59話 ドリアードの少女
それから数日経ったある日。
凛はギルドの掲示板前で依頼を眺めていた。
先日は急なランクアップ試験で依頼をやることが出来なかったので、改めて稼ぐ為にやってきていた。
(受けられる依頼は増えたけど、劇的に変わるって訳じゃないわね)
難易度上昇による報酬金は増えてはいたが、ランク的には一番下から一段階上がっただけなので、その幅は大したことなかった。
(けど、ちょっとでも上がっただけマシかしら。せっかくだから出来るだけ割の良いものを……)
凛が割の良い依頼を探していると、近くで同じく掲示板を見ていたガーネットに気付く。
「ガーネットちゃんじゃない。先日ぶりー」
「ん? あら、奇遇ね」
「これから依頼やるの?」
「それ以外で、ここにいる理由ないでしょ。当たり前のこと聞かないで」
「手厳しいわね。何か良さそうな依頼あった?」
「ええ、これやろうと思って」
ガーネットが見せたのは命脈草採取のクエストであった。
命脈草は継続性の治癒効果がある為、継続的に回復ができるリジェネポーションの原料などに使われている。
「森の奥にドリアードの集落があって、そこの近くに結構生えてるらしいの。今、領主の方で高く買い取ってくれるから、見つけられた数によっては、かなり稼げると思うわ」
「へー、いいわね。私も一緒していい?」
凛が同伴をお願いすると、ガーネットは嫌な顔する。
「受託人数の制限はない依頼だけど、貴方のことはライバルと思ってるから、一緒にやるのは御免だわ。勝負なら喜んで引き受けるけど」
「勝負?」
「採取した数で競うのよ。戦いではまだ勝てないけど、探索なら負けないわ。何なら、何か賭けてもいいわよ。負けた方は何でも言うことを聞くとか」
「何でも!? やる! やりましょ! 勝負を」
何でも言うことを聞くという言葉に食いついて、凛は全力で勝負に乗った。
そのあまりの食いつきっぷりに、ガーネットは気圧される。
「そ、そんなにやりたかったの? 相当自信があるようね。でも負けないからっ」
こうして勝負することとなり、二人は共に現地へと向かった。
フェルシアから少し進んだところにあるドリアードの森。
命脈草があるのは奥地であるので、二人は一先ず途中までは一緒に進んでいた。
「ラピスちゃんは、ちょっと別件のお手伝いしててね。次は一緒に連れてくるわ」
「別にいいわよ。そんな仲良い訳じゃないし」
「そう? ラピスちゃんは、助けてくれたから好きって言ってたわよ」
「あ、あの子、馬鹿じゃないの。私は見てて不快だったから止めさせただけよ。大体、やり返さないあの子にも原因があるわ。私、根性なしは嫌いなの」
口では悪く言っているが、ガーネットの顔は照れているようだった。
「そういえば聞きたいことがあるんだけど、ガーネットちゃんはどうして村を出たの? 何かあったんじゃないかって、ラピスちゃんが心配してたわよ」
「別に何もないわ。あんな陰鬱な場所で一生を終えたくなかったから出ただけ」
「あー……そうなんだ。話を聞くに、あんまり良いところじゃなさそうだものね」
ラピスを迫害していたという話を聞いていたので、凛は妙に納得がいった。
「閉鎖的な村なんて、何処もそんなもんよ。この先にあるドリアードの集落も、似たような感じじゃないかしら。街で聴いた話では、人間のことを相当嫌悪してるようだから、あんまり近づき過ぎない方がいいわ」
「残念ね。ちょっと覗いてみようと思ったのに。ん? あれは……」
二人で歩きながら喋っていると、向かう先にカマキリのモンスターが何匹もいるのを発見する。
カマキリのモンスター達は、何かを威嚇するようなポーズを取っていて、その先には一人のドリアードの少女が居た。
「わー」
ドリアードの少女は、のほほんとした顔をしているが、大樹を背に追い詰められ、危機的な状況だった。
「大変!」
ピンチの少女を見つけた凛は、すぐさま駆け出した。
ドリアードの少女を囲っていたカマキリのモンスターは、間合いを詰めると、鎌を振り上げる。
だが、その直後、カマキリのモンスターの身体を無数の小石が貫いた。
蜂の巣にされたカマキリのモンスターは、絶命して倒れる。
走って向かってきた凛は、残りのモンスターに向けても、小石のショットガンを放って倒して行く。
あっという間に殲滅させ、凛は少女の下へと駆け付けた。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよー」
ドリアードの少女は先程までピンチだったとは思えないくらい、のんびりとした口調で答えた。
そこで遅れてガーネットも駆けつけてくる。
「相変わらず凄まじいわね」
一瞬で蜂の巣にされたモンスターの死体を見て、ガーネットは感心する。
「貴方、ドリアードの子? 何でこんなところにいるの?」
「んー? お散歩してたらねー、いつの間にかモンスターがよく出るところに来ちゃってた」
少女は能天気にそう言う。
集落のドリアードは人間嫌いとのことだったが、その子からは微塵もそのようには感じられなかった。
「いや、それ、どうなの? 心配だから村まで送るわ」
「うん」
ドリアードの集落には近づかない方がいいという話だったが、住民が一緒なら大丈夫だろうと、凛達はドリアードの少女を送って行くことにした。




