56話・・・イグドラヴェ3
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ワゴン車に乗せられてどれだけ走行しただろうか。窓はボディ色に塗りつぶされているため外は見えない。揺られるまま時間は過ぎ、次第に整備されていない道に出て、砂利なのか、石なのかガラガラと音を立てながら走る。
カーブを何回か繰り返し辿り着いた場所は山中だった。見晴らしは悪く、随分登って来たと思ったが、街を見下ろすことは出来ないほど樹木が生い茂っていた。
「こっちだ」
三人が案内され、ロッジに入る。
一見普通のコテージのようで、誰かの別荘のような造りだ。だが、レジスタンスの一人が暖炉に触れると、スライドし隠し階段が出現する。
「この奥にお前達に会いたがっているお方がいる」
一人が先に降りていく。エアル達は目配せをすると、意を決して階段を降りる。
地下は木で造られたロッジとは違い、冷たい打ちっぱなしのコンクリートだった。
「やぁ、お前等だって?コアについて嗅ぎ回っているってのは」
如何にもここのボスといった風貌の男が、堂々とソファに座っている。
「俺の名はセブレ・キング。今はこのレジスタンスを治めてる…オメェ等、何処のもんだ?」
「俺はエアル・アーレント。ある人に依頼を受けてコア・クーパーを調べている」
「ほう…。その髪の色、無属性か?珍しい…中々会えるもんじゃあねぇ。そんでもって、嬢ちゃん達は水と火か」
「私は半分無属性だよ!」
マノンが少しドヤりながら胸に親指を差す。しかし華麗にスルーされ、ボスとエアルは話を続ける。
「ある人じゃあ解らねぇだろ。ちゃんと依頼主を喋ってくれないことにゃあ話は進まねぇ。コアの事はおろか、ここから出られると思わない方がいい。男は拷問、女は…解るだろう?いい女と可愛い嬢ちゃんの組み合わせとか最高じゃあねぇか」
セブレがわざと下品に舌なめずりをする。
「汚らわしい」ヘスティアが睨む。
「…ッチ。解った、口を割るよ。依頼主はティアマテッタ司令官、モルガン・ハンプシャー少佐だ」
モルガンの名を聞いたとたん、セブレの眉がピクリと動く。周りのレジスタスメンバーも静かに騒ぎ出す。
「ほう…あの女狐か」
(女狐って…。ネイサン議長からも言われていたが、ハンプシャー少佐、一体何を各地でしでかしたんだ)
しかし今は他人の心配をしている暇はない。エアルは気を取り直す。
「依頼主の正体は明かした。コアについて話してもらおうか」
セブレは内ポケットから煙草を取り出し、吸い始める。煙を吐き、どこか遠くを見つめた。
「ティアマテッタ軍入試試験襲撃事件を知ったとき、遅かれ早かれコアについて誰が尋ねに来ると予想していた」
ゼブレは人払いをし、部屋には四人だけが残った。
「もう十年以上前の話だ。世間じゃ俺達反国運動家はティアマテッタにより壊滅に追い込まれたことになっている。だが事実は違う。どうしてコアみたいな邪悪な奴がハンプシャーにすら認知されていなかったか。奴この国の優しい歪みが生んだ怪物だ。そして俺達はトカゲのしっぽ切りみたいなもんさ」
・・・
イグドラヴェは、大自然に囲まれているせいかとても大らかな人柄が多かった。そして罪を許す心さえ海の様に広大だった。罪を憎み、人を憎まず。自然に勝てない代わりに、人との結束力を強めろ。そのためには木属性同士で争う事は死を意味する。そう代々祖先から教わって来た木属性達は、皆が手を取り、信頼し合ってこの厳しい自然の中を生き抜いてきた。
だが異物となるものは必ず生まれるものだ。健康な体が急に病に侵されるように。
その代表と言えるのがコア少年だった。
コアは子供達なら必ず行う自然保護活動や慈善活動に参加しようとする意志をこれっぽっちも見せなかった。
寧ろ自然と消滅するような種ならそのまま放っておけばいいと主張し、善良なる子供が反発し、一方的にコアが殴りつけるという事件を起こした。
公園でガキ大将を謳っていたり、街で不良として名を馳せている奴等を見つけては喧嘩を挑み、勝ち、更なる強さを求めるようになっていった。
当時イシュバが見た通り、コアは孤高であった。常に一人で、何かを見据えているようだった。
そして遂にコアは初めての殺人事件を犯す。
十才になる手前だっただろうか。
偶然、猫を殺している同い年程の少年を見つけた。見られた少年はコアに罪を擦り付けようと猫の死体を押し付けてきた。何故か腹の虫の居所が悪くなり、コアは少年が持っていたナイフを奪うと、文字通り首の皮一枚になるまで切り裂き、顔も身体もメッタ刺しにした。
少年と猫の遺体はすぐに発見された。コアはすぐに自分が捕まるだろうと思い、家で大人しく待っていた。
しかし、予想外の方向へと警察は向かっていく。
いくら待っても、警察が事情聴取に来ることは無かった。事件も未解決として未だ捜査が行われている始末。
街では噂話が持ちきりだった。
「あんな非道な犯行、絶対大人よ」
「子供を狙った犯罪かも」
「やっぱり男が犯人よ。他国でも連続子供殺人事件の犯人、成人男性だったもの」
それに怒ったコアは証拠のナイフを持ち、当時着ていた服も持って警察に出向いた。
「俺が殺した。これが証拠だ」
しかし、警察はコアの証言を信用しなかった。何故なら、十才の子供があそこまで悲惨な殺しをするとは毛頭思っていないからだ。
「君は誰かを庇っているのかい?お父さん?それとも親しい誰か?」
「俺が殺したんだってば!」
しかし運悪く、この話題になっている殺人事件の犯人になって有名になりたいという小児欲求のある男が自主してきたため、コアは少年を助けようとして手を施したが絶命しており、責任のあまり自分が殺したと思い込んだ哀れな子供として腫物の様に扱われた。
「可哀想に…助けようとしたのにね」
「責任感のある子なのよ」
「喧嘩ばかりで地元じゃ悪ガキって言われていたけど、言われてみれば不良や手に余るような子供相手ばかりに喧嘩を売っていたわよね」
コアにとって、この国は益々生きづらくなった。そして未来の不安さえ覚えた。
(この国はイかれてる…。そうだ、証明をしよう。罪は正しく裁かれるべきで、この国はもっと力が必要だと言う事を)
・・・
コアは成人し、立派な体格を持った男へと成長していた。日陰にあるような場所で武器を裏ルートで犯罪組織に密輸していた。
それと同時に、私刑も行っていた。人殺しについては独学や武器繋がりで知り合った奴等から教わった。警察はコアの尻尾すら掴めないマヌケだった。これはコアなりの警鐘だった。生温い法律じゃあいずれ足元を掬われるという。
最近、反国活動家と名乗る犯罪集団がイグドラヴェ国にテロやデモを起こしていた。もっと国を強くしろ、ティアマテッタに頼り過ぎてはいけないと叫んでいる。
コアにとって、それはとても親近感が湧いた。
夕食のために、森に入り鹿を狩ろうと銃を構える。一匹の立派な雄鹿が現れ、息を顰め、撃つ。
パーン!と発砲音がすると同時に、鹿は倒れ息絶えた。
「これで数日は持つな」
その時だ。
「鹿を殺したな!俺の目の前で殺した以上、俺はお前を許さない!」
まだ幼い子供がナイフを持ちコアを襲ってくる。
コアは片手で子供の頭を鷲掴みにし、持ち上げる。
「イッ!放せ!クソ!」
「いい度胸だな、ガキ。名前は?」
「誰が教えるか!」
背も高く、筋肉質な体型をし、顔も厳つく成長したコアに果敢にも挑もうとする子供が過去いただろうか。いや、初めてだ。
こんなの活きのイイ子供を安易に殺したくないと悩む。
「おいガキ。お前はどうして山の中にいる。親は?」
「誰が喋るか!」
親がいないなら自分が育てようと思った。鍛えれば、立派な戦士になるかもしれない。
「シレノ!」
銃を構えた男が突然草陰から現れた。
「父さん!」
「なんだ、親父がいたのか」
コアは子供の頭を放すと、子供は落下し尻餅を突く。痛そうに悶えるが、すぐに父親の元へ駆けよっていく。
「殺意は無い。ただ、今夜の食料を狩ったら怒られていただけだ」
「…そうか。それは息子が済まなかった」
男はまだ信用はしていないような表情をコアに向けるが、子供に向かって怒り出す。
「シレノ!動物が殺されて可哀想なのは解るが、生きるためには仕方がないと教えただろう!」
ゲンコツを食らう、シレノ少年。
「痛い!でも!それは俺が居なくて、見ていない場所で殺して処理し終わっていて、って約束だったじゃん!」
「彼は仲間じゃない、よそ様だ!なんでよそ様にまで口出しするんだ、お前は!」
「~ッでも!見ちゃったんだから仕方ないだろ!」
かなり御立腹のシレノは不貞腐れてそっぽを向いてしまった。
「お前の倅か?」
「あ?あぁ。俺はグラフ・ダビン。このちっこいのが息子のシレノ・ダビンだ。ほら、挨拶しろ」
しかしシレノは喋らない。グラフは溜息を吐き、コアに申し訳なさそうに謝った。
「おい、父さんが名乗ったんだからお前も名乗れよ」
「ハハ!出来たガキだ。俺はコア・クーパー。武器商人や狩人で生計を立てている」
グラフは笑顔を見せた。
「すまない。どうも動物に関しての生死はシレノにとって俺達とは感覚が違うみたいでな」
「ベジタリアンとかなのか」
「いや、肉も喜んで食うさ。でも、自分の目の前で殺されて、血抜きや捌き処理されるのが見てられないって話だ。一目見た時点で愛着湧いちまう悪い癖があるんだよ」
「それは人間に対してもそうなのか?」
「…まさか。シレノはまだ子供だが、俺はシレノを少年兵として扱うには勿体ないと考えている。もう少し年齢が上がれば俺達と同じ…」
「少年兵?」
グラフはしまった!と口を塞ぐ。
「もう喋っちゃったんだから、いいじゃん。話しても」
「あ~…。アンタ、結構ガタイも良いし、銃の腕前も相当じゃないか。もしよかったら、俺達、反国運動家と一緒に国を変えて行かないか?」
突然の申し出にコアは狼狽えた。
反国運動家?今国内を混乱させているテロリスト集団の仲間入り?
「イグドラヴェは想像以上に切羽詰まっている状態だ。それなのに、ティアマテッタ軍の長期滞在任期は無い。最悪なことに、他国から侵略を受けている」
グラフが小声でコアに国外で起きている秘密を教える。
(そうか…だから裏取引の武器が最近頻繁だったんだな)
「俺達組織は元ティアマテッタ軍出身の妻子持ちや将来を不安視する若造に子どももいる、ヘンテコな集まりだが、戦うに対しては誰もが本気だ。皆が戦う。どうだ…乗ってみないか?」
「戦える場所があるなら一緒に行こう。そして強兵と戦えるならお前達の武器ともなろう!国を相手取ろうが、他国を相手にしようが、俺には関係無い。どちらも潰し、イグドラヴェは新しい国に生まれ変わらせる」
その眼差しは野獣の王が見据える新世界のようだった。
シレノは、コアが純粋に強いと肌でヒシヒシと感じ取っていた。そして、いつの間にか彼の強さに魅了されていった。
コアが連れて行かれた場所は、活動家達が潜伏するキャンプ場だった。子供が賑やかに遊び、料理の出来る女性は食事の支度をしている。男達は武器の手入れをしていた。
「こっちだ」
真ん中に止めてあるキャンピングカーに入ると、一人の渋い男が酒を飲んでいた。
「どうした、グラフ。男でもナンパしてきたのか?」
「違う、スカウトだ。コア・クーパー。彼の銃は獲物を一発で仕留めました。力も強い。我々の新しい戦力になります」
セブレは考え込むと、グラスをコアに向けてきた。
「お前、銃と剣、どっちが得意だ?」
「俺は剣の方が得意だ」
「その技、次の戦いで見せてみろ。それが加入試験だ。一人で五十人は倒せ。いいな」
「…承知した」
しかし、コアが本格加入するより前に、シレノはもうコアの後をくっついて回るようになっていた。
長身、マッチョ、厳つい顔、寡黙。そしてただ強そうっていうだけで興味が惹かれてたまらなかった。…目の前で鹿を殺したのは引っかかるが。
「コアさん、剣の素振り百回終わったよ」
今まで父に教わっていた銃から、剣に主軸を変えるくらい、コアに酔心し始めていた。
いつも独りでいることが多いコアが、自分には指導してくれる。そんな優越感さえ抱いていた。
「じゃあ次は川で溺れないように泳いで来い。肺活量鍛えろ。おい、イシュバも付いて行ってやれ」
「わかりました」
・・・
「おい、おいおいおい!イシュバって、あのイシュバさん?!」
エアルが慌てて過去話を遮った。
「あぁ。あの女みてねぇな面や仕草する男だ。アイツ、自分の事どう紹介したかは知らんが、イシュバも反国運動家で活動していた。まぁ、色々あって軍に入隊することになって、義足になったのは本当だ。続き、話すぜ」
・・・
「川は天気や流れで水かさが変わるから常に気をつけてね」
「ぷはぁ!わかってる!」
当時のイシュバは十五歳前後だと思われる。幼い少年兵を率いるリーダー各だったし、グラフに教わった武術や武器の扱いを物にしていた。シレノもイシュバのことを兄として尊敬している。
「お、れも!コアさんみたいに!なり、たい!」
ザパザパと泳ぎながら喋るのでガポガポと水と息が混ざり若干聞き取れない。
「…なれるといいね」
イシュバは実験として、マジックストーンを粉砕し刺青にしたものでも魔法が発動するかの実験を自身の肌で行っていた。まだ使用はしていないが、不安は募る。
「ねぇ、シレノ。わざわざ痛い思いしてマジックストーン砕いて彫り込んだのに、もし魔法が使えなかったらどうする?」
「もし失敗しても、これは俺達のシンボル!だろ?この刺青がある限り、俺達はきっと家族だ。コアさんも加わったし、最強な家族だな!」
嬉しそうに笑うシレノを久しぶりに見た。いつも不愛想で、無愛想で。よっぽどコアが物珍しかったのか、魅了されたのか。今じゃ父のグラフよりも稽古をつけてもらっていた。
「シレノ、なんだか年相応っぽくなってきたね。いつか…家族以外にも友達作りなよ」
「友達ぃ?いらないよ、そんなの。皆がいればいいし!」
「家族以外にも誰かは必要だよ。気が向いた時でいいよ。一人くらいは心のうち話せる人、見つけな。その方がシレノのためだと思う。世界は広いから…。たぶん」
「…わかった」
あまりにもイシュバが真剣に話すので、シレノは渋々頷いた。
一方、ブラフとセブレは『危険地帯』と書かれた看板を無視し、有刺鉄線が巻きつけられたフェンスの鍵を解除すると、その奥へ歩みを進める。
「セブレ…父さんは悲しい…息子の独り立ちが早すぎる気がする」
「独り立ちって…まだ同じキャンプ地に居るだろ。それより、これを見ろ」
セブレはマジックウォッチからここ周辺の地図を映し出す。
「今赤く点滅しているのがマルペルト国とシヴィルノの連合国だ。シルヴィノの国王め…跡継ぎの王女が産まれてから調子づいてやがる」
「今回も、例のアレ狙いか?」
「間違いないだろうな」
二人はかなり深く掘削されたトンレルを降りていく。どんどん空気も薄くなる。そして辿り着いたのは…
「国家機密のはずだったのに。いつの間にか情報が漏れていた。ティアマテッタに次ぐ第二位のマジックメタル・マジックストーンの採掘地、イグドラヴェ」
そう。反国運動家の本来の役目…それはマジックメタル、マジックストーンを他国から防衛するためだった。
だが、何故他国から攻められなければならないのかという理由が説明出来なかった。そこで確立されたのが反国を謳ったテロ集団だった。この国を変えたい一心でテロやデモを起こす、は全て国が指示したこと。それを知っているのはセブレとグラフの一部しかいない。そして反国は自分達の手で国を変えるため、制圧介入しようとする他国を許さない。イグドラヴェが作り出したストーリーで、国民にはそう報道している。
「明日には連合軍が国境に到達する。そこを狙う。コアの試しどころだな」
「上手くいけばいいがな…」
「…お前、わざとコアを味方に入れたのか?」
「え?」グラフは一瞬動揺する。
「俺の直感だ。イグドラヴェの殺人鬼はコアなんだろ…?規制が引いているから国民はおろかティアマテッタ軍も殺人鬼の存在を知らない。存在と犯人候補を知るのは国王や従来使えてきた大臣、そしてスパイとして送り込まれたお前、くらいだろう?」
「はぁ…お前にスパイだって言わなきゃよかったぜ」
二人は流石に寒くなり、地上へ戻って来る。
「確かに仲間に引き入れれば強くなると思った。最悪…タイミングを見てティアマテッタか国に売っても良い。奴は罰を受けるべきだ」
「…その考えが揺らがないことを祈るぜ」
深夜。皆が寝静まる中、一つのテントに明かりが灯っていた。シレノとグラフのテントだ。
「ねぇ、父さん。もしイシュバの実験が上手くいったら、俺にも刺青彫ってよ」
「…っ、考えとく」
ここで解った、と言えない辺り、やはり我が子を特別扱いしていると嫌でも実感する。
イシュバは本来刺青を拒否した。だが、他の子供たちを実験に使うとほのめかしたら受けてくれた。酷い大人だと思う。
「上手くいかなくても、彫ってもらおうかな…家族の象徴の紋様だもんな」
「シレノ、家族は別に模様や紋様が無くても、見えない繋がりがあるんだ。言うだろ?大切な物は目に見えないって」
大きな手が優しくシレノの頭を撫でる。
「ふぅん」
「ほら、明日はかなり早い段階で戦闘準備がある。もう数時間しか寝れないぞ。少しでも寝て、体力を回復させなさい」
「はーい」
翌日、早朝―
グラフ達一向は連合軍を迎え撃つため、小高い丘へと来ていた。高性能な双眼鏡から、連合軍が進軍しているのが確認できる。
「ばらけると思うか?」
「どうだろうな。前回はばらけた結果向こうは大敗している。集団で火力強める作戦で行くかもな。なにより森に居る以上、俺達が圧倒的有利だ」
セブレはコアを顎で呼ぶ。
「コア。これからマルペルト、シルヴィノ連合軍を最低でも五十人倒して来い。イシュバ、お前はコアを見届けた後実験開始だ。グラフ、お前は二人を判定しろ」
「了解した」
グラフが、コアとイシュバを連れて行こうとしたとき、シレノが叫ぶ。
「待って、俺も!」
「駄目だ。お前は後方支援だろう」
父に強く言いつけられ、押し黙ってしまう。それを見たセブレは何を思ったのか、同行に許可を出した。
「いいじゃねぇか。子供一人いるくらいで足手まとい扱いするような奴じゃ今後使えないからな。コア、シレノ達を守りながら五十人は倒せ、いいな」
「…承知した」
こうして四人は丘を降り、連合軍と衝突するために森の中を駆け抜ける。
森の中での戦闘慣れはずば抜けていた。まるで狼が獲物を狙うように、素早く、そして身を屈め、気配を消して忍び寄る。獲物はそれに気づかずに、ただ周りを警戒しながら進んでいく。
連合軍があと百メートル先にまで近づいたとき、グラフがコアと目を合わせ、ハンドサインを送る。攻撃を開始しろ、と。
コアは剣を握ると、豪快に突進していく。
(嘘だろ?!あんな足音立てたらバレるよ!)
シレノは焦る。しかし、コアはわざと敵に察知されに行っていた。
「貴様等!俺と戦え!!」
腹の底から出る怒声は地鳴りのように響く。敵が怯んだ隙にコアの構える剣が次々と人の命を奪っていく。
「焦るな!陣形を整えろ!相手は一人だ!冷静さを取り戻せ!」
指示を出す指揮官の首を飛ぶ。コアの剣から生える針金のような蔦が刎ねたのだ。
「あと三十人殺さねばならん。付き合え」
その言葉に、最初に逃げ出したのはシヴィルノの兵士だった。
「い、嫌だぁ!こんなバケモンがいるなんて聞いてないぞ!」
「おい、撤退は許さないぞ!」
連合軍内が分離し始める。
しかし、逃げ道を塞ぐかのように巨大な木の壁が目の前に生えだす。
「なっ?!」
視線の先にいたのはイシュバだった。左足から根っこが触手のように生えうねっていている。
「なんだあれ…義足か?」
「気色ワリィ!どういう趣味してるんだ!」
逃げ道を塞がれた兵士はイシュバに向けて発砲する。しかし足から生える木が銃弾を防ぎ、その隙にイシュバが反撃し、兵士は被弾する。
「イシュバ!大丈夫か?」
「シレノ」
イシュバと合流したシレノは、シルヴィノ勢を中心に攻撃を開始する。
戦いながらでも見える、コアの気迫は凄かった。鬼、というべきだろうか。剣を振り、容赦なく相手の命を消していく。
「もっと強い奴は居ないのか!!」
「コア、五十人殺したぞ」
グラフが遠まわしにストップをかける。
「もう五十いったか。だが、関係無いだろう。今日の目的はなんだ?敵の殲滅ではないのか?ただ追い返すだけなのか?追い返したら、後日また作戦を練り直し攻め込んでくるぞ。そうならないように、徹底的に潰しておく方が賢明だと思わないか?」
「…ッ」
グラフが判断に困っていると、厄介なことに、同士達が集まって来てしまっていた。
「コアの言う通りだ!ここでやすやすと逃がして、また攻撃されたらひとたまりもねぇ!」
「俺達反国運動家を止めたいなら、他国に頼るんじゃなくて自国で解決するのが一番早いってってこと解らせてやる!」
「待て、お前等!」
コアの勇姿に感化されたのは…運動家内でもひっそりと‘過激派’と呼ばれているメンバーだった。
彼等は本来の意図を知らない。本気でこの国を変えようとしている…のは解る。だが、彼等は暴力や権力を求めている節があった。人数が多くなればなるほど統率を取るのが難しくなっていく。
結果は、連合軍全滅で幕を閉じた。
キャンプ地に帰ったシレノは、隣で黙り込んでいるイシュバが気になっていた。
「…大丈夫?」
「うん、平気」
「…イシュバは綺麗だよ」
「やめてよ。足から木が生えるような男だよ。気色悪くて醜いよ」
「綺麗だよ。仮に気色悪くても、醜くても。その中にも残酷なほどの美しさがあるって知らないの?」
シレノの口説きに、思わずイシュバは吹きだした。
「アハハ!何それ、本当にそう思ってる?」
「思ってるよ!この前美術館に行ってきたんだ、不気味でグロテスクな絵が沢山あったけど、不思議と魅了されたんだ!」
「はいはい、励ましてくれてありがとうね」
今回の大勝利をきっかけに、反国に集う人間が増えたのは確かだった。
以降、過激派はコアを慕うようになっていった。コアも戦力を増やし、更に強くするためなら武器の入手や厳しい訓練も指導するようになっていった。
それでもコアが一人でいる隙を見つけては、シレノは練習を請うた。コアも直接指導はしなくなったが、目は掛けている様ようだった。
数年が経った。
イグドラヴェ国内では、殺人鬼のことなどすっかり忘れ去られていた。事件が起きなかったということだ。それもそのはず。殺人鬼コアは反国活動家として暴れているのだから。
シレノもすっかり少年兵として成長していた。大人と行動するようになったイシュバの跡を継ぎ、子供たちのリーダー格として先導していた。
今や国内を騒がせている反国運動家のみ。国民にとって、彼等は目の上のたん瘤だった。
しかし、真の目的と命令を受けているセブレとグラフにとっての目の上のたん瘤は、国民でも、国でも他国でもなかった。
過激派だ。
二人はマジックメタル、マジックストーンが眠る採掘所で内密に話を進めていた。
「どうする。このままじゃ内部分裂も遠くないぞ」
「あぁ…。コアを入れたことで、燻っていた連中がこれ見よがしにイキがり始めた。自分達じゃへっぴり腰だったクセに…ッチ、腹立つぜ、全く」
セブレは煙草を吸いたい衝動を抑える。
「…なぁ、セブレ。そろそろ、潮時だとは思わないか?」
「グラフ、何言ってんだよ。確かにお前が危惧していることは解る。だが、ここで職務を放棄するのは、」
「いや…コアと過激派をティアマテッタ軍に売る。勿論、国の了解を得てからだが」
「そう言うことか…。それなら、俺も賛成だ」
「ありがとう、セブレ」
採掘所を出て、二人は別行動を取ることにした。セブレはキャンプ地に戻り、過激派以外のメンバーをどう安全な場所に移動させるか考え、グラフはその間に国に報告することにした。
「俺は秘密の場所で連絡を取って来る。話が着き次第連絡を入れる。そしたらまた対策を練ってくれ」
「了解。じゃ、また後で」
グラフは採掘所付近の森に進む、身を顰める。
「GRF900、応答願う」
『ジー・・・ジー・・・ジジー・・・ピ』
『こちらHRN777、報告どうぞ』
「イグドラヴェの殺人鬼及び反国活動家過激派をティアマテッタ軍に逮捕させたい。早急な判断を」
『了解、その場で連絡を待て』
そう言って通信は切れた。
グラフは緊張で手や声が震えていた。仲間を売るのが、こんなにも恐ろしいと思ったのは初めてだった。
ふー、と溜息をした時だった。
バン!と銃声と共に、視界が横になる。身体に激痛が走る。
「ッ?!誰だッ」
「俺だ」
コアだった。コアが撃ったのだ。
「コ、ア…!」
「まさかとは思っていたが、お前がスパイだったとはな。この事はセブレも知っているのか?」
「ち、違う…ッ!」
「お前には感謝しているんだ。戦う場所を与えてくれた。戦士の育成をする場を設けてくれた。お前の息子も今じゃ立派な少年兵だ。どこへ出しても恥ずかしくないだろう」
「シレノを、兵器みたいに言うな!!」
『ジー・・・ジジー・・・GRH900、要請承諾。三十分後にティアマテッタ軍が介入します。コア、及び過激派を残し速やかに撤退してください』
そこに運悪く、スパイ機関から通信が入ってしまう。
通信が切れると、残ったのは地獄だけだった。
「俺達を売るのか」
「…そうだ。もう俺達じゃお前等は手に負えない…!」
「俺はまだ成し遂げたいことがある、見たい物がある。ここで捕まるわけにはいかない」
コアは銃から剣へ変え、グラフの首に刃を当てる。
「苦しくないよう首を刎ねてやる」
「や、めろ…」
「コアさん!父さん達がこっちでコソコソしてる理由がわかった、よ…」
グラフが最期に見たのは、何が起きているか理解できていない息子の表情だった。
グラフの首が刎ね、転がる。
「へ?」
「シレノ。お前が誘ってくれたお蔭でいい収穫があった。感謝しよう」
「へ、え?父さん…?父さん!」
シレノの脳に一気に現実が押し寄せる。シレノは父の首を抱き上げ、抱きしめる。
「父さん、父さん!どうして殺した!なんで父さんを殺した!」
「1、 お前の父親がスパイだったから。お前の父親は俺達を売ろうとした。だから殺した。
二、偶然にもお前が俺を誘い父とセブレがコソコソ密会している場所に潜りこもうと提案したから現状をしることが出来た。それだけだ」
そう。シレノは父がいつもセブレと危険区域に入っては暫く出てこないことを知っていた。好奇心が勝り、慕うコアを誘って入って来てしまったのだ。それが最悪なことに、作戦会議を終え、国にスパイとして呼びかけているところに。
「俺の、せいで…」
「グラフは仲間を売った。助けに行かないと全員捕まるぞ」
パニックを起こしていたシレノは、コアの口車にまんまと乗ってしまう。その場を離れ、皆がいるキャンプ地へと向かって行ったのだ。
コアは、過激派のリーダー格の男に連絡を取る。
「おい、今すぐ危険区域まで来い。過激派メンバーを全員集めてだ」
一足先に、採掘場の中へ入ると、そこには見る人が見れば涎を出すほどのマジックメタル、マジックストーンが埋まっていた。
「そうか…セブレ達はこれを隠していたのか。危険区域…国の看板。あいつ等、国と繋がっているな」
シレノがキャンプ地に戻ると、過激派メンバーはおらず、いつも通りの皆が移動するためにテントや道具を片している最中だった。
「みんな!コアが裏切った!俺のせいで…父さんが、父さんが殺された!」
シレノが抱く生首を見たセブレは青ざめた。
「なんだと?!」
すると、空から砲弾が落下し、爆撃が始まる。
「どうする、セブレさん!」
「クソ!お前達は避難しろ!俺はここで殿をする!イシュバ、シレノを頼んだぞ!」
「わ、わかった」
イシュバがシレノを連れて行こうとしたとき、セブレが咄嗟にグラフの首を取り上げた。
「あ!」
「これは…俺がしばらく預かる。いいな」
「でも、」
「お前が持っていたら、ややこしいことになるかもしれねぇんだ。代わりにこのナイフ持っていけ」
セブレがナイフを押し付け、シレノの背中を強く押した。
「早く逃げろ!」
イシュバに手を引かれ、ナイフを大事に持ち、シレノはずっと罪の意識に支配されていた。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…)
しかし、ティアマテッタ軍が逃げた反国活動家達を易々と逃す訳がない。上陸した兵士達に、彼等、彼女等は戦うも呆気なく逮捕されていく。
「シレノ、私の呼吸に合わせられる?」
「う、うん!」
「行くよ!」
イシュバは武器こそ持っていなかったが、左足の刺青から根を生やし、一人の兵士に向かい攻撃を仕掛ける。その根に乗り、シレノはナイフで襲い掛かる。
「うああああああああああ!!」
「ガキのくせに!」
一度は剣で弾き返されたが、まだ身軽だったシレノはすぐに体勢を立て直し、兵士の背中にナイフを刺すことに成功した。
「やった!」
「この、クソガキが!」
「うっ!」
「シレノ!キャア!」
イシュバも他の兵士から魔弾を受け、気絶する。
「大丈夫ですか、エンキさん」
「クッソー…刺されるとか久しぶり過ぎて痛いぜ。コイツ等はまだガキだな。アイアス中佐の元へ連れて行け。一旦船で保護する」
「はっ!」
そして、セブレの元にはアイアスとモルガンが立っていた。
「お前が反国運動家のリーダー、セブレ・キングだな」
「そうだ」
「…その首は」
「コイツはグラフ・ダビン。国のスパイだ。だが仲間に殺された。遺体なら危険区域にあるはずだ」
「モルガン、彼等の情報開示をイグドラヴェ国に請求してくれ」
「承知しました」
モルガンが国と話を進めていくと、次第に雲行きが怪しくなっていく。
「中佐。セブレ・キング含む五十八名が反国活動家全員とのことですが…」
「は?いや、違う!まだいるんだ、危険な奴等が!」
どうしてここでコアの名前を出さなかったのか。今となってはもう忘れた理由だが、きっと、アイアス達を信用していなかったのだろう。言ったところで、規制を引かれ、国に口止めされるかもしれないと…。
「…とりあえず、飛行艦のへ来てもらおうか。モルガン、君はブラッドと共にその禁止区域に行き死体の確認をしてくれ」
「ハッ」
時間は戻り、シレノが逃げた後、コアはグラフのマジックウォッチを起動させ、国のスパイ機関に連絡を試みていた。
「聞こえているか?コア・クーパーだ。取引をしよう。俺は今、マジックメタルとマジックストーンの採掘所付近にいる。これから反国活動家の過激派メンバーも来る。そこでだ。俺達に少しでいい、メタルとストーンを分けてくれないか?そして反国活動家に元々居なかったことにしろ。そうしたら…過激派を連れてイグドラヴェから消えてやる。もう殺人も私刑もしない。お前達が望む平和が訪れるぞ」
『・・・ジー・・・ジー・・・その言葉、絶対だぞ』
「交渉成立だな」
こうしてコアと過激派はマジックメタルとマジックストーンを奪い、イグドラヴェから去って行った。過激派から、新しい世界を作るための組織を作るから是非入らないかと誘われたが、コアには目的があったから断った。コアの目的…アマルティアという土地を探すこと。
そして、この過激派がマジックメタルとマジックストーンを上手く使い、資金源を増やしていき、警察上層部と癒着し、始まったのが‘黄昏の正義’だ。最初こそ小規模の弱小だと思われていたが、やがて世界中を巻き込んだ、陰に潜む大犯罪組織へと成長を遂げる。
セブレ達は反国活動家として逮捕された。イグドラヴェも味方を売った罪悪感からか、刑罰は軽いもので、数年で出所できるよう手配してくれた。
ここからは、イシュバとシレノのその後を少し話そう。
イシュバは、モルガンから声をかけられた。軍に入らないかと。多分、子供と大人の狭間のイシュバに気を使ったのだろう。それか、刺青という新種の武器に興味があっただけかもしれない。
イシュバを軍に入れることも減刑措置の一つとして上げられたことで、イシュバはティアマテッタ入隊を決めた。しかし、その後は知っての通り、戦場で重傷を負い、左足を切断する大怪我を負った。
この時のイシュバの心境は計り知れないだろう。嫌だったはずの刺青が、今では唯一あの日と繋がれる思い出で、大切な印だったのに。目が覚めたら左足が無くなっていたなんて。
シレノはその後、児童保護施設に入れられた。他の子供たちと共に。
眠れない日が続いた。自分を責め、悔しくて泣いた。日に日に冷静を取り戻すうちに辿り着いた答えがコアへの復讐だった。
(コアを殺す。そして、殺したあとは…俺も、)
コアを殺すなら、各地を回れる機会があるティアマテッタに入隊するしかない。それに、イシュバが入隊したと噂があった。いつか、会えるかも知れない。父とも、セブレとも、イシュバとも禄にお別れが出来ずにいた。だから…
・・・
「これが反国活動家の終結の事実だ。口はコア達の脅威から逃れるために俺達を代わりに軍に売った。そしてコアの存在は口にすらしなくなった。そりゃ誰もコアを知らなくて当然だ」
「…酷い」
マノンは思わず呟いた。
「…今、マジックメタルはどうしているんだ」
「ティアマテッタ軍が管理している。結局このざまよ。俺達がやってきたことって、無駄だったのかもな」
セブレが自傷気味に笑う。
「…一応、同情はしておくぜ」
「もう俺達はギャングみたいなもんだ。捻くれて本当の悪に染まっちまった。だから、イシュバにもシレノにも会えねぇ…。なぁ、もしシレノってガキに会う事があったら、イシュバが元気でやってることだけでも伝えてくれねぇか?それが出来ねぇなら、今聞いた話、全部忘れてもらうぜ」
そう言うと、セブレが銃を突きつける。
エアルは両手を上げ、降参のポーズを取る。
「そんなの、お安い御用だ。必ず探して見つけ出す。伝えるよ」
「…ワリィな。感謝するぜ」
これが、イグドラヴェでの収穫だった。事実だった。
・・・
マシューとゾーイの視線がシレノに突き刺さる。
「まぁその後ちょっとしたゴタゴタはあったが、俺達は無事にイグドラヴェを脱出した。そしてシレノ。セブレからの伝言だ。イシュバさんは義足になる大怪我を負ったけど、今は元気に花屋を経営している。イグドラヴェで。そして面倒だが、少佐とも繋がっている」
「面倒とは失礼だな!」
モルガンが笑う。
「シレノ氏、故郷は相変わらずのようだったな。まぁ私が居た時から変わってはいないとは想像していたがな」
モルガンは呆れながら酒を飲む。
「まぁ、僕が出ていく時もそのまんまでしたから、変化があるとは思っていませんでした」
シレノはいい加減に痛い視線の先に目を向ける。
「…軽蔑した?」
「どうかしら」ゾーイが腕を伸ばし、強烈なデコピンを食らわせる。
「イダ!」
「シレノの悪行を聞いても、不思議と嫌悪感は湧かないのよ。寧ろ、それが本当に悪行なのか私の中では審議にかけられているわ。これが友達としての甘さなのか、一般的な感情論なのかは解らないけれど。私はシレノを悪い子だとは思えないわ」
「ゾーイさん、」
マシューから、頬に指をさされる。
「今まで頑張ったね、シレノ君」
「…仕返しのつもり?」
シレノはマシューの手を退かすと、笑いそうになるのを堪えて外へ出て行ってしまった。
「…怒らせちゃったかな」しゅんとするマシュー。
「大丈夫、俺が様子見てくるから」
リアムがフォローを入れ、シレノの後を追った。
出入り口にある看板の隣で、もう暗くなった空を見上げるシレノがいた。
「隣、いいか」
「…問いただしたりしないの?なんでコアのこと黙ってたとか」
「訊いてほしかったか?」
「…いや」
「お前が最初に知らないって答えた時点で、もう俺の中ではコアとシレノの話は終わってたんだ。今更事実を知ったからって、怒ったりはしないさ」
「でも話さないイコール、信頼してくれなかったとか思わないの?」
「人それぞれ言うタイミングだってあるだろ」
二人に沈黙が流れる。
「…俺も両親がアマルティアに殺されている。ミラの両親もだ」
「そう、なんだ」
「あ、今のはお前だけ強制的に過去を根ほり葉ほりされたから、フェアを取って教えただけだからな!」
「ふ、ふふふ。解った。皆には黙っておくよ」
シレノは暫く肩で笑っていたが、次第に涙ぐんだ音に変ってくる。
「はは、あはは…セブレも、イシュバも、無事だったんだ…」
目元をゴシゴシと拭くと、いつも通りの涼しい顔をしたシレノに戻っていた。
「心配かけちゃったかな。そろそろ戻ろうか」
「あぁ」
二人が戻ろうとしたその時だった。
「あ!リアムにシレノじゃねぇか!お前等もいっちょ食いに来たのか?それなら誘えよ!」
「あ、ブレイズ」
「ブレイズ君も食べに来たの?」
バイクに乗ったブレイズが颯爽と現れた。
「お前等と食いに来る前に下見でもしようと思ってな!てか、アレ?!本日貸し切り?!嘘だろ!」
ブレイズは張り紙に食いつく。
「あぁ…それは、」
シレノが申し訳なさそうに、手をあぐねる。
ブレイズはシレノの反応を見て、躊躇いなくドアを開けた。
「まさか!」
そこには勿論、ミラ達と、ゾーイ達、そしてモルガン達もいる。
「お客さん、今日は貸し切りでして…」
店長が申し訳なさそうに謝る。
しかしブレイズはズカズカと店内に入っていく。
「やっぱりじゃねぇか!!それでも貸し切りっておかしくね?!それにハンプシャー少佐やマシュー達まで、また一緒にいるし!」
「なんだよ、誘ってほしかったのかよ」
リアムが困ったように言う。
「誘ってほしいと言うか!俺達ゲリラ訓練戦い抜いた仲間じゃん!なんでよ?!」
「悪かったってば」
「気恥ずかしいんだよ。リアム君、ツンデレなところあるからさ」
シレノが適当なことを言う。
「大将!彼も私の部下だ!注文を聞いてやってくれ!」
モルガンの許可も出たので、ブレイズは開いていたゾーイの隣に座る。
「アンタ、リアムと連絡先交換してるの?」
「…してたっけ?」
こうして、ブレイズが仲間に加わった。
「さぁ、エアル氏。次はどこの国へ向かったんだい?」
「次に俺達が向かった国は、火の国、マルペルト国」
その言葉に、ブレイズは固まった。そして、今ここで行われているのがただの食事会ではないことを知る。
次の舞台は、マルペルトへと進む。
…その前に、エアル達の脱出劇と、レイラ達の今を少し覗いてみたいと思う。
原作/ARET
原案/paletteΔ




