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ETENITY00  作者: Aret
3章・・・意思・マノン外伝
65/113

65話・・・テマノスの町3

作品を読みに来て頂き感謝です。

エアルは張られた結界にそっと触れてみた。弾かれるわけではなく、水に触れる感覚だ。この結界にぶつかってもクッションのように守られるだろう。ただ、魔力の仕組みで時間まで出られない。


「すげぇ…」


「結界の一族はその数だけバリエーションも豊かですよ。組み合わせ次第でどうもなる。…今のルナール…」


「ゼーロ?」


「そう。ゼーロの街で今住んでいる結界の一族がどうなっているかは知りませんが…」


「結界の一族は知りませんけど…。数年前から静かに狂い始めています。ネイサン家から追い出された一人が国家転覆…ならまだ可愛い。世界の破滅を企んでいる可能性があるんです。そのためにも、強くならなきゃいけない」


「ネイサン家から…反逆が?それは確かに、危険ですね」

顔付きが険しくなり、曇らせる。


デウトは巾着袋から三つのピカピカと輝く黒っぽい石をエアルに渡す。


「これは?」


「この石には魔力が十二分に補給されています。本来なら魔力が未熟な子供の補佐用ですが、今回はエアル君のスキル補佐に使います。この石の力を借りて魔力が満ち足りた感覚、そしてスキルを長く使用する感覚を覚えてください。最終日には石なしで三分…いえ、四分超えを目標にしましょう」


「四分…」


それはつまり強制的に魔力を底上げし無理矢理四分以上扱えるようにするってこと。

ただでさえ初めてクラスブーストを発動した日を思い出す。記憶も覚えていなけりゃ、それこそ魔力強制底上げされたようで酷かった。

本来なら断りたいところだが…

エアルは石を握りしめると、バッと勢いよくお辞儀した。


「よろしくお願いします!」



石に金具を付けネックレス状にし、首にかける。エアルは銃を構えると、的となるデウトに標準を合わせる。


「ほ、本当に撃っていいんですよね…信じてますよ」


「はい。遠慮なく。私のガーディアンを打ち破ることが出来たら、その時は合格です」


「プレッシャーがヤベェ」


「気負わずに。まずは一石を使って何分間持つか試しましょう。攻撃がブレたって構いません」


そうは言うわ。言われる方は気が気でない。壊れても元通りになる不思議魔法を駆使するようだが。なんの罪のない木々や土を破壊する俺の気持ちにもなってほしかった。


鼻をフンッとならし「クラスブースト!」と気合を入れる。


エアルはデウトに向け黒い閃光を解き放った。


閃光はデウトを直撃…正しくは結界に命中。緊張もあったが標的に当てるという面ではクリアだろう。


(ヤバイ、全部持ってかれる!)


踏ん張っても吹き飛ばされそうになる威力。そして銃の言う事を聞かせようと握力で解決しようとするが、痺れと震えが襲い、ここで放したら銃が暴れてそれこそ破壊の限りを尽くしてしまう。


「エアル君!石と君の魔力を均等に使うように意識するんだ!多分今の君は自分の魔力で補っている!だから石から魔力を補給するんだ。イメージして、石から魔力を貰うところを」


イメージで出来るのか、とツッコみたいがそうは言っていられない。


エアルは全身の力の限り銃を抑え込み、瞼を閉じた。


(石…俺に魔力を分けてくれ…)


空想か、想像か。はたまた白昼夢か。


石から黒く煌めく粒子がエアルの腹の中へ吸い込まれるように吸収されていく。すると身体が楽になる。手も足もまだ言う事が聞く。


(デウトさんの言ったとおりだ…じゃあ、この石を上手く使って四分…!)


マジックウォッチには二分経過の文字。


「行ける!」


出し惜しみをしても体内で魔力が暴走するのは解っている。無作為に放出するのも早くばてて戦闘では役立たずになる。


この中間。デウトが目指す四分間は、きっとこのさき最高の攻撃戦法になると、エアルは革新し、瞳孔を開き内心興奮した。



「…惜しかったですね。三分です」


「三分…」


興奮したのが仇となったのか。


戦闘として、最期の止めを刺すには十分な魔力とスキルだった。だが、配分を間違え、鼻血をドバっと出し、酷い頭痛でエアルは倒れ、そこで一回目の訓練は終了した。


デウトは濡れたタオルでエアルの血液を拭き、脱脂綿を両方の鼻の穴に詰めた。


「呼吸はしづらいでしょうが、しばらく安静にしていてください。頭痛も脳に損傷がある恐れがあるので…時刻が来たら病院で検査をしましょう」


「あい」


「少し無茶をさせてしまいましたかね」


「いえ。おれの配分ミスです。次からは合せてみせますよ」


エアルがニヤリと笑う。


それを見たデウトも、大人らしい笑みを見せた。


「期待しています」



モアは水煙草を吸いながら弟子に指示を送っている。


「お前は障害物を作りな。お前は競い合う準備。お前は邪魔する準備を。とっととかかりな」


さながら魔女…という雰囲気が似合うモアは、若い男女を躊躇いも無く扱き使う。


純粋な土属性が剣を地面にさすと、高さが曖昧な壁と、簡単な迷路が出現する。つまりは障害物。


「これは」


「ここが今日からお前の訓練場だよ。ここでお前には走って、逃げて、足で戦ってもらう。銃や剣は使用不可。これは競技相手も同じ条件だけど、それじゃあつまらないだろう?だから、遠くからゴム弾を狙撃してもらうことにした。ゴム弾は避けるだけでもいいさ。でも、私の理想としてはゴム弾くらいならスキルを使って足で弾き返してほしいところだけどねぇ」


高望みはしないというけれど、言葉には期待満々の声色が入っている。いや、やれと言っている。


「そうですね。モアさんのご期待に応えないと、後が怖そうですものね。尽力いたします」


「…言うねぇ」


ヘスティアの競技相手となる女性は火属性と木属性の混血。


遠距離射撃担当の男性は火属性と金属性の混血。


弟子の女性は随分威圧的にヘスティアへ向かい合った。


「モア師匠からお話は聞いております。まさか、私達家族を地獄のような生活を強いていたマルペルトの王女様がここに来るなんて、とんだ奇遇ですね」


「…それは心からお詫び致します」


彼女とは同い年くらいだ。きっと、父が健在だった頃に…


「私達は、デウトさんに感謝してもしきれません。そして強くしてくれたモア師匠にも。足なんて向けて眠れない。だから、私は貴女を全力で潰します。私情込みで」


「いいですとも。私ももう、お上品な王女様じゃないの」


ここで熾烈な女の争いのゴングが鳴り響く。


「先にゴールした方が勝ち。じゃあ始め」


モアの適当な合図で二人は障害物へ向かい走り出す。


脚力には自信がある。蹴りも、瞬発力もこの足を頼ってきた。内心自慢に思っていたが、あのエアルに目にも止まらぬ速さで蹴りを入れられることに快感さえ覚えていた。


彼ほどなら下手な蹴りは避けられると思っている。それだけ見極めが出来ると。


リアムの軍隊入試の練習相手の時でさえ押していた。


だけど今はどうだ。


あの混血の女性に僅かだが後れを取っている。


(嘘でしょ、まだ邪魔すらされていないのに…!)


あの女のドヤッた顔が安易に想像出来て腹が立つ。


ゴールまでの距離はおよそ五百メートル。そこに障害物と遠方からの阻害行為がある。


ヘスティアは障害物を飛び越え、迷路エリアに辿り着く。


「迷路なんか律儀にしてられるもんですか」


女の姿が見えないことを察するに、ブーストを使っているのだろう。はたまたクイックブースト。


ヘスティアは瞬時に脳から腹、そして足へと魔力を集中させブーストを飛び越えていく。


「クイックブースト!」


本格的に使うのはイグドラヴェ以来だろう。


思ったより上手く出来たことに安堵する。


「やっぱり使ってきた、クイックブースト!」


「な!」


迷路の壁を伝い飛び越えようとしたとき、あの女が現れた。


「お見通しなのよ!そしてアンタはまだ私には勝てない!」


強烈な蹴りを入れられ、スタート地点付近まで吹き飛ばされる。


「あの女…ウッ?!」


起き上がり、恨めしそうに睨むと今度は頭部に何かが被弾した。


ゴム弾だ。


痛いが気絶まではしない。


「ここで邪魔してくるとか…よっぽど私が嫌いなようね」


闘志は怒りを通り越し怨恨に変っていく。


何故だかいつもよりイラついた。


(あの女を叩いてからゴールへ向かう!)


女は一旦足を止め迷路の中へと隠れ、モアの言葉を思い出していた。


――『いいかい?お前の役目はライバルじゃあない。ヴィランだ。ヘスティアを苛立たせて冷静さを掻くのが仕事だよ』


(元々お利口なライバルになる気なんてサラサラありませんでしたよ)


混血というだけで虐げられてきた。自分が七才になったら遊郭に入れるのを条件になんとか住むことを許された。親が娘を進んで遊女にしようとしたわけじゃない。自分から進んでお役人に叫んだんだ。自分を守るために両親が虐げられている姿を見て悔しかった。


でも。マルペルトには遊郭や娼婦が多いせいか混血児が妙に多いという噂は業界内ではあって。その噂のお陰でデウトはたびたびマルペルトに訪れていた。その際に彼女の家族は助けられた。もし見つけてもらえなかったら、今頃…


(悪いけど、公私混同させてもらうわよ、王女様)


背後からヘスティアの気配を察知し、女はクイックブーストで光の中へと駆けていく。


「王女様って意外と鈍ちんなのかしら?仕留めるのに数秒遅かったわね。ていうか、気配もモロバレだし」


「あらごめんあそばし。貴女への殺意が抑えきれないほど出ていたのね。精進しなくちゃ」


「こわ」女は苦笑いする。


ヘスティアの目付きは先程とは打って変わっていた。完全に人を殺しにかかって来ている眼だ。何をそんなに王女の地雷を踏んだのかは解らないが、モアの要求通りに出来たことに一応の達成感はあった。


「私に気を取られていると痛い目をもっと見るわよ?」


「!?」


ゴム弾が撃たれ、被弾するまえにヘスティアは弾を蹴り飛ばした。


「ッ痛…ゴム弾とはいえ、流石に蹴り返すのは痛いのね…」


「おっそろしい」


二人がゴールしたのは、スタートしてから十分経った時だった。ヘスティアが遊ばれるような形で、女に翻弄された。結局、先にゴールを切ったのも女の方だった。


まるで、王宮で稽古を付けてもらっていたのはお稽古事のように感じる程。


ゴールで待っていたモアは息切れをしているヘスティアを見下ろしながら言う。


「…五分後にもうひと試合するよ。次でスキルは使えなくなる。そしたら後は自分の力だけで障害物を乗り越えるしかないね」


「は…?」


「今はまだ昼だよ?この結界が解けるのは夕方六時。時間は有効に使わないと駄目だよ」


「……わかりました」



各々の特訓が続いた三日目の夜。


明日で最終日だ。


朝から夕方まで。休憩は各師事を仰いでいる人の判断で取るが、一番休憩が多いヘスティアはその分回転が速かった。そのせいもあり、帰ってきたとき一番疲弊しているのはヘスティアと言ってもいいだろう。そして未だ最初にゴール出来ずにいる。


エアルも疲弊している。だがそれは精神面での疲弊が大きい。毎度渡される石は回数を重ねるごとに補助魔力が少なくなっていった。一度鼻血どころか嘔吐もし、目に出血痕も見られるほどエライ目にあった。その時は流石のデウトも慌てて病院へ担ぎ込まれた。

焦る必要はないとは言われた。四分が無理なら三分から慣れようとも提案された。だが、最初に立てた目標を変えるのは嫌だった。自分を曲げるみたいで。


そして一番元気なのはマノン。ナデアの訓練が甘い訳ではない。飴と鞭が上手いのだ。まだマノンがナデアに勝てた事は無いが、デウトが見て一番成長を遂げているのはマノンだった。


・・・

小腹が空いたマノンは、部屋を抜け出し、食堂にこっそり向かっていた。その時、ナデアが町の中にいた気がした。無駄な使い方だが、アイズで町中を見ると、ナデア、デウト、モアの三人が広間のベンチに座っているのを見つけたのだ。

人気も無い場所で三人してお喋りだなんて、きっと自分達のことだぞ、と勘繰ったマノンは宿泊場を抜け出すと、広間へと走って行った。


あまり近づけないが、夜ということもあり、声は良く空気を通した。


「どうですか?マノン君とヘスティア君は」


「そうだねぇ」モアが水煙草を吸いながら答える。


「ヘスティアに関してはあともう一歩って所だろうね。今日こそうちのお嬢を負かすかと思ったけど…ダメだったね。でもあの子も冷静だね。初日の最初こそ頭に血が上って反射神経任せで喧嘩していたけれど、落ち着いたと思ったらわざと勝つのに手を抜き始めたよ。お嬢の動きを見ぬきに入ったね」


モアがどこか嬉しそうに笑う。


「ほう。聡明な子ですね、彼女は」


「あと」


「はい」


「私の仮説が正しかったようだよ?真実味が出てきた。無属性と肉体関係を持つと他属性の魔力が上がる…ヘスティアはエアルと関係を持っている」


「˝え」ナデアのとんでもない声が出る。


「そうか…やはりモアの仮説は当たっていたようですね。半信半疑でしたが…。今日まで生きていれば、おや?と思う人もいましたし」


モアの仮説とやらにマノンは驚き腰を抜かした。


(へ?え、え~?!なんなん?!やっぱりエアルとティア姉デキてたんだ…)


好奇心にまた殺された気がした。


マノンは勢いを無くし、そのまま体育座りをして三人の会話を耳に入れる。


「それって、お二人が恋人関係ってことですよね?」


ナデアが少々興奮しながらモアに訪ねた。


「どうだかね。ただ私の勘じゃありゃ愛とか恋ではないね。あの子は寂しさ埋めるのにエアルと一緒にいるんだろうな」


「え…恋愛感情無くても魔力が上がるの?それって。エアル君とヘスティアさんの関係ってセフ」


「ナデア!」デウトが叱る。


「すみません…失言しました」


ナデアが口元を隠し俯いた。


「あまりそういう言うことは口走るものではありませんよ。…モア、ナデアを叱った後で言うのも恥ずかしいのですが、逆はあるのでしょうか?無属性が力を増すとか」

「どうだろうね。今の所恩恵を受けているのは他属性しか見たことないね」


「あの」ナデアが入る。


「そもそも、私達無属性ってどんな種族なんですか?スキルも一族や家族によって変わるし…ネイサン家とメイヤーズ家も…もとは同じ兄弟姉妹なのにスキルが違うんですよ?おまけに、他属性の魔力増幅まで。いくら私でも、ここまで怪しいデッキが揃えばそろそろ真実を知りたくなりますよ」


ナデアの言う事は確かだった。聞き耳を立てていたマノンも物凄く気になった。なぜ兄弟であるはずなのにミラの父とナノスの父は違うスキルを持って生まれたのか。従妹でも、リアムと自分は同じアウェイクニング保持者なのか。

ヒントでもいい。マノンは耳を澄ませ、デウトの次の言葉を待つ。


「それはまだナデアが知るには早すぎます。いずれ時期が来たら話します。約束しましょう」


「そうですか…」


がっかりし、少し重心を左にずらした。


「話を戻してもいいかい?」


「あぁ、すまない。モア」


「兎に角、他人の色恋沙汰に首を突っ込むのは野暮だよ。あの二人はもういい大人だから放っておけ。いいね」


「それが一番だな」


「デウトさんまで…。私は、あまり二人の関係に理解できませんけど…うーん、複雑なのかなぁ」


「そうよ。その中全てが純情じゃないんだよ」


モアの言葉に、ナデアはモヤモヤした感情を抱いた。


確かに大人は色んな事情を持つ人がいる。ここに住む子供や成長した大人は身体を売っていた人が多い。特にマルペルト出身の子だ。


だけど、それは仕事として見ていたが、エアルとヘスティアはセフレだ。事情が違う。


友人として口を挟むべきなのか。モアの言う通りそっとしておくのがいいのか。


どんどん解らなくなってきて、溜息しか吐けなかった。


そしてマノンも、雲一つない星空を見上げていた。


(エアルとティア姉の関係は仕方ないよ。だって、二人は私より先に出会っていて、一緒に旅してきた仲だし。二年だっけ。そりゃ、二年も一緒に居たらそういう雰囲気になることだってあるよ…あるよ)


そう。仕方ないこと。そう言い聞かせる。


そう言う時、ミラがいたら相談できたのだろうか。少し、あの家が恋しくなる。


ぼんやりとしていると三人に動きがあった。


「さて。私は先にお暇するよ。歳を取ると夜がきつくなるんでね。それに、明日は私が直々にヘスティアの相手をしようと思っている」


モアがニヤッと笑う。


「ほう。久しぶりにアレを使うのか?」


「そうだよ。歳取り始めてだから…百年ちょいくらいか。上手く出来るか知らんけどね。預かった娘だ、出来ることは全部やるよ。じゃあ準備もあるし、お先に失礼」


モアはひらひらと手を振ると、帰路へ着いた。


残されたデウトとナデアはまた話し続ける。


「さてナデア。まだ進捗を聞いていなかったね。マノン君はどうだい?」


そう訊かれたナデアは、さっきの鬱屈した気分なんかどこかへすっ飛んで、キラキラと笑顔を見せ喋り始める。


「はい!マノンちゃんは元々あの活発な性格ですし、へこたれるどころか奇抜な発想で反撃してきます。そこが一番の彼女の魅力ですが、心配な所でもあります。もう何度肝を冷やしたか解らないくらい!」


「アハハ!この三日間でそんなことが」


思わずデウトの顔も綻んだ。


「もしかしたら、明日にはいい一撃を貰うかもしれません」


「そうか。もしそうなら、今回の修業でマノン君が一番伸びているかもしれないな」


そう聞いたナデアはさらに破顔する。


「はい!嬉しい限りです!」


初めて教えた相手が、一番の伸びしろがあると言われて嬉しくない師はいないだろう。マノン自体の才能だったとしても、自分が教えた事を吸収し生かし成長してくれているなら、とても嬉しいことだ。


そして、それを聞いていたマノンも静かにガッツポーズを取っていた。


(やった!私が一番!)


ウキウキしていると、打って変わり、明るい話声が落ち着いた空気へと戻っていく。


「あの、デウトさん…その。私の修業はいつ再開するのでしょうか?」


「そうだね。ひとまずはあの三人の力を伸ばしてからでないと再開は出来ないな。明日によっては、延期もありえる」


「そう、ですか。でも!デウトさんが大丈夫なら、私、三人を見終えたあとでも修行を始められますよ!」


「それはいけない。ナデアに負担がかかる。ただでさえ朝から夕方まで魔力を消費し続けているんだ。無理は禁物だよ」


「…わかりました」


本人は気づいていないだろうけど、がっかりとした表情を見せるナデアの頭を思わず撫でた。


「大丈夫。ちゃんとナデアが一人前になるまで修業は続けるから」


頭を撫でられたナデアは、驚いたのか口をパクパクとさせ慌てて後ろに下がった。


「も、もう!私はもう子供じゃありません!」


「あぁ、すまない!つい…なかなか癖は抜けないね。もうナデアも立派な女性なのに」


「いえ、私もきつめになりました…」


「さ、帰ろうか。家まで送っていくよ」


二人が広間から帰って行くのをひっそりと見ていたマノンは、ほうほうと覗き見る。


(あの様子、ナデア姉はデウトさんが好きなんだなぁ?ミラと同じ匂いがした。ヘヘ)


マノンも帰る。上手く整理できない気持ちもまだ残っているけれど。今はナデアの恋を応援したい気持ちでいっぱいになった。


(お…て、ことは…?)


マノンはニヤリと悪巧みする笑みを浮かべる。ウッシッシと笑うと、足取りを軽くして帰って行った。



風呂から上がったナデアはバスタオルで髪を拭き、身体を拭く。


鏡に映る自分を見て、幼い頃を思い出す。


「…私はもう子供じゃない。口では大人になったなんて言っているけど…あの人の中じゃ、私はまだ子供なんだ」


膨らんだ豊かな胸に手をそっと当てる。身体だけじゃない。思考だって成長したはずだ。


デウトの過去を知らないわけじゃない。


そして今も心にあの親子や生き続けていることも知っている。


それを承知した上で、ナデアはデウトに恋心を抱いていた。


「解っているけれど…私の気持ちに気づいてくれてもいいじゃない。鈍感すぎ」


少し自虐的に笑う。


部屋着に着替え、自室へ戻る。ドライヤーをかけながら明日の作戦を練る。かけ終わるとベッドに横たわる。


「もう寝よ。明日も早いし」


もごもごと布団の中に潜り込む。


「それにしてもエアル君とヘスティアさんがねぇ…。……初めての時って、やっぱり痛いのかな…」


なんかもう一周回ってどうでもよくなって来た。こうなると、そういう方面が気になってくる。


「聞く?ヘスティアさんに直接?いや、失礼過ぎるでしょ流石に。長年の友人でも聞きにくい部類の話だぞ、ナデア」


独り言が始まった。


「あーでも、マノンちゃん大丈夫かな。なんか、マノンちゃんはエアルくんのこと好きなのかなぁって思ったけど。どうなんだろう…。ま、いっか。もう寝よう。人様のことなんて、考えた所で仕方ないし解決しないからねぇ」


どうでもよくなったナデアの表情はさっぱりとしていた。

そして電気を消すと、数分後には寝息が聞こえてきた。

自分は平気だと思っていても、体はちゃんと疲労しているのだ。


そして。最終日がやって来る。

原作/ARET

原案/paletteΔ

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