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ETENITY00  作者: Aret
1章・・・旅立ち
24/113

24話・・・飛行艦2

作品を読みに来て頂き感謝です。

飛行艦に乗り込み、気ままな旅をすることを決めたレイラ、レン、マイラの三人娘はヘスティアの故郷、マルペルト国にまずは向かってみることにした。


マルペルトは温泉が沸き上がる秘湯として有名であり、観光地でもある。

それに、ヘスティアを殺そうとした兄…現国王の実態も少し興味があった。


『マルペルト国、温泉街付近ニハ娼婦街、高級娼館、非公認娼婦街ガ経営』


「娼婦街…男性がお好きそうですね」


『マルペルト国・マーガレット王女ニヨル政策。娼婦トシテ働ク女性、少女ハ娼婦街、娼館ニテ勉学、教養、文化ヘノ理解ヲ進メ、将来的ニハ娼婦デハナク一般労働ヲ目指ス』


「なんだか複雑な政策ですねぇ。まぁ、生きるために必死な女の子が多いってことですかね」


はぁ、とマイラは溜息を吐き、プレートに目玉焼きとソーセージを乗せていく。そこに、トースターでこんがりきつね色に焼けた食パンをカットしてプレートに乗せる。


あとはバターとジャム、挽いたコーヒー豆で淹れたアイスコーヒーをグラスに注ぐ。


「コーヒーのいい香り…」


「はあ、小ぶりで可愛い、良いおしり♡」


「ぎゃ!!」


マイラのおしりを左手でソフトタッチしサワサワと撫で、右手でお腹を撫でてくるレイラが背後に立っていた。


マイラの背に、レイラの胸がむにっと押し付けられる。


「れ、れれ、レイラさん、まさか昨夜のお酒が残っているんじゃ…!」


「そんなわけないでしょ。私は翌日に酒は残さないタイプよ」


「はぁ…」


黒のTバックに、ネグリジェ姿のレイラはそのままマイラの肩に顎を乗せた。


「朝ご飯美味しそうね」


「あ、ありがとうございます。あの、そろそろおしり触るの、やめてください…」


何か変な気分になってくる。


「流石は、お姉様ですわ。見事な手つき…」


「レンさん?!そんなキャラでしたっけ??」


「羨ましい限りですわ」


「羨ましい???」


「はぁー…むっさい男がいないだけでもこんな変わるもんなのねぇ。初等教育終わったら、家出してマスタング商会に飛び込んだから、ずっとおっさんに囲まれた生活だったし…女子だけの生活っていいものね…♡」


随分若くしてマスタング商会の戸を叩いたのだな、と思ったと同時に、やっぱりこの人酔いが残ってんのではないかと疑ったマイラだった。


「あの、朝ご飯冷めちゃうので早く食べましょう」


「そうね、この熱が冷めないうちにマイラに慰めてもらおうかしら♡」


「お姉様、それでしたらわたくしも♡」


「レイラさん達、おじさんみたいです」


マイラは、着いて行く先を間違えたなと思った。


こんなことなら、リアムとミラの恋の行く末に茶々入れるつもりで着いて行けばよかった…かもしれない。


(叔父さん、叔母さん。私は今、セクハラをされながら生活を送っています。大変ですが、まぁまぁ悪くはないです)



レンは、本来なら中等部教育に上がる際、大陸でも有名なお嬢様学校に入学する予定だった。

そこは女性としてのマナーを学び、淑女としての嗜みを学び、勉学を学び、芸術文化を学ぶ。

どこの名家、貴族、王族に嫁がせても恥ずかしくない女性を育成する宿舎でもあった。

レンはラードナー家の一人娘であった。

だから、名家、政治家の子息、或いは貴族出身の婿殿を迎え、ラードナー家を更に発展させていくと思っていた。

旦那の隣に立ち、つつましく嫋やかに振る舞い、美しく微笑む。そう思っていた。


だが、そんな考えを変えたのがレイラだった。


初等部を卒業し、まだ十二才だったレイラは子供…ましてや女の子が来るには危ないと追い返しても、何回も門を叩いた。


何日も連続で来るもんだから近所の子供だと思っていたジョンが何気なく出身地を聞いたら、工業地帯ではなく、三日かけてやって来た家出少女だった。


「私は武器を作りたいの!オプションだって開発できる!」


「だがなぁ、嬢ちゃん。ここは火を使う。金属だって、機械だって使う。いくら安全装置があると云っても、ここには指落とした奴等がたくさんいる。火傷して肌が爛れた奴等もいる。大怪我負う奴もいる」


「それでも!私はマスタング商会に弟子入りするって決めてここまで来たの!自分の力がどこまで通用するか知りたいの、試したいの!そのためには、貴方の所で修行して技術を学びたいんです!!」


たまたま、変な子がマスタング商会にやって来ていると執事から聞いていたレンは、見学と銘打ってレイラを見に行っていた。


レイラの言葉に、それはそれは驚いた。


だって彼女は、自分の道を自分で切り開いて行こうとしているのだ。


祖父や、両親の期待に応えようとしていた自分に、夢はあっただろうか。意志は、あっただろうか。


「…わたくしがやりたい事って、なにかしら」


レンが力無く呟いた。

案内をしていたジョーイがしゃがみ、幼いレンの視線に合わせる。


「それは、レンお嬢様が決める事です。ご自分の心に、素直に従ってみたらどうでしょうか。今、貴女は何か感じるものがあったのではないでしょうか」


困った表情を浮かべるレンに、ジョーイは微笑んだ。


それからレンは、祖父と両親に相談した。

本当にやりたい事が見つからない。

レイラという、ジョンが折れて弟子入りを認めた少女が気になることを。


最初、祖父達は戸惑った。


そりゃそうだろう。


期待の愛娘が進路に悩みだしたのだから。


だが、母は内心嬉しく思っていた。


今まで、言われた通り、わがままも言わず、家族や周りの期待に応えてくれていた娘が、自分の意志を持ち始めたことに。


結局、お嬢様学校への進学は止め、ヴェネトラで一番の女子教育機関への進学となった。


レンはレイラとふれあい、会っていくうちにレイラの試作品の武器の実験に付き合わされ、使用させられることが多くなった。


それに伴い、レンは魔力と体力向上を目指し、トレーナーを付けた。


祖父と父は、レンが暴力的になったらと心配していたが、レンはたくましく、強く美しい女性へと成長を見せた。意見もハッキリと言い、悪しきことは批判もする。


ちょっと高飛車な所はあったけど、情を見せる場面もあり、レンが成人したあかつきには是非お見合いをしたいと、殿方から殺到していた。


レンにとって、レイラは自分を変えてくれた恩人だった。豪快で、おおらかで、戦えて、武器も作れて。


今では知らない人などいない、有名な武器職人だ。そんな女性を、レンはお姉様として尊敬しないわけがなかった。



レイラは格納庫に持ち込んだ作業工具を使って、何か試作品を作るとかで籠ってしまった。


マイラはリビングで本を読んでいる頃だろう。


レンは一人部屋にいて、ソファに座り、昔の写真をマジックウォッチで見ていた。


初めてレイラが自分だけの力で武器を作り、実験台としてレンが使用した際、小爆発して煤塗れになった二人が笑って写っている。


この後、レイラがジョンに雷を落とされたのは言うまでもない。


レンが近づくと、すぐ笑うから、レイラが作業し、真面目な表情をしている姿をこっそり隠し撮りした写真もある。


「はぁ…わたくしだって、お料理が出来れば…お姉様にあんなことやこんなことを」


蝶よ花よと育てられた代償か。

レンは包丁を握ることさえなかった。


(今朝のマイラが羨ましいと思ったなんて…口が裂けても言えませんわ。わたくしだって、お姉様に後ろから抱きしめられたいですぅ!)


わたくしだって、お姉様にセクハラされたい!おしり触られて、胸も、お腹も、太ももだって!


今朝のマイラと自分を置き換える。


抱きしめられて、おしりを触ってくるレイラを、受け入れる自分がいる。


身体の奥がジンジンと疼く。思わず、ソファにおしりを押し付けた。


(こんなわたくしを知ったら、お姉様は軽蔑するかしら…)


そう思っても、想像し始めたら止まらない。


レンは胸を少し指で押すと、思ったより刺激があり吐息を零した。


「っ!びっくりしたわ…」


ドキドキしつつ、息を顰めソファに寝転がり、スカートを避けて、足の間に手を滑り込ませる。


「すごい…もう、こんなっ」


レンは顔を赤面させ、考えるように顔をソファに埋めると、起き上がり、ソファの肘置きに跨り、腰をゆるゆると前後に動かし始めた。


跨ってだなんてはしたないのに、興奮して止まらない。


擦れる感覚が堪らない。


「はぁっ、はっ、おねえさまっ、ぁっ!あ、すごい…!」


腰骨からゾクゾクする感覚が襲い、レンはビクリと体を痙攣させ、蹲る。


息を整えようと肩で息をしていると、ドアをノックされた。


「は、はひ!!」


「レン?そろそろお昼だからお手伝いしてってマイラが言ってるわよぉ」


「す、すぐ行きますわ!お姉様、先に行ってくださいな!」


「はいはーい」


レイラの足音が遠のき、レンは罪悪感から長い溜息を吐いた。



「お待たせしました。遅くなってしまい申し訳ありません」


「レンさん、丁度お昼が出来ましたよ」


マイラがトマトソースのパスタをテーブルに置く。

「大丈夫?レン」


「だ、大丈夫ですわよ」


レンが席に座ると、レイラが嬉しそうにニコニコする。


「実はさっき、アクセサリー作ったんだよのねぇ。これから三人で旅する仲間って意味もこめて、永遠の友情を乾杯して!」


レンとマイラに渡されたのは、ゴールドピンクのブレスレットだった。

シンプルな作り。

マイラのブレスレットにはハートのチャーム。

レンには蝶のチャーム。そしてレイラは星のチャーム。


「ありがとうございます、レイラさん」


「大切にしますわ、お姉様…ありがとうございます」


「ふふ。これからもよろしくね!レン、マイラ」


レンは、貰ったブレスレットを、大切そうに手の中で包み込み、胸に当てた。


きっと、このブレスレットは生涯の宝物になる。


死んだときは、一緒にお墓に入れてもらおう。


それくらいレンにとって、嬉しい出来事だった。


風呂場に湯けむりが漂う。


白乳に濁る湯船に真紅の薔薇と花びらが波にゆれる。


レイラは両脇にレンとマイラを置き、両手に花状態でワインを飲む。


「ぷはー!一回やってみたかったのよぉ!金持ちごっこ!」


「レイラさんのイメージのお金持ちってどういう人なんですか」


「本当は札束風呂が良かったんだけどね」


「えぇっと…レンさんに一回謝ったらどうですか?」


二人の談笑を見つめながら、レンは口元まで湯船に沈む。


自分とレイラは、こんなふざけた会話とかしたことがあっただろうか。


誰よりも長く一緒にいるはずなのに、リアムやマノン、そしてマイラといるほうが、レイラが生き生きして見えるのは何故なのだろう。


その時、胸を鷲掴みされ、驚いて足を滑らせ湯船の中に溺れる。


「ぶふぁ!お、お姉様?!」


「あははは!びっくりした?いやぁ、レンもおっきく育ったなぁって思ってさぁ」


「し、身長のことですか?!胸のことですか?!」


「どっちも?あ、レン。髪に花びらが付いてるわよ」


髪に張り付いた花びらを取る。


「ありがとうございます…」


「マルペルトに着いたらさぁ、マイラみたいにその国の友達が出来るのかなぁ」


「できますわ、お姉様なら」


「でもさぁ、マイラ達と出会えたのもレンのお陰だよね」


レイラとマイラがニヤーっとレンを見る。


「そ、そうだったかしら」


「そうですよ。レンさん、急にメルカジュールランド貸切るって言い出して。私、焦って声かけたんですよ」


確かに騒いでいたかもしれない。


レイラは注いだワインを一気に飲み干す。


「レンがいて、マイラを仲間にして…そんな私達なら、なんでも出来る気がするわ!」


「えぇ!お姉様が率いてくださるなら、間違いなしですわ!」


レイラがザバーっと立ち上がり拳を掲げると、レンが横で瞳を輝かせている。


そんな良いコンビを見て、マイラは微笑んだ。


その時、三人は気が付いていなかった。マルペルトへの進路を指すコンパスが乱れ、道を逸れ始めていることに。



翌朝。

霧に囲まれていることに気が付いたレイラが疑問に思い、操縦室に向かう。


「嘘…昨日寝る前に確認したときは、進路は合っていたはずなのに。どうして急に…」


昨晩、確認したときは確かにマルペルトへの進行方向だった。


だが、夜中の内に磁気は完全に故障し、低空飛行となり、進路も狂っていた。


「とりあえず、ここがどこだか確認しないと」


レイラが操縦と地図を表示したときだった。


ズドーン!!


「うわぁあ!」


レイラは突然の衝撃に倒れ込む。


一方、朝食の準備をしていたマイラも、部屋で身支度をしていたレンも何が起きたのか把握できないでいた。


『墜落に備えて!』


レイラの声がマジックウォッチから流れる。


二人は言われたままキッチンやベッドにしがみつく。


そして、レイラ達を乗せた飛行艦は霧に包まれた森に墜落した。



レイラ達は、外に出る。


助けを求めるのと、レイラが艦を修理するためだ。


「これ…攻撃されてる」


「え、もしかして、わたくし達不法侵入と勘違いされて…」


二人が墜落の原因になった箇所を見ていると、マイラが震えた声で呼んでくる。


「レ、レイラさん…レンさん…」


二人が振り返ると、そこには軍服を着て、銃を構える男達が複数人いた。


「お前達、何者だ!」


「わ、私達は旅行者で…」


レイラが前に出て説明する。


だが、そんな言葉、男達の耳には入ってこなかった。


そして、ギラついた眼でレイラ達三人を見据える。


「ヘヘ…運が良かったなぁ、姉ちゃん達」

「は?」


「ここには俺達しかいねぇんだよ!」


「?!」


男達は一斉に三人に襲い掛かる。

まるで空腹に飢えた獣が餌を見つけた時のように。


一人の男がマイラの服を破く。


「きゃあ!」


「マイラ!」


「ハハハ!良い声じゃねぇか!こりゃ楽しみだな!」


男は我慢できずマイラの首に噛みつき、乱暴にスカートの中に手を入れてくる。


やめて、と叫び押し退けようとするが、マイラの力ではビクともしない。


「いやぁ!助けて!だれかぁ!」


「マイラ!クソ、離れなさいよ!」

組敷かれそうになっていたレイラが男の急所を蹴飛ばす。


「ウグッ!」


思わぬ反撃で油断し、蹴られた痛みでレイラから退いた男を押し退け、レイラは隠し持っていた小型の銃を男達に向ける。


「その子達から離れなさい!今すぐに!」


「威勢のいい姉ちゃんだなぁ…いいぜ、相手してやるよ。だけど負けたら文句言うなよ?」


男が銃を向けた時だった。


「止めないか、君達!」


一人の、人の良さそうな男が声を張り上げる。


「誰だ、お前…」


「おい」

一人の軍服の男が、喧嘩を売ろうとした男を肘で突き、止める。


軍服の男達はレイラ達から離れると、来た男を通す。


「…女性に随分と酷い事をしましたね。同じ男として恥ずかしい。申し訳ありません。私も男ですので信じては貰えないかもしれませんが、一旦私の屋敷に来て、お洋服を着替えたらいかがでしょうか?身体が汚れたなら、風呂もお貸しします。この飛行艦も召使の者になおさせましょう」


「…貴方、名前は」


「私はネイチャー。ネイチャー・ネクストと申します」


「身分証明書を見せて」


「勿論ですとも」


マジックウォッチに表示される身分証にも、ちゃんとネイチャー・ネクストとある。


レイラは怯えるマイラと、庇い抱いているレンを見て、ここはこの男の屋敷に避難した方が安全だと判断した。


少なくとも、彼はこの軍服の男達に影響力があると見た。

「解ったわ。私はレイラ・ラスウェルよ」


「よろしく、レイラさん」


ネイチャーは微笑むと、手を差し出してきた。


レイラも差し出し、握手をした。



「…何故メイド服なのですの」


三人に渡されたのは、メイド服だった。


レンとマイラはスカートの丈の短いもの。レイラはロングスカートのもの。


「申し訳ありません。我が家は女っ気が無いもので…使用人の給仕用の服しかありませんでした…あはは」


ネイチャーは申し訳なさそうに頭に手を当て、笑う。


「あの、折角なので修理が終わるまでお世話になることですし、ネイチャーさんが良ければ、お掃除のお手伝いでもさせてくれませんか?」


マイラが申し出る。


「いいんですか?それはとても助かります。なんせ、一人で住むには広く、使用人を雇っていても、一日で掃除できる部屋なんて限られているので大変助かります」


レイラはまだ疑っていたが、助けてもらい、良くしてもらったマイラはすっかり安心しきっており、レンは疑いと信用を天秤にかけている様だった。


様子を見て、もし怪しければ速攻で逃げればいい…レイラは算段を立てると、マイラの意見に頷いた。


「そうね。助けてもらったのに、タダで衣食住提供されるのもちょっと気が引けるわね。さ、掃除してほしい部屋を教えて」

「ありがとうございます。マジックウォッチに地図と掃除をお願いしたい部屋に目印を着けました。そこをお願いします。私は書斎で仕事をしていますので…何かあったら、連絡をください」


そうしてレイラ達はネイチャーと別れ、掃除する部屋へと向かった。


掃除を頼まれた部屋は応接室と、美術品が飾られた部屋だった。


「応接室の動かした椅子とかの位置、直したらすぐ行くから、二人は美術室に先に行ってて」


「わかりましたわ、お姉様」


レンとマイラは、一足先に美術品の部屋へ向かう。中に入ると、そこには思っていたものとは違う品が並んでいた。


マイラが手を止めて壁に掛けられていた品を眺める。


美しい腕から手先が太陽のように丸い黄金の板を囲む物。

女性の胴体の周りに金属で出来た花を飾っている物。

複雑な形を綺麗な足で表した物。リアルな女性の顔の物…

どれも女性の身体の部位をモデルに作られた物だった。


「なんか…私には理解しがたい芸術です」


「無名の芸術家なのかしら…その、ちょっと悪趣味な美術品は見たことがありませんわ」


「どれも金属加工っぽいですね」


「加工しやすいですからね。さ、掃除をしましょう」


喚起のために少し開けておいた扉…レイラは廊下から二人の会話を聞きし、冷や汗を流していた

金属…加工、芸術…。


『お人形にするの』


蘇る囁き声に、レイラが部屋に急いで入ろうとしたときだった。


「っ!んぅ!んん!!!」


レイラはネイチャーに引きずられ、客室に押し込められ、ベッドに突き飛ばされた。


「フフフ、アハハハハハ!予定ではもう少し騙されてもらっている予定だったんだけどね。君はメイラと会ったことがあったね、確か」


倒れるレイラの両腕を掴み、ネイチャーが覆いかぶさる。


「アンタ…!何者なのよ!あの子達に手を出したら許さないわよ!」


「うーん、偽名を名乗っておいて良かったよ。こうして騙されてくれたんだから♡私の名前はナノス・ネイサン…聞いたことあるだろう?リアム辺りから」


ナノスがニヤリと笑う。

逆光で影になるのに、眼がと笑う口が異様に見える。


「ナノス…」レイラの体が脱力していく。


どうして、よりにもよってこんな男のいる場所に墜落したのか。

いや、解って攻撃した?偶然?どちらにせよ、運の尽きだ。


どうする。どうすれば自分達が助かる道がある。


「協力してくれるなら、君達の命は保障するよ。あの子達の身体を脅かすこともしない…安全も保障しよう」


「…協力って」レイラは緊張から呼吸が大きくなり、胸が上下するのが解る。


「私の実験に付き合ってくれよ。あの中で、一番の年長は君だろう?拒否してもいいけど、そしたら他の二人に頼むまでだよ」


「脅迫の間違いでしょ!」


「ヒヒ、そうとも言うかもね。で、どうするんだい?この状況で、無知って程世間知らずと言う訳でもないだろう。拒否も、了承も、君に決定権があるんだよ、レイラ」


レイラは涙目を堪え、歯を食いしばる。


言葉にするのは腹が立つので、拘束されていた両手を振りほどくと、ナノスの首に腕を回した。


「ありがとう、レイラ。感謝するよ」


上機嫌に笑うナノスの声が耳に五月蠅く響く。


ナノスはレイラの耳を舐め、脇腹を撫で、愛撫してくる。


「はっ…」


「は?」


「初めてだから、痛くしないで」


「勿論だとも」


ナノスにキスをされ、舌で下唇を突かれて、おずおずと口を開くとぬるりと舌が侵入してくる。


(こんなことになるなら)


こんなことになるなら、こんな糞野郎に初めてを全て捧げるくらいなら。


酔った勢いでレンにキスして、ファーストキスをあげとけばよかった。


レイラが後悔しても、もう時間は巻き戻せない。


「ようこそアマルティアへ」




来客用の部屋から、情事で交わる、淫らな声が聞こえてくる。


その声の持ち主を、レンは知っている。


レイラがいつまで経っても来ないから、応接室に様子を見に行ったが、誰もいなかった。


少し歩くと、レイラが所持していたモップが転がっていた。


その先にあった来客用の寝室から声が聞こえて来たから、レイラかと思い、部屋をノックしようとした。だが、

『レイラ、君は本当に良い子だ…賢い子だ……』


『ち、がぅ…!はあっぅ、ん』


レンは、ドアにもたれかかり、レイラの初めての行為を立ち聞きしていた。


どうしてレイラがネイチャーと交わっているのか理解出来ない。どうして、どうして。


レイラの乱れる声が大きくなっていく。

それを聞いて、興奮している自分にも腹が立つ。


憧れで、尊敬していたお姉様が、今日知り合ったばかりの男に何故足を開くのか。なぜ身体を許したのか。


『お願い、私だけにして!』


その言葉を聞いた瞬間、レンはブレスレットを引き千切り、床に叩きつけていた。


怒りと嫉妬に任せ、捨てたブレスレットを眺め、レンは酷い後悔に襲われる。


「どうして、お姉様…」


レンはズルズルとしゃがみこむと、項垂れ、泣くことしか出来なかった。

第1章は完結しました。

次回からは第2章となります。

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