


若者は布団の中から静江の手を取り、両手で静江の手を自分の顔に近づけた。


「よく頑張ったな。お前は本当に頑張った。とうちゃんもかあちゃんもお前の事を喜んでいるぞ」


「とうちゃん、かあちゃんが……。会いたい……」


若者に手を握られた状態で静江は深夜の一時、息を引き取った。



若者は玄関先で靴べらを使い靴を履いていた。その若者を玄関先迄見送りに茂が近くで立っていた。


「母も最期に嬉しかったと思います。善郎伯父さん、こんな狭い所に来て頂きありがとうございました」


不思議な光景だと誰もが思った。一族の長が二十前後の男性に深々と頭を下げている。


「信じてくれる人が居てくれて、私も妹の最後を見届ける事ができたよ。茂、ありがとう」


若者は扉を開けて、暗い夜道歩き始めた。



中年夫婦は電車の切符売り場の券売機で切符を買っていた。


「婆ちゃん、本当にあの若者を兄弟だと信じてたのかな?」


夫は自分の祖母が亡くなる前の出来事に未だ疑問を感じていた。券売機から出てきた切符を二枚取り、その一枚を妻に渡した。


妻は夫から切符を受け取り「まだ言ってるのですか?」と言って呆れていた。

長年夫婦を続けていると、この程度の事は何度も起きる。仕方ないので夫が納得できる事を話した。


「あの子はお婆さんが通院していた頃に知り合った友達なのよ。でもお婆さんが亡くなるのを知って、最後にお婆さんを喜ばせてあげようとしたのよ」


「そうか……。あの子の迫真の演技に俺も本物かと思わされていたよ」


夫が妻の話に少し納得行くと二人は改札口に向かって歩き出した。


「本当、見た目は立派なおじさんでも、中身は子供ね」


妻は苦笑いしながら夫と共に自動改札口を通り過ぎて行った。


お読み頂き、本当にありがとうございました。

この物語は魂繋シリーズの序章として連載に向けて考案中の物です。

感想、ご指摘を頂ければ非常に助かります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 若者が本当に善郎なのか、それともただの善意なのかを明らかにしていないのがミステリアスでよいと思います。 [気になる点] 全体的にあっさりしています。 もう少しくどくされてもよいのではと感…
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