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ETENITY00  作者: Aret
2章・・・代償
41/113

41話・・・ティアマテッタ15・温泉旅行3

作品を読みに来て頂き感謝です。

静かな朝だった。リアムは眼を覚ます。隣のベッドを見ると、マシューはいなかった。

エアルの部屋を覗いても、ミラ達の部屋をノックしても返事は無かった。ただ、マノンの部屋からはあの独特な笑い方の寝言が聞こえてくるので、たぶんマノンは少なくともいる。

ひとまずリアムはコーヒーを淹れ、のんびりしていると、コテージ玄関がノックされる。

「はい」

「おはよう、リアム氏!」

モルガンだ。なぜかテニスウェアを着ている。そして朝とは思えぬ発声で挨拶される。

「おはようございます、少佐。あの、お願い事があるのですが…」

「ふむ、なにかね」

「ミラ、女性達の部屋を確認してもらえませんか?その、寝間着は浴衣だったので、俺が確認すると申し訳ないというか」

「そういうことか。確かに肌蹴ていたら気まずいな。でもいいのか?チャンスだぞ?」

「あ、大丈夫です」

丁寧にお断りを入れると、モルガンは早速部屋を確認しに回る。

「ミラ女史、ゾーイ女史、おはよう!」

ミラ達の部屋はもぬけのからだった。

「宴会場の個室に置いてきてしまったからな。自力で帰れなかったか…」

次にマノンとヘスティアの部屋を開ける。

「おはよう!」

「エヒャヒャッヒ、アバビャ…ふえ、おはよう…」

寝ぼけたマノンが目を覚ます。そしてモルガンが口笛を吹いた。

「君は朝から大胆なようだな」

「?」

マノンは浴衣の帯も取れ、完全に羽織っているだけの状態になっていた。ナイトブラとパンツが無ければほぼ全裸だ。

「おはよう、今日は楽しいレクレーションだ」

「れくえーしょん?」

モルガンの声は一階にまで聞こえていた。リアムは頬杖を突き、そのレクレーションが平和なものであることを願っていた。


エアルが目を覚ますと、宴会場の個室だった。窓からは朝陽が差している。

ヘスティアの両脇にはミラとゾーイが寝ていて、マシューは姿勢がきつくないのかテーブルに突っ伏して寝ている。ブレイズは床で大の字でグースカ。

リアムもマノンもいない。モルガンとブラッドもいない。

「俺達寝落ちしたのか…折角コテージ借りたのに一晩目をここで過ごすとは」

なんか勿体ない気がする。

「おい、お前等、起きろ~」

起こそうとした時、女子三人組に目が行く。

寝相の問題もあったのだろう。胸元の襟は緩み肌と浴衣の間に隙間が見える。下えりも大胆に広がり、生足が惜しげも無く披露されている。

ゾーイは寝相が悪いのか、帯までえり下が肌蹴、下着が丸見えになっている。

「ふふ…俺じゃなきゃ危なかったぜ、お嬢さん達」

エアルはカッコつけて手を額に当てる。きっと、リアムがいたらお前が一番信用ならんと辛辣に言われていただろう。

「爽やかで静かな朝もいい。もうしばらく寝かしておくか」

起こさないように椅子に座り、女性達を眺めていると、勢いよく扉が開かれた。

「おはよう、諸君!今日のゲームはテニスだ!室内から屋外へ、さぁ身体を動かそう!」

モルガンはバッチリとテニスウェアに着替え、ポニーテールにし、ラケットを持ち豪快に登場する。

「っくりしたぁ。おはようございます、少佐」

「おはよう、エアル氏。今起きた所か?」

「そうです、ナイスタイミングですね」

モルガンの大きな声で皆が起き始める。眼を擦り、体を伸ばす。

「背中が痛いと思ったら…床で寝ていたならしかたありませんね」

「あれ、リアムは?」ミラは寝ぼけ眼。

「リアム氏とマノン女史ならコテージにいるぞ。昨夜、リアム氏に会ったが流石にこの人数を運ぶのに往復するのは骨が折れると言っていた」

「え、戻るなら起こしてよぉ…もう」

「さぁさぁ女子諸君!私が選んだウェアを用意したから早速着替えに行こう。男性諸君はレンタルの所で適当に借りてくれ。では三十分後にコートで会おう!」

それだけ告げると、モルガンはミラ達を連れてさっさと行ってしまった。

「朝から凄く元気でしたね、ハンプシャー少佐」

マシューがまだ眠そうな声で言う。

「あの人らしいなぁ。おい、ブレイズ。ブレイズ!起きろ!お前しぶといな。どこでも寝られて起きないタイプか?」

エアルが中々起きないブレイズを揺すっていると、マシューが気づく。

「あ、この格好でどうやってコテージまで戻りましょうか」

「…あ」

男性陣は、まだ裸エプロンの姿だった。


リアムに連絡し、コテージにある服を適当に持ってきてもらい、エアル達は醜態を晒すことは避けられた。だが、ブレイズは別室。結局、ブレイズはリアムのジャケットを剥ぎ取り着て部屋まで戻っていった。すれ違う宿泊客からは、昨夜から裸エプロンで行動している変態青年、として認知されていた。


テニスコートに集合した面子。

ミラとマノンはワンピースのウェア。モルガンとヘスティア、ゾーイは上下別タイプだが色を揃えている。ちなみにゾーイはタンクトップで腕と脇が見えて健康的な印象。

スカートはもちろん動きやすさ重視のため短い。アンダースコートを穿いているとはいえ、おしりの形が解るのは非常にけしからんかった。

「目の保養に良い」

「エアル氏の女好きは頭を抱えるレベルだな!もう一緒にいるだけで金を取ったらどうだ?ミラ女史方」

「そうですね!でも土地とか家の建設代出してもらってるんで、まぁビンタくらいで」

「ミラ女史は優しいな」

「俺の財布には優しくないです」

エアルがしょっぱい表情をする。

「ペア別けは公平を期すためくじ引きで…」

モルガンは空っぽになったティッシュボックスで作ったくじを差し出してくる。

「原始的ですね」

リアム達が引いてくのを、モルガンはニコニコと笑いながら眺めていた。

男女ペアで五組。トーナメント戦。固有スキルも使用可。今回は特に罰ゲームは決めていないが、負けず嫌いの集まりだ。卓球の時とは違い純粋な勝負…になる予定だ。

リアム・ゾーイペア

ブレイズ・モルガンペア

ミラ・ブラッドペア(シード枠)

ヘスティア・マシューペア

エアル・マノンペア

「では、審判は私が」ブラッドが審判咳に座る。

第一試合はヘスティア・マシューペア対モルガン・ブレイズペア

「ヘスティアさん、よろしくお願いします」

「マシュー、こちらこそよろしく」

マシューに対して当たりの強くないヘスティアを見ていたブレイズは歯ぎしりをする。

「マシューめ…穏やかキャラだからってヘスティア王女と気軽に話おって…」

「燃えているな、ブレイズ氏」

「当たり前ですよ!我が母国が腐る前の誇りあるマルペルトを担っていくはずだった王女ですよ…。無様な姿など晒せません」

「では、ヘスティア王女にかっこいいところを見せねばな」

「はい!」

信じた俺が馬鹿だったと、後にブレイズは気づく。

前方でプレイするモルガンがやたらとチラチラとアンダースコートを見せつけてくるのだ。腰を振るというか、無意味にジャンプしたり、とか。

もともと女性に対し免疫がなく、最近やっと話せるまでになってきたブレイズにとって、下着を無暗に見せられるのは非常にご法度だった。そもそも、ミラを好きになったのだって下着を見てしまって責任を取ろうとしたのが原因なのだから。

「少佐!さっきからなんなんですか?!」

「え?嬉しくないのかい?サービスシーンが」

「う、嬉しくないかと言われたら*▽※×…とにかく気が散りますよ!」

「そろそろ女性に免疫を付けないと童貞が卒業できないぞ」

「セクハラで訴えますよ!つうか、童貞だと決めないで、」

「隙あり!」

モルガンとブレイズが揉めているうちに、ヘスティアがチャンスボールを見逃すわけも無く、高くジャンプする。勢いもよく、スポブラをしているとは云え胸も上に持ちあがる。

(おっぱいが…重力に逆らっている…!)

ブレイズが思わず釘づけになっていると、スマッシュが顔面に衝突する。

「ブレイズ君!大丈夫?!」マシューが叫ぶ。

「見蕩れて自滅するとは…まだ甘いな」

「誰のせいだと」

ブレイズは鼻をさする。

「ごめんなさい。まさか顔面に当たるとは…思わなくて」

「いえ!ヘスティア王女に罪はありません!避けきれなかった自分の責任です!」

「気遣いありがとう」

ヘスティアが微笑むと、ブレイズ俄然やる気を出した。

試合が進むと、モルガンから指令が下る。

「ブレイズ氏、スキルを使うんだ!」

「了解です!ブースト!」

ブレイズはブーストを使用し、ボールを素早く切り返す。しかしそのボールの速度は凄まじく、モルガンとヘスティアのウェアを風で斬り、モルガンは胸元が晒され、ヘスティアはスカートが横に斬られ太ももの上の箇所が惜しげもなく晒された。

「いやん♡ブレイズ氏のえっち♡」

モルガンは胸を隠すフリをして強調してくる。みっちりしている重量のある胸だ。

「なっ?!こんなんなるなんて、思わず!」

「…ブレイズ、今回のことは勝負事なので見逃しましょう」

ヘスティアが冷たい眼差しでブレイズを見下す。

「ヘスティアさん、大丈夫ですか?!これ、僕のジャージですが…腰に巻いてください」

「ありがとう、マシュー」

ラッキースケベ(?)にも関わらず、戦意喪失したブレイズがモルガンの足を引っ張り、第一試合はヘスティア・マシューペアの勝利で終わった。

「俺は、一体何をしてんだ…」

ベンチに戻ったブレイズは灰の様だった。


第二試合はリアム・ゾーイ対エアル・マノン

リアムとゾーイが話し込んでいるのを見ていたミラはちょっとヤキモチを妬いていた。

(リアムとペア組みたかったなぁ)

好きという気持ちは不思議なものだ。一緒の家で住み、一緒に行動し、一緒に戦いも経験しているとに、まだ隣にいたいと欲をかく。

「エアルとかぁ。ゾーイのパンツ見えたら鼻伸ばして点数取られそうだなぁ」

「うるさいわ」

エアルがラケットでマノンの尻を軽く叩いた。

「ギャー!セクハラだ!二十半ばのくせに十七歳にセクハラした!まさかロリコン?!イヤー!!!」

「うっさいわ!誰が子供に手出すか!フィクションだけにしろ!」

「え~?でもお風呂よく覗き見しようとするじゃん。飽きもせず」

「お前には解らんだろうな…俺の悲しき性を」

「逆を言えば裸だけで満足できるんだから、ある意味えらい男だな、変態だけど」

「人が黙っていれば…」

エアルがギリギリとマノンを睨みつける。

「裸体に憑りつかれた悲しきモンスターエアル。っぷふ、アハハッハ!」

「笑ってんじゃねぇぞ!」

マノンは、エアルが本気で怒っていないのを解っていた。ようはじゃれている様なもんだ。悪口言っても、冗談言っても、エアルは受け止めてくれる。それに、今自分だけに目が向いていることが何故か嬉しかった。今だけは自分と一緒…他の誰かと話したり、注意が逸れることは無い。

試合が始まると、順調な滑り出し。今回小難しいルールは無し、大方自由にしたが、リアムが後方、ゾーイが前方を守る戦法を取っていた。

一方、エアルとマノンは、主にマノンが自由に動き回り、それをサポートするエアルという形になっていた。

「あはは!テニスってラリーが続くと楽しいね!」

マノンがスマッシュを決めると、スカートがひらりと舞い、レースの段々が付いたアンダースコートがチラリと現れる。

「やったぁ!決まったよ!見てた?」

マノンが褒めてと言わんばかりの笑顔で振り向いてくるので、エアルも思わず微笑んだ。

「見てましたよ。流石はマノン様ですよ」

「本当に思ってる?」

「思ってるってば」

二人がほのぼのとしていると所、ゾーイは点数を取られたことを悔しがっていた。昨日の卓球で負けた時点でかなり悔しかったのに。マノンは兎も角、あの変態には負けたくない。

「…リアム、私、エアルさんにだけは負けたくないの。ハンプシャー少佐の色仕掛けや無茶な罰ゲームに喜ぶような人に負けたくない」

「……凄く同意」

ゾーイは、幼少期から男友達が少ない子だった。高校は制服が可愛い女子校に進学。観光地メルカジュールというだけあり、下校時はナンパが酷かった。次第に男性への嫌悪も募っていくのは必然だった。だけど、リアムやマシュー、ブラッド中尉と出会い、本来ならちゃんと自分の領域を守ってくれる人が当たり前であって。女子高生というブランドでこっちの意思を無視して強引なことをしでかす男達が可笑しいと区切りをつけ始めていたところだったのに。モルガンの無茶ぶり、それに喜ぶエアル。ブレイズは感情が不安定なので保留。

(ミラやリアムの保護者じゃなかったら、絶対に近寄らない人種よ)

ここに来て、ゾーイの鬱憤が爆発。エアルに八つ当たりするようにどんどん点数を取っていき、結果はリアム・ゾーイペアの圧勝で試合は終わった。

「やったな、ゾーイ」

「援護、ありがとう…リアム」

ゾーイは思わず、ハイタッチしようとして、ちょっと浮かれ過ぎたと思い手を下げた。

「次も勝とうぜ」

リアムが手を出してきたので、ゾーイはぎこちなくハイタッチした。

その様子を眺めていたミラは、少し面白くない。頬を膨らませ、妬いているのがもろ解りだった。

「ふふ、ミラ女史は本当にリアム氏のことが好きなんだな」

「え!?それは、えー…」

ここで否定したら、なんか悔しかった。

「…好きです。だから今、ちょっと面白くなくて。まだリアムには言わないでくださいよ?」

「勿論だ。何、ミラ女史がこのリクリエーションで一位を取ったら、ご褒美でも強請ればいいじゃないか」

「ご褒美、ですか」


第三試合はミラ・ブラッドペア対ヘスティア・マシューペア

モルガンの邪魔も無く、正々堂々とした試合展開を見せた。マシューのイヤーズでどっちに打球が来るかを予測、しかしブラッドのアイズで返しを見抜かれる。ミラが以外にも三人に引けを取らず健闘を見せ、この試合はミラ・ブラッドペアの勝利となった。

第四試合はリアム・ゾーイペア対モルガン・ブレイズペア

リアムとブレイズは互いの決戦に気合を入れるが、ゾーイの積もった苛立ちは原因のモルガンに向き、殆ど女の熾烈な戦いとなった。そこを上手くサポート出来るか否かで、勝敗は大きく変わった。リアムはゾーイが零した打球を拾い、ブレイズはモルガンのパンチラ被害にあいキレ散らかした。

「アナタ、何がしたいんですか?!」

「君に女性へのあがり症を克服してほしくて」

「余計なお世話です!!」

結果は当たり前だがリアム・ゾーイペアの勝利。

「では、決勝戦の前に最下位決定戦でもするか」

モルガンがそのままコートに立つとエアルが疑問を投げかける。

「あの、我々は一試合しかしていないのですが」

「…あ、すまない。トーナメント戦といいながらガバガバだったな。ここはゾーイ女史のヘイト先でもある我々変態最下位対決といこうじゃないか」

「ご自分が変態という自覚はあったのですね」


最下位対決エアル・マノンペア対モルガン・ブレイズペア

もう飽きたのか、モルガンは普通に試合を進めていた。ブレイズも翻弄されることがなくなったので、実力を発揮する。

エアルも意外とテニスが出来るようで、ラリーは続く。

「これは見ていて気持ちが良いな」ブラッドが褒める。

「エアル兄も普段からあんな感じだったらいいのに」リアムがごちる。

マノンも楽しんでおり、穏やかに試合は進む。

「ここだ!マノンスマッシュ!!」

マノンがスマッシュを決めるが、ブレイズがボールを取るが、上手く返せず宙を舞った。

「あー!ごめんなさいぃ!」

「チャンスボール到来!」

マノンが後ろに思い切り下がった時だった。

エアルも集中しすぎて、マノンに気づかなかった。そしてマノンが振り上げたラケットがエアルの頭にぶつかった。

「イタッ」

そのままエアルはよろけ、マノンも勢いよくぶつかったので共倒れしていく。

ボールは誰にも受け止められず、着地するとポンポンと跳ね、転がっていった。

エアルは顔面を地面にぶつけて、鼻と口が痛かった。

「悪い、マノン…大丈夫か?」

下敷きにしてしまったマノンに謝罪するが、マノンの反応は無い。

「マノン…?」

頭でも打ったか?打ち所が悪い?熱中症?脱水症状?色んな悪いことが頭を過る。

「わ、」

「マノン?」

「私も、口が痛い」

マノンは顔を真っ赤にし、耳まで染まっている。手の甲で口を押え、視線を逸らしエアルを見ていなかった。

(…は?)

一瞬、エアルは戸惑う。自分はコートに顔を打ち付けたはずだ。なのに仰向けのマノンも口を痛がっている。自分も口は痛い。

エアルは事故を理解すると熱くなり変な汗がぶわっと流れる。

自身の芯というか、心臓の裏というか、奥からブワリと弾ける感覚が起きるがすぐに振り払う。

「え?!あ、すまん!大丈夫か?は、歯が折れてないか医務室でも行くか!少佐、すみません!俺達棄権します!」

「そうか!怪我は見過ごせないからな、ちゃんと診てもらうと良い!」

エアルはもう一度謝ると、マノンに手を伸ばす。

「立てるか?」

「うん」

声も、差し出してきた手も震えている。

マノンは俯き、エアルの手を握らず、裾を掴み、そのまま二人は旅館内にある医務室へと向かっていった。

「あれは…事故チュー」

観戦していたヘスティアがボソリという。視線はどこか鋭く睨んでいるようにも見える。

(…不貞腐れてる?)

リアムはそう受け取れたが、ヘスティアの普段の行動を見るとエアルに対して怒る理由はあっても、妬く理由は無い…はず。解らないことに首はツッコまない。

「ついに故意から事故までもを味方に付けたか」

リアムが呆れながらスポドリを飲む。

「マノン大丈夫かなぁ。ショック受けてるよね…」

心配するミラに、ヘスティアがフォローをいれる。

「それは本人のみぞ知るですよ。そっとしておいてあげましょう」


決勝戦はリアム・ゾーイペア対ミラ・ブラッドペア

「ウォーカー中尉か。今まで以上に気合入れないとあっという間に負けるかもな」

「油断大敵ね」

そんな二人を横目に、ミラはラケットのネットをにぎにぎしていた。

「ミラさん、勝ちましょうね」

「はい!絶対勝ちましょう!」

ここでミラが疑問を投げかける。

「ブラッドさんはよくモルガンさんと一緒にいますけど、お付き合いされているんですか?」

ブラッドは思わず咽た。

「グフッ、ゴホッ。恋人とかではいないよ。ただの上司と部下だよ。少佐はあんな感じだろう、対等というか、スルースキルも兼ねて付き合いきれる人材が私くらいしかいないんだ。いつの間にか組まされるようになっていてね」

「なるほどです」

お喋りもそこそこに、ゲームが始まる。

ブラッドの打球は重かった。男のリアムでも返しても軌道がぶれるほどに。

「ゾーイ、中尉の打球は俺がなるべく受ける!」

「わかった!」

たった数回のゲームでリアムとゾーイの連携は取れ、お互いがカバーし合うまでに成長していた。

ミラも必死にブラッドに着いて行こうと足掻く。

ブラッドがスマッシュを打つ体勢になる。

リアム前に出て、ゾーイがカバーできるよう後ろに着く…が、ブラッドはボールを軽く打つと二人の間に弧を描き落ちて行く。

「俺が!」

「私が取る!」

同時に叫び、動きだしていたのでぶつかってしまった。ボールは誰にも取られることなく落ちる。

「っと、わりぃ。大丈夫か?」

リアムが咄嗟にゾーイの腕を掴み転倒を食い止める。

「ごめんなさい、ボールに夢中で前を見ていなかったわ」

「俺も上しか見てなかったからな。気をつけるよ」

そんな二人を見ていたミラは、面白くなかった。俯くと、膨れっ面になる。

(私だって、私だって…!)

ゾーイは友達だ。なのにこんなヤキモチを妬く自分が醜くて嫌いになりそうだった。

「絶対勝つ!」

ミラの覇気に、周りが驚いた。


結果を言えば、ミラのハチャメチャな打球のせいでコースが読めず、ブラッドの狂いの無い打球にも苦戦し、ミラ・ブラッドペアの優勝。二位がリアム・ゾーイペアで終わった。ちなみに最下位はエアル・マノンペア。

最後に、チェックアウトはしたが、温泉は有料だが入れると言う事で汗を流すのに入浴してから帰ることになった。

リアムは皆より先に上がり、旅館の外部にある庭園を散歩していた。

「あれ、リアムだ」

ミラが木に咲く花を眺めていたが、リアムに気づき振り向いた。

「早上がりだったんだな」

「うん。モルガンさんにセクハラされる前に逃げてきたの」

冗談っぽくミラが笑う。

「じゃあ一緒に歩かないか?」

「うん、是非」

二人は久しぶりと言っていいほど、落ち着いてゆったりした時間を得た気がした。いつも周りが五月蠅くて、賑やかで、静かになる時間なんて無かった。

木陰になっている場所にベンチがあったので、座り風で涼む。

「ミラ、今日のテニス凄く頑張ってたな」

「え、うん!負けたくないもんね!」

「ミラの根性、俺も見習わないとな」

微笑むリアムの横顔を、ミラは見蕩れていた。そして、勇気をもって伝えてみる。

「あのさ、私優勝したじゃん…その、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「ん?なんだ」

ドクンドクンと鼓動が大きくなっていく。頬も熱い。震える唇で、ミラは言葉を紡ぐ。

「リアムは、私の事どう想ってる?私は…リアムのこと…」

「あー…それは、その…」

ミラがチラリとリアムを盗み見ると、前髪で表情が隠れるが、耳が赤いのは隠れ見えた。

また、リアムも決める時だと腹を括っていた。これ以上幼馴染で、曖昧な関係でいるのも潮時だと。

「俺も、ミラのこと、好き…です」

「フハッ、なんで敬語なの?」

思わず小さく笑う。

「笑うなよ。…初めてだから、告白するの」

「私も、初めて…」

「おう…」

「これって、両想いで、恋人ってことで、いいんだよね…?」

「そう、だな…まぁ、改めて、よろしくお願いします?」

「こちらこそ、です」

二人の間にぎこちない空気が流れる。溺れたみたいに息が出来なくて、苦しい。でもその苦しさは心地よくて。心臓が痛くてしょうがない。

「ミラが、よければ。ヴェネトラでのリベンジがしたいのですが…」

「ヴェネトラ…?」

ふと蘇る。夜景を見に行った日だ。良い雰囲気だったのに、レイラ達が着いてきていておじゃんになった。

「じゃあ、お願いします」

リアムとミラが見つめ合って、どうキスすればいいかも解らない同士がおずおずと唇を重ねた。たった数秒の出来事だけれど、心臓が破裂しそうなほど早く動く。

「…も、戻るか。旅館に」

「う、うん、そうしようか。でも、今戻ったら、皆に疑われるかも」

「確かに。あいつ等目ざといからな」

二人は見合うと、緊張がほどけて吹きだした。

こうしてドタバタ劇のお祝い宿泊は幕を閉じた。


リアム達がマイクロバスに乗り、帰宅する。みんな疲れて静かだった。中には寝ている奴もいた。

「クソー!あいつ等だけバスかよ!待てやぁ!」

ブレイズは一人で宿泊だったので、バイクで来ていた。思わず一緒にバスに乗り込もうとしたが、リアムに指摘され思い出す。

「チクショー!ゾーイとマシューも覚えてろ!入隊したらコテンパにしてやらぁ!」

それから後日。

リアム、ブレイズ、マシュー、ゾーイは無事に入隊式を迎え、正式に軍人となった。

そしてミラもアルバイトだが医療班へ勤め出す。

これから五人は、厳しい世界に足を踏み入れて行く。


自宅に帰って来ると、ほっとするのは何故だろうか。

「ただいまぁ!」マノンが真っ先に玄関をくぐる。

「モルガンさん達もお茶くらい飲んでいけばよかったのにね」

「ミラ、紅茶いれますから、合いそうなお菓子選んでください」

「ありがとう、ヘスティアさん」

女性陣が動く中、リアムは荷物を整理していた。

「じゃあ、衣類は出しといてくれ。あ、普通洗いとデリケート洗いは別けといてくれ。特にマノンな、ごっちゃにするなよ。後で洗濯機回して干しとくよ」

「ありがとう。洗濯物なら明日でもいいのに」

「まだ陽もあるし、洗っちまおうぜ」

「うん」

リアムとミラの間に、いつもと違う空気が流れている。

ミラがリアムにどのお菓子がいいか尋ねている。ヘスティアは感づいた。ミラの視線で解る。リアムと進展があったことを。

「あの二人、恋人になったのかしら」

「へ?!こ、コイビト!?」

マノンが激しく動揺する。それを見たヘスティアはしばし無言になった。

「どうしたの、急に意識でもしたの?」

「意識したって、誰の事…?」

「誰なんて言ってないわよ。私は恋とか意識しだしたの?って訊いたのよ」

「~っ!ティア姉意地悪じゃない?!」

マノンがヘスティアにポコポコと叩くとダル絡みする。ヘスティアはそれを楽しそうに笑っていた。

一方、エアルはトイレに引きこもっていた。

「俺は…俺は本当にロリコンに堕ちてしまったのかもしれない…?アンダー二十には興味ないと思っていたのに…」

頭を抱え、唸っていた。


次回から新話スタートです。

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