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30話 弟子

「もう、その子を解放してあげなさい。貴方達のやってることは、ただの犯罪行為よ」

「こいつは俺達に借金があるんだ。余計な口出しはするんじゃねえ。それとも、あれか? お前が立て替えてくれるのか?」

「いいわよ。いくら?」

「ふっ、百万だ。払えねーだろ」

「分かったわ」

「え?」


 凛は金貨の入った袋を出す。

 手持ちの余裕はそこまでなかったが、先程の買い取り金をプラスすれば、何とか足りる金額だった。

 凛の年齢層からすると大金だったので、あっても他人の為なんかに払えないだろうと高を括っていた青年は、肩代わりを即時了承されて、たじろぐ。


「あー、やっぱり、もうちょっとあったかもな。確か、百五十万くらいだったか」

「はぁ? 何、曖昧なこと言ってるのよ。借用書見せなさい」

「そんなもんはねえよ」

「作ってないの? お金のことなのに、そんな適当なことしちゃ駄目じゃない。じゃあ、整理するから、何に対しての借金がどれだけあって、これまでの返済額も教えてちょうだい」

「グダグダ言ってんじゃねー。さっさと払えよ。払わないなら、こいつは解放しないぞ」


 借用書は作っておらず、借金の詳細を言うのも拒否。

 怪しさ満載であった為、凛は疑いの目を向ける。


「明細すら作れないなら、払えないわ。だって、詐欺の可能性があるんですもの。女の子が騙されて奴隷みたいにされてるって言って、兵士呼ぼうかしら」

「煩ぇ! さっさと金出せっつってんだろ。ぶっ殺すぞ!」


 リーダーの青年は腰の剣を抜いて、凛に突きつける。


「もう恐喝ね。やれるものなら、やってみなさい」

「てめぇ……舐めやがって」


 剣を目の前にまで突き付けたにも拘わらず、凛は一切怯える様子を見せなかったので、舐められたと思って激高した青年は、握った剣を凛へと振り下ろした。

 だが、その剣は、凛が出した人差し指の指先に止められる。

 指と剣の間には小石が挟まっていた。


「本当に手出してきたんだ。ギルド内での暴力行為は規約違反よ?」

「こ、このアマ……」


 青年は手に力を籠めるが、剣はピクリとも動かない。

 この場で戦うと罰則が与えられる為、凛は剣を止めたままギルド職員に助けを求める。


「職員さん、衛兵呼んでー」

「もう呼びましたー!」


 カウンターに居たギルド職員の手には、既に受話器が握られていた。

 ギルド内での揉め事は日常茶飯事だったようで、職員の対応も早かった。


「はぇ!?」


 それまで強気だった青年は、兵士を呼ばれるとは思っていなかったらしく、目に見えて狼狽する。



 その後、兵士達が駆けつけると、青年達はしどろもどろとなり、あっという間に大人しくなった。

 兵士の仲裁を受け、互いに事情を聴かれる。

 その中で、借金の経緯も判明した。


 ラピスと呼ばれる魔女族の少女は、少し前に、臨時で青年達のパーティに入ったのだが、冒険に出た際、ちょっとしたミスにより、青年の装備を破損させるという失敗をしてしまったらしい。

 その装備が非常に高価であったので、弁償する為に借金扱いとなったとのことだ。


 しかし、兵士の問い詰めにより、実際にはそこまでの価値はないことを、青年達は吐かされた。

 ラピスは騙されて働かされていたのだ。


 まだ若手とのことで、青年達は厳重注意だけで終わったが、不問にする条件として、ラピスとは本来支払うべきはずだった報酬分と、借金の帳消しがされた。




 青年達はギルドの方で改めて説教されることとなり、凛と魔女族の少女・ラピスは一足先に解放され、

冒険者ギルドから出る。


「助けていただき、ありがとうございましたっ」

「いえいえ、人として当然のことをしたまでよ。世の中には悪い人が沢山いるんだから、これからは気を付けるようにね」

「はい、気を付けます」


 ラピスは何度も頭を下げ、凛の方が恐縮するくらいに感謝の態度を示していた。

 恩を売れたので、凛はせっかくだから、ここから仲良できないかと考えていると、ラピスがおずおずと尋ねる。


「あの……。アランさんの、さっきの彼の剣を指一本で止めたのって、魔法ですよね?」

「ん? ええ、魔法よ。小石挟んで止めたの」

「凄い……」


 斬撃を一度止めただけで、見た目としては地味だったが、種族として魔法のプロフェッショナルである魔女族だからこそ、その凄さを人一倍理解していた。

 驚くラピスだが、意を決したように表情を引き締めて言う。


「凛さんは凄腕の冒険者とお見受けします。お願いです。私を弟子にしてください。駄目なら、せめて冒険者として上手くやっていける秘訣だけでも」

「いいわよ」

「えっ、いいんですか!?」


 駄目元での申し出だった為、あっさりと許可され、お願いして来たラピスの方が驚いてしまう。


「違う分野だけど、もう弟子みたいな子いるからね。あ、でも、戦いに関しては私、ちょっと特殊だから、上手く教えられないかも。それでも良かったら、出来る限りの指導はしてあげるわ」

「是非お願いしますっ」


 こうして町に来て早々に、冒険者の弟子が出来たのだった。

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