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ETENITY00  作者: Aret
2章・・・代償
48/113

48話・・・ティアマテッタ22・サバイバル訓練7

作品を読みにきて頂き感謝です。

しつこかった歯車をやっと破壊し終えると模擬弾がブラッドの髪を掠める。即座に振り向き剣を構えると、銃を構えたリアムが立っていた。

その顔付きはアイアスの面影を覗かせる。モルガンが見たら、さぞ歓喜しただろう。自分より長くアイアスとの時間を有し、慕い尊敬していた。

リアムは、アイアスが生きていても軍に入隊しただろうか。父の背中を追い、ティアマテッタに来ただろうか。アイアスが生きていたら、リアムは暗部になっていたか。それとも、何も知らず穏やかな日々を送っていたのだろうか。両親に見守られながら。

――あぁ、嫌になる。得られなかった未来を想像するなんて。

全ては結果だ。アイアスとクロエが殺害されたから彼は今ここにいる。両親が殺害された復讐を遂げようとする表情にはまだ甘い。家族や恋人、大切な場所を失った奴等など、ここには腐るほどいる。

「…マシューの金属魔法だよな、これ」

「そうだ。最後の最後にやられたよ。優しいだけのダメな奴だと思っていたが。よかったな、これで私の魔力は少しくらい減っている」

「…そうかもな。後でマシューに礼を言わないと」

冷静を装っているが奥歯を噛みしめているのが解る。

「模擬戦でよかったな。実践だったらマシューは死んでいる。そうだ、実践ついでにこんな事実を知るのはどうだ?訓練中、仲間の男を殺して事故死扱い、悲しんでいる男の妻に付け込み奪い取るクソ野郎もいる」

「だから?何が言いたいんですか」

「俺がお前を事故死に見せかけて殺すとは考え付かないのか」

その気迫に、リアムは思わず息を飲んだ。

(落ち着け、これは訓練だ。この人がマジでそんな事考えるわけ…。落ち着け)

「そしてお約束通り、俺はミラに付け込む。リアムを失い嘆くミラに寄り添い、慰めてやろうか。ミラのことはもう抱いたか?ベッドの上でも可愛らしく鳴くのか。それとも盛りの付いた雌猫か?」

「やめろ」喉の奥が苦しくて、一言出すだけで精一杯だ。

「お前も見ただろう。医療班が動いているのを。医療班は軍人がいないと身を守る術は無い。軍人が死ねば死ぬだけ危険が迫る。それこそ、全滅でもしてみろ。残された医療班はどうなる?大半が女で動いている組織で、女に飢えている敵軍が見逃してくれると思っているのか?ゾーイを見てきて何も思わなかったのか?」

「知ってるよ!いちいち胸糞悪い事言ってんじゃねぇよ!!」

「知らないだろう。捕虜になってみろ。男は殺される。限られた娯楽で人殺しで麻痺した感覚で、遊ばれながら殺される。生きたまま火を着け何分かかり死ぬか賭けをして。拷問をし、情報を聞き出す。暴力で死ぬまで殴り蹴るリンチ。串刺して死体を見せつけるのもあったな。掘った穴に入れて、それなりの大きさのある石をぶつけて逃げまどう捕虜を見て笑う遊びもあった。もちろん捕虜が死ぬまで石を投げ続ける。

女は犯される。肌に文字を切り刻まれる。逃げられないようにアキレス腱を切断するか。銃を胎内に入れて泣き叫ぶ表情を見て楽しむか?顔面を殴って服従させるか?兵士の赤ん坊を産ませるために無理矢理孕まされる。これからお前が直面するのは、自分よりも優先し守る命がある場所だぞ!」

「解ってるから、いちいちうるせぇんだよ!!!!」

リアムが魔弾を撃つ。しかし動揺し、ブラッドを呆気なく外す。ブラッドは微動せずリアムを睨む。

「その程度では、守るもクソもないぞ」

リアムの中で何かが弾ける。

すぐに平常心を取り戻したリアムは腸が煮えくり返っていた。いくらブラッドであろうとも、あの発言は全て許せなかった。ブラッドが見てきた世界か。聞いた話なのか。頭ではブラッドが犯してきた悪行ではないと解っているのに、このむしゃくしゃした感情の捌け口をブラッドに向けていた。

二人は並行で走り、銃で対抗するリアムの魔弾を、ブラッドは剣で相殺していく。

「情けねぇ…こんなムカついてんのに簡単に相殺されて!一撃も入れられない、心底自分が嫌になるぜ!!」

銃が黒く光り、引き金を引くと魔弾が放たれた。通常の球体とは違う、竜が舞うようにブラッドに襲い来る。

「ふん!」

氷の刃先で黒い竜を正面から受け、真っ二つに斬り裂いていく。しかし、油断していると押される。現に、刃こぼれが起きている。魔力で直せるとは言え、ブラッドは笑みを見せた。

「クソ!また相殺された!」

「まだ青いな」

また駆け出し、攻防を繰り返していると、ふと聞き慣れた声が耳に入る。

「氷柱、全て除去完了しました!」

「了解、アルミックシートへ移動。出血も酷い、慎重に!」

「はい!」

ミラだ。ミラ達医療班が、酷い有様になったマシューを救護している。

「氷柱って…」

――串刺して――

信じられないものを見るように、リアムはブラッドに視線をやった。

「軽度の凍傷を確認。本部に治療手配します」

「お願い」

リアムの顔は、まるで裏切りにあい、絶望に落とされたかのように青ざめていた。それを見たブラッドは、もっと追い打ちをかけることにした。

ピジョンで医療班に向けて発砲した。

「なっ?!」

キャア!とざわめく。

「落ち着きなさい!」

看護師長の一声で周りは黙るが、恐怖や混乱は隠せていない。

そしてブラッドは前へ出ると、ピジョンを向ける。

「リアム。これから俺は医療班を攻撃する。殺しはしない。だが、潰す。そうしたら、マシューも、ミラも彼女達も、どうなるか…さっきの話を聞いていれば解るな?」

「…は?アンタ、本当に何言って…」

もう一度、ピジョンを発砲する。

「やめろ!敵は俺だろう!医療班は関係無い!」

「まだそんな甘い事を言うか!これは訓練だ。確実に実践に近い、訓練だ」

その言葉を聞いた看護師長は目を瞑り、溜息を大きく吐いた。

「射撃対象確認。すぐに威嚇を」

「はい!ミラさん!」

先輩に言われ、ミラも反射的に銃を構える。しかし、ミラも動揺しているのは同じだ。理解が追いつかない。一体リアムとブラッドは何をしている?模擬戦闘ではないのか?

パン!と銃声が響く。先輩がブラッドに向かい撃ったのだ。

「威嚇射撃です。これ以上近づくなら、殺します」

先輩は本気でブラッドを殺す対象として認識していた。そしてミラも思い出す。守りたい人達を、絶対に守り抜くという気持ちを。

ミラの表情が、勇ましく変わる。

(俺は何を見せられているんだ…)

頭の中がグワングワンと揺れる。どっちが上か下かも解らない。大きく揺れる、世界が捻じれる。

先輩とミラがブラッドと銃撃戦を始め、他のスタッフがマシューを救護し搬送していく。ミラの同期は泣いていたが必死に救護者を守ろうと走る。

「…嫌だ」

両親が死んだと伝えられた日。ミラの両親が殺された日。ネストが死んだ日…。

「嫌だ、もう誰も殺さないでくれ、俺から奪わないでくれ…」

脳裏には有りもしない映像が流れていく。マシューが死に、ミラが犯され、暴行の果てに珍しいという理由で黒髪を刈られた、見るに耐えない裸姿。ブレイズもシレノも、ゾーイも。殺され、凌辱される。存在しない未来が鮮明に焼き付き、リアムは嘔吐する。蹲り、髪を鷲掴みする。

「離れろ、離れろ!今はミラ達を助けるのが優先!動け、動け!」

苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい。心臓が動いているのか、止まっているかすら解らない。

「本部、応援要請願います!」

ミラの声を聞き、混濁した意識に一点だけはっきりとした感覚が戻る。

(ミラは…ミラも自分が守るべき場所を理解して戦っているのに、俺は何を守った?今、何をしている?俺が守らないと、ミラ達は…)

リアムは目の前が一気に弾け、黒い世界に呑みこまれた。

「これ以上ミラ達を攻撃するなら、俺はお前を殺す…!アウェイクニング!!」

『アウェイクニング・ディフェンス。三十、二十九』

悲痛にも聞こえる絶叫が劈くと、リアムは黒い闇に包まれた。

ブラッドがリアムを見ると、目を見張った。

本来のディフェンスなら肉体強化のみが、今のリアムは違う。魔力を纏い、黒い怪物と化していた。手は異様に長く、手も使い走って来る。顔までも魔力で覆い、口のみが牙を見せてくる。そして周りにあるもの全てを薙ぎ払っては、触れたものを消失させていく。

「スキルの暴走か?!」

ブラッドは氷河を形成し、時間を稼ぐ。氷河内に閉じ込められたリアムだが、早くて二十秒で出てくるだろう。

「リアム!」

ミラは、思わず名前を叫んでしまった。職務中は割り切っていたのに。あんな化物みたいな姿を見たら、心配せずにはいられない。

「すまない。私がやり過ぎた…」

「本当です。彼に何かあったら承知しませんからね」

看護師長が意味深にブラッドを睨む。

「お見通しですか」

「火属性が入隊した時以来ですからね、こんな酷い重傷者が出るのは」

釘を刺すような言葉を残し、看護師長は先に行ったメンバーを追いかけていく。

「…もしリアムに何かあったら、許さない」

ミラも、酷く睨むと皆の後を追いかける。

ブラッドは一気に氷の大剣を振るうと、氷河から出てきたリアムの腕に衝突する。剣は刃から消失していくが、魔力を最大供給し再生させていく。

「リアム!お前の怒りは間違っている!さっさと目を覚ませ!」

剣から激流を発生させリアムを遠ざけようとするがディフェンスを纏っている状態のリアムがガードをすれば全く通用せず、微動だしなかった。

(これも無属性のスキルなのか?それとも、未知の力が潜んでいるのか?)

怪物が鳴くような雄叫びを上げると、リアムは銃を構える形を見せると、魔弾を乱射してきた。

「ッチ!」

ほぼ相殺するが、一弾だけ被弾する。

「くっ…!」

魔力が消えていく感覚に襲われ、ガクンと膝を付く。

リアムが飛びかかり、ブラッドを抹消しようとした。

時だった。


リアムは確かに、ブラッドを襲おうと飛びかかったが、いつの間にか真っ白な場所にいた。

そしてもう一人、先の方に佇んでいる。

『リアム。リアムはミラのことが好き?だったら、ミラが好きなリアムでいてね。自分を見失わないで。リアム』

「お袋…?お袋、待って、話したいことが沢山あるんだ!」

リアムの母―クロエが見えない誰かに微笑むと、遠ざかっていく。

「お袋!」

叫んでも、その声はもう届かなくて。

「ミラが好きな俺ってなんだよ!わっかんねぇよ…」

困り果て、俯いたとき、ふと自分の手が眼に入った。真っ黒で、無属性の魔力が形となり手を包んでいる。守る手というよりも、傷つける手に見えた。

「…この手じゃ、ミラと繋げないな」


「…ッハァ!」

今まで息を止めていたみたいに、体中に一気に酸素が入り込んでくる。喉は死ぬほど渇き、いつの間にか汗だくで、魔力消費も激しかった。

前を見ると、髪を乱し、息切れをしているブラッドが立っていた。

訳が分からないが銃を構え、臨戦態勢に入る。

「やっと戻って来たか」

自分のしたことがゆっくりと蘇って来る。

「アンタのせいで酷い目に遭いましたよ」

「精神が脆弱な証拠だ。鍛えろ」

「大尉って穏やかそうに見えてましたけど、結構エグイ人ですよね。強いし、冷酷だし。…まぁ、だから今の地位まで上り詰めたんでしょうけど」

ここでへばるわけにはいかない。相手も疲弊している。逃すわけにはいかない。ダメだとしても、それでも。

周りを見渡すと、覚悟はしていたが悲惨な現状だった。自分が通って来たであろう道には木も土も抉れ、更地に成らしたのかと思う有様だ。

「…こんなんじゃ、大切な人もいずれ巻き込みますね」

「解っているようだな」

「カッコワリィ…」

新鮮な空気をもう一度吸い込む。

「まだ時間、あるでしょう?アンタのこと一発殴らないと気が収まらないんですよ!ミラのことも、仲間のことも侮辱されてムカついているんでねぇ!」

リアムは魔弾を撃つと、戦いが再び始まった。

この歪になった地形を生かすか。リアムはボコボコになった地面に入り込み、塹壕のように利用しブラッドを狙撃する。

「隠れても無駄だぞ!」

ブラッドは剣を突き上げると、剣先から氷の柱が上空に昇り円形が現れる。氷柱が豪雨の如く猛威を振るい、リアムを襲う。相殺しようと魔弾を放つが魔力クラスが上位のためすり抜けてくる。威力は落ちるものの、殺傷能力があるのは変らない。

倒れた木の根元になんとか逃げ込む。

「ッチ!やっぱ強いな…こっちだって負けてられっかよ」

飛び出し、走り出し氷柱が降る中賭けに出る。

「どうせ荒地にしちまったもんはしゃーねぇ!もっと滅茶苦茶にしてやる!!」

もはや憂さ晴らしの気さえしてきた。魔力を溜めに溜め、一気に放出すると、黒く、雷が走る大きな竜巻が巻き起こる。

「いけぇええ!アイツの魔力を全て奪い取れ!」

「そんな無茶な戦い方ではいずれ自分も仲間も追い込むぞ!」

ブラッドは雪を吹き起こし、雪嵐で対抗する。黒い竜巻と雪嵐がぶつかり強風が吹き荒れる。

「うっせぇ!今は仲間の敵討ちだ、俺と大尉の一対一、タイマンですよ!」

「ふっ、個人的な感情ってことか。本当、青臭い…」

竜巻と雪嵐は混ざり合い、黒い霧と吹雪が荒れる世界へと変ってしまう。吹雪に混じる雪の結晶が頬や肌を傷つけていく。黒い霧は、じわじわと魔力を吸い取っていく。

(この霧、厄介だな。リアムも吹雪でダメージは食らっているだろうが、魔力を奪われるのはリアム以外の人間…。相乗効果で出来上がった技ではなく、独りでも出来るように訓練させるか)

ふと一瞬違う事を考えていたら、霧からリアムが現れ、魔弾を撃たれる。反射で相殺したので問題はないが。

「考え事で気が散っていたが、よく気づかれずに近づけたな」

「そりゃどうも!」

(いい事聞いた)

リアムはブラッドの剣から逃れると、また黒い霧の中へ消えていく。あまり魔力をバンバン使いたくないが、この吹雪が消えない限り、この霧をなるべく切らしたくなかった。魔弾を撃ち、魔弾は散布し霧へと変っていく。

ブラッドが警戒していると、強風に乗り無属性の魔弾が不規則に撃ち込まれてくる。そして霧のせいで先が全く見えない。リアムがどこにいるのかも把握が付かない。

(面倒だな。どうにかこの霧を晴らす解決法を編み出さないと)

ブラッドは剣を突き刺すと、ホワイトアウトが起きる。リアムも巻き込まれ、身動きがとれなくなる。

「なんだ?!」

ホワイトアウトは全てを呑みこみ、霧さえも無効化させた。そして急激に寒さを覚え、体が震える。ホワイトアウトが晴れると、リアムは眼を疑った。この数分で、一面が雪景色…銀世界に変っているのだ。呼吸をするたびに肺が凍てつきそうになる。

景色さえも一変させたのに、まだブラッドは平然としていた。

「本当に人間かよ…ハー挫けそう」

あの黒い霧の中から攻めればなんとかいけるんじゃないかと踏んだが甘かった。ブラッドへの氷の壁が高く、分厚く、最悪に思える。

ダメだ。このまま考えこんでいたら体の体温が奪われる。リアムは銃からマジックソードへと装着させる。銃で勝てたいのなら、剣で勝負しようと思った。どちらにせよ負け戦なのは決まっている。だけど、一回くらいはぎゃふんと言わせたいだろう。ただ一発、殴るだけのために、踏ん張っている。奮い立たせている。

はぁ、と吐いた息が白い。

「オラアアア!雪が降ったら大人は大人しく室内でぬくぬくしてろ!雪はお子様がはしゃぐ時間なんだよ!!」

「まだ元気みたいでなにより」

リアムは剣を構えブラッドに突進していく。ブラッドの剣での戦いが始まった。

剣のみでブラッドに勝てるなど到底思っていない。リアムは剣とピジョン、両方で攻撃を仕掛けていく。

「ファルコンをマジックソードに変えてよかったのか?それじゃあ他属性の技は出せないんじゃないか?」

「ご心配なく!もう元々アイツ等から供給はしてもらっていなかったしな!もしかして他属性攻撃がくると思って警戒してました?」ニヤリ、と笑う。

両者、魔法を駆使し激闘を繰り広げる。止まったら寒さが襲う。不利にならないためにも、感覚や脳、体の全てを攻撃に集中させる。どこを狙う、攻める、詰める。

ブラッドが有利なのは歴然だが、リアムはそれに食らいつく。どんな氷系の魔法で身体を射貫かれようとも、水で呼吸を奪われても、相殺し、魔弾を撃ち、マジックソードに無属性を纏い消失させていく。

(どうする、ここでブーストを使うか?アイズでは速さまでは見抜けない。あと一回しかスキルが使えねぇ。クソ!一発でいいから殴りてぇ!)

ブーストで攻めるか、ディフェンスで守りに入るか。その判断さえ鬱陶しくなる。

その苛立ちも増して、また怒りがふつふつと湧いてくる。なんだったら、泣きたいくらいだ。現実に起きていることに着いて行けず蹲り、嘔吐し、挙句意識を無くして暴走。自分も殴りたい。

悔しくて堪らない。

(さっき、殺してやりたいって思ってたけど。殺めるのも、守るのも、殴るのも全部この手なんだよな。銃とか、剣とか、武器で倒してきたけど。結局は…)

ヴェネトラ攻防戦時、ジョーイが四姉妹の一人に止めを刺したと聞いた。ただその時はレイラ達を守るためだと思っていたけど。それはきっと、レイラ達に人殺しになってほしくなかったんだ。だから、自分が殺した。

ヘスティアがエルドと兄妹のように。ネストとマノンが親子だったように。味方や敵でも、誰かと誰かが繋がっていて。手放したくなかったものを奪われて。あの四姉妹も、双子も、独りぼっちになった。

(なんで敵のことまで想ってやらなきゃなんねぇんだ…)

だけど、自分がブラッドを殺そうとしたことは、きっとブラッドを想う人達を敵に回す行為で。だけど、殺さないとミラ達を守れないと思ってしまったのも事実で。

(怒りを間違えるな。強さも間違えるな。間違えたら、アマルティアの連中みたいになる)

誰かを殺す時は、それ相当の覚悟を――。

守るべき人達を守るために。

なにか、軟弱で頼りない芽が強く丈夫になり、雨にも風にも負けない植物に成長したように。それはリアムの中で新たな力を生み出す。

「おりゃあああ!」

リアムはブラッドの隙を見つけたのか、一歩踏み出し距離を縮める。

「アイシクル!」

ブラッドは第二のスキル・アイシクルを発動させる。アイシクル…視覚情報から相手の筋肉の僅かな動きからでも次の行動を予測し一、二秒を先読みするスキルだ。いずれ、アイズを極めたマノンとゾーイも第二段階へ進むだろう。

(ディフェンス?いや、それは低い。ブースト、それとも新たなスキル?)

リアムの腕に筋肉が密集する。

(来る!)

ブラッドが見切った時には、あと一歩遅かった。

「オフェンス!!」

リアムが入れた一太刀は、とても重かった。物凄い腕力でブラッドは剣を持っていかれそうになるのを、なんとか持ちこたえた。

「はっ!やっと新たなスキルを発動させたか」

「あとうん十秒で一発でも殴ってやる!」

リアムの怒涛の反撃が開始する。

無属性の魔力とオフェンスのパワーでブラッドが形成していく巨大な氷柱を破壊していく。二人の剣が交わり、鈍い音を突き立てる。

『残り十、九』

「最後の悪あがきだぁああ!」

リアムは剣を振ると、黒い雷がブラッドに目がけ落ちていく。その隙に一気に懐に入り込む。

ブラッドは剣で氷のドームを作り、雷からは逃れたが、リアムの侵入を許してしまった。

リアムは思いっきり殴ると、ブラッドは剣で防御する。そして、パキンと剣が折れた。

「なっ…!」

「…嘘、マジ?」

折れた剣が飛び、ドサっと雪の上に落ちる。

顔を殴れなかったが、あのブラッド・ウォーカー大尉の剣をへし折ったのだ。ブラッドもどこか諦めている表情を見て、リアムはあまりの嬉しさに、両手を上げた。

「しゃー!もしかして、俺達の勝ち……」

突然、リアムは吐血し倒れた。負傷した箇所からの出血のせいもあり、意識がまた朦朧としてくる。

「はぁ。氷点下に近い雪原であんなに動いて走って呼吸をしたら肺に負担がかかるだろう。次からは気象も学ぶことだな。でも、君には参ったよ」

じゃあ何で貴方は平気なんだ、とも思ったけど。

さっきまで必死だった面が、もう飄々として胡散臭い笑みを浮かべている。

「…今度リベンジします」

ブラッドが魔法を解くと、雪や氷が全て溶けていく。そして空は朝陽が。

「喜べ、リアム君。君は初めて大尉を相手に朝まで粘った最初の新兵だ。配属希望先は必ず通るだろうな」

その後、医療班に救助され、リアムは医療施設に送られた。

こうして五十五名、新兵のゲリラ戦訓練は終了した。


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