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ETENITY00  作者: Aret
2章・・・代償
38/113

38話・・・ティアマテッタ12・軍入隊

作品を読みに来て頂き感謝です。

ネストが眼を覚ますと、アイアス、クロエ…そしてイノがいた。

確かめるようにゆっくりと瞬きをすると、そこに居たのはリアムとミラ。

表情の強張っているマノンが立っていた。

「私が関わると、みんな…死んじゃうのかな…。私がいると、わ…私は」

ブツブツと呟くマノンの眼の焦点は定まっていない。手が震え、呼吸もヒッヒッと不規則になっていく。

「マノン、しっかりしろ!マノン!」

「リアム、後ろ!」

背後からメイラが大剣を振り下ろし殺害を図る。リアムは反射的に銃で防御する。

「今テメェの相手してる暇はねぇんだよ!」

「命令に従っているだけ。恨むならソイル様を恨んで」

「ほんっとうふざけるなよ…!ミラ、マノン達を頼む!」

リアムはメイラの腹に蹴りを入れると、魔弾で反撃、メイラが距離を開けると追いかけて行った。

エアルにも、マノンの様子が可笑しい事は目に見えていた。

「おい、マノン!呆然としている暇はないぞ!ちゃんと、父親から言葉を引き出せ!最後まで見届けろ!マノン、マノン!」

しかしエアルの言葉とは裏腹に、マノンは過呼吸を起こし蹲ってしまう。

「クソ…!」

「女の心配をしている暇があるのか?エアル」

「俺はいつだって守るべき女の心配はするぜ…それより、お前も動揺してるんじゃねぇのか?コア。割り切ろうとしても、ちゃんと割り切れてねぇみてぇだが」

コアは思わず苦笑いした。

コアにとって、ネストは行く宛ての無い自分を拾ってくれ、誰も信じないような都市伝説に付き合ってくれた。アマルティア結成からの古株同士。情が無いといえば嘘になる。ましてや、娘を守るために被弾したとしても、我が大将が撃った銃で命が尽きようとするのを見るのは、いい気分ではなかった。

いつの間にか消沈してしまった戦意を戻すには、今は難しいだろう。

「今日は撤退する。この勝負はお預けだ」

コアは大剣を背負うと、転送装置に向かい、中へ消えて行った。

「…はぁ。コアがいなくなっても、メイラがまだいるんだよなぁ」

リアムにメイラを任せてもいいと思ったが、ネストがマノンを呼び寄せているのが見えた。

(親子の間に他人はいらねぇな)

エアルはメイラと戦っているリアムに加勢しに走る。


ブラッドは少しでも身を軽くするために軍服の上着を脱ぎ捨て、ソイルの前に立ちはだかった。

「ソイル!貴様を捉えるこの好機、絶対に逃さん!」

「フン。膨大な魔力を消費したのにまだ戦うか」

「全てはアマルティア壊滅のためだ、捉えられなくても、せめて貴様を殺す」

「物騒だな」

ソイルは不敵な笑みを見せると、ブラッドが攻撃を仕掛ける。

ブラッドの素早い剣さばきにも適応し防御するソイルは、ブラッドの疲弊を見逃すわけがなかった。

「かなり疲れているじゃないか!そんな状態で私に勝てるとでも思ったか!」

「貴様も疲弊しているのは同じだろう。モルガンに圧倒されたんだからな」

その言葉にカチンと来たソイルは、剣を地面に刺し魔力を供給する。

「お前にもお見舞いしてやろう!サンドサウザンド!」

無数の砂の苦無がブラッドを襲う。氷の盾を作っても砂が抉り氷を破壊していく。

「ッチ!」

魔力はほぼ空。ブラッドは劣勢に立たされる。


「マ、ノン…そばに、来てほしい」

過呼吸を起こし、泣いていたマノンはネストの言葉に顔をあげる。ネストの掛け声のおかげか、苦しみから意識が逸れたのか呼吸が落ち着きを取り戻し始める。

マノンは手で這い近づくと、ネストがマノンの手を取った。

「なんで私のこと助けたの…」

「親は、子供を守るためならなんでも出来るんだよ…。怪我はないか?」

「…大丈夫」

「そうか…やっと、娘を守ることができたんだな…」

ネストは咳き込むと、吐血する。ミラが抑えてくれている穴の痛みは不思議と無い。寧ろ、あたたかくて癒えているかと錯覚を起こすくらいだった。

「マノン、よく聞くんだ…。マノンは、私達夫婦や、たくさんの人から望まれて生まれてきたんだ。愛されて生まれてきたんだ。だから、悲観しないでほしい、苦しまないでほしい。マノンのせいで周りの人達が死んだんじゃない…俺が悪いんだ」

ネストは自分に残された時間がもうすぐだと悟るとマジックウォッチを外そうとするが握力が弱まりもたつく。

「じっとしていてください」

ミラがマジックウォッチを外し、ネストの手に握らせる。

「マノン、次のマジックウォッチはこれを使うと良い…イノの…お母さんの血が濃いから水属性だが、きっと無属性も発動できるはずだ…マジックウォッチ、上書きをする」

「え、ちょっと、何言ってるの…?」

ネストの言葉の意味が解らず、戸惑っていると、マジックウォッチが起動する。

「マノン、着けてあげて」

ミラもネストの死が近い事に腹を括る。マノンはミラに言われるがまま、もたつきながらもネストのマジックウォッチを装着した。

『警告、警告。ネスト・ランドルフ以外ノ者ガ装着シテイマス。スグニハズシテクダサイ。警告、警告』

ネストは震える指先で操作すると、マジックウォッチが初期設定を表示する。

『ローディング……パスワード認証開始』

「パスワード、イノ・ミナージュ」

『…チェック完了。一致シマシタ。次ノパスワード認証開始』

「マノン・ミナージュ」

『…チェック完了』

そのパスワードに、マノンの瞳が大きく揺れる。

『初期設定ヲ行イマス。所有者、ネスト・ランドルフカラ移行』

「私から娘のマノンに譲る。どうか娘を守ってくれ…」

『新タナ所有者ノ声紋認証ヲ開始シマス。名前ヲイッテクダサイ』

しかし、マノンは口を閉ざしたままだった。俯き、表情が見えない。

心配になったミラが優しく声をかける。

「マノン…?まだ、整理がつかないよね…。邪魔しちゃうけど、マジックウォッチ、ネスト・ランドルフが所持している写真を全て映し出して!」

『承知シマシタ』

マジックウォッチは同時進行でネストが撮った写真を映像に映しだす。

すると、マノンの目の前にはたくさんの人の笑顔が映った写真が並べられる。

イノが勤めていた輸送会社の船長達。アイアスとクロエと幼い日のリアム。そして、若き日の両親であるネストとイノ。たった短い期間の家族だった、ネスト夫婦と赤ん坊のマノンの写真がたくさんあった。大半は赤ん坊のマノンの写真だった。泣いている顔、笑っている顔、哺乳瓶を加えている写真、寝ている写真、ぬいぐるみを齧っている写真…

「マノン。お父さん達って、結構子供の写真をいっぱい撮っちゃうんだよ。どんな表情も行動も面白くて、可愛くて仕方ないんだって。ネストがしてきたことを許せとは言わない。でも、心の底からマノンを愛していたってことだけは、知っていてほしいな」

何故かミラが泣きそうに微笑んだ。

マノンは知らない。父が、母が幼い頃にどんなことをしてくれるのか。どんな風に接してくれるのか。何一つ知らないし、覚えていない。だけど、写真の中のマノンの家族は、とても幸せそうに笑っていた。

この先、我が子が殺されると解っていても、その時間を精一杯生きた証。

マノンは眼をゴシゴシと拭くと、声紋認証を開始する。

「新しい所有者は…マ、マノン・ミナージュ…」

マノンが移行作業を開始したことを見たネストは、小さく微笑んだ。これから先、もう自分が守ることは出来ないが、マジックウォッチがきっと役に立ち、マノンを助けることは解っていた。

(マノン・ミナージュ…イノが生きていた証。俺の娘…これが終わったら、俺を覚えている人間はごく少数に限られるだろう。いずれ忘れ去られる…それでいい。イノとマノンがいた事実さえ残れば…)

「…決めた。私の名前はマノン・ミナージュ・ランドルフ」

『マノン・ミナージュ・ランドルフ。声紋認証登録。新タナ所有者トシテ認証シマシタ』

「マノン…?」

ネストは信じられないと言った顔でマノンを凝視した。そこには、泣くのを止めて凛々しい顔付きの娘がいた。

「私、お父さんがしたこと、やっぱり簡単に許せないよ。でも、お母さんが無事を祈ってくれたように、お父さんが復讐を誓ったほどに、私の事を愛してくれたのは痛い程伝わった。だから私は…!水属性の母と無属性の父を持つ最強ミックスガールとしてゼーロの人達を見返す!二人の子供はこんなに大きくなって、頼れる仲間もいて、史上最高に幸せ者なんだって証明する!お母さんの悲しみもお父さんの憎しみも、私が引き受けて、歯を食いしばって我慢する!だから…お父さん!」

マノンの身体から水の魔力が青い光となり溢れ出し、そこに黒い稲光が走る。

「生きてよ!お父さぁああん!!!」

ネストとミラはあまりの眩しさに目を閉じる。

光が落ち着き、眼を開けると、ミラは息を飲んだ。

「マノン…すごい、かっこいいよ、マノン!」

マノンの体に稲妻が駆ける。横髪には黒のメッシュが入り、無属性の血が流れていることを証明している。

ネストは本来の姿を得たマノンを目に焼き付け、最期の力を振り絞って笑う。

「かっこいいぞ、マノン…ありがとう、生きてって、言って…くれて」

どんどん意識が遠のいていく。眠るように、朦朧としていく。

「お父さん!ダメ…もっとお父さんとお母さんのこと教えてよ、話してよ!」

マノンはネストの手を握りしめた。

「イノ…マノン…愛し、てる…」

幻覚だろう。イノと幼いマノンが寝坊した自分を起こしに来た白昼夢のような、現実も夢も曖昧な世界。

『ネスト、そろそろ出発の時間だよ』

イノが優しく髪を撫でる。

「いまいくよ、イノ」

その言葉がマノンに届いたかはわからない。だが、ネストは安堵したように、そして優しい表情のまま息絶えた。そして、頬や指先、皮膚がサラサラと灰のようにフワフワと崩れ空へ舞っていく。

「え、え!待って、お父さん、お父さん!お父さぁん!」

「ネスト!そんな、誰かぁ!リアム!」

ミラの叫びに、リアムが近づこうとするがメイラに邪魔される。

「行かせない」

「ネストに何をした?」

「知らない。でも、あれがアマルティアに関わる者の末路。そう言っていた、気がする」

この時点でもどこか他人事のメイラに、リアムは不謹慎さを感じる。

マノンが握っていた手はボロリと砕け落ち、灰の小山が出来る。

「ヤダ、ダメダメ!消えないで!お父さん!」

運悪く風が吹き、灰になったネストの遺体を舞い上がらせる。

服だけが残り、ネストの存在は消えた。辛うじてマノンが手に掴んでいた一握りだけが、ネストの遺灰として残る。

「酷い…こんな最期って…」

ミラは項垂れ、絶望する。

マノンは持っていたハンカチに遺灰を包み、しっかりと結ぶ。

「ミラ…ありがとう」

「マノン…?」

「私、今お父さんと解り合えるかもしれない希望と、失った悲しみに蝕まれて、混ざって、苦しいけど、すっごく嬉しいの。お父さんとお母さんに愛されていることが解って、すごく嬉しいの…だから…!」

アイズを使用しようとすると邪魔していた靄も無い。今は全てが透き通って見える。

青の中に黒が混じり、深い青に染まっていく。それはマノンの魔力を強くし、魂を弾けさせた。

「お父さんとお母さんの最強遺伝子を受け継いだ新生マノンを目に焼き付けろ、ヤロー共!絶対アマルティアをぶっ潰す!まずは、お父さんを撃ったお前を倒す!ブースト!」

『ランドルフ家固有スキル・アウェイクニング。ブースト覚醒、三十、二十九…』

マノンはネストが所持していた銃を無意識に持ち去ると、ソイルに向かい地面を力強く一歩を踏みだすと姿を消した。

「…ハハッ!マノンの奴、本当良い根性してるぜ!」

覚醒したマノンを見たリアムが興奮して自身も奮起が上昇する。

「あれが二つの属性を受け継いだ姿…行け、行けマノン!」

エアルは叫ぶ。あの日見た赤ん坊が成長した姿を、進化した姿を目に焼き付けながら。そして二つの属性を持ち合わせても、邪険にされない先駆者になるために、マノンの名を大きく叫んだ。

メイラも、覚醒したマノンを眺めていた。

両親から愛されていたマノンは真の姿になったのだろう。

(私も、お姉ちゃん達から歪だけど‘愛’は貰っていたのかな…)

メイラ達四姉妹の愛は歪んでいて、凸凹でギザギザだったけど、パズルのピースみたいに綺麗にハマるわけではなかったけれど。でも、繋がる箇所はあった。空白の多いパズルだったけど、かっちりと合う凸凹は離れていたり、変な形だったけど。それでも

「…私も愛されていたって、思っていいよね。お姉ちゃん」

メイラの顔付きが変わる。無表情だった顔に薄らと怒りが滲み出る。

大剣を横からリアムとエアルに向かい切りかかる。即座に反応したリアムとエアルは銃で防ぐが、男二人でも圧されるほどの怪力をメイラは見せた。

「重い…!さっきと全然違う!」

ズリズリと押されて行く。

「男を人形にする趣味はないけど…つぎはぎ人形にするのは面白いかもね…」

メイラが薄らと気味悪く笑うと、グッと力が増し、リアムとエアルは呆気なく吹き飛ばされた。

リアムとエアルは受け身を取り衝突のダメージを和らげる。

「アイツ、さっきと全然違うぞ」

「マノンの覚醒に影響されたかぁ?リアム、俺と連携とれる自信はあるか?」

「あー…、合わせてやるよ」リアムは小生意気に笑った。

「生意気だなぁ。合わせられなかったら後で説教だからな!」

リアムは銃を構え、エアルは剣を。二人は徐々に変わり始めるメイラに、もう一度戦闘を挑んだ。


ソイルに挑んだ時点で、魔力も体力も限界で底を尽きていたブラッドは劣勢に立たされていた。今も剣を喉仏に突きつけられ、ソイルの気分次第で殺される手前だった。

「ブラッド…モルガンの目の前でお前を処刑しようか。あの女に一泡吹かせてやりたい」

「悪趣味だな」

ブラッドは酷く息を切らしていた。それを見ているソイルは大層ご機嫌で。

「雑魚兵を殺しても意味は無い。お前のような立場ある人間を殺してこそ衝撃を与えられる」

剣を喉仏から静脈付近に移動させ、切ろうと力を入れた時だった。

ブラッドの前から、ソイルが消えるように吹き飛んだ。

「…ッ?!なんだ?!」

辺りを見渡すが誰も居ない。そこにモルガンから連絡が入る。

『ブラッド、大丈夫か!』

「大丈夫ですよ。それよりソイルは?」

『観客席の方を見てみろ、信じられないことが起きているぞ』

言われた通り観客席を見ると、そこには‘誰か’に翻弄されているソイルが居た。

・・・数秒前

ソイルは何者かにより衝撃を食らい、観客席に吹き飛ばされた。椅子の背もたれや段差に身体を打ち付けられてかなり痛みが襲う。

「何だ?!私はブラッドと戦っていたはずだ!あと一歩で止めを…!」

混乱していると、自分を覆うように、逃がさないように四方八方から水、無属性の魔弾が何発も発射される。剣で相殺しても、背後、斜め、前、上とまるで逃げ場など無いと言わんばかりに魔弾が襲い来る。

「クソ!メイラァ!手を貸せ!」

怒鳴り声を上げると、リアム達と戦っていたメイラが即座に反応し、目の前にいたエアルを思いっきり樋で殴ると、ソイルに加勢しに駆けつける。殴られたエアルは、肋骨がバキバキと折れる音が体中に響き軋む。

「ソイル様!」

「カッハ…!ゲホッ、おぁ…リアム、先に追え!」

「おう!」

リアムはメイラを追い、観客席へと向かう。

走る間に、リアムは思考を巡らせる。もっと相手から魔力を消失させる方法を。どうしたらダメージも倍増できるかを。

(魔力は体内で練られている…実験みたいで嫌だが)

メイラがソイルに気を取られているうちにリアムは銃を構え、狙いを定める。

そして一発撃つ。

メイラに魔弾が直撃する。メイラは身体に当たる衝撃ではなく、体内にめり込んでいくような感覚に違和感を覚えた途端、中から雷が全身を駆け巡り八つ裂きにされる激痛に襲われ悲鳴をあげる。

「キャーーーーーーーーーーー!!!!!!」

メイラは膝から崩れ落ち、白目を向き、口から煙を吐く。

「メイラ、何をしている!気絶していないで、私を助けろ!」

ソイルの横暴な要件に、メイラはすぐに意識を取り戻し、ふらつきながらソイルの元へ辿り着く。

「…クソ野郎だな」

メイラは虚ろな目付きでソイルを守る。見えない敵を相手にするのは偉く手間がかかる。メイラは魔力クラスB。固有スキルは使えない。

一回目のスキルが終了し、マッハの世界から戻って来たマノンを見たソイルは苛立ちを隠せない。

「ネストが遺したガキがブーストだと?!水属性のはずなのに!」

「お父さんの血が私を助けてくれる。お父さんが死んだって、守ってくれる!それはお母さんも同じ!」

「貴様の父親は我々アマルティアに所属し大量殺人を犯してきたんだぞ!」

「そうだね。そこは私も許せないよ、大罪だよ。でも、それも私は受け止める。元はと言えば、すべての始まりは私が原因なんだから!ブースト!」

マノンは光りの世界で、止まって見えるソイルとメイラに魔弾を浴びせて行く。

メイラとソイルは手分けして魔弾を相殺していくが、眼の回るような魔弾の嵐に苦戦を強いられる。被弾し、ソイルもメイラも魔力が急速に減少していく。

「ッチ!クロノもいたら!」

ソイルの舌打ちに、メイラの気が一瞬立った。

一方マノンは、ヘスティアがエアルをブーストで蹴飛ばしていた光景を思い出す。

(一か八か!)

マノンはソイルの目の前に飛び出ると、蹴りを入れるモーションに入る。

「ソイル様!」

咄嗟の判断でメイラが庇いに入る。

ゴキン!と大剣に強烈な蹴りが入る。大剣は罅が入り、呆気なく折れた。

「ウソ…」

「役立たずが…。行くぞ」

ソイルが歯を食いしばりながら命令すると、メイラは後を着いて行く。そして二人も空間移転の中へ消えて行った。

二人が去ったのを見送ったマノンのスキルが丁度終了する。

空気が抜けたように、マノンは崩れ落ちた。

「おっと」

駆けつけたのはエアルだった。倒れるマノンを抱きとめる。

「エアル兄、いつの間に!」

コロシアムにいるリアムが声を上げた。

「観客側から来たんだ!」エアルは痛いのを我慢して、マノンを抱き上げた。

「今回はマノンの大活躍だったな」

エアルは思わず笑みがこぼれた。

こうしてアマルティア軍は撤退していった。

残党はティアマテッタ軍が確保。リアム達も救護室へ送られ手当てを受けた。


最終試験は中止、再試験かと思われたが、結果はその日のうちに出た。

バトルロイヤル参加者は全員合格。見事入隊が決定した。

「本当に良かったのですか?全員を合格にさせて」

「あぁ!なに、合格出来たからと安心していられる訳ではないさ。入隊できても振るいにかけられる。しがみつき、勝ち残る術がなければ勝手に去って行くだろう。ここは仲間を尊重することはあっても、仲良しこよしする場所ではないからな」

モルガンは大笑いすると、ブラッドも隣で笑みを見せた。


ティアマテッタ軍付属病院には、負傷した受験者、そしてマノン達が入院していた。

マノンは相変わらず変な笑い声の寝言を発していて、隣のベッドにいるヘスティアを悩ませていた。ヘスティアの火傷も治り初め、定期的に塗り薬や飲み薬で回復に向かっている。

一次試験の際にリアムと手を組み、ミラの狙撃援護をした二七八番ことマシュー・トンプソン。

ブラッドに射撃の腕前を見出され、後にアマルティアに攻撃されミラに介抱された一六九番ことゾーイ・グレイス。

二人はリアムの元にお見舞いに来ていた。

「リアム君、見ていたけど凄いね!僕、軍人目指している身なのに、応援しちゃった…」

「アンタは呑気なのよ。もっと気を引き締めなさいよ」

「ごめん…」

「でも、マシューもゾーイもありがとう。ミラがあんなに射撃が出来るなんて思わなかったよ。二人のお陰だ」

「気にしないで。助けてもらったお礼をしたまでよ」ゾーイが強気に返す。

そこに、喧しいのが現れる。

「リアム!見舞いに来てやったぞ!ギャ!女子がいる!!!」

ブレイズだ。松葉杖をつきながら、両足包帯グルグルで登場したと思ったら、ゾーイを見て急に叫び出す。

「お前、本当ミラ以外の女性ダメなんだな…」

リアムが哀れみの眼差しでブレイズを見た。

「リアム、戻ったよ。丁度エアル兄と、ハンプシャー少佐とウォーカー中尉とお会いしたから、お連れしたよ」

リアム達四人は、少佐と中尉の登場に緊張が走る。

モルガンはリアムを前に、表情筋が緩みそうになるのを引き締め、ねぎらいの言葉をかける。

「受験者の皆、先日は急襲の応援、ありがとう。軍を代表し、私から礼を言う」

モルガンとブラッドが頭を下げる。

「そして、最終試験に残った受験者は皆合格となった。これからは、仲間として一緒に戦えること、楽しみにしている。では、我々はこれで失礼する」

要件だけを伝えると、モルガンとブラッドは病室を出て行った。

「受かった…」ブレイズが呟く。

「あぁ、全員合格だって」

リアム達は暫く黙った後、どっと沸き上がった。

「合格だぁ!」

「やったね!」

「ミラちゃん!俺合格したよ!今度こそリアムと決着つけるから、その時は俺の愛の告白を聞いて…あれ、ミラちゃん?」

病室にミラの姿はもう無かった。

「ミラならハンプシャー少佐を追いかけていったぞ」エアルが他人事のように言う。

「しょんなぁ…」とブレイズが涙を流した。

リアムはそれを見て、鼻で笑った。


「あの、ハンプシャー少佐!」

ミラの引きとめに、モルガンが振り返る。

(リアム氏の未来のご婦人!)

「どうした、私に何か用かな?」

「あの、看護師募集のポスターを見たんです。もしよければ、面接を受けたいと思い声をかけさせて頂きました」

「そうか。それはいい!我々も、今回の件を受けて色々考えていたんだ。医療班でも戦闘ができる人材も必要だとな。ミラ女史、君のように拙くても銃が扱える人物が医療班にいることは重要だと考える。これから制度を整えて行くが…だから、もし受かった際は…忙しくなると思うが、医療と戦闘訓練も受けてもらうからな」

モルガンが笑顔を見せると、ミラは胸がいっぱいになった。

「はい、頑張ります!」

ミラはお辞儀をする。

こうして、ミラの新たな挑戦が始まった。全ては、大切な人が傷ついても治せるように、誰も死なせないために、自分も、周りの仲間も、後悔しないために。


退院日。

怪我も完治した。これで久しぶりに我が家へ帰れる。

「私とリアムが従兄妹同士ってことが解ったわけだしぃ…お兄ちゃん、マノン頑張ったから、お部屋もうひとつ欲しいな♡」

ブリブリなマノンを見て、リアムは冷たい眼差しを向けた。

「調子に乗るなよ…。つうか、五部屋しかないのにどう増やせっていうんだよ」

「お庭に小さな秘密基地作ってくれればいいからさぁ!それにお隣さんが引っ越ししたら空地になってるから、新築が建つまでそこに私のアジトを」

「子供用の小さいお家でも買って籠ってろよ」

「それは小さすぎるよ!ねぇミラお姉ちゃん♡私のためにもリアムを説得して」

「えぇ」ミラは困惑した。

そんな三人のやりとりを見ていたエアルは頭を抱えた。

「はぁ…。マノンは相変わらず元気だな。来年はアイツを軍隊入試試験にぶち込むか。やることがあれば少しは大人しくなるだろう。な、ヘスティア」

「そうかもしれませんね。でも、空元気しているわけでも、落ち込んでいる訳でもないので、そこは安心です」

ヘスティアも微笑む。

「よし!どっか飯でも食いに行くか!リアムの合格祝いだ!」

「エアル兄の奢りだな」

「何食べようかなぁ」

「…おぉ!今日は遠慮せず食え!」

見栄を張った手前、後戻りはできず、エアルのお財布の中身が寂しくなり泣くのは、明日のことだった。



アマルティア研究室。

ナノスとソイルは研究室にいた。

「ネストが死んじゃったね。これからの参謀はソイルに決まりだ。もうネストが一人娘のために動く必要が無くなったからね。ソイル、アマルティアらしい戦争をこれからは起こそうじゃあないか」

ネストはカプセルの中で眠る、修復中のクロノを見る。その隣には、新しく培養されているアイオの姿が。そして、三つのカプセルにはまだ胎児の姿の三姉妹の姿が…。

「ハッ!これからはナノス様も楽しめるような戦術を練りましょう」

「それは楽しみだ!」

アッハッハッハ!とナノスの笑い声は廊下にまで響いていた。

ナノスが参謀変更でここまで喜ぶことは無い。もう一つ、陰で行っていた作戦が成功したからだ。

それは…

・・・先日、最終試験日。

両軍隊が戦闘を繰り広げる中、ティアマテッタ軍の軍服に身を包んだ女が二人いた。

レンとマイラだ。

二人は緊急事態で慌てふためいている軍内を駆け回っていた。

「ナノスが作ったこのマジックメタル探知機、本当に信用できるのかしら」

レンが胡散臭そうに探知機を見つめては部屋を一つずつ潰していく。

「実験の時は反応したので、大丈夫かと…あ、ほら」

マイラが探知機に表示される場所を指さす。そこに向かうと、周りと変わりない扉が。そこにマジックウォッチを翳すと、ナノスが事前に入れた偽造身分証明が発動し、呆気なく扉が開く。扉の先は、地下へ続く階段だった。

「本当にここの警備は大丈夫ですの?天下に名を轟かせるティアマテッタ軍ですわよ?ナノスがどれほど凄い腕の持ち主かは知りませんが、賊の偽証をこうも容易く承認するなんて…信じられませんわ」

「思っていたより…すんなり来れましたね。巨大な組織なだけに、皆さん隊員一人ひとりの顔も覚えていないみたいですしね」

「ましてや、奇襲に追われて、不自然な人間を見逃している…もっと多くの想定をし、対応できるよう訓練した方がいいですわね」

「それ、ネストさんに報告したらどうですか?アマルティア軍が統率取れて、士気も高めれば攻撃されても簡単には崩れないと思います」

マイラの提案に、レンは考える。

「…そうね。お姉様にもし何かあったら一大事だわ。今の拠点だけでも攻防戦に特化した場所にしましょう。交渉はわたくしがしますわ」

マイラはレンを信じ、力強く頷いた。

二人は頷くと、地下へ降りて行く。辿り着いた場所は、マジックメタルの保管庫だった。

レンは深く溜息を吐いた。

「本当にあるなんて…信じられませんわ」

そして、上着のボタンを外し、ブラの間からナノスに渡された発信機を取り出す。その発信機に着いている紙を取ると、透明で誰も簡単には見つけられない仕様になっていた。それを、壁の一番下に貼り付ける。

「これで任務遂行ですわね」

「はい。後は無事に帰るだけです」

「…ごめんなさいね。お姉様のためとは言え、巻き込んでしまって」

「いいえ。私も、レイラさんのために何かしたかったんです」

レンとマイラは、廊下に出ると、混乱に乗じ、外へ出る。そして草陰に隠れると軍服を脱ぎ、私服になる。軍服は持ち帰る。捨てると、スパイか忍び込んだ者がいるとバレるから。

レンがマジックウォッチに連絡を入れると、すぐにファミリーカーが到着する。車に乗り込むと、ファミリーカーは何事も無かったかのように出発する。

軍入隊編完結です。

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