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28話 夜逃げ:工業都市ビフレフト

 部屋の吹き抜け二階では、ナイフの男とシーナが飛び回るようにして、ぶつかり合っていた。

 二人とも人間離れした脚力で、縦横無尽に部屋内を駆け回る。


「ここまで大胆な行動を取るのは、貴方らしくありませんね。何が、そうさせた?」

「別に。凛がやるって言うから、従ってるだけ」

「なるほど、新しい主人という訳ですか。ですが、その判断は間違いです」


 打ち合いをしていたナイフの男は、僅かな隙を突き、シーナの腹に向けてナイフを突き刺す。


「!」


 シーナは咄嗟に飛び退いて距離を取るが、脇腹に出来た切り傷からは、血が滴り落ちていた。


「勝ち目のない戦闘は避けるようにと教えましたよね?」

「……」


 横腹の傷だけでなく、シーナは全身満身創痍だった。


「シーナ。貴方は今までの中で一番優秀な弟子でした。ですが、こんなことになったのは、精神の調整が不十分だったからでしょうね。残念な限りです。私のミスでもあるので、せめて楽に殺してあげましょう」


 ナイフの男はそう言いながら、シーナへと足を進める。

 その時、下から凛の声が響く。


「シーナちゃん、これ使って!」


 下から飛んできたものをシーナは掴み取る。

 それは一本の小刀であった。


 それを見たナイフの男は、何かあると感じ、すぐさま、とどめを刺そうと飛び掛かった。

 シーナは素早く小刀を抜き、ナイフを受け止める。


 互いに力を込めて押し合うが、男のナイフの方にヒビが入り始める。


「!」


 不味いと思ったナイフの男が押し退けようとした瞬間、そのナイフが折れる。

 突き破った小刀が、ナイフの男の身体へと迫るが、瞬時に後ろに飛び退き、ダメージを最小限に留めた。


 ところが、薄く切られた腹の傷からは、血が滝のように流れ出始めた。

 ナイフの男は自分の傷を触って確かめる。


「……これはまさか……アーティ、ファクト?」


 言葉が終わる前に、ナイフの男は大量出血によって倒れた。



 遅れて、凛が二階へと上がって来る。

 その姿は服がビリビリとなった半裸状態だった。


「シーナちゃん、無事?」

「うん」


 シーナは頷くが、その身体は傷だらけの満身創痍。


「傷だらけじゃない! 治療しないとっ」


 凛が治療をしようとするが、その時、焼けた屋根の一部が崩落して、地面に落ちてきた。

 二階の空中廊下に当たり、二人の足場がぐらつく。


「ここに留まるのは危険ね。急いで外に出ましょ」


 いつ倒壊してもおかしくない状態だったので、凛は治療を後回しにして、シーナと共に廃工場から脱出をした。




 玖音と合流し、三人は離れた高台から、廃工場を眺める。

 廃工場は轟々と燃えており、深夜ではあったが、兵士や消防士、野次馬の人達で騒がしくなっていた。


「また、ド派手にやったわね……」

「うむ! すっきりしたのじゃ」


 好きに暴れ回ることができた玖音は、非常に晴れやかな顔をしていた。


「うむ! じゃなくて、やり過ぎよ。大騒ぎじゃないの。バレたら、普通に極刑ものよ?」

「そしたら今度は国が相手じゃ」

「この、脳筋が……」


 思っていた以上の大騒ぎとなってしまい、凛は頭を抱える。

 悪人相手とはいえ、凛達がやったことは、大量殺人のうえに放火である。

 これだけの騒ぎとなれば、調査も厳しくされるだろう。


「……夜逃げしましょうか」


 どの道、シーナを手元に置く以上、暗殺稼業をしていたこの街には、あまり居続けない方がいいので、凛は街を離れることに決めた。





 工場に戻って来ると、ルイスとフラムは寝ずに待っていたでの、取り急ぎ、荷造りとお店の引き継ぎを行う。


「迷惑かけて悪いわね」

「とんでもない。凛さんには助けられました。こうなってしまったのは残念ですが、これからは凛さんの助力なしで、やっていけるよう頑張ります」


 相談役も店長の仕事も、何もかも放り出す形となってしまったが、ルイスは嫌な顔一つせず、協力的な態度で、夜逃げの手伝いをしてくれた。

 ロバートの妨害がなくなり、会社も軌道に乗っているので、凛がいなくなっても、そう簡単に経営が傾くことはないだろう。


「また旅して回るつもりだから、ほとぼりが冷めた頃に顔見せるわ」

「なぁ。その旅、あたしもついて行きたい」


 凛の旅に、フラムが同行を申し出てきた。


「えっ、来てくれるなら、私は嬉しいけど……」


 凛は様子を窺うようにルイスを見る。


「ご迷惑でなければ、私からもお願いします。凛さんと一緒なら、ここで学ぶより、良い修行になりますから」


 凛には並外れたクラフトの腕前や経営の手腕があった為、同行することでフラムの成長に繋がると、ルイスは判断した。


 保護者の許可があるなら、凛が憚ることは何もない。


「分かりました。謹んで、娘さんをお預かりします」


 凛が引き受けると、フラムはガッツポーズをする。

 冷静を装う凛もまた、心の中でガッツポーズをしていた。


 その後、引き継ぎと支度が終わると、凛達はルイスと簡単に別れを済ませ、工業都市ビフレフトを発った。

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