45話・・・ティアマテッタ19・サバイバル訓練4
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侵攻しているとベルが鳴り響く。ベルがどこかに隠れているかのようでどこから鳴っているかも把握できない。
蜘蛛の巣が日差しに照らされ光るように、木からぶら下がる細い糸がキラリと光った。
リーダー格の男がその糸を手に取りまじまじと見る。
「糸?…違うな、金属で出来た糸だ」
金属の糸は枝に引っかかっており、トラップが仕掛けられている場所へとは繋がっていなかった。足に引っかかった時点ですぐに取れる、脆い仕掛けだ。
「慎重に進め!向こうは金属性もいるからな!」
「おう!」全員が声を上げる。
十人がかりで火属性を倒そうとするなんて、と思うだろう。だがそれだけ厄介なのだ。そしてブレイズの能力。それを団結して倒したとなれば連携で打ち取ったとなれば上官の見る目も変って来るだろう。
(今期生の有望株…それを俺達が潰す。それに、あの無属性って奴も気に食わん。意味の解らない魔法で、役に立たないって話なのに何故上の連中は注目するんだ!俺達の方が有能ってこと、見せつけてやる!)
銃を、剣を構え十人は進軍する。
「うあー!!」
一人が足を一歩踏み出したとき、地面からトラバサミがガシャン!と荒々しい音を立て右足に噛みつく。
「今すぐ取れ!」
「クソ!金具が膠着してビクともしねぇ!」
「ッチ!おい、お前!手伝ってやれ。残りはツーマンセルになって進むぞ!」
罠に掛かった隊員に、指示された男が外すのに手伝いにくる。
「完全に固まってやがる。銃で撃てば何とかなるか?」
「おい、ふざけるなよ。いくら模擬弾だからって当たったら怪我するんだぞ!」
「外さねぇよ」
男はバン!と撃つが焦げ目が着くだけでビクともしなかった。
「はぁ?ムカツクなぁ、この罠」
「早く外してくれよ…軍用の靴とは言え、痛いんだ」
「そう言われても…」
若干困り始め、置いて行かれる焦りもあり二人はどんどん手元がおぼつかなくなる。
ガシャガシャと手こずっていると、突如二人に災難が襲う。
被弾したのだ。
「ガハァ!」
「…ッグ!」
頭部に命中した二人は白目を向いて気絶した。
「二人命中!」
「よし!」
リアム達も進軍を許している訳ではない。二名が罠に戸惑っているのを確認し、解除を許さないマシューはリアムに攻撃命令を下したのだ。
「お見事ね。残り八人はツーマンセルに別れたけど…さっきの発砲音で動揺しているわね。今攻めれば多少連携を崩せるんじゃない?」
スコープを覗いていたゾーイからの報告。
「うん。リアム君、単独行動をお願い。僕とゾーイさんはここから遠距離攻撃、接近戦も覚悟で剣も準備しておいて」
「了解」
「OK。お前等ん所には誰も近寄らせねぇよ」
リアムはリロードをし、装填すると茂みに隠れながら移動を開始する。
「ねぇ、なんで私達五人になってるのよ…」
女が静かに怒りを言葉にする。
「うっさいな!ツーマンセルって言われたのに、誰かが勝手にはぐれたんだろ!」
「煩いってなんだよ!元はと言えば、お前のチームリーダーが連合を組もうって言ってきたんだろう?!俺とコイツはちゃんとツーマンセル取っていたのに、お前ん所の一人が消えたんだろ!」
「こっちを加害者みたいに言うなよ!組もうって言われて乗って来たのはそっちだろ。火属性相手じゃお前達のチームじゃ勝てないって思ったから組んだんだろ?!」
三対二でこっちもこっちで揉めていた。
女と、庇ってくれた男は同じチームだった。チームリーダーは良い格好しい奴の割に小心的な部分があった。小物感というか、長いものに巻かれろ、みたいな。
確かに連合を組むことは悪い話ではなかった。十人で中尉、大尉クラスを相手にすれば多少食いついていける気がしたからだ。だが、蓋を開ければ火属性のブレイズ打倒だった。こんなチームの潰し合いで無駄な体力など使いたくない。本戦は上官相手なのだぞ。
(こんなことになるなら、わがまま言ってゾーイと同じチームでいたかった…!)
女は歯を食いしばり、悔しさを堪えていると、音を隠しもせず、複数の足音が近づいて来る。
「誰だ!」
五人が武器を構える。
「しゃあ!見つけたぞ!」
ブレイズとシレノだ。
最悪だ。よりによってリーダー二人が居ないここにブレイズが遭遇してしまった。
(五人…マシュー君から入った連絡だとツーマンセルって言っていたけど。一人居ない。はぐれたか。動揺しすぎだろう)
シレノはクスリと笑うと、魔弾を地面に撃つ。
すると地面がうねり、巨大な木の根が生え、五人を分断させる。例の三人と、女がいる側の二人に。根は地面を裂き、シレノとブレイズをも隔てる。
「うおぉ?!おい、シレノ!」
揺れる地面の上でバランスを取りながらブレイズが叫ぶ。
「ごめんね、ブレイズ君。三人は僕が貰ってくね。最終試験の君達を見てから、ずっとウズウズしてたんだ」
シレノは笑いながら手を振ると、根っこが作る壁の向こうへと消えて行った。
「ハァ!?美味しいとこ取りって事ね!!しゃーねぇ!二人だけで我慢…」
ブレイズが剣を構える先には、男と女がいた。
(女子がおる!!!!)
ブレイズ、苦戦の予感。
シレノが剣を構えると、樋のラインが緑に光る。走り出し、三人を狙う。
「接近戦は俺がやる!お前等は援護しろ!」
一人の男が剣を構えシレノと衝突する。ラインの光りからして水属性。残りの二人は銃で魔弾を撃つ。二人とも土属性。
水属性の男がシレノと交戦する。他二人は左右に別れシレノを挟み、魔弾を放つ。
相殺を謀るも少しでも剣先を違う方向へ向けようものなら、水属性が容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
一つの魔弾を相殺出来たが、もう一発は被弾する。
シレノは倒れ込み、痛みで朦朧としていると、剣が振りかざされる。横に転がり逃げ、体勢を整える。
「逃げるなよ。まだ模擬刀で斬られた方がマシだろ?これじゃあ斬れねぇからな。ちょっくら本気出させてもらうわ」
水属性は模擬刀の刃が氷結していく。
(厄介だな)
上官戦に向けて魔力は残しておきたかったが、そうは言っていられないようだ。
シレノは剣で地面を抉ると、木の枝が土属性二人めがけて襲い掛かる。
「撃っても追いかけてきやがる!面倒だな!」
「おい、水なら木に有利だろ、なんとかしろよ!」
土属性達からのSOSに、水属性は応えようとするがシレノが邪魔をする。
「君からしたら僕の方が不利なんだ。二人を助けるよりも、僕をさっさと倒した方が早いんじゃない?」
「お前は黙れよ!敵のくせによぉ!」
水属性は剣に葛籠を発生させると、勢いよく発射する。葛籠はシレノを襲う。
「…ッ痛」
シレノも負けてはおらず、蔦や枝を駆使し攻撃をしかけるが、相性が悪かった。たぶん、魔力クラスも同じくらいだろう。
(二人が居ないうちに、コイツを倒したい)
地面に剣を刺し、相手の足元に蔦を大量発生させるが、それは氷の柱が突如出現し、蔦は裂かれ、霜げていく。
「お前、自分が思っているほど強くないんじゃないの?過大評価しすぎたか?」
水属性が鼻で笑う。
「そうかも」
シレノが睨むと、枝を粉砕した土属性の一人が水属性と合流してしまう。
「…最悪」
思わず、舌打ちをする。
シレノは森の中を駆け回る。魔弾が撃たれれば木を利用し避け、剣で斬られそうになれば木に足をかけ避ける。持っているピストルで魔弾を撃つが、相性が悪い水属性が率先して相殺してくる。そのラグが出来るうちに土属性が魔弾を放ち、相殺しようと剣を構えれば水属性が攻撃をしかけてくる。負のループにハマったように、劣勢に立たされていた。
随分と疲弊したシレノはボロボロの姿で膝を尽き、剣を支えにしてなんとか耐えていた。
水属性と土属性も怪我はしているが、この場面を見たら、勝ったのは水属性側に見えるだろう。
「剣ごと折っちまえば終わりだな」
水属性が近寄り、剣を振りかざす。
「幼いころから、戦いは僕にとって遊びと同じだったんだ」
「は?」
突然の一人語りに、水属性は手を止める。
「いつも口酸っぱく言われてたよ。狩る側か、狩られる側か。お前は狩る側の人間だ。動物を狩るように、戦いを楽しめって」
「どうした、急に」
「いいから早くはれよ。気色悪いぞ、コイツ」
土属性が思わずシレノに発砲する。
魔弾に当たったシレノは倒れるが、異様な雰囲気であることはすぐに解った。ダメージを受けているはずなのに、危機的状況なのに、ニヤリと笑っているのだ。
「雌鹿がトラバサミに捕まってもがいている横に子鹿がウロウロしていたんだ。それを見て凄く可哀想だったから逃がしたんだ」
今日の飯を逃がしたのか、と叱られた苦い思い出。でも、他に思いつく食料ならあった。
『今度は街と森の境にトラバサミを仕掛けようよ。そして捕まった人間を食べればいいじゃん』
それを聞いた大人達は大笑いしていた。
狩りに例えられて育てられたシレノにとって、仲間以外の人間は便所バエみたいなものだった。
目に着かなきゃ問題はないけれど、邪魔するように近くを飛べばそれは鬱陶しく、叩き殺しても何も思わない。むしろ不快。そして殺した後の達成感。
二人の上に影が出来、見上げると、歯が何本か抜け落ち、ズタボロになり気絶しているもう一人の土属性が幹に取り込まれた姿で頭上に現れる。
「うわぁ!」
「嘘だろ?!テメェ、ここまでするか?!」
「するさ。楽しいんだから」
シレノは立ち上がり剣を翳し振り落とすと、地面から大量の荊と枝が生え、まるで鳥の巣のように二人を覆う。逃げようとしても、荊と枝は鋭利で容赦なく皮膚を傷つける。
「なんだ?!」
「逃げ場が塞がれた!」
「僕は戦うのが好きなんだ。追い込まれれば追い込まれるだけ楽しくなる、胸が高鳴る。あぁ、僕が好戦的なのはリアム君達には内緒にしてね。折角できた友達なんだ」
シレノは微笑むと、真っ向から二人に襲い掛かる。
「なんだアイツ!さっきとは動きが全然違う!」
痛みでハイになっているのか、アドレナリンが出ているのか。シレノは今までとは打って変わって好戦的で、攻撃が荒くなる。
水属性がシレノの気を引き、土属性が攻撃をしようとすると、囲む枝が伸びてきて、土属性に絡まり鳥の巣の中へと引きこんでいく。
「ウワァア!止めろ、助けてくれ!」
ミンチ…までは行かないが、それに近い怪我は負うだろう。土属性は深い傷を身体全体に負うと、外へはじき出された。
「なんだよ…お前、戦い方の趣味悪いぞ」
「勝てばなんだっていいんだよ」
水属性が剣でシレノを刺そうとすると、荊が巻き付き邪魔をする。
「クソ!」
「じゃあ、終わりってことで」
シレノは笑顔のまま、剣の先に尖った枝を生やし、水属性の右腕に突き刺した。そしてそのまま、回転する荊と枝の鳥の巣へと放り込む。
「やめろ、やめろ!」
男の目に映るのは、肌が抉れ、切り刻まれて血を流す仲間の姿。
水属性の男の悲鳴が森に響く。
一方ブレイズも森の中を逃げ回っていた。
(ダー!!面倒臭ぇ!俺様やリアムよりかは下だけどそれなりのレベルの奴が二人じゃややこしいぜ!しかも一人は女ときた!)
剣で魔力を放出し木々に火を着け燃やしては倒していく。周りはどんどんと火災と化していく。
「あの野郎なんて逃げ方するんだ!」
「かなり熱くなってきた…火属性ってただレアリティが高いだけじゃないのね」
男は木属性、女は土属性だ。
ブレイズにとって相性の悪い土属性は更に悩ませる種だった。
女は魔弾を撃つと、地面から土砂が湧き、火災を覆い鎮火していく。広い範囲が燃え、倒れた木、木炭になった木、土に押しつぶされたこともあり隠れる場所は無くなった。
ブレイズも流石にここまで燃やすつもりも破壊するつもりの無かったのでそろそろ二人に向き合い出す。
「えぇいい!こうなったらヤケクソだ!後で泣いても知らないぞ!」
「それはこっちの台詞よ!」
二人は銃での攻撃スタイルだった。それならまだ魔弾と銃弾に気をつけていればいくらでも攻撃の隙を狙える。
「行くぞ!魔力の出し惜しみはするな!」
「オーケー!」
二人は魔弾に大量の魔力を込めると、ぶっ放す。大木と土砂がブレイズに向かって挟み撃ちするように襲ってくる。
「のわぁ!」
間一髪のところで避けきる。あの二属性の魔弾に挟まれたら一瞬でノックアウトだろう。
「そっちがその気なら俺もヤッてやらぁ!」
剣を大きく振り回し、火災旋風を巻き起こす。
「いけぇええええええ!!!」
「クソ、巻き込まれる!!」
「誰が負けるかぁあああ!」
女は魔弾を撃つと砂嵐が巻き起こる。そして火災旋風とぶつかると、相殺が起き爆風が吹き荒れる。
「ウワアア!なんだ、あの女!魔力どうなってんだよ!」
地面に叩きつけられながらも、飛び出ていた木の根っこに捕まることが出来たブレイズは爆風に耐えていた。
数秒後、風は荒れているが立てるまでに落ち着く。
辺りは砂埃で視覚が悪い。相手は銃だから不利はこっちだ。
ブレイズは伏せたまま作戦を練る。
(俺には木や金みたいに自在に操れるような手段は無い…イヤーズみたいに足音を拾える敏感なスキルも無い。ブーストを使っても三十秒間、勘頼りに走り回るか?それで失敗したら?終わりだろう)
ふと、兄の笑顔が浮かんだ。
誇りだった兄。帰ると言って、二度と帰ってこなかった兄。
(…俺はちゃんと帰るんだ。リアム達の所に)
フォルダーから配布されていた小型銃・ピジョンを取り出す。
ピジョンとはティアマテッタ軍のみに使用許可が下りている小型銃のことである。銃としか機能せず、通常よりか威力は落ちる。銃メインの隊員は護身用程度で使うが、剣メインの隊員には重宝されている場面もある。剣とドッキングする時間。銃に変えてからの魔力供給の時間ロス。魔法で剣からも属性技を発動できるとしても、不利になる瞬間は訪れる。
ブレイズが仕掛けるより、二人が先に魔弾を撃ってくる。避けながら、ブレイズも魔弾を撃つ。その間、相手の魔弾の方向、移動先、撃ってからの銃声などを把握しながら。
「イッタ!」
顔面に土の魔弾、腰に木の魔弾が衝突する。
鼻も歯も折れてはいないが出血は酷い。腰は無事だが背中に枝が刺さっていた。
だけど。
「見切ったぜ。ブースト!」
ブレイズは剣を構えると、スキルを発動させる。
そして一瞬で男の前に出現し、刃に炎纏わせ、斬りつける。
「あああぁ!!」
男は胴体が燃え慌てている隙に、銃を弾き飛ばす。そして峰で思い切り利き手を叩き切る。
「ガアアアアアア!!」
男の腕はゴキッと嫌な音を立てると変な方向へ折れる。
「次!」
ピジョンで魔弾を撃つが、返ってこない。相手も位置を知られると判断したのだろう。賢明な判断だ。だが、魔弾を撃ったことで、風を切り、土埃は視野が確保できるまでには晴れていた。
「そこ!」
ブレイズの残りの十数秒で決着を着けようとする。
「ッチ!ディフェンス!」
女はブレイズと正面衝突する。
軍服を着ているとはいえ、生身の身体でブースト状態のブレイズの剣を止めるのは流石厳しい入隊試験と訓練を乗り越えてきた精神があってのことだろう。
「ずっと聞きたかったの!どうしてアンタもゾーイもランドルフを気に掛けるの?!あの無属性って本当に強いの?!」
女は剣を弾き返すと銃を向けるが、目の前に既にブレイズは居なかった。
(無駄よ!私の方がスキル発動は後!数秒したらアイツのスキルは消える!)
その隙を狙い、身体強化されたディフェンスでブレイズを叩くつもりだった。
「リアムのこと言ってんなら、そりゃ強いぜ!俺がライバルって認めた男だからな!」
(あと数秒!)
もうブーストは切れる。女はグリップで殴りブレイズを怯ませようとした。
グリップがブレイズの頭部に直撃…したはずだった。
「感触がない…」
残像、なのだろうか。勢い余った体はそのままよろめく。
(どこ、どこにいるの?!)
「ここだぁああ!!」
頭上だった。残り一秒未満の間に上へ跳んだのだ。
(ヤバイ、私のスキル秒数が無くなる!)
女は魔弾を撃つが、ブレイズは直撃しても怯まず、樋で女の肩を狙い叩き切る。
「うっ…ぐは!」
耐えようと踏ん張ったが、女は地面に叩きつけられ、頭を強打し気絶した。
ブレイズは肩で呼吸をし、鼻血や口から出た血を袖で拭う。最後に受けたダメージのせいか、手の握力が無く、ワナワナと震えていた。
「どんなもんじゃい!」
ブレイズは高笑いすると、ルンルンで陣地へ急いだ。
リアムははぐれた連合チームの残り三人に忍び寄っていた。
三人は銃を構え、一心不乱に前進している。
(…?もう陣地は近づいているのに随分大胆に歩くな。狙撃されないとでも思っているのか?)
敵陣三人は合図も無ければ言葉も交わさずただひたすら進む。流石に様子が可笑しいと察知したリアムは、三人に急速に近づく。
「おりゃ!」
リアムは後ろを歩いていた一人の足を蹴飛ばし、転ばせる。
「んー!ぅん!んー!」
「…は?」
仲間が倒れているのに、二人はさっさと行ってしまう。リアムは転んだ相手の顔を見ると、変な皺が出来ていた。
恐る恐る顔に触れると、粘土のような質感の皮が貼られていた。
「な?!どういうことだ!大丈夫か!」
リアムは咄嗟に魔弾を放ち、残り二人から魔力を消滅させる。すると、電池が切れたように二人も倒れる。
顔に貼られていた粘土を取ると、別人が現れた。
「ぷはぁ!おい、ランドルフ、今すぐ自分の陣地に戻れ!」
「ちょ、どういう意味だ」
「早く!仲間が危険だぞ!マジックウォッチで説明するから、早く戻れ!」
「わ、解った!」
陣地に戻る間に、相手から聞いた情報は信じがたかった。
『俺達は突然奴等に襲われたんだ。残り二人は縛られて陣地に置き去りにされている。俺達三人はダミーにされた。顔に粘土で出来た覆面を貼られて、腕は根っこで固定された。足にも根っこが絡みついていて、魔力が尽きない限りずっと歩くようにされていたんだ。アイツ等、ランドルフが居ない隙にお前の仲間を襲撃するつもりだぞ!』
(本当なのか?信じていいのか?二チームじゃなくて、三チームが連合を組んでいたら?でもそしたら俺を陣地に返す理由はなんだ?)
リアムは疑心暗鬼の中、森を走り抜けていった。
「…可笑しい」
「どうしたの?リアムならもうすぐではぐれた三人に辿り着くけど」
ゾーイはアイズを使用し、広範囲を確認していた。
「足音が増えてる」
「え…?増えていると言われても、いないけ、ど、」
ゾーイは見渡すと、何か違和感が芽生える。
間違い探しのようで気持ち悪い。
「…!マシュー、伏せて!」
ゾーイは違和感の正体が解ると、狙撃を開始する。
マシューは伏せると、リアムから連絡が入る。
『二人とも、敵がそっちにいる!』
「もう戦ってる!」
「キャア!」
木の上に居たゾーイが転落する。左腕を撃たれたのか、袖がボロボロになり腕は赤く爛れている。
「摩擦か?土属性かも!」
マシューはゾーイを背に、銃を構える。
「腕の感覚が無いの…」
「落ち着いて、大丈夫だから」
カサカサと近づいてきたのは、人ではなく、草むらだった。それはなんとも上手に擬態した連合チームの三人で。
「はは!オメー等だけなら、簡単に始末できそうだな」
リーダー各の男が不敵に笑った。
連絡が絶え、リアムは焦燥する。
「おい、マシュー、ゾーイ!」
陣地に戻ると、リアムは眼を見開いた。
力無く倒れているゾーイの上に、マシューが守るように倒れている。マシューの背中には、痛々しい程の大きく切り裂かれた傷がある。二人から滴り、地面を染める血を見たリアムは、耳に血液が集中するのが解った。
「なんだ、無属性かよ。火属性が来たかと思ったのに」
リーダー格の男がマシューを蹴飛ばす。リアムの指がピクリと動く。
「どうせアイツもコイツ等同様、呆気なく終わるって。しかし馬鹿だよなぁ。女を庇って怪我するなんて」
「女を渡せば見逃してやるって言ったのにな!」
「コイツを木に縛り付けてゾーイとエッチしてるとこ見せつけちゃってもよかったけどな!丁度無属性が帰って来るからぁ。空気読めよ!」
ガハガハと笑う三人の声はもうリアムには届いていなかった。
(コイツ等、なんで軍隊に入ったんだろう…)
静かだった水面に誰かが石を投じたみたいに。リアムの腸が煮えくり始めた。
「アウェイクニング」
「ハ?なんか言ったか?」
三人はリアムがいた場所を見ると、誰も居なかった。
「なんだ?ブヘ…ッ!」
一人が突然吹き飛ぶと、残りの二人もバラバラにはじけ吹っ飛ぶ。
ブーストの勢いで三人を瞬殺していく。模擬刀は無属性魔法が掛かっているため、相手は勿論、魔力はほぼゼロだ。
そしてリアムは一発ずつ顔面を殴ると、骨が粉砕する音が鳴る。
「今度は腹貫通させてやる…!」
「落ち着けバカリアム!」
脳天にチョップが入る。ブレイズだ。
「眼、イカレてんぞ」
ブレイズを見上げるリアムの眼はイッていた。敵を殺す事しか考えていない。
『固有スキル・アウェイクニング終了』
スキル発動終了と共に、リアムは気絶した。
「…よかった。俺まで殺されるかと思った」
リアムが気絶したのを確認すると、ブレイズは腰を抜かし、大きな安堵の溜息を吐いた。