164.贈り物と送られる物
いつもお読みいただきありがとうございます!
評価、ブクマ、いいねなども増えて来ていてありがたいです!
現在は割と自転車操業状態で書いておりますが、先に進んでから「あの設定だと矛盾が出るな…」と戻って書き直すタイプなので、ちょこちょこ修正が発生しております。投稿してすぐに読んでいただいた方に矛盾した状態でお目にかけてしまうのは申し訳ないと思っておりますので、現在の毎日更新から少しペースを落とそうと考えております。
ちょうど区切りの良さそうな話まではそのまま維持する予定ですが、今後は創作ペースを見直しますので更にゆっくりになるとは思います。気長にお付き合いいただけましたら幸いです。
中心街のそれなりに有名な宝飾店に行って、レンドルフは悩んでいた。
ユリに贈るプレゼントを選ぼうとまず宝飾店に来てみたのだが、どれ、というものを決めていないのですっかり見本の前で固まってしまっていた。以前にペンダントを贈り、最近では髪留めを贈っている。それ以外になると、詳細なサイズが必要なものになって来てしまって、他にどうしたらいいか分からなくなってしまったのだ。
「サイズに関わらずお使いいただけるものですと、こちらのブローチかストールピンもよろしいかと存じます。または…これからの季節ですとハットクリップなども使いやすいのではないでしょうか」
「ハットクリップか…確かにこれから使えそうだな。見せてもらえるかな」
「畏まりました」
店員がいそいそと棚の中から幾つか小さな箱を取り出す。それを眺めていると、視界の端に宝飾店にはあまり見かけないものが目に付いた。
「あちらは…」
「ああ、最近売り出した一点物です。宝飾品のデザイナーがデザインをして、ガラス工房と彫金師が作り上げた物です」
「美しいなものだな。あれは実用品?」
「はい。こちらとセットで扱っております」
レンドルフが見ていることに気付いたのか、他の店員が手袋をして布張りの盆に入れて差し出して来た。
盆の上には、繊細な金細工が施されたガラスペンが乗っている。滑らかな流線型のガラスの中に、金色の蔦のような植物が封じ込められている。本物の植物ではなく、彫金で作られた物だろう。どうやってガラスの中に封じるようにしてあるのかは分からないが、透明度の高いガラスの中に入っているので水か氷の中に漂っているようで幻想的だった。
芸術については詳しくないレンドルフも思わず見惚れてしまっていると、手袋をした店員が隣に添えるように置かれていたインク瓶の蓋を開けた。そしてペン先を軽く付けて、用意していた小さな白いカードに滑らせる。スルリとペン先から白い紙に美しいインクが走り抜ける。最初は少し黒っぽい色で不思議な輝きをしていたが、店員が自分の生活魔法「ドライ」で乾かすと、たちまち色が変わって煌めくエメラルドグリーンになった。
「こちらのインクは、研磨した際に出る本物の宝石の粉を特殊な技法で混ぜ込んであります。その為、沈殿することはなく、こうして乾くと宝石の美しい色が浮いて来るのです」
「こんなに美しい色になるのか…」
レンドルフは予想以上に鮮やかな色に思わず溜息を漏らす。
「こちらのペンとインクは注文を受けてから作成致しますので、今からですと三ヶ月は掛かりますが、お好きなモチーフと組み合わせるインクの色をお選びいただけます」
「三ヶ月か…」
「まだ注文を受け付け始めたばかりですが、なかなか評判が良く、今後はもっとお時間が掛かるかと存じます。もしお気に召したのでしたら、今のうちに注文をしていただくことをお勧め致します」
こうしてオーダーメイドの一点物であるし、インクは粉と言っても本物の宝石を使用しているのだから、どちらも相当値の張る物だろう。しかしそれだけ掛けても納得が行く程美しい品だ。レンドルフは、この繊細で美しいペンがユリの小さな手に添えられるのを見たいと思ってしまった。
「こちらを二セット注文したいのだが」
「ありがとうございます。それでは注文書を準備致します。後日デザイナーとの細かい打ち合わせが必要であればお時間をいただきますが…」
「レンカ、という花をモチーフにしたい。デザインは任せるよ」
「…畏まりました」
レンドルフの注文に、おそらく聞いたことがなかったのか一瞬だけ店員の目に戸惑ったような色が浮かんだが、すぐに深々と頭を下げた。
「インクの色見本はこちらでございます」
「思ったより種類があるんだな」
一般的なカードのサイズの半分程の大きさの紙に、この宝飾店の店名を綴ったものが並べられた。全部で10枚あり、どれも美しい宝石の色と輝きをそのまま紙の上に溶かしたような色をしていた。
「ご希望であれば、色を混ぜて特別なインクを作ることも可能でございます。ただ、ここまで鮮やかな色は再現出来ないかもしれませんが…例えば淡褐色の芯にエメラルドが滲むようにするなど」
「ああ…」
店員は、二つ注文したことで誰かに贈ると理解したのだろう。的確にレンドルフのヘーゼル色の瞳も再現可能だと告げた。レンドルフはそれならばユリの瞳の色も再現出来るのかと気になったが、そこまで全部互いの色を用意しても良いものか一瞬迷った。
「インクの方はそこまでお時間をいただきませんので、出来上がったペンをご覧になってからお決めになるのもよろしいかと」
「そうだな。そうさせてもらうよ」
少し言い淀んだレンドルフに、店員もそれ以上は勧めることはなかった。
レンドルフは準備された注文書を書き記す。一つは少し大きめで、もう一つは少し小さめに注文した。
その間に箱から出して並べてもらったハットクリップが隣に準備されていた。これは帽子に付けて長い鎖を襟などに繋げて、急な風などで帽子が飛んでしまうのを防ぐためのアクセサリーだ。これから日差しが強くなる季節になるので、女性が外に出る際には帽子か日傘が必須だ。ユリは薬草園の手入れなどで外に出る機会も多いし、作業をするのに日傘は持っていられないので帽子を被ることになるだろう。
並べられたハットクリップはどれも宝飾品として繊細な造りになっていて、襟元と繋ぐ部分は細い鎖で出来ていた。
「少し動くこともあるので、あまり絡みやすそうな素材ではない方がいいのだが、あるだろうか?」
「少々お待ちください」
レンドルフの注文に、すぐに三種類の鎖以外で出来ている商品を並べた。二つは組紐で、一つは革紐が使われている。レンドルフが目を引いたのは、陶器のような白いボタン状の素材の中央に金色の小さな花が描かれていて、その花の中央に小さな宝石が埋め込まれている物だった。それが三つ組紐の中に編み込まれるように連なって、帽子に装着するとちょうどその飾りが顔の脇に来るような形になる。とても小さな飾りなので、そこまで邪魔にはならなさそうだった。赤い組紐に合わせて、埋め込まれている宝石も赤い色をしていた。
「こちらの石は、お好みの物に交換が可能です」
「いや、このままで。これを包んで欲しい」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
シンプルではあるが、赤い色も白い飾りもユリの黒い髪によく映える。薬草園で作業をする時に使ってもらうことを考えるのならば、あまり装飾が付いていない方がいいだろう。一瞬、別の品物にピンク色の石が付いていたのでそちらに変更してもらおうかとも考えたが、そこまで露骨に自分の色の付いたものを贈っていいのか躊躇した。赤ならば先日贈った髪留めも赤い珊瑚が付いていたので、何となく気軽に選べたのだ。
包んでもらった商品を小さな手提げに入れてもらって、レンドルフは店員に見送られて店を出る。
(ペンが出来上がってインクを選んでもらう時は、ユリさんにも来てもらおうかな)
そんなことを考えながら、レンドルフはノルドを迎えにクロヴァス家のタウンハウスに向かったのだった。
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「あとはお前だけみたいだぞ」
「ええ〜まだ締切先じゃないですか〜。何でみんなそんなに早いんですか」
殆ど人のいない食堂の片隅で、許可を貰ってショーキがレポートを書いていた。本当は寮の自室か、空いている談話室で書いた方がいいのではあるが、ショーキ曰く「誰かの目が無いとそのまま寝ちゃう」ということで、常に誰かしらはいる食堂のテーブルを使わせてもらっていた。
そこに早い時間帯ではあるが、持ち帰り用の夕食を取りに来たオルトに声を掛けられた。もう既にショーキ以外はレポートを書き終えていることを知らされて、ショーキはテーブルの上に顎を乗せて口を尖らせた。
オルトは基本的に家に戻って妻と夕食を取ることにしているのだが、今は謹慎中のモノの為に食事を届けていた。その役目はショーキが申し出たのだが、モノは放っておくとぼんやりと考え込んで食事も取らないそうなので、慣れているオルトが側に付いてグイグイと食べさせているらしい。こればかりはオルトしか出来ないので、任せるしかない。本来は寮で暮らしていない者は居室のあるエリアには入れないようになっているのだが、オルトは一時的に許可されていた。他に入れる者は団長や副団長などの上司や一部の部隊長のみだ。
モノの謹慎が解けたらオルトは彼を一時的に引き取って、自分が騎士団にいる間は妻に任せることが出来ないかと申請していた。オルトはモノの再教育の担当ではあるが、教育専門ではないので彼も騎士の一員である以上騎士団の任務を受けることもある。その為、常に付いていられる訳ではない。その間モノを放っておくよりは、ある意味オルトよりも呪いに関して精通している妻に任せた方が良い場合もある。
今のところ、余程強力な反対さえなければオルトの申請は通るだろう。
「あの、モノはどうしてます?」
「まあ、ちょっとぼんやりしてるが、規則正しく過ごしてるぜ。一応筋トレもしてるしな」
「ならいいんですけど」
「割と仲良かったよな、お前」
「レンドルフ先輩と一緒にご飯食べてましたしね。それに同じ部隊を組むかもしれない相手とは仲良くしておいた方がいいじゃないですか」
「そうか。これからも出来たら仲良くしてやってくれよ」
「あはは、オルト先輩、お父さんみたいですね」
「ははは、そりゃそうだろ」
ショーキはてっきり「そんな年じゃねえぞ」とでも言われるかと思ったのだが、何故かオルトは普通に肯定して笑い出したので思わずキョトンとしてしまった。確かオルトは30代前半だと聞いていたので、モノくらいの息子がいるような年代ではない。
「あー…この国じゃ違ったな。俺の生まれた国じゃ、婚姻年齢がやたらと低かったからな。俺の年じゃ孫が二、三人いてもおかしくねえんだ」
「へー。国によって違うんですねえ」
「ああ。もうこっちにいる方が長いんだがな。感覚が抜けなくって困るな」
オルトは少々気まずそうに笑って頭を掻いた。そしてモノに持って行く夕食の入った手提げを片手に、ショーキの頭をクシャクシャと撫でて去って行った。
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オルトの生まれた国はこれといった農産物も資源も工業品もなく、痩せた土地しかない小さな国だった。そして大っぴらには言えないが、呪術を最大交易として成り立っている国家だった。表向きには、魔法を得意とする者が多いので、各国から要請を受けた専門の魔法士を派遣することを主産業として他国と貿易を行っていた。直接手が出せない相手でも、呪術によって証拠もなく始末することが出来るという技は密かにいつの時代も求められたので、決して需要が廃れることはなかった。
その国では血統もある程度大切にされるが、最も重視されているのは魔力量とそれに比例する呪術の技だった。その為、貴族の出身であったが魔力の殆どないオルトよりも、平民でありながら強大な魔力量を有していたオルトの妻ベルの方が優遇された。
魔力量で幼い頃からオルトの父の第三夫人に決められていたベルは、その国では異端扱いされる、人を呪うことを拒絶する人間だった。しかし魔力量だけ継いだ子を産めばいいと妊娠が可能になった途端に強引に婚姻させられそうになった為に、オルトと共にオベリス王国に逃げ出したのだった。オベリス王国は、建国王が構築したという防御の魔法陣に守られているので、オルトの国の呪術とは相性が悪い。どうにか逃げ込んで保護されたおかげで、オルトとベルは国からの追手も届かない場所で平和に暮らせるようになったのだった。
オベリス王国に来てオルトとベルが驚いたのは、この国の成人年齢と婚姻可能年齢の高さだった。この国では完全に未成年だった二人は、孤児院に保護されて子供扱いされたことに目を白黒させたのは、未だにこの前のことのように感じる。逃げて来た故郷では、オルトもベルも完全に大人の部類で将来を振り分けられていたからだ。
魔力量が多く、呪術の技も得意とする者は国に属することになり、それに応じた地位と財産も与えられる。魔力量だけが多い場合は、一人でも多くの子を残すように早いうちに婚姻先が決められる。そして魔力量の少ない者は、他の者が扱う呪術の寄代や身代わりになって使い潰される。
もしオルトが国を出ずに残っていたら、今頃はこの世にいなかったかもしれない。
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「モノ、夕食だぞ」
「ありがとうございます。いつもすみません」
「いいってことよ。ほら、とっとと食え」
「はい、いただきます」
モノの自室の扉をノックすると中から特に代わり映えのない声が返って来たので、オルトは外から鍵を開けて部屋の中に入って行く。通常の謹慎はここまではされないが、モノの場合は目を盗んで行方をくらませる可能性もあるとして、外から施錠されていた。オルトの目からは大丈夫だとは思っていたが、上からの判断なので仕方がない。
モノが受け取った手提げから机の上に夕食を並べると、オルトはどっかりとベッドの上に腰を降ろした。あまり生活に拘りのないモノは自室に余計な家具などは持ち込んでいないので、最初から備え付けられているベッドと机と椅子しかない。食事の為にモノが椅子に座ると、オルトが座れるのはベッドしか選択肢がないのだ。
容器の蓋を開けると、フワリとビーフシチューの良い香りと湯気が広がる。シチューとは名ばかりと言えそうな大振りの塊肉と根菜がゴロリと器一杯にひしめいている。その隣には軽く炙ったバゲットと、上にチーズを乗せて焼いた丸いパンが添えられている、どちらのパンも手に取るとまだ温かい。別の容器の中には、色の濃い葉野菜の上にトマトとタマネギのマリネがたっぷりと掛かっている。
モノはあまり表情を動かさずに、スプーンで崩さないままシチューの中の大きな人参をバクリと口の中に入れた。さすがに熱かったようで、口に入れてからハフハフと何度か息を吐いていた。
ちょうど机に向かって座っていると、ベッドに腰掛けているオルトからはモノは背を向けている形になるが、その少しだけ丸めた背中をオルトは微笑ましい気持ちで見守っていた。最初はモノは届けてもらうだけ十分だと言っていたが、それなりに付き合いの長いオルトは置いて行っただけでは殆どモノは口にしないだろうと察して、そのまま部屋に居座って食べ終わるまで見守ることにしていた。オルトは帰ってから家で食べるので、モノが食べ終わらないとオルトの食事が遅くなる一方だ。モノの方もオルトがこう言い出すと絶対に譲らないのを分かっているので、彼を早く帰すには自分が素直に食事を食べ終えるのが最も早いと理解していた為、今は持って来てもらった食事をすぐに食べることにしていた。
「ご馳走さまでした」
ものの10分程度で完食したモノが、全て空になった容器を重ねて手提げの中に入れて行く。基本的に騎士は早食いの者が多い。モノも例外ではなかった。
「よろしくお願いします」
「おう。今日もしっかり食べたな。偉いぞ」
「…子供じゃありませんよ」
空になった容器はオルトが捨てる為に回収することになっている。持って来た時と違ってすっかり軽くなった手提げを受け取って、オルトは軽くモノの腕をポン、と叩いた。その様子に、少しだけモノが苦笑した。オルトからするとモノは自分の息子でもおかしくない感覚なのだが、この国で生まれ育っているモノからすれば兄くらいの年の差なので時折その感覚の差に戸惑うようだ。
「何か必要なものはあるか?」
「そうですね…先日持って来てもらった本は読み終えてしまったので、何か新しいのがあれば」
「分かった。またベルに選んでもらうか」
「…ベルさん、ですか」
「好みがあれば伝えとくぞ」
「…いえ、お任せします」
自室で筋トレをしているとは言っても時間が余るだろうと、妻のベルからオルトは何冊かの小説を持たされてモノに差し入れていた。彼女曰く「全然違うジャンルを読むと気が紛れるから!」と、主に女性に人気のあるロマンス小説なるものを渡されたのだ。気が滅入らないように、ちゃんと最後はめでたしめでたし、で終わるものばかりを選んだと得意顔で言われた。オルトはそもそも読書自体を好まないので良さはイマイチ分からないが、取り敢えずドヤ顔をしている妻が可愛かったのでそのままモノの差し入れにしたのだった。渡されたモノは大分怪訝な顔をしていたが、時間が余ったのか根が真面目なので読まないと悪いと思ったのか、一応きちんと読了したようだ。
「じゃあまた見繕ってもらって来る。しっかり休めよ」
「ありがとうございました。おやすみなさい」
「ああ、お休み」
扉の脇の棚に置かれているランドリーバッグもオルトはヒョイ、と担いで部屋を後にした。使ったタオルや服などを入れて、洗濯係が各部屋から回収することになっているのだが、別に自分から洗濯室に持ち込んでも構わない。洗濯が終われば綺麗になった衣類を再び入れて、バッグに記された部屋番号に従ってドアノブに掛けて返されるのだ。今のモノは外から施錠されているので、回収の為にはオルトか副団長を呼ばなければならない。その手間もあるので、オルトはなるべく外に出さなければならない物は来たついでに回収していた。
「オルト」
オルトは洗濯室から出て来たところを、ちょうど向こうからやって来ていた副団長ルードルフに声を掛けられた。副団長が寮内に来ることは滅多にないので、今何か用事があるとしたらモノの件だろうとオルトはすぐに思い当たる。
「副団長。モノは今夕食を食べ終えたばかりです。部屋に向かわれるのでしたら私も同行しますが…」
「いや、いいよ。君のおかげできちんと食事も摂れているようだしね」
見るからに軽そうな食堂の持ち帰り用の手提げにチラリと目をやって、ルードルフはきちんと状況を把握したようだった。それから彼は懐から一通の封筒を取り出すと、それをオルトに差し出して来た。良くある白い封筒に、上に向けられて示された封蝋の紋様には見覚えがあった。そしてその封は切られて口が開いている。
「トーリェ家当主からの手紙だ。謹慎中の団員への手紙と言うことで規定通り検閲させてもらっているよ」
「はい」
「君も教育係だから、一応目を通すことを許可しよう。彼の再教育に悪影響があると判断すれば、処分は任せる」
「お預かりします」
オルトはルードルフから封筒を受け取ると、丁寧にポケットにしまった。モノの姉であり現当主の手紙は、中を読まなくても見せる価値はないとオルトは判断する。一応確認はするが、きっと自分本位で腹の立つ内容しか書かれていないだろう。
ルードルフはそれだけを渡すと、来た方向へと引き返して行った。
オルトは、これを読んだ後に妻と顔を合わせるとすぐに腹を立てているのが筒抜けになりそうだし、その内容を知れば妻もオルト以上に激昂するだろう。かと言って、いつまでも読まない訳にはいかない。この手紙をどのタイミングで読むべきか、オルトは頭を悩ませるのだった。