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ETENITY00  作者: Aret
3章・・・意思・マノン外伝
72/113

72話・・・テマノスの町10

作品を読みにきて頂き感謝です。

先に仕掛けてきたのはヘスティアだった。

接近戦、遠距離戦で分担を図ったらしい。それが正しい選択なのか、悪あがきなのかデウトには解りかねた。ただでさえヘスティアはモアの足元にも及ばず意気消沈していたのだから。まぁ、仲間と一緒に戦う、となると気持ちは変ってくるのかもしれないが。

ただ、長い付き合いだからか息はピッタリといった感じだった。ヘスティアがデウト達から大きく距離を空けた瞬間に魔弾がそこかしこから降り注がれる。エアルも木々に隠れながら反撃の機会を窺っているらしい。


「アンタ等、戦術には長けてんだからさっさとスキルでも発動させたらどうだい。老人相手じゃ気が引けるってか?」


モアが発破をかけるが、ヘスティアは猛攻を緩めなかった。


(挑発にも乗らないか…秘策でも練ったのか?)


「デウト」


「解ってます」


デウトはエアルを探すべく森の方へ走るが炎の壁が突如出現し行く手を阻んだ。


「私達が企てた作戦を邪魔するのは止してくださる?」


「…貴女に私達二人を相手に出来る実力があるとでも?それに、女性独りに二人を任せるなんて男性としてどうなんでしょう」


あえてエアルとヘスティアの頭に血が上りそうな台詞を吐く。今までだったらエアルは微妙だが、ヘスティアは乗って来た。だけど


「その挑発には誰も乗りません」


そう言うと、また剣を振るい攻めた。



エアルは森の中から援護射撃をしつつも不安を募らせていた。

いくらヘスティアの提案とは云え、今回の作戦には同意しかねた。だが、約二年間も一緒に旅をしてきた。リアム達と再会してからは、あいつ等に引っ張られるようにさらに絆ってやつも強くなったと思う。多分、一番信頼できる相手だ。


「ヤベェ、緊張してきた」


心臓が今にも爆発しそうなほど脈を打つ。ドクドクと自分の耳にまで血流が走る音が伝わる。正反対に冷静すぎるヘスティアが少し怖く思えた。


「あー嫌だ、嫌だ。少しは俺の腕を疑ってくれよ」


マスタングから受け継いだ銃を親指でひと撫ですると、肺の奥まで空気を入れる。

目を閉じ、集中し、覚悟を決める。


「行くぞ、ヘスティア」


本来ならスキルは二回発動できる。


だが、今回の特訓は四分間スキルブーストを維持すること。その二回分をこの一発に込める。失敗は許されない。


「クラスブースト!」


『クラスブースト発動』


黒い閃光が木々を裂く。


「モア!

「ッチ!こっちも来るよ!」


デウトとモアが背中合わせになり結界を張る。デウトが最後に見たのは、ヘスティアも黒い閃光に呑み込まれる瞬間だった。


「ヘスティア君!」


それと同時に閃光も太くなり結界を包んでしまう。もう視界は黒く、彼女がどうなったか解らない。心配はしていない…と言ったら嘘になる。


「デウト!ヘスティアの心配する暇があるなら、どう打破するか考えるよ!」


モアの大声で心のぐらつきが瞬時に納まり、顔付きも変った。


「私がトロープスします。モアは結界の中で待機。まずはエアル君を潰し次第ヘスティア君に移行します」


「了解」


デウトがアーマースーツを纏おうとしたときだった。


ガンガンガンと結界を破壊しようとする物騒な音が立つ。矢のように刺さるは燃え上がる火炎。ヘスティアが四方八方から火の矢を撃っているのだ。


「モア…クイックブーストでは滞空時間は何秒持つんです?」


「飛び跳ねているのと同じだよ。だけど、私の勘が正しかったら…」


あの子はブーステットを習得したよ。命懸けでね――


モアが憎たらしそうに、だけど喜びを殺すように呟いた。



これは賭けだった。


「提案があるの」


ヘスティアの提案は、タイミングを見て自分事狙ってスキルを使えという内容だった。エアルのスキルブーストに巻き込まれれば魔力は勿論、気絶は避けられない。しかも現在進行形でエアルのスキルは力を増していっている。実践方式とは言えデウトだから無事でいるが、仮に敵襲が来てスキルを発動したら、相手がどうなるか解らない。気絶で済むかもしれないし、死ぬかもしれない。

そんな賭けをヘスティアは自ら申し込んできた。


「いや…どう考えても危険すぎだろ」


「だから貴方はコントロールするのよ。私は死にたくないから意地でもブーステットを発動させてみせるわ」


「…信用していいのか」


「えぇ。今、とてもすっきりしているの。前回の訓練の時とは大違い」


「ハァ。わかった」


エアルは承諾した。承諾した以上は絶対にコントロールしなければならない。四分間持続させ、ヘスティアを殺さないように。


そしてタイミングを見て発動した。ヘスティアとデウト達が重なった所を撃った。


(巻き込まれたら自己責任で頼むぜ…!)


玉の様な汗が一筋こめかみから流れ落ちた。


ここからはエアルも腹を括らなければならない。魔力を調整し四分間、そして相手に隙を作らせてはいけない。



一方、ヘスティアはエアルがスキル発動する瞬間を背中でビリビリと感じ取っていた。覚悟はもう出来ている。


(ここでヘマをしたら責任重大ね)


クラスブーストの力が今どれだけ強大になっているかは測りかねる。もし自分が巻き込まれ万が一があればエアルは責任を感じるだろうし、マノンは悲しむだろう。というか悲しんでほしい。

憎き師匠を睨み付ける。それと同時にヘスティアの胸のつっかえは何もなかった。混血の子供に教えたときみたいに、脳というか、おでこの周りを支配する靄みたいな陰りが透きとおり光で溢れているようだ。


(大丈夫よ、絶対出来る)


過去のどんな瞬間よりも、一歩踏み出した足取りは軽かった。



足に炎を纏い空に浮き、剣を掲げ日の槍を降らす姿はまさに戦の女神を象徴するようだった。


「ティア姉…」


「ブーステットに到達したんだ」


圧倒され、マノンは名前を呼ぶだけで精一杯だった。


ナデアはマジックウォッチで時間を測定する。


「二分半過ぎてる!あと半分!」


「え!」


このまま順調に行けば二人の圧勝だ。だがデウトとモアがそう簡単に負けを許すわけがない。マノンは固唾を飲んだ。

予想通り、閃光を裂くように爆破が起き、その中から上空へデウトとモアが飛びあがる。デウトはアーマースーツを纏っており、モアは若返っていた。勝負を着ける気だ。


「モア、後はお願いします!」


「アンタこそ負けたら承知しないよ!」


二手に別れようとした時、ヘスティアの邪魔が入る。


「数秒でも長く貴方達を邪魔させていただきます!」


ヘスティアが剣を振るうと、火の蝶が無数に生まれ二人を囲む。小さな蝶ではあるが高熱を放ち地肌がじりじりと焼けこげるような臭いを立ち込め始める。


「ブーステット!デウト、行きな!」


モアがデウトを蹴り飛ばしエアルの方へ向かわせる。


「随分活きが良くなったじゃないか」


「はい。相当ムカついたので」


「…意外と生意気なんだね、お前は」


 同じ火を操っているはずなのに。マノンの目には女神と魔女の戦いに見えた。二人の女の炎は地上にまで被害を及ぼす。それほど苛烈で熾烈な戦火が幕を下ろした。


「あっち!」


洒落にならない火の粉がマノン達に降り注ぐ。


「マノンちゃん!」


ナデアが結界を作り身の安全を保つ。お礼を言うのを忘れるくらい、マノンはヘスティアの戦いに見入っていた。呼吸をするのを忘れる程に。気づいたら祈っていた。


勝て!絶対に!


モアも剣を取り出し、刃どうしがキーンと鉄音を響かせる。完全に若返り魔法を発動できているわけじゃあない。力圧しで言えばヘスティアの方が上だ。

一旦距離を取り形勢を整える。

一瞬、地上を見ると黒い閃光はまだ走り続けている。


(たった一日の休憩でここまで変わるのか?)


本来なら喜ばしいことだろう。だが一週間程でここまで成長を見せられると腹も立ってくる。自分のずっと見てきた教え子たちは長い時間をかけ、今も苦労して進化し続けているのに。


「本気で行かせてもらうよ!」


モアは剣を掲げると炎と黒い稲妻が螺旋を描き、狼の様な姿を見せる。

「……」ズキっと、鼓動が鳴った。

神聖な炎に、黒が混じるのが何故か嫌だと思った。まるで憎しみが混じり込んだようで。兄を思い出して。

熱風がヘスティアの髪を乱していく。それと同時に、炎がより美しい蒼へと変貌する。


「私、もう一つ解ったことがあります。炎の中に黒が入るのは地雷のようです」

「は?」


ヘスティアは剣を掲げ、自身に炎を纏うと不死鳥へと変えた。


「自ら突撃するってかい!?いいだろう、正面から受けてやるよ!」


ヘスティアとモアの激しい声音が空に轟く。禍々しい狼と蒼い不死鳥が衝突すると爆風が起き、煙で辺り一面の視界が奪われた。

ナデアが踏ん張るが、結界に罅が入る。


「ティア姉!」


マノンは結界に張り付き、煙の中をじっと見つめる。


「…どっちが勝ったの?」


煙がゆっくりと晴れ、人影が見える。立っていたのはヘスティア。膝を突いていたのはモアだった。二人とも火傷を負っているが、表情はまだ闘志が宿っているので問題ないだろう。


「ッチ。お前の勝ちだよ、ヘスティア。…よくやった」


「ありがとうございます」


その言葉に、真っ先に喜んだのはマノンだった。


「やった、やったぁ!ティア姉が勝った!」


マノンのはしゃぐ声で、ヘスティアと、何故か緊張していたナデアも安堵したのか腰を抜かした。


「はぁ…はっ、あ、エアルは?!」


安堵したのも束の間。ヘスティアはエアルを探す。


「四分はもうオーバーしてる…どっちが勝ったの…?」


すっかりヘスティア達の戦いに夢中でエアルの事を忘れていた。どっちが勝ったか解らない。いつ閃光が途切れたのかさえ。


「わ、私見てくる」


そういうとマノンは荒れ果てた森の中へと踏み込んでいった。



二分前

「クソ!こっちに俺もいんだから気ぃ使え!」


熱波のせいで汗が滝のように流れる。ここで集中が切れたら、スキルも終了する。エアルはもう根性と気合で持ちこたえていた。


「エアル君!」


「ラスボスのお出ましか…」


「そのまま集中してください。そのスキルブーストを私に向けてください」


「は…?」


混乱した。だってそうだろう。このまま戦闘に入るなら解るが、自らを的にしろと言い出すなんてどうかしている。


「安心してください。君はこの約二分間で私の結界とアーマースーツを壊せば合格です。もし二分で足りないようなら…そのまま続けてください」


「ハァ?!」


「無理だと思うなら、全力で私を潰しに来なさい」


思っていた人物像とは別の一面を見せられ、エアルは狼狽えつつも閃光をデウトに放ち始めた。この前、やっとデウトの結界を破壊できたのに。このラスト二分もない時間でどうにかできるのか?


(考えろ、考えろ!どうしたらいいのか!)


『後一分。カウント開始…五十九…』


焦りを助長するかのようにカウントが始まる。もうここまで来ると自分のマジックウォッチさえも敵に見えてくる。

こんな時、本当にどうでもいいことを思い出した。昨日、マノンにキスされたことだ。


(俺は一体何を思い出してんだよ!走馬燈とかやめろよ?!攻撃してんのは俺の方なのに!)


だけど、またマノンが現れた。正確にはナデアからの言葉だったけど。


――マノンちゃん、焦点を狭めれば硝子が割れやすくなるの知ってたのかな。結界はそんなんじゃ割れないはずなんだけど、今回はマノンちゃんの魔力が上だったみたい


困り笑顔のナデア。


「焦点…」


エアルは威力をそのままに、閃光を狭めていく。デウトもエアルの作戦に気づいたようで、結界に魔力を集中させる。


『三十、二十九』


上空では化物同士が衝突寸前まで行っている。ヘスティアは決着を着けるつもりだ。

ここで自分だけ負けなんて絶対に嫌だ。死んで詫びるしか詫び方が思いつかない。真面目に。女性陣が奮闘し勝利を収めているのに、自分だけ、自分だけ…!

ここで女好きのエアルの精神が暴走した。良い意味で。


「俺だけ負けてマノンとヘスティアに馬鹿にされて罵られるとか絶対に嫌だ!もしここで負けたら一生ナンパ出来ない!恥だ!」


「はい?」


「うおおおおおおおおおおお!」


レーザーガンのような閃光は、威力を更に増し結界に罅を入れ始める。

この時のデウトの腹の中を代弁すれば、ナンパが出来なくなるのがそんなに苦痛なのか?そのために自分に勝とうとしているのか?と理解不能だった。

しかしその一瞬の隙が命取りになる。

パリン、と結界に穴が空き貫通する。そのレーザーはデウトに直撃する。


「ック!」


両腕でガードするが、直に浴びるとその強さに驚愕する。初日とは全然違う。このまま更に油断してしまえば、このアーマースーツも持つか解らない。

そこにエアルを追い込むように爆風が舞い、煙に包まれる。そしてしばらくしてマノンの悦ぶ声。これが決定打となった。


「デウトさん、俺のために負けてください」


その声色は先程とは違い、真剣なものだった。


「…!」


一瞬、本当に一瞬だった。まるで弾丸に撃たれたような痛みが肩を貫通した。それと同時にアーマースーツが解除される。


「な?!」


そしてデウトの真横を黒い閃光が走り、髪を掠めた。


『ゼロ。スキル終了』


「四分間、そして貴方のスーツも結界も解除出来ましたよ」


そこにはドヤ顔でにんまりと笑うエアルがいた。疲弊した表情は全力を出した証だろう。デウトはちょっと苦笑いしたあと、すぐに微笑んだ。


「よくやりました。合格です」


「やったぁ…」


エアルは聞き終えるとヘタレ込み、大の字になって倒れ込んだ。そこにマノンがやって来る。


「エアル?え、負けたの?」


「は?マノン?いや、負けてないぜ?勝ったぜ、ちゃんとな」


疲れ切った腕をなんとか持ち上げ、グッドサインを出すが。


「…う、嘘は良くないよ。どうみたって、デウトさんの勝ちじゃん…」


「え、は?嘘じゃねぇぞ?ね?!デウトさん?!」


「い、いいよ…私も、成長したしさ。空気とか読めるようになったから」


「じゃあ俺が勝ったことを信じろよ」


二人の凸凹なやりとりを見て、デウトは可笑しくなって助け船を出すのを勿体なく感じてしまった。



こじんまりとした診察所で治療を受けた後、招かれたのはアルフレッド邸だった。この町の長を担っている男の家となるとさぞかし豪邸なのだろうと思ったが、実際は平屋建て、風情があって、そしてティアマテッタにあるランドルフ邸より規模は小さかった。独りで暮らすには大きいが、人数を呼ぶには手ごろな面積くらいだろうか。

料理はさてどうするか。心配には及ばなかった。町の住民らがわんさか集まって、作った料理や地酒を持って来てくれたのだ。

そして混血の我が子を持つ親はマノンとヘスティアに感謝を告げていく。


「ヘスティアさんに教えてもらってから、うちの子が魔法の上達が早くて…!外では明るく振る舞っていましたが、やっぱり遅れを気にしていたみたいで」


「マノンさんの戦いを見て、憂いが晴れました。まだ六才で発動していないので心配ばかりしていましたが…恥ずかしくなりました」


二人は親や保護者に取り囲まれ、あたふたしていた。まさか自分達の知らないところでこんなに影響を与えていたなんて。


「皆さん、そろそろ私達も本題に入りたいので、今日の所は」


デウトがそっと促すと、住民らはそうだったと言わんばかりに帰って行った。

静かになり、六人が居間に揃った。そしてデウトが乾杯の音頭を取る。


「無事、三人の成長を祝って。そしてこの旅が無事終えられるよう祈って」


さっきとは打って変わり、和やかなムードで箸が進んでいく。


「あー…酒が上手い」エアルが五臓六腑に染みわたる酒を堪能する。


「使用している水の影響でしょうかね。明日、酒屋から飛行艦に送らせます」


「ありがとうございます!」


「飲み過ぎて二日酔いにならないでよ」


ヘスティアが釘を刺す。

すると、モアがおもむろにケースを取り出しヘスティアに押し付けてきた。


「あの、これは」


「これは代々ばあ様の家系…ランドルフ家の火属性に長けた者が使用してきたルナールの民に寄せられて制作されたマジックソードだよ。私が火属性持ちだと知ったばあ様が同情で形見分けしてくれた物だ。…私には重すぎる。これをお前にやるから、使いこなせるなら使いこなしてみな。現代の剣より魔力の伝達、そしてマジックメタルの純度は高いはずだから」


ケースを開けると、美しく輝く銀色と、紅い波紋が打たれていた。


「…ありがとうございます。次にお会いしたときは、モアさんが腰を抜かすほどに使いこなしているでしょう」


「まったく、この小娘は!」


初めてモアが豪快に笑った瞬間だった。


「マノンちゃん、私からもプレゼントがあるの」


「プレゼント?」


「うん。これ」


そう言うと、ナデアはマノンの左手にブレスレットを着けた。


「可愛い、ありがとう!ナデア姉!」


「ただのブレスレットじゃないよ。魔力を込めるとガントレットになるから。そのグローブと併用するなり、マノンちゃん流に使って」


「へぇ…」


このブレスレットはガーディアン向けの魔具だった。本来なら他スキルに渡ることはまずない。だが、あまりにもマノンがトロープスへの憧れを強く見せるので、ナデアは他スキルの者でも利用できる魔具をプレゼントすることにした。

このブレスレットは簡単には壊れない。魔具だからということもあるが、ナデアも魔法を掛けた

マノンを未来永劫お守りくださいと。


「このブレスレットはマジックウォッチと同期してね。あぁ、あと盾にもなるから」


「色々ありがとう、ナデア姉。あ!ちょっと思い出した!待ってて!」


「あ、おいマノン!」


エアルが引きとめる声を無視し、マノンはダッシュで飛行艦まで向かう。そして部屋を漁り、可愛らしい紙袋を掴み取る。


「これだ」



「いやぁ、お待たせ!ナデア姉にお返ししたくってさ!」


「そのためにわざわざ…どこまで行ってたんです?」ヘスティアが問う。


「飛行艦。はい、これ!」


「ありがとう、マノンちゃん!開けてみてもいい?」


「もちろん!」


ナデアはウキウキする気持ちを抑えつつ、紙袋を開く。柔らかい紙で包まれた…ブラとパンツのセット。


「ッッッゥグ?!マ、マノンちゃん…コレハ?」


「私じゃまだ使えないからさ。ナデア姉使ってよ」


マノンがわざとらしくウィンクする。

ナデアは笑顔を見せるが引きつったり、痙攣したりと忙しなかった。デウトに見られないよう背を向けて、こっそりタグを見てサイズを確かめる。


(…マノンちゃん。くれたのは嬉しいんだけど、このサイズじゃ私には合わないよ…)


パンツは穿けても、ブラが合わない。カップも小さいし、胸囲も若干苦しいだろう。


(でも、ブラだけ新調すればいけるかなぁ?)


ちらりとデウトを盗み見る。近くて遠いとはこのことだ。

未だにウィンクをしてくるマノンに、ナデアは慈愛の笑みを返すのだった。



翌朝

エアル達は支度を終え、飛行艦にて出発の準備をしていた。

ヘスティアは、ベガと外で話している。


「本当に…マルペルトでまた再会できた時は運命かと思いました。しかも、あの国から逃げる助けまでしてくださるなんて」


「私もベガとまた会えて嬉しかったわ。心配していたの…あの後、貴女がどうなったのか。とても苦労をかけてしまったけど、辛い思いをさせたけど、生きていてくれてよかった。あの子供達と一緒に」


「ヘスティア様…」


ベガ達も、ここから新たに再出発をする。今は子供達全員が勉学、各国の文化を、そして歴史を学んでいる。年相応の遊びも覚え始めた。働く職種もたくさん選べる。


「こんなこと、言っていいのか解りませんが…。ヘスティア様、あの国はいずれ崩壊します。きっと。それだけ、あの国の内面は腐敗しています」


「そうね。でも、そんな国でもしぶとく生きることがあるの」


「復讐なんて考えていませんよね?」


「当たり前じゃない」


その言葉を聞いたベガは、安心したのか破顔した。

その様子を艦内から見ていたエアルとマノン。マノンは、どこか不安を覚えた。


「ティア姉は、ここに残った方がいいのかな」


「それはアイツが決めることだし、アイツは俺達と一緒に旅を続けるぜ。降りろって言ったとしてもな」


「なんで解るの?」


エアルは肩を竦める。


「だって、アイツはエルドと兄妹喧嘩するって決めたんだ。ここにいたら、目的は果たせないだろ。それに、俺達は場所を知ってるんだ。また会いに来ればいい」


「そっか。なんか、また会いに行こうって、良い言葉だね」


「そうだな」


こうして混血の村での滞在期間が終了した。デウトから出会って、訓練が終わるまでかなり濃密すぎた時間は一生忘れられないだろう。なにしろ、混血の子供が身を顰めているだけで、珍しくないことが解った。

これは、マノンに大きな影響を与えた。デウトのように各地を放浪し捜し出すことは出来なくても、混血の子供にも、孤独でいる子供にも手を差し伸べたいと考えるようになっていった。

テマノスの町編は終了です。次からは新しい国へ移ります!


原作/ARET

原案/paletteΔ

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