53話・・・メルカジュール・再会
作品を読みに来て頂き感謝です。
四十三日前―
飛行艦はメルカジュールを目指し航行中だ。雲の上は快晴で、天候の不安何てちっとも必要無い。昨日の昼過ぎだろうか。ゼーロを出て、一夜を明かし現在は午前中。朝食も終わりまったりと過ごしている。
リビングにいたマノンはソファでだらだらと寝転び、膝を曲げ、もう片足はソファから下ろしはしたない恰好をしていた。それを見ていたヘスティアはレシピサイトを観るのをやめる。
「マノン、はしたないですよ」
「暇なんだよ~。あ、そうだ」
マノンはマジックウォッチで操縦室にいるエアルに通信を繋ぐ。
「ねぇ、メルカジュールまだ?」
『はぁ?ご飯まだ?みたいなノリで訊くんじゃないよ。あと三時間はかかる。それまで昼寝でも勉強でもなんでもしてろ』
「三時間もぉ?」
「マノン!そんな開脚したら下着が丸見えですよ!貴女いったいいくつになるの!淑女たるもの、もう少し周りにも気を使いなさい!」
「はぁい。じゃあエアル、着いたら教えてね」
『あ、おい!』
なにか言われそうだったが、そのまま気にせず通信を切る。
マノンはソファに座り直すが、暇なのは変わらなくて。
「そうだ…!エマお姉さんからお土産貰ったんだ!」
「そうなの?なら、後でお礼の連絡を入れておきなさい」
「はぁい!ちょっと部屋に居るねぇ」
マノンはサササーッとなるべく足音を立てないように走り、部屋へ駆けこんだ。
「これこれ」
テーブルの上には、可愛らしい柄のショップバックが一つ。手に取り、シールを丁寧に剥がしながら、前日の事を思い出す。
前日…エマ宅を出る準備をしている時、マノンはエマに手招きされ呼ばれた。呼ばれた先はエマの寝室だった。
「ごめんね、準備中に」
「いえ、まったく!それで…なんでしょうか。何かお手伝いとか?」
「ううん、違うの。これをプレゼントしようと思って」
渡されたのが、例のショップバックだった。
「えー!袋からして可愛いです!本当にいいんですか?」
「マノンちゃんに貰ってもらえたら凄く嬉しいな♡随分前に買ったんだけど…使う機会も無いなって。勢いで買っちゃった物だけど…捨てるのも勿体ないし、新品だしって悩んでたら丁度エアルがマノンちゃん達のこと連れて帰ってきたからさ。あ、中身は飛行艦の中で見てね」
「ありがとうございます」
マノンが嬉しそうにショップバックを見ていると、エマがニコニコと傍に寄って来る。
「エアルが好きなら、もっとガンガンアピールしたほうがいいわよ。じゃないと、ヘスティアちゃんに取られちゃうかも」
「ブ!“#$%&‘(’|~=ハァ?!」
「なんて?」
「なんて?じゃないよ!な、何を突然…?!」
マノンは顔面が赤くなり、心臓もバクバクと早くなる。それを見て、エマはまた嬉しそうにする。
「うふふ♡若いっていいなぁ。いや、私もまだまだって思うわよ?でもなぁ、年齢を重ねると現実?とかがさ…見えてきちゃってさぁ…慎重というか、面倒というか…もうあの頃の好き!って気持ちだけじゃ解決出来ない問題がゴロゴロと」
「エ、エマお姉さん?」
「あ、ごめんね?ようは勢いって大事かもってこと、かしら?今も楽しいけど、若い時にしか出来ないこともたくさんあるし、武器になることもあるしね」
「若いが武器って、ちょっとオジサンくさい発言ですね」
「エアルの姉だからね」
エマが冗談っぽく笑う。
「でも、本当に若さは武器になると思う。いやらしい意味じゃなくてね」
「エマお姉さん…」
「だから、今の恋や友情を大事にしてね。それも含めて、プラスαで着飾って自分をアピールするのよ!」
――マノンちゃん達の旅の無事を、ゼーロから祈っているわ。
「着飾って、って言ってたから洋服とかかな」
このサイズ感なら薄手の物だろうか。さしてかさばらなさそうだ。
中を開くと、白の柔らかい紙素材が一番に目に入る。この包装の仕方…もしや。
おずおずと出すと、予想通り、下着だった。しかも、スケスケのベビードールとパンツ。紫色で黒いレースであしらわれており、エマが買っただけあり透けているがどこか上品で大人の色気のある物だった。
「オッ<>?>(‘%#)?!?!」
予想外の品が出てきたマノンは叫び声を上げる前に唾を誤飲し咽かえる。咳き込んでもなかなか止まらない。
「マノン、大丈夫なの?」
一階からヘスティアが声をかけてくる。このまま無視していたら、部屋に来てしまうかもしれない。
「だ、大丈夫!」
「そう。あんまり興奮しすぎないで頂戴よ」
どうやら、エマからの贈り物に感極まって興奮したと思われたようだ。
マノンは胸を叩き、落ち着きを取り戻す。
「えぇ、待って待って。キャミ…?とパンツはあるけどブラがないぞ?いや…ブラがあった所でサイズが合うか微妙だけど…てか、エマお姉さんのほうが絶対胸あったって」
ブツブツ言いながら紙袋の中を探すが、確実に無い。
パンツを手に取り、マジマジと見つめるが、おしりなんて絶対に見えてしまう。もしかしたら、前も怪しい。
「あふーーーー…」思わず生唾を飲む。
エマの「着飾ってアピールしてね!」がリフレインする。
「解る、解るよ?勝負下着とか言うもんね…これは絶対勝負用の下着だと思う、うん」
ベッドにベビードールとパンツを揃えて並べてみる。
「…可愛いと思うよ?うん…」
Aラインのベビードールであるため、胸の大きさ問題は関係無いだろう。それに、胸元にあるリボンを解けば、前は簡単に肌蹴てしまうようになっている。
「これは完全に…そういう下着か?エマお姉さん何を思って買ったんだ?」
ずっとベビードールを見ていても仕方がない。ぶっちゃけ、着たいか、着たくないかと訊かれたら物凄く興味がある。
(物は試しだ…着飾ることも武器だもんね。勿体ないから譲ってくれたんだもん…ここで私も着ない!なんて言ったら申し訳ないよね)
マノンは言い訳をすると、ドアの鍵を閉め、服を脱ぎ始めた。
数分後。
「*~‘&%“!”&$*ッ!これは…凄い…思った以上かも…」
姿見に写る自分の姿は、自分から見ても破廉恥、と言える姿だった。胸もおしりも、大事なトコロも全部透けて見えるのだ。
(なに、なになになになに?!私は一体ナニを着ているの?!想像以上に凄いものを着ちゃっているんだけど!!!)
思わず恥ずかしくなって、手で口元を隠す。
そもそもエマは何故こんなベビードールを購入したのか。エマはこれを着てエアルに勝負を持ち込めと言ったのか?これを着てエアルに抱かれろと遠まわしに言ったのか?そう考えると、少し、身体の奥がジンと熱くなる。
(ただの変態じゃん…)
改めて鏡で全身を見る。
ヘスティアやレン、レイラのような巨乳でもなければ、ミラやマイラのようにスタイルがいいわけでもない。リアム達と出会った頃より胸は少し膨らんだが、くびれは薄い。スレンダーと言えば言葉は良いかもしれないが、色気がある身体つきではない。女性陣の中ではよく食べていた方だ。だが、胃下垂でもあるし、食べた分は動いていた。そのせいなのか、栄養は効率よく消費されていき、今のスタイルを保てている。
(同じ年齢の子達からしたら、私は羨ましがられる体型かもしれない。でも、私は…)
ミラ達が羨ましい。
胸の間に手を当てる。凹凸の少ない谷間。
「こんな格好したって、私には魅力が無いよ…エマお姉さん」
どうしてミラみたいに、好きな人を一途に想えないか。直球に勝負が出来ないのか。理由がなんとなく解った気がする。ライバルというか、周りに素敵だと思える女性が多すぎる。エアルといる時間が短すぎる。だから、好きなのに、ブレーキをかけてしまう。本当なら、グイグイ行きたいのに。
初恋なのに、エアルに夢中になりたいのに、心より脳がセーブをかけてくる。失恋したとき辛いぞと。
虚しくなって、悲しくなって。マノンは深い溜息を吐くと、もう着替えようと胸元のリボンを解いた。
「マノン、大丈夫?」
コンコン、と突然ノックと心配するヘスティアの声がする。
「うぉああ!だ、大丈夫!」
「そう、それならいいんだけど…随分長く籠っているように感じたから」
「え、そんなに?貰った…洋服試着してたからかな。…まぁ、似合ってなかったんだけど」
「なら、私にも見せて頂戴な。マノンが着慣れていないファッションだから変に見えるだけで、他から見たら似合っていることもあるわよ」
「おおおぉ?!?!み、見せるにはアレなんだなぁ!」
「アレ…とは、何かしら。まさか…」
「ちょっと見せるには恥ずかしいから、着替えるから待って!簡単だよ、私に魅力が無いって言うか、服に着られちゃってるって感じ?あはは」
マノンは兎に角急いで服を着る。
「なんだか、自信を持っていないマノンを見ると不安になるわね…。着替えたら鍵を開けて待っていて頂戴」
「え、うん…」
着替え終わり、少し待っていると、またノックされ、ヘスティアが入って来る。
「洋服の次は、メイクなんてどうかしら」
ヘスティア持っていたのは、メイクボックスだった。
「すごい量だね…」
「気分や季節、新作を買っていたらこんなになっていたわ。これでも、よく使う分を厳選してきたのよ」
「ほえぇ」
ヘスティアはリップバームを取り出すと、綿棒に着け、マノンの唇に塗っていく。
「はい、馴染ませて。今日はチークとリップくらいでいいかしら。そうね…このパープルのチークにしましょうか」
「˝え」
「意外と馴染むのよ。自然な感じになるわ」
チークを乗せると、確かに自然な感じで色づく。
リップはピーチ系の色と、ほんのりピンクが色づいたグロスを塗る。
鏡に写るマノンは、自分じゃないような女の子が写っていた。
マノンは鏡に顔を寄せ、おぉ、と感心する。
「私じゃないみたい…」
「メルカジュールにいったらメイク道具とか買いましょう。メイクも、自分を魅せる方法の一つよ」
「魅せる方法のひとつ…ありがとう、ティア姉」
結局。エアルと顔を合わせたのはメルカジュールに到着してからだった。エアルはマノンの化粧に気づかず、「血色良いな?あ、もしかして口紅は塗ったか?」という感想で終わった。
街中を歩き、昼食を終え、マノンの家…先生が住む場所へと足を運ぶ。
マノンはエアルの鈍感さと観察力の無さにガッカリして拗ねて終始無言を突きとおしていた。
「なぁ、俺…」
「言いたいことは解ります。自分で考えなさい」
「へい…」
エアルがヘスティアに助言を求めたが、断られた。
繁華街から外れ、住宅街に入る。遠くから風にのり、賑やかな声が聞こえる。小鳥が鳴く。暮らすには穏やかでいい場所だとエアルは思った。
「ここが私の家」
マノンが指さし、二人を案内すると、アパートメントが。ドアを開けると、階段が続き、各階に部屋が二つずつあるタイプだ。
「マジックウォッチで認証しないのかよ。女で二人暮らしなら物騒じゃないか?」
「玄関は流石にマジックウォッチでの認証式だよ。その分家賃も安いしね。でも…それだけ切り詰めて生活してたかも。先生は私に苦労かけないように一生懸命だった」
「…先生とも、家族なのね」
「うん。家族」
マノンは嬉しそうに微笑むと、いつも通りの元気を取り戻し、部屋へ向かって階段を駆け上がる。マジックウォッチで鍵を開けるのではなく、インターホンを押す。
はーい。と部屋の向こうから懐かしい声がする。
ガチャリ―扉が開くと、先生が現れた。そして、目の前にいるマノンに、信じられないという風に目を丸くする。
「マノン…マノンなの?」
「ただいま、先生」
「マノン!」
先生は大声を出すと、マノンを思い切り抱きしめた。マノンが仰け反っちゃうくらい、強く強く抱きしめた。
「もう、バカバカ!急に出かけたと思ったら指名手配されて、逃亡したと思ったら次は旅に出るって…心配させて!もう、帰ってきたら叱ろうと思ったけど…!急に帰って来るから、怒りたい内容、全部忘れちゃったじゃない!」
「ごめんね、先生…」
アパートの部屋は、狭かった。リビングと、寝室。水回り。二人で暮らすには手狭な家だ。
先生がアイスティーを三人に出す。
「すみません。お茶しか用意できなくて…帰って来るって解っていたら、お菓子やお食事を用意したんですが」
「いえ、急にお邪魔してしまい、こちらこそすみません」
エアルが謝罪する。
「マノン、ご迷惑をかけていませんか?」
「元気過ぎて困ってるくらいです。でも、迷惑だとは思いませんよ。たぶん、先生と同じ気持ちで俺達もマノンのことを想っています」
先生とエアルの会話に、マノンは少し胸のつっかえを覚えた。
(先生と同じ気持ちってことは、家族として、だよね。まぁ、そう答えるよね…今は)
「ねぇ、旅での出来事、教えてよ。マノン」
先生に訊かれ、マノンは我に返る。
「うん。聞いてほしい、先生にも。私、旅に出てよかった…そう思えたの」
最初の悪の組織・黄昏の正義を壊滅させたこと。エアル、ヘスティアを含めた沢山の仲間が出来た事。謎の敵・アマルティアとの激闘。そして、父と母のこと、出生の秘密…。
聞き終えた先生は、静かに言葉を紡いだ。
「そっか…お父様に、会えたんだね」
「うん」
「神父様もシスターも言っていたけど、やっぱりマノンは愛されていたんだ…。ご両親のことは残念だけれど、それでもお父様とお母様の愛情は届いたのね…」
アイスティーに浸っていた氷がカランと音を立てる。
気まずい、というか。思いを馳せ、死者へ祈りを捧げているような時間だった。
マノンは恵まれている子供だろう。両親からの愛情を一身に受け、両親が死ぬまで愛した。マノンが過ごした孤児院にも色んな理由で預けられた、捨てられた子供もたくさんいただろう。親の理不尽。育てられなくて泣く泣く手放した母親。虐待、誰にも頼れずせめてもの思い出で捨てられた子…。殆どが親の顔を覚えていないだろう。それでも、父親に再会できたマノンは恵まれていた。ネストも最期にマノンが生きて健やかに育った姿を見れたのは、幸いだったのかもしれない。
そうエアルが想っていると、少し沈黙が続いた後、先生は思い出したように声を上げた。
「そうだ!あのね、マノン達が逃亡したあとにマイソンさんってご夫婦と知り合ったの」
「マイラの伯父様達ね」
一瞬きょとんとしたマノンに代弁するようにヘスティアが答えた。
「そうそう。そのマイラさんも指名手配されて大変だったじゃない?で、無実が証明された後、友達になった方達と世界を回るって連絡が一回来たきり、途絶えたみたいで…」
「元気にやってる証拠じゃない?私も先生に連絡入れてなかったし」
「まぁ、便りが無いのは元気な証拠ともいいますけど…。マイラが怠るとは考えにくいわ…」
「私はマイラさんのこと全然知らないし、お話しを聞いた限り、優しくて心配はかけないような子だったとは聞いているの。そんな子が、ずっと連絡取れないのも確かに心配で」
ヘスティアは、ティアマテッタ軍最終試験日のことを思い返していた。エルドがマイラと出会い会話をした…と言っていた。もし会っているなら、マイラはご夫婦に来た国を教えるはずではないだろうか。
兄が吐いた嘘とも捉えられるが、マイラの性格を知っていた。
ヘスティアはエアルに耳打ちをする。
「エアル、もしかしたら…」
「あぁ。俺も考えていた」
エアルは少し困ったような笑顔を見せた。
「すみません、マイソンご夫婦の連絡先か、これから待ち合わせとか出来るようにしていただけますか?流石にその話を聞いたら俺達も心配で」
「勿論です!少しでも手掛かりが見つかれば…」
先生はすぐにご夫婦に連絡を取ってくれた。ご夫婦はすぐにでも会えるということで、四人は待ち合わせのカフェに行くことに。そこには既にマイソン夫婦が待っていた。
「お待たせしました。お久しぶりです、マイソンさん」先生が挨拶をする。
「お久しぶりです。この方達が…」
「初めまして。ヴェネトラまでマイラさんと一緒に旅をしていたエアル・アーレントと申します。マイラさんにはたくさん助けていただきました」
エアルが懐かしそうに、嬉しさを思い出しながら語ると、夫婦に緊張の面持ちは、どこかホッとしたように微笑んだ。
「どこか浮世離れした雰囲気のあった子でしたから…仲良しな友達も少なくて。それが悪いわけではないんですが…沢山の友達が出来たようで、安心しました」
「マイラの作るご飯は美味しかったもんね!」
マノンがヴェネトラの朝食や、勝利後のバーべーキューを思い出す。
ご夫婦の緊張も解けたところで、エアルは本題に斬り込んだ。
「ではお聞きしますが…。マイラさんと連絡が付かないと伺いましたが、いつごろからでしょうか」
夫婦は顔を見合わせると、夫人はまた表情を曇らせ俯いてしまった。旦那が妻の肩を抱くと、静かに話し出す。
「マイラと連絡が取れなくなったのは、ヴェネトラで起きた戦いが終結した後、友達と世界を回る、という電話だけです。各地に降り立ったら連絡や写真を送ると言っていたのですが…一ヶ月以上経ちますか。それ以来、こっちが連絡を入れても全く返信が無いんです」
「そうですか…。暫くお時間を頂けますでしょうか。マイラさんと旅に出た仲間を知っています。その親族にも連絡を入れ確認します」
「ありがとうございます」
エアル、ヘスティアは少し離れ、路地裏に来ていた。
「リアムの最終試験…バトルロイヤルの日。アマルティアに攻撃されたとき、お兄様が言っていたの。マイラはお前と違って守りたくなるね、って」
「とんだ嫌味だな…」
「それに、マイラのおおまかな性格も把握していたの。もしどこかで会っていたとしたら、マイラはご夫婦に連絡を入れると思わない?」
「育ての親に心配かけたくないマイラが他国に着いたことを報告しないのは妙な話だな。おっと、早速連絡が」
最初に来たのはレンの執事からだった。
『レンお嬢様からはヴェネトラを発って以来ご連絡はありません。捜索はしているのですが…突き止められず今に至ります』
次はジョンから。
『レイラは連絡なんか寄越さんよ。フラッと出て行って、フラッと帰って来る。エアル達が商会に来た時もそんな感じだっただろ。まぁ…お前さん達とも連絡が付かないのは不安だな…こっちも居場所を突き止められないか試してみる』
連絡を終えた二人は、深刻な表情を浮かべる。マイラだけじゃない。レイラにもレンにも確実に何かが起きた。事件か?それとも誘拐。
「ヘスティア…最後に一回ヴェネトラに寄ろう。ジョンさん達の技術でどうにかならないか考えたい」
「貴方が考えていることは全てマスタングさん達が行っているでしょう。でも、立ち寄るのは賛成だわ。マノンも、あの死んだ三姉妹のこと、気に掛けていたからね」
二人はマノンと先生を待たせていたカフェに戻る。
「結論からいいますと、連絡が取れない状況下にいる、という事です。ただ、生きているのは確かでしょう。酷なことを言いますが…マイラさんと一緒に旅をしている二人の親は高等な技術や権力を持っています。やすやす殺すとは考えにくい…」
「そんな…」伯父が青ざめ、拳を握り、僅かに怒りで震える。
「でも、お友達のお陰で生きている可能性があるってことですよね?!」
伯母が必死の形相でエアルを問い詰める。
「奥様、落ち着いてください。一ヶ月前、マイラさんと会ったという人間と会話をしました。彼が言うマイラさんは偶像や想像ではなく、確実にマイラさんであることを話していました。だから…今もきっとどこかで生きています」
ヘスティアが夫人の背中を撫で、落ち着かせると、夫人は限界だったのか涙をポロポロと流し始めた。
「どうしてマイラが…!弟夫婦まで亡くして、マイラにまで何かあったら、私達は…!」
「ご婦人、落ち着いてください。マイラさんの情報を入手し次第、連絡を送ります。彼女は生きている。マイラさんはおっとりしていますが…強い女性です。俺達はその姿勢をしっかりと見てきました」
エアルの言葉に、夫人はまた涙した。悲しみの涙も混じっているけれど、成長と凛々しくなったマイラを想ってしての涙だった。
ご夫婦が落ち着くまで見守りながら、ヴェネトラでの活躍を話した。マイラ達の勇姿を聞いたご夫婦は少し笑顔と元気を取り戻したところで解散となった。
夕暮れになり、街灯に明かりが灯る。帰り道、先生がマノンに話しかける。
「マノンさ…もしよかったら、もう家に帰ってこない?」
「え…」
「さっきの、マイラさん達の話を聞いていたら、いつマノンと連絡が取れなくなって、もう二度と会えないかもしれないって…怖くなったの。もう、家族を失いたくないの」
先生の眼差しは真剣だった。
死体を見て、心を病んでも、マノンのために必死に働き、食べるものに苦労させなかった。安心して寝られる部屋もベッドも与えてくれた。先生に大切に育ててもらったことは痛い程感じている。
それでも、マノンには夢が出来ていた。
「ありがとう、先生。でもね、私。この旅と、この先起こる出来事を最後まで見たいの。先生や、知らない誰かを守りたいって思ったの。だから…今は帰れないけど、絶対帰って来るから。それまで待っていてほしいな!」
くったくのない笑みを見て、先生は困ったように笑った。
「マノンはお転婆だったけど、今はじゃじゃ馬で、目的や、成し遂げたい事があるのね…。離れているから、無事を祈ることしかできないけれど…約束して。必ず帰って来るって。私、このアパートでずっと待っているから」
「うん。わがまま言って、ごめんね。先生」
今度はマノンが先生をギュッと抱きしめた。
「大好きだよ、先生…必ず生きて、帰るから」
「その言葉、信じてる」
三人は先生と別れ、飛行艦へ戻る。
少し暗い表情のマノンに気づいたエアルが、そっと声をかけた。
「よかったのか。先生の元へ帰らなくて」
「うん。お父さんのこともあるし…言わなかったけど、アマルティアにギャフンと言わせたいんだよね。それに、マイラ達のことも心配だし。…今の家族も好きだしね!」
「お前は沢山の家族がいて、幸せ者だな」
「うん、幸せ」
マノンは普通に笑っただけだろう。でも、エアルにはとびっきりの、優しくて、まばゆいくらいの笑顔に見えた。一瞬、ドキッとしたが、誤魔化すようにマノンの頭をワシャワシャと撫でた。
「飯くらい食ってから戻ればよかったな」
「あら、今夜夕飯は私が作りますよ。レシピ見て、勉強したんですから」
ヘスティアのちょっと得意げな表情に、二人は不安を覚えた。紅茶を淹れるのは天下一だが、料理は全くしてこなかった王女様。彼女がどこまで料理が出来るのか…。
結果を言えば、美味しくも無ければ、不味くも無かった。醤油に対し、出汁を入れ忘れたのだ。だから、すっごい味の薄いスープが出来た。お米に関しては炊飯器の指示通りに作ったので問題は無い。ヘスティアは、味付けという概念が無かったらしい。
結局、マノンとエアルはふりかけでご飯を食べた。スープやおかずは、無心になり食べた。
「食べ終わったし。次の目的地はイグドラヴェ。重要な拠点だ…ここではコアについて調べる。いいな」
「ガッテン!」マノンがポーズを決める。
「森の国の異名を持つイグドラヴェ…私も外交で訪れたことはありますが…。まぁ、国のトップだったから朗らかな方達ばかりだったのかもしれませんが、コアほどの好戦的で強靭がいるとは思えない国です」
「ハンプシャー少佐もいるけどな」
エアルの一言で、ヘスティアとマノンは黙り込んだ。
「もしかして…変人ばっかな国民性なのかなぁ。コアはリアムとエアルに夢中だし、モルガンさんは皆のおっぱい触って来るし」
マノンがジト目で憂鬱そうに言う。
「それは…好みだろ。性癖だ、性癖。俺は男にモテるのはごめんだな」
エアルは早速イグドラヴェへ目的地を設定する。
「少佐の依頼もだが…マイラ達の行方も心配だ。片手間…と言いたいところだが、何か情報が掴めればすぐ共有しよう」
「オッケイ!」
「わかりましたわ」
出発し、イグドラヴェへ向かう。
この時、当然ながら知らなかった。リアムが木属性のシレノとチームを組んだ事。そしてシレノがイグドラヴェでの情勢、父親、コアとの点が結びつくことを…。
原作/ARET
原案/paletteΔ