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2話 離脱

 瑞希に手を引かれ、二人で木の上へと避難する。

 とりあえずの安全を確保した二人は、周囲を警戒しながら話し始める。


「一体どうなってるの? さっきまでは店の前に居たはずなのに」

「あれに見覚えない? あの化け物、アウターパラダイスのオーガ」


 瑞希に言われ、凛は改めて、その大男を見る。


「そういえば、そっくりだわ……」


 凛はその大男の姿に見覚えがあった。

 ここ最近、瑞希と二人でやっていたVRゲーム・アウターパラダイスに出てくるモンスターと瓜二つであったのだ。


「多分、ここはさっきまで居たところとは違う世界」

「まさかゲームの中ってこと?」

「ううん。ゲームの中って言うより、あのゲームが、この世界を模倣して出来たものだと思う。さっき、そんな感じの警告が来たから」

「何それ」

「凛が電話してくるちょっと前のことなんだけど、ゲームやってたら、男の人が画面に出てきて、”このゲームは普通じゃない。危ないから、すぐに止めろ”って、連絡飛ばしてきた」

「んん? あれ、オフ専のゲームじゃなかったっけ?」


 アウターパラダイスはネット接続不可のゲームであるので、ゲーム内で他者と連絡を取ることはできない。

 第一、二人は寮でやっていた為、ゲーム機をネットに繋ぐこと自体が出来なかった。


「うん。だから普通じゃないんだよ。曰く付きのゲームってことは分かってたけど、まさかこんなことになるなんて……」



 そうしているうちに、下の状況が変化する。

 一人の勇敢な男性がオーガを引き付けて、一対一でやり合い始めていた。


 人間と化け物。

 力の差はあまりにも大きかったが、男性はギリギリの動きで、オーガの攻撃を回避して、何とか命を繋いでいる。


 男性の奮闘振りから、他の人達は彼がオーガを倒してくれるのではと期待するように見守り始め、男性の周りには人だかりができていた。

 その中に、凛は姉の姿を見つける。


「あれ、もしかしてお姉ちゃん!?」


 凛の姉である美鈴を見つけた二人は、すぐに木の上から降り、駆け寄る。


「お姉ちゃん!」


 声を掛けられ、美鈴が振り向く。


「あっ、凛。と、瑞希ちゃんも。二人も気が付いたらここに来てたの?」

「うん、お姉ちゃんも飛ばされたのね」


 すると、瑞希が凛の袖を軽く引いて言う。


「あのゲームに触れたことのある人が飛ばされたのかも」

「あぁ、そういうこと……」


 バイトの先輩だった男性も、プレイしたと以前言っていたことを凛は思い出す。

 話題作りが目的だった為か、すぐに止めたようだが、それでも触れたことには変わりない。


 同様に、美鈴も学校の寮に顔を出した時に、凛が勧めて、少し遊ばせたことがあった。


「二人とも何か知ってるの?」

「前に私達の部屋来た時、ゲームやったでしょ? あれ、ヤバいやつだったみたいで、そのせいで、ゲームそっくりの異世界に飛ばされたみたいなの」

「異世界って、そんなこと現実に起こる訳ないでしょ」

「でも実際、あんなのいるし」


 凛はそう言って、男性と戦うオーガを指さす。


「……」


 非現実的なことだが、現実ではありえない出来事が、美鈴達の前で起きていた。

 しかし、美鈴はすぐには受け止められず、困惑した様子で眺めていると、オーガと戦っていた男性が声を上げる。


「お前ら、ちょっとは手伝えや!」


 他人事のように見守り、声援を送る周りの人々に、一人で戦う男性が文句を言う。

 だが、観衆達に加勢する勇気はなく、おろおろとするだけだった。


 凛もその中の一人だったが、あることに気付く。


「あのゲームと同じなら、もしかして……」


 そう呟いた凛は、オーガに向け、宙に指で魔法陣を描く。

 すると、描いた魔法陣が形を成し、そこから水球が飛び出した。


 勢いよく発射された水球は、オーガの頭部に当たり、その身体を大きく仰け反らせる。


「出たっ。やっぱり魔法も使えるのね!」


 予想通り、魔法が使えたことに、凛は感動して燥ぐ。


 オーガと戦っていた男性も、それで魔法が使えることに気付き、即座に戦いながら魔法陣を描いた。

 そして、その手でオーガの顔面を鷲掴みする。


「死ねや」


 男の掌から爆発が起こり、炎がオーガの頭部を包み込んだ。

 激しく暴れていたオーガは、動きを止め、力が抜けるように後ろへと倒れる。

 その頭部は真っ黒に焼け焦げており、完全に絶命していた。



 すると、周りから喝采が起こる。

 命の危機から脱し、観衆は安堵と喜びに包まれていた。


「もう倒しちゃったの。もっと試したかったのに」


 周りが喜ぶ中、凛は少しつまらなさそうにしていた。


「凛、貴方何したの?」

「魔法撃ったのよ。お姉ちゃん、ここの世界、ゲームみたいに魔法が使えるわ」

「魔法……」


 ただでさえ異世界の話で困惑しているところに、魔法が使えるという事実が判明して、美鈴はどう受け止めていいのか分からなかった。


 オーガが倒され、和やかな雰囲気になっていたその時、その場に居た一人の男性が皆に向けて話し始める。


「皆、喜んでいるところ悪いが、まだ安心できる状況じゃない。気付いている人もいると思うが、ここは、とあるゲームの世界に酷似している。もし、そのものだとしたら、また同じような化け物が出てくるだろう。だが、悲観することはない。どうやらここでは魔法が使えるようだから、一致団結すれば乗り切れるはずだ。皆で力を合わせて頑張ろうじゃないか」


 男の演説を受け、和やかな雰囲気から一転して、周りに緊張感が走る。

 まだここは、いつモンスターが襲ってきてもおかしくない状況だった。



 そうしていると、オーガを倒した男性が、一人で勝手に何処かへと歩き出す。

 演説をした男性が慌ててついて行くと、他の人達もその後へと続いた。


「私達も、ついて行こ」


 美鈴に促され、凛と瑞希の二人も、その後に続いた。



――――



 男性を先頭にして、森を歩く。

 だが、男性はすぐに、その足を止めて振り向いた。


「何故ついてくる」


 ついてくるなと言わんばかりの言い方に、他の人達は困惑した顔で互いの様子を窺いだした。

 しかし、そこで先ほど演説をしていた男性が口を開く。


「それは勿論、君が一番頼りになるからだ。君は戦う力を持っているのだから、その力で、ここにいる皆を守ってくれ」


 ドヤ顔で男性が言うと、言われた方の男性は心底面倒臭そうな顔をして言い返す。


「調子のいいことを。誰が守ってやるかよ」

「皆も見捨てる気か? 私に思うところがあるのは分かっている。だが、今は緊急事態だ。互いに水に流してやっていこうじゃないか」

「断る。生き残りたきゃ、自力で何とかしろ」


 そこから二人の男性は言い合いして揉め始める。


「ちょっと。これ、良くない流れじゃない?」

「かもね」


 凛が小声で言うと、瑞希が同意する。

 異常事態であるこの状況で、仲間割れまで始まってしまった。

 オーガを倒せた喜びは消え去り、不穏な空気が漂う。


 すると、オーガを倒した方の男性が、突然近くの崖から下へと飛び降りた。


「えっ!?」


 凛達は驚いて崖の下を覗く。

 底まではビルの三階近くの高さがあったが、飛び降りた男性は怪我一つなく、ピンピンとしていた。


 その男性は、みんなに向けて中指を突き立てる。


「くたばれ」


 そう言い、背を向けて歩き始める。


「おい、逃げるんじゃない! それでも男か!」


 言い争っていた男性が喚くが、彼は振り返ることなく、木々の中へと消えて行った。



 一番の戦力となっていた人がいなくなり、周りの人達は不安を募らせる。

 叫んでいた男性は諦めたようにして言う。


「仕方ない。彼のことは諦めて、我々だけで進もう。ゲームと同じだとするなら、近くに村があるはずだ。みんなで協力して、何としても生き残ろう」


 今度はその男性が先導となり、森を歩き始める。


 みんなで後に続いていると、瑞希が凛に小声で喋りかけてくる。


「ね。私抜けるけど、凛も来る?」

「え?」

「来るなら、ついてきて」


 それだけ言うと、瑞希は列から外れ、離れて行く。


「ちょっ、みぃっ」


 凛が小声で引き留めようとするが、瑞希は聞こえていないのか、構わず足を進める。

 最後尾に居た為か、他の人達は瑞希の行動に気付いていない。


 凛は困惑しながら、先を歩く美鈴と、離れて行く瑞希を交互に何度も見返す。

 どうするか迷うが、一人で進む瑞希の方が心配だった為、凛も列から離れ、瑞希の後を追いかけて行った。



 小走りで追いかけ、瑞希に追いつく。


「ちょっと、みぃ。何考えてるの? 一人で危ないじゃないの」

「凛、この世界はアウターパラダイスのゲームそっくりだけど、死んだら多分そこで終わりだよね。なら、できるだけ強い装備・アイテムを手に入れて、死なないようにしないといけない」

「うん? それはそうだけど」

「ゲームと同じなら、バランスブレイカーのアーティファクトも存在してる。けど、数が各一個だけに対して、ここではプレイヤーが何人もいるから、そのうち絶対取り合いになる。手に入れる為には、みんなと一緒に行動してたらダメ。あの男の人も多分そのことに気付いて、別行動取ったんだと思う」


 ゲーム内、最強装備・最強アイテムであるアーティファクト。

 特に中でも強力な物だと、それを持っているだけで、敵なしとなる。

 死んだら終わりの可能性が高いこの世界で、その重要性は非常に高かった。


「! じゃあ、もうヤバいじゃん。急いで取りに行かないと」

「うん、急ごう」

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