39話・・・ティアマテッタ13・温泉旅行
作品を読みに来て頂き感謝です。
無事リアムの軍隊への入隊も決まり、ミラも医療班アルバイトへの面接も無事合格。
準備に忙しなく日々が続いたある日のことだった。
「なぁ、リアムもミラも入隊したら一緒にいる時間少なくなるだろ?ブラッド中尉から聞いたんだが、軍施設に温泉旅館があるらしいんだ。で、折角だからそこに小旅行しに行かないか?」
エアルの突然の提案に、皆はポカンとする。
ティアマテッタ軍管理の温泉施設。普段は軍隊の慰安旅行や訓練期間の合宿所に利用されるが、それ以外の時期は一般市民にも開放されている。
今は一般向けには解放されていないが、ブラッド中尉が今回のアマルティア軍襲撃に応戦してくれた人々に、感謝の意も込められご招待されたのであった。
「温泉かぁ…言われてみれば、ゼーロから旅立ってから落ち着いて旅行した記憶無いもんな…」
「じゃあ、ゆっくり出来る今のうちに皆で旅行しよっか!」
「やったぁ!温泉!コーヒー牛乳、フルーツ牛乳!」
ミラとマノンがノリノリになる。
リアムはちょっと口ごもりながらエアルに話しかける。
「なぁ…誘いたい奴等がいるんだけど、いいかな…」
「お、リアムにしちゃ珍しいんじゃねぇか?誘いたい誰かがいるって。いいぜ、いいぜ。リアムの友達だ!」
エアルはこの時、ブレイズが浮かんでいた。あそこまで共闘し、助け合った仲だ。戦友として、これから先、相棒として歩いて行く二人の姿を想像する。
「マシューとゾーイって二人なんだけど…ミラに協力して助けてくれたんだよ。それに入試試験の時にも世話になったし。改めてお礼がしたくって」
「あぁ!そうか、その二人も連れて行こう!」
「私も賛成!ちゃんとお礼言いたいし、折角出会えたんだもん、友達になれたら嬉しいなぁ」
リアムとミラを見て、エアルは思った。
(ブレイズ…哀れ。コイツ等、お前と親睦深める気が無いかもしれん)
まぁブレイズみたいな喧しい奴に、リアムがすぐ親しめるとは思っていなかった。ゼーロにいた頃も、ミラとエアル、エマくらいとしか親しい仲はいなかった。上手ブレイズ合いはしていたが、上っ面で、義務だから会話するといった感じだった。
今だから思うが、マノンの出来事が深層にこびりついていたのか、はたまた、ただの性格なのか…。
確かにブレイズは煩いしエアルも得意な相手ではない。だが、だからこそリアムに風穴を開ける人物かもしれないと心待ちにはしている。
「出発予定は明後日だ。ちゃんとマシューとゾーイに日程確認しとけよ?お前等は荷物の準備だ!」
「イエーイ!」
マノンは拳を突き上げると、真っ先に部屋へ駆けあがって行った。
「まったく、気が早いんだから」
ヘスティアは元気そうなマノンを見て、溜息を吐きつつも嬉しそうに微笑んだ。
旅行当日。
「えー?!ファミリーカーレンタルし忘れたの?!」
朝からミラの大声が響く。
「スマン!ついうっかり…」
エアルが渾身の謝罪をする。うっかりとは言っているが、リアム達が寝静まった夜中に酒を飲んでレンタルし忘れたのをヘスティアは知っている。
ヘスティアの冷たい眼差しがエアルを突き刺す。また見ていた彼女も、エアルが叱られればいいと思い、カバーしなかったのも事実。
「しゃーない。浮くけどスポーツカーで行こう。地図で確認したけど、バス停言って最寄りまで行っても歩くだろ」
「浮くとか言うなよ…」
「やっぱりファミリーカー買おうよ」
ミラがいつも通り愚痴を言うと、マノンも便乗する。
「そうだそうだ!土地買うお金があるなら大きい車も買え!」
「お金が沸き上がると思うなよ!こう見えても考えながら金使ってんじゃい!」
エアルとマノンがギャイギャイ騒いでいると、マシューとゾーイが到着する。
「リアム君、今日はお招きいただき、ありがとうございます。これ、お菓子買ってきたから、道中か温泉に着いたら皆で食べよう」
「今日は誘ってくれてありがとう。私もささやかだけど、メルカジュールの名物菓子を持ってきたので、後程食べていただければ」
「マシュー、ゾーイ、気使わせて悪いな、ありがとう。車のことなんだが、」
リアムが申し訳なさそうに説明しようとしたとき、マイクロバスがランドルフ家前に停車した。
全員が状況を飲み込めていないなか、エアルに悪寒が走った。
「まさか」
マイクロバスのドアが開かれ、カジュアルな服装のモルガンが現れた。
エアルは小声で「やっぱり」と呟く。
「皆!車のことでお困りはないかな?!」
リアム、マシュー、ゾーイは背筋を伸ばし正す。
「はい!今から軍管理の温泉旅館へ出発前です。全員で乗れる車をレンタル出来なかったので別れて行こうとしていたところです」
リアムがテキパキと説明する。
「そうか!実は旅館からリアム氏達が宿泊すると聞いてな。我々も療養旅行として、新しい部下達と親睦を深めたいと思い馳せ参じたんだ。良かったら乗っていかないか?」
「い、いいんですか…?お言葉に甘えても」
「あぁ!間違えてマイクロバスで来てしまったからな!旅は多い方が楽しい!是非乗車してくれると嬉しい!」
リアムがミラ達を見ると、ミラはラッキーと言わんばかりにノリノリだった。
「モルガンさん、ありがとうございます!お言葉に甘えさせていただきます」
「流石リアムの上司!」マノンはさっさと荷物を持ち乗る準備をする。
ミラにとってモルガンはバイト先の社長。マノンにとっては従兄の上司。リアム達とは違いフレンドリーに接する態度がすごい。
モルガンもそれを嫌とせず、ニコニコと笑いながら受け入れている。
「ハンプシャー少佐、ありがとうございます。では、道中よろしくお願いします」
リアム達が乗り込むと、運転手が眼に入る。流石少佐クラスは違うと思ったが、運転手はまさかのブラッドだった。
「ウォーカー中尉?!」
「やぁ、リアム君。今日はよろしく」にこりと笑う。
「何故中尉が運転を…自分が変わります」
リアムが申し出ると、モルガンが割って入る。
「運転はウォーカー中尉に任せればいいさ!君達は気にせず、話に花を咲かせてくれ」
なんだか、調子が狂う人達である。
バスに揺られながら、リアム達は故郷について花を咲かせていた。
マシューはヴェネトラ出身。ゾーイはメルカジュール。
二人とも単身でティアマテッタに来ていた。入隊も決まり、先日引っ越しが終わったらしい。
「だからここに来てすぐ友達が出来て嬉しいよ。姉達も妹も煩くて…」
「え、マシュー以外姉妹なのか?」
「うん。小さい頃、姉さん達ぶったら父さんにマジのゲンコツされて…暴力はいけないって教わったけど、もうそれ以来、姉さんと妹には口喧嘩でも負けるんだ」
「マシューは優しいんだな。でもなんで軍隊に?」
「ありきたりだよ。家族を守りたいなって。この前、ヴェネトラに黄昏の正義が攻め込んだとき、ニュースで見たけど…それが決め手だった」
「…そうか」
リアムはマシューが持ってきた菓子を口に運ぶ。
そしてぼんやりと思う。
レイラ達は元気だろうか。今、どこを旅しているのか。
モルガンの提案で、午前中は途中にある牧場で観光をした。
温泉旅館周辺は辺鄙な場所らしく、遊ぶ場所もないらしい。早く着いても暇ということで、立ち寄ることにした。
牛の搾りたての牛乳でのソフトクリーム。ミツバチから取った蜂蜜。乗馬体験。絨毯のように広がる花。普段はビル街やら住宅街で暮らしているので、なんの邪魔のない広い空や、平地はどこか良い気分にさせてくれた。
お昼はシチューを食べ、獲れたての野菜と新鮮な牛乳の美味で腹を満たし、午後に旅館に到着する。
温泉旅館は古びた建物をリノベーションされて、現代とモダンが混ざった外観、内観だった。
ロビーは照明がオレンジで統一されており、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
リアムが受付を済ませると、入れ替わりでもう一人の来客が訪れる。
「あ」
「お!リアム!お前がいるってことはミラちゃんもいるな!」
ブレイズだった。ブレイズは辺りを忙しなくキョロキョロと捜すと、ミラを発見し、眼を輝かせるが、人数に違和感を抱く。
「…は?なんでマシューとゾーイもいるんだよ」
「なんで、って。誘ったから」
「はぁ?!なら俺も誘えよ!これでも助けてやった仲だろ!感謝せい!」
「え…一緒に来たかったのか?」ちょっと引くリアム。
「違うけど!お前と一緒に来たかったわけじゃないけど!なんだろうこの気持ち!」
「どっちだよ…情緒不安定だな」
ブレイズはリアムを引っ張ると、耳打ちする。
「おまけになんでハンプシャー少佐とウォーカー中尉までご一緒なんだよ!」
「あー、予約表で俺達が来るの知ったみたいで、一緒にマイクロバスで行かないかって」
「はぁ?少佐クラスがそこまで目をかけるか?普通。お前なんか賄賂でも渡したのか」
「渡してねぇよ…。あ、でもミラが医療班に受かったから、ミラ繋がりで知ったのかも」
「さっすがミラちゃん…!はん!ミラちゃんに感謝崇め祭っとけ!あとで合流な!」
ブレイズはさっさとチェックインすると、旅館内の部屋へ走って行った。
「…合流しなきゃいけないのか」
ちょっと面倒臭いなぁと思ったのは内緒である。
部屋は八人用のコテージを予約した。二部屋ごとに寝室が別れており、多少騒いでも離れているので迷惑はかけないだろうと思ってのことだ。
コテージに案内され、一息つく。
「深緑に囲まれていて、いい場所ね」
ゾーイが窓を開け、風に当たる。
「本当に自然しかない」
マノンがガッカリしながらメルカジュール名物菓子やテーブルに置いてあった菓子を貪る。
「あくまでも軍施設ですからね」ヘスティアが紅茶を淹れる。
「ねぇ、結構日差しが強くて汗掻いちゃった。早いけど、温泉入らない?!」
ミラの提案に女性陣が賑やかになる。
「確かに。さっぱりしたいかも」
「ではそうしましょう。エアル達はどうします?」
ヘスティアの問いかけに、リアムが答えようとすると、エアルがすかさず口を出した。
「あぁ、俺達も入ろうかな。一緒に行くよ」
「じゃあ、準備しますから少し待っていてください」
女性陣が寝室に向かう。
「え、まだ入らなくても」
「入浴時間ずらしちまったら夕飯やそれ以降に支障が出るかもだろ?こういう時は行動を共にするのが一番だ」
エアルがウィンクをする。
「確かに、皆で一緒に行動したほうが都合はいいよね。ましてや暇つぶしできる場所もないみたいだし…待たせるのは申し訳ないかも」
マシューも賛同する。
「そうだな。また夜に入り直してもいいしな」
この時、リアムとマシューはまだ知らない。エアルの本当の目的を。
温泉は早い時間もあってか貸し切り状態だった。石畳の床、そして温泉特有のにおいが香る。
「浴場も綺麗だね」
「ミラ。今日は誘ってくれて本当にありがとう。ちゃんと貴女にお礼が言いたかったの」
「ど、どうしたの、ゾーイ。急に改まって」
シャワーを浴びていると、隣にゾーイが座り話しかけてきた。
「私、あの時本当に死ぬと思ったの。軍隊に入る以上覚悟はしてきたつもりだけど、入隊前に、しかも私が戦争の理由になって死ぬのは嫌だった。…死ぬのが怖くなったわ。だから、ミラが助けてくれた命を大事にしながら戦うって決め直したの。いずれ死ぬときは、誰かの大切な人を守って死にたい。自分の無茶で死ぬより、誰かのために散るわ」
ミラの脳裏にネストが過る。
「…私、医療班で働くことが決まったの」
「そうなの?おめでとう」
「だから、ゾーイがまた死にそうになったら、また助ける。死なせたりなんかしない」
真っ直ぐ見つめてくるミラに、ゾーイは瞬きを一回した。
「ありがとう。ミラに心配をかけないように、自分のことも守るわ」
「うん」
新たな友情が築かれた時、それを邪魔するように影が忍び寄る。
「ワァー!」
不意にミラの胸を優しく鷲掴む魔の手。
下乳を撫で、両手で乳房を挟んでは揉んでくる。
「な、な?ななな??」わなわな震えるミラ。
「ふむ。ミラ女史の胸は柔らかいな。大きさも実に良い!もうリアム氏には揉まれたのか?」
モルガンだ。ゾーイは今にも白目を向きそうなほど引いている。
「リ…?!そんな関係じゃございませんよ?!?!」
「なんだ、まだなのか」
期待ハズレと言わんばかりに同情する眼差しのモルガンに、ミラも反論する。
「わ、わわ私達にもステップというものがありましてですね…」
「次はゾーイ女史だ!」
「ひゃん?!」
「ゾーイィ!!」
新たな被害者が生まれた。ゾーイは前のめりになり逃げようとするが、モルガンは許さず、背中にピタリとくっつく。ゾーイは拒むように脇をくっつけ侵入を拒むが、モルガンの挟まれた手は逆に逃げ場を無くし、容赦なくゾーイの胸を弄ぶ。ピンと主張したさくらんぼ色の可愛い場所を優しく捏ねる。
ゾーイの顔は真っ赤で、耳まで赤くなっていた。唇を噛みしめ、モルガンを睨む。
「セクハラですよ…」
内股になっているゾーイを見て、モルガンの表情は狼を覗かせる。
「ほほぅ…。感度がいいようだな…どうだ、今夜私の部屋へ来ないか?」
「訴えますよ」
「アハハ!それは困るな!」
大笑いすると、モルガンは次の獲物の所へ去って行く。
「だ、大丈夫?」
「なんなのあの人…、配属先希望、絶対に少佐の名前書かないんだから!」
「あはは…だよね」
露天風呂の方から、犠牲者の悲鳴が聞こえた。
モルガンはマノンの小さな胸を揉んでは何かを考えていた。
「ふむ、君はまだ発育途中のようだな。腕の筋トレをするといい!それと、こう胸をマッサージして…あとは好きな男子にでも揉まれてくれ!」
マノンの腹を上に上にと肉を胸に寄せ、下乳のラインをナデナデとマッサージする。
「わー!やめろぉ!!乙女の純情をもてあそぶなぁ!しかも人の胸散々触っておいて最後雑だなぁ!」
マノンはヒーヒー言いながら喚いている。そして肘鉄を食らわす前にモルガンは避ける。
「本来なら王女に無礼を働くのはご法度でしょう。ですが、ここに居る以上平等に接してまいろうと思います」
「そんな平等いりません!」
真正面からヘスティアの胸を揉む。大きく、みっちりとしたたゆたゆなお胸だった。鷲掴んでも指からはみ出る乳。
「これは素晴らしい!流石はヘスティア王女!誰か殿方に揉まれたりは、」
「~っ!いい加減になさい!」
最後はヘスティアのビンタでモルガンがノックアウトとなり、無事終幕した。まぁ被害は皆が被ったが。
少し時間を戻す。女性陣が浴場へ行くのをわざわざ見送るエアルに、リアムは催促する。
「いつまで見送ってんだよ。俺達も早く行こうぜ」
「リアム、お前は見たくないのか?女性達の入浴する場面を…」
「は?またいつもの病気か?」
「病気とか言うなよ!マシュー!君も男子なら見たいと思わないか?!」
「えぇっと…アハ」
マシューが精一杯の愛想笑いをする。
「そうだ、コイツ姉も妹もいるんだった。裸を嫌というほど見てきたな」
「そんな推理働かせるなよ」
「俺は見たいぞ、リアムの自称兄!」
さらに嵐を呼ぶ男、ブレイズが登場する。
「自称じゃないし。それに俺はエアルだ」
「おまっ、女は苦手じゃなかったのかよ!」
「苦手だが、ミラちゃんのおっぱいを見たいと思うのは自然だろう」
「不自然だろう」
リアムが頭を抱えていると、笑いながらブラッドが歩いてきた。
「ハッハッハ!男子諸君は健全なようだな。度胸試しも兼ねて覗いてきたらどうだ?」
「ウォーカー中尉、何を言って、」
「流石はウォーカー中尉!男心にご理解を示してくださる!ほら、行くぞリアム!ミラの裸を見られたくなかったら俺達の視線を誘導するんだな」
「リアムより先にミラちゃんの裸みちゃうもんなぁ!」
アホ二人が先陣切って女性浴場に繋がる廊下へ走っていく。
(本当なら覗きなんて犯罪だ…いくら身内感覚でも犯罪だ…。だけどミラの裸を誰かに見られるのも凄く嫌だ…)
リアムは髪を掻きむしると、声を荒げた。
「だぁああ!俺は止めに行くんだ!クソ!」
「え、リアム君?!」
追いかけるリアムの背中に、マシューが伸ばした手が重なる。
「あぁ…行っちゃった」
「君は行かないのかな?」
「え…」
ここでマシューは自分とブラッドだけであることに気が付く。
本来なら行きたくない。女性に怒られるのは御免だ。だが、ブラッドと二人きりというのも気まずい。
「えぇっと、ラウンジで待っています…」
「では私もご一緒していいかな?」
「あぁ、えーっと…僕も覗いてきますぅ」
マシューは笑顔を必死に作ると、逃げるようにリアムを追いかけた。
何より、考えが読めないし、わざわざ覗き見を勧める言動にも理解できなかった。兎に角、今マシューはブラッドと一緒にいたくなかった。
「お、マシューも来たのか。結局は見たいんだなぁムッツリめ」
ブレイズがニタニタしながらマシューを肘で突く。
「あはは…」
「さぁお前等、そろそろ息を顰め忍び寄る時間だ」
エアルがいつもに増して凛々しく険しい表情を見せる。そんな逞しさがあるならもっと戦いのときに生かしてほしい。
四人は忍び足で進もうとした時だ。
『トラップ発動シマス』
「は?!」
AI監視カメラに引っかかり、性別から弾き飛ばされる。すると梁や木目の床から蔦が素早く生えて四人を拘束する。
「ギャー!なんだこれ!」
「落ち着け!たぶんハンプシャー少佐のトラップだ。木属性の魔力を感じる。これは忍び込むことを前提とされた挑戦状だ。覗くなら、ここを通り資格を得よと」
「どんな資格だよ…」リアムがジト眼で呆れている。
「リアム、この通過儀礼をクリアすれば受け入れてもらえる可能性があるぞ!」
「お前は妹分のミラの裸をそこまでして見たいのか」
「別にミラを見るわけじゃないさ。他にも麗しいレディ達がいるだろう?」
そう説かれても、リアムは反応を見せずゴミクズクソカスを見るような眼でエアルを見る。だがそんな視線にも負けない。
エアルはホルダーから銃を取り出すと魔弾を撃ち、蔦を相殺していく。
「さぁ、進むぞ!」
「こんなことに魔弾を…」マシューがエアルの執念に心配しだす。
「行くぞ!」
「おうよ!」
エアルとブレイズが音も無く走り出すと、床が蠢き出す。床は大きく波打ち、四人は跳んでは転ぶを繰り返す。
「なんて床なんだ!」
「下から機械音がする!もしかしたらこの床自体が既にトラップなのかも!うわぁ!」
「マシュー、大丈夫か?!」
「お前等、床の波を見極めろ!波の天辺を渡り歩いて行けば…!」
エアルは華麗に飛び、遂に女湯に繋がる引き戸に手をかける。
「エアルの兄貴…すげぇ!」
「コラ、行くな!」
ブレイズの歓喜…リアムの怒号…そして開かれる戸…そこに広がる光景は…。
「グアーーー!」
そこにいたのは、モルガンが駆使する木で創られた龍(縮小サイズ)だった。龍は口を開けると、蔓を伸ばしエアル達をグルグル巻きにするとそのまま男女湯に別れる廊下まで投げ飛ばした。
「ふむ…七分と十六秒。頑張った方だな」
ブラッドは簀巻きにされて転がっている四人を見下ろすと、愉快そうに笑いながら去って行った。
「な、なんなんだろう、ウォーカー中尉」
マシューは項垂れる。
リアムは負けた気もするし、だけどミラの裸を除かれることを避けられたと思えばよかったと言い聞かせた。
「残念だったな…」
「残念じゃねぇよ。少しは反省しろよ」
リアムは身体を仰け反らし、エアルに頭突きした。
女性陣が美白に効果のあるお湯につかりすべすべになった玉肌にご満悦しながら上がってくると、待ち合わせ場所の廊下には簀巻きから脱出しようともがくリアム達の姿が…
「何してるの?」
ロングヘアをくるりと纏めてヘアクリップで留めているミラが覗き込む。
「責めるならエアル兄を責めてくれ」
その一言でヘスティアは察する。
「また貴方はくだらなくどうしようもない行動をしたのですね…愚かしい。少しは学習なさい」
「ハハハ!頑張ったようだがダメだったみたいだな。じゃあ、男性諸君にはもうひと汗掻いてもらおうじゃあないか!」
モルガンの言葉に、へ?と男性陣の声が重なる。
「温泉と言えば卓球だ!ウォーカーが手配してくれている。さぁ行こう!」
「きゅ、急に卓球と言われましても。その前にこの蔓を…」
「エアル氏、チームは女性陣対男性陣だ。女性陣が負けたらバニーガールになってやろう。そして男性陣が負けたら裸エプロンをしてもらおう」
「その勝負、必ず勝ってみせましょう」
「エアル兄!いい加減にしろよ!何度痛い目見りゃ気が済むんだ!」
「リアム、そこに浪漫がある以上男は追う運命なんだよ」
もう頭が痛くなってくる。
「ほんっとうそういう所嫌いだ」
「なぁ、男性の裸エプロンってなに?」
マノンがモルガンに訊く。
「襟と蝶ネクタイ。そして腰に巻くエプロンだけの姿だよ」
「はぇ~」
「皆鍛えているからさぞ見栄えがいいだろうな!」
聞いていたミラは、想像する。リアムの裸エプロン姿を…
(ちょ、ちょっと頑張ってみようかなぁ)
「ま、負けたらバニーガールなんて嫌だし、絶対勝とうね、ね!」
「ミラやる気満々だね!よーし、私も負けないぞ!」
男性陣はやっと解放してもらい、一行はブラッドが待つ娯楽広場にある卓球台へ、決戦するために移動した。




