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212.揃いの服と撮影会


ユリは午後の日の高いうちから浴槽に放り込まれ、メイド達にせっせと手入れをされていた。


「べ…別にここまでじゃなくても…」

「いいえ!次にいつ機会があるか分かりませんから、我々の腕が落ちていないか確認させていただきます!」

「うぐぅ…」


今日はミダース家から招待された晩餐会に行く日だ。晩餐会と言っても身内しかいない気楽なものとは言われているし、着て行く予定の服も半正装程度のワンピースだ。しかし、アスクレティ別邸のメイド達は、滅多にないユリを着飾らせる機会を見逃す筈がなかった。


「お嬢様!また首の後ろの日焼け止めをお忘れになりましたね」

「ええと…じゃあ今日は髪を下ろす形で…」

「あのワンピースにはツインテール以外は認めません」

「ええ…」


レンドルフと揃いのデザインで仕立てたワンピースは、いつもよりもフリルが多めで可愛らしいデザインのものだ。平均よりもずっと小柄なユリは可愛らしいものを選ぶとどうしても子供っぽくなりがちなので、普段はシンプルなものを好んでいる。それに少し前に変装をしてレンドルフとパーティーに参加した時は妖艶な美女風を作り上げていたので、今回は思う存分可愛らしく出来ると専属のミリーを始め、ユリの身支度の手伝いをするメイド達は無駄に鼻息を荒くしていた。


「ミリーさん、香油はいつものハーブ系にしますか?」

「そうですね…香水を甘めにものにするので、ハーブ系にしましょう。どちらも甘い系にしてお嬢様が食べられて痕を残されても困りますし」

「ちょっと!レンさんはそんなことはしないからね!」

「誰もレン様とは申しておりません」

「うっ…」


ユリは浴槽から上がって丁寧に水分を拭かれてからマッサージ用の寝台に寝かされて長く白い髪に香油を施されながら、顔には蜂蜜入りのパックをされる。


「…相変わらず右腕が凝ってらっしゃいますね」

「書き物が多いからね」


通常の貴族令嬢も、招待状を送ったり返事を書いたりすることもあるし、後継者教育を受けている令嬢などは領地経営などに携わる為にペンを取る機会はそれなりに多い。しかしユリの場合はほぼ趣味の領域でも薬草や調薬の研究をしては膨大な数値や原材料を書き留めたりするので、王城に勤める文官並みに書き物が多いのだ。故に右腕や肩や背中の凝り、そして疲れ目などになりやすい。


一通りマッサージやパックなどを終えて、バスローブ姿で差し出されたハーブティーを飲みながら小休止していると、コツリと小さな音がして窓の隙間から薄紅色の伝書鳥が入り込んで来た。


オイルを塗られた手でどうしようか迷っていると、ミリーに分かっているとばかりに上からシルクの手袋を被せられた。これは薬草を扱うので手が荒れ気味になってしまうユリに、時折ケアの為に寝る前に付けさせられるものだ。これならば多少は掴みにくいが大切な手紙にオイルが滲まなくて済む。


「ありがとう」

「次の準備をいたしますので、しばらくはごゆっくりお過ごしください」


気を利かせて、ミリーを始めとするメイド達が部屋を出て行く。ユリは手元に伝書鳥を呼び寄せると、淡いミントグリーンの爽やかな色の封筒に変化したところを両手で受け止めた。裏側の宛名を見なくても、表書きの字を見ればすぐにレンドルフからのものだと分かる。少し角張って丁寧に書かれた文字は、彼の人柄がそのまま写し取られたようだ。

少し苦労をして封を開けると、フワリと爽やかな香りが漂う。いつもレンドルフが纏っている香りの他に、今日は少し違う香りが混じっているのは、滞在中のミダース家の香りだろうか。


レンドルフからの手紙は、いつものように簡単な日常のことと、今日の晩餐に迎えの馬車は本当に出さなくても大丈夫かという確認と、故郷の兄から写真を送って欲しいと頼まれているので出来たら一緒に写真が撮れないかということが綴られていた。


「…写真…一緒に…!?」


割と最近出来た魔道具でそのままの姿を紙に転写することが出来るもので、風景などの写真集を以前巡り巡ってレンドルフから貰っていた。記念日などに撮影して記録を残す者や、革新的なものを好む貴族などは縁談の姿絵の代わりに送る者もいると聞いている。

レンドルフの手紙には、姿を残すことに抵抗があるなら自分一人で構わないので、と続いていた。


今日着る予定の揃いの仕立を頭の中で思い出すと、ユリもレンドルフの写真が欲しいと思ってしまった。が、自分の姿を残していいかという迷いはある。だからといって、レンドルフだけの写真が欲しいというのは何だか悪いような気もする。


「うん、見てから考えよ」


レンドルフの姿を見てしまったら、絶対に写真が欲しいと思ってしまうのは自分でも予想はついたが、ユリは敢えて先送りすることにしたのだった。



「何かちょっと恥ずかしくなって来た…」

「大変良くお似合いです」

「子供っぽすぎない?」

「ユリシーズお嬢様の可愛らしさがこれでもかと活かされております」


ユリの装いは、上半身はスッキリと装飾が少なめでスカート部分はパニエで膨らませてレースを多めにあしらったデザインの膝下丈のワンピースだった。比較的上は体に添った形なので胸元のラインを拾っているが、生地はマットな質感のモスグリーンで光沢を抑えているので胸が強調されて見えない。そしてスカート部分のレースが一見黒なのだが光の具合で金茶色に見えるので、動くとそちらの方に目が行く。首元と袖にはシャツのような金茶の生地が取り付けられており、襟の片方には艶のある濃い赤の刺繍糸で薔薇の模様が刺してある。これはレンドルフが着る予定のシャツにも同じデザインで色違いの刺繍が施されていて、並ぶとすぐに揃いで仕立てたことが分かるのだ。

今回はスカートが広がっているのでコルセットをキツく締めることはなく、いつも身に付けている特殊魔力を抑える魔道具なども上手く隠せている。

髪型は低い位置で二つに分けて、細いコテで丹念にカールを付ける。そこに少し編み込むように濃い赤のリボンを混ぜ込むことで、黒髪に変えるとどうしても重くなりがちな雰囲気が一気に華やかになる。


「レンさんに貰ったものは…ちょっと無理があるわね」

「このお姿を見れば、色々と貢ぎたくなるのではありませんか?」

「貢ぐって…そういうんじゃなくて」

「お嬢様、少々口を閉じてくださいませ」


コテで髪を巻くのと同時に別のメイドが化粧をしているので、ユリは言われた通りに口を閉じた。外で薬草の手入れをするユリは、どんなに気を付けていても日焼けを避けられない。化粧を担当したメイドはそこを変に白浮きしないように、且つ自然にワントーンは白く見えるように仕上げることに尋常ではない熱の入れ用だったが、ようやく満足したのか今は別の箇所に挑んでいる。


ユリはレンドルフに貰った装飾品を付けられないかと鏡の中の自分を眺めてみたが、どれも今日の装いには少々無理があったのは自分でも分かったので諦めた。そして頭の中で、あの「エルフの瞳」で指輪を作る時は、どんな服や場面でも身に付けて行けるように極力シンプルなものにしてもらおうと考えていたのだった。



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ミダース家の客室で、レンドルフは鏡の前で悩んでいた。


半正装であるし、女性と違って人の手を借りずに身支度をすることは出来たが、髪型をどうするか決めかねていたのだ。


レンドルフの方は、ユリと同じマットな生地で作られた金茶色の三つ揃いのスーツだった。そして下のシャツはモスグリーンで、襟の片方には金糸で薔薇の刺繍が入っていた。いつもは体型を隠すように丈が長めの尻まで隠すようなジャケットなのだが、このデザインは腰の少し下くらいと短めで何となく落ち着かない。これを選んだユリからすると「腰とお尻のラインが重要」なので大正解ではあるのだが、いまいち客観的に見られないレンドルフには不安要素だった。実のところ、レンドルフの長い足がより長く見えるので、遠目から彼を見た使用人達がヒールの高い靴を履いているのではないかと足と靴を三往復くらい見直しているのだが、レンドルフは全く気付いていなかった。

多少の戸惑いはあったものの、レンドルフはやはりユリが選んでくれたのだから、と全面的に信用することにした。

光沢のあるネクタイを締めて、胸ポケットには濃い赤のチーフを入れて少しだけ覗かせると、それだけで随分華やかな印象になる。夜会と称されるようなパーティーに行くは少々ラフではあるが、少し気軽な集まりなら十分通用するような雰囲気だった。

一応スーツなので、と前髪を上げて固めてみようかと思ったのだが、試しに手で押さえてみると妙に厳つい印象になってしまう。同席するテンマが細くなったとは言ってもまだまだゴツく強面な部類なので、レンドルフも並んでしまうと威圧感を与えやしないだろうかと思い直す。ざっくりとした全体の印象しか覚えていなかったが、ユリの方のデザインは確か可愛らしいものだった。その彼女の隣にいるのなら、少しでも柔らかい雰囲気の方が合うような気がした。


レンドルフは改めて髪型は自然な形で前髪を下ろし、ごく薄くワックスを付けるだけに留めたのだった。



ミダース家に到着して馬車のところまで迎えに出て来たレンドルフを見て、ユリはまたしても前髪を上げているレンドルフを間近で見る機会をうっかり逸していたことに気が付いた。支度をしている時に貰った手紙の返信に一言書いておけば良かったと思い当たり、心の中で「忘れてタァァーー!!」と絶叫したのだったが、全力で押し隠したので幸いレンドルフには気付かれずに済んだのだった。



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ミダース家の大きな門をくぐり屋敷に一番近い馬車留めで停まると、扉を開けてくれたのは使用人ではなくレンドルフだった。まさかいきなりの対面と思っていなかったユリは、レンドルフに分からない程度に息を呑む。


「レン、さん。あ、ありがとう、わざわざ迎えに出てくれたの?」

「うん。誰よりも早くユリさんが見たくて、使用人の仕事を奪って来た」


お互いにこうして揃いのデザインの服を着るのは初めてのことなので、何となく同時に服を眺め合ってほんのりと頬を染めた。一見すると完全なお揃いという印象は受けないが、使用している生地と使われている色味が共通になっているし、襟のデザインが一緒なので並べばすぐに揃いと分かる。


「少し触れても?」

「お、お願いします」


馬車から下ろすためにユリに手を差し伸べて、彼女の靴がいつもよりヒールが高めなことに気付いた。レンドルフは一歩馬車に近寄って、ユリにだけ聞こえるくらいの小声で確認を取った。高さのある馬車に座っているユリよりも、普通に地面に立っているレンドルフの方が頭の位置が高いので、少しかがんだだけで耳元で囁かれるような恰好になってしまう。ユリは「いつものこと、いつものこと」と頭の中で唱えながら、いつまで経っても慣れそうにないレンドルフの行動に静かに頷く。レンドルフは、ユリがヒールの高い靴を履いている時や、車高のある馬車から降りる時は必ず彼女の確認を取ってから抱きかかえるように降ろしてくれる。力のあるレンドルフだからこそ出来る技だろう。


ユリをフワリと音も衝撃もなく地面にそっと降ろすと、エスコートの為の手を添えたままレンドルフが立ち上がる。いつもよりもヒールが高めの靴で来ているので、彼の顔がより近く思えた。


「とても可愛い」

「あ、ありが、とう。レンさんも、似合ってる…すごく、いい」

「ありがとう」


まるで息をするのと同じくらいサラリと、レンドルフはユリに笑顔を向けて感想を口に出す。小柄なユリは、昔からサイズ的な意味も含めて「可愛い」とはよく言われていたので慣れていると思っていたが、言う人間によってここまで破壊力が違うとは思ってもみなかった。そのせいで、ユリの方が返す言葉が吹き飛んで大変ぎこちなくなってしまっていた。


「本日はお越しいただきありがとうございます」

「ミダース男爵、本日はお招きありがとうございます。皆様ご健勝なようで安心いたしました」

「ユリ嬢、今日は来てくれてありがとう。妻は不参加になってしまったが、くれぐれもよろしくと言付かっている」

「ビーシス卿、この度はおめでとうございます。エリザベス様にはお体を第一にされてくださいとお伝えくださいませ。後日改めてお祝いをお贈りいたしますね」

「気遣い感謝する」


もう慣れている間柄ではあるが、最初の挨拶は互いに丁寧に交わし合う。エリザベスの懐妊は周囲の親しい者には告げているので、レンドルフはテンマの許可を取ってユリにも手紙で知らせておいたのだ。



その後は晩餐の会場ではなく、レンドルフが予め頼んでおいた写真の撮影の為に応接室に案内された。


「わざわざ時間と場所を取らせてしまって申し訳ありません」

「いや、俺もその、写真というのには興味があるんだ。肖像画を描かせるよりすぐに済むんだろう?子が誕生したら肖像画を描かせるのが普通だとは言われているが、長時間ではリズにも赤子にも負担が掛かるからな」

「まだ技術的には小さなサイズでしか印刷出来ないので、大きな肖像画はやはり機会を見て画家に頼んだ方がいいらしいですよ」

「そうか。それぞれに利点はあるのだな。肖像画も折りを見て画家に頼むことにするか」


テンマもトーマも紙に写し取られた写真を見たことはあったが、実際撮影するところは見たことがなかったということなので、一緒に応接室に来ていた。応接室は、わざわざ用意してくれたのか美しい花が生けられていた。


「こちらが写真の魔道具です」


レンドルフが預けていた使用人から両手で包めるくらいの大きさの箱を受け取る。そしてその箱の蓋を開けると、中には10枚程の厚みのある四角いガラス板のような物が互いに傷を付けないように布に挟まれて並んでいた。レンドルフは手袋を嵌めて、指先だけで慎重な手付きでガラス板の切り口の部分にだけ触れるように挟んで一枚だけ取り出す。

大きさは女性の手くらいの大きさの透明なガラス板であるが、端の方の一部にシャツのボタンくらいの大きさの白く丸い物が埋め込まれている。レンドルフは摘んでいない方の手でその部分を指し示す。


「ここに撮影者が一度魔力を流すと、このガラスに映す対象が投影されます。そしてもう一度魔力を流すと、転写版…このガラスのことですが、こちらに記録されるそうです。そして記録済みの転写版を購入した商会に渡しておくと、後日紙に転写したものが送られて来ます」

「こんなに小さいのか?」

「紙に転写した物は、もう少し大きいです。遠くに住む家族などに送ることを想定しているので、大体封筒に入るくらいの大きさです」

「ほう…なかなか興味深いな」

「上手い方式ですね。こちらの転写版を購入して、必ず同じところで紙に出力するのでしょう?これを扱う商家で独占販売しているのと同じですね」


この転写版は、撮影したものを一枚だけ紙に転写する料金も込みになっている。もし複数枚欲しい場合は、一枚ごとに別料金が掛かるが、転写版自体の料金は無くなるのでそれなりに割安にはなっている。テンマはレンドルフの手元をまじまじと見つめて、使い方の説明が書かれた書類を熱心に読んでいたが、トーマは印刷までの流れや料金体系の部分をじっくりと見ていた。親子とは言え、注目している部分が全く違うようだ。


「撮影は誰かに頼むことになりますし、試しに最初は俺が撮りますよ。ええと、テンマさんとトーマさん、いかがです?」

「いやいやいや!」

「そこはユリ嬢だろう!」

「ええと…」

「その転写版をくれるならいいよ」

「いいの?」

「うん。折角ならおじい様にあげたいし」

「じゃあ、そうさせてもらうよ」


ユリの了承を得て、花の前に立ってもらい「しばらくの間動かないで」と言い残して少し距離を取る。その正面にレンドルフが膝を付いてしゃがみ込んで、透明な転写版をユリに向かって翳した。背後には興味津々でテンマとトーマ、そして側に付いている使用人達もギュウギュウに詰めて覗き込んでいる。その光景にユリは思わず笑い出しそうになってしまったが、そこは淑女教育を全力で思い出して僅かに口角を上げるだけの微笑みで顔を固める。


「ここに一度魔力を流すと…」

「おお、ここにユリ嬢が!」

「なるほど、ここで位置を微調整するのですね」

「それでもう一度…」

「あ!止まった」

「これは手軽だな!」


正面から小さなガラス越しに一斉に覗き込まれるというよく分からない体験をしたユリは、一体向こうで何が起こっているのかさっぱり分からない。ただ、レンドルフが位置を決めて再び魔力を流した瞬間に透明だったガラスが一瞬にして黒く不透明なものに変わったのはハッキリと見えた。


「レンさん、もう動いて大丈夫?」

「うん、大丈夫。ありがとう」


ユリも足早にレンドルフに近寄って、手にしている転写版を覗き込みに行った。ユリも撮影されるのは初めてだったので、どんな風に写っているのか気になって仕方がなかった。


「…何か、はっきり見えない…?」

「うん、そうなんだ。誰か白い紙か、ハンカチでもいいから貸してもらえるかな」

「こちらでよろしいでしょうか」

「ありがとう。ちょっと借りるよ」


背後にいた使用人の一人が懐から真っ白なハンカチを差し出して来たので、レンドルフはそれを借りてテーブルの上に広げるとそっと撮影済みの転写版を置いた。


「…っ!これ…!?」

「おお!ユリ嬢に見えるな!」

「父上、ユリ嬢を撮ったのですから当然でしょう」

「これは、色の濃いところが白く、薄いところが黒く写るそうです」


色が反転しているので、ユリの黒い髪が真っ白に写っている。一瞬ユリは自分の姿が暴かれたような気になって、ギクリと動きを止めてしまった。しかし幸い皆は転写版の方に目が行っていたので、ユリの反応には気付かないようだった。


「左右反転して写っていますね」

「これは紙に転写する時に正しい方向になりますよ。こんな感じです」


レンドルフは懐から手帳のようなものを取り出して、そこに挟んでおいた先日タウンハウスで撮られた写真を差し出す。自分がモデルなのは何とも気恥ずかしいものがあるが、他になかったので仕方がない。


「思った以上に良く写っているんだな」

「少し滲むようになっているところがあるようですが?」

「これは魔力の揺らぎが出てしまうらしいです。撮影する側と、撮られる側の両方が影響するそうですが、そこまで気にする程ではないかと」

「レンさん、私にも見せて」


テンマとトーマが覗き込んだので、小さなユリはよく見ることが出来なかった。レンドルフは少しだけ照れたような表情をしながら「この前の服のときだけど」とユリに手渡した。


「わあ…」


そこには、先日食事をした際に着ていたグレーのベストに濃茶色のシャツのレンドルフの姿があった。実物よりは落ち着いた色になる印象だったが、絵画とは違って一瞬の表情を切り取ったような写真から、レンドルフが少し恥ずかしがっているような困っているような気配が伝わって来た。


「滅多にこういう恰好をしないから、実家にいる兄に見せたいと家の者が言い出して…」

「ふふ…そんな顔してる」


ユリが熱心に見つめているので、間が持たなくなったのかレンドルフはその時の状況を言い訳のように話している。息子くらい歳の離れた末弟のレンドルフを随分と可愛がっているという話はよく本人からも聞いているので、おそらくこの写真も喜ぶことだろう。そこまで喜んでもらえたなら、ユリも多少強引ではあったが作らせてもらった甲斐があるというものだ。


「今回の服でも是非写真に残して欲しいと言われてしまって。招待された身なのに申し訳ありません」

「いいえ。こちらとしても新しい魔道具の性能を見られて良かったです。父上、これは是非義母上と撮られてはいかがです?義母上の体調次第ですが、せっかく式で着る予定だったドレスも記念に残せるでしょう」

「ああ…そうだな…ちょっとリズに聞いてみるよ」



その後、つい撮影大会で盛り上がってしまい、晩餐が大幅に遅れてしまった。皆が楽しげなので割って入るわけにもいかずに廊下の片隅で涙目になっている料理長にトーマが気付き、全員で平謝りしてようやく晩餐が開始されたのだった。



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