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ETENITY00  作者: Aret
3章・・・意思・マノン外伝
54/113

54話・・・イグドラヴェ

作品を読みに来て頂き感謝です。

―時間は戻り現在・いっちょにて―

「お待たせしました、お先ビールで~す」

元気のいい女性がエアル、モルガン、ブラッドが座る席にビールを一つ置く。

「誰だ、いきなり酒を頼んだのは」

ブラッドがエアルを睨む。

「私だ!」モルガンは生き生きとすると、ビールをグビグビと飲み半分ほどを飲み干した。

「…」ブラッドは申し訳なさそうにエアルに頭を下げた。

「あの…」

マシューが弱々しく声を上げる。

「どうした、マシュー氏」

「その、ネイサンさん…?ていう方がリアム君達の出身地では物凄い権力があることが解りました。固有スキルも今使える家族がいないってことも…。でも、その。ナノスって人は、科学者かなんかですか…?」

「ふむ。我々の睨みでは科学者というよりマッドサイエンティストと見立てている」

「じゃあ、あの空間に罅が入って、そこからアマルティアが侵攻してきたのも、ナノスの研究の成果ってことです、よね…」

マシューの頼りない喋り方に、ブラッドが苛立つ。

「言いたいことがあるならハッキリと言え」

「…もうありません。失礼しました」

マシューはエアル達の席から顔を逸らし、テーブルに向かう。唇を僅かに噛み、緊張しているのか僅かに震えていた。それを見逃さなかったシレノは、マシューの頬に人差し指を突き刺した。

「イタ」

「頑張ったな!言いたい事言えて」

「あ、ありがとう…?」

次はマシューと代わるように、ゾーイが挙手する。

「質問です。何故ナノスはゼーロの街から追放されたのでしょうか。マシューの仮定通り、そのような技術を持っているなら手放したくないと思うのが普通なのではないでしょうか。他国に頼っている様子もないようですし」

モルガンが口を開こうとした時、ミラが遮った。

「それは!私が話してもいいですか」

「ミラ女史が大丈夫なら、見てきた君から話してほしい」

「大丈夫か…?」リアムが心配そうに見つめる。

「うん。大丈夫」

ミラは深呼吸をすると、淡々と語り始めた。

「ナノスは、私の従兄です。伯父さん達は出来損ないって言っていたけど…優秀で、天才だと私は思ってた。でも、多分だけど。ナノスお兄ちゃんは研究のことで…伯父さん達の怒りに触れたんだと思う。だから復讐したくて、培った技術を利用してティアマテッタに攻撃をしてきたんだと思う。それに…。伯父さんは四代前からスキルが発動しないって言っていたけど。最終決戦の日、クロノとアイオが妙な動きをしていた。名前こそ言わなかったけれど『父さん』って誰かを指して呼んでいた。リアムと同じ他属性のスキルを使えるならブーストモドキかとも思ったけど。もしタイムパラドックスに似たスキルが使えるようになっていたら、あの動きに説明が着くと思うの。時間のズレ。時間の速度調節。色々と」

「確かに…」リアムが呟く。

「もしアウェイクニングモドキのスキルが使えるなら、ブーストでの対抗も出来たはずだ。でも、アイツはしなかった。多分、ミラの予測通り時間に関してのスキルが発動できるんだ。でも未完成。だから妙な時間差攻撃しか出来なかった」

リアムは口にはしなかったが、四姉妹のうちの三人。そしてアイオの死。ネストの死…。あれはどう考えても普通の死にかたじゃあない。何かある。それがナノスに繋がっている…蜘蛛の糸のように見えにくく、簡単に切れる。楽に見つけられる相手じゃない。

「え、じゃじゃじゃ、あの双子もゼーロ出身でナノスを追いかけてきたってこと?」

マノンが質問する。

「いや。それは無い」

エアルがハッキリと否定すると、また元気のいい女性がラーメンを運び始めた。

「お待たせしました!チャーシューメン、豚骨ラーメン、豚骨のハリガネです~!」

注文していた品がぞくぞくと運ばれてくる。

「ありがとう。ラーメンも来た事だ。堅苦しい話は後にして、まずは腹ごしらえでもしようじゃないか」

モルガンが緊迫した空気を和ませる。

「懐かしいですね、いっちょで食べるラーメンは。アイアス中佐とご一緒して以来です」

「そうだな。ブラッドはあの頃はまだ若くて無鉄砲なところもあったな」

「少佐…」

ブラッドが嫌そうにモルガンを軽く睨んだ。

「ウォーカー大尉も若い頃は無鉄砲だったらしいよ。安心しなよ」

「なんの話?」

シレノの謎の慰めに、マシューがちょっと怒る。

「はい、豚骨ラーメン半チャンセットです!」

「来た…私のラーメンとチャーハン」ゾーイが嬉しそうに割り箸を割る。

「リアムくん、ここのラーメンすごく美味しいね!誘ってくれてありがとう!」

マシューが嬉しそうに言う。

「喜んでくれて良かったよ」

「良かったね。皆でいっちょに来れて」

隣で、ミラが微笑んだ。それにつられて、リアムも自然と笑みが出る。

「あぁ。いいもんだな」

久しぶりにミラと。エアル、マノン、ヘスティアと食事を取った。そして仲間と呼べるマシュー、ゾーイ、シレノ。上司になるモルガンとブラッド。何より、父が愛した店で食事をするのは、面影を追っている様で、どこか切ないけれど、焦がれていた思いが溢れ出てくる。

「さて。食べながら会話をするのも行儀が悪いが、次の話へ進もうか。エアル氏。次はどこの国へ行ったのかな…?何を聞いた?何を見た。そして何を得た。私達に教えてほしい」

「了解です…。我々が次に向かった先は、イグドラヴェ。コアの故郷です」

「イグドラヴェ…シレノの故郷ね」

ゾーイがシレノに訪ねるが、視線を下に向けたまま、数秒反応が遅れたあとにシレノがパッと顔を上げゾーイを見た。

「そうだね。僕の故郷」

笑っているが、どこか張り付いているような笑みだった。


四十一日前―

メルカジュールを立ち、イグドラヴェの国境付近に飛行艦を着陸させる。

「着いた着いた!すっご!森しかない!ブロッコリーみっしり!」

窓から景色を覗くマノンは大喜びする。

「入国すれば、木々や花と共存する人々が見れるわよ」

「へぇ、素敵な国だねぇ」

「お話し中悪いが、今回はゼーロとは違う。観光客で入国できれば自由だ。怪しまれないように荷物持ってくぞ」

「そう言うのは早く言いなさいよ」

エアルの指示に、ヘスティアは小言を言うと荷物を纏めるために部屋へ一旦戻っていった。

マノンはリュックサックと、大き目なトートバック。お菓子に、一泊出来るだけの衣類を詰め込んだ。

準備が出来、三人は車に乗るとイグドラヴェへ向かい走り出す。

「ほぁ…」

マノンは口をポカンと開けて自然豊かな風景を目の当たりにしていた。

進めど進めど、木ばかり。動物飛び出し注意の看板。森の奥にチラリと見えた鹿。本当に自然と隣り合わせの国なのだと、マノンは夢中になって外を眺めた。

「なんか、ここの森って綺麗だね。孤児院があった場所も森の奥だったけど…ちょっと薄暗くて怖かったもん」

「そうね…木漏れ日もあって、とても素敵な場所ね。手入れをしているのかしら」

「森に縁のなかった俺にとっちゃ、どこの森も怖いけどな。死角ばかりで安心できやしねぇ」

「意外とビビリなんだね」

「うっさい」

入国管理局へ着くと、またもや厳しそうな、屈強な男が待ち構えていた。エアルは動じずにヘラヘラとパスポートを見せる。

「入国理由は…観光と仕事」

男一人に女が二人。しかもうち一人はまだ子供。管理局の男は少し顔を顰める。

「ねぇ、まだ入れないの?折角マロンをイグドラヴェに連れてこれたのに…」

ヘスティアは横髪を耳にかけ、うなじを露わにする。そして、流し目で管理局の男を見つめた。

マノンは内心焦ったが、ここはヘスティア劇場に乗ることにした。

「早く森の街見たいよ!イグドラヴェって海が無いんでしょ?!街中木に囲まれてるの?それって本当なの?!」

「もう、マロンったら。この子ね、海の街で育ったから森や花に詳しくないの。私の我儘で一緒に連れてきちゃったの。森や綺麗な花畑を見せたいがために、仕事に子供を連れてくるなんて…イケナイ大人よね。申請にお時間かけさせて、ごめんなさい」

ヘスティアは窓から身を乗り出し、男に謝った。わざわざ両手で窓枠を掴み、胸を寄せ谷間を強調させるように。男は興味無さそうにしているが、視線はヘスティアの口元や胸元に集中していた。

するとモニターを管理していた女性管理者が声を上げる。

「確認完了、許可が出ました!」

「了解。ど、どうぞイグドラヴェをお楽しみください…」

「ふふ、ありがとう」

ヘスティアがウィンクし、男に別れの挨拶を送る。何も知らない女性管理者のほうは「よい旅を!」と手を振ってくれた。

「ヘスティア、どんどん色仕掛けが上手くなってんな」

「誰のせいだと思っているのよ。こうでもしないと、誤魔化せたりできないでしょ」

「はいはい、ワルゥございました!どっちでもいいから、今日泊まるホテル探してくれ」

エアルの投げやりな指示に、マノンがマジックウォッチを起動させた。

「じゃあ私が探す!ねぇ、リアム達と初めて会ったメルカジュールでのホテルの話、聞いたことある?ミラの手違いでツインじゃなくてダブルベッドの部屋を予約しちゃったんだって!エッヒャヒャ」

「何?!そりゃ初耳だ!で、どうした?ヤったのか?」

「エアル…貴方、弟分と妹分の初夜を聞こうとするんじゃないわよ」

「その時はまだ告白してないからエッチしてないよ」

マノンの堂々とした答えに、エアルとヘスティアは黙り、口を揃えて喋り出した。

「そうだな。そうだったわ」

「清純なお付き合いとはそういうものだもの。リアムとミラなら、尚更だわ」

「なんだぁ、二人もリアムとミラのことなんだかんだ気になってんじゃん!心配なのは解るけどさ、二人のペースってもんがあるんだよ♡」

マノンがニヤニヤと運転席と助っ席の間に顔を出す。

「危ないから大人しく座ってろ。ほら、ここが森の街・イグドラヴェだ」

まるでおとぎ話に出てくるような街だった。ビックリするほど大きな大きな大樹は人が住むマンションに改良され、それが何棟もある。民家も全て木材が使われている。そして、庭やベランダには必ず花が植えられている。

「ここが、イグドラヴェ…」

「どうだ、マノン。驚き過ぎて腰抜かすなよ」

「抜かさないよ!」

広く塗装された道に駐車し、三人は降りる。広場とあって人々は賑わっている。観光客の入り口と言えるここには早速ワゴンで出来たお土産やが並んでいた。見たことも無い綺麗な花。名前もしらない可愛い花。それだけじゃない。フローラ系の香水がたくさん並んでいる。民族衣装なのか、大襟に花や葉の刺繍が施された淡いグリーンのワンピースや、マーメイドスカートの裾には色に似あった花の刺繍。小ぶりのものや大柄なものもあった。

「あら、素敵な髪留めですね」

露店で見つけた白い大輪の花を加工し水色のリボンがあしらわれた髪留め。店主の中年の女性が嬉しそうに話す。

「お嬢さん、観光客だろ?ここにある加工されたお花達はね、なるべく自然のもので加工して長く使えるようにしているんだ。中には、結婚式で使ったフラワーブーケを髪飾りにしてほしいって依頼もくるくらいだよ」

「それはとても素敵な芸術文化ですね」

ヘスティアが感心していると、横からマノンが飛び出てきた。

「何なに?迷ってるの?そうだなぁ…この紫色と黄色い花の髪留めとかどう?」

マノンが指を指したのは紫色のヒヤシンスとソリダスターという黄色い小さな花が差し色としてはいった大人っぽい髪飾りだった。

「ティア姉、髪の毛赤いからきっと似合うと思う」

ニコニコと嬉しそうにするマノンの手から、髪飾りを取り、鏡で当ててみる。

「どう?似合う?」

「うん!さらに華やかになった!」

「ふふ。それじゃあ折角来たんですもの。思い出として…こちらを一つと…マノンはどうするの?」

「あぁ~、私はこの髪飾りがあるから大丈夫!」

マノンがサイドを結ぶ星の髪飾りを指す。

「そう。じゃあ、一つだけですが、こちらをくださいな」

買い終わると、ヘスティアは満足なのか、紙袋の中を見ては嬉しそうに微笑む。

「折角だから付けたら?」

「ちゃんと鏡を見て、ベストな位置に付けたいの。それに、ホテルに行ってチェックインしないとでしょ」

「あ!そうだった」

マノンが予約したホテルは大樹を改装したホテルだった。中も木を利用、再利用され、心地いい香りが漂う。隣の大きな庭にはツリーハウスが何棟か建っており、許可されている場所ならキャンプも出来るようだった。

「お待たせいたしました。マジックウォッチに一泊分の鍵をインストールさせていただきます」

コンシェルジュがインストールを済ますと、各マジックウォッチに部屋番号が浮上する。

「隣通しの部屋を良く取れましたね」

「まあね!っていうのは冗談で…今閑散期らしいよ。人気があるのはツリーハウスの方だから、部屋は簡単に取れた」

マノンはブイサインをする。

「じゃあ、一旦部屋で休憩すっか。三十分後に俺の部屋に来てくれ」

「わかったわ」

「りょうかーい」

通された部屋は、また可愛い雰囲気だった。小さい女の子なら喜びそうなベッドやテーブル。窓枠とカーテン。

マノンは荷物を置き、伸びをする。ふと目に入るのは施設パンフレット。

「紙のパンフレットって…何々。木の再利用のため紙を使用しております。本当、木と一緒に生きてるんだなぁ」

ベッドに寝転び、パンフレットを読む。

「この部屋、狭いけど浴槽はあるんだよね。あ、大浴場もある。花風呂…?ミルクを使った石鹸、ハチミツを使用したシャンプーとリンス。花使用のヘアオイル…ほげぇ。すごい匂いで包まれそうだな」

マノンは見逃していたが、ちゃんと種類でシャンプー・リンス・ボディソープ、ヘアケア商品は揃えられているので匂いが混ざることはない。


約束の三十分後。マノンがエアルの部屋に入ると、興奮気味のヘスティアが出迎えてくれた。

「マノン、ここのお茶の種類が豊富で凄いのよ!緑茶は当たり前として、ローズティ、カモミールティ、ジャスミンティー、アップルティー!」

「お、落ち着いて、ティア姉。あ、そうだ。パンフレットに合ったよ?お花が茶葉代わりで、お湯を入れると咲いて、味が滲み出て美味しいんだって」

マノンから渡されたパンフレットを食い入るように見るヘスティアを置いて、エアルは話し出す。

「…丁度三時半過ぎか。いいか、これから午後四時にハンプシャー少佐から紹介された武器商人に会いに行く」

「え、武器商人と?」

「ここだけの話、元軍人だったが、辞めて花屋を装っているが…裏では信用した人間に武器を売っている。その顧客の一人にも少佐が入っている。お抱え、ではないがスパイ活動もしれっと出来るってわけだ」

「流石、モルガンさんの故郷だけはありますね。常に息がかかっている」

シレっとヘスティアが会話に戻って来た。

「それでも少佐がコアの存在を知らなかった。奴がどう掻い潜り抜けたか…今日で解ればいいんだがな」

三人は歩きで、その花屋を目指す。車だと狭くて入れない。観光客狙いではなく、地域に密着した花屋として経営しているのだろう。

夕日を浴び、老婆に微笑みありがとうございました、と挨拶をするロングヘアの見眼麗しい女性がお辞儀をしていた。その光景は絵になりそうなほど綺麗で。マノンはうっかり見蕩れてしまった。

「エアル、あのお店で合ってる?」

「あぁ」

「勝手に、屈強でマッチョな男性がお花屋さんをしているのかと思っていたわ。女性だったのね」

「いや、俺の勘じゃああの人は男だ」

は?とマノンとヘスティアの声が重なった。

エアルは二人を置いて、先に店員に声をかける。

「すみません。フラワーショップラズリィってコチラですか?」

「はい。当店がラズリィです。何かお探しですか?」

エアルの言った通り、声は男性だった。良く見ると肩幅もしっかりあるし、胸板も男性ぽい。逆三角形が美しく決まっている。

「モルガンさんに送る花を…見繕って頂きたいんですが」

店員の表情が一瞬無になるが、すぐ笑顔に戻る。

「でしたら、店内にどうぞ。もう閉店の時間なのですが…お時間がかかると思うので、存分悩んで決めましょう!」

エアルに手招きをされ、二人は花屋に入る。店員はシャッターを閉め、ドアも施錠する。

「言われたとおりだ…。エアル・アーレント。マノン・ミナージュ・ランドルフ。ヘスティア・エマーソン。お待ちしておりました。私はイシュバと言います。過去、ハンプシャー少佐の元でお世話になりましたが、左足に被弾し切断。その後退役しています」

店員…イシュバは自己紹介をする。ズボンを穿いているから義足だと全然気づかなかった。そもそも、この世界の義手義足は神経と合致するため日常生活に支障はない。

「あの、どうして、義足があるのに辞めちゃったんですか…」

マノンの直球過ぎる質問に、エアルは内心滅茶苦茶焦る。

「ふふ、答えるのがなんだか恥ずかしいなぁ。んー…自分の本当の足がいなくなったことが、凄くショックだったんですよ。いくら代わりの新しい義足が来ても。幻肢痛って知っていますか?そこに無い部位なのに、そこが痛いと錯覚するんです。そのたびに私は情けなく泣きました」

「そうだったんだ…」

「それでモルガン少佐に提案されたんです。心身を守るためにも故郷に帰って、自営できる仕事をしろと。そして得意分野の武器調達を裏家業でやってくれないかって」

イシュバは笑うが、三人の顔は引きつっていた。

「あの人って、本当…軍を強化することしか考えてないんだな」

「ヘンタイだけどね」

「その変態の話に逸れる前に、聞きたいことがあるんじゃなかったの?」

「そうだ」

ヘスティアの軌道修正で、エアルは本来の目的を思い出す。

「イシュバさん。少佐からどこまで聞いている?」

「コア・クーパーの集められる情報全てです」

「解った。収集できた分だけでも教えてほしい」

「はい。コアという男は…所謂ガキ大将でした」

「ガキ、大将って…猿山の天辺の?」マノンの例えに、エアルが肘打ちする。

「でも、モルガン少佐から連絡があり、コアの事を思い出し、調べるうちに思いで補整がかかっていた気がして」

「思いで補整…?じゃあ、今思う貴方の昔のコアはどんな人物だったんですか?」

イシュバは一輪の花を適当に持ち出し、椅子に座る。そしてぼんやりと花を見つめながら淡々と話しだす。

「孤高、だったと思います。常に一人でいたと思います。だから、私のことを助けてくれたのも気まぐれか、弱すぎて見ていられなかったからかも」

「イシュバさん、イジメられてたの?」

「私、見た目が中性的で、子供の頃なんか、女男とか言われてイジメられていたんです。そこをいつも助けてくれたのがコアです。強くなればイジメになんか遭わないって。でも…子供の頃って、親の都合で引っ越しして居なくなっちゃったってこと、あるあるじゃないですか。気が付いたらコアも近所にいませんでした。だから…モルガン少佐からコアを調べろと言われたときは、心臓がドキッとしました。だって、あの人…悪い方へ行ったんでしょう?」

イシュバは表情に影を落とした。

モルガンから調査の依頼が来るときは、ほぼ敵を詮索するとき。そこでイシュバは初めてコアの現在を知ったのだ。彼は道を踏み外したと。

「今の私は武器商人です。ちゃんと信頼出来る人にしか売らない。だから、コアに繋がる情報は掴めませんでした。ただ…」

「ただ?」

「反国運動っていうか、デモっていうか…一時国の情勢が危なかったことがあるんです。もう十年以上前かな。そこにコアがいたかもって、風の噂で」

エアルがマジックウォッチで検索をかける。すると当時イグドラヴェでは国の体制に不満を持った過激思想集団が結束しテロや襲撃を繰り返していた、と記事がある。現在はそういった過激な攻撃がないため、和解か一掃に成功したのだろう。その残党がコアだとすれば、話は繋がってくる。

だが、エアルは何か引っかかる。

「コアは、街での評判は?」

「評価と言っても、私が知っているのは子供時代だけですけど…子供らしくなかったかも。ヒーローじゃないけど、悪ガキとケンカもしていたし…大人からみたら風変りだけど問題の無い子には見えていたと思いますよ。悪名もなく静かに何かを狙っている。もし成人してからも悪事をしていたとしたら…誰にも気づかれないように、陰で、裏で、暗いところでコソコソしながら暴れるタイミングを見計らっているんでしょうね」

イシュバは困ったように笑った。

「ありがとうございます、イシュバさん」

エアルがお礼を言うと、イシュバが急に止めに入る。

「待って!また明日にでも来てくれませんか?一回だけ、チンピラが武器を買いたいって来たことがあったんです。怪しいし、悪事に使いそうだったから売らなかったんですけど…その、コアが居たかもしれない団体のボスを知っているかもしれないニュアンスで」

「反国運動のボスってことか…。解りました。明日またここに来ます」

三人はモルガンに贈る花を見繕ってもらい、代金と送料を支払い、店を出た。

「コアって、弱い奴には優しかったのかなぁ。女とは戦わない!とか言ってたし」

マノンが手を組み、頭の後ろを支えながら歩く。

「いえ…コアは弱い奴には興味がないはずよ。ヴェネトラ戦の時、私が力を発揮できたから…コアは私のことも敵として見据えたわ」

「う~ん。じゃあ成長するにつれて弱者に興味なくして強者にばかり拘るようになったとか?」

「兎にも角にも、明日紹介されるチンピラを脅すしかないだろう。今日はもう飯食って寝ようぜ。意外と運転ばかりだと疲れるんだぜ」

こうして三人は、レストランで食事を取った。イグドラヴェ名物、ほうれん草のシチュー、ハーブで焼いたステーキ。スパイスの効いた骨付きソーセージ。エアルは運転の開放感から酒を飲み、ヘスティアも付き合いでと言いつつガンガン飲んでいた。

酒のみ大人を見つめるマノンは、溜息を吐いた。

「歩けなくなるほど飲まないでよ~」


原作/ARET

原案/paletteΔ

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