78.思い出の場所の山鳥
昼少し前にレンドルフがギルド前に到着すると、既に建物の外に行列が延びていた。
「レンさん!」
誰か他に来ている仲間はいないかとギルドカードを確認しようと取り出していると、後ろからユリが小走りに駆け寄って来ていた。
「もう結構並んでるのね」
「うん。ちょっとビックリした」
「初日よりは列は短いけどね。今、バートンさんが先に来て並んでくれてて、ミス兄達はもうすぐ来るって」
「じゃあ、また連絡が来たら窓口に向かえばいいのかな」
「うん。初日と同じようにカードを見せるの。レンさん、初日と今とで色が変わったから、前みたいに二度見はされないね」
ちょうど少し離れた場所のベンチが空いたので、そこに並んで腰を下ろした。
「レンさん」
「ユリさん」
何故か声が被ってしまって二人は顔を見合わせた。
「ユリさんからどうぞ」
「え、レンさんから」
「ユリさんの話を先に聞きたいな」
「う…そういうとこ…」
「ん?」
レンドルフに良い笑顔で返されたユリは口の中で小さく呟いたが、レンドルフの耳には届かずに首を傾げられた。ユリは軽く咳払いをして、少しだけ熱を持ったように熱くなる頬を気付かないようにしてレンドルフを見上げた。
「ええと、レンさん、このあと何か予定ある?なかったら、ちょっと一緒に来て欲しいところがあるんだけど…」
「同じだ」
「え?」
「俺も、ユリさんと同じこと聞こうと思ってたんだ」
ユリの言葉に、レンドルフは嬉しそうに破顔して来る。ユリは思わずキョトンとした顔で見つめ返してしまい、慌てて我に返った。
「そう、なんだ」
「うん。ユリさんが行きたいところ行って、もし時間があったら俺の行きたいところにも付き合って?」
「レンさんの方、先でいいよ」
「ノルドで行けばすぐだから。あ、もしかしてタイキ達も一緒に行く?」
「ううん!レンさんと!…その、レンさんと、だけ」
「うん、それも同じだ」
ユリが何か続けようと口を開きかけたとき、互いの手元にあったギルドカードがメッセージの受信を知らせた。
「行かなきゃね」
「そうだね」
二人は同時に立ち上がって、ギルドの窓口へと向かったのだった。
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「手続きは以上です。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
ギルドから貸し出されたポーチ二つと地図を返却し、全員のギルドカードを魔道具に通してもらい、呆気無い程に手続きは終了した。最初の時は討伐期間のひと月は長いように思えたが、今はあっという間だったように思えた。
「今日中に色々精算して、明日には各自の口座に報酬を振込むから」
「大丈夫なのか?」
「むしろ今すぐにでも計算したくてウズウズしてるところだ」
何とも良い笑顔でミスキが胸を張る。こんなに良い笑顔は今までで一番かもしれない。
「ミスキ、今回の討伐で最高額を記録しそうだから早く確認したいのよ」
「そうなんですね」
レンドルフは、確か初対面の自己紹介の時もミスキは会計を担当しているようなことを言っていたのを思い出していた。ミスキは明らかに喜びを隠し切れていないニマニマと緩んだ顔で、ユリから使用した薬や薬草などの一覧表を受け取っていた。回復薬などの代金は、個人の使用数ではなく全体を頭数で割る取り決めになっている。そうでなければ前衛と後衛で使用数が大きく変わるので、不公平になってしまうからだ。レンドルフがもともと使っていたシャツのボタンの魔石も、魔力回復薬相当に当たるとしてきちんと請求するようにと言われていた。
レンドルフは、物語に出て来るような冒険者と違って現実はしっかりした商家のような会計管理をしているのだと感心していたが、後からクリューにここまで細かいパーティは珍しいのだと教えられた。しかし、会計がザルなパーティはいずれトラブルを起こして解散することが多いので、長く続けているパーティはどこも比較的キチンと取り分は決められているそうだ。
「じゃあ今日はこのまま解散な!積もる話は明日思い切りしような」
「明日はお昼から真夜中までお店借り切ってるから、今日はゆっくり休んでねぇ」
「また明日な!」
「お疲れさん」
全く最終日とは思えないあっさりした形で解散になった。もっとも、打ち上げは明日なので感覚的に最終日ではないのかもしれない。
「じゃあユリさんの行きたい場所へ行こうか。どうする?ノルドに乗って行く?それともユリさんは馬車に来てもらう?」
「ノルドで行きたい!」
「分かった」
ギルドから門の近くのノルドの預け所に向かって、いつものように並んで歩く。この定期討伐の間、ほぼ毎日繰り返した日常だった。違うとすれば、まだ日が高いところくらいだろう。
「もう今から盛り上がってるんだな」
「そうね。今日は酒場も早くから開けてるくらいだもの」
確かに昼間は閉まっている店も今日ばかりは昼前から開店していて、既に盛況だった。開いた窓から楽しそうな声が漏れて来る。ちょうど昼が近いこともあって、あちこちから揚げ物の良い香りが漂っていた。どこかで生演奏も入っているのか賑やかな曲と歌声も遠くから聞こえて、まるでお祭のような空気である。いつもよりも人通りが多い街の様子に、レンドルフは普段はユリの真横を歩いているのだが、心持ち斜め前に位置取った。その流れるような位置変更に、二人の並んで歩く様子を密かに愛でている街の住民は「本物の護衛だ…」「さすが護衛騎士様」とこっそり感心していたのだった。
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「ユリさんの行きたい場所は?」
「え、えと…ヒュドラ討伐地近くの…前にレンさんと行った滝のあるところ、なんだけど」
「え?」
「ほ、ほら、あの場所でレンさんに冒険者勧めて、一緒に討伐に行く始まりみたいな場所だし。何か、折角ならあの場所で、レンさんが正式な冒険者登録されて、ランクも取得したお祝い?みたいなこと、したいなー…って…」
最初は早口だったユリの声がだんだんと小さくなって、最後には消え入りそうになって途切れた。レンドルフは何故か無言で、ゆっくりとノルドを歩かせ始めた。そして少しずつ速度を上げて行く。この程度ならいつもの帰り道で同乗している時と変わらない速度だが、レンドルフが何も返して来ないことにユリは不安になって振り返ろうとした。
「ゴメン、ちょっと、前向いてて」
いつもなら支えるだけで必要以上に触れないように気を使ってくれているレンドルフが、ユリの両脇に回している手綱を持つ手を少しだけ狭めて前のめりになる。強引ではないが、ユリの体を囲い込むような体勢になって、振り向くことをやんわりと阻止されてしまった。
「その…嬉しくて。俺も同じこと、思ってて。だから、ちょっとだけ、顔見ないでもらえるかな」
「あ…その…うん」
ユリは、レンドルフの声が少し震えて湿り気を帯びていることに気付いた。それだけで何となく察しがついて、振り返るのを止めて真っ直ぐ前を向いた。レンドルフもそれが分かったのか、狭めた手をフワリと緩めていつもの状態に戻す。そして姿勢も戻したのか、背中全体に感じていた自分よりも高い体温も離れて行ってしまったことに、ユリは少しだけ残念な気がしていた。
「あ、あのね。今日はコメを使った美味しい保存食持って来たの。レンさん、携帯食とか保存食に興味ありそうだったから。スープに入れて、具みたいにして食べるの」
「うん」
「それとね、蜜ワインの白も持って来た。この前は赤しか入ってなかったんだけど、白も入荷したって聞いたから、飲み比べてもらうのもいいかなって」
「うん」
「それと、おじい様からちょっといいお店のチョコレート貰ったから、持って来ちゃった。ドライフルーツが中に入ってて、私も好きなの」
「うん……ありがとう」
このまま沈黙しているのも憚られたのでユリは一方的に喋り続け、時折上の方からズズッと音がしたのは聞こえなかったフリをした。簡単な相槌しか打てなかったレンドルフがようやく言葉を返し始めたのは、森に入ってからのことだった。
「気を遣わせちゃって、ごめん」
「ううん。何か、そこまで喜んでもらえたなら嬉しい」
目的地は魔獣の出現しない浅い場所なので、冒険者の姿は当然見えなかった。以前にレンドルフが山鳥を焼いてくれた場所の少し下流に出る。
「レンさん、もう振り向いてもいい?」
「えっと…もうちょっと待って。顔洗って来る」
ノルドの足を止めて、レンドルフが先に降りる。いつもなら先に降りたレンドルフがユリに手を貸してくれるのだが、そうすると顔を合わせることになる。その為一応ユリは確認したのだが、レンドルフは慌てたような口調になった。そしてすぐに足音が少し遠ざかって、背後からバシャバシャとせわしない水音がした。音だけで何をしているかあまりにも分かりやすく、思わずユリは笑ってしまった。別にユリはレンドルフの手を借りなくても降りられるのだが、いつも手を貸してくれる気配りが嬉しいのでそのままノルドの背で待つことにした。
ノルドは分かっているのかいないのか、不思議そうな顔でユリの方を振り返っている。
「お待たせ」
「ううん、ありがとう」
よほど急いで顔を洗ったのか、少し前髪が濡れたままのレンドルフがノルドの横に駆け寄って来てユリに向かって手を差し伸べた。いつものように重ねたレンドルフの手は、水で冷えたのかヒンヤリとしていた。降りる際にユリはチラリとレンドルフの顔を見たが、目の回りと鼻の頭が少し赤くなっている。頑張って顔を洗って来たのだろうが、色白のレンドルフがどういう顔をしていたのかすぐに予想がついてしまうのだが、そこは敢えて何事もなかったようにユリはレンドルフに笑顔を向けたのだった。
「私は薪を拾って来るね」
「じゃあかまどを作っておくよ」
まるで示し合わせたようにあの時の再現をしようとして、お互いに顔を見合わせてクスリと笑う。
レンドルフが石を積み上げて簡易かまどを作り、即席の網を形成する。その姿を見ていると、本当に一瞬あの時に戻ってしまったのではないかと錯覚してしまいそうになる。ユリはすっかり癖になっていた胸元で揺れている魔鉱石に、無意識で触れていた。そしてあの時はまだこれは贈られていなかったことに気付いて、少しだけ積み重ねた時間を自覚した。
「レンさん、それ…山鳥?」
「うん」
「いつの間に狩ったの!?」
「いや、さすがにその時間はなかったから、昨日のうちに肉屋を回って手に入れた」
「そこまで凝るとは思わなかった…私、この前とは違うもの用意しちゃったよ」
「これは単に俺がしたかっただけだから!ユリさんが紹介してくれるのは何でも美味しいから楽しみだし!」
急に慌てだすレンドルフの狼狽っぷりがおかしくて、ユリはクスクスと笑った。魔獣を前に大剣を構える姿は、こちらに背を向けていても肌がピリピリする程の気迫と殺気を放っているのに、そうでない時の彼を知れば知る程可愛らしさばかりになって行くのはどうしてなのだろうか。
「今日は魚の塩漬けを持って来てるの。それを焼きたいから、乗せる網を作ってもらってもいい?」
「うん。すぐ作るよ」
山鳥を網に乗せてから、レンドルフは新たに手元の鋼の糸を手早く寄り合わせて、あっという間に簡易の網を作ってしまう。それを立てた石の間に渡して火の上に来るように調整する。ユリは持って来た包みを取り出して、中から魚の切り身を出した。黒い皮に鮮やかなオレンジ色をした身で、切り口の端の方に薄く塩が浮いている。
「その切り身だと、随分大きな魚だね。魔魚?」
「魔魚の一歩手前、かな。イトゥーラ鱒っていうの。北の方に生息する魚だからレンさんも知ってるかも」
「イトゥーラ…ああ!イトヒラ鱒かな。へえ、魔魚になる前はこんなに綺麗な色の身なんだ」
「レンさんのところでは食べないの?」
「ウチの方に来る頃には完全に魔魚になってるから、煮ても焼いても不味くて、畑の肥料にするくらいしかないんだ。身も真っ黒だしね」
イトゥーラ鱒は、川で孵った稚魚が海に出て大きくなり、産卵の為に再び川に遡上して来る習性の魚だ。最初は普通の魚なのだが、大きくなると身に魔力を蓄えて魔魚となる。魔魚になると性質も凶暴な肉食になるので、遡上する季節には川遊びは禁止になるのだ。魔魚になる前の身は脂が乗っていて臭みもなく、魔魚になる寸前がもっとも美味しいとされているので、それを見極める目利き漁師が専門にいる程だ。
「これを焼いてほぐしたものを、スープで戻したコメと食べるの」
「このままは食べないの?」
「食べられなくはないけど、スープ用だから結構塩辛いよ。焼けたら味見してみる?」
「是非」
網の上に乗せた切り身が、熱によって透明感のある身からほんのりと全体的に白みがかって来る。その間にスープを準備しようと、ユリは袋の中から干したコメを取り出した。それをレンドルフが興味深げに眺めているので、少しだけ手に乗せてあげた。
「やっぱり干すと小さくなるんだ。これ、食べてみたら駄目なヤツ?」
「うーん…固いし味もないけど、食べられないものじゃない…けど」
ユリがそう言った瞬間、レンドルフは迷わず手の上の干しコメをパクリと口に入れていた。そして外にも聞こえる程の音でボリボリと噛み砕いた。が、やはり何の味もしないので微妙な表情になる。
「炒り豆より味がしないな」
「でしょうね。本来はスープに入れて戻して食べるものだし」
生まれも育ちも貴族のレンドルフではあるが、辺境領で野営などを経験して鍛えられているので、大抵の食べ物は抵抗なく食べられるし、初めてのものでもまず試してみることが多い。ユリはその貴族らしからぬ食に対する姿勢のレンドルフを、いつも好ましく思っていた。
火の通りが早い切り身は、全体が白っぽくなって来たのでトングを使ってクルリと裏返す。すると身の間から滲み出ていたオレンジ色の透明な脂がポタポタと火の上に落ちてジュワリと香ばしい音を立てた。水分が飛んで縁の辺りに浮いていた塩が結晶化してキラキラとしている。
「いい匂いだ」
「もうちょっとで焼けるから。味見はその時ね」
「楽しみだな」
火の側で軽く目を閉じて鼻を引くつかせているレンドルフの顔は、何だか随分子供っぽく見える。
ユリはすぐ隣に鍋を掛けてあるかまどに近付き、湯が沸いたのを確認して干し魚の粉末と干しコメを投入した。時間がかからずに出来るように一度炊いたコメを干したものなので、あっという間に水分を吸って倍くらいに膨らむ。鍋底にくっつかないように木製の大型スプーンでぐるりと混ぜながら、この戻る様をレンドルフに見せてあげれば良かった、と今更ながらユリは気付く。きっと彼のことだから、こんな些細なことでも目を見張って楽しげに覗き込む姿が容易に想像が付いてしまい、ユリは少々惜しいことをしたな、と考えていたのだった。
鍋から目を離してレンドルフが側についている網焼きの方を見ると、ちょうどイトゥーラ鱒のほうが焼き上がっているようだった。ユリはトングで挟んで木の皿の上に移すと、一番身の厚い真ん中の部分を軽くほぐし、小さなスプーンに乗せてレンドルフに差し出した。
「はい、骨があるかもしれないから気を付けてね」
「ありがとう」
スプーンを受け取って、レンドルフは一切躊躇いなくパクリと口に入れた。思ったよりも熱かったのか、少しだけ上を向いてハフリと息を吐いたが、すぐにモグモグと口を動かす。
「…確かに塩はきつめだけど、こんなに美味しいなんて」
「良かった、口に合って」
「魚だからかな。こんなに脂が乗ってるのに全然クドくなくて。パンとか芋とかに乗せたらちょうど良さそうだね」
「蒸かしたジャガイモにこれとチーズを乗せて焼く料理もあるよ」
「絶対美味しいやつだ…」
既に想像だけでうっとりとしているレンドルフに、ユリはちょっとしたことを思い付いて、圧縮魔法の付与された箱の中から瓶を取り出した。何をしているのかと不思議そうな目で見て来るレンドルフに、ユリは「ちょっと待ってて」と悪戯っぽく笑ってみせる。簡単なサラダでも作ろうと思って持参して来たものだが、思い付いたものは絶対レンドルフが好きな味だと確信していた。
ユリはバゲットを薄めにスライスして、焼いた切り身の一部を細かくほぐして瓶の中のクリームドレッシングを混ぜた。全部木の皿の上で済ませている適当調理だが、洗い物が少なくていいだろう。それから和えたものをバゲットに乗せて、いつも何となく持ち歩いている乾燥ハーブの小瓶の中からタイムを千切ってパラリと掛けた。そしてそれをサンドイッチのようにもう一枚のバゲットに挟み込むと、トングで掴んで網の上に乗せた。片面を10秒ほど炙って、更に引っくり返してもう片面を焼く。焼き上がったものを新しい皿に置いてレンドルフの方に向ける。
「はい、食べてみて」
「うわあ…ありがとう!」
時間にしてみたら五分も掛からないものだが、レンドルフは目を輝かせてまるで宝物でも貰ったかのように両手で皿を受け取った。そっと手で摘んで、レンドルフは口に運ぶ。彼ならば一口で頬張れそうなサイズだったが、大切そうに小さめに齧る。歯の下で表面だけ炙られたバゲットがシャクリと軽快な音を立てる。挟んだ具材のソースが押されて少しだけはみ出し、レンドルフの口の端に付いてしまったが、彼は気にせずに口の中の物を咀嚼する。予想通り口に合ったのだろう。噛み締める度にレンドルフの口角が明らかに上がって行く。一口目を飲み込むと、口の端に付いたソースをペロリと舐めとった。
「これ…美味しい…」
ホウ…とうっとりしたような吐息を漏らして、次の一口を齧る。やはり大切にしたいのか、どう見ても一口サイズなのにまだ手元に残す。結果的に四口に分けて平らげて、うっとりとしたような表情になった後、無くなってしまったことへの落胆の顔までセットになっていた。そのレンドルフの表情の移り変わりを観察しながら、ユリは嬉しさと少しだけ頬が熱くなっているのを感じていた。
「すごいね、ユリさん!こんなに美味しいもの、まるで魔法みたいにあっという間に!」
「褒め過ぎだから…でも、ありがと」
「これ、毎食山盛りでも食べられる…」
「それは言い過ぎでしょ」
「本当だって。あ!鳥肉!!」
簡単イトゥーラ鱒サンドに夢中になって、焼きかけの山鳥の存在を忘れていたレンドルフは、慌てて肉を引っくり返した。山鳥は丁度良いこんがりキツネ色になって、パリパリの皮の下から透明な脂が大量に滴り落ちた。
「危なかった…ユリさんの料理は、美味しいけど他に考えられなくなるから危険だ…」
「まるで毒を盛ったみたいに言わないでくれる?」
「あんなに美味しいならいくらでも盛られていいけど」
「ちょっと!真顔で言わないで!」
ユリは少々物騒なことを言い出したレンドルフに大袈裟に口を尖らせるようにして眉を顰めて睨んでから、それから互いに顔を見合わせて声を上げて笑い出した。
太陽がほぼ真上に来て雲一つない程によく晴れ渡った空の下、二人の楽しげな笑い声はいつまでも続いていた。