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70.魔狼と召喚獣・憤怒の雷鳴獣

戦闘あります。ご注意ください。


「じゃあ頼んだ」

「ああ」


レンドルフは両手で持てるくらいの大きさの目の粗い麻袋を持って、少しだけ前に出た。この袋の中には効果の高い麻痺粉が入っている。それを揺すると、袋から白い色の粉煙が立ち上る。それを微細な霧を発生させる隠遁魔法に乗せて、この先にあるキラーアントの群れがいるエリア内に流し込んだ。

本来の隠遁魔法の人の目を欺く目的ではないので、可視化されていても問題はない。これが人間相手ならばすぐに警戒されてしまうだろうが、キラーアントならばそこまでの知恵は回らない。粉を含んでいるせいか空気よりも少しだけ重くなった煙は、足元を這うように進んで行く。

風魔法で麻痺粉をばら撒くことも出来るが、その場合は使い手が目標を目視して狙いを定めないと難しい。こちらが目視しているということは、向こうからも認識されるということだ。その点隠遁魔法で霧を発生させるのは、多少時間はかかるが相手に姿を認識させずに麻痺粉を届けることが可能だ。


「思ったよりも空気の流れが早いな…もう少しかかりそうだ」

「それは問題ない。レンの魔力は大丈夫なのか?」

「それならまだまだ余裕だ」

「頼もしいな。しかし、今は効果の確認だ。この先の為に無理はするなよ」

「分かってる」


魔法に集中しているレンドルフの護衛についているミスキが声を掛けて来た。何かあった時の為に隙なく矢をつがえて周囲を伺ってくれている。


しばらく霧を発生させ続け、手持ちの袋が残り僅かになるまで萎んだ頃、ようやくこの先のエリアに必要分程度は充満した感覚が伝わって来た。


「意外と出口に流れる量が多くて完全に天井までは満たせなかったが、キラーアントを覆うくらいまでは流せた」

「お疲れ。タイキ、あっちの気配はどうだ?」


レンドルフが魔法の展開を止めると、ミスキが後半に控えているタイキを振り返った。声を掛けられる前に既にタイキは目を見開いて、何もない空間をキョロキョロと眺めていた。彼の細い虹彩が一段と細くなり、大きな金の瞳が微かに魔力で光を帯びる。


「すげぇ…ほとんど動きが止まってる」


キラーアントの気配を察知して、その大半が地面付近で動いていないことにタイキは思わず溜息混じりに声を漏らした。空気の流れで霧が薄い箇所もあったのか隅の方で少し動いているようだが、それでも大した数ではない。


「成功だな」

「ああ、良かった」


提案はしてみたものの実際試したことはなかったので、レンドルフは安堵して肩の力を抜いた。もし失敗しても昨日のように倒せない相手ではないし、味方に被害が出るようなものではないが、やはり多少は緊張していたようだ。



----------------------------------------------------------------------------------



「うわぁ、壮観…」


キラーアントのエリアに足を踏み入れると、それこそ足の踏み場もない程にキラーアントが転がっていた。麻痺をさせているだけなので、大半が微かに足が動いているのが余計に気味の悪さを際立たせる。


「これ、昨日よりも多くねぇ?」

「どうじゃろうな。昨日は倒した端からどんどん回収しとったからの」

「…足場が悪いな。盲点だった」


倒した魔獣を回収する空間魔法の付与付きポーチは、生きているものは入れられない。その為、麻痺させているだけのキラーアントは回収出来ないのだが、足元を埋め尽くさんばかりにひしめいているので大変歩きづらい。しかも多少体が動く個体は側に行くと威嚇してその強靭な顎で噛み付いて来ようとする。


「やっぱり爆発させとくべきだったわ…」

「麻痺じゃなくて毒にしておけば良かった…」


女性陣から若干不穏な言葉が漏れているが、とにかくこれを越えて出口に向かわないことには効果が切れて折角の策が無駄になってしまう。

それにあちらも仲間を乗り越えるのにもたついてはいるが、あまり麻痺粉を吸わなかった個体もいる。互いに距離はまだあるが、向かってくる気は満々である。


「素材回収とかはしないでいいなら、土魔法で道を作るけど」

「頼りきりで悪いが、頼む」

「大丈夫だ。…アースウォール」


レンドルフはしゃがみ込んで床に手を置くと、土魔法を発動させた。

迷宮ダンジョンなので床は石畳ではあったが、驚くほど魔力の流れが良い。これならば予想よりも消費が少なく済みそうだった。


レンドルフの魔力に反応して出口に向かって一直線に床が盛り上がり、倒れているキラーアントがそこから左右に押し退けられる。そしてその盛り上がった部分を中心から割くように形を変えて、キラーアントが倒れていない通路が出来上がった。レンドルフが通るのにも余裕のある幅で、通路の両脇にそびえる壁は彼の頭二つ分は高い。


「おー!これなら楽に通過出来るな!レン、ありがとな!」

「助かるわぁ。でも魔力量は大丈夫?」

「大丈夫です。この石畳、ダンジョン製だからなのか、すごく魔力の通りが良くて。予想よりも少しで済みました」


レンドルフの話を聞いて、クリューが「そうなんだ」と手をワキワキさせていたのを、ミスキが素早く見咎めて制止していた。



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そのまま先日と同じルートを辿って、ダンジョン最奥のミノタウロスがいるエリア手前まで到達した。やはり同じように殆ど魔獣とは遭遇せず、タイキに先の気配を探ってもらったが、ほぼ前回と同じだったようだ。


「やっぱり魔狼がいるみたいだ。おんなじ匂いがする。多分、三体?」


鼻をスンスンさせながらタイキが答えた。合わせレンドルフも嗅覚と聴覚の強化で確認したが、タイキと同意見だった。


「麻痺粉はどうする?」

「クリューがやる気だと、粉を完全に除去しておかないと危険だしな。ダンジョン最奥の密室だと風魔法で吹き飛ばすのも難しいし、ここでは止めておいた方がいいかもしれない…」

「そうよねぇ〜」

「クリューが言うなよ」


また隠遁魔法で霧を発生させるかどうか確認したレンドルフに、ミスキが眉間に皺を寄せながら答えた。


「ダンジョンボスを倒すと外への転移する魔法陣が出るってことだから、何かあってもレンとタイキはボスを倒すことに専念して欲しい。他のに苦戦しても、ボスさえどうにかすれば逃げられるからな」

「分かった。でも気を付けてくれよ」

「俺だって痛いのはゴメンだしな」


全員静かに装備などを確認をする。一応ミスキがフォローに回る予定ではいるが、それでも孤立することへの用心にレンドルフとタイキはいつもより多めに腰に付けているポーチに回復薬を入れた。


「レンさん、雷避けは大丈夫?違和感とかない?」

「うん。今のところ問題ないよ」


レンドルフは、ダンジョンに入る前にユリから借りた装身具を服の上から触れた。借りたのは白金の台にローズクォーツを嵌め込んだ付与付きピンキーリングだった。ユリの小指サイズなので、そこにチェーンを通してレンドルフの首に下げるように装着している。


「多分向こうも気付いてるだろうから、一気に突っ込むぞ」


ミスキの合図で、全員小走りに走り出す。

そしてエリアの入口付近で一気にタイキがスピードを上げてレンドルフの前に出たので、それに合わせてレンドルフも速度を出す。



入口をくぐると、そこは石造りのドーム状の半円形の空間だった。


「でけぇ!」


そのエリアの奥に、見上げるような巨体が立っている。二本足で立ち、手には巨大な斧を下げた姿で、頭には大きな角が生えている。間違いなくミノタウロスのシルエットなのだが、今までレンドルフが遭遇して来た個体よりも軽く二回りは大きく感じた。

その大きさにタイキも思わず声に出していたが、そこには僅かに喜色が滲んでいた。身体強化を掛けた足で床の石畳を抉るような勢いで、タイキが一直線に距離を縮める。走りながら防御の鎧となる透明な鱗がパリパリと音を立てて体を包み、後方に伸びて身体全体が流線型と化していた。


ミノタウロスは、突っ込んで来るタイキ目掛けて持っていた斧を真っ直ぐに振り下ろす。しかしタイキは怯む様子もなくその真下に躊躇なく走り込んだ。


ガゴン!!


空気が震えるような大きな音がして、振り下ろされた斧が一瞬止まる。タイキに振り下ろされる前にレンドルフが真下に滑り込み、彼の大剣がそれを受け止めた。受け止めると同時にすぐさま受け流して、斧が斜めに滑り落ちて床に突き刺さる。


ミノタウロスがかがみ込んだ姿勢になったのを見逃さず、すかさずタイキが曲刀を横薙ぎに腹に滑らせた。が、ミノタウロスの固い皮膚は薄く傷が付いただけだった。


「固ってぇな!」


その場で体を回転させて更に勢いを付けて、もう片方の手に握られた幅の広い短剣を傷のある場所に突き立てる。しかし、これも弾かれてしまった。


レンドルフは床にめり込んだ斧を足場にして、武器を持つ手に斬りつけた。後脚は蹄だが、斧を持つ前脚は人のように柄を握り込んでいる。この斧を振り回されると厄介だと判断して、最初に指を落としに行った。身体強化でかなりの威力で斬りつけたが、予想以上に固く、完全に落とすまでには至らなかった。しかし少なくとも三本の指には深く刃が食い込み、ミノタウロスは雄叫びを上げながら斧から手を放した。



----------------------------------------------------------------------------------



レンドルフとタイキがミノタウロスと正面からやり合っている少し離れた場所では、三頭の魔狼がクリューに狙いを定めたのかグルグルと周囲を回っていた。


「一番弱いのを狙って来るの、腹立つわねぇ」


クリューに飛びかかろうとする魔狼を、ミスキが紙に包んだ麻痺粉を装着した矢を放って牽制する。バートンはクリューとユリを背に、直接攻撃を弾いている。ユリも自身の風魔法に乗せて撒かれた麻痺粉を魔狼の鼻先に向かうように操っている。


「よりにもよって一体は雷属性とはね」


クリューの持つ杖に埋め込まれている魔石と身に着けているアミュレットが少しずつ光を帯び、彼女の栗色の髪からパチパチと金色の光が弾け出す。


三体いた魔狼は、どれも3メートルはありそうな巨体で、角が生えていたり目が二対あったりとどう見ても上位の変位種だった。そして内一体はクリューと同じ雷属性だ。同属性の魔法はかなり強力なものであればダメージは行くが、それでも効きにくいのだ。


(まあ、それでも力負けしなけりゃ叩けるでしょ!)


大きな魔法を使用する際はチャージが必要なクリューは、三人に守られながら最大限魔力を高めている。ここで焦って中途半端な魔法を使って威力を落とす訳には行かない。


クリューの髪がフワリと逆立つように広がり、金色を帯びて来る。いよいよまつ毛の先にも溢れるような光が踊る。


「空を走る者、地を裂く者、大海を飛ぶ者。世を統べる者の鉄鎚を受けるがいい!召喚に応えよ、憤怒の(イラ)雷鳴獣(サンダービースト)!!」


クリューの足下に、金色の魔法陣が浮かび上がる。三角形の頂点に円形の複雑な紋様が刻まれ、その円陣の中から金色の細身の長い光が召喚された。一見蛇のようにユラユラと動いているが、光の中で目を凝らすと耳があるのが分かる。

これは彼女の最大の攻撃魔法の一つで、雷そのもので出来ている召喚獣だった。


魔法陣から出現した三体の召喚獣は、体をくねらせたかと思うと、それこそ稲妻のように金色の光の尾を引きながら派手な音を立てて縦横無尽に駆け巡った。


「ギャッ!」


おそらく水属性と思われた一体が、雷属性とは相性が悪かった為に触れただけで断末魔を上げて転がった。濃灰色の毛並みが一瞬で黒く焦げて、白い煙を全身から立ち上らせて地面に倒れた。


もう一体は土属性で、レンドルフがよく使っている土壁を周囲に出現させて、四方八方から走り回って攻撃を仕掛けて来る召喚獣を跳ね除けていたが、完全に警戒対象から外れたミスキが土壁の隙間からキラーアントの足止めに使った粘着性の液体の瓶を付けた矢を顔に命中させた。それは狙い通りに魔狼の鼻先で砕けて、鼻を覆ってしまう。気道を全て塞いだ訳ではなかったが、不意打ちに驚いたのか前脚で顔をこすりながらパカリと口を開いた。

その瞬間をクリューも見逃さずに、少し緩んだ土の防御壁の隙間に向かって杖を振るう。その動きに合わせて、召喚獣の閃光が魔狼の咥内に飛び込んだ。一拍遅れて、魔狼の二対の目がグルリとひっくり返って白目をむいてドウ、と崩れ落ちた。どんなに防御が固くても、内部から雷を落とされたのではひとたまりもなかった。


「あと一体!」


最後まで残ったのはクリューと同じ雷属性の魔狼だ。動きが素早く捉えにくい上に、何度か攻撃は当たっているもののやはり同属性のせいかそこまで大きなダメージは受けていない様子だ。

額に角の生えた魔狼はその角から雷魔法を放って来るが、元から雷避けの装身具を皆装着しているので大した被害はない。しかし、直接攻撃は当たればかなりなダメージだ。辛うじて今のところかするくらいで済んではいるが、長引けば不利になる。

何とか足止めを狙ってミスキが矢を放っているが、まさに雷のような速さと不規則にジグザグに飛び回る動きによって致命傷を与えられない。クリューの召喚獣もそろそろ消滅の時間が近づいているのか、呼び出した時の半分くらいの大きさになっている。


クリューは顎から滴る汗に、杖を地面に差すようにして体を支えていた。時間的にも体力的にも限界が近いのは自分でも分かっていた。

片手でローブの内ポケットから魔力回復薬を取り出して、歯で蓋を咥えて封を切る。そして蓋だけをペッと床に放って一気に飲み干した。一本では召喚獣に消費した魔力には足りていないが、多少の時間稼ぎにはなる。


魔狼が再び魔法を行使しようと角に魔力を溜め始めた。額の角が金色に光り出す。

そして魔狼は角に魔力を溜めたまま、クリューに向かって姿勢を低くして一直線に走って来た。


「押し返しなさい!」


もはや消える寸前にまでになった召喚獣三体を螺旋状に絡めて強引に強度を上げ、クリューは真正面から魔狼の角目掛けて召喚獣を走らせる。


「サンダーバレット!」


召喚獣と同時展開で魔法を放つのは相当厳しかったが、この魔狼を仕留めないとこの後がもっと厳しくなる。クリューは自分の体からさっき補充した回復薬分よりもごっそり魔力が削られるのを承知しながら、全て違う軌道を描いて凝縮させた雷の弾丸を魔狼に集中させた。


一直線に向かって来るので狙いは定めやすかったが、弾丸はいくつ当たっても毛が分厚いのでダメージ度合いは分からない。召喚獣は最後の力を振り絞るように魔狼の角に絡みついて、バキリという音と共に縦に大きなヒビを入れた。次の瞬間、角に溜めた魔力が霧散してしまったのか、急速に光が失われて行く。

だが、召喚獣が行動出来たのはそこまでだった。魔狼の角の光が消えると同時に、召喚獣もサラリと消滅してしまった。魔法の発動は抑えられたものの、魔狼本体はまだ完全に倒せてはいない。


消費魔力が大きかったせいか、一瞬クリューの足下がふらつく。それを目敏く見抜いた魔狼が、これまで積み重ねたダメージなどものともせずに更にスピードを上げて走り込んで来た。


「サンダー…ゴフッ」


魔法を放とうとして、喉の奥の異物感が邪魔をして思わず咽せた。何かを口にしていた訳ではないが、カラカラに渇いた喉が引き攣れたような感覚を訴える。


「クリュー!」


魔狼の真っ赤な目が顔の前まで迫って来たような圧に、紙程度の効果もないが咄嗟に杖を顔の前に掲げた。

次の瞬間、ドン、という衝撃を受けて尻餅を付いたクリューの目の前いっぱいに、見慣れた広い背中が広がっていた。


「バートン!」

「ぐっグウウォォォォ!!」


魔狼とクリューの間に割り込むようにバートンが入り込み、大盾で魔狼の侵攻を食い止めていた。ヒビが入っていてもまだ充分な攻撃力を残していた魔狼の角は、防御の付与を幾重にも掛けていたバートンの盾を貫き、裏側で支える彼の肩口にも達していた。

だが、予想以上に深く突き刺さった角のせいで身動きが取れなくなった魔狼がもがくように脚をバタつかせている。

バートンは喉の奥から唸るような声から、やがて咆哮に変わると、渾身の力を込めて盾ごと魔狼を捻り上げ、上から床に魔狼を盾で叩き付けた。

ゴキリ、と大きな音が響いて、床に押しつけられた魔狼は一瞬体を跳ねさせたが、そのままグタリと大人しくなった。微かに投げ出された脚が痙攣していたが、すぐにそれも動きを止めて完全に沈黙した。



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「回復薬です!」

「すまんの」

「クリューさんも」

「けほっ…あ、りがと」


やっと三頭の魔狼を倒したことに安堵してバートンが座り込む。そこにすかさずユリが走り寄って蓋を開けた中級回復薬の瓶を手渡した。バートンの左肩は盾を貫いた魔狼の角が刺さり、僅かだが背中にも達していた。装備の下に着込んでいるシャツの半分が赤く染まっている。

クリューにも蓋を開けて通常の回復薬を差し出す。座り込んだまま受け取ったクリューの反対側の空いた手を取って、ユリは体温や脈の状態を素早く確認した。


「魔力回復薬ももう一本飲んでおいた方が良さそうです。飲めますか?」

「ちょうど喉カラカラだったの。今ならあの不味いのもいくらでもいけそうよ」


明らかに強がっている表情だったが、ユリは追加の魔力回復薬を渡すと、回復薬のおかげで既に傷が塞がっているバートンの方へ駆け寄る。


「肩の関節は大丈夫ですか?」

「そっちは問題ない。じゃが、ちぃっとばかし出血が多かった。増血剤くれんかの」

「はい。この感じですと二つ…三つは飲んだ方がいいですね」


ユリは乾燥付与のピルケースに入った丸薬を三粒バートンの手の上に乗せた。傷自体はそこまで大きくはなかったが、やや大きな血管を損傷したらしい。少し顔色が白いバートンの様子を見て、渡す増血剤の量を判断した。体に悪いものではないが、摂取し過ぎも却って負担が大きいので、その見極めは重要だ。


「クリュー、バートン。疲れてるとこすまないが、もう一仕事頼む」


魔狼を倒したので残りはボスのミノタウロスだけの筈だが、ミスキは手を止めずにどこかに向かって矢を放っている。


「あいつら、魔狼がいたから隠れてたみたいだ」


ミスキが天井近くに向かって矢を打ち込むと、何もない壁が妙に波打って蠢いたように見えた。

分かってから目を凝らすと、壁と同じマダラの灰色をした何かが壁に張り付いている。それもそれなりに数がいそうだった。


「サラマンダー!?」

「ああ。上手く擬態してやがった。クリュー、任せていいか?俺はあっちの援護に回る」

「了解。あいつらなら得意よ」


壁に張り付いていたのはトカゲ型魔獣のサラマンダーだった。火を操る性質を持ち、体表に弱毒の粘膜を纏っている為にミスキのような弓師とは相性が悪い。が、雷魔法のクリューは無類の強さを誇る。更にバートンの生活魔法で湿らせれば向かうところ敵なしだ。


「じゃあ、よろしくな」


ミスキはそう言って、ミノタウロスを相手にしているタイキとレンドルフの元に駆けて行った。


ユリもチラリとそちらに目を向けたが、あれから魔狼と対峙している間ずっとミノタウロスを相手にしていた筈だが、思ったよりもダメージを受けていないようだ。タイキとレンドルフも大きな怪我はしていないようだが、長引くのはあまり得策ではない。


「ユリちゃん、さっさと片付けてあっちの援護、行くわよ」

「はい!」


クリューが杖を支えに「よっこいしょ」と呟きながら立ち上がりながら、不敵にニヤリと笑ってみせた。


「バートン!」

「おう!」


クリューの構える杖の魔石が再び光を帯びる。

バートンもクリューの声を合図に、生活魔法「ウォッシュ」を壁に向かって吹きかけたのだった。



クリューの召喚獣は、雷獣のイメージなので、イタチとかハクビシンぽい見た目です。

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