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【一周年記念番外編】もどかしい二人(後編)

本日二話目です。


「うふふ…可愛い…」


眠くなったのか目を擦り出したレンドルフを、余りの可愛らしさに女性陣が抱っこ争奪戦になりかけた為、それぞれが声を掛けて当人に選んでもらった。すっかり幼児返りしているレンドルフは三人の女性を前に記憶はないらしく、それぞれの呼びかけにキョトンとした顔で眺めていたが、やがて真っ直ぐユリの方に這って行った。そしてそのままユリの膝によじ上るような仕草を見せたので、勝者となったユリが小さなレンドルフを抱っこしていた。すっかりおネムになっていたレンドルフは、クハリと小さく一つ欠伸をすると、ユリの胸に頭を乗せるような体勢ですぐにスヤスヤと眠ってしまった。どうやらユリの大きめな胸の弾力が枕には心地好かったらしい。

ユリは元はレンドルフなのをすっかり頭から追い出して、艶やかで傷一つないふくふくとした頬を胸で受け止め、全身モチモチとした感触を楽しみながら軽く背をリズミカルに叩いていた。その眠っている姿を眺めてはご満悦な顔で、起こさない程度に何度も旋毛にそっと頬擦りしていた。


「胸か…?若さか…!?」


レンドルフは這って行く際にミキタの前では一瞬だけ足を止めたが、こちらを一切見ようともせず思い切り素通りされて納得が行かないクリューは、嬉しそうにレンドルフを抱っこしているユリを横目で見ながら低い声でブツブツと言っていた。ミキタの「どっちもだろ」という容赦ない言葉は敢えて黙殺する。



「で?アンタ達はいいトシして、百変化ドーナツを食べた、と」

「な、懐かしくなって、つい…な」

「そ、そう!途中でレンと会って、あいつが食べたいって言うから…」

「一緒に食べた?」

「う、うん…」


何故レンドルフが幼児化してしまったのか、タイキが布を被っていることから何となく察したミキタが腕を組んで二人の息子に迫る。ミスキもタイキも、視線を泳がせながら愛想笑いを顔に貼り付けていた。


百変化ドーナツとは、子供向けの遊びのような駄菓子で、子供の指で輪を作ったくらいの大きさのドーナツにカラフルな糖衣を掛けたものだ。味は何の変哲もない甘いだけの揚げ菓子だが、実は糖衣の中には変身薬が練り込まれている。それを食べると、体に小さな変化が起こるのだ。髪の色が虹色になったり、爪が紫になったりというささやかなものから、頭に角が生えたり、フサフサの尻尾が出現したりすることもある。勿論、子供が食べる物なので体に害のあるものではなく、効果も一時間から半日程度だ。食べた人によって出る効果がまちまちなので、子供達はどう変化するかをお互いに予想しながら楽しんだりしている。このドーナツは10歳前後で少しずつ効き目が出なくなり、成人を越えるとほぼ反応はなくなる。その為、特に美味しいものでもないのである程度大きくなると見向きもされなくなる完全な子供向け商品なのだ。


その百変化ドーナツをレンドルフは食べたことがないと言ったので、味見のつもりで彼らは買って食べてしまったらしい。そして結果は、あの通りである。


「普通ここまで過剰反応することはない…筈なんだけど。でもレンさんは前科があるからなあ」

「レンはああ見えて実は中身が子供だった、とかじゃないよな」

「ミス兄…」

「冗談だって!」


ユリが完全に眠っているレンドルフのフワフワの髪に指を通しながら、以前ユリを大いに焦らせた年末の出来事を思い出していた。興奮した子供に眠気を促すような「お休みシロップ」が入った飲み物を、知らずに飲んだレンドルフが昏倒してしばらく起きなかったことがあった。こちらも子供向けの無害なもので、やはり大人には効果のないもの…だったのだが、初めてそれを口にしたレンドルフは一切免疫がなかったらしく過剰反応を起こして周囲を心配させた。おそらく今回もその一種だろう。


「あらあ、タイちゃんも可愛くなってるぅ」


クリューが隙を突いてタイキの被っている布を奪うと、その下から髪と同じ赤い色をしたフワフワの丸い耳が出現した。この感じだと熊系の耳だろうか。


「止めろよ!格好悪ぃ!」

「ははは、まだまだ子供だねえ」

(ちげ)ぇよ!オレは特異体質なの!」


むくれたように口を尖らせて言い返すタイキだが、実際は見た目ともかくタイキはまだ未成年なので効果が出たのだろう。どちらかと言うと特異体質なのはレンドルフの方だ。


「どのくらいで目を覚ますか分からないけど、上の部屋で寝かせておいた方がいいだろうね」


ユリの胸に抱かれて安らかな寝息を立てているレンドルフを、ミキタは覗き込んで思わずフッと笑顔になった。息子三人の幼い頃の寝顔が被って、つい懐かしさがこみ上げて来たのだ。三人とも幼い頃はやんちゃで手の掛かる子供達だったが、こうして眠っている姿には随分と癒されていた。

この店は二階が居住区域になっていて、かつてはミスキ達三兄弟が暮らしていたので部屋は空いている。基本的に一人立ちした扱いでエイスの街に戻って来てもパーティとして宿を取るので彼らがそこを使うことは滅多にないが、討伐に手こずって疲労困憊で帰って来た時など仮眠や休憩で使うこともあるので一通り掃除はしてあった。


「このままじゃ駄目ですか…?」

「可愛いから手放したくないのは分かるけどね。でも元に戻った時、全裸でユリちゃんに抱きかかえられてたらマズいだろ」

「う…言われてみれば」


レンドルフが着ているのは、元の服が大き過ぎて脱げてしまったのでここに戻る途中に急遽古着屋でミスキが買って来たものだ。今のレンドルフには少々大きめだが、元に戻ったら間違いなく破けてしまう。百変化ドーナツの効き目は大抵一時間程度だが、特異体質のレンドルフはどのくらいになるか分からないし、元に戻る前触れが分かるかも不明だ。目が覚めたら全裸でユリに抱きついていた、という事態にもなりかねない。


「それでレンくんに責任取らせればいいんじゃないの〜?手っ取り早く」

「クリューさん!?どどどど、どういう、ことですかっ!?」

「これ、あんまり若い子を揶揄うんじゃないよ」

「はぁーい」


クリューがまるで「てへっ」と声が聞こえて来そうな表情でひょいと肩を竦めた。


「取り敢えず、一番奥のタイキの使ってた部屋を開けるよ。置いてある毛布じゃ厚手だから、良さそうなバスタオルでも出しておこうかね」

「ありがとうございます」


ミキタが二階の鍵を開ける為に先導して階段を上がって行く。その手には先程ユリが持って来ていたクッションの柔らかい方が抱えられている。ユリは寝入ってしまったレンドルフを起こさないように、ミキタの後について静かに二階に上がって行った。


「後でユリちゃんと交替でミスキがレンくん見ててあげてね。今は完全に幼児化してるから、何かあったら怖いし」

「分かってるよ。レンが着てたものと持ってた鞄も部屋に持ってく」


もう少し年齢が上ならば一人で部屋に寝かせていても大丈夫だろうが、今のレンドルフの推定年齢からは放っておくことは怖くて出来ない。ミキタは母親であるし、クリューは古い付き合いであるので長男のミスキから始まり三兄弟のおむつを替えるのも経験済みだ。だから幼児のお昼寝も世話する側からは決して休憩時間ではないことも知っている。しかしいつ元の成人男性に戻るかもしれないので、彼女達は全然気にしないがレンドルフが気まずくなるだろう。となると、同性で歳の離れた弟のタイキの世話を担当していたミスキが側に着いているのが最適だろう。

ミスキはタイキと手分けして持っていたレンドルフの服と荷物をまとめて、すぐにミキタ達の後を追って二階へ向かった。


「…なあ、あの二人ってパーティ組んで結構経つよな」

「初めて定期討伐に参加した後だから…そうね。指名依頼が殺到すると困るから、ランクは上げてないみたいだけど」


もともとユリは薬師見習いで資格を得る為の一環として採取専門の依頼のみしか受けないし、レンドルフは本業は王城騎士団所属なので依頼を受けなくても生活には困らない。実力としてはレンドルフはすぐにでもBランクに上がれるのだが、敢えて指名依頼の受けられないDランクのままにしてあるのは、あくまでもユリの防波堤の為だ。パーティに所属している冒険者に個人の指名依頼を出す時は、パーティリーダーに許可を取る必要がある。下心ありきでユリに依頼を出しても、確実にレンドルフが止めている。と言うより、依頼を出そうとしてレンドルフのところに行っても、彼を一目見て大抵の者は退散している。レンドルフは実に正しく防波堤なのだ。


「それなりに長い付き合いになって、パーティも組んで、まだ『さん』付けで呼び合ってんの、どうなんだよ」

「ああ〜…それはねえ…」


ポソリと呟いたタイキの言葉に、クリューが少し遠い目をしながら頷く。

ユリもレンドルフもそれぞれに目立つ容姿であるし、並んでいると体格差もあって殊更目を惹く。その当人達は意識しているのかいないのか、連れ立って歩く時はレンドルフが常にユリを守るような位置について、しっかりと手を繋いでいる。もう習慣化しているようで、一番良く利用するエイスのギルドでは名物「薬草姫と護衛騎士」として職員達の密かな楽しみとなっている。周囲は完全に恋人か婚約者と疑ってないし、あまり詳しく知らない人の中には新婚夫婦だと思っている者もいる。何せ男女二人のパーティは、兄妹や親子でなければ夫婦か恋人と判断されるのが暗黙の了解だ。その辺の世情に疎いレンドルフは全く気付いていないので、敢えてそこは触れないでいる。

ごく一部の人々と当人達だけが、そう言った仲として全く進展していない事実を知っている状態だ。


「まあ、らしくていいじゃない。そういうのは、回りが口出すようなことじゃないのよ〜」

「面倒くせぇな」

「うふふふふ。タイちゃんもそれが分かるくらい大きくおなり〜」

「オレはもうでっかいの!」


カウンターの椅子に座って納得行かない表情になっているタイキに、クリューはついつい頭を撫でてしまった。固い髪質なのに、百変化ドーナツの影響で生えている熊耳は何故かフワフワの感触だ。クリューはもっと触りたくなって耳に手を伸ばしたが、感覚はしっかりあるらしくてパタパタと激しく振って拒絶されてしまった。ちょっと恥ずかしがっているだけならクリューも少々強引に耳の感触を楽しみたいところだが、これは本気で嫌がっていると長年の付き合いで察したので、耳を避けてグリグリと頭を撫でるだけに留めた。それも不機嫌そうな顔をしているが、振り払ったり避けたりしないので内心嫌いではないのは幼い頃から見ているクリューにはバレている。


「…どっちかって言うと、ユリちゃんの覚悟次第、かしらね」


全てを詳細に聞いている訳ではないが、ユリと関わる為に必要な情報として大公家当主のレンザから、幼い頃預けていた縁戚の家で壮絶な虐待を受けていた為に心が半壊しひどく自己評価が低くなってしまっているとは聞いていた。その後の周囲の手厚い対応で表面上は普通に生きられるようになったが、根っこの部分にはまだ石のように固まった名残があるのは分かる。それにユリは跡を継ごうと継ぐまいと、唯一の大公女である立場なので色々と逃れられない柵も多い。

そのユリの持つ重たいものをレンドルフと分かち合う覚悟が決まれば、色々と一気に動き出しそうな気はするが、今はまだその時期ではなさそうだ。


(傍目から見てると、レンくんなら何があっても受け止めてくれると思うんだけどね。こればっかりは自分で気付かないと仕方ないものねえ)


タイキの頭を撫でつつ上の部屋に行ったユリのことに思いを馳せるという器用なことをしながら、クリューは小さく溜息を吐いたのだった。



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タイキが使っていた部屋で、ミキタとミスキが手分けしてベッドの準備を終えた。元々掃除はしているし、埃除けのカバーを外して、しまってあったシーツを掛けるくらいだ。空気の入れ換えも毎日行っているので、誰も使っていない部屋には思えない。


「もう使えるよ」

「ありがとうございます」


ぐっすりと眠っているレンドルフの頭を支えながら、柔らかなクッションにそっと降ろす。しかし、子供特有の勘の良さなのか、クッションに頭を着けた瞬間にレンドルフがパチリと目を開いた。そしてユリが自分から離れようとしているのを本能的に察知したのか、小さな手でユリの袖を掴んで体をぴったりとくっ付ける。


「おやまあ」

「ぃやー」


レンドルフは半分怒ったような、半分泣きそうな顔で、しっかりとユリの腕にしがみついた。思ったよりも力強くしがみつかれたので、ユリは困ったように再び抱き上げる。するとレンドルフはたちまちご機嫌になって、ポフリとユリの胸元に顔を乗せて全身で凭れ掛かる。元のレンドルフの意識は子供返りをしてすっかり無くなっているようだ。


「レンさん、ちょっとだけここでお昼寝しててくれるかな?」

「やっ!」


ユリの言葉がどこまで分かっているかは不明だが、このままだと抱っこが終了するのは分かっているようだ。レンドルフはフルフルと首を振って小さな手でユリの首にしがみついた。これはこれで嬉しいのだが、いつレンドルフが元に戻らないとも限らない。ミスキの話だと、もう一時間は過ぎている。

困った顔でミキタに助けを求めるようにユリが視線を向けると、彼女は仕方がないといった風情で近付いて来た。


「ほら〜レンくん、お姉ちゃんを困らせちゃ駄目ですよ〜」


ミキタの顔も声も優しいのだが、妙な圧を感じさせた。レンドルフもそれを察したのか、ビクリと反応をしてユリにしがみつきながら恐る恐るというふうに近付いて来たミキタに顔を向けた。その顔はもう半分以上泣きそうになっている。


「おふくろ、あんまりやると漏らすから」

「これでも手加減してるよ」


かつて弟達にも同じことをしていた懐かしい光景に、ミスキは軽く忠告する。ミキタの子供に対する愛情は疑っていないのだが、何故か時折こうして威圧がダダ漏れる。ミキタ曰く、可愛い子を前に何でも甘やかしたくなる気持ちを全力で押さえ付けて我慢して言い聞かせている、とのことだったが、それにしても圧が強すぎる。実際、自分にかけた圧力が跳ね返って漏れているだけなのだが、それでも子供に向けるには少々強めの威圧なのだ。そのせいか、本能の強い子供は大人しくミキタの言葉に従うことが多い。どうやらレンドルフもそのタイプのようだ。


半べそをかきながらも、レンドルフはコクリと頷いて、今度は大人しくベッドの上に寝かされた。


「レンさん、また後で会いましょうね」

「レンドルフ」

「え?」

「レンドルフ!」


横になったレンドルフに大判のバスタオルをかけながらユリが頭を撫でると、レンドルフは急にそんなことを言い出した。大分舌っ足らずだったのでどちらかと言うと「リェンデョルフ」に聞こえたのだが、それはそれで破壊力が凄まじい。どうやら「レンさん」では自分の名前とは認識しなかったようだ。


「レ…レンドルフ…」

「ん!」


ユリにきちんと名前を呼ばれて、どうやらご満悦のようだ。それから口を開きかけて、丸い目を何度か瞬かせた。そして横になったままユリを見上げてコテリと首を傾げる。


「名前だよ。名前、教えて欲しいんだよ」


何を求められているのかよく分かっていなかったユリに、後ろから囁くようにミスキが耳打ちする。さすがにタイキを育てたのは自分だと常に言っているだけのことはある。


「ユリ、です。ユ・リ」

「ユリ!」

「…っ!」


こちらもどちらかと言えば「ウリ」に近い発音ではあったが、ユリの心を撃ち抜くには十分過ぎた。思わず声にならない悲鳴を上げて胸を押さえてしまった。その様子を心配したのか、折角横になったレンドルフがモゾモゾと起き上がってしまった。


「あ、大丈夫、大丈夫だから、お昼寝、しましょうね」


慌てて顔を上げて再び体を横にしようとユリが手を延ばしかけたとき、全くの不意打ちでレンドルフが顔を近付けて来た。ユリはレンドルフを抱き降ろす為にベッドのすぐ脇に座り込んでいたので、すぐに反応出来なかった。えっ、と思った次の瞬間、レンドルフのスベスベとした柔らかい頬が自分の頬に押し付けられるように触れていた。顔が離れると唇のすぐ脇に、少しだけ湿った感触が残った。


「ユリー、すきー」

「……あ、りがとう、ございます…?」


混乱のあまり、何故か敬語で礼を言うユリにレンドルフは嬉しそうに笑って、今度は自分からゴソゴソと横になってタオルをお腹に掛けようとしていた。ユリはハッと我に返って捩じれてしまったバスタオルをきちんと掛けなおした。そのまま軽くお腹の辺りをトントンと叩いていると、すぐに安らかな寝息が聞こえて来た。


「ユリ、顔赤い」

「!そ、それは…ちょっと顔洗って…いや、勿体無い!ちょっと外で風に当たって来る!」


ゆっくりと立ち上がったユリに、小声でミスキの指摘が入る。そんなことはユリ自身も頬や耳の辺りに熱を持っているので十分分かっている。小さく早口で言い返すと、足音を立てないように摺り足で素早く部屋を出て行った。扉の向こうから、ゴツン、という鈍い音と「痛っ!」と声が聞こえて来たが、レンドルフに目をやると幸いにも全く起きる気配はなかった。


「じゃあ、後は任せたよ。元に戻っても覚えてないだろうから、レンくんには昏倒したとでも言っておきな。下の連中にも話し合わせておく」

「それはいいけど、服を着てないのはどうすんだよ」

「運ぶ途中で汚しちまったから脱がせて浄化しといたとか何とか…それっくらい上手く誤摩化しなよ」

「分かりましたー」


ミキタが部屋を出て行くと、ミスキは窓際に置いてある勉強机から小さな椅子を引っ張って来てベッド脇に置いて跨がるように座り込んだ。子供用の椅子なので明らかに小さいが、ミスキが子供時代に使っていたものなので妙に尻に馴染む。最終的に末っ子のタイキが引き継いだが、おそらく兄弟の中ではミスキが最も座っていた時間は長いだろう。


「レンのヤツ…この時の方が口説くの上手いんじゃないか…?」


そこまで長い付き合いではないが、レンドルフはユリに対して時折天然にスルリと甘い言葉を浴びせているが、基本的にきちんと一線を引いた紳士的な対応をしている。未だに互いに敬称を付けているあたり、互いに適切な距離を置くことを意識しているのが窺い知れる。周囲から見ると確実に互いの気持ちの矢印が向いているのが分かるので、思わずもどかしくて手を貸してしまいたくなるのだ。たとえそれが余計なおせっかいだとは分かっていても、そうしたくなる程にはミスキはレンドルフを気に入っている。

しかしいくら周囲がお膳立てしても、自分達で選ばなければ色々とこの先が険しい身分なのも分かっている。僅かに垣間見た程度のミスキでも、高位貴族の煩わしさは知っている。


「頑張ってくれよー、レン」


根本が世話好きなミスキは、妹のようなユリも、親友でありたいと思っているレンドルフも、幸せな選択してくれることを祈るだけだ。何も知らずにあどけない顔で眠っているレンドルフに、ミスキはそっと呟いたのだった。



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それから約一時間後、見張っていたミスキの機転によりみるみる大きくなって行ったレンドルフの服を破ける前に脱がせることに成功し、目が覚める前に一糸纏わぬ体の上に毛布をかけるというところまでやり切った。

目が覚めたレンドルフはミスキの嘘の話にすっかり恐縮していたが、ミスキも百変化ドーナツを勧めたこともあり、特に体には異常がなさそうだったのでこれで互いに不問にしよう、と言い含めたのだった。



そしてレンドルフが着替えている間に階下に報告に行ったのだが、その際に妙に固い顔で「人としてのサイズが間違ってる気がする…」と呟いていたのは、誰にも聞こえていなかった。



本当はバートンさんも差し入れ持って出演予定でしたが、長くなったのでバッサリ削られました。申し訳ない。

割と初期の頃に、名前を呼び捨てにするイベント的な話も考えていたのですが、年を重ねても関係性が変化してもお互いに「さん」付けで呼び合うのもそれはそれで良いかなあ…と思いまして、そのままです。多分これからも。


この頃のレンドルフは、領の屋敷が世界の中心で、家族や使用人達から愛された記憶しかない状態です。そしてみんなが喜んでくれるので、天然キス魔になっていた頃でもあります。


レンドルフが受難受けたり全裸になりがちなのは多分ヒロイン属性だから。(笑)


次回からまた通常の時間軸に戻ります。今後ともよろしくお願いいたします。

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