44話・・・ティアマテッタ18・サバイバル訓練3
作品を読みにきて頂き感謝です。
夜は以外にも安息だった。
リアム達は無事見張りも交代し、問題無く朝を迎えた。
PPPPP!
マジックウォッチが地味に煩く鳴る。大きくアラーム音を設定するとライバルにバレるのも困るし、静かすぎても起きれなきゃ意味がない。
「ふあぁ…やっぱ二時間睡眠は身体に応えるな」
リアムは大きな欠伸をし、寝袋とはいえ地面の上で寝ているので身体が痛い。ほぐすように肩を回したり腰を捻る。
「おはよう、ゾーイ、ブレイズ。見張りありがとうな」
リアムがテントから出ると、木の上にいるゾーイと、いるはずのブレイズは…居なかった。川岸近くで身を顰めているのだろうか。
「おはよう、リアム。少しは疲れ取れたかしら?」
「多少は取れたけど、やっぱキツイな」
するとマシューとシレノも起きてテントから出てくる。
「二人ともおはよう」
マシューがしょぼしょぼした表情だ。寝袋で満足な寝返りを出来ず、身動きも限定された身体をほぐそうとストレッチをしている。
「四時間も睡眠時間設けてくれたのに、二時間くらいしか寝れなかった…」
シレノが寝るのが遅くなったとはいえ、身体を休める時間は皆よりは長かったはずなのにゲッソリしている。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか。疲れで逆にハイになったのかも」
「解る、あるよな。そういう時」
「そして身体が痛い」
「お、じゃあストレッチ付き合うぜ」
そう言うと、リアムはシレノと背中を合わせ、思いっきりシレノを持ち上げた。シレノは仰け反り、足が少し浮く。
「あだだだ!痛いけど効くかも!」
シレノの背骨がポキポキと音を鳴らす。相当凝っていたのだろうか。
「ねぇ、ブレイズ君は…どこにいるの?」マシューが辺りを見回す。
「あぁ。アイツなら一時間くらい前に偵察しに行ったわよ」
「ったく、あの野郎…。明け方とは云え、見張りを一人に任せるなよ」
リアムが溜息を吐く。
「まあまあ。でも偵察に行ってくれたのはありがたいよ。この後その予定でいたし。敵の陣地やリタイア数も知りたかったし。寧ろ、早朝辺りのほうが周りも仮眠で戦力も半減しているだろうから。それに何かあってもブレイズ君ならブーストで逃げ切れるしね!」
「マシューが言うなら、ブレイズは放…、任せておくか」
リアムがブレイズは放っておくと言いかけ訂正したのを、シレノは見逃さなかった。リアムとブレイズの凸凹コンビには大層楽しませてもらっているので、笑いそうになるのを静かに堪えていた。
「うし。じゃあ朝飯の準備でもするか」
リアムは鍋をだし、濾過水を淹れ温め始める。
今この時ブレイズがいれば、火力は増し、更にはさっさと水を沸騰させることが出来るのに、タイミング本当に悪いなと腹の中で悪態を吐くリアムであった。
「ゾーイさん、悪いんだけどもう少しだけ見張り頼んでも大丈夫?ちょっと罠の様子ともう少し仕掛けようと思ってて。シレノ君はブレイズ君の代わりに川岸で見張りをお願いしてもいい?」
「了解」シレノは剣を持ち、川岸へ向かう。
するとゾーイが木から降りてくる。
不思議に思ったマシューはゾーイを見つめる。
「どうしたの?どこか調子でも悪い…?」
「いえ。あのさぁ…申し訳ないと承知でわがままを言うのだけれど。ちょっと水浴びしてきても、いいかな…」
「え?」
「こんな時にか?」
「こんな時だからよ!汗とか土とかで体中がベトベトして気持ち悪いの、不愉快なの!今落ち着いてるみたいなら、今のうちに身体洗いたいの、次いつお風呂や水浴び出来るか解らないじゃない!」
「そりゃ水浴びしたいのは解るけど…今人数が」リアムが宥めようとする。
普段はリアムとマシューにはまだ温厚な姿勢を見せるゾーイが若干苛立った声色で捲し立てる。
マシューは何となく察した。
「うん、水浴びしてきて大丈夫だよ、ゾーイさん。見張りは僕が交代するよ。罠を仕掛けるのは朝食後にすればいいし。様子見て、僕達も水浴びしてさっぱりしようよ、リアム君」
「お、おう…」
なんか解らないがマシューの笑みに圧倒され返事をしてしまった。
「流石はマシュー、話が分かるわ。じゃあ早速行ってくるわ。覗いたら承知しないから」
「誰が覗くかよ」
呆れながらリアムは胡坐に肘をつき顎を乗せる。
反して、ゾーイはトラベルポーチを取り出すと嬉しそうに滝の水音がする方へ走って行った。
ゾーイは誰もいないことを確認すると、軍服、下着を脱いでいく。
裸になり、爪先を水辺に着ける。
「やっぱ冷たいわね」
だけど冷たくて嫌、よりもその冷たい気持ち良さが勝り、ゆっくりと入り、滝壺付近まで歩いて行く。念のためピストルを岩場に置いて。
用心しながらも、汚れた身体を流していく。
ザブンと潜り、遊泳する。
故郷のメルカジュールを思い出す。ランドも良かったが、海で泳ぐのも好きだった。
そして思い出す。穴場の湖。そこに、小さなお墓があることを。
あれは誰のお墓なのか、誰が作ったのかも解らない。でも、たまに湖に遊びに行くと、花が添えられていた時もあった。
だから、寂しいお墓ではないと、幼い頃のゾーイは不思議と思った。そして知らない誰かのお墓に、摘んだお花を添えた記憶が、仄かにある。
(なんで思い出したんだろう…今もあのお墓はあるのかしら)
ぷかりと浮かぶと、朝焼けを眺める。
「…私の肌、水弾きが良い…。モルガン少佐は微妙な弾き具合だったけど、何歳なのかしら。今度セクハラしてきたら肌年齢でマウント取ってやる」
あんまり長く冷水に浸かっていると、今度は身体を冷やして体調を崩しては元も子もない。
川から出ると、タオルで髪、身体を拭く。さっさと下着を穿き、ブラを着けようとした時だった。
ガサガサ――
草陰から人の気配。ゾーイは容赦なくピストルを構え、威嚇も警告も無しに撃つ。
「ギャアア!!」
その悲鳴に聞き覚えがあった。
「ブレイズ?!貴方、こんな所で何をしているの…?まさか、女の裸体の気配を察知して…」
「アホ言え!俺は何も見てないから!つうかお前が居たことすらたった今知ったし!」
「あっそう。今私、裸だから近寄らない方がいいわよ」
「え…」
怒りから急に青ざめる。ミラの裸に興味はあっても、他の女子にまでは興味は無い…予定。それこそ、ブレイズの信条から言うとミラ以外の女性の裸を見たら嫁に貰う覚悟なので、なんとしても避けたい事態。
「ちくしょう…しゃーねぇ。このままほふく前進して陣地に帰るぜ」
「そうして頂戴」
一件落着…と思ったら、今度はバタバタと騒がしい足音が向かってくる。
「ゾーイ、大丈夫か?!」
「さっき凄い悲鳴が!」
「あ、」
リアム達だ。あの悲鳴を聞きつけ、助けに来てくれたのだが…。そこに居るのはゾーイだけ。敵らしき人物は居ない。
「えぇっと…ごめんね?」
シレノが笑顔を見せながら謝る。
「謝っても済まさないわ」
ゾーイはピストルを構え、素早く三人に射撃を開始する。
「ギャアアア!!」
「イッダァ!」
「何で助けに来たのに撃たれなきゃいけないんだよぉ!!!」
ゴム弾とは言え威力は強い。容赦ないゾーイの攻撃はしばらく続いた。
「ふー。さっぱりしたわね」
そこには恍惚の表情をしたゾーイがいた。水浴びのことなのか。それとも倒れている男子達に向けてなのか。意味を知るのは彼女のみ。
五人は陣地に戻り、温まったレトルトスープのパックをリアムが配っていた。
初の攻撃がまさか味方から食らうと誰が思っただろうか。
「ほらよ。皿に移すなり、そのまま食べるなりしてくれ。レーション食うか?食うなら俺の分開けるけど」
「食べておこうかな。昼も無事に食事が出来るか解らないし…」
マシューが頼むと、リアムはレーションの袋を開け、差し出す。
「僕は半分でいいかな。ゾーイさん、よかったら半分食べる?」
「ありがとう、いただくわ」
シレノは半分にし、ゾーイに手渡した。
「ブレイズは?」
「食う」
ヒョイっと軽やかにレーションを抜いて、さっさと齧る。
「あ、ポテト味のレーションだ」リアムがごちる。
「スープと味があってよかった」
静かでゆったりとした時間が流れる。
…。
……。
「貴方達、貸し一つだからね」
「・・・」男子四人は気にも留めず、或いは気まずくなりながらスープをすする。
「どういう貸しだよ」
「幸運にも私の裸体を見てしまったのよ。いずれお代は払ってもらうわ」
「自慢の身体つきだもんね、ハハ」
シレノが含みのある言い方をする。ゾーイの眉がピクリと動く。
一瞬攻撃対象にもしようと思ったが、私生活も知らなければ、今の所ミステリアスという言葉が似合う人物だ。
必要に攻めればこっちの身体的コンプレックスをあたかも可愛い対象として言い返しかねないとゾーイは踏んだ。
「さっきのこと、ミラさんに教えちゃおうかしら」
「グフォ!」
「うわぁ!汚ねぇ!」
口から吹きだしたリアムに、隣にいたブレイズが叫び反射的に避ける。
「汚ねぇぞ!バカリアム!バーカバーアカ!なんでこっち向いて吹くんだよ!」
「あぁあぁあ!タオル使ってブレイズ君!」
マシューがタオルを渡す。リアムは気管支に入ったのか咽ている。
「なんでミラが出てくるんだよ!」
「友達だし、ガールズトークの肴よ。まさか、覗かないでね、をフリだと思って来ちゃったんだから、それはもう格好のネタじゃない」
「被害妄想も甚だしいな!あれは事故だろ!銃声と悲鳴が聞こえたら敵に襲われたかと思って様子見に助太刀するのは当然だろ!」
「ヤダ、私があんな野太い悲鳴をあげるとでも…?」
「まぁ…悲鳴が聞こえてきたときはゾーイか?とは思ったけど。人間いざとなったらどんな叫び声上げるか解んねぇんだから仕方ないだろ。つうか、そういうならブレイズが悪いだろ。覗き魔が」
リアムがエアルを軽蔑するときと同じような視線をブレイズに向ける。
「はぁあああああああ?!俺は偵察してただけなのにですよ?!帰ってる途中にちょっと草木の枝をガサガサしたけどよ、そこをいきなり警告も確認も無く銃で撃つのはどうなんだよ!」
「じゃあゾーイが悪い」リアムの手のひら返し。
「頭キタ。ミラさんやヘスティアさん達も呼んで女子会してやる。そこでネタにしてやるんだからね」
「待って!ミラちゃんもだけど、ヘスティア王女まで呼ぶのは卑怯…いや、やめてください!もうこれ以上心象悪くしたくないんです!」
(良く思われてない事自覚してたのか…)
ならエアルを兄貴と慕い、変態行為を止めれば徐々にイメージ回復は出来るのに、と思いながらリアムは二人のやりとりを横目で見ながら食事を進める。
「もー!ケンカしないでよ。ちゃんと謝罪も込めてどこかでお返しするから」
マシューが周りを宥める。
「そうねぇ。じゃあ、プティ・ロマンのチョコレート五個セットとマカロン四個セットを期待しているわ」
「高級店の菓子を要求するな」
ちなみに、プティ・ロマンとはティアマテッタ内にある高級洋菓子店である。リアムは知らないが、ヘスティアがよく贔屓にしているに店でもある。それを知ってか知らずか、バクバク食べるのがマノンである。
「プティ・ロマンのか…要検討で。ブレイズ君、偵察の結果はどうだった?」
「あぁ。ここ周辺に三組くらい陣地作ってたぜ。でも向こうも様子見なのか、上官待ちなのかは知らねぇけど、俺達と同じように守りに入ってたな」
「周辺に三組…昨日罠張った時は二組だったけど、移動してきたのかな」
「あ、あと川岸の向こう側にもチームが拠点張ってたんだけどさ。昨日俺達が…ていうか自滅した大男達いただろ。そこのチームと、大男達がリタイアさせたチーム。ニチームが脱落を確認できた数だ」
「二チームリタイアか。残りは九組…こっち側にいる三組は僕達と同じ考えだと仮定して。二日目だし、そろそろ中尉クラスが動き始めても可笑しくない」
「じゃあ、敵も注意して中尉にも注意しろってことか。見張りが余計ピリつくな」
「ねぇ、もしかしてギャグでも言ったの?」
シレノがリアムをおちょくる。
「言ってない、偶然!たまたま!」
「ダハハ!中尉を注意だって!オヤジギャグ言ってやんの!」
ブレイズがアホみたいに笑う。
「バカにしているのか、本気でツボに入って笑っているのか解らないレベルね」
するとピロリンと全員のマジックウォッチが一斉に鳴る。
『報告。リタイア四チーム。残り七チーム』
さっきまでの賑やかさが嘘のように静かになる。
「四チームも…。二チームは昨日の奴等の仕業だとして、残りの二チームは違うチームに…それか潰し合って全滅したか。いや、もしかしたらもう上官クラスが」
報告メールを見たマシューが考え込んでしまう。
「マシュー」
リアムが声を掛けると、マシューはハッとし我に返る。
「え?あ、ごめん。話聞いてなかったや」
「話なんかしてないから安心しろ。お前、眉間にシワ寄せて考え込んでたぞ」
「マシュー君、僕達のこと守ろうとして作戦を考えてくれるのは心強いけど、僕達の事も頼ってくれていいんだからね?独りで考え込まないで」
シレノがフォローする。
「ありがとう…。食事も終わったし、罠仕掛けるついでに散歩も兼ねちゃおうかな!気分転換してくる」
「一人で大丈夫か?」
「うん。ありがとう、みんな」
マシューはそう伝えると、森の方へと歩いていった。
「大丈夫かしら、マシュー」
「今は一人で整理させてやろう。俺達は俺達で、敵でも上官でもいつ襲われても戦えるように備えよう」
食事を終えた四人も、武器を手に取り、見張りに着く。
「なぁ、さっきの報告メール悪趣味じゃね?」
ブレイズが不服気に言う。
「なんでだよ」
「だってよ、わざわざリタイアしたチームの報告なんかいらねぇだろ。弱かったり、運が無くて倒されたようなもんなのにさ。お蔭でマシューが怖い顔して考え込んじまうし」
「…それが狙いなんじゃねぇの?知らねぇけど」
「は?」
「参謀役を試す。一日で四チーム、二十人が負けたんだ。五十五人中二十人だ。模擬じゃなく、戦地で考えたら全体が負傷、或いは死亡。そこをどう切り抜けるか。隊員を守れるか。それか…」
「それか?」
「優しい奴を振り落とそうとしてんのかもな」
「…やっぱ悪趣味だわ」
それからしばらく、リアムとブレイズは無言のままだった。
マシューは罠を仕掛け、昨日仕掛けた罠には魔法を駆使し強化を図っていた。
(これはアナログだけど足に糸がひっかかれば音が鳴る。こっちは取らバサミ…向こうには確か…)
頭の中に余計な情報や光景が渦巻く。
これが本当の戦地なら。二十人もが戦えない。つまり、居ないと同等。生きていれば良し。死んでいれば殉職。
最終試験の時を思い出す。
・・・
ブレイズの焔の攻撃に巻き込まれ負傷したマシューは軽傷だったため、治療を受けた後ロビーでモニターから試験を見ていた。しかしそこにアマルティアが乱入。宣戦布告としてゾーイを射撃。模擬弾ではない、本物の銃弾が二発、ゾーイの身体を貫いた。
人形みたいに岩場から落下していく彼女を見て、死んだ。とさえ思った。
担架に乗せられ担ぎ込まれたときは奇跡かと思った。だが、ゾーイの血色は悪く、酸素マスクを当てられていた。
医療班の怒号、目まぐるしい現場。次々運ばれてくる負傷者。
何か、何か僕でも役に立ちたい…
リアム達が戦う姿をモニター越しから見る事しか出来なかったマシューは、例の双子に違和感を覚えるも、どうするべきか悩んでいた。
「ねぇ、貴方金属性よね」
「きみ…大丈夫なの?」
治療を終えたゾーイがマシューを捕まえたのだ。
「貴方のイヤーズと、私のアイズであの厄介双子を苦しめてやりたいの。助けてくれた子に恩返ししたいの」
「…僕も、彼に恩返しがしたい。彼等を助けたい」
モニターに映る、戦うリアムを見たマシューは、意を決しゾーイとコロシアムが一望できる部屋まで移動した。
・・・
「そうだ。助けたい一心であの時は…」
今も、彼等を助けたいと思う。だけどそこには守りたいという想いも膨らみ、それがマシューを支える芯になっている。
(落ち着け、マシュー。これはあくまで模擬戦。これは、これから守る部隊の最初の戦いだと思え。最初は五人を守り切るんだ。そこから、少しずつ、先輩達の知恵や経験を習得しながら多くの人達を守っていくための訓練なんだ)
頬を叩き、気合を入れ直す。
気分をリラックスさせようとし、マシューは深呼吸をし、瞼を閉じる。
木々が風で揺れる音や、川の流れる音。鳥のさえずりが心地いい。
すると、僅かに人の話し声が聞こえてくる。咄嗟に身を顰める。
「なぁ、どうする?三日目からは大尉以上の階級が襲ってくるんだぞ。今のうちに負けとくか?」
「バカ言うなよ!同じ負けでも大尉クラスに負けた方がまだ印象はいいだろ!頑張って格上と戦ったってな!」
二人は見張りか、偵察だったのか周辺を見渡すと来た道を戻っていった。
マシューは冷や汗を掻きながら、息を殺し陣地へと急いで走る。
「はぁ!?大尉クラスだぁ!?」
ブレイズの大声で耳が痛い。
「うっさいぞ!マシュー、その話本当か?」
「僕の宿舎には、三日目に大尉クラスが来るなんて言っている人はいなかったんだ。だから、彼等が話していたのがどこまで真実なのかは…」
「でも、噂だとしても、事実だとしても用心して損は無いと思うよ。実際、中尉クラスが襲撃するのは経験者の話から確定だろうし。嘘吐かれてたら終わりだけど」
シレノが言う。
「はん!マシューに嘘吐く奴とか詐欺師に値するぜ。俺はマシューを信じる。中尉だろうが大尉だろうがどんと来いや!」
ブレイズは剣を振り回し構えを見せつけてくる。
リアムはそれを鬱陶しそうに避ける。
「安心しろ、マシュー。マシューは自分の信じた言葉や情報を元に作戦を考えてくれ。眉唾な噂を疑ったりするのは俺やシレノがする」
「じゃあ、私は中立でも保とうかしら」
「みんな、ありがとう。あはは、僕、このチームが好きになりそう…」
「好きでいいじゃねぇか!」
ブレイズがマシューの肩を抱きゲラゲラ笑い始める。
「しかし三日目か…サバイバル訓練終了時刻は正午。最悪夜戦になるぞ」
「あ…じゃあさ、」
マシューが何か提案をしようとした時だ。
遠くからカランカラーンとベルの音が響いてくる。
「罠に引っかかったのか?」
リアム達に緊張が走る。
「イヤーズ」
突然のスキルにリアム達は息を止め動きも止める。
沢山の足音…五人以上は確実にいる。静かにこちらに寄ってきている。確実に攻撃を仕掛けようとしている。
――これだけいれば火属性にも勝てるだろう。
――無属性って結局強いのか解らないし。
――連合チーム作るな。なんてルールは無いからな。このまま三日目も迎えて、大尉クラスも追いつめるぞ。
「皆、急いで攻撃準備!」
静かに指令を出すと、一斉に各自配置に着く。
「ゾーイさん、人数が五人以上いるんだ。敵数把握を」
「了解。アイズ」
ゾーイは草むらから指示された方向を見据える。人数は十名。距離は約六十メートル先。
「敵数十。距離六十」
「手を組んだってことかよ」
リアムは嫌そうな顔をする。
「今の所纏まっての行動だね。たぶん今回の敵はブレイズ君だけが強いと思ってる。リアム君の無属性の力を把握しきれてない。そこを利用しよう」
「リアム君の実力、ちゃんと見るの初めてかも。マジかで見れて嬉しいな」
「シレノ…揶揄うのやめろよな。そういうお前の実力も俺からしたら未知数なんだからな」
シレノはニコニコとするだけだった。
固有スキルを使わなくても、気配が察知できる距離まで詰めてきている。そしてゾーイはスコープを覗き、木の上から狙いを定める。
リアムとマシューも伏せ、銃を構える。ブレイズとシレノも剣を構え、木の幹に隠れる。
チーム同士の潰し合いが始まる。




