92話・・・マルペルト3・崩壊
作品を読みに来て頂き感謝です。
ゾーイがリアムからクローン人間がいると聞かされたのは入隊してから一年頃だった。
最初は信じられないし、信じる方がバカだと思った。だけどリアムが嘘を吐くとは到底思えなかった。それに。ミラも同じことを言う。マノンも、エアルもヘスティアもそうだった。
じゃあ入隊試験のコロシアムで戦っていた双子もそうなのかと尋ねたら「そうだ」と返された。
そして今、信じたくなくても現実が見せつけてくるのだ。クローンという存在を。
しかもマノンと変わらないくらい、それよか少し年下にすら見える。
(クローンだって理解しているのに普通の人間に思える…!ナノスって本当に何者なのよ!)
腹立つゾーイの横にユーリが立った。
「君達がこんな風にしたのか?」
「そうだがぁ。なんか文句あんのかよ、貧弱野郎」
エリーニュが挑発し唾を吐きニタニタと笑う。
「…その答えが聞けて良かったよ。お前達を殺す理由が出来た」
目付きの変わったユーリが剣を地面に突き刺すと岩場がゴゴゴと地響きを轟かせ四姉妹へ向かっていく。
「きゃあ!なんて酷い事が出来る人なのかしら!女の子に手を上げちゃいけないって教わらなかったの?」
「散々惨たらしいことをしたお前が説教をする資格は無い!」
「ひどい、またひどいこと言った!アドバイスしてあげただけなのにぃ!」
アレークが喚きたて目には涙を浮かべる。
ユーリが四姉妹の気を引き付けている隙にローラがゾーイに静かに指示を出す。
「ゾーイ、射撃準備。半径五十から」
「了解」
ゾーイは上手いこと岩場や瓦礫に隠れながらユーリの怒りを盾にして丁度良さそうな場所を見つける。そこに三脚を立てライフルを構える。
(二人が金属性、もう二人が水属性…まずは水から)
ユーリに続きローラとシレノも戦闘に加担する。
狙いを定めようとするも四姉妹はハエのようにすばしっこく標準が定められない。
その時だ。
「ゾーイ!」
「しまった!」
隙を突いたティーシがゾーイ目掛け金属の刃をリボンのように操り攻撃を仕掛けてくる。あんなリボンに切り刻まれたらタダじゃ済まない。
「待っていたわよ、この時を」
ゾーイは伸びているリボンに向かい発砲すると、リボンは砕かれる。
「は、え?私達ナノス様のお陰でSランクのはずなんですが…なんで相殺できたんです?」
「おい、ただの女じゃA止まりだって言ってたのだれだよ、相殺されてんじゃねぇぞティーシ!」
「A止まりと仰ったのはナノス様だよ、エリーニュお姉ちゃん」
アレークがなだめる。
「…」
メイラは会話を無視したまま攻撃を続ける。
「一体どうなってんだよ!ブス!」
「ちなみにゾーイだけじゃないわよ」
氷の粒手を四姉妹に浴びせると、相殺しようと足掻くがローラの方が上手だった。
氷と氷がぶつかり合いどこに被弾するか解らないのだ。しかも、外れたとしても氷の破片までにも魔力が伝わっているため散弾し負傷する。
「気色悪ぃんだよ!なんだよ、お前等も結局は薬頼りかよ!」
「違う!」
そう真っ先に叫んだのはユーリだった。
「ローラは…彼女達は死ぬ気でSランクにまで上り詰めたんだ。お前等と同等に評価するな、無礼だぞ」
「何を偉そうに…!」
「偉そうなのは君たちの方だろう?薬で強くなったなら、それを持続する必要がある。永遠に効果の続く薬なんてないからね」
シレノが言う。
彼等は知っている。彼女達がどんな思いでSランクにまで到達したかを。
一年前
モルガンがとある提案をした。
女性でもSランクに到達できるはずだと。勿論、自身の力で。
「男性がSになれて女性がA止まり。これはずっと永遠の謎だった。なにせ、これが定着し過ぎたせいで誰も打開策を考えなかったので私が仮説を立ててみた」
これは、まだモルガンが入隊して数年が経った頃の話だ。
何故女性だけがA止まりなのか。それが悔しくて人体の構造、魔力の流れを勉強した。するとある仮説に辿り着いた。
男性に無くて、女性のみが持っているもの。
子宮だ。
生命の神秘。人間を育てる唯一の器官。
モルガンは子宮に魔力が行かないよう注意しながら日々を過ごし、身体を鍛えた。魔力クラスが上がっても体が着いていかなければ意味がない。
試行錯誤だった。これは電子にも、紙にもメモを残した。いつ、どこで女性達がSクラスまで行きたいと志願する未来の後輩達のために。
「モルガン。最近男にも増して強くなったじゃないか。この前は部隊で一番優秀な同期を負かしたとか」
アイアスが褒めの言葉を贈る。モルガンは嬉しくなり、花のような笑みを咲かせる。
「はい!独学ですが。体の仕組みや魔力の流れを研究しています」
「それはいい。魔力は人間の組織と同じ一部。調べ、学ぶことは良いことだ」
そう言われ、モルガンはさらに勉強と筋トレに励むようになった。
ある日、前回は奇跡だと言われた優等生との勝負にまた勝った。これにはもう、誰もが奇跡とは言わなかった。モルガンの実力だと。
ある者は囃し立て、はたまたブーイングやドーピングを疑う者。純粋に歓声を上げる者、三者三様だった。
(私の仮説は正しかったのかもしれない!)
しかし、問題があった。女性でSランクに到達したとなると厄介になる可能性が脳裏を過ぎった。
(ここで試験体にされるなら、黙っていたい。いつかその日が来るまで…)
モルガンは確証があったものの、報告することはなかった。それはアイアスにも…。
さて、ここで確証に至ったのはデウトとの出会いだった。
ナデアも同席してもらい、デウトに今までの分析結果を報告し、相談した。これは正しいのかと。
「これは確かに珍しい事例です。ですが間違ってはいないと思われます。私が女性でも同じことを考えたでしょう」
「それでは、女性もこれでSランクに!」
「モルガンさんの話を訊く限り害はないでしょう。その計画を進めるときは私も同席し、危険が無いか確認します」
「そうか…では、ヘスティア女史もSランクなのも彼女なりの努力の結晶だったのか…」
感慨深くしていると、ナデアとデウトが気まずそうに顔を見合わせる。
デウトがアイコンタクトでナデアに確認すると、ナデアはゆっくりと頷いた。
「モルガンさん。女性がSランクになるには、貴女の研究を含め二つあります。一つは子宮から魔力を回収し循環させる方法。もう一つは…その、無属性と寝ることです」
その時のモルガンの顔は誰も見たことがないような間抜け面だった。
「そうか!ヘスティア女史はエアル氏と…ハハァ…なるほど。ならデウト氏、私と寝てみないか?」
モルガンの爆弾発言にナデアが間に入る。
「だ、ダメですよ!デウトさんにだって、想っている人達がいて!」
「ナデア女史、君とも寝れるんだよ、私は…」
モルガンが素早くナデアの腰に手を回し、顎をくいっと持ち上げる。顔を真っ赤にさせたナデアはモルガンを突き飛ばしデウトの後ろに慌てて隠れた。
「冗談はさておき!これで確証が出来た!」
数日後の事だった。デウトから連絡が来たのだ。少し話せないかと。
モルガンは勿論承諾し、アルフレッド家へ赴く。
「今日来ていただいたのは、何故他属性の女性がAランク止まりなのかの謎についてです」
「あぁ。無属性の女性は無条件でSクラスになれるそうだな。私からしてみれば、羨ましい」
「私もそこは気になっていたのです。同じく力を付ければランクアップする無属性。体・魔力の仕組みを叩きこまないとランクアップできない他属性。戦艦の発掘中にまた新たなタブレットが出てきたので、それを解析していますがどうやら大昔の当時の生活が描かれているようです。もしかしたら、何かヒントが隠されているかもしれません」
「そうか…。もしかしたら、進化する先で退化した可能性もあるということか…。そして隠れるように生きている無属性のみが退化することを避けられた…。わからん!解析出来たら教えてほしい!」
モルガンさえも匙を投げた内容だった。
「アイアス中佐。私達は今、新しい段階へ行こうとしています」
モルガンはそう呟くと、講堂の扉を開けた。
講堂に集まっているのは女性隊員等だ。皆、Sランクになれならと集まったのだ。
「男性に無くて女性にあるもの。それは子宮だ。女性は子供を産む。そのために魔力が子宮に溜まりやすくなっているのではないかと考えた」
言えば、子宮に溜まる魔力を体内に円滑に流れるよう実験するということだ。しかし、子どもが生まれた時の後遺症、魔力無しなど未知な部分が多く危険だった。
いわば人体実験。
「それでも協力してくれる者がいれば志願してほしい。以上だ」
周りが決めあぐねているなか、真っ先に立ったのはゾーイとローラだった。
そして執務へ戻るモルガンを捕まえ、言い放った。
「私、参加します」
「私もその訓練、出ます」
「君達なら来ると思っていたよ」
ニコリとモルガンは笑った。
そこからは感覚と体力、筋力作りの過酷な訓練が始まった。
子宮から魔力を開放するイメージをし、身体に巡らせる。今まで流れていた魔力が量を増したため最初の頃は開放しただけでも気絶することが多かった。生理不順にもなった。
男性は筋肉が付きやすいことを思ったモルガンは筋トレをするよう命じた。体力と魔力に負けない体作り。ゾーイとローラのことを見ていた何人かの女性隊員も志願し始めた。
筋力と体力が増したころ、また開放するイメージで子宮に念じると、身体に力強い何かが端に抜けていく感覚がした。
「これがSランク到達への一歩だぞ」
モルガンが見せたのは、Sランクである印。
ここまで来るのに九ヶ月だった。
「私達はまだ成長途中よ。この戦いでも成長しているんだから。気づいているのかしら」
ローラの意味深なことの意味に気付いた時には遅かった。
「嫌だ!お姉ちゃん、手が氷になってる!どうしよう、お姉ちゃん!」
アレークが叫びだす。
最初こそ表面のみに氷が張っているのかと思ったが、違う。小指の先がポキンと折れる。中身は霜で満たされ氷づいていた。
「クッソアマがぁ!ティーシ!」
「あいよ」
アレークに熱湯をぶっかける。熱いと文句を言うが今はそんなことで甘やかせている暇はないのだ。なにせ、命令されてここまで来ているのだから。手を切り落とすよりかは懸命な判断だろう。
「アレークは手戻るまで泣きわめいていろ!ティーシ、メイラ、オレ等だけでやるぞ!」
「あいよ~」
「…了解」
四姉妹は作られたS。造り上げたSがゾーイとローラだ。この微妙な差が勝敗を分けていくだろう。
ゾーイはS+。ローラはSS。
女性陣に負けていないのも男の根性だろう。
シレノはS++。ユーリはSS+。意外だと思うが、ユーリは以前まではSS止まりだった。しかしあのゲリラ訓練戦以降、奮起し今の魔力クラスまで這い上がった。後輩に抜かれて悔しいのは内緒だが。
Sクラスが四人しても簡単に勝たせてくれないのが四姉妹だ。
「テメェ等の努力なんぞ知らねぇんだよ!殺んぞ、お前達!」
エリーニュの一声で他三姉妹は言葉も交わさず位置に付き連携を図り攻撃を仕掛けてくる。脳でも繋がっているのかと勘違いしたくなるほどに。
「姉さん、アイツ等ハチの巣にしてやりましょうよ」
「ハッ、良い案だな!お前達!」
その動きは軍で鍛えられた一糸乱れぬ動き以上に、鏡に映った自分のように同じ動きをし。武器を天へ向ける。エリーニュが指を鳴らすと、魔法が発動し、空へ水が、金属が噴射される。その先に起こる危険にユーリが叫ぶ。
「ローラ、防御を!」
「解ってる!」
ローラが氷のドームを作り、その上からシレノの木が覆うように二重の防御壁が出来る。ゾーイも自分の氷の中に潜む。
ドームが出来た直後に鋭利な金属と氷がザクザクと音を立てながら、木を抉るような音を立てて降って来る。殺人的な雨が治まることはない。きっと、シレノ達を殺すまで降るだろう。ついに木の一部が引きちぎれ、氷に到達すると、残酷な姉妹はそこ一点集中に鋭利な雨を降らせ攻撃する。
幸いなことに、ゾーイが攻撃されることはなかった。それは後で殺すことが出来るという姉妹の確信からだった。
(今ここで私がどうにかシレノ達を助けないと、このチームは全滅するかもしれない)
すると。シレノから通信ではなくメールが届く。
「なんでこんな時にメールなのよ!」
しかし、読むと思わずクスッと笑ってしまった。まるで戦闘しているような文面ではなく、友達から宿題の答え見せて、と頼むような感じのメールだったからだ。
ゾーイは勿論OKと返す。
「いいわよ。貴方に付いていけるのは、きっと私くらいよ。先輩方と派手に暴れなさい」
返事と同時に、ドームから樹の龍が誕生する。龍は鋭利な雨なぞ気にもせず姉妹たちに、口から水を噴射し、攻撃する。
「痛い!この水痛いよ、お姉ちゃん!」
アレークが喚き立つ。なにせ、皮膚や肉が抉り、掠め取られていくのだから。
そう。この水はローラの魔法だ。そこに土属性のユーリが砂を含ませ威力を強化している。そしてゾーイが遠くから栄養を与えてやるために地面にライフルを突きさし魔力を送る。
今この龍は体の一部が地面へ繋がっており、へその緒の状態にある。
土から得られる栄養分、四人の一人までが魔力切れを起こさない限り消滅することはない。
「すっごい技ですねぇ。これがコア様だったらすごく喜べたのになぁ…今すげぇ腹立つは」
「俺の前でコアの名を言うな、ブス」
シレノがニヤリと笑う。
「先輩方が後輩に花持たせてくれたんでね。始末するよ」
「ますます腹立ってきた。姉さん」
ティーシがエリーニュにアイコンタクトを取る。
「あぁ、良いぜ。アレーク、メイラ、やれ!」
「うん、わかった!」
「…承知」
アレークとメイラが隣同士に立つとメイラの剣に手を添え合う。すると剣はみるみるうちに巨大なスライムのように自在に変化する。大きな鎌が龍の首を落とすがすぐに再生する。
「斬っても駄目ならこうだよ!」
金属のスライムから棘が生えおろし器のように斜めになる。
「シレノ、魔力は俺達の分を補給する!気にせず戦え!」
「はい!」
シレノが剣を指揮者のように振り上げると、龍も天へ向かい伸びていく。それを追う金属性のスライム。二体はお互いを削り、再生しながら螺旋状に絡みあいながら上空へと昇っていく。金属や木の破片が降って来る。
離れた所で見ていたゾーイは、この世の終わりのような感覚だった。
あんな、あんな化物がここで戦っているのだ。
「見ている場合じゃないわ、援護しなきゃ」
「ここに居ることはわかってたんだなぁ」
気配も何もなく、ティーシがゾーイを瓦礫の上から見下ろしていた。いつ来たかすら解らない。
ゾーイはすぐに魔弾を打つが相殺される。
「アイツ等は三人。姉さん達も三人。ここは平等にいきましょう」
そう一言いうと、ティーシは銃を向けた。
『ゾーイ、魔力供給手伝ってくれるでしょ?』
『多分そっちに一人が行く可能性あるんだよね。困ったら言って』
これが、シレノが送ってきたメール内容だ。
男性から心配され、気遣われるのが嫌だった。まるで女であることが劣っているみたいで。でも、実際女だから嫌なこともたくさんあった。悔しい思いもしてきた。
だけど。だけどリアム達は自分を仲間として見てくれている。助けてきてくれた。マシューは、自分のせいで背中に残る傷を負ってしまった。私が乱暴されないように、最後まで守ってくれた。
私の尊厳を、守ってくれた。
それなら私も彼等の尊厳や命を守りたい。守るためには強くなるしかない。そして、モルガンが言っていた。
「自分を許してあげて」
あの意味は未だに解らないけれど。多分。ずっと意地を張るなって意味だと解釈している。
弱さを見せることが罪だと思っていた。
ゾーイとティーシの撃ちあいはとてつもなかった。散弾した魔弾を散弾で相殺する。魔力がありある程度自由に氷を扱える水属性だから出来る至難の業だ。
どれか一つにでも当たれば致命傷をぶっ放すティーシにゾーイは逃げながら対抗していた。しかしその場に立ったままのティーシと逃げながらの自分じゃ、どちらが有利なのかは一目瞭然。まさに、助けを呼びたい。だけど、向こうも戦っているのにこれ以上迷惑はかけられない。
(こういう時どうすればいいの…!私が死ぬ?いや。私が死んだところでこの四姉妹を全滅できることはないし、またクローンで復活する!どうしよう、どうしよう…)
その時、逆さまになり今にも落ちそうな人形が瓦礫の上に残されていた。
「…ッ!シレノ!こいつにとどめを刺して!」
腹の底から大声を出す。
「はぁ?!ティーシ!」
「あんなブスに負けそうなの?嘘でしょ?!」
「…」
姉妹が混乱した隙にシレノは龍をティーシに向かって全速力で向かわせる。
ティーシが反応しようとした時にはもう飲み込まれる寸前のところだった。
「は?」
飲み込まれた。
「ティーシ!」
「戦いはまだ終わってないぞ!」
ユーリが叫ぶと、龍はまたスライムと対立する。
ゾーイもシレノ達と合流する。
「ゾーイ、怪我は?」
「たいした怪我はしてないわ。それより…ありがとう」
「仲間だろ?」
ゾーイはシレノの隣に立ち、シレノの手に手を重ねた。
「さっきの仕返しは貴女達にしてやるわ」
龍がスライムに削られるのを承知で噛みつく。するとスライムが徐々に氷漬けになっていく。
「なんで氷漬けに?!」
「あの女の魔法よ」
アレークが憎そうにゾーイを見る。
すると低空飛行をしたドローンがゾーイの下へやってきて、大きな箱を置く。
「それは?」ローラが訊く。
「仲間からの支援です。ここに来る間頼みました」
箱から取り出したのは砲弾だった。
「ローラ先輩。力を貸してくれませんか?」
ローラは驚いた。いつも一人で、人に頼るイメージが付かないゾーイが助けを借りてきている。こんなの、断る理由なんて無いだろう。
「えぇ、勿論」
二人は砲弾を構えると完全に氷漬いたスライムに向け、精いっぱいの魔弾を発射する。
中まで氷漬けになっていたスライムは魔弾を受けるとゴーン!と大きな音を立てバラバラになり崩壊する。
「私の剣が…」
メイラの一言が、剣の心配だった。
龍は勝利の雄叫びを上げる。
その瞬間みるみるうちに体が腐り、木屑となりボロボロと崩れ落ちる。その中から、ティーシが現れる。生きていたのだ。
「いやあ、死ぬかと思ったけど水属性でよかったぁ」
四人は身構える。もう魔力残量は少ない。これ以上長引けば不利になる。しかし、エリーニュとアレークの表情を見ると、向こうも限界は近いらしい。メイラは読めないが、ティーシも余裕ぶっているが龍から魔力を吸い取られているはずなので限界は近いはずだ。
すると先ほどのドローンから声が鳴る。
『ゾーイ、シレノ!これからブラッド大尉が向かうから辛抱して!』
マシューからの連絡が入る。
「それは助かる!」
ユーリが喜びを見せる反面、四姉妹は顔を渋らせた。
「どうする?」
「ブラッドってエルド様と互角に戦った奴だろ…?今の私等じゃ勝てる気がしねぇ。目的は果たした。撤退するぞ」
エリーニュが言うと、四姉妹はさっさと陣地へ帰っていく。
残された四人は、緊張が解け思わず座り込んだ。
「本当、ナイスタイミングで大尉が来てくれる連絡が来て助かったわ」
「本当だよ。助かった。マシュー、ありがとう」
ローラとユーリがマシューにお礼を言うが、応答したのは待っていた人物からだった。
『あれは嘘だ』
「大尉?!嘘って、どういうことですか!」
『私がここから離れる訳にはいかない。どちらも疲弊し、マシューがお前達を助けるために着いた嘘の情報だ』
「嘘も方便ってことね」
驚くユーリに、力が抜けるローラ。
「ねぇ。同期のアンタ達は嘘だって判っていたの?」
「どうですかね。マシューは普段嘘とか吐かないから、判断できません」
シレノが答えると、ローラは笑った。
「日々の信頼のお陰ってことね」
「それで敵が撤退してくれたなら、俺はなんでもいいよ…」ユーリが緊張から解き放たれたのか、項垂れる。
『お前達は一旦こちらに戻れ。魔力の使い過ぎだ』
そう言い終わると、ブラッドからの通信が止まった。
「…帰ったら怒られると思います?」
シレノが訊く。
「なんでそう思ったの」
「無茶したから。僕が龍を出そうとしなければまだ戦えたはずなのに」
「でも、怒られたとしても一人じゃないわ。皆で怒られるんだもの」
ゾーイの言葉に、シレノは思わず噴き出した。
メイラは残った剣の柄を眺めていた。
少し離れた場所ではエリーニュとアレークがティーシの無事を喜んでいる。
「最初は死んだかと思ったぜ!しかも腐らせるなんてすげぇな!」
「姉さんは腐らせるの思いつかなくて摺り潰されそうだよね」
「あぁ?!姉に向かって喧嘩売ってんのか?!」
「ケンカしないで。四姉妹みんな生きて帰ってきたんだから」
その言葉に、メイラの手がピクリと動いた。
あの時私達は四人で帰ってこれなかった。
私だけが生き残った。
私のお姉ちゃん達はお姉ちゃん達だけ。
あの偽物たちは私の事を妹として可愛がってくれるけど、違う。
私は死なない。絶対に。
だって私が生きている限り、本当のお姉ちゃん達と記憶だけでも一緒にいられるから。
「メイラ、どうしたの?疲れた?」
アレークが優しく問いかける。この笑顔も、自分と一緒に生まれたアレークと一ミリたりとも変わらない。だけど、偽物だ。
「うん。ちょっと」
「私も疲れたよ。お父様に連絡しましょう」
メイラは微笑み頷いた。
妹のフリをしていよう。輪を乱さないために。
原作/ARET
原案/paletteΔ




