6話 生贄
ドンドコ・ドンドコ・ドンドコ・ドンドコ……。
「んん……?」
深夜。
周りの騒がしさから、就寝していた凛は目を覚ました。
「オロロロロ」「アァー! アァー!」
目覚めた凛の目に映った光景は、顔や身体にペイントを施し、おかしな衣装で、踊り狂う村人達の姿であった。
燃え盛る焚火を前に、奇声を上げながら、松明でリンボーダンスなどをしている。
「なんじゃこりゃああああ!!」
自分が丸太に縛り付けられている状態にあることにも気付き、凛は思わず声を上げた。
「おや、目覚めたようですね」
目覚めた凛に声を掛けて来たのは、村長であった。
「一体何なの、これぇ」
「貴方は九尾様への供物です。この村では十年に一度、山神である九尾の狐様に、生贄を捧げているのです。九尾様に食してもらい、身体の一部となれることを誇りに思いなさい」
「騙したの?」
「いいタイミングで村に来てくれました。生贄は重要な役割ですが、我が村は人手が少ないのでね。十年に一人でも痛手なんですよ」
「馬鹿じゃないの。あんなの、ただのモンスターよ」
「無礼者が! 九尾様は村の偉大な守り神であられるぞ。神を愚弄するとは、失礼がないよう口を縫い合わせる必要があるな。おい、裁縫道具を取ってこい」
怒った村長は他の村人に指示を出す。
(……こいつら本気だ)
村人達はモンスターを神と本気で信じており、凛を生贄にする気満々であった。
「ふざけんじゃないわよ! 誰がモンスターの餌になってやるもんですか!」
そう叫ぶと、凛が縛り付けられている丸太の背後から、突然鋭く尖った岩が隆起した。
尖った岩の先が、手足を縛っていた縄を擦り、その縄を引き千切らせる。
拘束が解け、凛は地面に足を着いた。
「痛ぁー! 治療治療っ」
拘束を解く際、誤って腕の皮膚まで切ってしまった凛は、血が流れ出る腕に、慌てて治療魔法を施す。
「こいつ、魔法使いだったのか。くそっ、奴を取り押さえろ!」
村長の命令で、村人達が臨戦態勢を取る。
腕の怪我を治した凛も、すぐに村人達に向かって構えた。
「私を敵に回したことを後悔させてあげるわ」
――――
「「申し訳ございませんでした」」
数分後、凛に向かって、一斉に土下座をする村人達の姿が、そこにあった。
「分かればいいのよ。分かれば」
凛は村人達を前に、腕組みして偉そうに言う。
「もしかして有名な大魔法使いの方ですか?」
「んー? 有名ではないけど、そこらの名の通った冒険者なんかよりは、ずっと強いわよ」
「そんなお方だとは露知らず、大変無礼なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。このお詫びは、村人総出でさせていただきます」
「当然よ」
圧倒的な力で屈服させたことで、村人達は全面的に白旗を上げていた。
お詫びをすることで話がついたが、夜も遅かった為、凛は一先ず小屋に戻って就寝した。
そして翌日。
「ほっほっほ。くるしゅうない」
村の広場の中央に設置された椅子に座る凛。
前には豪華な料理や果実が並んでおり、その周りにいる村人達は、凛を扇いだりマッサージをしていた。
(いい気分だわ。上級国民って、こんな感じなのかしら)
昨日とは比較にならない接待で、まるで女王様となったかのような扱いをされていた。
(けど、長居するのは危険よね。数日後に行商の馬車が来るらしいから、それが来たら、他の町に連れてってもらいましょ)
いい待遇であったが、寝込みを襲われたことや、クレアから聞いた話のこともあって、完全には警戒を解いていなかった。
そこで凛はクレアの姿を、まだ見かけていないことに気付く。
「そういえばクレアちゃんは? まだ起きてきてないの?」
凛が訊くと、村長が答える。
「クレアは生贄に出しました」
「は?」
「凛様を生贄にする計画が取り止めになったので、代わりにクレアを差し出しました」
「何でそんなことしたの!? あれは、ただのモンスターだって言ったじゃないの!」
凛は立ち上がって、村長を問い詰める。
「い、生贄は必要ですので。元々はクレアを生贄にするつもりでしたから、予定通り、事を行っただけです」
力で屈服させても、信仰を変えさせることはできなかった。
「場所は何処? すぐに助けに行かなきゃ」
「いけませんっ。我が村は、九尾様の恩恵を受けることで成り立っているのです。それを邪魔しては……」
凛は乱暴に村長の胸ぐらを掴む。
「いいから案内しなさい」
力づくで脅し、生贄を置いた場所へと案内させることにした。