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ETENITY00  作者: Aret
4章・・・不調和
85/113

83話・・・それぞれ

作品を読みにきて頂き感謝です。

ここから4章の始まりです。

色々とこの世界の秘密が明らかになっていきます。

引き続きお付き合いください!

『マノン、デウトさんとナデアのお迎えが出来ない分、私からもよろしくと伝えておいて頂戴ね。きっと、デウトさん達の力もあれば立派な軍人になれるって信じてる。迷うことや、道が解らなくなったらいつでも私に言って。約束よ』


デウトとナデア到着する当日、ヘスティアからメールが入った。

マノンは着替え終わると、鏡の前に立つ。これからデウト達が到着する停泊所までリアム達と向かう。


「ティア姉、私さ、ヴェネトラで戦った時、レイラ姉に助けられたんだ。今度は私が…私達でレイラ姉のこと助けだそう」


頬をパシンと三回叩き気合を入れる。


リビングへ向かい、ドアノブを手に取り、元気よく開けた。


「おはよう、みんな!」



マシューは初めて乗る飛行艦に口をポカンと開け、呆気に取られて早二日。

同乗しているのは元王女…その前に女性と二人っきりで乗るというのは、気まずさ満点である。

部屋はリアムの所を使えばいいと言われた。彼の部屋はシンプルだった。貰った時のままの状態…と言えばいいのだろうか。自分好みに部屋をアレンジするのは嫌いなのだろうか。

エアルの部屋を覗かせてもらったが、車関係の電子ポスターにタブレットには購読雑誌がインストールされていた。ハイクオリティーのミニチュアモデルカーも飾られていた。

ますますリアムという人が、解らなくなってきた。


(リアム君は、強くて、引っ張っていってくれる力がある…。銃も詳しいし、ミリタリーが好きなのかと思っていた。でも、自分の趣味を部屋に飾らない事って、あるのかな…)


マシューも金属加工をして作ったブリキ人形を記念に飾ったりしている。また、両親や姉妹から貰ったプレゼントも飾るし、実用性があるなら使っている。

ブレイズの部屋には、同じ寮生活ということで何回も訪れることがある。彼の趣味満載で溢れていて、でもロックバンドの電子タペストリーからニ十分に五分映し出される女性の水着ポスター。髪の色は違うが、どことなくミラに雰囲気の似ているグラビアの子だった。

シレノの部屋も、リアムに似て入寮した当時そのままの配置だったけれど、この前遊びに行ったときはいつもと違った。


『これ、見て』


写真サイズのパネルに映し出されたのは、幼いシレノと、面影がある男性と、仲良さげに並ぶ少女。そしてたくさんの人々。


『この人が亡くなった父さん。で、こっちがイシュバ。お兄さんみたいな存在だったんだ』


『お兄さん…そっか』


独り、塗りつぶされた顔の男がいた。恰幅の良い男。多分、コア・ウーパーだろう。

あのラーメンいっちょでの出来事は、自分たちの距離をぐっと縮めてくれたと思う。


(リアム君も、いつか…)


少しずつでもいい。彼の根っこの、彼を動かす原動力になっているものを教えてくれる日を。

そんな二日間を過ごし、やっと辿り着いたヴェネトラ。

気疲れが凄まじい。


「お疲れ様、マシュー。ここから歩いていけば着くわ」


「はい」


マシューが住んでいた地区は通常の住宅街。工場はあったが、ここまでの地帯ではなかった。右を見ても、左を見ても工場。煙突から煙が出て、熱気と活気が肌に伝わってくる。

違法増築したかのような掘っ建て小屋の城が地帯を見下ろす、いや。見守るかのように中心部に建っていた。


「ここがマスタング商会」


看板にもちゃんと名が刻まれていた。


(思っていた感じと全然違う工場だなぁ)


見上げていると、ヘスティアがさっさと中へ入っていく。その後を追いかける。


「マスタングさん、お久しぶりです」


「おぉ!ヘスティア、よく来たな。お、ソイツが例の小僧か。俺はジョン・マスタング。よろしくな」


「マシュー・トンプソンです、初めまして」


ガっと握手をされ、手がビキビキと鳴る。流石職人、力が強い。


「彼には金属性なりの戦い方を教えていただきたくて連れてきたんです。少々無理する場面があって」

ヘスティアが心配そうに言う。


「金属性なりの戦い方、か…。それなら俺達の経験と、レイラが置いていった武器を持っていけばいい」

「え…」


レイラ。レイラさん。アマルティアの捕虜となっている、マスタングの弟子であり、娘のような存在だと認識している。


「ジョーイ!マシューに色々教えてやってくれ!」


「解りました。さ、マシューくん。こちらへ」


「あ、はい。ヘスティアさんは…」


不安そうなマシューを見て、ヘスティアは安心させるように微笑んだ。


「大丈夫。私も受け取るものを貰ったら、貴方達に合流するわ」


その言葉に、少し肩の力が抜けた。



ジョーイから、磁石を利用した反発魔法や、魔力ではなく火薬に頼った戦い方を伝授された。


「水魔法を使える同期はいますか?金属が水を吸い巨大になります。大勢を薙ぎ払いたい、分散させたいなら有効かと」


「はい」


ジョーイの説明をタッチペンシルでタブレットに記入していく。


「あと、マシュー君が自作していた武器、こちらでより殺傷能力の高いように加工しましょう。その間、武器庫があるので気になる物があれば持って行ってください。埃をかぶるより、使ってもらった方が武器も喜ぶでしょう」


「あ、ありがとうございます」


短時間とは言え、あのマスタング商会…マスタング兄弟の一人に指導してもらったのだ。緊張しない訳がない。

武器庫に行くと、壁に飾られた銃や剣、ケースに仕舞われている物、物騒なロケットランチャーがそのまま無造作に置かれており、別の意味で緊張が走る。


「銃はあるし…剣は…自信ないし…反発魔法のグローブは貰ってパッチの製造魔法は教わったし…」


駄目だ。今の自分に何が必要なのか解らなくなってきた。

自分の体力の限界も把握している。重い武器を背負い戦地を駆け抜ける体力は無い。


「………僕だけ、置いて行かれるのかな」


ふと、おもちゃ箱のような箱が目に入った。珍しく、紙に試作品と書かれていた。失礼を承知で覗いてみると、兼山のような武器、金属性のバトン、手裏剣など小道具がゴロゴロと入っていた。その上に、またノートが置かれていた。

ページを捲ってみると、武器の使い方が記されていた。兼山は水属性の力が必要、バトンは垂直に伸ばせば五百メートル、自在に操るには魔力量重要。


「すごい…えっと、コング砲…?コング砲はガチギレされた。使用禁止。使用するときは自分も死ぬ覚悟必須。あ…レイラさんが作った武器箱だったんだ、これ」


「マシュー君」


ジョーイがいつの間にか武器庫に入っていたらしく、声を掛けてきた。全然気づかなかったマシューは大げさなほど肩をビクリと跳ねさせ、振り向いた。


「は、はい!」


「すみません、驚かせてしまって…どうですか?いい武器はありましたか?」


「あ、あの。この武器を、お借りしてもいいですか?」


マシューが差し出してきたのは兼山型の罠二つとバトン型に形成を留めた鞭だった。


「勿論です。それと…こちらのデータを君に」


マジックウォッチにデータを送られ、確認すると散弾銃の銃弾製造魔法だった。


「これはレイラが通常の銃にも散弾銃の弾を適用するよう発明した魔法です。銃弾として装填し、そこに魔力を掛ければさらに力を発揮します」


――いいんですか、僕なんかが重要な魔法を教えてもらって。


そう、喉元まで出かかった。

その言葉をグッと飲み込んだ。


「ありがとうございます!僕、恥じないように、強くなります!皆のこと、守れるくらい!」



ヘスティアは新調された銃と、モアから譲り受けた剣を装着させ、試し切りをしていた。魔力を乗せていなくても、スカッとするほどの切れ味。剣が生きているかのように魔力を飲み込み、気持ちがいい程思い通りに炎が舞い踊る。体と剣が一体化したような感覚。


(体が軽い、不思議だわ)


乗ってきたヘスティアが次の攻撃へ移行しようとしたとき、ジョンからストップがかかった。


「そこまでだ。いやぁ、驚いた。まるで銃と剣に選ばれたようだった。動きも舞姫を見ているようだった」


「ありがとうございます。銃も剣も、意思があるかのようでした。私がどうしたいか組んでくれて、この子達がどうしたいか解るような…変な感じです」


「いい相棒になってくれて嬉しいよ。剣を譲ってくれた恩師も鼻が高いだろう」


ちょっと意地悪な表情を浮かべるモアが容易に想像できて、思わずクスリと小さく笑った。


「あと、お前さんの元の銃だが…使いまわせる部品を再利用して拳銃にしてみた。剣だけでも十二分だろうが、護身用で身に着けとくのもアリだと思ってな。思い出や想いが詰まっている銃だったみたいだったからな。ジジィのお節介だと思ってもらってくれ」


「…!本当に、何から何まで、ありがとうございます」


家族との、エルドとの唯一の繋がりだった銃が壊れ、今また、違う姿で蘇った。


(私も、お兄様とまた、兄妹に戻りたい…)


どんな形でもいい。エルドとまた、並んで歩きたかった。



ティアマテッタ

停泊所に着いたリアムとミラは緊張していた。


「何緊張してるの?」


何も気にしていないマノンが呑気に訊く。


「そりゃ、緊張するだろう…。エアル兄達を数日で強化した人だぞ。それに、俺達の祖先みたいな人達だろ?」


「まぁ無属性だけど…でも普通の人だよ!ね、エアル」


「普通…ではないけど、見習いたい人だよ。あんな風に年を取りたいねぇ」


エアルがしみじみ思い浸っていると、ミラがジト目で見てくる。


「エアル兄がなりたい男性ねぇ。なんか思ったよりも気張らなくてもいいのかも」


「なんでだよ!」


やんのやんの、四人が揉め始めるとスーッとやってきた飛行艦が着陸態勢に入る。同時にモルガンとブラッドを乗せた軍用車両が到着する。

モルガン達を見たリアムとミラはふざけから姿勢を正し、デウトとナデアが乗っている飛行艦を見たエアルとマノンは見上げた。


「丁度いい頃合いに来れたようだな」


モルガンが見守る中、無事着陸した飛行艦から暫くすると、デウト達が降りてくる。


「ナデア姉!久しぶり!」


「マノンちゃん!会いたかったよぉ!」


マノンは思いっきりナデアに抱き着いた。


「エアル君、久しぶり」


「お久しぶりです、デウトさん。紹介します。リアム・ランドルフとミラ・メイヤーズです」


「君たちが…初めまして。デウト・アルフレッドです。そしてこちらが」


「ナデア・フォルトーナと申します。覚えているかな?リアムくんとミラちゃん。これでも、小さい頃遊んだこと、あるんだよ?」


リアムとミラは顔を合わせ、言葉を濁しながら苦笑いした。


「すみません、覚えていなくて…」


「私もです」


「ふふ、仕方ないよ。リアムくん達が物心つく前くらいの話だもん。でも、また会えて嬉しいな!改めて、これからよろしくね」


不思議だった。覚えていないが、黒髪というだけで親しみが湧いた。人柄も好印象、マノンが懐いている様子を見れば、彼女がどんな人物なのかよくわかった。

デウトに合図され、ナデアは一旦リアム達から離れ、エアルを介し、モルガン達に紹介される。


「よく来てくださいました。モルガン・ハンプシャーです。こちらは部下のブラッド・ウォーカー。今回の提案に承諾してくださり誠に感謝いたします」


「こちらこそ、臨時指導官としての採用ありがとうございます。私もエアル君から訊いていたので、彼等を教えることが出来ること、嬉しく思います。こちらは弟子のナデア・フォルトーナ。彼女も優秀ですが、まだ修行の身。リアム君達と合同練習をさせていただくことも検討願いたい」


「勿論です。未来ある若者が切磋琢磨する機会を作るのも我々の役目です。着いて休憩といきたいのですが、その前に見てほしい場所があるのです。これから故郷とティアマテッタを行き来する生活がいつまで続くか解らないので、こちらでデウト氏へ社宅として住居を提供しようと話に出まして」


モルガンが説明しながら軍用車へデウトとナデアを案内する。リアム達は、その車を後方から走行し追尾する。

モルガン達が乗る車内では、こんな会話がされていた。


「軍から二キロ離れた所に、ずっと空き地があるんです。まるで、誰かの帰りを待っているような土地でしてね」


「それはまた、不可思議な土地ですね。買い手は付かなかったのですか?」


「昔は購入しようと試みた者もいたそうですが、事情は知りませんが結局今でも家が建つことはありません。そこをデウト氏が気に入れば建築を進める…という、ハハ。まるで押し付けるみたいで気が引ける土地だな」


モルガンが半ば呆れながら、お道化ながら言う。

車内から見る景色は、住んでいたころと随分変わった。五種の属性と、無属性…彼等が築き上げた新しい国、ティアマテッタ。だが、道通りは昔のまま…のような気がした。四百年経っても覚えている。この道を行けば、モアの家があった。そこからまっすぐ行けば、大叔父の家。そして…

停まり、降りるよう案内される。

デウトは少し強張った。そして心の奥の、ずぅっと奥が、苦しくなって、愛おしさが滲み出てくる。自分を抑えるために、奥歯をグッと噛み締めた。


「どうですか?曰く憑きと言われている土地ですが…」


「貴女は、もしかして意地悪な性格なんですか?」


「まさか!喜んでいただけると思っただけです」


デウトはボーボーに生えた草の書き分け、崩れた祠にそっと手を添えた。

懐かしい、忘れかけていた声が鮮明に聞こえてくる。


――『デウトお兄さん!』

――『デウトさん…おかえりなさい』


「ただいま…ただいま…!ナナリーさん、パーシー、帰ってきました、やっと…」


デウトは目頭が熱くなり、手で覆った。ナデアが心配し、駆け寄ろうとしたがモルガンに止められる。


「もう少し、そっとしといてあげてもいいかい?」


「ぁ…そうですね。デウトさんが落ち着くまで、待ちます」


ここは、予想通りアルフレッド低があった跡地だった。

ずっと永い間、主人の帰りを待っていたかのように、誰の手にも渡ることなく、今日までを過ごしてきたかのように、守り続けたかのようだった。


「モルガンさん。この土地、買います。そして社宅ではなく、ちゃんと自宅として建築したいのですが」


「勿論!デウト氏がそう望めば、そのように手筈を進めるつもりでした。では、暫くはホテル暮らしになりますが…早急に進行します」


デウトとモルガンのやりとりを見ていたリアムが、エアルに小声で尋ねる。


「モルガン少佐、解ってて案内したのか?」


「俺の話を聞いただけでピンときた人だ。しかも土地はずっとあのままの状態。これから着工するにあたって何事もなく進行できれば、少佐のサプライズは成功って訳だ」


ふと、父の顔が過った。

父が生きていたらモルガンと同じ行動を取っただろうか。それとも、自らデウトを探し出しただろうか。いや、多分存在は知っていても、テマノスに土足で上がりこむようなことはしないだろう。


「やっぱ、追いつきてぇなぁ」


モルガンを超え、父に追いついた時、そこに待つのはナノスだろう。そして、ミラと自分の両親の仇を取る。



今夜はホテルではなく、ランドルフ家に泊まってもらうことになった。手続きなどが終える数日後には、本格的に指導官として軍に臨時所属する。


「ヘスティアさんが外出中なの、残念だなぁ」


「日帰りだから、明日の夜か早朝には帰って来るんじゃないかな?」


「え、日帰りで?!ここからだと二日くらいかかるんじゃない?」


「うん。急遽軍人の子を誘ったみたいでさ。長期休み取るには申請とか必要だから通常休日利用しての弾丸」


マノンの話を聞いて、ナデアは不安になる。デウトが軍に時間を取られたら、誰が混血の子を捜し、保護するのかと。

一方、デウトはリアムとミラにルナールと呼ばれていた頃の話をしていた。


「メイヤーズ家の当主は当時男性でね。一族は皆君のように優しい顔付きをしていたよ。聞いているよ、医療班に勤めているんだろう?彼等も、命を助けるために尽力していたよ」


「でも、私固有スキル使えなくて…」


「当時も、スキルが使える者は半々と言ったようだった。スキルが使えない者は腕を磨き治療していたよ。引けに感じることはない」


「当時から、もうスキルが発動するか怪しかった節があったんだ…」


それを聞いたミラは、どこか気持ちが楽になった。発動できない自分や父が悪いのではなく、何かしら原因があるのかもしれない。


「スキルについて、調べていこうかな」


発動できなくても、知ることは大事だろう。


「私が最初で最後にあったランドルフ家当主は女性で…ヴィクトリアと名乗っていた。やっぱり子孫だからかな。面影が似ている気がする。もう遥昔だから朧気だけど…気高くて、凛々しかったよ」


「…俺、父の本職のこと、知らなかったんです。話を聞くと、皆…凄かった、立派だったと口を揃えるんです。でも俺は、まだ粗暴な戦い方しか出来なくて、先読みが出来ているかも怪しくて。父や先祖のヴィクトリアのようになれるんでしょうか」


珍しく弱気なリアムを見て、ミラは憂いの表情を見せる。


「背中を追うのもいいですが、君に合った戦い方を私は教えるつもりです。無理に形に収めるより、器を壊して最大限に発揮させたい。その結果が父上やヴィクトリアのようになるか、リアム君ならではの戦闘スタイルになるかは、いずれ判るでしょう」


酒をたしなみながら、デウトはどこか嬉しそうに語る。


「俺の、戦闘スタイルか…」


こうして夜は更けていき、月日が経っていく。時は進む。

デウトは無事臨時指導官として軍所属となった。リアムを含む選抜メンバー百人の指導官としてまずはスタートした。その中には勿論、ブレイズ、シレノ、マシュー、ゾーイも選ばれている。

ナデアも参加する時もあれば、デウトの代わりに混血児保護の役目を担った。しかしあまりティアマテッタから長く離れられないナデアの代わりにテマノスの若い衆が見回りに行っている。そして見つかれば保護、戦闘が必要だと判断があればナデアと連絡をし合い合流した。

ミラもモルガン指導の下銃の腕前を上げていく。看護師としての腕も磨きがかかり、気が付いたら周りから頼りにされ、先輩と呼ばれる時期になっていた。

マノンはヘスティアとエアルに扱かれながら入隊試験に向け奮闘していた。



――そして、二年の月日が経った。

原作/ARET

原案/paletteΔ

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