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194.手袋とお願い


「ご注文の品の付与が終了いたしました」


ユリが採寸を終えて、レンドルフがユリの為に注文したワンピースの色を選んでいると、薄手の箱を抱えた従業員が入って来た。


「こちらが先日ご注文いただきました夏用の手袋でございます。どうぞご確認ください」

「わあ…こんなに早く?ありがとうございます!」

「ありがとうございます」


マルティナが受け取って箱をそれぞれの前に置いて、そっと蓋を取ってくれた。中には大きな黒い手袋と、小さな淡いピンク色の手袋が収まっている。こうして並べてみると、大きさの差が倍近いように見えてしまう。


「…レンさんの方、一つで両手入りそう」


ユリが思わず声が漏れていた。それはそれで可愛いかもしれないので、後でユリに試してもらうのもいいかもしれないとレンドルフは密かに思う。

勧められるがままに二人はそれぞれの手袋を手にして嵌めてみた。新品の物なのに、まるでずっと愛用して来たかのようにスルリと手に馴染む。吸い込まれる、と言ってもいいくらいの感覚だった。特に、いつも大きな利き手側に合わせるのが普通だと思っていたレンドルフは、左手の着け心地の良さに驚いていた。つい嬉しくなって何度も握ったり開いたりを繰り返してしまう。


「いかがでございますか?」

「素晴らしいです」


レンドルフは思わず即答していた。まだそこまで気温が高くないので実感は薄いが、手袋を嵌めてもヒヤリとした感覚は分かった。これならば汗自体も押さえられそうだし、希望しておいた滑り止めの付与もきちんと掛かっていて、咄嗟の時に剣を握るのにも支障がなさそうだった。


「思ったよりも滑らかな手触りなんですね。見本の時はもう少しざらついていた印象だったのですが」

「この生地を選ばれたお客様は皆様そのように仰っております。やはり指先で触れるのとは印象が違うようでございます。どこかに違和感などはございますでしょうか」

「今のところは大丈夫です。ユリさんはどう?」

「私も大丈夫です。こちらは手を通すと色の印象が変わりますけど、より好みの色です」


レンドルフの黒の生地は印象が変わらなかったが、ユリの方は僅かに透ける肌の色が影響して、より薄紅色に近くなったような気がした。色の濃い紅を爪に乗せればまた可愛らしいかもしれないと思ったが、ユリは日常的に薬品を扱う以上爪を伸ばしたり色を乗せたりすることは出来ない。


「女性用は男性用に比べて冷涼感の付与を弱く設定しております。もし弱すぎる、強すぎる、などございましたら調整いたしますので、いつでもお申し付けください」

「ありがとうございます」


ユリは薬草の手入れや薬品の扱いで指先が荒れがちなのだが、この手袋には全く引っかかることなく滑らかに装着出来たので、それだけで十分満足の行く仕上がりだった。

一見すると色も大きさも全く違うしお揃いだと分かりにくいが、手の甲側に手首の辺りに小さく控え目な植物の刺繍が施されているので、並べてみれはすぐにペアで作ったと分かる仕様もユリには嬉しかった。


「男性用にはご希望の防刃と耐火の付与も掛けてはおりますが、もともと防具用の素材ではありませんので、効果は一、二度程度でそこまで強いものでは…」

「何かあった時の為に備えているだけなので、それで十分です」


こればかりは試してみるわけにはいかないが、咄嗟の時に一度だけ凌げれば後はどうとでもなる。普段使いの手袋にそこまで過度な期待はしていないので、付与してもらえただけでも十分だった。



試着をして問題もなかったので、折角だから、と二人とも手袋をしたまま店を後にした。箱と、そこに入った採寸表は鞄の中にしまい込む。


「これ、遠征にも持って行っていいかな」

「勿論!遠征前に作ってもらえて良かった」

「ユリさんのおかげだよ。任務の時は使えないけど、それ以外の時に大事に使わせてもらうよ」


手首の刺繍は花ではあるが、シンプルな色とデザインであるし、長袖を着てしまえば騎士団内で使用していてもおかしくはないだろう。基本的に鍛錬は毎日しているが、色々な手続きや書類作成の事務仕事がない訳ではない。そういった時にこれからの季節はありがたい物だ。何せ風を起こす魔道具は設置してもらえるものの、冷風が出る物は大きめな共同スペースにしか置いてもらえないのだ。場合によっては汗で書類が波打つやインクが滲むのと戦いながら書かなくてはならない。この手袋があれば、随分楽になりそうだった。


「あ、ちょっとだけいい?」


いつものように手を繋いでしばらく歩くと、ユリが不意に立ち止まった。そしてスルリと手を放すと、手袋を外した。


「今日はまだそこまで暑くないからいいかな、って」

「そっか。大丈夫?冷えたんじゃない?」

「……ちょっとだけ」


ユリがそう答えると、レンドルフはすぐにユリの両手を挟み込むように自分の手で包み込んだ。色々と付与は掛かっているが、ほぼ内側に向けてあるので薄い布越しにレンドルフの体温がユリに伝わる。以前付けていた木綿の手袋よりもずっと素手の感覚に近い。


「…レンさん、これだと歩けないんじゃ…」

「あ!そ、そうか、ごめん」

「そこまでじゃないから、片手だけで大丈夫」

「そう…?」


(本当は冷えてる訳じゃないからね…)


ユリが手袋を仕立てようと言い出したそもそもの切っ掛けは、実のところレンドルフが汗を気にしてこれからの季節は木綿の手袋越しで手を繋ぐことになってしまいそうなのが嫌だったのだ。当人には言えていないが、これまでの緊張なのかレンドルフの手がじっとりと汗ばんでいたことは何度もあったし、ユリはそれを全然不快とは思っていなかった。それよりも彼の手の皮膚の固さや剣ダコに触れている方が嬉しかったのだが、厚手の木綿の手袋越しではそれが堪能出来なくなってしまうことの方がユリには重大事だった。

しかしレンドルフは手汗を気にしているようなので、その気持ちを無碍にするのも憚られた。そこで咄嗟に「薄手の手袋ならレンさんも気にしないでこっちも堪能出来るかも!」と思い付き、今回の仕立てに至ったのだった。


そのついでにレンドルフの指回りのサイズも入手出来たし、更に偶然にも充填の依頼を請け負ったおかげで思う存分レンドルフを着飾らせる機会にも恵まれてしまった。ついうっかり自分も着飾らされる羽目にはなったが、「可愛い」と言ってもらえたのだからユリからすればお釣りが来る程の作戦大成功だ。


ユリは上機嫌でレンドルフと手を繋ぎ直すと、大分遅くなってしまった昼食だか夕食だか分からない食事をする為に、エイスの街に来るとお馴染みのミキタの店に向かって歩き出したのだった。



後日、ギルド経由でマルティナからユリ宛てにカタログが定期的に送られて来るようになり、ユリの好みを把握し尽くされているおかげで毎回レンドルフに着せたい服が必ず混じっている。それを見る度にどうにかしてレンドルフにその服を着てもらうことは出来ないかと理由を必死に捻出することになるとは、ユリはこの時はまだ知らなかったのだった…。



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「おや、珍しい時間に来たね」


ミキタの店に顔を出すと、夕刻には少し早い時間だったので客は他に誰もいなかった。店内に入ると、何か煮込んでいるのかコンソメらしい香りが鼻をくすぐった。


「ちょっとお昼食べ損ねちゃったんです。何か食べられそうなのあります?」


魔石の到着が遅れたり、急遽ユリの採寸があったりして随分と時間がズレてしまった。一応焼き菓子などの摘む物は出してもらっていたが、あの大型雑貨店内に入っているカフェはそこまで本格的な食事メニューはなかったのでそれで満腹になった訳ではない。マルティナは気を遣って従業員に外に買いに行かせると申し出てくれたのだが、二人ともこれが終わった後にミキタの店に行こうと言っていたので、すっかり胃が彼女の店の味になっていた為辞退していたのもある。


「おや、それはお腹が空いたね。とは言え、今日はランチが完売してるから…ちょっと待っておいで」

「あの、完売したのなら無理には」

「大丈夫だよ。夜に出すメニューを簡単に食べられるようにするだけだからさ」

「すみません」

「ほらほら、そこに立ってないでいつもの場所に座んな」


手をパン、と叩いてミキタは奥のソファ席を示す。


礼を言ってレンドルフとユリはすっかり専用席のようになった席に腰を降ろす。座るとすぐに、コンソメの良い香りに刺激されたのかレンドルフの胃が空腹を訴えてグウゥ、と派手に鳴った。慌ててレンドルフは腹を押さえたが、ユリの耳にもしっかり届いていたらしく、気を遣って口元を押さえているのをみて顔を赤くした。


「ミキタさーん、何作ってるのー?すごく良い匂いー」


話題を変えようと、ユリがカウンターでチャキチャキ動いているミキタに少し大きな声で呼びかけた。席に座っているとちょうどカウンターで遮られて手元が見えないが、何かが煮えるクツクツという音と、ジュワーと脂の爆ぜる音が同時に聞こえて来る。少し遅れて漂って来る匂いはどれも美味しそうで、大きく息を吸うと再び腹が鳴りそうなのでレンドルフはなるべく浅く息をするという無駄な努力をしていた。


「夜に出そうと思ってたポトフのスープを使ってパスタにするからさ。もうちょっとの辛抱だよ」

「聞いたら余計にお腹減って来ちゃった…」


ユリの呟きが聞こえたのか、ミキタはカラカラと笑いながらザバリと手元の鍋を引っくり返す。どうやらパスタが茹で上がったらしく、彼女の手元でもうもうと湯気が上がる。

レンドルフとユリは待つ間会話も無しに、ジッとミキタの動いている手元を見ていた。何をしているかはたまにしか見えないが、その分匂いで期待が膨らむ。


「はいよ、特製スープパスタ。熱いから気を付けるんだよ」

「ありがとうございます。美味しそうです」

「ミキタさん、ありがとう!ホント、美味しそう!」


大きなスープボウルにパスタと炒めた野菜に焼き目の付いたベーコンが乗り、熱々のコンソメスープが注がれている。ポトフの具材のよく煮込まれた根菜も入っていて、見るからに具沢山でボリュームたっぷりだ。ユリの方はスープは器の半分くらいだが、レンドルフの方はかなり縁に近いところまでなみなみと入っている。それをそれぞれの前に置くと、すぐに小さな皿も脇に置かれる。


「よかったら途中で使ってみるといいよ。あとこっちもだ」


小皿の上にはバターが乗っていて、追加で胡椒のボトルが置かれる。


「「いただきます」」


早速熱いスープを一口飲むと、空腹の胃にじんわりと落ちて行くのが分かった。野菜の甘味と旨味が体に染み渡るようで、レンドルフとユリは同時に深々と溜息を吐いた。元がポトフ用なので少し塩味が薄めだが、後から乗せた焼いたベーコンから滲み出る塩気と脂が他の具材に絡まって濃厚な味わいを追加していた。それを合図にしたように、二人はしばらく無言で黙々と食べ始める。熱さに時々ハフハフと息を吐きながら、揃って頬を紅潮させて夢中で食べている二人に、言葉はなくても伝わったミキタは嬉しそうに微笑むと、夜のメニューの仕込みの続きを再開させた。


「あ、忘れてた」


夢中で半分程食べて、ユリは置いてあったバターと胡椒の存在に気付いた。一瞬どうしようか考え込んだが、一気に半分を食べたせいか少し胃が重く感じている。ユリはバターは使わないことにして、替わりに胡椒を多めにガリガリと追加した。レンドルフもユリの呟きでようやく気付いたようで、彼の器の中も半分くらいになっていたが、元からの量が多いのでまだたっぷりと残っている。レンドルフは躊躇いなく皿に乗っていたバターを全てポチャリと投入する。そしてそれをよく溶かし込んでスープを口にする。


「バターはどんな感じ?」

「全然違う。クリーミーな感じになった。ユリさんの方は?」

「胡椒もかなり変わるよ。野菜と胡椒がすごく合ってて美味しい」


途中、ユリが使わなかったバターをレンドルフがもらって追いバターをして、更にその上から胡椒も振り掛けていた。量は倍近く多かったのにレンドルフはユリよりも早く完食して、額の汗を拭っていた。途中バターを入れた時以外はずっと黙々と食べていたので、額に浮かぶ汗を拭う暇もなかったのだ。ユリも少し後に綺麗にスープまで飲み干していた。ユリは汗まではかいていないが、すっかり体が温まって顔が上気している。


「口に合ったようだね」

「美味しかったです。ありがとうございました」

「ご馳走さまでした!夢中で食べちゃった」


もう二人の食べっぷりと空になった器を見ればすぐに分かる。食器を下げに来たミキタは嬉しそうに笑った。


「二人とも、この後は予定はあるのかい?」

「特にはないです」

「じゃあ、少し飲んで行くかい?」


今日の予定は、ミキタの店で食事をした後は目的を決めずに街歩きをして、どこか目に付いた店で軽く飲もうかというつもりだったが、すっかりズレ込んでいる。まだ外は明るいので飲むには早い時間帯だったが、これからどこかに行くのには半端な時間だ。二人は顔を見合わせて互いに軽く頷きあう。


「「そうします」」

「気が合うねえ」


声が揃った二人に、ミキタは愉快そうに声を上げて笑った。それに釣られてユリもコロコロと笑い出す。


その後、塩と胡椒の振られたポップコーンと根菜のピクルスを軽いツマミにしつつ、ユリは蒸留酒のロックを二杯、レンドルフは甘いリキュールをベースにしたもののカクテルを三杯飲んで、本格的に日が落ちて客が増えて来た頃にミキタの店を出たのだった。



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「今日はお疲れさま。疲れてない?」

「全然大丈夫!どっちかというと採寸の方が疲れたし…」

「それは分かるけど、最初はユリさんの方が騙し討ちじゃない?」

「うっ…それは…悪かったと、思ってマス…」


レンドルフに指摘されて、ユリは思わず言葉に詰まる。そして俯きながら「でも着飾らせてみたかったんだもん…」とブツブツと呟いていた。しかしレンドルフも揃いのデザインのワンピースのデザイン画を見せられた時に、これを着たユリを見たいと思ってしまったのでその気持ちも理解してしまった。


ミキタの店を後にして、ゆっくりと慣れた道を並んで歩く。以前に毎日のように通っていた場所は、あの時程の賑わいはないもののそれなりに華やいでいる。まだ酔客が出るような時間帯ではないが、目立つところに自警団の腕章を付けた人物がチラホラと目に付いた。その中には互いの名前は知らないが顔だけは知っている者もいて、レンドルフとチラリと目が合うと軽く会釈し合う。このエイスの街は非常に自警団が優秀なので、繁華街でも女性だけのグループが中央街より見受けられる。


「じゃあ一つ、俺の願いを聞いてもらえる?」

「レンさんの?いいよ」


あまりにもあっさりと内容も聞かずに了承するユリに、レンドルフが一瞬怯む。ユリも時々レンドルフの天然な言動に翻弄されることがあるが、ユリ自身も似たようなものだと自覚がない。


「ええと…ちょっとだけ、これを…」


レンドルフは道の端に寄って一旦ユリと繋いでいた手を放し、手袋を外した。ユリはレンドルフが何をするのか分からないままキョトンとした顔で眺めている。そしてその手袋を、そっとユリの前に差し出す。


「これを、嵌めてみて欲しいんだけど」

「へ?え?な、何で」

「ほら、これを見た時、両手が入りそうって言ってたから、見てみたいな、って」

「そ、それだけ…?」

「うん。…それとも、何か違う願いを予想した?」

「え!?そ、れは、全然予想してなかったけど…」


つい反射的にレンドルフなら無茶は言わないと了承してしまったが、あまりにも軽卒だったのではないかとユリは今更自覚してしまった。この会話を知られてしまったら、間違いなく大公家のあちこちからお説教が万遍なく飛んで来ることだろう。それにレンドルフのことは信頼しているが、だからと言ってこちらから隙を見せて試すような真似をすることはしてはいけないことだと内心ヒヤリとする。


「なあんだ。何かユリさんが予想してたなら、そっちで、って言っても良かったかなと思って」

「いや、その…これ!着けてみればいいんだよね?」

「うん。嫌なら無理にとは言わないから」

「大丈夫!じゃあ、失礼して…」


ユリは手袋を片方だけ受け取って、ソロリと手を潜り込ませる。自分の手袋よりも付与を強くしていると言っていたので、確かにヒヤリとした感覚がハッキリと分かった。そっとユリは自分の手首まで引き上げると指先がギリギリ指の分れ目に届くか届かないくらいで止まってしまった。そのままモソモソと手を差込んだが、指が半分程度で先に進めなくなった。


「え?こんなに差があるの?」


驚いて手袋を着けたまま目の前に自分の指を翳すと、余った指先がテロリと下方に折れてしまう。そして更に両手が入るか試してみる。が、さすがにそこまでの差はなかったようで、反対の手は指までで、それ以上は縫い目のほつれが怖いので無理はしないで手を止めた。


「ちょっと、両手は無理だった…」

「…うん…」


ユリが両手を合わせたような姿で、その手の先には黒くテロリとした謎の物体がくっついているように見えてしまう。レンドルフは自分が頼んだこととは言え、真面目に両手を片方の手袋に突っ込もうとしているユリの真剣な顔が可愛らしくて、思わず口角が上がるのを堪えてしまった。


「ちょっと!レンさんのお願いなのに!」

「ごめん。あんまりにもユリさんが可愛くて」

「かわ…もう!揶揄わないで!」


頑張って両手に挑戦して思ったよりもピッタリ嵌まってしまったのか、ユリは半分膨れながら手袋から手を抜こうとモゾモゾさせている。しかし、十指全てが手袋の中にみっちり収まっている状態なので、上手く抜けないようだ。しばらくどうにかしようと動かしていたが、上手く外れないので観念したようにレンドルフの前に両手を差し出す形になった。レンドルフは我慢出来ずにクスクスと笑いながら、そっとユリの肌をこすらないように手袋を外した。そして手袋を外した上からすかさず両手で包み込んだ。今回は手袋は外しているのでそのままの素手だ。日が落ちて少し空気がひんやりして来ているが、レンドルフの手は少しだけしっとりしていた。


「冷たくなかった?」

「う、うん。大して着けてないし」

「良かった」

「その…あれがレンさんのお願い?」

「うん。今はね」

「…今は、って…」

「さあ、もう行こう」


ユリはレンドルフの答えに聞き返そうとしたが、軽く手を引かれるように歩き出すと、何となくその場は有耶無耶になって聞き辛くなってしまった。


しかしこの先どんな願いを言って来ても、きっとレンドルフは無茶な願いは言わないだろう。ユリは妙な確信を持って、いつも柔らかい表情でユリの手を引いてくれるレンドルフの横顔を見上げたのだった。



ユリの方にカタログを送るのは、確実に目を通してくれるのと、ユリがレンドルフに着せたい服を買えば、レンドルフもお返しにユリの服を買うと見込んでのことです。策士です。

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