表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/596

6.かつて父が降り立った場所


街の入口に預けた荷物とスレイプニルを返してもらい、レンドルフは森へと向かった。目的地はヒュドラ討伐の跡地ではあるが、時間があれば狩りをするのも悪くないと考えていた。森の深い場所へ行けばそれなりに魔獣もいるが、今日は一人で来ているのであまり深い場所には行くつもりはない。行くとしても通常の獣と、あまり強くない魔獣の縄張りギリギリのところまでで留めておくつもりだった。


国では、森の広さや魔獣の強さなどによって森の深度を大まかに数字化して地図に記載している。その数字が大きければ大きいほど危険度が増す。魔獣のほぼ出ない森の浅い場所は1から2、中程度の深さでそこまで強くない魔獣が出没するのが3から5と呼んでいる。そして深度6以降は森の深い場所に当たり、魔獣も強いものが出て来る。この森の最も深く危険な場所は深度8となっている。



レンドルフの故郷のクロヴァス辺境領は、オベリス王国では最大の深度12という強い魔獣が多く出没する国境の森を有しており、危険度はこの森の比ではない。辺境領では、男女問わず子供は馬に乗れるようになるとすぐに大人達に連れられて狩りの為に森に入る。そこで魔獣の狩り方と捌き方、そして身を守る術を体に叩き込まれる。その際に真っ先に厳しく教え込まれるのは、決して一人で魔獣を深追いしないことを習うのだ。たとえどんなに弱い固体であっても、命懸けで最後の一撃を喰らわせて来ることも珍しくないし、その後ろに群れが待ち構えていることもある。かすり傷であっても命取りになる場所で、誰の手も借りられないことは死に直結するのだ。

どんな状況でも国境の森では決して一人で行動するな、と繰り返し教え込まれる。そうでなければ辺境領では生きて行けない。国境の森は豊かで、人々に多くの恵みを与えてくれるが、同時に魔獣にとっても豊かな森なのだ。人と違って、話し合いで良き隣人の関係を結べる相手ではない。


その教えが身に滲み付いているため、レンドルフの行動はどこであっても自然に慎重なものになった。それが団長にも近衛騎士に相応しいと認められた才を育んだと言っても過言ではないだろう。



----------------------------------------------------------------------------------



(この辺りだったか…)


レンドルフは、騎乗しているスレイプニルが何となく行くのを嫌がり始めた方向に向かって地図を広げる。おそらく目的地は近い筈だ。



今から何十年も前、この森の奥でヒュドラが出現して街の近くまで侵攻を許してしまったが、辛うじて街に入る前に仕留めたという事があった。その仕留めた場所は森の深度2から3の境目くらいの場所にある。その数字だけでも、如何に街に近いところまで迫っていたかが分かる。

この森の過去の記録をどれだけ振り返っても、ヒュドラが出現したことはその時まで全くなかった。その為備えが不十分であったにもかかわらず、幸いにも怪我人はいたものの死者が一人も出なかった。まだヒュドラが幼体であったことと、何度かヒュドラとの戦闘経験がある当時のクロヴァス辺境伯が討伐に参加していたことが大きいと言われていた。


その当時の辺境伯とは、レンドルフの父親、辺境の赤熊ディルダート・クロヴァスであった。


詳しい話は色々誇張されていてどれが真実かは分からないが、そのヒュドラとの戦いで瀕死の重傷を負った父親を献身的に看病したのが、婚姻前の母だったと聞かされていた。


父親も当時は一応身だしなみとしてきちんと朝晩に髭を当たっていたそうなのだが、寝込んでいた際にはさすがに手入れすることが出来ず、その時の毛むくじゃらの姿が何故か母の心に響いたらしい。結婚を決めたのもそのモフモフが可愛らしかったからと、少女のように頬を染める母に幾度となく嬉し気に語られた。

何度聞いても、結婚後は常時毛むくじゃらな父親の可愛らしいところを欠片も見つけられないレンドルフには理解不能だった。父親の分身と言われる兄二人でさえも分からないと言うのだから、レンドルフの反応も仕方ないだろう。

ちなみに母は父のことを可愛らしいと評していて、上の兄の妻は長兄を野性的で逞しいと褒め、下の兄の妻は次兄を興味深いとうっとりしているので、同じ熊男の妻でも各夫に対する派閥が微妙に違うらしい。

理由はどれにせよ、夫婦仲が良いのは同じではあったが。



「ここか…」


ヒュドラを討伐して時が経ってはいても、本能的に獣や魔獣はその場に近付くのを嫌がる。騎乗して来たスレイプニルは少し離れたところに置いて、レンドルフは徒歩でそのヒュドラを倒したと言われている場所を目指していた。

屋敷の図書室に保管されていた地図を写して持参して来たので、それほど迷うことなく目的地に到着した。


何十年も前の討伐であったのに、未だにその地はヒュドラの吐いた毒の影響で草一本生えていないと聞いていた。この場所は予め王城の研究院に申請をして通行証を貰っておかなければ、結界が張られていて立ち入ることは出来ない。毒の影響を受けた土や、周囲の植物などを勝手に持ち出されて悪用されないよう、国で管理されているのだ。


レンドルフはただ遠くから見るだけのつもりだったので特に申請はしていなかった。結界のギリギリまで近寄って周囲を眺めると、思っていたよりも植物が育っていたのは意外な気がした。


おそらくヒュドラが最も大量に毒を吐いたと思われる場所は、地面が黒くなっていてほぼ土が露出はしていた。しかしその大きさは通常の大人一人分程度であって、それ以外の場所は僅かであるものの苔のようなものがうっすら生えているし、そこから離れた場所は普通に下草が生えていた。植物学などに精通していれば生えている種類の差異に気付けただろうが、レンドルフにはそこまでの専門知識はない。分かって見れば確かに背の高い草木がなく広場のようになっている。さすがに何十年も経過しているので毒性も弱まっているのだろう。一切植物の生えない不毛の土地と化しているのかと思っていただけに、少々拍子抜けだった。



僅かに、カサリと音がした。


レンドルフは反射的に腰に下げた剣の柄に手をかける。耳に身体強化魔法を掛けて集中したが、どうやら人の足音のようだ。相手はこちらに気付いたような気配はなく、何の警戒もなくこちらに向かっているようだった。採取か狩りに来た冒険者か何かだろうか。足音は一人分で、随分森の道に慣れているような印象だった。


「あ…」

「あれ?レンさん?」


背の低い茂みから、ピョコリと音がしそうな感じで顔を出したのはユリであった。あちらもいきなり見知った顔があったので驚いたのか、目を丸くしている。


「え?何で、ここへ?」

「レンさんこそ。ここは狩りに向いてないのに」

「え、ああ、俺はちょっとヒュドラ討伐の地を一度見たくて…って、ユリさん!一人でこんなところまで来るなんて!」


この場所は森の入口に近いところではあるが、普通の女性が一人で来ていい場所ではない。魔獣は殆ど出ることはないが、それでも絶対ではないし、それにむしろ女性が一人で森に入るところを不埒者の目に付こうものなら魔獣よりも人間の男の方が脅威になりかねない。


「ええと、ここには薬草を採取によく来てるし、私これでも冒険者の『ランク持ち』だから」

「それでも危ないだろう!」

「あ、うん。ありがと、心配してくれて。でも本当に大丈夫だから」

「いや…その。申し訳ない、大きな声を出して」


レンドルフは自分でも驚くくらいに大きめの声を出してしまって、慌ててユリに頭を下げた。ユリは大きな声を出されたことよりも、頭を下げられたことに困惑したような顔を向ける。



----------------------------------------------------------------------------------



冒険者は、基本的に誰でもなることが出来る。他国の者でも、この国の者よりは多少手続きが煩雑にはなるが可能だ。身分も、一部の者を除き平民でも貴族でも問題ない。

冒険者登録をすると、魔道具によって国に登録、管理されている戸籍の情報と同期される。そこで自動的に年齢で受けることの出来る依頼が制限されるようになっているのだ。幼い子供も登録は出来るが、安全面を考慮してある年齢に達するまでは街の周辺の野原や林などでの薬草の採取などしか引き受けられないのだ。冒険者登録をしなくても薬草を採取することは可能だが、登録をしておけば確実にギルドで買い取ってもらえるので、平民は子供の頃から小遣い稼ぎに登録をするのが通常だ。

それに冒険者向けの無料研修が受けられたり、ギルドで必要な道具などを格安で借りることも出来るのだ。


同期される戸籍の情報は、本人以外はギルド職員であっても閲覧することは出来ない。表に見える登録証に記載する名前や職業などは任意で好きにしていいのだ。ただ、依頼を受ける為に最低限の年齢に達しているか、重篤な犯罪歴などを隠匿していないかが示される程度で、もし何か事情があって他者が細かい情報を見る場合はギルド長と国の許可が必要となる。


身分証替わりに登録をする者もいるがそういった者にはランクはなく、きちんと依頼をこなしてそれに応じたランクを取得している者は「ランク持ち」と言われ、ランクの応じて様々な特権を有する事も可能になる。一般的に冒険者を名乗れるのもランクを取得してからだ。



----------------------------------------------------------------------------------



「ちゃんと魔獣避けの魔道具持ってるし、結界内に入る申請も出してるから」

「…申し訳ない」

「最近じゃすっかり慣れてたから忘れてたけど、こんなチビっこいのが一人でいたら驚くわよね。ごめんね、ビックリさせて」


深々と頭を下げたままのレンドルフの肩をポンポンと軽く叩いてから、ユリはグッと彼の肩を下から押し上げるようにした。それでレンドルフもこれ以上頭を下げ続けていては却って彼女に気を遣わせてしまうとゆるゆると顔を上げた。

ユリは髪をキッチリ纏めて首元にもスカーフを巻き付け肌の露出の殆どない冒険者風の出で立ちで、言葉通り慣れている様子だ。腰に巻き付けてあるポーチや、背負った鞄なども随分使い込まれているようだった。それも確認せずつい責めるようなことを言ってしまったレンドルフは、恥じ入ってなるべく体を縮めた。とは言え全く小さくならないのだが、気持ちの問題として。


「あの、もしかしてレンさん今日は騎士のお仕事?」

「いや、まだ休暇中」

「向こうに毛並みの良いスレイプニルがいたから、王城の騎士団のコで誰かが任務で来たのかと思って。あれはレンさんの?」

「ええと…俺のだけど…借りて、る。俺が乗ると普通の馬じゃ遠乗りに向かないってことで…」

「そっかあ。毛並みも体格も良いからちょっと合うかと思ったんだけど」

「合う?」

「う、うん。知り合いの…騎士様のところにいるスレイプニルが繁殖にちょうどいい年頃だから、お見合い相手探してるって聞いてて。でも借りてるなら仕方ないね」

「そう、だね…」


多分気まずくなった空気をなかったことにしようと、ユリは話題を変えたのだろう。だがレンドルフは少々歯切れの悪い言葉を返してしまい、ぎこちない空気はそのまま留まってしまった。個人でスレイプニルを所持しているのは大体が高位貴族か、余程資産のある者である。レンドルフも高位貴族の子息ではあるのだが、何故かついごまかしてしまったのだ。


しかし、このままではよろしくないと、レンドルフが軽く咳払いをして結界の中に顔を向ける。


「ユリさんは薬草の採取って、この中で?」

「そうなの。ここってヒュドラの毒の影響が土壌に残ってるせいか、変異種の薬草が生えやすいの。でも年々毒が薄れて行くから、生えなくなってて。それをどうにかここ以外で栽培できないかっておじい様と研究してるのよ」

「おじい様も薬師?ユリさんって薬師の家系?」

「うーん…代々、って程でもないけど、割と周りに薬師が多い、かな?おじい様は薬師の資格も持ってるけど、どっちかって言うと教師っぽい感じ。薬草学を教えてる人?」


立ち話をしながら、ユリは革で出来た厚手の手袋を嵌めて行く。薬草と言えど、強力なヒュドラの毒が染みた土地に生えているものだ。用心の為に素手で触れることは厳禁だ。


「レンさんはどうしてここに?この辺はヒュドラ討伐の影響で未だに動物も魔獣も殆ど寄り付かないから狩りには向かないでしょ」

「俺は、当時のヒュドラ討伐に父がちょっとだけ参加してて。その時の話をよく聞かされたから、一度機会があれば見てみたいと思ってたんだ」

「すごい!優秀な方だったのね。お父様も騎士様だったの?」

「そういう訳では…騎士というか、魔法も剣も使えたというか」


レンドルフの知る父親は物心ついた時には兄に当主の座を譲っていたので、貴族や騎士というよりは豪快な猟師か自由な冒険者か、或いは人語を操る服を着た熊、という風情だった。


「レンさんのお父様なら当時相当お若かったんじゃないの?それでヒュドラ討伐隊に参加したなら凄いことでしょ」

「あー…俺、かなり遅く産まれた末っ子なんだ。多分、父と言ってもユリさんのおじい様と同世代くらいじゃないかな」



レンドルフが誕生した時は、既に二人の兄には妻子がいたので、生まれながらに年上の甥が四人もいたのだ。幼い頃、母が自分を身籠ったと聞かされた時は頭を抱えた、と長兄が複雑そうな顔で話していたのを立ち聞きしてしまった時は、可愛がってくれていた長兄に実は嫌われていたのかと思い込んでこっそり枕を濡らしたものだった。しかし、自分が当時の長兄とほぼ同い年になった今では、複雑な顔になった気持ちも分かる気がした。



「あ、そうだ。レンさん、折角ここまで来たんだしお父様がご活躍された場所ならもっと傍で見て行かない?」

「ちょっと見られればいいかくらいにしか考えてなかったから、申請出してないんだ」

「結界の通行証のこと?私と手を繋いで入れば大丈夫だけど?」

「えっ!この結界ってそんなに緩くていいの!?」

「うん。あと、悪意がなければ大丈夫。申請通った人が、実はここの土を盗むのが目的だったりしたら困るでしょ。この通行証の魔力と、悪意のなさが揃えば同行者は何人でも行けるよ。あれ?これあんまり知られてない?」

「初耳」


レンドルフの反応に、ユリは一瞬しまったという顔になったが「ま、いっかぁ」とすぐにあっさり開き直った。


「俺、何の準備もしてないけど、大丈夫?」

「一応防毒の装身具くらいは付けてた方がいいけど…」

「これが一応そうだけど」


そう言いながらレンドルフは、左耳に装着しているイヤーカフを示してみせた。表から見える部分には目立たないように一般的な付与魔法付き装身具の素材に使われる魔鋼銅を使用しているが、実は裏側に魔力の底上げをしてくれ、付与も強力なものを付けられるミスリル鋼に、更に粉にした魔石を練り込んであるクロヴァス家所有の逸品だ。それこそヒュドラクラスの災害級の大型魔獣以外は、大抵どんな毒も無効化する。


「うーん…付与魔法はあんまり詳しくないから、見ただけじゃ分からないなあ…。一応私が予備で持って来た防毒の装身具貸しましょうか」

「ユリさんは大丈夫なの」

「私は何度も結界内に入ってるし、いつもちゃんと無効化の装身具も付けてるから問題ないよ。見習いでも薬師の端くれだからね。薬師は毒とか麻痺とか無効の装身具は常時身に付けておくのが基本だから」

「じゃあ、貸してもらおうかな」


ユリが腰に巻き付けてあるポーチから小さな布袋を取り出して、そこからチョーカー型の装身具を取り出した。黒い革のようなベルトに、小さな琥珀に似た石が付いている。シンプルなデザインのものなので、借りるだけにしてもレンドルフにも抵抗なく付けられそうだった。

ユリは留め具の金具部分を調整して、一番長い状態にしてレンドルフに手渡した。


「これならレンさんでも付けられると思うけど、試してみて」

「うん、ありがとう」


その装身具を受け取って、首の後ろで金具を留めようとしたが、レンドルフの指には留金が小さ過ぎて指先がツルツル滑ってしまって掴むことすら困難な状態だった。


「私がやろうか?」

「お願いします」


互いに苦笑しながら、レンドルフはユリに装身具を預けた。そのままでは上手く扱えないので、ユリは一度嵌めた手袋を外す。レンドルフは彼女が装着しやすいように両膝を地面に付ける状態で座り込んだ。


「あ、ちょ、ちょっと待って!」


そのまま正面から首の後ろに手を回そうとして来たユリを慌てて止めた。小柄なユリが厚みのあるレンドルフに手を回そうとすると、どうしても抱きつくようになって体が密着してしまう。しかもこのままでは顔の真っ正面に彼女の胸が迫って来てしまう。


「これで」


レンドルフは更に頭を下に下げるような体勢になった。もう殆ど斬首でもされるかのような格好であったが、また先日のようなベッドでのたうち回るような事態は避けたい。


「もし苦しかったら教えて」


スルリと首に柔らかな革紐が当たる感触がして、盆の窪辺りに微かに彼女の細い指が触れる。しかし上手く留められないのか「あれ?ちょっと…あれ?」と苦戦している呟きが頭の上から降って来る。


「ごめん、もうちょっとだから」


上手く行かなくて少々焦ったのか、ユリが身を乗り出すように顔を近付ける。彼女の足が一歩近寄って来たのがレンドルフの俯いた視界に入った。と同時に、レンドルフの後頭部にむにゅりと柔らかくて重量のあるものが乗り上げた感触がした。


「ごめんね!ちょっと動かないで!」


思わず更に頭を下げそうになったレンドルフだが、首に掛かったチョーカーが引っかかってそれ以上身動きが取れなかった。ユリは目の前の留め具に夢中になっているのか、自分がどれだけレンドルフに密着しているのか無頓着になっているらしかった。


「出来た!お待たせ!」


どうにかチョーカーを装着できて、ユリはレンドルフから離れた。だが、レンドルフは頭を下げたままの姿勢で固まってしまっていた。


「レンさん?だ、大丈夫?ごめんね、時間掛かり過ぎちゃったし、苦しかった?」

「いや…大丈夫。ちょっと頭に血が上った、だけだから…」


俯いたままのレンドルフの顔はユリからは見られなかったが、耳が普段より赤くなっているのは確認出来た。


レンドルフは何度か深呼吸をして顔に集中した熱を何とか冷ますように努力しながら、どうにか立ち上がった。首に付けられたチョーカーに触れると、指一本を差し入れてもまだ余裕があるくらいで、締め付けられている感じはなかった。


「レンさんの髪色と良く合うね、その石。一応魔石なんだけど、レンさんの装身具と反発はない?違和感は?」

「うん、大丈夫だよ。全然違和感はない」


あまり多くはないが、時折魔道具や魔石同士が反発して効果に影響が出てしまうことがある。レンドルフはどちらにも触れてみたが、特に違和感はなかった。

ただ魔道具で一時的に髪色を変えているレンドルフは、髪色と合うとユリに言われて何となく落ち着かない心持ちになった。


「じゃ、入りましょうか。そのチョーカーがあるから大丈夫だけど、さすがに手袋の予備は貸せないから、念の為あまりあちこち素手で触れないほうがいいと思う」

「分かった」



----------------------------------------------------------------------------------



ユリに手を引かれるようにして、レンドルフは結界内部へと入った。一瞬肌に纏わりつくような奇妙な感覚がしただけで、どうやら無事に入れたようだった。それを越えて中に入っても特に周囲に変化は見られない。


「私はちょっと採集してるから、レンさんは好きに見て回っててね。あ、でもあのまだ毒性が強く残ってる黒い土の部分は踏み込まない方がいいかも。素材によっては靴底が溶けるから」

「気を付けるよ。他には何かある?」

「うーん…あ、あっちの方に生えてる木の根元にあるキノコ!幻の高級素材に似てるけどすっごくマズイから!」

「さすがにここに生えてるものは食べないよ」


いくら何十年前の話と言えど、ヒュドラの吐いた猛毒の影響が残る土地だ。未だに国で許可がないと入れないほどの場所に生えているものは、いくらなんでも取って食べる気にはなれない。が、そんなことを考えて、ふとレンドルフは気が付く。


「…マズイってことは、ユリさん…」

「……ちょっとした確認よ」


何かを言いかけたレンドルフに、ユリはサッと顔を逸らした。



ヒュドラ退治の話と、レンドルフの両親のなれそめは「赤熊辺境伯の百夜通い」に出て来ます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ