【短編】幼なじみが自分の事を攻略対象者だと言い出した。
私の幼なじみサフィールは大変な美丈夫だ。煌めく美しい金の髪を長めに伸ばし、見ようによって変わる碧と翠の中間のような澄んだ瞳は見るものをうっとりさせる宝石のようだ。
しかし、彼を見慣れて育ったからか私の好みは野獣のような騎士だ。しかも、ゴリゴリの。
そんな私ローズマリーは今、混乱の極みにある。
彼、サフィールによって。
「私は、乙女ゲームの攻略対象者なんだ。君が私と結婚してくれないと、私はどうやら死んでしまう運命なんだ。」
ひどく真剣だ。乙女?げー何それ?
サフィールは、元来こんなくだらない冗談をいう男ではないのは、よくわかっている。彼はその華やかな見た目から程遠いくらい勤勉で努力家だ。学校でも文武両道で全科目常にトップだった。
「サフィールどういうことか詳しく説明してくれる?」
彼がいうには乙女?ゲーの世界で私は明日から働く王宮でたくさんの男性からプロポーズされるらしい。本当なら、ラッキーとしか言い様のない出来事なんだけど…。裕福な伯爵家であるサフィールの実家と違ってうちは貧乏伯爵家。縁談が来るとは思えない。だから、学業に励み一生働ける難関の王宮上級侍女の座をもぎ取ったのだ。そこで真面目な王宮勤めの人と結婚出来ればなおよし。
サフィールを選ばない場合、サフィールは、私をかばって死んでしまうらしい。サフィールは今まで必死で、未来を変えようと努力を重ねたらしい。本来なら、サフィールは顔が良いだけで、その境遇を僻んで一切努力しないダメ男キャラらしい。未来を変えようと努力し続けた結果が、首席卒業であり、栄えある近衛騎士の内定だったのだ。
そして、自分が王宮に呼び戻されないよう、兄達が死なないようフラグ?を折り続けたと言う。しかし、強制力?には勝てず兄達は次々亡くなって行ったらしい。恐ろしい。
だとしても、死にたくないから、結婚してくれと言われても困ってしまう。
「だったら、庇わなければいいんじゃない?」
「それならローズマリーが死んでしまうんだよ」
私だって死にたくない。荒唐無稽な話に迷ってると。
サフィールはこれから言う事が、明日本当に起きたら、信じて欲しいと言い出した。
明日は王宮から使いがきて、サフィールを王の落とし胤として迎えが来るらしい。
だったら、なおのこと結婚出来ないんですけど。王族と婚姻なんて貧乏伯爵家の娘には荷が重すぎる。
「結局、ローズマリーは私の言ってる事を信じてないんでしょ?だったら、サインしても大丈夫だよね?」
婚姻届を手に迫力ある笑顔を浮かべた押し売りが凄い。サフィールに憧れていた女の子達が見たらひくよ。たぶん。いや、強引にサインするよう迫るサフィールにときめくのか?
生まれて初めて見た必死なサフィールの姿にめんどくさくなった私はついにサインしてしまった。
あとで後悔するなんて思いもよらずに。
迎えに来た使者に婚姻届を見せて自分には配偶者がいると告げたサフィールは、自分が死を逃れたのは配偶者がいたお陰なのだと丸め込んだ。彼女を連れていかなければ、兄王子達のように呪われ死んでしまうかもと。
使者をびびらせる事に成功したサフィールは、見事私を連れて登城したのだった。
⭐⭐⭐⭐⭐
孫達が走り回る小さな庭で素朴な手作りのスコーンと紅茶をいただく。平和だ。
目の前の男が王でなければ…。
「上級侍女になるのが、ローズマリーの夢だったよね。王宮で衣食住の心配なく一生働いて、運が良ければ王宮勤めの真面目な人と結婚して子育てしたいって。」
ラフな服を纏っていても隠せない気品を感じさせるサフィールはスコーンを優雅に食べながら幸せそうに微笑んだ。深く刻まれた笑い皺が月日を感じさせた。
えぇ、今となっては叶わない私のささやかな夢でしたとも。
「叶って良かったね!上級侍女の一番トップまで上り詰めて、さらに王宮勤めのトップで真面目な私と結婚して。子どもや孫まで。幸せだろ、あの時婚姻届にサインして良かっただろう?私は一生このスコーンを食べるのが夢だったから私の夢も叶ったし。」
屈託なくにこにこと笑うその姿に、そう言われれば王と王妃なんて所詮は公僕。王宮に住み込みで働く上級侍女と変わらないと感じるから不思議だ。
私は今日もご機嫌なサフィールに丸め込まれながら生きてる。あの時の荒唐無稽な話が本当か本当でないかなんて、どうでもいいのだ。
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