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10話 玖音

 そこで遅れてやって来ていたクレアが凛に言う。


「凛さん、私からもお願いです。九尾様を殺さないでください」


 モンスターだと言われても、クレアも長年、村の守り神と思って暮らしてきた為、そう簡単に考えは変えられなかった。


「いやぁ、殺さないというか殺せないんだけど」


 正体はモンスターであっても、少女の姿をされては、凛は殺すことなどできなかった。


「本当か?」


 殺さないという凛の言葉を聞いた九尾の狐は、表情を明るくさせる。


「とりあえずはね。でも、人間の生贄を取るのは困るんだけど」

「そんなの儂だっていらん」

「へ? どういうこと?」


 九尾の狐は事情を説明する。

 これまで九尾の狐が、自分から生贄を要求したことなど一度もなく、人間を食べることもないと言う。

 全ては村の人達が勝手に決めて、行っていたことだった。


「いらぬのに勝手に山に置いて行くから、困ってるのじゃ。縄を解いても帰らんし、強引に村に返したら、何故か倍になって戻って来る。仕方ないから適当に脅かして、他の集落に捨ててたのじゃ」

「そうだったの。けど、喋れるなら、普通にいらないって言えば良かったじゃない」

「そうすると、どうなると思う? 意思疎通ができると分かったら、どうにかして儂に取り入ろうと、何かにつけて関わってこようとするのじゃ。そうなったら、もう何処か遠くに引っ越さなければならん」


 対話は既に経験済みであった。

 話さずとも、神として崇められてしまうくらいなので、言葉が通じるとなれば、その比ではない。

 下手に話して依存されるよりは、言葉が通じないモンスターと思われていた方が楽だったのだ。


「事情は分かったわ。害がないなら、倒す理由はないわね」


 凛が改めて倒さないことを言うと、九尾の狐は心からホッとした顔をなった。

 だが、凛は続けて言う。


「ただ、このままにすると村の生贄行事は続くわよね」


 安心したのも束の間、まだ残っている問題点を指摘され、九尾の狐の顔が強張る。


「安心して、私にいい考えがあるの」

「いい考え?」

「貴方、私と一緒に来なさい。私は、この世界を旅して回ってるから、一緒に来れば万事解決よ。その姿なら、騒ぎになることもなさそうだしね」


 凛は九尾の狐に、自分の旅に同行することを提案した。

 人間ではないが、今の姿は何処からどう見ても女の子である。


 顔も非常に可愛らしく、凛としては是非とも手元に置きたいと考えた。

 その思惑が、凛の僅かにニヤけた顔から見て取れる。


 だが、九尾の狐は難色を示す。


「それはちょっと……嫌なのじゃ」

「何で!?」

「……主と一緒にいるのは怖いのじゃ」


 その身をもって凛の力を思い知らされた九尾の狐は、殺されかけたこともあって、凛に恐怖を抱いていた。

 そんな相手と旅をするのは、御免被りたい気持であったのだ。


「怖くない、怖くないっ。もう危害を加える気なんて全然ないから。一緒に旅しましょ。ね?」

「……」


 凛は必死に自分が怖くないことをアピールするが、九尾の狐の表情は変わらない。


「……何でもするって言ったのに」

「うぐ……」

「あーあ。さっきはもう殺さないって言ったけど、来てくれないなら、気が変わっちゃうかも」

「脅すなんて卑怯なのじゃっ」

「うそうそ、可愛い子を脅すようなことはしないわ。でも、このままだと、ずっと繰り返しになるんじゃない?」


 この地から引っ越せば、また暫くは平穏になるが、何れは人間に発見される。

 そうなったら、討伐隊を送られるか、祀り上げられるかのどっちかである。

 それを避けるには、永遠に逃亡生活をするか、人間社会に溶け込んでしまうしかない。


 九尾の狐は考えた末、口を開く。


「……分かったのじゃ。主の旅に同行する」

「やったー!!」


 九尾の狐が旅の仲間に加わり、凛は大喜びする。


 凛への恐怖はあったが、逆に考えれば味方に引き込んだとも言える。

 また敵として出会うよりは、味方となった方が安心すると、九尾の狐は考えたのだった。


「よろしくね、九尾ちゃん。あ、人間っぽい名前つけた方がいいかしら?」

「玖音じゃ。儂の真名は玖音という。これからは、そう呼んでくれ」

「玖音ちゃん! わぁ、可愛い名前ね」


 名前を教えてもらった凛は、九尾の狐こと玖音に抱き着いて、頬擦りをする。

 いきなり距離を詰めて来た凛に、玖音は困惑と若干の恐怖を抱きながら、されるがままとなった。


 凛は玖音を抱きしめながら、クレアに言う。


「クレアちゃんも一緒に来る? もう村には戻り辛いでしょ」

「あっ、気持ちは嬉しいですが、私では足手纏いになってしまいますので……」


 玖音と違い、戦力に秀でている訳でもない、ただの凡人だった為、ついて行きたい気持ちはあっても、同行できる自信はなかった。


「そこんところは気にしなくていいわ。誰でも安全に同行できる、こんなのがあるから」


 そう言い、凛は懐から折り畳み式の手鏡を取り出した。

 鏡を開くと、そこに居た凛、玖音、クレアの三人が鏡の中へと吸い込まれる。

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