表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/624

45.【過去編】似た者夫婦と似た者親子

戦闘あります。ご注意ください。


「ちょっと!まだ着かないの!」


ノーザレ夫人は苛立ちを隠しもしないで、馬車に護衛として同乗している男性の太腿の辺りに手にしていた扇を叩き付けた。殆ど肉の付いていない極端に痩せ形の顔色の悪い男は、それが通常よりも響くのか顔を顰めながらも深々と頭を下げた。


先程から岩場の多い山道に入っているので、出来る限り衝撃を吸収するように付与が掛けられている馬車でもかなりの揺れを感じていた。


「申し訳ありません。あと二時間程で港に到着致しますので」

「言い訳はいいのよ、ジャック!全く…あの化物にあんなに手間がかかるとは思わなかったわ。屋敷に戻ったら、特別なお仕置きをしてやらなくちゃ」



ノーザレ夫人は、この国では違法とされている愛玩用の奴隷を他国から秘密裏に買っては弄ぶことを何より好んでいた。昔は権勢を誇って、夜毎に夜会を開催しては享楽を尽くしていたのだが、婚家が没落したため今では社交界から爪弾きにされて領地に引きこもっていた。その代わりの楽しみだったのだ。

だが最近はその奴隷商が自国の司法官に目を付けられてしまったらしく、当分は奴隷禁止の国とのやり取りは難しくなってしまったと連絡が来ていた。


そんな折、王都領の端にあるエイスの街で大規模なスラム街住人の捕縛が行われ、領地の鉱山に犯罪奴隷を受け入れることが決まった。その中で、見目の良い者達を密かに買い取らないか、と持ちかけられたのだった。もし気に入った者がいれば、罪人でなくても罪を捏造して犯罪奴隷に仕立てて領地に届けてくれるという条件は、彼女にはなかなか魅力的だった。


その際に、竜の血を引く子供を捕獲したという話を聞いて、直接その顔を見ようとわざわざ領地からエイスの街にまで出て来たのだった。


残念ながらその子供は死んでしまったらしいが、替わりに美しい化物を手に入れることが出来たので、ノーザレ夫人はそれなりに気分が良かった。久しぶりに立ち寄った王都で最新のドレスや宝飾品を買うことも出来たので、多少の予定の変更は寛大にも目を瞑ってやろうと思っていたのだ。


しかし、買った商品を積み込んだ馬車を率いて領地に戻ろうとしたのだが、例の化物を馬車に乗せたところ繋いでいた馬が酷く嫌がった。馭者は、魔獣の種類によっては馬が怯えることもあるので、魔馬かスレイプニルでないと無理だと説明した。夫人は折角なので早く領地に戻れるように全ての馬を買い替えるよう要望したが、さすがに何台もの馬車を引かせるだけの魔馬をいきなりすぐに揃えることは不可能だった。しかも、やっと探して連れて来た魔馬の毛色が斑模様だったのを彼女が嫌がり、結局丸一日待って真っ黒な魔馬を二頭だけ確保出来た。


仕方なく運搬に支障があった一台だけを魔馬に引かせることになり、速い速度が出る筈の魔馬を通常の馬と並走させることにノーザレ夫人は酷く腹を立て、王都を出発してから道中ずっと文句を言い続けていた。



不意に、馬車が大きく揺れたかと思うとガクリと止まって、ノーザレ夫人は思わず馬車の壁に手を付いた。


「何なの!?」

「おい!どうした!」


護衛のジャックが外の馭者に怒鳴ったが、返答はなかった。耳を澄ますと、外が何かざわめいている。


「様子を見て来ます。奥様はこのまま」

「何よ!あたくしはノーザレの領主夫人よ!!どこの無礼者なの!?」

「お、奥様!」


ジャックが止める間もなく、ノーザレ夫人は馬車の扉を勢いよく開け放っていた。


馬車の外には、警邏隊の上官の制服を着た男と、その後ろに10名程の部下と思しき人間が並んでいた。見ると、全ての馬車の馭者達は拘束されて一カ所にまとめられていた。


「人身売買と誘拐の容疑が掛かっています。王都までご同行願えますか?」

「何ですって!?あたくしにそんな口を利いていいのかしら。あたくしは…」

「ただの田舎の下位貴族だろ」


頭上から声が降って来て、ノーザレ夫人は驚いて振り返り上を向いた。


一体いつの間にそこにいたのか、馬車の上に一人の女が立っていた。緑がかった金髪を短く刈り上げた中年女性であったが、剥き出しになった腕や肩は引き締まり、身の丈程ありそうな大剣を片手で担ぎ上げ、もう片方の手には刃の幅の広い短剣を握っていた。その顔は笑みを浮かべてはいるものの、鋭い目つきから決して楽しくて笑っているのではないとすぐに理解出来た。


「な…な、何者!?」

「あたしの息子、返してもらおうか」

「お下がりください、奥様!」


隣にいたジャックが言うよりも早く、腰に下げた細身の剣を抜いて馬車の上の女に向けて突き出したが、素早く女はそれを避けて、ガツリと狙い違わず踏みつけた。彼の剣は、まるで飴細工かのように女の足と馬車の屋根に挟まれて折れてしまった。


「嘘だろ!?」


ジャックの剣は一見細身ではあるが、通常の剣よりもはるかに頑丈になる強化の付与が掛けられていた。それをあっさり折られて、顎が外れんばかりに驚いた顔になった。そこを女は馬車から飛び降りる勢いそのままに護衛に膝蹴りを喰らわせると、すぐ隣に立っていたノーザレ夫人に短剣を向けた。


「ちょっと!そこの警邏隊!すぐにこの乱暴女を捕らえなさい!」

「おー、ミキタ。誘拐犯の捕縛協力に感謝するぜ」


警邏隊の上官の制服を着たステノスが、この場にそぐわない妙に緩い口調でノーザレ夫人に短剣を向けるミキタに声を掛けると、後ろの部下達に合図をして夫人と一撃で気を失わされた護衛のジャックを拘束した。その最中も夫人はずっと喚いていて部下が困ったようにステノスに顔を向けて来たので、ステノスが無言で頷くと即座に彼女に猿轡を噛ませた。それでも尚ずっとムームーと煩かったのはある意味見上げた根性かもしれない。


「来たね」


突然地面に影が落ちたかと思うと、ミキタが大剣を頭上で振り回した。次の瞬間、鋭い金属音がして上から降って来た影が弾き飛ばされて少し離れたところに着地する。


「予想通り過ぎて笑っちまうな」


ステノスはそう言って苦笑を浮かべながら、腰に下げていた長剣の鞘を払う。彼の持つ少し反りのある片刃の剣は、吸い込まれそうな程の白い輝きを放っていた。



岩場の影から、複数の黒衣を纏った人間が見え隠れしている。全体の人数は把握出来ないが、少なくとも五名は下らないだろう。


「あいつら、殺しちまっても罪には問われないんだろ?」

「ああ。ま、出来れば何人かは生かしといてくれたらありがてえけどな」

「一応善処しといてやるよ。最近トシのせいか忘れっぽいけどね!」


周囲に潜んでいるのは、どう見ても暗殺者であった。そして彼らは明らかにノーザレ夫人を狙っている。彼女もそれを悟ったのか、背中合わせに周囲を警戒しているミキタとステノスの間にちゃっかり入り込んでいた。一瞬にして自分が生き延びる判断を選択する能力の高さは感心せざるを得なかった。



暗殺者が数名一斉に飛びかかって来た。

ミキタは素早く短剣を口に銜えると、両手で大剣を持って斜めに振り下ろした。ミキタの小柄な体からは想像もつかない程の空気を裂く鋭い音と共に叩き付けられた大剣は、さっきまでノーザレ夫人が乗っていた馬車を一撃で破壊した。たった一薙で馬車は木っ端みじんになり、繋がれていた馬達が驚いて逃げ出す。馬と馬車に阻まれて視界が悪く、影から奇襲を受けかねないのでわざわざ破壊して視界を拓いたのだった。

そのミキタの一撃に巻き込まれて、馬車の影から狙っていた暗殺者の一人が吹き飛ばされて動かなくなった。


「相変わらず惚れ惚れするねえ」

「無駄口叩いてるんじゃないよ」


軽く口笛を吹いて感心するステノスに、ミキタは苦笑混じりで返した。しかし、そこに僅かに喜色が隠れていることをステノスはしっかり悟っていた。


すかさず離れたところから短剣を数本放って来る暗殺者に、ステノスは一気に間合いを詰めて腹に一撃を入れた。一応殺さないように、片方の刃のない側で叩いているので血は流れない。だが、ステノスの重い打撃は相手の意識を刈り取るには十分な威力だった。


「ひぃっ!」


投げられた短剣がノーザレ夫人のドレスに刺さり、彼女は猿轡を噛まされながらも器用に悲鳴を上げた。


「多分毒が仕込んであるぞ。直接触んなよ」

「見りゃ分かるよ」


ミキタは大剣を低い位置で振り回しながら相手の足元を掬い、反対の手に持った短剣で次々と足の腱を断って行く。


そうしてあっという間に、ステノスとミキタの周辺には黒衣の暗殺者が八名、呻き声を上げるか意識を失うかして誰一人立っているものはいなくなった。二人は注意深く周囲を見回して、これ以上襲撃して来る様子がないのを確認すると、まだ意識の残っている暗殺者を次々と昏倒させて行った。少しでも情報を引き出す為には一人でも多く生き残っていた方がいいので、自害防止策である。ステノスは当て身を、ミキタは絞め技で落として行く手際は、まさに職人技と言っても良かった。


「タイキ!」


全ての暗殺者が身動きしなくなると、ミキタは少し離れたところの魔馬が繋がれている質素な馬車に向かって駆け寄った。外には頑丈な鍵が掛けられていたが、大剣でものともせずに叩き壊す。


「いない…!?」


勢い良く馬車の扉を開けたが、その中は空っぽだった。隅の方に幾つかの麻袋のようなものが積まれているだけで、隠れられるような場所はどこにもない。


「あんた!」


馬車から突進するような勢いで戻って来ると、ミキタは座り込んでいるノーザレ夫人の胸倉を掴んだ。ガッチリと寄せている夫人の豊満な胸が零れ落ちそうになったが、そんなことお構いなしに容赦なく掴み上げられ、彼女の腰が浮く。


「あの馬車にいたあたしの息子は!どこへやった!!」

「ムムム!?」

「そうだよ、あたしの息子!あの馬車に乗せてた筈だろ!」

「ムムムイ!ムムムイム、ムムムイ!」

「知らない訳あるか!!」


猿轡を噛まされたままなのに何故かノーザレ夫人と会話が成立している。


ミキタはガクガクと激しく揺すったが、夫人も首を振って呻くだけで、何故馬車が空っぽだったかは知らないようだった。


「ステノス…」


ポイ、と投げ捨てるようにノーザレ夫人を放り出すと、ミキタはユラリと立ち上がった。口調は静かだったが、全身から立ち上るオーラは怒りに満ちていることは誰の目にも明らかだった。


「は、はい…」

「そのベルト、今すぐ外せ」

「いや、その、外すとすぐ発動するのでは…」

「タイキの行方が分からなきゃどうせ発動するんだ!だったら潔く今すぐ捥げちまえ!!」

「あと半日は粘らせろくださいー!!」


鬼の形相でジリジリと迫って来るミキタをどうにか避けようとステノスが必死になっていると、遠方からすごい勢いで一台の馬車が向かって来るのが見えた。引いているのは魔馬らしく、もうもうと土煙を上げながらあっという間に近付いて来る。

更なる新手かとすぐさま構えた二人だったが、その魔馬を操っている馭者台に見知った顔を見つけて思わず声を上げた。



「「バートン!!」」


そこには、二人は乗れそうな馭者台の半分以上を占拠している体格のいいバートンが乗っていた。タイキの救出を頼む為にアスクレティ領へ旅立って以来なので、約一ヶ月ぶりの再会だった。


「母さん!」


馬車が速度を落として完全に止まる前に、中からミスキが飛び降りて来た。その表情を見た瞬間、ミキタの肩の力が抜ける。


「見つかったんだね…!」

「ああ、見つかった!御前が保護してくれたって」

「ああ…御前が…」


ミスキの言葉に、感極まったのかミキタが彼に抱きついた。それほど背の高くないミスキでも頭が肩の辺りまでしかないミキタの姿は、先程まで大剣を振り回して馬車を破壊していたとは誰も想像がつかないだろう。


「…久しいな、ステノス」

「ああ…何かやっと年相応のヤツに会えた気がする」

「お前さんは……育ったな」

「うるせぇ!」


馭者台から降りて来たバートンは、話は聞いていたのだろうが複雑そうな顔でステノスと言葉を交わし、そして主に腹回りを眺めてしみじみと言ったのだった。



----------------------------------------------------------------------------------



「タイキは…」

「御前所有の別邸にいるって。すぐに向かおう」

「こらミスキ、逸るのは分かるが、御前の騎士が到着するまで待つんじゃ」

「……別に捥げるくらい放っとけばいいのに」

「今すごく不穏なこと言ったーーー!?」


すぐにでもミキタを連れて出発しそうなミスキを、バートンが慌てて止めた。不服げに呟いたミスキの言葉に不穏なものを察知したステノスが、思わず目を剥いて叫んでいた。


「ステノス、お前さんもちょいと顔貸してもらうぞ」

「俺?いやしかし俺はあっちを無事に連れて帰らねえと…」

「その代わりは準備してある」


バートンが来た方向に顔を向けると、ちょうどそちらの方向から馬に騎乗した騎士服を着た男達が五名と一台の馬車がやって来ていた。その馬車に付いていた紋章を見て、ステノスの顔色が変わる。


「ありゃあ、大公家の馬車じゃねえか!」

「あ、まだご無事みたいですね」

「カナメ!何でお前がここに…ってか、何で大公家の馬車に!?」


馬車の窓からヒョイと顔を出したのは、見知ったカナメだった。


「はい、この書類にサインお願いします」

「は?」

「委任状ですよ。これからアレを連れ帰って、アレやコレしますんで。よろしく〜」


ステノスの質問を丸々無視して、カナメはペラリと一枚の書類を目の前に差し出した。一応手に取って中をざっと確認してみると、人身売買と誘拐の容疑で捕らえたノーザレ夫人とその関係者の事情聴取や、駐屯部隊部隊長カツハの横領や罪の捏造、警邏隊員の情報漏洩や規律違反…等々、警邏隊と騎士団の合同調査の委任状となっていた。その委任状の主はステノスで、委任先はカナメになっている。


「これは…」

「あの〜ステノスさん、停職処分になりましたから。で、多分、このまま行くと復帰しないままに懲戒免職ですね〜」

「はい!?」

「なので、部下としての最後の気配りとして、自主退職をオススメします。ま、ちょっとは退職金出ますし、次の職に就くのも条件違いますので」

「停職?懲戒??」

「はいはい、サインしたした〜」


よく分からないままに停職処分が下されたようだが、何かやらかしただろうかとステノスは色々思い返してみたのだが、心当たりしかなかった。特に今回のタイキの行方を探す為にやらかしている自覚はあった。そう納得しつつカナメに急かされるままに、ステノスは書類の最後に自分の署名をした。


「感謝してくださいよ〜。あのきったないステノスさんの部屋、私が引き継いで綺麗にするんですから」

「それはありがとうございます」

「感謝の証として、弟を貰ってやってくださいね。貴方に色々バラしたんで、クビになっちゃいましたから」

「ああ〜そいつぁ悪いことしたな」

「ま、アレは自業自得です。一応家事全般はこなせますし、気立ても悪くないんで。姉の贔屓目ですけど。ちょっと場所を取るのと、毎日筋トレの時間を取ってあげれば無駄吠えしませんので、一生可愛がってくださいね」

「ヤダよ!」


最終的に何のやり取りをしているのか分からなくなったが、取り敢えずステノスはサイン入りの書類を手渡す。カナメ書類を確認して懐にしまいながら、引き連れて来た騎士達と警邏隊にテキパキを指示を出し始めた。どうやらこの後のことは彼女に任せても良さそうだった。


「じゃ、ワシらと一緒に来てもらおうかの」

「了〜解」



----------------------------------------------------------------------------------



馬車に乗り込むと、中にはクリューも居た。それなりに大きな馬車だったので、大人四人で乗っても膝がぶつかるようなことはなかったが、それでも密閉空間であるので多少の息苦しさはある。しかもステノスの正面にいるミスキの態度が刺々しいので尚更だ。


「…あのぅ。三男坊も見つかったことですし、そろそろ俺のコレ、解放してもらえませんかね…?」


走り出してしばらくして、ステノスは遠慮がちに腹に巻かれているベルト型魔道具を指差した。これを装着されてから、期限の三日目まであと半日を既に切っている。


「ま、それもそうだね。ミスキ、外してやんな」

「………ちっ」

「今舌打ちした!?」

「ミスキ、外して上げなさいよぉ。時間的に御前の別邸に着く前に爆発しちゃうじゃない。こんな狭いとこでバッチイの見たくないしぃ」

「そういう問題?て言うか爆発って何??」

「分かった」


ミスキは二人に言われて、嫌そうにステノスの魔道具のバックルに触れてすぐに解除する。少しばかり腹を締め付けていたのが楽になって、ステノスは大きく息を吐いて腹を撫でた。


「いやあ助かった。こんな役立たずに恩情ありがたき幸せ」


ステノスはヘラリと笑ってみせたが、馬車の中は誰も笑っていなかった。


「で、だ。俺をその御前て方のところまで連れて行く理由は?」

「知らないわ」

「知らないのかよ!」


ステノスと一緒にノーザレ夫人を追っていたミキタならともかく、後から来た面々も詳しい話は聞かされていないらしい。



大公レンザへの繋ぎが取れなくなった為に直接領地へ向かったバートンは、領地でどうにか顔見知りの使用人から連絡を取ってもらい、レンザからの直筆の書簡で「すぐに対処するので、ミキタ達をエイス近くの保養地にある大公家別邸に集めておくように」との返信が来た為にすぐさま領地から取って返して来たらしい。

そしてエイスの街に帰って来たバートンが迎えに行ったところ、ミキタがステノスと共にタイキの行方を掴んだと既にノーザレ夫人を追って出た後だった。


ステノスが情報を持って店を訪ねた時、タイミング悪くミスキとクリューは店にいなかった。時間がないということでミキタだけが追って行った為に、行き先が分からなかったのだ。仕方なく帰還したバートンと共にミキタの帰りを待っていた時に、何故か大公家の騎士達を連れた警邏隊のカナメが訪ねて来て、タイキの身柄保護の報せと、ミキタとステノスの回収を頼まれたのだった。



「じゃ、誰もまだ三男坊に会ってねえってことか」

「そうなるね」

「本当に大丈夫なんだろうな」

「御前は大丈夫だよ」

「貴族…しかも大公閣下が、ねえ…」


ステノスはそれなりに貴族と接して来ているせいか、高位になればなるほど権謀術数の世界でそう簡単に信用してはならないと身に滲み付いている。それ故の疑いであるが、タイキの感知能力を言い出せない三人はそれを強く否定することが出来なかった。



馬車の中は再び微妙な空気の沈黙に支配されたまま、大公家別邸への道をひた走って行ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ