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57話 マフィアの隠れ家

 停めている馬車までの帰り道を歩く受験者一行。

 その途中で、突然どこからか悲鳴のような声が聴こえて来た。


「む? 何処だ?」


 試験官が足を止めて周りを見回す。

 すると、青年が言う。


「こっちからっス」


 剥き出しの岩山で反響していた為、普通の人には分かり辛かったが、犬系の獣人だった青年には聴き分けが出来ていた。


「行こう。他の冒険者の救助も大切なことだ」


 試験官の判断により、一同は予定を変更して、救助に向かうこととなった。



 青年の案内で、悲鳴が聞こえた方へと移動する。

 現場へと来ると、そこで発見したのは、洞窟前に停まっている一台の馬車であった。

 馬車の近くにはガラの悪そうな男女がおり、荷台から縛られた女性を洞窟へと運んでいるところだった。


 様子が違うと感じた試験官は、すぐさま受験生達に身を隠すよう指示をして、高台から様子を窺う。


「何スかあれ」


 青年が尋ねると、馬車周りの人達を注視していた試験官が口を開く。


「あそこにいる男、見覚えがあるぞ。人身売買で指名手配されてるマフィアのボスだ。先日、スラムでマフィアの拠点が摘発を受けて一斉逮捕されたが、ボス他、一部の構成員は、行方を晦ませて逃れたらしい」


 それは凛には非常に身に覚えのある話だった。


「あれを見るに拠点を移して、まだ人身売買を続けているようだな」

「マフィア……。ど、どうするんスか」

「こういう時は一旦ギルドに戻って報告……するんだが、今回は私が討伐して来よう」


 試験官は高ランクの元冒険者である。

 拉致されている人がいる為、あまり悠長にしている余裕はないと、その場で乗り込むことを決めた。


「ここからは任意での追加試験にする。私が突入するから、協力してくれる人は、包囲して逃がさないようにしてくれ。やってくれた人には試験の結果にプラスして評価しよう。繰り返しになるが、これは任意だ。極力危険は及ばないよう立ち回るが、先程の討伐よりも危なくなる可能性は否めない。覚悟がある人だけ立候補してくれ」


 すると、青年が真っ先に手を上げる。


「俺はやるぜ。さっきはあんまり活躍できなかったからな」

「私もやるわ」


 ガーネットも挙手すると、他の人達も次々と名乗りを上げる。

 先程の試験で合格点にまで達しているか、みんな不安だった為、少しでも合格の可能性を上げる為に、参加表明をしたのだった。


 結局全員が参加することとなり、みんなで全員でマフィア残党の討伐へと取り掛かる。



 馬車近くの岩陰へと移動すると、試験官が最終確認を行う。


「斜面に囲まれているから、裏口でもない限り、ここを塞いでいれば、逃げられないだろう。立ち向かって来る残党がいると思うが、その時は躊躇わず殺害してくれ」


 殺害命令を受け、受験者達の顔が強張る。


「こ、殺すんですか?」

「君達はまだルーキーだから、捕えようとして動かない方がいい。殺すより捕まえる方が、ずっと大変なんだ」

「なら、捕まえられるようなら、捕まえてもいいのよね?」

「いや、どれだけ余裕でも殺害するんだ。これは私からの命令として受け取ってくれ」


 試験官は受験生達が躊躇わないように、命令として殺害を指示する。

 殺害命令を出され、受験者達は戸惑いを隠せなかった。


「厳しいなら、今からでも見学に回っていい」

「いえ……」


 ガーネット達は首を横に振る。

 大なり小なり抵抗があるようだったが、それでも参加を取り消す人はいなかった。


 この国では、指名手配犯や山賊は人権が剥奪され、モンスターと同じ扱いにされている。

 滅多にないことであるが、冒険をしていれば、今回のように遭遇することもあり得るので、冒険者ならば避けては通れない道であった。


 みんな、頭では分かっていたが、同じ人間とのことで、まだ割り切れていない様子。

 その中で、以前、闇組織を襲撃して、そこの構成員を散々殺害したことのあった凛だけは平然としていた。


「では、行ってくる」


 準備が整うと、試験官は岩陰から飛び出す。


「! 何だ、お前は!?」


 真っ先にボスへと急接近して、その身体を剣で貫いた。

 すぐに引き抜き、近くの仲間を斬り伏せる。


 残党達が混乱する中、試験官は素早い動きで倒して行った。




「スゲー……」


 その鮮やかな動きに、青年達は見惚れる。


「見学してる暇はないわよ。こっち来るわ」


 残党の一人が、受験者達の方へと逃げてきた。

 受験者の人達は全員身構える。


「どけええええ!」


 残党の男は狂乱状態で武器を振り上げて、向かって来る。

 受験者達は臨戦態勢を取っているが、その状態のまま、互いの様子を窺うだけで誰も動かない。


「おい、お前ら魔法使いなんだから、さっさと攻撃しろよ」

「私はちょっと……。先に譲るわ」

「いや、俺はまだ出番じゃなさそうだし」


 まだ殺害する覚悟が決まっていなかった。

 押し付け合っているうちに、残党の男は受験者達の目の前にまで来てしまう。


「うぉらあああ!」

「ひっ」


 ガーネットに斧が振り下ろされようとしたその時、残党の男の頭に、大きな土のハンマーが落ちてきた。

 土のハンマーは残党の男の身体を押し潰し、地面を叩く。


 ハンマーの下には血溜まりが出来、凛がそのハンマーを上げると、ぐちゃぐちゃのミンチ肉が現れた。

 他の人達はそれを見て青褪める。


「やらないの? 戦えないなら、危ないから、私が引き受けるわよ」

「……あんた平気なの?」

「ん? 平気も何も、初めてじゃないからね。慣れれば、どうってことないわよ」


 凛はもう完全に慣れてしまっていた。

 相手が一般人なら話は別であったが、悪人なら抵抗は何もない。


「同じランクの癖に経験積んでるのね……。あんたには負けないわ!」


 怖気づいていたガーネットだが、凛に対抗心を燃やして、迷いを打ち払った。

 それに感化されて、周りの人達の目つきも変わる。


「ふふ、じゃあ皆で倒すわよ」


 凛達は一致団結して、逃げてくる残党を迎え撃った。

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