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ETENITY00  作者: Aret
3章・・・意思・マノン外伝
75/113

75話・・・シヴィルノ2

作品を読みにきて頂き感謝です!

――アマルティア本拠地内部にて。

途方も無く長い廊下を歩いている気分だった。今自分がどこを歩き、どこへ向かおうとしているのかも解らない。レンは、ヒールで歩くことがこんなにもおぼつかず、苦痛だっただろうかとぼんやり思う。今すぐにでも靴を脱ぎたい。だけど、そこはプライドが許さなかった。そんなはしたない真似、レイラがいる手前出来ない。


(そう…わたくしは、お姉様のために…)


白い霧が徐々に晴れていく。


「…ンさん。レンさん!」


「ッ!マイラ。どうしたの、こんな所で…」


気づいたら、マイラが不安そうに顔を覗いていた。わざわざ迎えに来たのだろう。じゃなければ、意味も無くナノスがいるこんな場所までやって来る理由が無い。


「レンさんを迎えに来たんですよ。レイラさんも心配してますよ」


「そう、よ。お姉様の所へ先に行っていたのよね。体調はどう?悪阻は?」


「まだお辛そうでしたが、食事は取れていますし、ここは良くも悪くも静かなのでよく眠れるって嫌味で言っていました」


マイラがクスクスと小鳥のように笑う。


「そう、なら安心ね」


「そうだ。さっきコアさんがお部屋にやって来て驚いちゃいました。私達の荷物を運んできてくれて、お土産渡すんだろって。それから…レンさんがナノスさんと会議するって言い残して出ていかれたので。三十分経っても戻って来なかったら迎えに行こうって思って、今ここまで来たんです」


「…え?」


会議?ナノスと?そう。そうだ。それは覚えている。そこまでは覚えている。だが、何故いまここを歩いていたのかが思い出せない。どうして歩いていた。返された記憶も無ければ、会議の内容すら記憶にない。


わたくしはナノスと何を話した?次の作戦?お姉様について?戦い方について?わたくしは一体、何を喋ったのだ?

ごっそりと消えた記憶に戦慄する。血の気が引いて行く。それを察したマイラが、そっと手を取った。


「レンさん。早くレイラさんのお部屋へ戻りましょう。お顔を見せて、安心させてあげないと。レイラさんも落ち着かないですよ」


「え、えぇ。そうですわね。でも、その前にお手洗いへ行ってから向かいわすわ。今、鏡を見なくても自分の顔がやつれているのが解りますから…。お化粧直ししてから行きますわ」


「解りました。じゃあ、先に戻っていますね」


マイラは手を振り、小走りで去って行く。その後姿を見送り、レンはトイレへと向かった。


トイレへ入るや否や、洗面台に両手を付き、大きく呼吸を繰り返す。大粒の汗がタラリと額を流れる。


(気色悪い、なんなの一体…!わたくしは、何をしたの?アイツと何を話したの?!どうして何も思い出せないの!)


その時、ズキッと左内腿が疼く。切られた、いや。刺されたような痛みだった。その小さな痛みが、徐々に記憶を蘇らせる。


レンはスカートを捲ると、紫色の薔薇のタトゥーが彫られていた。黒かった薔薇が、紫へと変化している。その変色を見たとたん、記憶の粒が脳の奥に落ちた感覚がした。


「ぁ…思い出した。わたくし、ナノスの実験に付き合わされていたんだ」



――数十分前


ナノスと二人きりというのも酷な物だった。この男が変態のマッドサイエンティストというのを重々承知している。だからこそ余計気色悪く、不気味で吐き気がする。特に、女性を道具か実験体としか見ていないようで腹が立つ。


「早く済ませてくださらない?わたくしにも予定があるのよ」


「そう焦らず。話というのはですねぇ…。そろそろ貴女にも本格的な戦闘術を学んでいただきたいんですよね。私のレイラを守る為にね」


ナノスは両手を合わせ、何食わぬ顔で言う。


「はぁ…?何が私のレイラよ。気色悪い」


脳の血管が切れるかと思った。腸が煮えくり返り、腹の底から憎悪の塊が声となり紡ぐとは思わなかった。静かな悪意と冷たい刃が自分の口から放たれた言葉に、レンは少し驚いた。


嫌悪しかない。しかし、ナノスは気にも留めず話を続ける。


「では隣の部屋に参りましょうか」


隣は、実験室だった。薄暗いが、壁に置かれているカプセル状の置物が蛍光色に反射しぼんやりと明かりを灯す。色んな実験道具が散乱しており、安全性に疑問を抱いた。


(コイツ、本当に科学者なの?)


ふと、一つのカプセルに目がいった。その中には、メイラが入っており眠りについているようだった。


「この女…」


「ん?メイラが気になりますか?」


「別に。それより、早く話を済ませてくださらない?ここから一刻も早く出たいので」


「まぁまぁ。本題に入りますよ、ちゃんとね。さて。先程も言いましたが、私はそろそろレンさんに独り立ちをして頂きたいんですよね。アマルティアの幹部候補としての自覚を持って、部下を預けたくも思っています」


「幹部候補?はっ!笑わせるのがお上手ですのね。わたくし達はお姉様が人質に取られているからここにいるの。強くなるのには異議はありませんわ。でもね…アマルティアに完全に手を貸す理由はありませんの。わたくしは、レイラお姉様とマイラ、そして産まれてくる赤ん坊を守れればそれだけでいい。それでいいの…」


冷たい声だった。だけど言葉の中には狂気と愛が混ざっていた。ナノス以外の人間だったら、今頃レンがすぐにでも殺していただろう。相手がナノスだから手出しが出来なかっただけで。それくらい、今のレンは凶器そのものだった。刺し違えてでも、レイラとマイラを守ろうと、どんどん感情が狂気と化していく。


しかしナノスは嘲笑う。


「今のままでは私のレイラを守れませんよ~。下っ端程度なら貴女は殺せるかもしれませんが、あのリアムっていうまだ坊ちゃんレベルの相手にはあっさりと負けてしまいますよ?これは一大事ですよ?それでもまだご自分に力があると自負できますか?我々はリアムより強い敵を相手にするんです。この意味、解りますよね?」


リアムに、負ける。


それは、考えたことが無かった。リアム。リアム…。リアムに負ける程度なら、レンはエアルやヘスティアには勝てない。まだリアム達がレイラ達を発見し保護してくれるなら安全だ。ここで何も知らないティアマテッタ軍がもし、突撃してくる事態に陥った時、レイラ達は保護されるだろうか?女だから、身籠っているから。それだけで、助けてくれるだろうか。話が通じない軍人だったら?間違いなく二人は…お腹の子も殺される。


震える拳を無理矢理解き、大きく呼吸をした。


「じゃあ、どうすればよろしいの?」


「話を理解できる子は素晴らしいです!簡単です。前回のように実験に付き合ってください。今回はそれで手を打ちましょう」


「実験…?なんのことよ?!まさか、あのメイラって女と同じように変な液体に漬けられるわけじゃあないでしょうね?!」


「そんな訳ありませんよ。それよりももっと簡単です。前と同じく魔力レベルが上がるナノマシンを少量注入させてください」


笑顔のまま、ナノスは注射器を用意すると、薬品を詰め、空気を抜く。


慄き、その光景をぼんやりと見つめる。どうして逃げ出さないのか。頭が働かない。どうしてか彼の言う事を聞かないといけない気がした。従順に。


(わたくしは、一体何を考えているの?こんな男にへりくだる理由なんてない!)


意識を保とうとする。そして依然と凛とした態度で挑む。


「そんな薬品、人間捨てるようなものじゃない…。一回私に打ったみたいだけど、その時どうやって打ったか知らないけど。アンタの実験体になるなんてごめんよ」


「はは。そういう凛とした貴女だからこそレイラの騎士として相応しいと思ったんですが…残念です。マイラさんに頼むとしましょう」


「は?」


ナノスのレンを見つめ、微笑を見せる。眼鏡が蛍光液に反射し不気味さが増す。


「私はね。レイラの気持ちを考えてレンさんに原石を見出したんですよ。レイラの護衛が出来るなら、コアでもエルドでもいいんです。彼等の方がよっぽど強い。それこそ、我がアマルティアの幹部だ。彼等は女性に無暗に手を上げない。コアは強き者にしか戦意をむき出しにしないし…まぁそのぶん、弱い人には容赦ないんですけどね。エルドは元王子だ。女性を卑下に扱う奴じゃあない」


レンはそれを黙って聞く。この部屋はお香でも焚いているのだろうか。さっきより甘い香りが漂い鼻腔をくすぐる。不思議と気分が良くなる。ナノスの言っていることが正しく思える。自分なんかより、コアとエルドの方がよっぽど強い。なのに、どうしてレンを見出したのか。心が傾く。


「で、次に候補として見繕ったのがマイラさんです」


マイラ、と名前が出た瞬間。目が合うと嬉しそうに微笑む彼女の姿が脳裏に過った。


「マイラですって?!許さない!あの子を実験や生贄みたいな道具にするようなことをしたら、誰であろうと殺してやる!刺し違えてもよ!」


「おや。レイラを守れれば、誰でも利用しようと思っていると思っていたんですが。女性の友情は素晴らしいですねぇ」


マイラは、マイラはあのままでいい。戦えなくていい。銃や剣なんて物騒な物、持たなくていい。先日のティアマテッタ軍潜入だって、スパイ行為みたいなことは私がやればいい。マイラは優しいから。レンのことを心配してくれるから。


優しいマイラのままでいて。ヴェネトラの時みたいに、ご飯を作って、帰りを待っていてくれるだけでどんなに心強かったと思っているの。


「…お姉様だけでなく、マイラにも手をだすことは、わたくしが許しません」


「じゃあ、貴女がレイラの騎士に…私の実験道具になってくれるんですか?」


ナノスの声が反響し聞こえる。お姉様の騎士、実験道具、騎士、実験…騎士…お姉様。お姉様、レイラお姉様、お姉様。お姉様を守る為。マイラを守る為。ナノスの言う事を聞きなさい。今だけでもいい。ナノスの言う事を。彼の事実を。受け入れろ。受け入れろ。受け入れる。


不思議だ。身体が、心から強さを求めている。気が付いたらレンは、実験台の上に座り、辱めを我慢しながら足を開いた。


「……二人に手を出さないと約束して」


「いいですよ。私から手を出すことはしません。レイラと、マイラには」


スカートを捲り容赦なく注射針を刺した。黒い薔薇のタトゥーはナノマシンを打ちこまれたことで変色し紫へと色づく。


「はぁ…ッ!あ、あぁ…」


微量とは言え身体に大きな変化をもたらすナノマシンに、レンは意識が朦朧としていく。


「これでまた一歩強くなりましたね」


子供をあやすように、ナノスがレンの頭を優しく撫でた。今注入したナノマシンには、催眠剤も混ぜてある。暫くレンは操り人形状態になるだろう。


「いい子ですね、レンさんは。私は協力してくれる人間には優しいんですよ。だから、貴女が心の底から私を求めるまで、手を出すことはありません…美しい貴女が、堕ちるとの時を心から楽しみにしています」


ナノスはレンの頭を撫で出から覆いかぶさり、耳元で呟いた。


「未来のアマルティアのために、レイラを守っていきましょうね」



正気を取り戻したレンは、絶望に顔を染めていた。


あのクソ男、人が朦朧状態だと思って何かしやがった。


泣きたくてしょうがない。どうして自分だけが…。いや。レイラはもっと悲惨な目に遭った。マイラだって、守ると決めた。いずれ生まれる子供のことも。


穢されても、心だけは気高くいよう。


レンは水でバシャバシャと顔を洗い、気持ちを切り替える。


ここでは、強い者しか生き残れない。弱い…弱い女ならすぐに男の餌食になる。そこから守る為にも、自分が強くならなければならない。


そう思い込まないと、レンは壊れそうだった。


レンは洗面所から出ると、レイラが待っている部屋へと向かい歩き始めた。



さて。

二十七日前――


買い足した日用品と食材をトランクに入れ、車を走らせ停泊していた飛行艦へと戻る。

朝一での出発だ。そうすれば、遅くても夕方には着ける。それに、今日は追い風。上手く軌道に乗ればもっと早く着けるだろう。


「さぁ、もう再出発だ。時間もないから、また寄り道なんかしたいって我儘言ったら怒るからな」


「もう大丈夫よ。ね、マノン」


「うん!楽しみだなぁ」


荷物を飛行艦へと積んでいく。


「あの町であんなに食材が豊富なんだから、本国シヴィルノはもっと凄いわよ。ちゃんと訪問したのはクレア王女が十歳の誕生日の時だけだけど、ご馳走はもちろん、量も凄かったわ。向こうはお腹いっぱい食べられることが幸福の象徴で、おもてなしの基本みたいだからね。残してしまったものは、使用人が食べたり、翌日に食べるし」


「へぇ。食べ物を簡単に捨てないってことか」


エアルが感心する。


「私もお腹いっぱいになるまでおもてなしされたい~!」


「本当、お前は食い物のことばっかだな…」エアルが呆れる。


「あー!」


「ッなんだよ!いきなり大声出して!」


「朝市に出てた屋台にフルーツサンドウィッチが並んでて、後で買おうと思って忘れちゃった…昨日買って、すっごく美味しくて、また食べたいって思ってたのにぃ!」


相変わらずなマノンに、エアルもヘスティアも困り笑顔を見せた。


「シヴィルノに行けばあるだろう、どうせ。さ、準備も出来たし行くぞ」


二人が艦内へ入っていく背中を、マノンは涙目で見つめていた。どうして二人は食に対して興味が薄いのだろうか。

マノンはぼんやりと空を見上げる。


「…私って食い意地汚いのかな」


「それはマノンが食べることが好きってことよ!美味しい物を食べたいって、誰でも思う事だから!」


ヘスティアが窓から叫んでくる。それを聞いたマノンはニコッと笑った。


「ヒヒ!それならよかった!」


マノンは安心して、急いで飛行艦の中へと戻っていった。



シヴィルノまであと数百キロ。今の所順調に運行している。自動操縦にし、三人は各々自由に過ごしていた。その時だ。


『気候に乱れあり。目視確認推奨』


エアルのマジックウォッチに指示が入る。


「マジかよ」


急いで操縦室に向かい、モニターを確認する。かなり先だが、シヴィルノに行くには通らなければならない航路の先は灰色の雲が多い、雷が走るのが見える。


「うおぉ?!」


強風まで吹き、飛行艦が大きく揺れた。


「クソ…二人とも、一旦地上に向かう!少佐の飛行艦がこの程度の風で揺れるとか不安だからな。もしかしたら故障かもしれん!」


「わかりました!」


飛行艦はそのまま着陸を決行。エアルの予想通り、どこか不備があるようで着陸態勢に入れない。


「不時着するぞ!どっかに捕まっとけ!」


「マジかぁ…なるべく家具とか私達がひっくり返らないように丁寧に着陸してくれぇ」


マノンが情けない声を上げた。



不時着したのは、小さな村だった。


周りには物珍しさから子供達がわんさかと集まっていた。


「飛行艦だぁ」


「初めて見たね」


「かっこいい…!」


わちゃわちゃしていると、飛行艦から三人の大人が現れた。エアル達だ。


「どこだ、ここ」エアルが呟く。


「ここ、シヴィルノに一番近い町だよ!お兄さん達は?」


「あぁ、旅行者だよ。運悪く不時着しちまって…。そうだ。君達の町に飛行艦を修理できる大人はいるかい?」


質問すると、子供達は顔を見合わせてしまう。


「わかんないや。ねぇ!うちの町においでよ!そしたら解るかも!」


確かに、その方が早いだろう。子供達も歓迎ムードに入っている。エアル達はお言葉に甘え、町にお邪魔することにした。


辿り着いた町は、少し異様だった。


大きな国が近いなら珍しくないことなのかもしれない。


この町には、大人の男が居なかった。農作物や店を切り盛りしているのは女ばかり。老人もいるがキツイ仕事を任せられるほど頼りに出来ない。子供も積極的に手伝っている。それだけ人手不足なのか、それとも町全体で作物を育てるのが風習なのかは解らない。


「お母さん!お客さんだよ!」


一人の子供が叫ぶと、逞しい一人の女性が顔を上げた。水道で手を荒い、エプロンで拭きながらエアル達の下へ歩いてきた。


「お客さんだなんて、珍しいねぇ!私がここの町長だよ!」


「突然すみません。実は…」


エアルがひとしきり説明すると、女性は申し訳なさそうに肩を落とした。


「それは災難だね…。でも、申し訳ないけど、ここに整備工場はないんだよ。皆シヴィルノに直接行っちまうからね。ちょっとした点検くらいなら、男達が出来るんだけどね。今はお国に招集されて軍隊へ出ていて男手はいないんだ」


この町は、シヴィルノから一番近い町として、軍対への招集があれば男達は必ず出向するのが掟らしい。昔はさほど頻繁じゃなかったが、ここ二十年はほぼ招集され、収穫日が近づいても軍優先なので、はたはた困っているようだった。


「ありがとうございます。大変な時に…。マノン、ヘスティア。俺は車で整備工場に行って着てもらえないか話してくる。お前達はここで待っててくれ」


「えー!エアルだけズルい!」


「なんかあったら連絡する」


騒ぐマノンを無視してエアルはさっさと車を出してシヴィルノへ向かってしまった。


「逃げられたわね」


「このまま皆でシヴィルノに行った方がよくない?」


「エアルなりになんか考えでもあるんでしょ」


残された二人を、町長が言葉をかける。


「お嬢さん達。ここには店や食堂が繁華街ほどじゃないけどあるから、あの兄ちゃんが戻って来るまで羽根でも伸ばしておきな。飛行艦だっけ?その中にいたんじゃ、退屈にもなるだろうさ」


「さっすがぁ!町長わかってる!」


マノンがはしゃぎながら町長の周りでわちゃわちゃと動く。


すると、一人の子供が櫓からマイクを使い町中に知らせる。


『男達が帰って来たよー!二十人くらい!』


すると町中が安堵に包まれ、どこか賑やかになる。しかし、安心の笑みを見せた町長はヘスティアとマノンに向き直す。


「旦那達ならいいんだけどね。独身男等だったら、女に飢えているからね。そんな格好だとナンパされたり、嫌な思いするだろうから着替えておいたほうが良いよ」


そう言われると、まぁそうとも言える。おみ足を大胆に出したスカートを穿くヘスティアと、腹だしスタイルのマノン。これじゃあどうぞ、と言っているようなものだ。いくら自分達にそんなつもりは無くても、見る相手によっては捉え方が全然違う。


「もしかして私達が住んでた国って意外と安全な町だったのかなぁ」


「さぁ。それは周りの人に恵まれていたんじゃないかしら。それより、軍人が帰って来るなら絶好のチャンスよ。私達には私達に出来ることをやりましょう」


「うえ?何するの?」


「とりあえず、町長さんから言われた通り露出の少ない服に着替えましょう」


飛行艦に戻ると、ヘスティアによるコーディネートが行われた。マノンは柄物のワイシャツを肩辺りまで肌蹴させたカジュアルなスタイルに、ロングスカート…右側の一部は膝より上に揃えられたスリットスカート。

ヘスティアはゆったりめのタイトスカートにスリットが入ったものに、小さなフリルが付いたブラウスを着る。


「これでいいでしょう」


「普段着よりはいいけど、これでどうするの?」


「聞きこみよ」


そのまま連れて行かれた先は、大衆居酒屋だった。男手が帰ってきたことで、恋人や家族が集まりより賑やかさを増していた。


ヘスティアは吟味すると、ある一角に集まっているグループを見つける。


「あそこね」


ヘスティアはカウンターでシャンパンとオレンジジュースを頼む。飲み物を受け取ると、目を付けた男達のグループ周辺をわざとらしくうろつく。


「町長にお勧めされて来てみたけど…とっても混んでいるわね。どこの席もたくさん」


「え?あぁ…そうだね?」


「小腹も空いたし、軽食でも食べて行こうかと思ったけど、無理そうね」


眉を下げ微笑むヘスティアは、マノンから見たら全然悲しんでいなかった。寧ろ、早く鴨よ来いと言いたげな雰囲気だ。


「…残念だね。シヴィルノから近い町だし、ご飯も美味しいって楽しみだったんだけど」


帰ろうか、と続けようとした時だった。


「姉ちゃん達、もしかして観光客か?!」


一人の軍人が声を掛けてきた。そいつだけが盛り上がっているのではなく、周りにいる軍人等もソワソワしたり、ニヤついたりしている。


「えぇ。でも満席だからもう戻るわ」残念がるヘスティア。


「俺達と相席でよかったら、座りなよ」


「本当?じゃあ、ご一緒してもよろしいかしら」


ヘスティアとマノンが向かい合う形で席の端っこに座る。座ると、スリットから足が露わになる。男は、思わず生唾を飲んだ。


「もしかして軍人さん?私、初めてお会いしたわ」


「お嬢さんが知らない事、たくさん知ってるぜ…?」


もうこの軍人達は、ヘスティアの蜘蛛の巣に掛かったも同然だ。逃げられない。情報を抜き取られて絞られるだけ絞られて、用が終わればポイだ。マノンは、気まずそうにオレンジジュースを一口飲んだ。

原作/ARET

原案/paletteΔ

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