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ETENITY00  作者: Aret
3章・・・意思・マノン外伝
77/113

77話・・・シヴィルノ4

作品を読みに来て頂き感謝です。

「うーん…おはよう、ティア姉」


朝、マノンが目を覚ますがヘスティアからの返事は無かった。寝ぼけ眼を擦り、辺りを見回す。シングルルームだ。開けっ放しのクローゼットの中には昨晩購入した、膝下からフリルを上品にあしらったマーメイドドレスが飾られていた。肩もチュールで露出を控えている。白い生地の清楚なドレス。


(そうだ。ティア姉の部屋は結局取れなかったから別のホテルにいるんだ)


三人で旅に出てから初めて一人で明かした夜だった。いつもなら朝からテンション高くこの部屋を堪能するのだろうけど、一人という事実に、ぽっかりと穴が空いた。はしゃいでも、共感してくれる人もいなければ笑ってくれる人もいない。


「…つまんないの。つぅか、私なんで素っ裸で寝てんの…?」


髪から若干の煙草と酒の香りが漂う。

夕飯の時に、少しお高めのレストランで済ませたんだ。その時、間違えてヘスティアが頼んだ白ワインを飲んでしまった。そこからは記憶がフワフワしていて思い出せない。無事にここにいると言う事はヘスティアが送ってくれたのだろう。裸なのは寝間着がどこにあるか解らず、服だけ脱いで寝落ちしたせい。お蔭で顔も脂っぽいし、身体もベタついて気持ち悪い。


「シャワー浴びよう」


シャワーを済ませ、ドライヤーで髪を乾かし、着替え終わると部屋のチャイムが鳴る。


「おはようございます。朝食のご準備が出来ましたのでお持ち致しました」


「は、はい!」


ドアを開けると、紙で出来たボックスを持った客室係が立っていた。失礼します、と一礼すると中へ入り、テーブルにボックスを広げ、朝食の支度を手早くする。サンドイッチと鴨肉のサラダ、ジャガイモをペーストしたスープ。朝摘みたてのフルーツ。

そしてもう一度廊下へ出ると、お洒落なマグカップに淹れられた紅茶を提供される。


「マグカップはお持ち帰りください。では、よい一日を」


マノンは見送った後、ふーふーと紅茶を冷まし一口飲む。暇なのでテレビを点ける。


『クレア王女の生誕祭まであと二日となりました。国中、祝賀ムードで賑わいを見せております』


レポーターが城の前で微笑みながら中継をする。紋章が刻まれた刺繍の旗が掲げられている街灯にはプリンセスクレアローズが巻かれるように咲き誇っていた。


『そして本日、マルペルト国からタナス国王と妹であられるマーガレット王女がご到着する予定です。こちらも既に歓迎ムードで空港が賑わっているとのことです。中継をそちらにお返しします』


「マジか…」


そう言えばちゃんと馬鹿国王と淫乱姫の顔を見た事無かったな、と。


「空港に行って直接顔でも拝んでこようかな。人混み…酷いかな」


ふと、思いつく。

国王直属の自衛軍は解らないが、民間で運営されている自警団なら武器屋にいるのではないか?と。もしそうなら、観光客のフリをしてクレア王女がどんな人柄か、マルペルト馬鹿兄妹についても情報が得られるのではないかと考えた。

教えてくれればの話だけれど。

だが、今ヘスティアと連絡は着かない。まだ寝ているのか、それとも独自に動いているのか。


「ま、私もやるっきゃないよね!」


マノンは銃をホルダーに入れ、早速部屋を飛び出した。



街へ出向くと、お祝いムードとは随分とかけ離れた軍団が居た。傭兵部隊だ。屈強な男や女とは云え、かなりガタイのいい集団が店を占拠して備品を漁っていた。


「すみませ~ん…私も武器がみたいですぅ」


上ずった声で、小柄さを利用し隙間を縫って入る。しかし、グッと力強く手首を掴まれた。


「アンタ、見ない顔だね。他国から要請された傭兵かい?見たところ水属性か…ん?その銃、お前の身体には合ってないんじゃないかい?」


ダハハッハ!と豪快に女が大声で笑う。


「あ、あなたは…?」


「ウチ等は国王直属に選ばれた傭兵部隊さ。普段は私兵だけど、今回限りは違うからね。ここで見せつけて、一発狙うのさ」


女が声高らかに言うと、周りの傭兵達も盛り上がる。


「そ、そうなんですね…私は、ただ」


ただの観光客と言おうとした時だった。


「お待たせ、待った?!ごめんなさいね。レジが混んでいたの。見て、ちゃんと欲しかったマガジンボックス、買えたから」


「へ…?よ、かったね…?」


声を掛けてきたのは、見習い軍服を着たマノンより少し年上位の少女だった。迷彩色の大き目のパーカーを着て、フードまで被っており顔は良く見えない。解るのは、クリーム色のような髪の毛がチラリと見えるくらい。


「お前、直属の見習いか?」


「ハッ!クレール・ローゼンと申します!土属性。本日は先輩方から武器と銘柄を覚えているかのテストの最中です!」


敬礼する彼女は、軍人…というよりも、膝付きたくなるような掛け声だった。その発声に、傭兵部隊も少したじろいでいた。


「では、よろしいでしょうか。失礼致します」


頭を下げると、クレールはマノンの手を取り駆け出していった。



裏路地に着くと、クレールがフードを取る。ポニーテールが綺麗に揺れる。砂糖で出来た糸のようなお菓子みたいな髪の毛。そして、その表情は声に裏切らないほどに、凛とし、覇気のある美しいものだった。


「あ、あの…」


「あなた、馬鹿じゃないんですか?!あんな傭兵部隊まみれのなか、普通の女の子が一人で入って行ったら、良い鴨にされるだけですよ。どうせ、私と戦え~とか言われて、戦闘になってあなたは蜂の巣か生きた的になって終わりですよ。如何にもアホっぽそうな顔してましたもの」


「ひっどい言われようだなぁ~。私そんなアホっぽそうな顔してた?」


「してました。シヴィルノは初めて?お上りさん?」


どうやら、性格まで凛とし過ぎて色々キツイ評価をされる。


「メ、メルカジュール出身の水属性だよ」


ここで素性も解らん少女に無属性もあるんだぁ!なんて馬鹿正直に説明する必要も無い。それに、あまり口外しすぎても良くないことくらい、解っている。


「ふーん。とりあえず、無駄な血が流れなくて良かったわ。土地も汚れるし、なにより薔薇に悪影響だわ」


「それって…遠まわしに私のこと助けてくれたの?」


「べ!つに違うわよ。無駄に血が流れるのが嫌いなの!」


クレールは目元をひくつかせるが、頬が赤いのは隠せていなかった。


「プ、アハハ!ありがとう、クレール!私マ…マロン!よろしくね!」


「馴れ馴れしい

そう言いつつも、握手はしてくれた。


「ところで相談なんだけどさ。今日ってマルペルトの国王一家が来るらしいじゃん?国民が空港でお出迎えとかってあるの?」


「あぁ…するって言っていたわね。王室と国民が近いことを象徴したいから一般人もロビーでのお出迎えなら参加できるんじゃないかしら」


「いいこと聞いた!ねぇ、クレールは行かないの?」


クレールは難しい顔をし、額をぐりぐりと指で押さえている。


「私、あの兄妹に良い印象持っていないのよ。お父…さんは口にするなって言われているけれど、エルド王子とヘスティア王女の方が断然良かったわ。太陽と蚤くらい差があるしね。…エルドは犯罪者とヘスティアは片棒を担いなんて、私には受け入れがたい事実だけどね」


「…そうなんだ」


どうして。それがまず心の中に浮かんだ言葉だった。

違う国の、一人の少女が過去のエルドの善良な心を、ヘスティアの変わらない強さを信じ続けているのに。どうしてマルペルト国民はエルドを信じなかったのだろうか。

いや、国民だからこそ裏切られたと強烈に感じ、怒りが心頭したのだろう。他国だから、どこか違う世界の、王室の揉め事として受け入れているのだろうか。

メルカジュールは国王制度ではないのでクレールやマルペルト国民の心境を上手く理解してあげられることは出来ない。だけど、クレールの気持ちなら理解できる。


「私も。エルドやティ…ヘスティアが悪い事したって思わないんだよね」


「!貴女もそう思うの?」クレールが少し食い気味に訊く。


「まぁその、知人から聞いただけだから、個人の感想みたいになっちゃうけど。私の周りにいるマルペルト出身の人達って、エルドやヘスティアのこと慕っている人達しかいないんだよね。今でも犯罪があったのか疑問に思っているみたいだし」


出身者と言っても、張本人のヘスティアとブレイズしかいない。ブレイズもエルドのことを信じていた。信じていたけど…でも、現在のエルドを知ったからこそまた彼は強くなるだろう。エルドを日の当たる場所に連れ戻すために。


「その話を聞けて嬉しかったわ。エルド様達の話をするのは、タブー扱いされるの。ほら、この前ティアマテッタで入隊試験中にアマルティアって言ったかな…テロ組織から襲撃受けた時にエルド様がいたって。それから完全悪になっちゃってさ。あぁ、エルド様は本当に悪者だったんだ、て思わざる得なくなって。でも信じられなくて。心の整理をしたくても、誰も耳を傾けてくれなかったから。…よかった、マロンの話を聞けて」


「解んないけどさ、私から見れば今のエルドはグレちゃってるんだと思う。家族から裏切られて、国のためを想ってきたのに、国民にも見放されて。だから…」


だからヘスティアもエルドもエルドを連れ戻そうとしている。兄妹喧嘩をしてでも。敬愛する王子を殴ってでも。


「不思議。まるで見てきたみたいに話すのね…」


「え?!よ、よく言われる!あたかもその場に居たように話すの、得意なんだよね!」


笑って誤魔化す。


「でも、すごくしっくりきた。納得できた。私もエルド様を連れ戻すお手伝いが出来たらいいのだけど…ヘスティア様は今も行方不明だし」


「え、」


まるでヘスティアと接触出来たらいいのに、というニュアンスが含まれているような言い方だった。クレールは国営の自衛隊見習いと言っていた。もしかして、そういう意図もあって入隊したのかもしれない。ブレイズと似た境遇なのかも。

その時だった。

クレールが人の気配を察知し、マノンの手を取り歩き出す。


「ここじゃ嫌だわ。どこか人払い出来る場所はないの?」


「ひ、人払いって…あ、私が泊まってるホテルならどうかな?」


「じゃあそこに行きましょう」



ホテルに戻ると、クレールはシングルルームをジロジロと観察するように眺めていた。

そしてクローゼットに仕舞ってあったマーメイドドレスを見つける。

「このドレスは?」


「あぁ、クレア王女の生誕祭のパーティーに出席するためのドレス…」


「これ、一人だと着れないタイプよ。後ろがボタンだもの。メイドなり、お付きのものはいるの?」


「一緒に来ている人ならいるから、当日その人に手伝ってもらえば、大丈夫…じゃないかな」


「そう。あとこれ、腰のラインがよく出るから、Tバックのほうがいいわよ。じゃないと、下着の凹凸までもが見えちゃうからね」


「えぇ?!んなTバックとか持ってないんだけど」


「じゃあ当日までに買っておきなさい。あと…もしそのご一緒に来られているかたが着せられないってなったら、当日午後四時までに私を呼んで。そしたら、着替えるのを手伝ってあげられるわ」


そう言うと、クレールはマジックウォッチに連絡先を交換する。


「ありがとう…」


「そう言えば、あの女傭兵が言っていたけど。マロンは確かに大き目の銃を所持しているのね。扱う時、大変じゃない?」


やっぱり見習いとは云え、武器はきになるらしい。マノンは快く銃を取り出し、クレールに見せる。


「前は色々あって中古を使っていたんだけどさ。これはお父さんの形見の銃になっちゃった。この銃で戦っていると、お父さんとお母さんに守られている気がするんだよね」


「ご両親、亡くなっているの…?」


「うん。でも、仲間がいるからさ!立ち直るのも早かったんだ」


「そう…」


クレールは銃をそっと受け取ると、丁寧に観察し始めた。そして彫られている紋章を見て、目を丸くする。


「これ、マスタング商会のものじゃない!しかも通常出ているタイプの銃じゃない…貴女、一体何者なの…?」


(マスタング商会ってそんな凄かったの?!)


マノンからすれば、レイラから行くぞと言われ向かった逃げ場で、アマルティアの下っ端とコア・エルドと戦闘した場所で。そしてマスタング三兄弟は筋肉の戦うゴリラ達みたいなもので。気さくで、豪快で、紳士で、なんかめっちゃ高性能な銃を作れる三兄弟という認識でしかなかった。


「お父さんの遺品だから、詳しい事は…」


「あ…ごめんなさい。でも、お父様は素晴らしい方だったのね。この銃を手にしているということは、マスタング商会から認められたという証でもあるんですもの」


クレールは微笑を見せると、銃を返してくる。


(クレール、お父さんは素晴らしい人なんかじゃないんだよ…。お母さんと私のために復讐を決意して、世界中を混乱させていた人なんだよ)


でも。大好きになれた父だった。だから、父の罪を知らないからこそ、心の底から褒めてくれた、称えてくれたクレールが嬉しかった。


「お父さんは嫌な顔するかもしれないけど、私はクレールの言葉、嬉しいな」


マノンも、情けない笑顔だったがクレールに返した。



「そういえば、タナス国王達のお迎えを見たいって言っていたわね。今から空港に向かえば丁度いい時間じゃないかしら」


マジックウォッチを確認するクレールは、丁度通りかかろうとしていたタクシーを停める。


「クレールも一緒に行く?」


「まぁ、そうね。マロン一人を空港に送るのも気が引けるし…。あ、くれぐれも目立たないようにしてね、絶対よ。マナーとして、大人しく、静かに、はしゃがずに歓迎ムードを見るのよ」


「う、うん」


ヘスティア程ではないが、圧のある言葉だった。

タクシーに乗り、三十分程だろうか。空港に到着すると、そこはもう大騒ぎだった。シルヴィノの国旗とマルペルトの国旗を振り、今か今かと国民がロビーや外で待っていた。

マノン達は人の隙間をくぐりロビーへと辿り着く。

クレールはまたフードを深く被ってしまった。


「…もしかして、あんまり人混みとか得意じゃない?騒がしい場所とか…」


「別に。私のことは気にしないで、国王と王女の到着を待っていなさいよ」


すると、国家直属の私兵二人が背後を通っていく。マノンはそれを、首だけを動かし様子を窺う。


(警護か?)


しかし、どうやらちがったようだ。


「クッソ…どこを探しても見つからないからここならと思ったんだが…」


「いないようだな。全く、本当に手の焼けるお姫様だぜ」


お姫様?マーガレットのことか?しかし、マルペルト王族専用飛行艦はまだ到着していない。そうなると…


「クレア王女ならタナス国王とマーガレット王女にサプライズ登場歓迎でもすると思って空港までわざわざ来たのに、無駄足になっちまったな」


「しかしここまで人混みになるとは予想もしなかったぜ。なぁ、居たとしても解らなくないか?」


「だぁ、煩い!無駄口叩いていないで、しらみつぶしで探していくぞ!」


「はいはい。本当、お転婆王女様で困るぜ」


私兵達は愚痴をこぼすとゲート付近へと移動していった。その気苦労を聞いていたマノンは、思わずクククと笑いだす。


「どうしたの?」クレールが少し小憎たらしそうに訊く。


「だってさ、お転婆王女だって!さっきの話って本当なのかな?くっくっく、どんな王女様なんだろう!お転婆なら、是非とも会ってみたい」


「会ってどうするの?お説教でもするつもり?国王や兵隊を困らせるなって」


「アハハ!怒らないよ!寧ろ気が合うようなら友達になってシルヴィノ中を駆け回って私兵団の奴等困らせてやろうよ!ね、クレールも一緒にやらない?」


考えただけで腹が過れそうだった。ブレイズを見ていれば何となく解る。国の象徴の王や王女がいるだけで、どれだけの人が度肝を抜かれ、引っかき回されるかぐらい。


「…考えとくわ」


それだけ言うと、クレールはまたフードを深く被り直した。マノンからは見えなかったが、クレールの顔は真っ赤に染まっていた。


すると、集団の賑やかな声がより一層騒ぎたつ。


マルペルト国王タナスと、マーガレット王女が到着しロビーに姿を現したのだ。SPに囲まれながらも、微笑みを携え、シルヴィノ国民に手を振り歩いて行く。


(あれが、ティア姉の兄と妹…外面だけは良さそうだな)


無表情でぼんやりと見ていると、それは突然起きた。

一人の市民が急に男の垣根から飛び出してきたのだ。


「貴様ぁ!よくも俺の婚約者を!」


「国王、王女、お下がりください!」


SPがタナス達の前に壁となり、残った者はタナス達に密着し完全防御態勢へと移る。

男の手には銃が握られていた。だが震えている。あれではちゃんと標準を定められない。すると男を筆頭に、次々に何人もがタナス達の前に立ちはだかる。


「私の娘を返してよ!」


「俺の妻をどこへやった!今すぐ返せ!」


「姉を誘拐したのだって、アンタなんでしょ!」


突然の告発に歓迎ムードだった国民は一気に悲鳴を上げ、混乱に陥る。


「タナス様、ここは我々に任せて今すぐお逃げください!」


SPが避難させようとした時だった。


「えぇい、静まれ!この俺を誰だと思っている!マルペルト国国王、タナスだぞ!お前達小さな反抗集団など、蟻も同然だ」


「なっ!」


最初に銃を向けた男が、怒りを爆発させ、銃を撃ってしまう。


「危ない!」思わず、マノンが叫ぶ。


しかし、すっかり忘れていた。仮にもヘスティアの兄で、愚兄だとしても王として国を回していることを。そして、エルドに劣るとしても、相当の訓練を受けていたと言う事も。

タナスは目にも止まらぬ速さで剣を抜き、剣を振りかざす。その火の刃は一気に反抗集団に衝突し、身体の一部が炎に包まれる。


「熱い!」


「ふん。俺に文句があるのなら、それ相当の証拠と実力を備えてくるんだな」


空港職員が慌てて消火器と救急車と警察を呼ぶ。

あの集団は、トリガーを引こうとしていた。だけどそれより早く剣を振るったのだ。復讐するどころか、返り討ちにあったのだ。

タナスはマーガレットを気遣うと、両腕を広げた。


「皆さん、驚かれたでしょう。ですが、我々は無事です。自分の身を守れずに、国民を守れることはできません」


そう微笑むと、静寂に包まれたロビーがどっと歓声に沸く。


「流石国王だ!」


なんだか急に居心地が悪くなった気分だった。


「クレール、もう飽きたから行こう…って、クレール?」


隣にいたはずのクレールは、もうそこにはいなかった。辺りを見回しても、クレールらしき人物はいない。


「私兵の見習いって言ってたっけ…急に呼び出しとか、されちゃったのかな」


そう思いたかった。じゃないと、どうして急にこの場から去ってしまったのか、置いて行かれたのか。不安だったり、寂しさで気持ちが沈みそうになった。

たった一時間以上一緒にいただけの相手なのに。どうして一言いってくれなかったの?と責めたい気持ちになった。


「はぁ…帰ろう」


マノンもここから離れようとした時だった。取り押さえられていた一人が、空港警備員を撥ね退けナイフを手にタナスへ襲い掛かる。


「畜生、チクショー!」


「危ない!」


マノンは咄嗟にスキルブーストを発動させ、人混みの中から大ジャンプをかまし、銃で魔弾を放った。放たれた魔弾は男の足に直撃し、氷で足を拘束する。


「クソ!邪魔するな!」


「邪魔じゃない、アンタのため。今は歯食いしばって耐えてなよ」


いつかヘスティアが解決するから…そう喉元まで出かかって、その言葉を飲み込んだ。


「助かった、礼を言おう」


「わたくしからもお礼を言わせてくださいませ。兄を守っていただき、ありがとうございます」


振り向くと、タナスとマーガレットが立っていた。きっと、二人の本性を知らなければその笑顔に騙されていただろう。それくらい、この兄妹から邪悪さは漂ってこなかった。

だけど。コイツ等は綺麗な仮面を付けた汚物に見えた。


「キショ…」限りなく小さな声で呟く。


「どうかされたか?」


タナスが不思議そうに首を傾げた。


「別に…あの人に人殺しになってほしくなかったから助けただけです。あの人を」


「そうでしたか…。そうだ、これから私達とディナーでもご一緒致しませんか?命の恩人です、言葉だけでのお礼で済ますわけにはいきません」


タナスはマノンの手を取る。

それを見ていたマーガレットはにこやかに笑む。


「また始まってしまいましたわ、お兄様の悪い癖…助けて下さった方を、丁重におもてなししないと気が済まない、一種の病気ですものね」


ゾゾゾと体中に悪寒が走った。これはマノンの勘がいいからであり、一般的な人々には恩返し癖のある兄に意地悪を言う妹に見えるだろう。だが、マノンには、その言葉が嫌味を通り越してタナスへの悪意にしか聞こえなかった。いや、悪意そのもの凶器だった。


「いえ、私は本当に…」


「さ、参りましょう」


あれよあれよという間に、マノンは貴賓車に乗せられ、タナス兄妹と一緒にどこかへ連れて行かれた。

原作/ARET

原案/paletteΔ

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