29話・・・ティアマテッタ5・軍入隊
ミラ達はリアムを試験会場に入場するのを見送ると、力が抜ける。まずは見送り完了。後はリアムの実力で第一関門を突破することを見守り祈ることしか出来ない。
「はー、見送って安心したけど、今度はドキドキしてきちゃった…私まで緊張してきた」
「ミラ!リラックス、リラックス!そうだ、折角軍基地地区に来たんだから、女性隊員お勧めレストラン&カフェ巡りしない?!」
マノンはマジックウォッチから情報誌を反映させる。可愛い、おしゃれからシック、シンプルにガッツリ、大盛り系までより取り見取り。食事系の他にも、『可愛いもいいけれど!特集!ティアマテッタ軍周辺ショップで買えるミリタリー、ストリートファッション!自分の可愛い・かっこいいを見つけよう!』の情報まで載っている。
「なら、お茶と軽食でも食べません?朝早くからバタバタして、朝食もちゃんと食べられませんでしたし」
「確かに。皆前日に緊張して眠れなくてまさかの寝坊だったもんね。リアムにご飯食べさせたり、自分の身支度で慌ただしかったし」
「じゃあ決まり!エアルのそれでいいでしょ?」
女性陣がエアルを見ると、エアルはにこやかに笑う。
「いや、今はちょっと一人になりたい気分だから、ミラ達で楽しんできてくれ」
「え、解ったけど…。え、ナンパとかやめてよ?」
「しないよ!ま、俺はダンディな雰囲気の喫茶店で珈琲を楽しむさ」
エアルがかっこつけるが、女性陣は容赦なく無視した。
「じゃあエアル兄、また後でね。連絡するから~」
ミラ達が朝から開店していた落ち着いた雰囲気のカフェに入ると、店内には似合わないポスターが目に入る。
「ティアマテッタ軍、医療・看護部隊募集中。アルバイトからOK。え、医療チームはアルバイトいいの?!」
ミラが驚いてポスターを指さす。
すると、店員さんが電子メニューを持ってくると、微笑みながらミラの大きな独り言に答えてくれた。
「ティアマテッタの医療チームは軍に入隊しなくても臨時職員として採用されるんですよ。補助や、見込みがあれば軽傷治療の指導、やる気があれば、医療行為許可試験の勉強の面倒も見てくれますし」
「医大出てなくてもいいんですか?その、医療行為許可って」
「ティアマテッタ軍だから許可された試験ですよ。許可免許が交付されれば、軍人はもちろん、戦地で怪我を負った一般人も治療できますからね。ご注文がお決まりになりましたら、メニュー表からご注文ください」
店員は笑顔を見せるとキッチンへ戻っていく。
「ミラ。興味があるなら、コードを読み取って詳細を読んでみたらどうですか?」
「え?!私はいいよ…」
「じゃあ私が見ちゃおうっと!」
マノンがポスターにあるコードを読み取ると、ホームページへ飛ぶ。
勤務時間。午前・午後・フルタイム・夕方シフト(夜勤勤務は入場許可の都合にて軍隊所属医療チームが担当)。八時~二十三時の時間帯。未経験可。経験者歓迎。自給……
「え?!めっちゃ好待遇じゃん!私応募しようかな!」
「マノン、募集は十七からです」
「え~、本当だ…あと一年先じゃん」
「ミラ」ヘスティアが凛と声を上げる。
「はい!」
「今日までリアムに付き合ってきました。今度は、ミラがやりたい事を見つけて目指すのもいいのでは?今の特訓もそうですが…折角なら、その成果を更に生かせる場所を見つけることも大事ですよ」
「ありがとう、ヘスティアさん。でも、私本当に大丈夫だから!さぁて、何食べようかなぁ」
ヘスティアには、ミラが自分の固有スキルの件で医療について興味が出たとは感じていた。たとえ固有スキルが覚醒しなくても、何かやりたい事が見つかるのは良い事だ。
無理強いはしないけど。
エアルはオレンジ色の電球で淡く照らされる喫茶店でモーニングを注文し、コーヒーを飲み味わっていた。
(入る店間違えたわ。心地よ過ぎて眠くなる)
エアルはコーヒーを一気飲みし、お代わりを注文する。
眠気を誤魔化すように、一ヶ月前。ティアマテッタに来てすぐの頃を思い出す。
・・・
一ヶ月前。エアルは独り、車を走らせティアマテッタ軍専用飛行艦停泊場に到着する。駐在の職員に電子身分証明書とアポイント証明を提示する。
許可が下り、来客用駐車スペースに停車させる。そして、停泊場横にある来賓館に入っていく。
受付から二階水明の間へ行くよう案内される。
水明の間へ着き、重厚感のある扉をノックすると返事がある。扉を開けると、キィ、と緊張するような音が部屋に響いた。
「相変わらず早い到着ですね、ブラッド・ウォーカー大尉」
「今も昔も、人を待たせるのが苦手でな。久しぶり、エアル。警察の研修時代以来だろうか」
ブラッド・ウォーカー大尉。ティアマテッタ軍に所属する軍人。水属性。
エアルが警察署に採用され、優秀な成績だったために選出されたティアマテッタ軍による特別研修時代に世話になった人物である。エアルにとって、もう一人の恩師と云えるだろう。
「すまないな、急に呼び出して」
エアルとブラッドは対面になっているソファに座る。
「いえ。最初に連絡を入れたのは俺です。その流れで、会おうとなるのは必然でしょう」
「そうだな。まずは、ヴェネトラ国工場地帯防衛戦の勝利、おめでとう。エアルが心配している黄昏の正義は実質壊滅でいいだろう。残党は少なかれ残っているが、逮捕の報告が出始めている。警察にもこちらから監察しメスを入れている。遅かれ早かれ、完全に消えるだろう」
「それはよかった。安心しました」
コンコン、とノックが鳴る。秘書職員がコーヒーを淹れてきてくれた。
秘書が出ると、会話がまた続く。
「実は、お聞きしたいことが」
「ほう」
「アマルティアについて、何かご存知ありませんか」
「エアル、本気で言っているのか?」
ブラッドが一瞬、眉を顰める。
「本気です。ご存知でしょうが、二年前に死亡したアイアス・ランドルフから遺された情報の一つです。そこに、アマルティアを追えと」
ブラッドは眼を閉じ、深く座る。しばらく口を閉ざしたあと、重く口を開く。
「そこまで遺していられたのか、ランドルフ中佐…。個人的には、中佐が眼を掛けていたお前や、ご子息を危険に巻き込みたくなかった。だが、もうそこまで辿り着いているなら白状しよう。ランドルフ中佐は、二年前ここに訪れた際、我々にもアマルティアについて報告された」
「待ってください、アイアス中佐って」
エアルは、体の中が冷えていく感覚を抱き、鼓動も早くなっていく。
「ランドルフ中佐は、我が軍の特別参謀だったお方だ」
アイアス・ランドルフ…ゼーロの街ではフリーのバイヤーとして働き、主にティアマテッタ、マスタング商会で買い付けてはショップや大型ショッピングモールなどに武器や雑貨の搬入を生業にしていた。
しかし、彼にはもうまだ顔がある。ゼーロでの暗部としての活動。そしてティアマテッタ軍・特別参謀としての顔だ。
必要があれば暗部として密かに活動する。行動を指示するのは全てネイサン家。知る者は上層階級の軍人、優秀な政治家くらいだろう。必要とあれば、彼等はネイサン家を頼り、アイアスに依頼、護衛、暗殺を申し込んでいた。
そして軍隊では、バイヤーとして各地を巡ることで怪しまれずその国、地域の詮索、情報収集、一般人だからこそ耳に入る情報などを綿密に集めては定期的に軍に情報を発信。不定期に訪れては作戦を練っていた。
位は中佐。だが、与えられた位は仮初なもので、情報収集の高さ、戦闘能力、無属性と言う事もあり、軍の中ではかなり重要視されていた。本来なら重要軍人クラスの居住区に家を建ててほしかったが、妻のクロエが緊張と不慣れな環境で疲弊することを心配し拒んだアイアスにより、一般住宅街に家を建設。しかし、軍の意向で必要設備管理のために、あのような豪邸が生まれてしまったわけだが。
「おやじさんがそんな立場にいたなんて。つうか、自分は暗部として活動してたのかよ…」
エアルは突然の情報に、思わず脱力する。
「私を含めた一部の関係者はアマルティアを探し続けている。最期ここに来た時、もし自分に何かあったらアマルティアだと疑えと仰った。そしてあの殺害方法。我々は暗殺として見ている。中佐の魔力クラスでも適わない相手だ。相当な手練れだろう。考えたくはないが、ご令弟のネストも容疑者として浮上している。あとはナノス。奴の禁忌は耳に入れている。一度地獄まで落ちれば、もう恐れはないどうからな…」
エアルは頭を抱え込んだ。いかんせん情報量が多すぎる。
(いくら復讐だからって、実兄を殺そうとするか…?!クソッ!全然理解できねぇ!)
怒れる中、そしてぼんやりと思い出されていく霞がかった記憶…。女性が縋るように何か喋っている。そして怒鳴る男の声。子供…違う、赤ん坊の泣き声。赤ん坊が入れられたバスケットを取り上げた大人が、それを川に落とす。その光景を、エアルはエマの手を握り、大人達の隙間から眺めていた。
「…っ!」
「どうした、大丈夫か。顔色が悪いぞ」
「いえ…。事実を知ったからこそ、アイアスさんは本当、徹底されていた方なのだと改めて思いまして」
「流石は情報漏えいに厳しい方だ。エアルにも黙っていたなんて。まさか、ご子息もこのことは知らないのか?」
「当たり前ですよ!リアムの奴、ただでさえ今頭パンクしそうなのに」
「ハッハッハ!エアルとご子息には申し訳ないが、まさか二年越しでランドルフ中佐に笑わせられるとはな!まぁ、参謀だけなら兎も角、スパイのようなこともしていたからな。だが、彼らしい。我々にはちゃんと報告をし、エアルには情報を遺しているのだから」
「その情報も、とんだ仕組みで隠されていましたよ」
「ハハハ!そうか、隠されていたのか!」
笑い事じゃないですよ、とエアルは愚痴をこぼし、コーヒーに口を付ける。
「そう言えば、ご子息とこっちに越してきたそうじゃないか。移住か?」
ブラッドはおどけた質問をする。
「違いますよ。アイアスさんの息子のリアムがティアマテッタ軍に入隊するためにここに来たんです。落ちたらゼーロに帰りますよ。まぁ合格するでしょうけどね!」
「ほう!それは楽しみだ!」
重苦しかった空気が和らぎ始めると、今度は廊下が何やら騒がしい。男性の止めようとする声と、ヒールを堂々と鳴らし闊歩する足音。
そして、重みのある扉がバン!と豪快に開かれた。
「失礼する!ウォーカー大尉!今日ここに、ゼーロの街出身の者が来ると伺った!それは先日入国したランドフル中佐のご子息であろうか?!」
ハキハキとハッキリと、煩すぎる音量で語り掛けてくる女性が現れた。
ブラッドは立ち上がり、敬礼する。
「ハンプシャー少佐!彼はエアル・アーレント。ランドルフ中佐のご子息ではありませんが、彼も中佐から銃の技術を教わった、いわば貴女の弟弟子にあたるような人物です」
エアルも立ち上がり、敬礼するか迷ったが、あくまでも市民なのでお辞儀をする。
「ほう、エアル・アーレントか。覚えておこう。私はモルガン・ハンプシャー。木属性。アイアス中佐は直々の上司だった。彼から多くの事を学んだ。作戦の立案するノウハウ、銃、剣、そしてスキルといった多くだ!弟子と自負している。同じ師匠を持つ身、今後もよろしく」
「こちらこそ、お会いできて光栄です。ハンプシャー少佐」
モルガンが手を差し出し、エアルと握手をする。握力が強く、手が粉砕するかと思ったエアルだった。
「少佐、今ご子息のリアム君のことが話題に上がったところです。よかったらご一緒に聞きませんか?」
「エアル氏がよければ、是非とも聞きたい」
「俺はもちろん、お話しさせていただきます」
急遽襲撃…来られたモルガンに、秘書が慌ててコーヒーを追加で持ってきた。
「リアムは一ヶ月後の臨時採用試験に受けます。まだ爪が甘い所もありますが、それはこの一ヶ月の間に克服させます」
「それは期待だな。彼が入隊したら、私の部隊に配属させよう」
「少佐、まだ気が早いですし、本人の希望もありますし、どこに配属されるか解りませんよ」
ブラッドのツッコみを無視なのか聞こえていないのか、モルガンは話を進めていく。
「固有スキルは?もう使えるのか?」
「いえ、そこもまだです。本人の意思もあり、スキル覚醒の特訓をします。この一ヶ月がリアムにとって試練で正念場かと」
「そうか。なんなら、私が直接指導しにいってもいい。いや、襲撃の方がいいか。チンピラに扮してリアム氏に絡もう」
「いえ、心遣いだけ頂きます」
エアルは丁重に断った。
なんか、モルガンのノリなのか性格なのか、豪快で悪ノリっぽさがレイラに似ている。モルガンの場合は本気かもしれないのがまた怖いが。まだレイラの方がマシだったかもしれないと思い返したが、コング砲とかを考えたら、やっぱりどっちもどっちかもしれない。
ブラッドはモルガンに慣れているのか、のんびりとコーヒーを飲んでいた。
「そうだ、ご報告までに。リアムと一緒に来たミラ・メイヤーズに関してなんですが」
「メイヤーズ…ネイサン家の分家だね」ブラッドが言う。
「はい。彼女の家系の固有スキルが治癒魔法・ヒーラーだったんです」
治癒魔法と聞いたとたん、二人の穏やかな空気が一気に変わる。
「治癒魔法か。まさか実在するとは。ランドルフ中佐も言っていたが、まさか無属性がここまで個性豊かなスキルがあるとはね」
「我々人類がどう足掻いても到達できなかった魔法効果…。そのミラという娘はもう覚醒しているのか?」
「いえ。ミラは一般人です。戦闘経験もこの前のヴェネトラの一回です」
「わかった。貴重な人物だが、やたら軍が関わると逆に危険に晒すかもしれない。もし覚醒するようなことがあればすぐに私に報告を。護衛のために軍の眼が届く範囲に置きたい。天下のネイサン家次男坊だろう?アマルティアと関わりの可能性があるのは」
「そうですが…。あの、治癒魔法って護衛を付ける程貴重なのですか?その、ミラはなるべく普通に暮らしてほしくて」
「エアル。お前の気持ちは解る。だがこの世で唯一の治癒魔法。どのような方法で治癒するのかも解らない。無条件で治るかもしれない、細胞を活性化させて治すのかもしれない。未知の可能性がある以上、敵の手に渡ってみろ、何が起こるか予測が着かない。薬は適量だから効くのであり、悪用すれば毒になり命を奪う」
ブラッドの言葉に、エアルは俯いた。ミラの固有スキルを話してよかったのか、話したせいでミラから普通の生活を奪ってしまうのではないかと後悔する。
だが、ブラッドとモルガンの意見も解る。なんせ永い間覚醒しなかったスキルだ。記録も残っていない。
「解りました…」
ミラを危険には晒せない。
「わかった。エアル氏、そう解りやすく落ち込むな。もし覚醒することがあったら私が君達の隣人になろう。そうすれば何かあってもすぐ駆けつけられる」
「ハハハ。ハンプシャー少佐の行動力のは恐れ入ります。エアル、よかったな。ミラさんが覚醒しても、気にせず日常を送れるぞ」
二人は解決できた!みたいに笑い合っている。
この二人といると、調子が崩される。深刻だと思えばあっさりとひっくり返される。
「いえ、あの、わざわざ少佐クラスのお方が、そんな、あの…ありがとうございます。ですが、あのですねぇ。アイアスさんが居ない間、ご自宅を管理なさってくれていたお隣さんが、リアムが越して来たのを機にお引越しすることが決まりまして。丁度いいので、土地を買い取って、我々居候の家を建てる予定で、話を進めているところです」
「なんだ、そうなのか。それは残念だ。ならお向かいさん、いや、近ければどこでもいいか!」
「ハンプシャアー少佐がご近所さんになられたら、他の市民は腰を抜かしてしまいますよ」
アハハハハ!と二人は笑う。
(なんか、いずれお二人にリアムとミラを紹介しようと思ったけど、面倒臭くなってきたな…)
軍隊では実力で現在の地位に上り詰めた二人なのに、段々と親戚の甘やかし担当みたいに見えてくる。
(リアムは違う部隊、ミラは暫く覚醒しませんように)
エアルは心の中でガチめにお祈りした。
「ところでエアル氏。そのミラ女史はリアム氏の婚約者か?」
モルガンが若干興奮しながら訪ねてくる。
「いえ、まだ。ですが遅かれ早かれ親密な関係になるのは確かでしょう」
エアルももう半ば適当に答える。まぁいずれはそうなるだろうし。
「それはいい事だ!メルカジュールからの情報は貰っている!まさに青春の真っ最中だな!ハッハッハ!」
「青春ですか…ははは」
メルカジュールの一件からを知ってなお、青春と言い切る彼女を、エアルは本能的に生粋の戦闘狂なのだと把握した。いうなれば、コアと近い存在…。
「そうだエアル。リアムくんの入隊前祝として彼とミラさんの思い出話を聞かせてくれないか?もうこの年になると青春なんて無くてさ」
「大尉、もうただのおじさんになっています。まだ勤務時間なので威厳を張ってください」
「私も戦闘と作戦会議ばかりでな…恋愛系の作品を観る時間も無い。エアル氏、是非とも頼む」
こうしてエアルは面会終了時間ギリギリまで二人にリアム達との思い出話を聞かせた。
「では、俺はこれで失礼します」
「あぁ。長く引き留めてすまなかったな、エアル」
「またいつでも来てくれ。時間を作ろう」
ブラッドとモルガンが水明の間からエアルを見送る。
「そうだ。アマルティアのことで…。そこに属しているメンバーについてです。一名はエルド・エマーソン。マルペルト国元王子。そしてコア・クーパー。こっちについては木属性というのみで情報は一切ありません」
「エルド・エマーソンについては解った。早急に調べよう。ハンプシャー少佐、クーパーとやらは聞いたことはありますか?」
「いや、無いな。故郷のイグドラヴェに密偵を送ろう。コア・クーパーについても調べる。ありがとう、エアル氏」
・・・
これが一ヶ月前の出来事である。
試験会場でリアムを見送った時、窓から双眼鏡で覗いてくるブラッドとモルガンを見つけたのは内緒だ。
エアルは読んでいた電子書籍を落とす。
「もう昼かぁ。昼飯食ったらここの図書館にでも行ってみるか」
試験が終わる午後五時過ぎ。
エアルが会場近くに戻ってくると、来た時よりも荷物が増えているミラ達が待っていた。
「あ、エアル!よかった、荷物が思っていたよりも多くなっちゃったからさ、車に乗せたいんだけど!」
マノンが駆け寄ってくる。
「ストリートファッションというのも良いものですね。思い切って買ってしまいました」
「ヘスティアさんなんでも着こなしちゃうんだもん!かっこよかったぁ」
「ヘイヘイヘイ。解ったけど、お前等はまたタクシー拾って帰宅してくれよ。なんせ、俺の車は四人乗りだからな」
「エアル兄、やっぱりファミリーカー買おうよ」
ミラからまたクレームが入るが、エアルは折れない。
「それはリアムに頼むんだな!リアムだって運転出来るんだから、試験終わったらリアムとミラはおやじさんの車に乗ればいいんだよ!市内中乗り回して見せつけてやれ」
「だから!何を言っているの!!」
「俺は見せつけろとしか言っていないぞぉ。別に二人のラブラブドライブを見せつけろとは言ってないぜ~」
顔を真っ赤にしたミラから思いっきり蹴りを入れられる。
「イデ!ミラ…お前もこの一ヶ月で強くなったんだな…」
想像よりも痛くて、若干涙目になる。
「ほら、リアム戻って来た!」
マノンが手を振ると、リアムは少し疲れたように笑い、手を振り返してくれた。
試験結果は今夜九時までに全員に通知が来る。そこで最終試験に進めるかが決まる。
「お疲れさま、リアム!」
「おぉ。ありがとな、ミラ」
「自信のほどは?」ヘスティアが尋ねる。
「まぁ、大丈夫だと信じたいけど…緊張する」
リアムは項垂れる。
「大丈夫だよ!ほら、疲れたでしょ?突破したら明日は模擬戦なんだし、早く帰って休もう」
「ほら、タクシー捕まえたから帰るぞ」
五人は車とタクシーに乗り、家へと帰宅していく。
エアル達にとってはあっという間だったが、リアムにとっては妙に長い一日となった。
午後九時丁度。
『リアム・ランドルフ。筆記、実地試験合格。最終試験へのご案内』