151.【過去編】やがて君に出会う日まで
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今回の過去編はこれで終了です。
次回から通常の時間軸に戻ります。
ユリは、レイの協力によって約半年程の時間を掛けて、魂に大きな傷を付ける程の過去の記憶を慎重に探りながら、少しずつレンザとの魂を結びつける魔法契約を施して行った。本来ならば「魂の婚姻」はそこまで難しいものではない。しかしユリの場合強引に掛けられた誓約魔法や、魔力暴発もあるので、刺激を与えないように最大限の安全を考慮されながら進められた。
そしてユリの魂を守る為に、最も辛い記憶を数十秒だけ抜き取るのに一番効果的な記憶を判別する必要があった。そこで本来なら禁呪とされている記憶の共有魔法を行使して、レンザとレイはユリの記憶を覗き見ていた。魔法に長けたレイでも全てを鮮明に見ることは出来ないので、レンザが再調査をしてある程度の目星を付けた日時に彼女の過去を探ることにした。
その記憶の中で、やはり予想通りユリに取って最も魂を大きく傷付けることになった記憶は、両親が亡くなった馬車の事故の直後のものだった。おそらくそれが切っ掛けで、彼女は「死に戻り」、感情の揺らぎで魔力暴発を起こす程の魂の傷を負ったのだ。
その記憶を見せられたレンザは、その後しばらくは口も利けないまま深い溜息を吐いて椅子の上に崩れ落ちていた。長寿でレンザの何倍も人生経験を過ごしているレイも、さすがに言葉を失った様子でレンザに掛ける声もなかった。
「お嬢様の記憶は、あの父親の言葉でよろしいですね?」
「……お願いします」
長い沈黙の後、レイがレンザに協力出来るギリギリの時間まで待って、ようやく立ち上がって確認した。レンザは酷く昏い目をしていたが、掠れた声で了承を告げた。
ユリにとっては父親の最期の言葉だろうが、あれを記憶に残しておいては悪い影響しか与えないだろう。レンザですら、あの呪いのような言葉は、我が息子ながら人としての何かを踏み外したとしか思えなかった。
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ユリの中の一番古い記憶は、事故の直前の馬車の中からようやく始まっていて、粗末な籠に入れられてその中から眺めていた幸せそうにしている二人の姿だった。記憶の共有なので、全ては不明瞭なユリの視点で進む。二人は膝が触れる程に小さな馬車の中で額を付けるようにして、微笑み合っていた。白い髪の女性の方は少し腹がせり出していて、その上を二人分の手が優しく撫でている。その楽し気な様子の二人は、こちらに視線を一度も向けないままだ。先程から見えるのは二人の横顔だけ。まるでこちらの存在が最初からなかったようだ。
突然馬車が大きく跳ねたかと思うとひっくり返り、扉が開いて土砂が流れ込んで来た。しばらくは暗くよく分からない光景が続いたが、やがて揺れが治まると横転した馬車の壁に激しい雨が叩き付けるのが聞こえて来た。そして暗い中目が慣れて来ると、外に白い髪の女性が背を向けて倒れているのが見えた。雨と土にまみれてずぶ濡れになっているが、ピクリとも動く気配がない。
そのうち、馬車の中で何か黒っぽい影が蠢くのが分かった。それは荒い息を吐きながら、ジリジリとにじり寄って来る。逃げることも出来ないままそれを見上げていると、何か酷く生暖かいものが身体に触れた。そして半分声にならないような掠れ声が囁いた。しかしまるでその声は耳元で叫んでいるような、耳が痛くなるようなものだった。
『お前のせいで僕たちが不幸になった!お前が償って傷を請け負って、僕ら家族の役に立て!!』
その声と同時に、ジワリと触れられたところが熱を帯びる。その熱は粘着感を伴っていて、まるで身体の中に入り込むような気色悪さに、全身寒気が走った。記憶共有は、感覚的なものまでは伝わらない筈なのだが、それを覗き見ていたレンザにもその感覚が伝わって来た。
「これは…禁呪、ですね」
いつも冷静な態度を崩さないレイも、少しだけ声に焦りの色が混じる。今はユリの記憶を共有しているので、お互いの顔を見ることは出来ない。しかし共有の為に繋いだ手の感覚が、レンザには少しだけ汗が滲んでいるように感じていた。
「まさか…あいつは魔力が弱いことを理由にろくに学ばなかったので、初期魔法程度しか…」
「ひょっとしたら、『魂の婚姻』を強引に行使しようとしている…?」
本来の「魂の婚姻」は、互いの伴侶と契約魔法で魂を繋いで、受けた傷や痛みなどを分けあって助け合い、支えあうことが目的で結ばれる古の神聖な婚姻の儀式とされていた筈だ。魔力の高い者なら一方的に強引に契約を結ぶことも不可能ではないが、魂を直接繋ぐものなので片方が酷く拒絶をした場合、双方の魂が傷付く可能性が高い。その為、お互いが納得の上で結ばなければ危険が伴うと広く知られている。
「バカな…!?『魂の婚姻』は相手は一人のみと決められている筈だ…王族でも側妃や愛妾がいても…あいつは…既にマーガレット嬢と…」
彼らがお互いの婚約者を裏切ってまで「真実の愛」を貫いたことを大公家も侯爵家も覆せなかったのは、人前で「魂の婚姻」の儀式を行ってしまったからだった。それが滞りなく結ばれたことで、お互い本心で望んでいるのだと知らしめてしまった以上、他の婚約者をあてがう訳にはいかなかったのだ。学園の成績は二人ともふるわなかったが、そういった自分に都合の良いものに対しては頭が回る。絶対に別れさせられない手段を不意打ちで実行して、まんまと両家を出し抜いたのだ。
「そのことを知らなかったか、似たような禁呪で傷を相手に移す契約魔法を実行しようとしたか…どちらにせよお嬢様は本能的に拒否した為に実行はされなかった」
いくら特殊魔力でろくに育てることもしなかったとはいえ、自分と身重の妻が助かる為にその傷を幼い我が子に負わせようとするとは、レンザも言葉を失った。勉強も魔法も学びたがらず、頼りなく流されやすいところがあるとは思っていたが、大公家の後継として教育していた頃はここまで自分本位ではなかった筈だ。あまりにも全てを自分の都合の良い方に解釈をする妻に感化されたのか、平民よりは十分な資産は融通していたがそれでも落ちぶれたと卑屈になってしまったのか、たった三年程度でここまで人としての何かを失ってしまうとは思わなかった。
おそらくユリも浅くない怪我を負って、意識を保つのが難しくなったのだろう。もう正気とは思えない程の醜悪に顔を歪める父親の顔と、何か叫んでいるような口の動きを最後に、記憶はそのまま途切れた。
レンザが命じて改めて集めた調査書に書かれていたのは、大破した馬車の外で倒れていたマーガレットは、放り出された勢いで首の骨を折ったらしく、即死していたということだった。当然、腹の中にいた産み月には程遠かった子供も助からなかった。そして馬車の中は土砂が流れ込み、そこに半ば埋まるように父親が事切れていた。そしてその傍らには、籠が逆さまに覆い被さるようになって生き埋めを免れていた白い髪の赤子がぐったりとしていたのが発見された。警邏隊が助け出した時には赤子は瀕死に近かったが、その場に同行していた神官の治癒魔法によって一命を取り留めた。現場検証の調査書によると、父親らしき人物は腕を籠に乗せるように息絶えていたので、最後の力を振り絞って子供を助けようとしたのだろうと思われた。
だが調査書に反して残酷なことに、ユリの記憶の中の父親はどこまでも自分本位で勝手な男だった。
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「この父親の言葉と…魔法を行使した部分の半分程度なら、どうにか抜き取れるでしょう」
「どうか、よろしくお願いします」
「閣下はよろしいのですか?彼女の記憶は閣下が受け継ぎます。自分のものではない記憶は、忘れることは出来ません」
「それで構いません。せめて息子の責は私が負わなくては」
「分かりました」
レイの協力もあって、意識のないユリの反発は殆どないまま、こうしてレンザは「魂の婚姻」を果たした。
本当ならば、片方に知らせない契約魔法は違法であるし、ましてや「魂の婚姻」は近しい身内には禁忌のものだ。しかしそうでもしなければユリは目覚めることも出来ないまま眠り続け、死ぬことはなくても傷を癒すことも出来ない。これから時間を掛けてたくさんの幸福な体験で魂の傷を埋めて、いつかレンザと魂を共有しなくても生きて行けるようになれば、何も告げずに契約は解除するつもりだ。
それまでレンザはユリを守り、彼女が幸せになる道を整えなければならないのだ。それが自分の罪の償いでもある。
それに、このまま目覚めたユリの魔力量を全て費やした暴発を引き起こせば、少なくとも王都が焼け野原になりかねない。
「念の為、お嬢様の目覚めはゆっくりと行って参りましょう。こちらで集中的な治療が出来たおかげか、体内の毒はほぼ抜けているようですし、閣下自身も準備がございますでしょう」
「あ、ああ。そうですね…」
最初に神殿に運び込まれた時よりも、身体に巻き付いていた誓約魔法は半分以下になっている。まだ残してあるのは、彼女の魂を繋ぎ止めるのに必要な分だ。これも目覚めて状況が変われば減らせるだろう。
レンザはまだ眠ったままのユリの顔を眺めて、どうしたら彼女が幸せになれる環境を整えられるか、とそればかりを考えていた。これまで放置していた分、望むだけのものを与えて、世界の全てから守ってやりたいと思う。
「閣下、あくまでも祖父と孫、というのはお忘れなきように」
「重々承知しています」
ずっと食い入るようにユリを眺めていたレンザに、レイは釘を刺すように言った。今はまだ魂を繋いだばかりなので、色々と気持ちが追いついていないのはよくあることだ。
レイは懐に入れておいた伝書鳥を数枚、レンザに手渡した。これは相手と直接手紙のやり取りが出来る魔道具だ。能力の高い神官長に繋ぎを取りたいと思う者はいくらでもいる。が、神殿は権力からは離れていなければならないので、こうして個人で連絡手段を貰えるというのは、いくら権力と資産を持っていてもどうにもならないものの一つだ。
「もし、何かありましたらこれで連絡をください。必ず私が対処します」
「感謝します。…しかし、神官長は何故ここまで私達のことを…?」
「…昔のことです。遙かはるか昔、私の身内に獣人がいましてね。当時としても珍しい程に先祖帰りした者でした」
ふとレイは遠くを見つめるような目をしたが、冬の氷結と言われる冷たい色をした薄青の目に、不思議と温かさが浮かんだ。ほんの僅かではあるが口角も上がり、その相手は余程彼にとって大切な存在だったのだろうとすぐに分かった。
この世界がまだ混沌としていた頃、獣人だけが住んでいる場所があった。
普通の人間にはとてもではないが到達出来ないような場所にいて、ずっと狭い世界のみで、その血を守って暮らして来た。しかし、長い年月にはその環境故に血も濃くなって、少しずつ数を減らしていたのだ。その為、獣人達の一部は土地を出て、人間や他の種族とも交流を持ち血を薄めることで再び数を増やして行くことを決めたのだった。逆に血を薄めることを良しとしない獣人達はその土地に残ったが、ある時期を境に一切の消息が分からなくなった。血を重視し過ぎた結果、子孫を残すことが困難になって滅びたのだろうという説が濃厚とされている。
時折、獣人達と他の種族の間で大小の諍いが起こり歴史に刻まれたが、今では獣人が中心の国を作り、国交を開いて積極的に他国との交流を行っている。血を守ることよりも血を継続させることを優先とした系譜の一族なので、他国との関わりを重視しているのだ。その為、長い歴史の中でここ数百年の間に獣人の血は急速に薄まり、外見だけではどの種族か分からない者も増えている。
「彼女は強い本能と能力を持ち、人の世界で生きるにはあまりにも困難でした。私と友人は、彼女を救う為にいろいろと手を尽くしたものです。私は聖魔法を極めて傷付いた彼女を癒し、友人は自らの魂の半分を彼女に差し出し、少しでも本能を抑えるように交換をしました」
「それはまるで『魂の婚姻』ですね」
「原初の婚姻の儀式にあたる行為ですので、『魂の婚姻』もそこから派生したものでしょう。今の状況と少し似ていると思いませんか?」
「確かに…」
「ですからつい肩入れしてしまいました。他の方には内緒ですよ?」
「……ありがとうございます」
レイの言う「身内」とは、どこまで近しい者かは分からない。それに、獣人の血を引いていたとしても、正確な年齢を知る者がいないくらい長命なレイと同じ体質とは限らないだろう。レイの様子からすると、もうその身内も友人もとうに神の国に行って久しいのかもしれない。
レンザはそれ以上は訊かず、静かに礼だけを述べた。
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アスクレティ大公家の本邸には、広大な庭園の中に研究用の薬草園が存在している。そこで様々な土地の薬草を栽培し、土壌や水の違いで薬効成分がどのように変化するかを主に研究していた。他にも、既存の薬の薬効を上げる効率的な調薬や、これまでにない組み合わせで新たな薬を作り出すことなど、薬草、薬品関係は古くから得意分野として来た。
薬草はあまり派手な花を咲かせる種類は少なく、その大半が地味な小花か、葉ばかりのものだ。
その緑色の草の中に、真っ白な人影がフワフワと漂うように移動している。その少し後ろには、メイドと護衛騎士が控えていた。
「あちらは、妖精姫ですかな?」
「妖精ではありませんが、可愛らしい私の姫君ですよ」
「これはこれは」
レンザは、同じように薬草の研究をしている家門の当主と、薬草園の入口でそんな会話をしていた。
最近、何かと理由を付けてはこの大公家の薬草園に直接足を運びたがる人間が増えていた。その理由は見え透いているのだが、ここに立ち入ることを許されている人間は、長年大公家とともに国内の薬や病について研究をして来た者達であるので無碍にすることは出来ない。それに「先日植えた薬草の生育具合を見たい」「研究の為に自分の目で確認してサンプルを採取したい」などと言われてしまうとレンザも薬草園を案内するしかない。
彼らの目当ては、最近薬草園に行くと散策している最中の大公家の唯一の直系で、後継者候補と言われている大公女を見ることが出来るからだった。遠い場所で、レンザもわざわざ挨拶をさせる為に呼び寄せることもしないので、彼女の姿は遠目からしか分からない。
日に透ける真っ白な長い髪に、湖水を思わせる澄んだ青い瞳。身体は小さく華奢で子供のようだが、憂いを含んだような表情は美しく、ドキリとさせるような色香を漂わせている。ただ何にも興味がなさそうな様子で、目的もなくフワフワと散策している姿は、現実から隔離されたような印象を受ける。
この国では忌避される死に戻りの色であるのに、この世のものとは思えないような光景に一瞬誰もが我を忘れて見入ってしまっていた。
「先日植えた薬草はあちらのエリアです」
大抵彼女と遭遇する幸運に恵まれた者は見惚れて立ち尽くすので、そのまま少々不機嫌そうに声の低くなったレンザに促されて、護衛に追い立てられるように別の薬草園へと早足で移動させられるまでがセットだった。
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離れたところにいたユリは、遠くから自分の方を見ている視線を感じてはいたが、特に興味もなかったのでただ薬草園を渡る風を頬に感じながら、ゆっくりと歩いていた。
「お嬢様、そろそろお戻りになりませんか?」
少し雲が散って来たのか、陽射しが直に当たるようになって来た。彼女の背後で控えているミリーは心配になって声を掛ける。深窓のお嬢様であるので日焼けが大敵であるし、それ以上に日の光をそのまま通してしまう白い髪に直射日光は頭皮に圧倒的害悪だ。
「あっちに行くわ」
ユリはミリーの言葉を聞いているのかいないのか分からない反応で、フワリと薬草園の奥に足を向けた。行く先は背の高い木に覆われた林のような場所なので、ミリーも反対し切れずに後ろをついて行く。
ユリが大公家に来てから二ヶ月が過ぎようとしていた。ミリーには詳細は知らされていないが、治療やリハビリなどでそれなりに時間がかかり、辛うじて人の手を借りながらも生活出来るようになったとして大公家本邸にやって来たのだ。初めてユリと顔を合わせたミリーは、聞いていた年齢よりも遥かに幼く見えたことと、そして全体的に生気のないことに少々驚いていた。整った顔立ちと、真っ白な髪は作り物のようで、表情を変えることも喋ることも稀だった為、人形めいているように感じられた。
彼女は何か主張する訳でもわがままを言うでもなく、ただされるがままに世話をされ、ぼんやりとしていることが多かった。時折家令やメイド長などが本を渡していたが、受け取った当初はパラパラと捲っていても、気が付くとすぐにテーブルの上に置かれていた。一応確認すると「そのまましまって」と答えが返って来るので、他の使用人達も本棚に戻すだけだった。その後、少なくともミリーは一度本棚に戻された本をユリが取り出すのを見たことがなかった。
日長一日ぼんやりしているのも良くないかと、刺繍などを勧めてもみたが、さして興味はなさそうだった。道具を渡されれば拒否はしないが、ほんの少しだけハンカチに小さな花の刺繍をするくらいで、一時間程度で仕上げてその場に置かれているのだ。そのハンカチは全てレンザが回収して大切に保管しているので無駄にはならないのだが。
ミリーはメイド長から、彼女は長らく蔑ろにされて放置されて来たので、令嬢として一通りのことは出来るがあまり自分からやろうとしないということは聞いていた。そしてあまり焦らずにゆっくりと彼女のしたいことに付き合うように、と言われていた。
ユリが足を止めたのは、薬草園の一角で管理している珍しい水棲植物を育てている人工池だった。三つある池の中で一カ所だけ花の時期なのか、美しい薄紅色の花が池の上を埋め尽くすように咲いていた。
ユリは、その花に吸い込まれるように池の側に近付く。念の為池には人が入り込まないように結界が張られているので彼女が落ちるようなことはないが、分かっていてもミリーはギョッとして彼女の行く手を塞ぐように立つ。
「お、お嬢様!?」
「レンカ…あの方みたい…」
ユリはミリーのことなど目に入っていないように、ジッと薄紅色の花に見入った。
水中から真っ直ぐ上に茎を伸ばし子供の頭程に大きく、花弁が幾重にも重なった薄紅色の花は、池の上一面に咲き乱れていた。僅かな風に揺られる様は、下が池とは思えない幻想的な光景だった。
「とても、綺麗ね」
その視線は花に向けられたままだったが、ミリーは初めてユリが綻ぶように微笑むのを見た。
その微笑みを見たミリーは、マリアが護ろうとずっと寄り添い命懸けで救おうとした理由が少しだけ分かるような気がしたのだった。
割と初期の頃から考えていたユリとレンドルフの出会いの話が出せました。ちょいちょい混ぜてた伏線がロングパス状態になりましたが、ひとまず回収出来ました。
ユリは、成長したレンドルフの全体より先に顔を近くで見たため、あまり変わってなかった顔とそのままにしていた目の色で出会い頭から薄々気付いていました。名前も「レン」と捻りはないし、騎士様と呼んで否定はしないしでバレバレでした(笑)次に会った時には髪色も自分でバラしましたし。
調べようと思えば大公家の力でレンドルフのことももっと知れたのですが、情報を集めた時点でまだ隣国王女との婚約の打診が続いていたので、ユリはそれ以降のレンドルフに関する情報はシャットアウトしていました。血筋も身分もレンドルフは問題ないのですが、色々あって自己評価底辺なユリはレンドルフに相応しいとは思えず、それでも人伝に王女との婚約を聞くくらいならば全部なかったことにしてしまおうと思っていた為でした。
レンドルフがユリに気付かないのは、髪と目の色が違うので印象が違い過ぎるのと、出会った時のユリがあまりにも成長が遅かったので実年齢よりも五歳くらい下に見積もっていたからです。なので、彼の中ではあのときの令嬢は、まだ学園に通っている未成年だと思っています。
この後からユリは次第に人間らしい感覚を取り戻して行きます。レンザと魂が繋がっている影響なのか元からなのか、書物は一度目を通しただけで記憶出来る能力を発現して、遅れていた勉学も取り戻しています。薬草や薬学に興味を持ち、薬師を目指してみたいとレンザに申し出て、ミスキ達と引き合わされることになります。(50.【過去編】死に戻りの色)
以前にユリがミュジカ科の薬を使われかけてレンザが過保護な程心配したのは、完全に解毒しているとは言え、一度数年に渡り洗脳に使用されていた為に、再度使われて拒絶反応を起こした場合死ぬ可能性も高かった為です。