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206.レンドルフの微妙な受難


レンドルフが長期遠征の後の完全休暇の初日にクロヴァス家のタウンハウスに行くと、待ち構えていたように既に宝石商が来ていた。


「若君!これを一体どちらで!?」


挨拶もそこそこ、どころか挨拶も忘れて応接室に入るなり体当たりも辞さない勢いで、馴染みの宝石商の男性が駆け寄って来た。いくら母の時代からの馴染みとは言え、あまりにも我を忘れた様子にレンドルフは思わず身体を引いてしまった。


「ちょ、ちょっと落ち着いてくれないか」

「これが落ち着いていられますか!!これは、これは一体どちらで入手されたのですか!?」

「え、ええと…」


チラリとレンドルフが視線を逸らすと、扉の傍には困ったような微笑みをたたえた執事が静かに見守っていた。おそらく彼がここに訪ねて来たときもこのくらい勢いがあったのだろう。


宝石商が持ち込んだらしき箱が、ソファの脇のローテーブルに置かれていたが、その中に一際豪華な箱が二つ並んでいた。明らかにあの箱だけで、小ぶりな宝飾品と同程度の価格になりそうだった。一体何を持ち込んだのだろうと一瞬不安になったが、彼はそこまで強引な押し売りはしない筈だと思い直した。


レンドルフはどうにか宝石商を宥めて、ソファに向かい合って座る。すっかり興奮している様子の彼は、懐からハンカチを出して額を拭った。


「あんな石を拝見したのは人生で初のことでしたので…つい興奮で我を忘れてしまいました…」

「いや…あの、それはそうだろうな…すまない、露店で均一価格で売ってたような品だし…」

「若君…ご冗談は…」

「本当なんだ…」


貴族の中でも辺境伯家となれば、上から数えた方が早い高位貴族だ。そんな家格の貴族達とやり取りしている商会なのだから、二束三文で買ったような石は馴染みがないだろうと思ったのだ。が、宝石商は見る間に顔が蒼白になって行った。


「まさか…若君…それはあんまりでは…」

「え!?そんなにひどい品質だったのか?」

「違います!逆です、逆!!」


宝石商が言うには、指輪の方に付いていた昼と夜で色が変わる石の方はそれだけでも珍しいものなのだが、更に猫の目の虹彩のように偏光色が入っているのは稀少度が一気に上がるそうだ。しかも石の変色と偏光色がここまではっきり出ているのは数年に一度産出されるかどうかの少なさで、市場に出る前に石狂いと名乗る程のコレクター達が押さえてしまって、ごく稀にオークションで目に出来るだけでも幸運と言われるくらいらしい。

僅かに魔力を感知したので魔石の一種でもある魔鉱石かと思ったのだが、鑑定の結果は指輪にする際に傷などを防ぐ為に掛けられた保存の付与の影響のようだった。今は台座も外して付与も解除してあり、魔力もなくなっている。もし魔力を消すことで色に変化があるならそのままでと希望を出していたのだが、特に影響はないと告げられた。

ちなみにこの石の通称は「淑女の誘惑」と呼ばれるらしい。それを聞いてレンドルフは何となく納得行ったような行かないような複雑な気持ちになった。


そしてもう一つのルースの方は、ベテランの宝石商でも見たことがなく、古い図録で見たことがあるだけという稀少中の稀少な石「エルフの瞳」と呼ばれるものだという鑑定結果が出た時は、そのまま椅子から転げ落ちたそうだ。


「風合いの似た宝石は幾つもございますが、こちらはそもそも作りが違うのです。実を申しますと、こちらは人…と言いますか、エルフやそれに匹敵する長命な一族だけが作ることの出来る石、と言われているのです」

「ではこれは天然石ではないと?」

「はい。ですが、自然の中からは絶対に産まれない物で、その価値は天然石以上のものでございます。巨大な淡褐色の石を長い時を掛けて魔力を注いで圧縮を繰り返し、その最も圧がかかった中心部が変質して美しい緑色になるのです。それこそ、こちらの応接室一杯の石から、ようやくこぶし大程度の物が削り出せるという…」

「そんなに!?」

「はい。長命なエルフが生涯掛けて魔力を注ぐほど長い時が必要という伝説から生まれた石です。魔力が単一であればある程美しいとされていますので、人間がこれを作る場合は美しい透明感は得られません」


エルフや長命な一族であれば、百年以上同一人物が魔力を注ぐことが可能だが、人間が挑戦した場合はどうしても代替わりが発生する。同じ血縁で、近しい魔力を持つ者同士であってもやはり別人なので、単一魔力で作られたものとは雲泥の差が出てしまうということだ。それは、全く石に詳しくない素人の目にもハッキリと分かる程だった。とは言え「エルフの瞳」自体が稀少であるので、多少濁りがあっても相当な高額になるし、入手した者は()()()()()()に所持していることすら秘匿するらしい。


「こちらの品は単一魔力ではなく、おそらく二名程で作製されたものでしょう。それでも余程魔力の近しい者が作ったのか、規格外の高品質なのは間違いございません。むしろ単一魔力ではこの偏光色のラインは出ないでしょう。これは瑕疵ではなく、唯一無二の芸術であると誇るべき品です。ただ残念なことにその後の保管状態がそこまで良くなかったので、僅かな欠けと傷、研磨の甘さが見受けられます。一回り小さくはなりますが職人が磨き直し、一流の細工を施せば王族に献上しただけで叙爵されるほどのものになるでしょう」


あまりにも話が大きくなり過ぎて、聞いているだけでレンドルフも顔色が悪くなる気がして来た。ただ露店でちょっとした色の気に入った石を買ってみただけなのに、どうしてこうなった、と思わずにはいられなかった。

露天商に支払ったのは銀貨五枚で、それこそ子供のおもちゃのような金額だ。レンドルフからしてみれば価値云々よりも、色がユリの目に似ていたことで引き寄せられて、たまたま籠に入っていた石の一番上に自分の目の色とよく似ていた石だったから買い上げたのだ。本物の宝石だと必要以上に重く取られてしまうだろうから、偽物のおもちゃのようなものだけど、と気軽に渡せたらいいと思っていたのだ。


宝石商は、緑の方は大金貨50枚、「エルフの瞳」に至っては、大商会が超大口のやり取りの際にしか使われないという白金貨20枚が、それぞれ石だけの最低価格だと言われててしまった。金貨の価値としては、大金貨は金貨の10倍、白金貨は大金貨の10倍くらいである。加工をして芸術的価値も上乗せされたら、どこまで吊り上がるか見当もつかない。


「若君、こちらは揃いで何かに加工するご予定でしょうか?婚約や求婚をお考えでしたら…」

「そ、そういう感じじゃなくて…」

「…やはりそうでしたか」


前のめりになって、石の加工を請け負いたいというオーラを全身から醸し出している宝石商に、レンドルフは眉を下げて視線を外した。その様子に、意外なことに彼は存外あっさりと引いて肩を落とした。


「鑑定魔法のない若君が、そんな重要な場で使う品を露店でお求めになる筈がございませんよね…」

「何か、すまない…」


余程の目利きならともかく、そうでない者が求婚のための宝石を求めるのに、露店から籠に入った均一の屑石を選ぶような真似はしないだろう。


「ええと、あまりにもひどい品じゃなければ、渡す相手に見せて何に加工するか相談しようと思っていたんだが」

「左様でございますか。その加工が決まりましたら、是非我が商会に」

「う、うん…よろしく頼むよ…」

「あと、差し出がましいのは重々承知ですが、これをお見せになる場所と周囲の人間にはくれぐれもご注意くださいませ。お相手の方に危険が及ばないとも限りません」

「そ、そんなにか!?」

「大事なお相手なら、用心に用心を重ねるべきかと。それから、石には『鑑定拒否』よりも『鑑定上書き』をお勧めします。石の鑑定魔法が使える者はそもそも目利きが多いですからね。拒否されたら間違いなく稀少な石だとバレます」

「あ、ああ…」


もはやユリに渡さない方がいいのではないかとレンドルフは内心思い始めた。


付与魔法の一種である「鑑定拒否」は、物の素材や価値などを調べる為の鑑定魔法を無断で掛けられることを弾くもので、付与の種類によっては鑑定魔法が掛けられたことが分かるようになっていたり、掛けた相手に何らかのペナルティが与えられる場合もある。鑑定魔法は、相手の私的情報や秘密などを暴いてしまう可能性もある為、使い手は能力の種類や強さに関わらず国に登録されることになっている。そして当人からの依頼や、仕事などで認められている範囲に限り行使することを許されている。それに違反した場合、相応の罪となるのだ。

ただ、悪意を持った者がその魔法の使い手だった場合、手当たり次第価値を鑑定して、その中から高価な物だけを効率良く奪うという強盗も実際存在している。そういった輩から身を守る為に、高価な品には「鑑定上書き」という付与をすることもあるのだ。それは鑑定魔法が使われた際に偽の情報を読み取らせる付与であり、防犯の一環として使われるのだ。しかしこれは一度掛けてしまうと簡単に外せない付与なので、正確な価値を証明する書類を作っておかなくてはならないという手間はかかる。


その後、レンドルフが気にしていた高級感溢れる箱には、件の石が収められていたことが判明した。石の正確な価値を聞いてしまうと相応しいのかもしれないが、購入した金額を知っていると何とも複雑な気持ちになる。せめて箱の代金を支払おうとしたのだが、「若君のおめでたい話の際には是非ご利用いただければ」とにこやかに断られてしまった。むしろレンドルフとしてはそちらの方が重いのではあるが。

石の手入れやお勧めの付与などのアドバイスを教えて宝石商は帰ったのだが、レンドルフは半日程度で二日分くらいの疲労を感じていたのだった。



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(何だろう、今日は厄日なのかな?)


夜は、遠征から帰って最初のユリとの食事の約束が控えている。

遠征に行く前に作ることになった何着かの私服が完成して届いていたので、その中のものを着ていくことにした。ユリがレンドルフに着せたいと選んでくれた服だったので、普段自分では選ばないようなものばかりだ。基本的にレンドルフは「入ればいい」としか注文がなく、後は動きやすく丈夫な物を選ぶのでどうしてもシンプルな服ばかりになるのだ。ユリが選んでくれた服もシンプルな方だし決して嫌な訳ではないのだが、着慣れないので戸惑っているといった感覚だった。

レンドルフは、それぞれ組み合わせを変えても着られるとは聞いていたが、その辺りの応用は難易度が高いので取り敢えず箱に入っていた一揃いで纏めることにした。


その中から選んだのは、淡いグレーのベストとパンツに、濃茶色のシャツという組み合わせだった。そしてその上から黒に近いダークグレーのロングコートを肩に羽織る。薄手の素材で通気性の良くなる付与が掛かっているおかげで、羽織っている方が快適なくらいだ。肩にパットが入っていないタイプの物なのだが、レンドルフの自前の肩幅でも十分立派なシルエットが出ている。いつも着ているシャツよりも大きく開襟しているデザインなので、ユリにもらったチョーカーが丸見えになっていた。これからユリに会うのだから別に構わないと思いつつ、何となく気恥ずかしさもあってクラバットを付けた方がいいかとメイド長に確認してみたが、あっさり却下された。



全身が映る鏡に前に立って確認してみると、見慣れない姿ではあったが存外悪くなかった。装飾らしきものはシャツの襟元と、コートの袖口の折り返しの部分に控え目な刺繍が施されているだけで、服自体が艶のある素材で上品な華やかさを添えている。そして全体的に緩やかに腰の辺りで絞られているシルエットになっていて、普段よりも細身に見えるのだ。服のサイズはぴったりなので、痩せた訳ではなさそうだ。

ユリの見立てのセンスに感心してから振り返ると、部屋の扉が開いていて、そこからタウンハウス中の使用人が集っているのではないかと思う人数がレンドルフを見つめていた。後ろの方には料理長まで来ている。

皆、母親似の整った顔立ちという素晴らしい素材を持ちながら、現在の一族の中で唯一婚約者などの相手がいないせいか最も服装に無頓着なレンドルフがこうして着飾っているのを目の当たりにして、幼い頃から知っている使用人一同は一斉に感慨深くなっていたのだ。特に幼い頃に王都に来る際にレンドルフの乳母代わりを務めていた古参のメイドなどは、ハンカチで目元を拭っていた。


「ただいま領地に若様の晴れ姿をお贈りする為の写真の魔道具を買いに行かせておりますので、しばしそのままで」


何故かこちらも涙目になっている執事長にそう止められて、レンドルフは早めに着替えておいて良かったと心から思ったのだった。



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レンドルフは待ち合わせ時間の少し前に、王城近くの馬車の停留所に来ていた。ここは広場のようになっていて、王城に務める者が行き来に利用する乗り合い馬車が何台も停まっている。それだけでなく、個人所有の馬車の迎えも随分停まっている。日中に通いで働いている者達が帰宅をする時間帯なので、最も人も馬車も多い頃合いだ。


今日はユリが薬局勤務の日なので、休暇のレンドルフがここまで馬車を手配して迎えに来た。無事に遠征任務が終わった祝いをしようということで、少し良いレストランの個室を予約してある。馬車の中で待っていても良いのだが、ユリに服を見せる前に妙な皺が寄ってしまうのは避けたかったので、到着するなりレンドルフは馬車から降りて彼女が来る方向から見える辺りに立っていた。いつもよりは細身に見えるといっても、やはりレンドルフ体格は普通の人間よりも頭一つ程度は飛び抜けているので目立つ。それなりに驚きの目で見られるのは慣れっこだったが、何故か今日はやけに女性に見られているような気がする。


(ちゃんと皆に確信してもらったから大丈夫だと思うんだが…それとも何か見落としが…!?)


少し不安になってレンドルフはあと一歩で挙動不審になりかけそうになった時、王城から出て来た顔見知りの騎士がレンドルフを三度見程して「お前、そう言えば貴族だったんだな…」と声を掛けて来た。


「いや、それは知っているだろう」

「そうじゃなくてな…何て言うか、ちゃんと貴公子なんだな…」

「そんなに違うか!?」

「全然違う」


あまりにもきっぱりと真顔で言い切られてしまったので、ともすれば失礼にもなりそうな言葉だがレンドルフは思わず笑ってしまった。


「今までだと休暇なのか任務中なのか分からなかったからなあ」

「そこまでか…」

「大方彼女の見立てだろ?センスいいな」

「やっぱり分かるか」


そう言われると、何だかユリが褒められているようでレンドルフは嬉しくなって破顔する。相手の騎士は何故かその笑顔を見て小さく「うっ…」と呻いた。そして口の中でそっと「これだから顔のいいヤツは…」と呟いたのだが、それはレンドルフの耳には届かなかった。


「まあ、そういう彼女は大事にするんだな」

「勿論」


迷いなく言い切っているレンドルフだが、彼を知る殆どの人は複数女性と付き合っていると流れている噂を信じている。この騎士も例外ではなかったので何とも複雑な気持ちにはなったが、そこは表には出さないでおいた。別に相手を騙そうとしているのでもないなら、今は一夫一婦が主流ではあるが、複数伴侶を持つことが禁止されている訳でもない。恋愛観は人それぞれだな、と彼は思い直す。



軽く挨拶を交わして彼はその場から離れた。少し離れたところで、彼も待ち合わせの相手を待っている。彼の場合は、給料が出たばかりだろうから奢ってくれと強引に約束を取り付けて来た妹との待ち合わせだ。ブツクサと文句を言いながらも、それでも妹の好きそうなメニューの店を頭の中で幾つかピックアップしてしまう程度には可愛がっている。


「お兄ちゃん、お待たせー」

「おう、今来たところだ。いいタイミングだな」

「お腹空いたー」

「会うなりそれかよ。しょうがねえな」


今年成人を迎えて服飾店で働き始めた彼の妹は、まだ見習いなのでそこまで贅沢が出来る程の給料はもらっていない。地方出身なので部屋を借りて一人暮らししているが、王都の物価は高めでそれなりに厳しいことは彼もよく知っている。彼は妹に思う存分食べさせようと、盛りの良い馴染みの店に連れて行こうと決める。


「わあ、あの人格好良いね」


彼の肩越しに妹がキラキラした目で誰かを眺めていた。思わず振り返ると、その先には先程挨拶をしたレンドルフがいる。


「あー…」

「何?お兄ちゃん知り合い?」

「いや、まあ…」

「え?嘘。そうなの!?」


あまりにも妹の反応が良いので、彼は複雑な胸中になった。会えば軽口を言い合う程度に知り合いではあるし、レンドルフの真面目な性格は知っているが、妹を紹介したいかというとそこは遠慮したい。


不意に、人が大勢いてざわついている広場に、一瞬だがどよめきのようなものが走った。

彼もそのどよめきの方角に目をやって、すぐにその理由を理解した。


その中心地には、まるで大輪の薔薇のような美女がいた。


燃えるような真っ赤な髪は腰の辺りまで届いていて、特に束ねてもいなければ宝飾品を付けている訳でもなく、自然に軽くウェーブしたままに背中に流れている。しかし歩みとともに揺れる様は、それだけで彼女を華やかに彩っているかのようだ。そして意志の強そうな大きな金色の瞳が真っ直ぐに前を向いている。彼はこちらに視線が来ていないのに、一瞬痺れたような感覚がしてつい彼女を凝視してしまった。

着ているワンピースは首元まできちんと覆い隠した黒っぽいシンプルなものではあったが、柔らかく体に添った素材で出来ているせいか彼女の豊かな曲線と細い腰を際立たせて、そのまま夜会にでも行けそうな豪奢なドレスと錯覚してしまいそうだった。裾は膝から下が広がって足首まで届いていて、その辺りから下に向かってグレーからピンク色のグラデーションが付いている。その為、歩く度に広がってまるで足元に花が咲くようだ。

派手なドレスも、きらびやかな宝飾品も付けていないのに、彼女そのものがいるだけで華やかになる、そんな存在感を放っていた。


時間にしてみればほんの一瞬だったが、思わずその蠱惑的な肢体にゴクリと生唾を飲んだ者がどれだけいただろうか。計算高い者は、彼女の素性の予測や、どうしたらお近付きになれるかと一瞬のうちに算段を立てる。

しかしそんな空気もものともせずに、大股で彼女に近付く人物がいた。


「ああ…あれが…」


彼は、躊躇いもなく美女に近付いてその手を取ったレンドルフを見て、第三騎士団の知り合いから聞いたレンドルフのパートナーをつとめていた赤い髪の美女だと思い当たった。どこかの商会のパーティーに参加していて、注目をかっさらったという噂だったが、確かに納得が行った。


レンドルフが見たこともないような蕩けるような笑顔で何かを彼女に告げると、彼女も少しはにかむような笑顔で何か答えた。その内容までは分からなかったが、やや遠目でもレンドルフの白い肌が彼女の言葉でフワリと朱を帯びるのはハッキリと分かった。噂では何人もの女性と浮名を流していると言われている男が、相手の言葉一つであんなに初心な表情をするものだろうか、と彼はぼんやりと考えていた。年も近くて二度程同じ任務に就いたことのある程度の付き合いだが、噂よりも今の目に映ったレンドルフの方が正しい姿のような気がした。


そしてそのまますぐにレンドルフは彼女をエスコートすると、待たせてあったらしい大型の馬車に乗せる。片手で軽々とした動作だったが、どう見てもレンドルフが彼女を抱きかかえて乗せたようにしか見えなかった。その後に続いて女性の傍らに付いていた侍女と護衛らしき男性も乗り込んだ。そして彼らを乗せた馬車は、あっという間に広場から走り去ってしまった。


「…素敵ねえ」


彼の隣で妹がうっとりと呟いて、ようやく我に返る。妹の顔を見ると、明らかに頬を紅潮させて目が完全に潤んでいる。


「あ、あのな、あいつは…」

「あのお二人の服…!どこでオーダーしたのかしら…デザインはどなたの…」

「お…おう」


彼は妹の着眼点に「そっちかよ!」と思いつつも、兄としてはどこか安心したような、心配したような複雑な気持ちになったのだった。


ざっくりと銀貨1,000円、金貨10,000円くらいの感覚です。

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