表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/63

50話 人攫い

 二人はミアを探して路地を歩く。


「ミアちゃん、どうか無事でいて……」


 たとえ重傷を負っていたとしても、息さえあれば、凛の回復魔法で助けることが出来る。

 凛達はミアがまだ生きている可能性に賭けて、探すしかなかった。


 だが街は広く、当てもなく探していては、見つかる可能性は低い。

 そこで凛は情報がないかと、道端で座っていた浮浪者に声を掛けた。


「ねぇ、これくらいの浮浪児の女の子見てない? 時間になっても帰ってこないの」

「他人に尋ねるなら、聞き方ってもんがあるだろ」


 浮浪者は指で丸を作り、暗にお金を要求して来た。

 凛が金貨を一枚渡すと、浮浪者が答える。


「見てないな」

「はぁああ!? なら返しなさいよ」

「やなこった。これは答えてやった分の代金だ」


 浮浪者は、してやったという顔で騙し取った金貨を見せつける。


「ふざけんじゃないわよ!」


 冷静に応対する余裕のなかった凛は、怒って浮浪者に向けて手を翳した。

 すると、浮浪者周りの地面が一気に隆起して、尖った土柱が浮浪者を囲む。


「じょ、嬢ちゃん魔法使いだったのか」


 顔を強張らせる浮浪者に、凛は手を出して言う。


「さっさと返しなさい」

「……浮浪児のガキは見てないが、ここの住民で行方知れずになるなら、大抵はマフィア関係だ。マフィアの根城がある奥の方に行けば、何か分かるかもしれない。それで勘弁してくれないか?」


 浮浪者は意地でもお金は返したくないようだった。

 代わりの情報を聞かされた凛は、手を引っ込める。


「まぁいいわ」


 目撃情報ではなかったが、行ってみる価値はあるところだった。

 凛達がすぐに向かおうとすると、浮浪者が言う。


「スラムは奥に行けば行くほど危険な場所だ。命が惜しいなら、行くことはお勧めしない」

「ご忠告どうも」


 凛達は忠告を無視して、スラムの奥へと向かった。




 スラムの奥地。

 街の端に位置するその場所は、いくつもの闇組織の拠点となっており、これまでのところとは、また違った雰囲気となっていた。


「何か怖いです……」


 クーネは怯えた様子で周りを見回しながら歩く。

 辺りはこれまでのところよりも小綺麗にはなっていたが、そこに居た人間は薄汚れた浮浪者ではなく、強面で身体に刺青やピアスがあったり、目が異様にギラギラとした、あからさまに危険そうな人間ばかりであった。


 その人達は、二人を獲物を見るかのようにニヤニヤとしながら見ていた。


「ここからは私一人で行こうか? 安全な場所に避難できるアイテムあるから、そこで待つって手も……」

「いえ! 大丈夫ですっ」


 クーネは自分に渇を入れて、震える身体を正す。

 ミアと仲良くなっていたのはクーネも同じだったので、自分だけ隠れる訳にはいかなかった。


「何かあっても私が守ってあげるから、大丈夫よ」


 しかしその時、密かに後ろに近づいて来ていた二人組の男が、その手に持っていた麻袋を、凛とクーネの二人に被せて来た。


「ひゃっ、ちょっ、何!?」


 突然のことで混乱しているうちに、二人は麻袋へと詰められる。

 詰められた二人は肩に担がれ、運ばれ始めた。


 麻袋の中で、凛は混乱しながらも、小袋の中の砂からナイフを生成して、そのナイフで麻袋に穴を開ける。

 そこから覗くと、共に運ばれていたクーネが入った麻袋と、それを担ぐ男の姿が見えた。


(これって人攫い?)


 とりあえず出ようとナイフを伸ばす凛だが、既の所で思い止まる。


(もしかしたらミアちゃんも、こうやって攫われたのかも)


 攫われたとするなら、このまま運ばれて行けば、同じところに運ばれるのではないかと凛は考え、抵抗せずに運ばれることにした。




 暫く運ばれたところで、凛とクーネは乱暴に麻袋から出される。

 そこは鉄格子のある檻であった。

 運んだ男二人はすぐに檻の扉を閉めて、部屋から出て行く。


「痛てて……。クーネちゃん無事?」

「は、はい」


 周りを見回すと、檻の中には他にも若い女性や女の子が何人もいた。

 みんな怯えた様子で縮こまっている。

 ミアの姿はなく、檻の中に居る人達は皆それなりに小綺麗な恰好をしていて、貧民区の人間ではないように見えた。


「あんまり騒ぐなよ」


 見張りの男が、二人に向けて言う。

 檻の外には一人の男が見張りとしてついていた。


「こんなことして、一体何のつもり?」


 凛は状況を正確に把握する為に、男との対話を試みる。


「おっ、冷静だな。それとも状況が分かっていないのか」

「何のつもりか、って聞いてるのよ」

「いつもは無視するんだが、特別に教えてやろう。お前らはな、商品として売られるんだよ。ショックか? スラムなんか、ふらついてるのが悪い」


 ここは人身売買の為に人攫いをする組織だった。


「どこに売られるの?」

「さぁな。俺らは仲介に渡すだけだから、誰に下に行くかは知らねえ。案外いい暮らしできるかもしれないぞ。変態に買われて、壊される可能性もあるけどな」

「私達、浮浪児の子を探してたんだけど、その子も貴方達が?」


 凛が訊くと、見張りの男は笑う。


「探しに来て捕まったのか。そりゃ災難だな。捕まえた浮浪児は別のところに入れてる。あいつらは汚いから、分けてやってるんだ。有難いと思え」

「場所は何処?」


 凛は続けて質問をぶつけるが、立て続けに訊いたせいで、意気揚々と喋っていた見張りの男が真顔になる。


「さっきから探り入れて来てるが、お前まだ何とかなるとでも思ってるのか? お前はな、もう逃げることはできないし、その探してるガキと会うことも二度とないんだよ」

「分かったから、場所を……」


 その時、部屋の扉が開いて、組織の男が顔を出す。


「おい、巡回が来た。ここの見張りはいいから対応頼む」

「マジかよ。面倒臭えな」


 見張りの男は椅子から腰を上げ、部屋から出て行く。


「ちょっと! 場所だけでも教えなさいよ!」


 凛が必死に尋ねるが、見張りの男はそのまま出て行ってしまった。



 見張りが居なくなり、部屋には檻の中に閉じ込められている人達だけになった。


「うちの街でそんなことがされていたなんて……」


 クーネは自分の街で人身売買がされていたことに、ショックを受けていた。

 見張りが居なくなったことで、緊張が緩んだのか、泣き始める子も出て来た。


「帰りたい……」

「あーあー、大丈夫よ。すぐに帰れるからね」


 あやす凛に、クーネが訊く。


「これから、どうするんですか?」

「とりあえず、浮浪児の子も捕まってるらしいから、この建物の中を探すわ」

「で、でも、私達も捕まってますよ」

「そこは問題ないわ」


 凛は懐から砂の入った小袋を取り出すと、扉の前へと移動した。

 そこで檻から手を出し、鍵穴に砂を入れる。


「こうして捻れば……あ、あれ?」


 砂の粒子を固めて、鍵を開けようとするが、中のピンに上手く噛み合っておらず回らなかった。


「結構いいやつ使ってるわね……」


 鍵を開けるのを諦めた凛は、砂を小槌状にする。

 魔力を籠めて大きなハンマーにすると、それで扉を思いっきり叩いた。

 ハンマーに叩かれた鉄の扉は、拉げて鍵の部分が壊れ、開く。


 凛は力技で、檻から脱出した。


「ふぅ。じゃあ、みんな、行きましょうか」


 凛が檻から出ると、他の人達は唖然としながらも、その後に続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ