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【過去編】建国王アキメイラ

直前までほのぼのデート話でしたが、過去編は少々不穏な感じになります。現在時間軸とは大分文明も価値観も違うので、この時代を経て今がある、と思っていただければと。


オベリス王国を語るのに最も有名なものは「建国王と五英雄」だろう。


彼らは想像を絶するほど遠い海を越えて大陸にやって来て、長く小競り合いが続いていた小国をあっという間に制圧して統合し、一つの王国を作り上げた。彼らの魔力と力と知識は常人のものをはるかに越え、一説には神の眷属だったと伝えられている。


その出自は謎に包まれているが、五英雄の一人が獣人だったことと、同じく五英雄であり獣人の妻がミズホ国の出身であったと多くの歴史的資料が残っている。かのミズホ国にも、四神と呼ばれる獣人の特徴を持つ四柱の神話が伝わっていることから、獣人国との関わりが強いのではないかと見られている。


その獣人国は、人が到達出来ないような場所にあると言われ、今現在に至るまで正確な場所が特定されていない。ある時期から僅かに続いていた国交も喪われているところから、もう滅びているのだというのが大半の見解であった。



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この物語は、幻となった獣人国から四名の若者が使命を負って旅立つことから始まる。



彼らの生まれた獣人国は、その名の通り多種多様な獣人のみが作り上げた国だった。


この世界は人族が大多数で占められている。人族は魔力もなくあったとしても弱々しいもので、力も劣り寿命も短くはるかに脆弱な存在であった。それなのにこの世界の支配者たる人族の強みは、圧倒的な数の多さだ。人族以外の獣人を含む亜人種と区分けされている種族は、全て合わせてもおそらく全人口の1パーセントにも届かないだろう。魔力も力も強く寿命も長いが、一点、繁殖力が極端に弱いという共通点のため、人族に敵うことが出来ないのだった。


そんな稀少種族になる亜人種達の中で、主に二つの派閥があった。一つは人族と交わって、力は弱くはなるが細々と自分達の血を繋いで共存を果たし知識や文化を守る者達。そしてもう一つは、決して人族と交わることはなく、数は少なくとも強い血を守り人族を支配して頂点に立とうとする者達。

彼らはやがて袂を分かち、強い血を守る派閥の大半を占めていた獣人達は人族が到達出来ないような場所に国を作った。そしてそこから人族を支配しようとしたのだが、共存を進めた亜人種達と人族が手を組んで、気付けば獣人国は完全に孤立していた。


それでも獣人国の民は血を頑に守ろうとし、結果として力の強い獣人が生まれ続けたものの、気が付けば年単位で新生児の誕生がほぼ二桁程度という恐ろしい事実に行き当たってしまった。彼らははるかに長い寿命を獲得していたが、濃くなり過ぎた血は次代の誕生を阻んだ。


そこで獣人国の王は、特に力が強く血の濃い若者を外界に出し、人族、または血の薄まった亜人種との間に子を成して国に連れ帰るようにと命令を出した。その子供達がいれば、一時的に血は薄くなるが何世代か重ねれば人族並みの繁殖力を持った獣人が生まれるだろうという研究結果が出たのだ。



そこに選ばれた四名の若者が、子を成す目的で伴侶を求めて外界へと旅立った。その四名は、竜人セイ、鳥人アケ、虎獣人ハク、蛇獣人スイと呼ばれた。


最初に目的地として定められたのは、どの大陸からも遠く離れた島国だった。その島国は幾つかの豪族が民を率いて、常に小競り合いを繰り返していた。その島国が選定されたのは、他の人族と交流がない故に亜人種にも近い進化を遂げていて、「人族変異種」とも言える民が暮らしていて、獣人とは異なった魔力を有していたからだった。あまりにも力に差があり過ぎると子を成すことも難しくなる為、少しでも力を持った人族を選ぶ必要があったのだ。


その島国に辿り着いた彼らはすぐさま圧倒的な力の差を見せつけて、島の住人達に神として崇められた。彼らはその中から伴侶に成りえそうな者を選定して娶ったものの、やはり種族同士の差が大きすぎるのか長い時が過ぎても子を成すことは出来ないままだった。


しかし、その中で事態が動いた、それは彼らにとって、終焉の一歩だったのかもしれない。


選ばれた四名のうち、ハクがある日狂ったように吠えたかと思うと、姿を消した。仲間達は探し回ったが、姿はおろかどこに消えたかの痕跡すら見付けられなかった。だが、これまたある日突然、ハクは戻って来た。一人の女性を連れて、その力の大半を失ったような状態だった。


獣人には稀に「番」と呼ばれる運命の相手が存在し、その相手を本能的に求めるのだと言われている。ハクは何らかの弾みで垣間見た異界で、番の気配を察知した。そしてその番が、今まさに命の危機に瀕していたのを悟ってしまったのだった。それはもしかしたら相手が死の間際に発した気配が異界との道を拓いたのかもしれない。

ハクは番の命が消える直前だと気付いて、本能のままに空間と世界を歪め、異界を渡って番を救出したのだ。彼はそれだけでも膨大な力を使っていたが、瀕死の番を救う為に自らの生命力の大半を分け与えた。


辛うじてハクと異界渡りの番は一命を取り留めたが、その結果均衡のとれていた四名の力関係が崩れてしまった。


彼らはハクが番を得たことに焦りを感じた。国の存亡を掛けて重大な使命を負って旅立ったのに、一人が自分勝手な判断で異界の番を連れ去り力の大半を失った。時を掛ければ力が戻るかもしれないが、完全に元の通りにはならない。それと同時に、運命の相手と出会えた僥倖を妬ましくも思った。それに番相手ならば、子を成せるかもしれないのだ。いくら力を失ったとは言っても、血の濃さに影響はない。勝手な行動をした者が運命の伴侶を得て、誰よりも早く故郷に戻れる。


彼らは、そんな勝手が許されていいのか、と憤りを覚えた。


その中でスイが密かに故郷の異父兄と連絡を取り、自分達が故郷を出る直前に罪人を出して国外追放された霊亀(レイキ)一族の中に令嬢がいた筈なので捜し出して連れて来るようにと依頼をした。

スイの異父兄は父方のリザードマンの特性を受け継いではいたが、スイに比べてはるかに魔力も力も弱かった。そうした生まれつきの能力が身分の上下に直結する獣人国では、年上であろうと使役される立場だ。そんな異父兄は、スイの願いを叶えれば取り立ててやるとの言葉に従って、言われた通りに自分も秘密裏に国を出てその一族を捜し出してスイの元に連れて行った。

国外追放された霊亀一族は、その後不幸が続き目当ての令嬢と弟のみになっていたが、二人とも連れてスイの待つ島国へと渡った。


スイがその令嬢を呼び寄せたのは、彼が蛇獣人ということが大きかった。スイは力は強いが、母方の蛇の外見が強く出ていた。獣人国では力が魅力であるので常に令嬢を侍らせていたが、人族の女性には恐れられ嫌悪された。探せばそれを好ましく思う者もいたのだろうが、スイは二人目の妻の時点で嫌になってしまったのだった。だからスイの父方の一族で以前から懇意にしていた令嬢を内密に囲い、子が生まれたら人族との子と偽ってすぐに故郷へ帰ろうと思ったのだ。



やがてしばらくして、彼らのうちの一人、竜人セイと人族の妻の間に子が生まれた。子の力は貧弱であったが、それでも次代を繋ぐ為の重要な存在だ。セイは子を連れて故郷に帰ろうとしたが、妻が「獣人国に行けば力が弱いと虐げられるが、この国にいればこの子は王にもなれる」と囁いた。幾度となく繰り返される囁きに、やがてセイは他の仲間を排除して、自分と子でこの島国の王になろうと考えるようになった。


そうして、国の守護神とまで崇められていた筈の獣人の彼らは対立を深め、国と民を巻き込んだ争いへと転じた。



彼らの中で争いを好まなかった鳥人アケは、真っ先に島から飛び去って行方を眩ませた。伴侶となっていた女性も行方不明となったが、彼が連れて行ったのか戦乱に巻き込まれて亡くなったのかは定かではなかった。


戦いを仕掛けたセイは、僅かに形勢が悪くなると途端に「やはり子を獣人国に連れて帰るべき」と翻意を匂わせたため、妻に寝首をかかれて怪我を負った。致命傷ではなかったが、そこを突かれてスイに首を落とされた。頭を失ったセイ陣営は敗北し、残された子達は戦乱の責を負って地下に生涯幽閉されることになった。


蛇獣人スイはセイを屠ったものの重傷を負い、一人逃げる途中嵐にあって力尽きて海に沈んだ。スイに置いて行かれた霊亀一族の令嬢とその弟は、スイの異父兄に匿われていたが、懐妊していた彼女が子を産み落として亡くなると、唯一国内に残っていたハクを頼った。


虎獣人ハクはもはや力を失った自分には彼らに対抗すべき力はないと潜み、隠遁生活を送っていたのだが、間接的にも自分が彼らの仲を拗らせたことを後悔し、スイの関係者三名と自分の番を連れて国外へと脱出したのだった。



やがて獣人達のいなくなった国は長らく戦乱の世が続き、彼らが架空の伝説として伝えられる程遠い過去になった頃にやっと国を統一する王が現れ、ようやく平和が訪れることになったのだった。


統一されたその島国は、現在はミズホ国と呼ばれている。



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島から逃れた彼らは、とある大陸の近くに辿り着いた。しかしその大陸でも小国が小競り合いを繰り返して、混乱に満ちていた。その戦乱に巻き込まれないように距離を取って静かに生活をしていたのだが、強大な力を持った彼らが巻き込まれない筈もなかった。止むなくそれぞれ自らの身を守る為に立ち回っているうちに戦乱の旗印となり、やがて多くの国を従えるようになってしまっていた。そして数年で圧倒的な力に従う者が次々と軍門に下り、気が付けば有り得ない速度で大国とまでは行かないがそれなりの国土を統一してしまっていた。


中心になっていた国の王家を滅ぼすような形で立国宣言をし、スイの子アキメイラを王として据えて、ハクを始めとする獣人達を側近として固めることになった。当初は王にハクを立てようという意見もあったが、ハクは自分の行いで一国を滅ぼしかけた過去と、番以外に目が向かない性質は国王には不向きだと拒否し、周囲もそれを受け入れた。



こうして建国王アキメイラは、オベリス王国の初代国王となったのであった。



お読みいただきありがとうございます!


この島国はミズホ国で、「創始伝」の内容にあたる部分です。(75.レンドルフの優雅な休日)あちらは神話なので、細かいところが違っているのと、実際の思惑は色々とあったという裏話的なエピソードになります。


イメージは四神(青龍、朱雀、白虎、玄武)です。

ハクの妻は異世界転移者。異世界転生者とかもいる理由とか、なぜ一部が乙女ゲームの舞台に似た世界なのかとか、この世界の成り立ちとかも設定はありますが、今回のエピソードには関係ないので飛ばしています。

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