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ETENITY00  作者: Aret
3章・・・意思・マノン外伝
79/113

投稿1周年・・・特別編 後編

作品を読みにきて頂き感謝です。

後編をお楽しみください!


エタニティ一周年特別篇後半


ギャルソンがマイクを握り、ルールを説明し始める。


『ルールは簡単、ノックアウト形式で進行させていただきます。アプリをダウンロードし、ライフポイントがゼロになったら敗北となります。また、今回は特別ルールでライフポイントがゼロになる前に気絶させることも許可いたしますので、水鉄砲をぶちまけてくださいませ』


「随分ぶっ飛んだルールだな」


リアムは少し引く。


『では、チーム分けは男性陣対女性陣で。最終的にはライフポイントが多く残っている方に優勝賞品を贈呈させていただきます』


「ちょっと待って!男女別でのチームになると、女性側がたりないんですけど」


ミラが手を振り、ギャルソンにアピールする。


「そこは大丈夫だ!私が入ろう!」


モルガンが早速水鉄砲と、ホースが繋がった貯水タンクリュックを背負い、構えてポーズを作ってみせる。


「それでも…えっと」


男性側はリアム、シレノ、マシュー、ブレイズ、エアル、ブラッド、デウトの七名。

女性側はミラ、ゾーイ、マノン、ヘスティア、ナデア、モルガンの六名。

一人足りない。パワーバランス的にはデウトから指導を受けたヘスティア、マノン。そして弟子であるナデアがいるから均衡はとれているかもしれない。ミラの力不足の面もカバーできる。しかし男性側はエアルよりも勝るデウト。他は皆軍人。シーソーのように、バランスが取れず傾いたりして平行が保てない。


「それなら、私が抜けて審判にでもなりましょうか」


デウトが外れると名乗り出た。


「え、デウトさん参加しないんですか?」ナデアが残念そうにする。


「若い皆さんとはしゃぐ歳でもないからね」


少し恥ずかしそうに笑い、デウトはベンチに座る。

それを見ていたモルガンは黙っていることにどこか不気味さを感じた。


『では、六対六になったので、準備ができ次第開戦とさせていただきます』


水鉄砲セットを背負う前に、リアムはTシャツを脱いだ。


「あれ、脱いじゃうの?」マシューが聞く。


「あぁ、濡れるなら最初から無い方がいいだろ」


「そっか。僕は…着たままでいいや」


「おう」


「じゃあ、僕は脱いじゃおうかな。リアム君の考えは一理あるしね」


そう言うとシレノも脱ぎだした。


「しゃー!俺もこんなTシャツ着てられっかよ!」


マシュー以外の男性陣は皆Tシャツを脱いでの参戦となった。女性陣は、皆着たままだった。まぁ、プールで泳ぐわけでもないのに水着姿を晒す必要もない。


「準備出来ました」


「こっちも完了です!」


リアムとミラが声を上げる。


『それでは、開始!』


パァーンとブザー音と同時に、一斉に動き出す。


「作戦通り…ちょ、モルガンさん?!」


女性陣は作戦を立てていたようで、決行しようとした瞬間、モルガンはターゲットとは違う相手に向かい走り出した。


「ブーレイズくーん!こっち見てぇ!」


「ハァ?!」


ブレイズの前に、ジャンプして大きな胸が上へ大胆に持ち上がる。そして目の前に着地すると、その胸は上下に揺れる。Tシャツを着ていても解るくらいの大きさ…。


「ブ、フハァ!」


女性に免疫が無いのと女性への夢を見ているブレイズにとって、モルガンの胸が揺れるだけでも刺激は強かった。鼻血を出し、動揺して膝を突く。


「今じゃ!」


モルガンが水鉄砲をピュピュピュン!と射撃する。


「ちょ!ギャーアアア!」


ブレイズは這いつくばり、顔だけをなんとか上げモルガンを睨むが、ローアングルからはまた別の世界が広がっていた。足の隙間から見える尻たぶ、そしてTシャツの裾の下にはくびれた腹、見える臍はどこか色っぽく感じた。


「あ、はわわわゎ…」


顔を真っ赤にし、頭や大事な箇所に血が溜まったブレイズは、また鼻血を吹いて気絶した。


「テメェ!どんだけ色仕掛けに弱いんだよ!」


リアムは思わず叫んだ。リアムに続き、シレノとエアルも好き放題言う。


「デートクラブに頼んで女の子とデートしていただいて免疫付けた方がいいんじゃない?」


「ブレイズ、お前はまだ童貞を卒業出来る日は遠いな。もしかしたら、永遠に来ないかもしれない…」


(覚えてろよ、テメェら…)


混濁した意識の中、ブレイズはリアム達に一発拳を入れることを決めた。



「初心な青少年が秒でリタイアしたせいで男性陣が不利になってしまったな」


モルガンがわざとらしく溜息を吐き、肩をすぼめやれやれと呆れて見せる。


「初心だと思うなら標的にしないでいただきたい」


ブラッドが睨むが、

モルガンは既にブレイズに興味を失っており、本来狙っていた人物に標的を定めていた。


「そうだ!デウト氏、代理で参戦してはどうだろうか!」


突然の提案に、座って観戦していたデウトは少し驚いた。だが、困り笑みを浮かべ丁寧に断る。


「いえ、私は…」


「エアル氏から伺っていますよ。それなりに完成していたエアル氏やヘスティア女史をさらに磨きをかけた実力者であり、指導者だと…それはもう是非、私も手合わせ願いたいくらい!実戦では流石に民間人相手に銃撃などご法度ですから、せめてこのゲームで遊び感覚で対戦できたら嬉しいのだが」


「あはは…そう言われても、困ったな」


そこにナデアがデウトを守るべくモルガンの隣にやって来る。そして耳打ちするように小さく話しかけた。


「デウトさんは、長い間ずっとこういう遊びから離れていたので…あまり強引に誘うのは…」


「ふむ、そうか。それは残念だ。遊び心を無くした大人程つまらない人間はいない」


「アンタは遊びを通り越してふざけてますけどね」


リアムがボソッと呟く。


「なんか言ったか、リアム氏!」


「いえ、何も!」


「デウト氏、残念です。あ、もしかして銃じゃないと魔力頼りが出来ないから不安とか?あれ、剣がご専門でしたっけ?魔力が使え無いから怖くてへっぴり腰になってます?トロピカルなんとかっていう秘密道具が使えないからビビってますぅ??あらあらなんともか弱いことですこと!あ~!もしかしてこんな四十年も生きていない女に負けたらどうしよう!なんてご心配とかして遠慮されてます?イケイケダンディアな貴方が負けたとしても若い子からすれば『負けても素敵!一生懸命頑張ったデウトさんかっこよかった!よちよち♡』てなりますから!どっちに転んでも貴方には得しかないでござるよ?!デ・ウ・ト・氏~?!」


モルガンが目をかっぴらき顎をしゃくれながらノンブレスで煽る姿に、周りはドン引きした。ちなみにトロピカルなんとかはトロープスのことを言っているのだろう。この発言さえも、覚えていてわざとなのか、本気でうる覚えなのか解らないのがまた怖い。


(モルガン少佐がこんなアホ面平気で晒す人だとは思わなかった…)


リアムが白目でモルガンを見る。


(デウトさんにこんな食って掛かる人、初めて見たぁ)


ナデアは青ざめ、デウトを心配する。デウトも大人だ。煽りたい性くらい十二分な程付いている。だが、先程モルガンの事を褒めていた。きっと、一戦交えたいくらいに。


「あの、デウトさん…?どうします?」


ナデアがそっと尋ねると、デウトはくっくくと笑いだす。


「っくっくっく、ハハハ!いいでしょう、貴女の宣戦布告、受けて立ちます!」


デウトの目の奥が炎と煌めきで輝く。バッと気絶しているブレイズから水鉄砲セットを奪うと即座に身に着ける。


「行きますよ、モルガン君。勝負です!」


「その言葉を待っていた!」


目にも止まらぬ速さで、二人は射撃しながら何処かへ走り消え去った。


「き、キレちゃった…」


「うちの上司が、大変申し訳ありません」


ナデアは苦笑いをし、ブラッドは呆れ果てて頭を抱えていた。


「はぁ、全くあの人は。仕切り直すぞ」


ブラッドの掛け声で、残されたメンバーはまた再開し直した。



仕切り直したメンバーは、最初に攻撃を繰り出したのは女性陣だった。


「とりゃ!」


マノンとゾーイがエアルを除く四人の足元に大量に水を撃ち、走っていた四人は転んだり、よろめきながら膝を突いたり、プールの床の性質に足を取られる。


「おいおい、足元掬われちまってちゃ勝てねぇぜ!」


生き残ったエアルが一人で応戦しようとするミラに水鉄砲を向けた瞬間だった。


「罠にかかったのは貴方よ、エアル」


「なに?!」


周りには、ヘスティア達五人揃った女性陣がエアルを囲んでいた。妹属性のミラ、毒舌ツンガールのゾーイ、じゃじゃ馬マノン、お姉さん系王女様ヘスティア、そして王道系幼馴染ナデア。


(これは、なんだ…?!俺は一体、何を見せられているんだ!)


普段雑に扱われているエアルは、笑顔を向けてくれるミラ達に困惑してしまう。


「発射!」


ヘスティアの号令で、皆が水を噴射する。


「ギャー!やめろ!ガブブ、水責め結構辛い!」


五人から顔を集中的に狙われると、潜っていなくても呼吸がしにくくなる。

マノンは空気圧でタンクに負荷をかける。そして


「マノンちゃんギャラクシービィイイイーム!」


最大出力で発射された水はエアルの溝に直撃し、一瞬記憶が飛ぶ。


「…ッゥ…!」


漫画みたいに、ビューン!と綺麗に吹っ飛んでいくエアルに、マノンは感心した。


「はぁ、凄いね!あんなホームラン級に飛んでいくとは思わなかったや!」


「さ、このまま順調に仕留めていきましょう」


ヘスティアとナデアが周りを警戒するが、男四人の姿は無かった。エアルがやられている隙に撤退し、体制を整えるつもりなのだろう。


「どうする?二手に別れる?それとも、このまま皆で行動する?」


ミラが尋ねる。


「そうね、このまま皆で行きましょう。別れて行動するにはまだ早いわ」


ヘスティアをリーダーとし、女性陣は警戒しながら残りの男性陣を倒すべく行動を再開し、室内を歩き始めた。



リアム達が身を顰めていたのは花の壁で作られた迷路の中だった。ここなら見つかるまでにもまだ時間が稼げる。


「どうします、ブラッド大尉」


「戦力に期待していたエアルが、多少覚悟はしていたがあんな女性に囲まれただけで恍惚な笑みを浮かべる奴だったとは予想外だな」


「いや、エアル兄の悪口はいいので作戦を」


(ランドルフ、お前の方が辛辣だぞ…)


悪口に捉えられるような発言をしたならそれは自分に非がある。だが、欲望の末負けた兄貴分はもういいから作戦をと指示を仰ぐリアムは、軍人向きなのかもしれない。


「エアルが倒れたからと言っても、こちらはまだ四人いる。向こうも別行動してまで我々を追い込もうとはしないと見て、固まったままくるはずだ。まずはこちらも一人リタイアに追い込ませたい」


「了解です」


「シッ!複数の足音が近づいてきます」


マシューが報告する。


「では、この立地を生かし、不意打ちを狙う」


四人は来た道を戻り、スタート地点まで向かった。



「ざっと見て、隠れるならこの花の迷路が丁度いいかしらね」


「ヘスティアさん。壁を登ったとしても向こうから丸見えになって狙い撃ちされる可能性があります。こちらも行くなら、道に沿うか、壁を破壊するかです」


「ゾーイ、貴女…意外と脳筋なところがあるのね」


ミラがスタート地点に誰もいないか確認しようと、花の壁とは違う、人影が突如現れて思わず叫んだ。


「ギャァアア!」


「おら!」


ピシャ!とミラの首筋に水がかかる。


「うわぁ!ヒッド!やったなぁ!」


ミラも構えリアムに対抗しようとした時だった。着ていたTシャツがトイレットペーパーのように溶けていくのだ。そして、胸元が露わになり、シンプルなデザインのビキニがお目見えする。


「っう、お…」


前情報なしのハプニングに、リアムは思わず生唾を飲んだ。


「おりゃ!隙あり!」


「ぶへっ」


リアムが豆鉄砲食らった鳩みたいな顔をしているうちに、ミラが顔面に水をかける。

やりかえし終わると、このTシャツの仕様に焦るのはミラも同じだった。


「なにこれ!聞いてないんだけど!」


『はい、伝えておりません。水に溶け、自然に還るTシャツでございます。寒くなったら着ていただき、帰る際必要がなくなったら水に溶かして破棄していただける新作Tシャツでございます』


「これも私達で試すなんて、せめて一言教えといてよ!」


『ドキッ、をモットーに進行したいとモルガン様のご要望だったので』


「本当、あの人って馬鹿なことにも頭回るわよね」


ゾーイが毒づく。

その時だ。

号令も無く、ブラッド達が遠方から水弾がミラ達五人を襲う。


「イッタッ!」


頭に直撃したマノンがへたりこみ、そのまま迷路の壁に隠れ逃れる。他にもゾーイやミラが撃たれ、Tシャツがみるみる溶けていく。皆ビキニのようで、綺麗なウエストやヒップラインが露わになる。

ヘスティアとナデアが速攻しようと水鉄砲を構えたが、そこにはもう三人はおらず、襲撃の隙を見てリアムも姿を消していた。


「うわぁ。さっきのリアムのと、三人のうち誰かのが当たってライフポイント減っちゃった…」


ミラがアプリを開いてライフポイントを確認すると、二割ほど減っていた。ゾーイも確認するが、一撃しか当たっていないのにミラよりもライフポイントが少なくなっていた。


「一回当たるごとじゃなくて、威力によって減るみたいね。あらかた、身体に生じた衝撃から計算されているのかも」へスティアが分析する。


「じゃあ、私はブラッド大尉の水に当たったのが有力ってことですね。これである程度は注意すべき人物が定まりましたね」


マノンが頭を摩りながら歩み寄ってくる。


「なら、ブラッドはティア姉とナデア姉が相手した方が適切かもね」


「それは思いました。ゾーイさんのライフポイントや、リアムくんの上司だと考えると私とヘスティアさんで挟み撃ちに追い込んだほうが仕留められるかと」


「賛成だわ。ミラ、マノン達に付いて行ける?」


「勿論!」


「決まりね。向こうもまだ一緒に行動しているはずよ。見つけ次第さっきの作戦通り行きましょう」



「たぶん、次に遭遇したら勝敗が着くだろう」


ブラッドが水を補給しながら言う。


「リアム、ライフポイントはどうなっている」


「あまり減っていません」


「読み通りか…。向こうもライフポイントの減り方に気づいた頃だろう。そうなると、俺にヘスティアさんとナデアさんが来るはずだ。三人にはミラ、ゾーイ、マノンがお前達と対峙するだろう」


真剣に頷くリアムとマシューを見て、シレノはほんの少し口角を上げた。


(お遊び感覚でワイワイするのかと思ったけど…ただのゲームでも本気で勝とうとするんだから。慰安旅行にもならないや)


それでも一緒にいると楽しいからいいのだけれど。次ゲームをするときは、大真面目にならない程度のゲームがしたいと内心思う。


そして、忍び足で迫ってくる陣営に気づき、男性陣も応戦体勢に入った。



三対三、一対二の陣形で水鉄砲合戦も佳境を迎える。


「マノンは俺がやる!二人はミラ達を頼む!」


「了解!」


リアムはマノンとタイマンを張ろうとするが、そこを許さないのが女性陣のチームワークだ。


「そんなことさせないから!」


ミラも銃を扱えるよう訓練を受けているとはいえ、到底リアム達と肩を並べられるとは言えないレベルだ。当たったとしても衝撃は弱く、水弾が当たることなく床にビシャリと虚しくかかる。


「ミラさん一人ならなんとかなるかも!」


マシューが水鉄砲を構え、足を踏み込んだときだった。


「アダッ!」


すってんころりん。派手に尻餅を突いた。エアルの時と同じだが、ただの二の舞に済ませない。

ゾーイが床に撒かれた水を利用し、滑りながら水鉄砲を乱射する。狙いを定めるが、壁やプールの出っ張り、植物を囲う模造の岩などを利用しちょこまかと逃げながら射撃する。


(ミラさんが撃っていたのは無駄じゃなかったってことか。寧ろ意図的に…)


なら、とシレノもスライディングして水の滑りを利用する。


「ゲッ!ゾーイヘルプ!」


「承知」


ゾーイがヘルプに応えるべくミラの援護に回ろうとするが、マシューが目の前に飛び出す。


「そうはさせない…!」



「へっへーん!悔しかったらあててみそー!」


リアムが撃つ水をバク転しながら簡単に避けていくマノンは、まさに野生児のようだった。孤児院時代、自然が遊び道具だったことが生きたのか、濡れている床にも対応が早く、さらに過剰に動いているのにピンポイントで射撃してくる。


(クソ!このままだと俺のライフポイントがゼロになる!)


集中し、宙に浮いて一瞬リアムから目がそれる瞬間を見極め、狙撃する。


「ワァアア!」


命中した。マノンは足を滑らせ倒れ込む。そこを集中烈火で狙い撃ち。みるみるうちにライフポイントも、Tシャツも溶けていく。


「うぅ…酷いよ、リアム。そんなに私の水着が見たかったの?」


まるでアレンジしすぎて紐状態になったようなTシャツ姿になったマノンの水着は、淡い黄色のチェック柄のビキニだった。変に溶けきったTシャツが余計変な想像をかきたて…なくもないが、リアムにとっては無しだった。


「うっせぇよ。はよゼロになれ」


「ウゲェ」


マノンの顔に水を引っ掛けると、ライフゼロと表示が浮かんだ。


「リアム君、後ろ!」


シレノの声に、リアムが振り向くとミラが走って来ていた。水鉄砲を構えている。


「勝負だ、リアム!」


「お、おう!」


この時、すでにミラのTシャツは溶けきって、水着姿になっていた。お団子にしていた髪もほどけてポニーテール。なんか、なんか物凄く可愛く見えて、一瞬油断するが引き金を引いた。


「ブヘェ!」


喉元に当たり、ゲホゲホと咳き込んだミラは蹲った。そこに、リアムに水弾が何発も当たる。


「ダァ!誰だ、ゾーイか?!」


「あ、ごめんね、僕だよ」


シレノが申し訳なさそうに笑いながら小走りしてくる。


「なんで味方に撃ってんだよ!お蔭でライフポイントがゼロ直前だぞ」


「ごめんね。ミラさんの水着姿に見蕩れて攻撃出来ない時のために撃っちゃったんだけど…ミラさんじゃなくて、リアム君に命中しちゃったね」


咳き込んでいたミラも、落ち着いたのか床に座る。


「はぁ…油断大敵だよ、リアム」


その一言だけいうと、ミラはリアムの顔に一発撃ちこんだ。リアムのマジックウォッチにライフゼロの文字が。


「は?お前、ゼロになったんじゃ…」


「え?まだだよ?咳き込むのとライフは関係無いよ、リアム。これはゲームなんだから!最後まで集中しないと!」


「…仰る通りです」


「まるで夫婦漫才だね」


それを見てシレノは笑った。



こちらは白熱した戦いになっていた。

目で追うのも大変なくらいだろう。ブラッドは敵となれば男女関係ない。女性が劣っていると思ったこともないし――モルガンを見ていれば解るだろう――、男性が圧倒的に強いということも思わない。実力主義の世界。だからこそ今、ブラッドは二人を引き受けた事をほんの少し後悔していた。

速さ、攻撃、判断。どれをとってもヘスティアとナデアは素晴らしかった。しがらみさえ無ければ軍にスカウトしたいくらい二人の能力は凄まじい。

そしてヘスティアもブラッドの強さに悩まされていた。あのナデアと二人で追い込んでも簡単に倒れてくれない。寧ろ、今ライフポイントは五分五分、下手したら自分とナデアのどちらかはゼロに近くなっているのではないかと不安が過る。

一度向こう側から追いつめているナデアと合流したいが、そんな隙を見せたら形勢が向こうに有利になる。こちらが相談したいくらいピンチだと察するだろう。


(どうする、どうしたら勝てる?)


激しい水鉄砲合戦でブラッドから目が離せない中、死角のギリギリに幸運を見つけだした。それに賭ける。


「ナデア!一旦合流しましょう!」


「え!」


ナデアの足は思わず止まり、ヘスティアがナデアの下へ走る。ブラッドはここぞとばかりに二人に銃口を向ける。そして引き金を引く。

バシャン!バシャン!

ヘスティアとナデアに水が射撃される。

それと同時に、何発もの水弾がブラッドに当たる。呆気に取られたブラッドは、水が飛んできた方向を見るとゾーイがあの花の迷路に隠れ潜んでいた。

ブラッドのライフはゼロと表示される。


「…よくゾーイを見つけましたね」


「青いお花って、そうそういないですからね」


まさか、髪の色と水着が迷彩となり花に紛れて解りづらくなるとは思いもしなかった。


「でも、私のライフポイントもゼロですわ」


あの時、ブラッドの攻撃からナデアを庇い大半を浴びたのはヘスティアだった。


「ヘスティアさん…。これで、勝負がどうなったか解らなくなってしまいましたね」


ここでブザーが鳴る。特に制限時間は設けていなかったが、予定より時間が長引いたのでギャルソンの判断で切り上げの合図を鳴らしたのだった。



『えー。今回総合優勝は女性チームでございます。そして個人優勝はゾーイさんです』


「負けたぁ!ゾーイさんに、あっさり負けたぁ!」


喚くのはマシュー。ゾーイを足止めしようとしたところ、返り討ちに遭ったのだ。そもそもあの溶けるTシャツが悪い。急に肌が見えたらビックリする。


「悪いわね、優勝をかっさらってしまって」


「それではゾーイさん、こちらが優勝賞品です」


支配人から渡されたのは、プラスチック製の優勝トロフィー。トロフィーには「優勝おめでとう♡モルガンより」と書かれ、キスマークが付いていた。


「…着払いにして送ってやる」


この光景に、皆が優勝しなくてよかった、と思ったのは内緒だ。



「うぅん…あれ、水鉄砲大会は?!」


ブレイズが起きたら、そこはホテルの部屋だった。


「それならもう終わったよ?ブレイズ君、モルガン少佐にイチコロされてからずっと寝ていたんだもん。運んだ僕に感謝してほしいくらいだよ」


「ウッゼー!つうか、また知らない所で、俺は…!」


「ブレイズ君って面白いよね」


「好きで面白くしてんじゃねぇわ!」


隣の部屋がギャンギャン五月蠅くなったので、リアムとマシューはブレイズが起きたのだと察する。


「あいつもうるせぇ奴だな。もう少し静かにできねぇのかよ」


「ほら、そこがブレイズ君の長所だからさ」


マシューがフォローする。


「でも、今日楽しかったね!負けちゃったけど、またあったら再チャレンジしたいな!」


「じゃあ今度はプライベートで遊びに来ようぜ」


「うん!」


マシューは笑顔で頷くと、紅茶を淹れようと立ち上がり、カップにTパック、お湯を注ぐ。


「そう言えば、帰りのバスに少佐とデウトさんって乗っていたっけ?」


「…あ」


--夜のメルカジュールランド--


「やるな、デウト氏!こんな血が滾るような戦い、久しぶりだ!」


「貴女も立派な戦士だ、モルガン君!私も、久々に本気で戦えて嬉しいよ!」


もうTシャツも溶けて水着のモルガンとデウト。二人は水を補給しては戦い、補給しては…の繰り返しで今も戦っていた。

魔力を消費しない代わりに、水がある限り無限に戦える二人。


「あぁ、デウトさんですか?魔力が消耗する世界でよかったですよ。魔力まで無限に沸き上がる世界だったら、ずーっと戦っているはずですよ」


そう答えるのはナデア。呆れた眼差しをしていた。


「少佐は戦闘馬鹿ですからね。馬鹿げたことにも頭が回りますが、戦闘はもっと頭の回転数が上がる。ナデアさんの言う通り、魔力が尽きる世界でよかったですよ」


ブラッドがもう諦めたように話す。

ホテルのラウンジで、ミラとマノンが丁度デウトとモルガンの様子を見終えて戻って来た二人を捕まえて、お茶ついでに聞いていた。


「なんか、会っちゃいけない二人が会っちゃったのかなぁ」


マノンはコーラを飲みながら、少しうとうとし始めるのだった。

そしてゾーイはフロントでトロフィーを着払いで配達すべく、手続きをしているので

あった。

                                        

次話から本編に戻ります。

2話に渡りお付き合い頂きありがとうございました。


原作/ARET

原案/paletteΔ

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