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ETENITY00  作者: Aret
3章・・・意思・マノン外伝
82/113

80話・・・シヴィルノ7

作品を読みにきて頂き感謝です。

投稿が若干緩やかになってますが、サボっているわけではないです。本職が忙しくなかなか書く時間が取れない感じです。

この作品を読んでくれている皆さん、更新は続けますので、懲りずにお付き合いくださいませ。

クレアはヘスティア、シアと共にアマルティア軍兵士を倒していく。倒す、と言ってもクレアは役立たずと言ってよかった。銃を構え標準を定めようと動く敵を追っているうちに反撃され、シアに守られ、その隙を突きヘスティアが敵を燃やす。もはやこれが連携とかしていた。


「エアル、私達は残党を始末するために城内へ行きます」


「任せた!ついでに余裕があったら爆弾も手伝ってくれ!」


ヘスティアに言われるがまま、クレアは二人の後を追いかける。

(ヘスティア様、王女なのにとても強い…。あんな凶暴な男達をいとも簡単に倒していった。エルド様の件もあったから…?血の滲む努力をしたの?)

非常事態なのに自分の弱さが憎くなり迷いが生じる。


「クレア様!」


「あっ!」


アマルティア兵士がクレアに向かい剣を振り下ろそうとしてきた。

(足手纏いは嫌!迷っていたらダメ!)

咄嗟に引き金を引いた。反動でよろけ尻もちを付いてしまった。銃弾は外れ、クレアは絶体絶命に陥る。


「王女に手を出すな!」


敵の首に深く刃を斬りこんだのはシアだった。目を見開き、出血個所を押さえ倒れこみ、呼吸が聞こえなくなっていく光景に、クレアは震えあがることしか出来なかった。


「大丈夫ですか、クレア様」


「え、えぇ…。で、でも、殺すまでしなくても」


「クレア。その優しさは捨てなさい。敵に…アマルティアに情けは必要ありません」


そう言い放ったのはヘスティアだった。


「シアがいなければ、貴女が殺されていたのです。私達は味方と敵、どちらの命を天秤にかけ助けるかなど、とうに決まっているのよ」


「厳しいですが、ヘスティア様のおっしゃる通りです。クレア様の優しさは、国民や世界の人々に向けるものです。曖昧で形の無いふわふわした感情…優しさという感情を間違えないでください」


二人の考えに、反論出来なかった。

三人は残党を倒しながら城内を駆け回ると、複数人が集まり何かを見ているようだった。


「皆さん、どうしました!?」


クレアが声をかけると、シヴィルノ私兵の一人が顔を上げ、敬礼する。


「はっ!ただいま爆弾処理に成功したところです!」


「それは、よかった…安心しました。心から感謝いたします」


「それよりクレア王女、ご無事だったのですね!」


その場にいた招待客が安堵し、涙声で歓喜する。


「えぇ、助けが来てくれました。ところで、爆弾の解除はどうすれば出来るのですか?私達も協力します」


その言葉に皆が喜び、笑顔が戻る。


「心強いお言葉です。では本題の爆弾ですが、解除と言いますか…凍結させると簡単に止まりました」


「凍結ですか?」


経緯を述べると、爆弾処理班がコードを解除しようとしたところ、火属性魔法が掛けられているだけだった。場所が外であり、一か八かで水属性の私兵に氷を形成させた。すると、魔力が消失し爆破する危険性はなくなった…ということだった。それが解り、来賓客含め、水属性の皆が爆弾を止めるべく、一致団結し奔走しているとのことだった。


「黒髪の男性がクレア王女は任せろ、我々には国王と王女を守るために爆弾解除をしてほしいと頼まれたのですが…彼を信じてよかった」


エアルのことだ。


「状況は解りました。シア、ティア姉様、参りましょう」


「はい」


「えぇ」


「私達もアマルティア軍を倒しながら爆弾を探します。無理だけはしないように。お互い、また無事に会いましょう」


クレアがお辞儀をすると、三人は走り出した。


「クレア様、立派でしたよ」


「え?」


「クレア様のお言葉と凛々しさで、彼等は勇気を得ました。さらに活躍するはずですよ」


シアの言葉で、少し気が楽になった。


「あ、当たり前よ。私は時期女王になるんだから」


そんなクレアの背中を見ながら、ヘスティアは逞しく育ったクレアを嬉しく思った。

そして、今のクレアならシアと離しても大丈夫だと確信した。


「シアさん。お願いがあるの」


「はい、なんでしょうか。ヘスティア様」


「すぐにパーティー会場へ向かってほしいの」



今回、場所的にソイルは不利に入るだろう。前回のティアマテッタ戦では魔力で自然の土を利用しゴーレムや地割れを発生させることが可能だったが、ここは建造物。利用できる土は、己が生み出す魔力しかない。

(油断するな、エアル。アーレント…ネストを殺したあの訳わかんねぇ技を出されたら、俺もマノンも国王もお終いだ)

マノンはジェムと互角に戦えている。いや、互角になっている、クローンのほうが。

今のマノンなら、ヴェネトラで出会った四姉妹を有利に倒せる。だが、クローンも技術が進化していることを思い知らされる。たった数ヶ月でバージョンアップが出来るのかと。

(いや、最終試験の日に襲撃に来た双子クローンもリアムと張っていた。このペースだと、俺達人間が成長する前にクローン技術が進歩して厄介なことになりかねないぞ!)


「考え事か、エアル・アーレント」


即座に反応し避けるが、砂が左腕を掠める。服がスタボロに破けており、皮膚にも当たったせいで表面が血で滲んでいた。


「クレア王女があんな別嬪さんだとは思わなかったからな。つい想い馳せちまったぜ」


ヘスティアが聞いていたら「セクハラ」と嫌味をネチネチと言われ続けるだろう。


「クレア王女…確かにそうだな。亡くなられた王妃に似て美しく成長された…。ジェムの異変に気付き行動を起こす勇気、正義感溢れる素晴らしい女性だ。父親の国王とは違ってな」


胸騒ぎがし、エアルは魔弾を放ち、語りを遮ろうとするが相殺される。


「邪魔だ!」


油断していた。エルドだって、何も燃料になるものが無い場所に魔力だけで炎の渦を生み出す男だ。そういう奴が他に居たって可笑しくない。

エアルは砂の嵐に巻き込まれ、視界を奪われる。目を開けば砂の粒子が入りこむ。砂の摩擦のせいで皮膚が焼き爛れていくような激痛が走る。


「クソ!」


黒の魔弾を数発撃ち、やっと砂の嵐を消し去る。

息切れをし、疲弊した表情でソイルを睨む。ここに来る間に何人倒したと思ってんだ。それでも勝てると踏んだ自分の計算ミスだ。いや、慢心していた。デウトから教わり強くなった自分に。

エアルがどう突破するべきか考えていると同じように、ソイルも思考を巡らせていた。データより、エアルの動きが確実に鈍い。

常に一定の距離を保ち攻撃を仕掛けてくる。まるで何かに注意…怯え、警戒しているように。

(そうか…ネストが死んだ時を思い出しているのか!)

解ってしまえばあとは遊ぶだけ。


「アーレント、お前もネストやアイアスと同じように死にたくないか?」


その言葉に、エアルと聞こえたマノンは目を見開いた。


「エアル、逃げて!」


「相手の心配する暇あんのかよ!」


「うっせぇ!」


ジェムはマノンに襲い掛かる。

ソイルは銃を構えると、銃口、そして銃全体からサラサラと砂が螺旋を描くように溢れ出てくる。

砂は大きな針の形状となり、刃先をエアルに向ける。


「逃げても追いかけるからな。犠牲者を出したくなかったら、お前が全て受け止めろ」


引き金が引かれ、数十本もある針がエアルに襲い掛かる。

無の盾を造る一瞬の隙を突かれ、手の甲に針が刺さる。


「痛っ!」


目が覚めるような激痛。取ろうとしても砂利が邪魔をして簡単には取れない。


(ん…俺、なんで針を取ろうとしてんだ。本来なら、俺の手は…)

アイアス夫婦、そしてネスト。遺体から見ても、穴が開いていた。そう、本来ならエアルの手は貫通し、形状が保てなくなり失うはずだった。

だが、それが起きない。つまり

(この攻撃は脅し…ネストを殺した秘密兵器じゃ無い…じゃあ、ここの襲撃は?なんで襲った?故郷への復讐で?それにしては手ぬるい感じ…そうか、こいつ等はティアマテッタの時のように本気で潰しにかかっている訳じゃない!)

エアルは無理矢理手から針を抜く。


「お返しさせてもらうぞ、ソイル!クラスブースト!」


発動したスキルは、黒い閃光を走らせソイルに襲い掛かる。ソイルも土の盾を形成するが、それも無効化され露わになってしまう。そして、直接無属性魔法を食らった。


「ぐああああああああああああ!」


逃げたくても逃げられない。手足に重力がかかっているかのように、または無重力で捕まる場所がないように。体は浮き、体内は圧迫されていく感覚。


「な、んだこれは!なんだぁあ!」


ソイルが吐血したところで、エアルはスキルを止めた。床に倒れこんだソイルに近づき、銃口を頭に突きつける。


「おい、どうしてシヴィルノを襲撃した?本当に国の乗っ取りが目的だったのか…?」


体力も魔力も随分持っていかれたソイルは激しく呼吸をし、肺に十二分な酸素を送り込む。


「…知ったところで、後悔するぞ」


「は?」


「王妃は、肥立ちが悪くてな…」


「俺は昔話なんぞ所望してねぇぞ」


「クレア王女を胸に抱く瞬間をこの世で一番待っていた女性だ」


エアルを無視し、ソイルは話し続け、銃を置いた。戦う意思が無い…ということだろうか。一瞬拍子抜けしたが、しかし警戒は解けない。エアルはそのまま銃を向ける。

(なんだ?今までのソイルだったら、こんな行動…侮辱だと思って絶対に取らないはずだ。何を考えている?)


「私は王妃を憧憬していた。立派な国王と、芯のある王妃。しかし王妃は亡くなられた。どんなに医療が発展しても、出産だけが未だに昔のままだ。どんな病気も治せ、怪我も治せるというのに」


「…何が言いたい。出産への医療技術発展を願うのか?ならナノスに頼んだらどうだ」


もう、この時点で会話を進めたくなかった。イグドラヴェでマフィアから聞いた過去が蘇る。


――シヴィルノの国王は娘が生まれてから調子に乗っていた


「王妃が亡くなる直前。衰弱した中、夫である国王、そして家臣等に遺言を託した。姫を立派に育ててほしい。他の国と平和を築き、姫を少しでも苦労させない政治をしてほしい。それが王妃の願いだった。だがどうだ、実際は。知っているだろう、国民の皆さん」


訳が分からなかった。

ソイルは自分ではなく、誰に語り掛けている?

雷が落ちたように、何かに気付いたエアルは急いで外を覗くと、賑やかしかった街は静寂に包まれ、皆マジックウォッチを凝視していた。

暗い個所からぼんやりと見えるのは、音声だけでなく、戦意喪失したソイルと、ソイルを打ち負かしたエアルも映っていた。


「…!テメェ、まさかマジックウォッチをハッキングして!」


「理解が早いのは助かるよ、アーレント。ナノス様の手にかかればハッキングし、会話を垂れ流しにするのなんて朝飯前だ」



ここから先はイグドラヴェでマフィアが語った通りだ。

シヴィルノはマジックメタルを欲するあまり、各国に戦争を吹っ掛けては奪い、時には敗北した。国は戦いに勝つために戦士育成をし、武器の発展を遂げ、国は潤うことになった。しかし、輝かしい発展の裏には…夫や息子、兄弟、そして友人、恋人を失った人々の存在がある。国のためだと我慢した。我慢していた。正義だと信じて。



国民が一気に王に不信感を持った瞬間だった。

ここで突撃され、反乱を起こされたら収拾がつかなくなる。


「ソイル、テメェの目的はこれか…?国民に国王を殺させるつもりなのか?」


「好きに考えればいい」


残酷な眼差しがエアルを捉える。



水属性は土属性に不利だ。魔力ランクも同じくらいだろう。しかし今のマノンは違う。

ジェムは女だし、水属性で、しかも混血のマノンを甘く見ていた。余裕で勝てると見くびっていた。


「くそ、クソ!聞いていた話と違うぞ!混血児は属性同士が邪魔しあうはずなのに!どうしてお前は器用に扱ってんだよ!」


氷の粒手に無属性の黒い光を纏わせ、ジェムが放つ土球、泥水、砂粒などを相殺、或いは土に勝ちジェムにダメージを与えてくる。

ドレスのスカート部分は破かれ、限られた範囲を縦横無尽に動く姿は猿のようだった。そしてこちらが隙を見せると攻撃を仕掛ける。


「紛い物のくせに、調子に乗るな!」


「じゃあ言わせてもらうけどさぁ!偽物ならもっと本物に近づけるように頑張りなよ!だからクレアに見抜かれて自由行動を許したんじゃん。しかも、本物のクレアと影武者クレアのことすら見抜けないなんてさ、本当、残念だよね!」


「黙れ!お前等の顔なんてどれも同じなんだよ!」


「でもソイルのおっさんは見抜いていたじゃん」


「本当に口の減らない女だな!」


マノンの顔面に泥を発射し、視覚を奪う。思った以上に重く水を含んだ粘土状の泥は鼻と口も覆い呼吸が奪われる。

咄嗟に拭い、自身に向かい水を被せ洗い流す。


「ゲホッ、ゲホッ…!畜生、見失った」


辺りを見回すがジェムの姿はない。

(床を土に変えて潜んだ?そんなこと出来るのか?あぁ!土属性が建物に対してどこまで対応術を持ってるのか知っとけばよかった!)

不幸にもマノンの周りに土属性は存在しない。孤児院でも、土属性の子と稽古をするときはいつも外だった。室内での戦闘は想定されていないものばかり。

あくまでも神父様が教えてくれたのは護身であり、誰かを傷つけるための戦闘訓練ではない。

(どこだ、どこにいる)

アイズで確認できるだろうか。

迷っている暇はない。逃げられたのなら、急いで追わないといけない。


「スキル発動」


アイズが発動し、僅かな隙間、異変、砂の粒を隈なく探す。その時、僅かな音を聴覚が捉えた。…イヤーズが発動したのだ。

(見つけた!)

土、地面という先入観で下ばかりに意識を向けてしまったが、ジェムの潜伏先は天井裏だった。水魔弾を撃ち、天井を破壊するとジェムが落下してくる。


「ッチ!思ったより早く見つかったが、残念なのはお前のほうだ!」


ジェムの眼が血走り、血管が浮き上がっている。増強剤を打ったのか…


「死ねぇ!」


そう言い放つと、土石流がマノンを襲う。

氷のドームを作り、免れるが圧の力で罅が入る。このままだとすぐにドームは壊れる。


「マノン、大丈夫か!」


エアルの声がする。


「エアルこそ大丈夫?!巻き込まれてんじゃないの?!」


「咄嗟に天井上に逃げた!土石流でどさくさに紛れて逃げたソイルを追わなきゃならねぇ。一人で大丈夫か?」


氷の向こうから見えるエアルはぼやけていたから、どんな表情をしていたか解らない。でも、その言葉はマノンを信頼して、勝てると信じて言った言葉だと解った。


「大丈夫!絶対勝つ!」


「じゃ、後で合流するぞ」


考えろ。

無属性魔法では、まだジェムを超えるほどの威力は出せない。水魔法と合わせ技でも相性が悪い。カッコつけて、一人で大丈夫と言った以上なんとか突破したい。

(これから先、たくさん相性が悪い奴と戦うことになる。どうにかしないと、考えろ!)

その時だった。


「マノン様!」


シアが突然現れ、砂利を大量に発生させ、土石流攻撃が止まっていく。


「シア!どうしてここに?」


氷のドームを壊し、不安定となった粘土状の土の上に這い上がる。


「クソ!邪魔が来やがった!お前等まとめて殺してやる!」


ジェムがまた強力魔法を発動させようと銃に魔力を溜める。

迷っている暇はない。自分独りでどうにかしようと、意地を張っている場合でもない。使えるもの、助けてくれる人はなんでも利用する。勝つために。


(カッコつけたけど、今の私じゃまだ知識が足りないようだったなぁ…)


「シア、力を貸して!」


「もちろんです!」


二人は駆け寄り、ジェムに向かい銃口を向ける。


「オラアアアア!」


「行くよ、シア!」


「はい!」


三人が同時に引き金を引く。

土砂崩れがマノン達に襲い掛かるが、それを上回る力を発揮する。

シアの大量の砂を、マノンの水と無の魔力が吸い上げ殺傷力の高い竜巻へと変貌する。竜巻は土砂を吸い上げ、ジェムに襲い掛かる。

城内に、ジェムの断末魔が響いた。

会場内が静寂に包まれる。

天井も、壁も破壊され、外から丸見えになっている。外からは民衆が大騒ぎし、野次馬で溢れていた。

マノンはゆっくりジェムに近づくと、アレーク達と同じように、身体の融解が始まっていた。


「嫌だ、死にたくない、死にたくない…!俺は、ただの代理人形として生まれたわけじゃない、ジェムを殺したら、俺が本物に、な、た、のに…」


身体は完全に溶け、自身で作り上げた土の中へ染み込み、跡形もなくなった。


「彼は、一体何者なのですか…」


唖然とし、震える声でシアが尋ねる。


「クローンだよ、多分ね。前もクローンと戦ったことがあるけど、死に方が同じだった」


「そんな、それは、それは命への冒涜です!」


「うん。クローンを造っている奴は彼等のことをただの兵器としか思っていないよ。…クローンだって、命があるんだ。生まれた瞬間に。自我だってある。それを、欲望や目的のために簡単に消費していくんだ」


それは人間に対しても同じだ。


マノンの中で、ナノスへの憎悪が更に膨らんでいく。



エアルはソイルを追いかけ、廊下に出ていた。

優雅に歩く後ろ姿に腹が立つ。


「おい、待ちやがれ!」


「わざわざ声をかけてから攻撃をしようとしているんじゃないだろうな」


「お前に訊きたいことが出来た。何故シヴィルノから追放された?何故王妃の詳細を知っている」


「それはあのモルガンという女に調べさせたらどうだ。私からお前に安々と話してやる内容などない」


そう言うと、時空の切れ目が発生し、ソイルが中へ入っていく。


「おい!あのクローンはどうするんだ!」


「アイツは用済みだ」


それだけ言い残すと、裂け目は閉じ、何もない空間だけに戻った。

エアルは拳を力一杯握る。


「アイツだけは絶対に殺す」



その後。爆弾を全て発見し、氷結し解除に成功した城内は歓声で溢れかえった。本物のジェムも、誰も寄り付かなくなった負の遺産である牢屋に閉じ込められているのを発見され、無事保護。

その夜は、クレア王女の災難な誕生祭となったが、英雄姫が誕生したと国民が更なる喜びを得たのも確かだった。

…それとは別に、国王の過去の罪に対し、不平不満が爆発することを恐れたが、今国が豊かになったのも、今の生活があるのも事実。

過去を反省し、また共に歩んでくれる王になってほしいと願い、国民は許すことにした。ソイルの目的だったかもしれない暴動は起きずに済んだ。そして、クローンのジェムとクレアの婚約、結婚も未然に防ぐことに成功した。



翌日。

クレアとシアはマノン達を見送るために、護衛と共に隣の村にまで足を運んでいた。


「マノン、ティア姉様。エアルさん。偶然とは言え、我が国の危機を助けていただき本当にありがとうございます。感謝しきれません。後日、またお礼をお送りいたします」


「そんないいのに」


「父がしたことは許せません…。でも、今は友好を築いています。これからは私も外交に積極的に努めてまいります。そしてもっともっと、母に誇れる国にします」


「うん、クレアならきっと出来るよ!私もやりたいこと見つけないとな。仲間やクレアに置いて行かれちゃう」


二人はふふ、と噴き出し笑い出す。


「また来てね、マノン」


「クレアも、我が家に来てよ。シアや王様が許してくれたらだけど!」


握手をし、別れを惜しみながらその手を放した。

飛行艦の窓から見えなくなるまで手を振る。返すように、クレア達は飛行艦が見えなくなるまでその場に立ち、見送った。


「行ってしまわれましたね」


シアが心なしか、寂しそうに言う。


「そうね。でもお家に招待されたから行かないとね」


「許してくれますでしょうかね」


「シアの言い方を聞くと、シアは許してくれるんだね。じゃあ、お父様を説得するの手伝ってよ」

「全く…クレア様は」


困り眉をし、小さく溜息を吐く。


「帰りましょうか、私達の家へ」


「帰りましょう」


クレアが合図を出すと、護衛隊の先頭隊が先を進み始める。車に乗り込み、田舎風景をぼんやりと眺める。

こんな長閑な村を守りたい。国をもっと豊かに…争いの無い国にしたいと改めて誓う。



飛行艦の中では、ヘスティアの雷を落とされるマノンがいた。


「いいですか?!もうタナスとマーガレットには二度と、二度と!近づかないようになさい!返事は!」


「はい…」


「はぁ。でも、無事でよかったわ。本当に何もされていないのね?」


「うん、そこは大丈夫。クレアも傍にいてくれたし」


まるで母親と娘のようで、エアルは笑ってしまった。


「まぁまぁ。もうそれくらいで勘弁してやれって」


「そうね。じゃあ、次は貴方に移りましょうか」


「へ?」


「どうして連絡をくれなかったの?しかもクレアの誕生会当日になってフラッと現れて、婚約者が可笑しいって噂を聞きつけたとか言って、」


うんたらかんたら…

要約すれば、エアルは飛行艦を修理するために先乗りしたまでは予定通りだった。しかし、ジェムが可笑しいと耳にしたこと、そしてマスタング商会の話題が修理先で盛り上がり、気に入られてシヴィルノ城とジェムの動向を見張るため、バイトとして潜入し客から情報を集めるのに専念した結果、連絡を取ろうと思いつつ忘れたのだった。


「これから報連相を怠ったらその回数分ビンタします。二人共よ。覚悟なさい」


「ティア姉も報連相怠らないでね?」


次に向かうは、ヴェネトラ。

修理はしてもらったが、念のため。そして、レイラ達の現状報告をしに…。



これはまだ先の話だ。

数ヶ月経った頃。

シヴィルノでは根も葉もない噂が囁かれていた。


――「なぁ、クレア王女の誕生日会の日、国王は自分だけ安全な場所にいたらしいぜ」


――「実の娘を敵に売ろうとしたらしいわよ。信じられない…」


――「あの国王、俺の倅を戦争に向かわせて殉職させたんだ。国が豊かになるためだと我慢したが…王妃の願いと全然違うじゃねぇか!」


――「可笑しいと思っていたのよ。あの王妃様が姫さまのために、他の国を犠牲にしてまでシルヴィノを豊かにしようと願っているはずないのに」


――「国王は、自己満足のために戦争を起こしてマジックメタルを強奪したのか?だけど、俺達にマジックメタルなんて渡ってないぞ」


――「なぁ、ソイルってもしかして、王妃のことを…」


最初は仕方なかった、最愛の王妃が死に、願いを叶えるために過った戦争を起こした哀れな王として、国民は支えようと、今度は戦争に頼らず豊かな国にしようと心に決めたはずだった。だが、違和感、怒り、疑惑、嘘…それが静かに、一人、また一人。知り合いから聞いた、聞いた噂として事実と嘘が蔓延り始める。

そしてこの摩擦は大きくなり、後に反乱を起こすこととなる。

また、ソイルの手によって…

次話でマノン外伝は完結です。


原作/ARET

原案/paletteΔ

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