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79.新たな約束

閑話、番外編も含めるとトータル100話目です。

少しずつ読んでいただいている方も増えていてありがたい限り。


この作品はゆっくりと書きたいものを書いて行くスタイルです。今後もゆるっとした気持ちでお付き合いいただけたら嬉しいです。


無事に山鳥も焼き上がり、その間にユリが準備した細切り人参とハムのサラダと、干しコメとイトゥーラ鱒のスープ、そしてレンドルフがあまりにも気に入った様子だったので、急遽イトゥーラ鱒のクリームドレッシング和えのオープンサンドを追加で添えた。バゲットの量が多くなかったので、サンドにはしなかったが味は同じなので問題はないだろう。


「「いただきます」」


ユリは真っ先に山鳥の塩焼きにかぶりついた。パリパリに焼けた皮の下のジューシーで甘みのある脂と、弾力のある旨味の濃い肉に思わず声が出る。


「んー!レンさんの作る塩焼きの焼き加減と塩加減サイコー!」

「ただ焼いただけだよ」

「いやいや、こういうのは不思議と人によって差が出るの。私の塩焼きとは全然違う」


レンドルフはどれにしようか一瞬迷ったようだったが、やはり珍しさからスープに手が伸びた。


コメが水分を吸って口の中に入れただけでホロリと崩れてしまうが、干し魚の出汁とイトゥーラ鱒の旨味をたっぷりと含んでいる。後から入れたネギは余熱で半煮えになっているので、シャキシャキとした歯応えを残しているので食べ応えもある。そしてイトゥーラ鱒の香ばしさと塩気がスープに溶け出して、塩気が強い身が程良い味に変化していた。スープと一緒に魚の身を食べると、ふっくらした身からまだまだ旨味が滲み出して来て、幾らでも食べられてしまいそうだった。レンドルフはつい他のメニューに手を出す前にスープの器を一気に空にしてしまった。手にした器が空になっているのに、まだホカホカと温かさが残っている程勢い良く食べてしまったのだ。それほど夢中になっていたことに我に返って顔を上げると、ユリが笑いながら「おかわり沢山あるから」と手を伸ばしていた。

レンドルフは熱いスープを飲んだ影響だけではなさそうな赤い顔をしながら、そっと器を差し出したのだった。



----------------------------------------------------------------------------------



「あ、ワイン持って来てたのすっかり忘れてた。お腹空いてたからつい」


レンドルフがおかわりしたスープを半分程食べて、やっとイトゥーラ鱒のオープンサンドに手が伸びた頃、ユリが思い出したように声を上げた。そして魔道具の中からワインの瓶と、別に鞄の中から一抱えありそうな箱を取り出した。それは美しいベルベットのような素材が貼られた箱で、蓋の金具の彫金も芸術品のように繊細な細工が施してある。その箱を開けると、ペアのワイングラスが入っていた。息を呑む程美しい曲線と薄さから、詳しくないレンドルフでも一目でレベルの違いが分かる


「ユリさん、これ…」

「私のひいおじい様が、新しい薬の開発に成功した時にいただいた勲章と一緒にもらったものなんですって。でもおじい様はお酒を嗜まないから、私にくれたの」

「それってすごいものじゃ…」

「そうみたいだけど、家でもちょっとしたお祝いの時とかに割と使ってるよ。レンさんのお祝いしたいし、持って来ちゃった」


蓋の端に掠れていたが紋章が刻まれていて、それはどう見ても王家のものなので、レンドルフは思わず二度見してしまった。もはやこれは気軽に「持って来ちゃった」と言っていいレベルではないような気がする。


「これ、すごい色んな付与が掛かってるから、割と丈夫だし。私、前に何度も落としちゃったけど傷一つ付いてないでしょ」

「いや…それでも畏れ多いと言うか…」

「これは飲む為に使うものだから。このグラスに飲み物を入れるとね、少し経つとその入れた飲み物の最適な温度にしてくれる付与が掛かってるんだよ。だから使わなくちゃ」


戸惑うレンドルフに、ユリは本当に普段使いしているのか気軽にグラスを手渡して来る。


「あ、 栓を開けるのは俺が」

「お願い」


ワインの瓶を渡されて、オープナーを使ってレンドルフは軽々とコルクを抜いた。全く力を入れてないような仕草を見ていると、そのコルクは栓の役割を果たしていたのか疑いたくなる程だった。


「さすが、簡単に開けるね」

「でもちょっとこういうのは緊張する」

「緊張?」

「うっかりこの細い部分折ったりするから」

「普通うっかりでもないよね!?」


父も兄も、酔った勢いで力を制御出来なくなってたまに折っていたこともあって、父の古い友人の伯爵に「ひょっとしてそれはクロヴァス家の伝統の作法なのか?」と真顔で聞かれたことがあった。


「そうだ、注ぐのはもう少し待ってて」


レンドルフは立ち上がって少し慣れたところに置いていた自分の荷物の中から、手提げ袋を取り出した。そしてそれをユリに手渡す。


「これは俺からユリさんへのお礼」

「お礼?」

「俺が冒険者登録するのを勧めてくれたのも、色んな縁を繋いでくれたのもユリさんだから、感謝を込めて」

「私、は…そんな大したことはしてないのに」

「きっとユリさんに勧められなかったら、登録しようとか討伐に参加しようとか、全く思いもしなかった。ただずっと一人で鍛錬をするだけで毎日を過ごして、笑いもしない日々を送ってたかもしれない。こんなに楽しい毎日があることを教えてくれたユリさんには、伝え切れないくらい感謝してる。本当はこれじゃ足りないくらいだ」


レンドルフのヘーゼル色の瞳が、いつも以上に柔らかな優しい色を帯びてユリを真っ直ぐに見つめていた。そこには本当に心からの感謝の思いが浮かんでいる。


「その…ありがとう。開けてもいい、かな?」

「勿論。気に入ってもらえるといいけど」


濃い紺色の包装紙に、金色のリボンが掛かっている包みを手に取ると、すこし重たく、斜めにすると中身がタプリと揺れる感覚が伝わって来る。細長い形の箱と、その感覚から何となく中身を察する。ユリが丁寧に包装を解くと、中から見覚えのある流線型の薄青の瓶が現れた。


「これ…この前の」

「ユリさん気に入ってたみたいだから。あの時は確認しなかったけど銘が『雪夜の月』って言うんだって」


先日レンドルフが冒険者正式登録とランク取得の推薦状を書いてくれたステノスへの礼と、レンドルフへのお祝いの蜜ワインを買いに行った際に試飲させてもらったものだった。確かにあの時はユリは美味しいと思って飲んでいたのだが、そんなにも顔に出ていたのかと思うと少々気恥ずかしくなった。

そしてまだ手提げに重みを感じるので覗き込むと、布の巾着袋が底に残っていた。それを取り出すと、手に乗せた瞬間に手の平に流れて来た魔力ですぐに何だか分かった。それでもそっと袋の口を開いて中を見ると、先日ユリが買い取った土属性の魔石が入っていた。黄水晶(シトリン)に似た色味で透明度の高い上質な魔石の中には、レンドルフの魔力でいっぱいに満たされている。軽く直接指で触れると、まるで彼の人柄を表わすように優しい魔力が感じられた。


「すごい…上限いっぱいになるまで魔力を入れてくれたんだ」

「ちょっと時間がかかったけど、最終日に間に合って良かったよ」

「ありがとう。大切にするね」

「どんどん使ってくれていいんだよ。空になったら、連絡くれれば補充しに行くから」

「迷惑じゃないの?」

「全然。すぐには行けないかもしれないけど、都合を付けて必ず」

「うん。ありがとう」


巾着袋ごと魔石を両手で包み込むように、ユリは胸の前で握りしめる。本来は魔石は温度はない筈なのだが、手の中のそれはフワリと温かいように思えたのだった。



----------------------------------------------------------------------------------



ユリが持参したグラスに、レンドルフは蜜ワイン、ユリには「雪夜の月」を互いに注ぎ合って、そっと縁を触れ合わせるように乾杯を交わした。極限まで薄くされたガラスは、細く繊細な余韻の残る音を立てた。


「葡萄そのものよりももっと甘くてフルーティな感じだ」


レンドルフが注いでもらった蜜ワインの白は淡い琥珀色をしていて、グラスを少し揺するとまるで本当の蜜のとろみがあるかのように内側に軌跡が残る。その名の通り非常に甘いワインで、もしかしたら原料の葡萄の果実よりも甘いのではないだろうか。

グラスに掛けられた付与魔法がこのワインを冷えているのが最適だと判断したらしく、グラスに注いだ分の最後の一口までよく冷えていた。しかしそれなりに酒精は高いようで、喉を通ると冷たさと同時に熱を感じたようになる不思議な体験だった。イトゥーラ鱒のオープンサンドを食べながら楽しむのに適していたようで、塩の利いたほぐし身とタイムの爽やかな香りを楽しんだ後にワインを飲むと甘い味と香りが新鮮に引き立つようで、それから再びオープンサンドを口にすると甘い味の後にキリリとした塩気が心地好く感じる。


「あ、ごめん。こっちのパンの、殆ど俺が食べてる」

「ううん、いいよ。私はこっちの山鳥とスープでお腹いっぱいになりそうだから。食べちゃって」

「じゃあありがたく」


余程気に入ったのか、レンドルフはオープンサンドをほぼ一人で食べてしまっていた。ユリはその様子を見て、次は何を作ろうかと自分の知っているレシピの中で、レンドルフが好みそうなものを頭の中でピックアップしていた。これだけ喜んでもらえるなら作りがいがあるというものだ。


ユリは少しずつ色々なものを摘みながら、ゆっくりと「雪夜の月」を楽しんでいた。華やかな香りを誇りながらも、水のようにスッキリと消え去る潔い後味のおかげで、どの食材にも合うような気がした。グラスが判断した最適温度はやや低め、といった感じで、口に含んですぐは真っ直ぐな印象なのだが、しばらく舌の上で転がすように体温に馴染んで来ると、まるで花が開くように一斉に香りも味も変化するのだ。冷え過ぎても温過ぎてもこの変化を楽しむのは難しいだろう。そんな繊細な温度調節も出来るグラスはまず通常ではお目にかかれない。



「レンさんは、討伐が終わった後の予定とかは決めてるの?」

「特には。あと一ヶ月くらいだし、正直どうしようかと思ってる。まあ新しい配属先への挨拶とか、寮への引っ越しとか考えたら一ヶ月よりは短いんだけど」


今回参加した魔獣討伐で色々と故郷のことを考えることもあったので、帰郷出来ればいいのだが、そうなったら王都へは戻してもらえなくなるかもしれない。王城の騎士団からも、絶対的な強制ではないがあまり王都から離れないようにと言われているのは、レンドルフがどこかの領主に囲い込まれるのを警戒しているからだろう。血筋も良く正騎士の資格を持つ有能な若者を、黙って手放す程王城の騎士団でも人材は豊富ではない。


「えっと…それなら、もうちょっと冒険者生活、延長しない?」

「延長?」

「うん。定期討伐が終わるとミス兄達は別のところに行っちゃうから、薬草採取は一人で行けるところになっちゃうんだけど、もしレンさんが一緒に来てくれたら助かるなあ、って」

「そんなに長い期間は無理だけど、それでいいならどこでも付き合うよ」

「10日…二週間くらい、はどう、かな?」

「大丈夫だと思うよ」

「じゃあ決まりね!おじい様に言ってあの別荘も延長してもらうように頼んでおくね」

「それはいくら何でも申し訳ないよ」


パチリと手を合わせて笑顔になったユリの発言に、レンドルフは少々慌てた。確かにクロヴァス家のタウンハウスよりはエイスの街に出るのは便利であるし、手配してくれた使用人達との仲も良好だ。ただこれまでも破格の扱いをしてもらったのに、更に延長となるとさすがに気が引けた。


「いつもは誰も使ってない場所なんだし、大丈夫!それにウチ…お隣の護衛騎士様との鍛錬も評判いいって聞いてるよ。みんなに口添えしてもらえば…」

「大公家の護衛騎士にそこまで手間は掛けられないって」


結果的に、ユリに押し切られるような形ではあったが、レンドルフはそのまま二週間パナケア子爵の別荘滞在を延長することになったのだった。ただ、その延長分の賃料を支払うことだけはレンドルフは譲らなかったので、ユリは仕方なさそうな顔で了承する。


(この魔石の魔力補充だけで十分過ぎるんだけどな…)


そう内心ユリは思ったものの、さすがにそれは言えない。レンドルフにはどんどん借りが出来ている気がするが、どうやってさり気なく負担に思われないように返したものか、ユリはひっそりと頭を悩ませたのだった。



----------------------------------------------------------------------------------



ゆっくりとグラスを傾けながらこの一ヶ月間の魔獣討伐の話などで盛り上がっていたら、気が付けば互いに持ち寄った瓶が空になっていた。そして空はいつしかオレンジ色に染まっている。


「…そろそろ片付けようか」

「そうね。何だかあっという間だった」

「そうだね。…俺が洗い物するから、ユリさんは酔い覚ましにお茶、淹れてもらえるかな?」

「レンカ茶でいい?」

「是非」


レンドルフが思い出を辿るように山鳥を持って来ていたのと同じく、ユリもレンカ茶を持って来ていた。


「ねえ、レンさん。一つ、お願いしていい?」

「ん?いいよ」


洗い物を一気に水場へ運んでしまおうと、レンドルフが空になった鍋の中に木の皿やカトラリーをまとめていると、ユリがその傍らに立った。小柄なユリでもレンドルフがしゃがみ込んでいれば目線が逆になる。しゃがんだ姿勢でユリを見上げると、彼女の金色の虹彩が光の加減かハッキリと浮かび上がっているように見えた。


「レンさんの、髪色が見たいの」


一瞬、レンドルフは目を瞬かせたが、すぐにその意味を理解する。前にここに来た思い出を互いになぞっているなら、レンドルフが変装の魔道具を停止させて元の髪色に戻すのも同じようになぞりたいのだろう。


「分かった。ちょっと待って」


足首に装着しているので、履いているブーツの紐を少し緩めて指を滑り込ませ、手探りで魔道具を停止させる。指先に微かな魔力を感じていたが、停止させるとそれが止まった。それと同時に普段は意識していない程度に全身に流れている微弱な魔力が止まる。今は髪が短めなのでレンドルフは自分の目で確認することは出来ないが、問題なく元の髪色に戻っているだろう。


「ふふ、やっぱり綺麗」


うっとりした口調で目を細めて微笑むユリに、レンドルフは少しだけ恥ずかしくなって俯いて、鍋の中に皿をまとめる作業を再開する。


「髪に触れてもいい?」

「え…ええと、うん。大丈夫…だと、思う」


思いもよらない申し出に、レンドルフの頭の中はすごい勢いで今日の朝からここまでの行動が駆け巡った。朝の日課の鍛錬をした後に湯浴みをして、エイスの街で買い物をしてギルドに向かい、その後ノルドでこの場所まで来た。そこまでは特に激しく体を動かした訳ではないが、火の側で山鳥の焼き具合を見ていたり、熱いスープを飲んで、更にワインも開けてしまって少し汗ばんだかもしれない。それにもう夕方であるので、もしかしたら髪の毛が色々なことでベタついていたり臭かったらどうしよう…と本当に一瞬でそんなことを思考していた。そしてこんなことなら到着した時に顔を洗うついでに頭から水を被っておけば良かった、とまで思ったが、具体的に拒否する理由が見つからずに、きっと軽く表面的に触れるだけだろうと頷いた。


「わあ、柔らかいのねえ」


ユリは最初は表面を撫でて、それからサラリと大胆に指を絡めるように触れて来た。レンドルフは短い髪なので、ユリの小さな手でも絡められるとすぐに頭に直接触れられてしまう。自分のものとは全く違う細くヒヤリとした感触に、思わず顔が熱くなる。これでは変に汗をかいてしまいそうだと焦るが、その焦りが余計に熱を生んでしまう。どうしたらさり気なくユリと距離を取れるか必死に考えるが、どうにも思考が上滑りしてしまっていた。そうしているうちに、不意にユリがしゃがみ込んだレンドルフの肩に触れそうな程に近くに立った。


「!」


ユリが軽く背伸びをして上半身をレンドルフの方に傾けたので、肩の辺りに柔らかな感触が触れる。ギシリと動きを止めてしまったレンドルフの耳に、ほんの小さなものだが頭上から、チュ、という音が聞こえた。


「ユ…ユリさん…」

「ん?なあに?」

「……酔ってる?」

「酔ってないよ?」


顔を真っ赤にしたレンドルフが、ギリギリと機械仕掛けのからくり人形のようにぎこちない動きでユリに顔を向けると、ユリはちょっと小首を傾げてヘラリと笑った。


(酔った人間の「酔ってない」は絶対信用出来ない…)


寒い地域だけに酒豪も多く、何かにつけて飲みたがる人間の多いクロヴァス領で、その理論を身に染みて分かっているレンドルフは少しだけ落ち着いた。さすがにアルコールに強くても、それなりに酒精の高い酒を一瓶空けているのだ。顔に出ていないだけで十分酔っている可能性は否定出来ない。


「ユリさん、俺、これ洗って来るから、座って待ってて」

「お茶用意しとくよ?」

「いや、俺が戻って来てからで!危ないから!」

「…分かった」


しゃがんだままユリから距離を取ってから鍋を持って立ち上がったレンドルフは、ユリに先程まで座っていた平たい石を指差した。その顔は耳まで赤くなっていて、ユリに話しかけながらも視線は明後日の方を向いている。仕方ない、といった風情でユリが頷くと、そのまま勢い良く水場に向かって大股に去って行ってしまった。途中躓いたのか少々よろめいたが、それでもズンズンと歩いて行ってしまう。


ユリは示された石の上にちょこんと座り込むと、こちらに背を向けてせっせと洗い物をしているレンドルフの背中を眺めた。背を向けているので表情は分からないが、肩越しにちらちら見えている耳はまだ赤いままだった。


「ちょっとやり過ぎちゃったかなあ…」


酔っている訳ではないのだが、少しテンションが上がり過ぎているのは自覚していた。思い切って冒険者生活の延長を申し出たら、あっさりと受け入れてもらえたことが自分が思っている以上に嬉しかったようだ。


(おじい様には、厳重注意受けそうだけど、でも二人でいることは許容してもらえてる訳だし…)


どこにいるかは分からないが、ユリには大公家から諜報員兼護衛の「草」か「根」が数名は付いている筈だ。先程の行動もありのままレンザに報告が行くことは分かっている。しかし、もし問題があると判断されれば偶然を装いさりげなく他の冒険者などとして姿を現すし、それ以上に危険と思われれば直接介入して来るように命じられている。

貴族として、ましてや高位貴族の未婚の男女としては許されることではないが、平民としてならばまだ許される範疇だと思われているのだろうし、それ以上にレンドルフが確実に大公家の信頼を得ている証でもあった。



その後、洗い物が終わりそうなのを見計らって食器を拭こうと布巾片手にユリが水場へ近寄ろうとしたのだが、レンドルフにやんわりと「危ないから」と遠ざけられてしまった。


その時に、ユリはどれだけ自分が酔っぱらいだと思われていたのかと気が付いて、せっせと鍋を拭いているレンドルフの背中を何となく納得行かない顔で見つめていたのだった。



レンドルフもユリも、自分から仕掛けるのは割と大丈夫ですが、不意打ちに仕掛けられると狼狽するタイプです。

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