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61話 栄養剤

 少し留まることとなり、凛はガーネットを置いて小屋を出た。

 ユーリスを探しながら、周りを見て回る。


 ドリアードの村は、どの建物も木を刳り抜いて作られており、畑も多く、植物に溢れた自然豊かな景観をしていた。

 目に優しい光景だが、村のドリアードが凛に向けられる視線は厳しい。

 表向きでは持て成しをしているものの、本音のところは歓迎していなかった。


 凛は若干居心地の悪い視線に耐えながらも歩いていると、畑で野菜の世話をしているユーリスを発見する。


「ユーリスちゃん何やってるの?」

「あ、凛。今ね、野菜のお世話してるの。ここ私の菜園ー」


 ユーリスは自慢するように菜園を見せびらかす。

 彼女だけは、のほほんとしていて、敵意が全く見えなかった。


「へー、いいわね。私も最近、農業始めたから、こういうの結構興味あるわ」

「そうなんだっ。何育ててるの?」


 凛が何気なしに言うと、ユーリスは食い気味に訊いてきた。


「色々よ。トマトやニンジン、ジャガイモにピーマンとか」

「始めたばっかで? 初めは簡単なのからやって、少しづつステップアップして行った方がいいよ。例えば韮や紫蘇とか。その二つは放っておくだけでも育つから、失敗は殆どないんだ。簡単なやつからやっていけば、できなくて諦めちゃうこともないし、成功が励みになって、やる気も出てくるからお勧め」


 ユーリスは饒舌に語る。

 のほほんとしていた、さっきまでの様子とは全然違っていた。


「めっちゃ喋るわね……。農作業好きなの?」

「うん! 植物育てるの全部好き。育ててる時が一番楽しいの」


 ユーリスは満面の笑みで答えた。


(可愛い……)


 眩しいくらいの明るい笑顔を受け、凛は胸がときめく。

 これまでのぼーっとした顔からのギャップが、非常に破壊力が高かった。


「韮と紫蘇だけど、私もちょっと育ててるから、株分けてあげる」

「あ、気持ちは嬉しいけど、今、畑の敷地一杯だから」

「一杯? ……ちゃんと育ってるの?」

「ええ、栄養剤ぶち込んだから、一応順調に育ってるわよ」

「栄養剤入れたからって、そんな簡単に育つようにはならないよ。高級品なら別だけど」

「実は結構いいやつ使ってるのよ。そうだ。ユーリスちゃんの畑にも分けてあげるわ」


 凛はシェルターミラー内から、作り置きしてあった栄養剤のタンクを取り出して、勝手に畑に撒き始める。


「あ、ちょっと……」


 ユーリスが止めようとするが、それよりも先に通り掛かったドリアードが声を上げる。


「貴様、何をやっている! 遂に尻尾を出したな!」


 そのドリアードが激しい剣幕で、凛に掴みかかって来る。


「な、何?」

「畑に毒を巻いて、我々を全滅させようとしたのだろ!」

「ちがっ、これただの栄養剤っ」

「嘘をつくな!」


 揉み合っていると、凛が手を滑らせ、タンクが宙を舞った。

 タンクからは栄養剤が漏れ出し、揉み合っていたドリアードの身体へと浴びせられる。


「きゃああああ、毒がっ! 私はもう駄目だ。みんな、こいつを取り押さえてくれ!」


 すると、悲鳴を聞いたドリアード達が一斉に、凛に向かって走って来る。


「ちょっ、毒じゃないんだって、ほんとにっ」


 大勢のドリアード達によって凛は取り押さえられるが、その時、栄養剤がかかったドリアードが声を上げる。


「ふぉおおおお! 何だこれは?!」

「ど、どうした!? 大丈夫か? すぐに洗浄を……」

「力が漲る……。これ、毒じゃないぞ」


 栄養剤をかけられたドリアードは、溌剌とした顔をしており、肌の艶も良く、見るからに活力が漲っている様子だった。


 毒ではないようだったので、ドリアード達は何だったのかと凛に視線を向ける。


「だから言ってるじゃない。ただの栄養剤だって」

「何処が、ただの栄養剤なんだ。明らかに違うぞ」


 そこでドリアードの一人が、落ちていたタンクに付着していた栄養剤を指ですくって確かめる。


「これは、最高級の栄養剤じゃないか……!」


 ドリアードが驚愕していると、畑の野菜を見ていたユーリスが声を上げる。


「凄い……! みんな凄く元気になってる!」


 畑に撒かれた栄養剤は、もう効果を発揮しており、作物の色艶が凄まじく良くなっていた。


 元気溌剌となったドリアードが凛に問う。


「何故、このような高級なものを?」

「余ってたから、分けてあげようと思って。貴方達もいる?」


 凛が栄養剤のタンクをもう一個取り出して言うと、ドリアード達はきょとんとして顔を見合わせる。


「一体、何が目的なんだ?」

「普通のお裾分けよ。持て成してくれたから、お返しにって」


 凛は少しでも外部の者への嫌悪感を薄れさせようと、友好的な態度を取る。

 しかし、品があまりにも高価だった為、ドリアード達は逆に何か裏があるのではないかと警戒を強める。


「……」

「……」


 硬直したまま、何故か睨み合いみたいな状態となる。



 差し出した栄養剤を受け取ってもらえず、凛はどうしようかと思っていると、突然、入口の方から爆発音が鳴り響いた。

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