103話・・・過去の扉3
作品を読みに来て頂き感謝です!
前回投稿から2ヶ月ほど開いてしまいました…
仕事の合間に書いているのでなかなか進まず、、、
この先も書いていきますので応援よろしくお願いします!
地下の飛行戦艦の解析を任されたモアは、ブラックボックスの指示通りに操作を行っていた。タブレットはデウトが持っている。情報を全て戦艦にコピーして。
「モアさん、そろそろ休憩にしましょう」
弟子の一人がノックをした後、ドアの向こう側から声を掛ける。
「解った。先に休んでいな。私はもう少しで解けそうな文面があるから…」
「はい」と返事が返る。モアは眼鏡をクイッと掛けなおす。ずっと画面を見続けて、眼精疲労が蓄積される。
「一体何を隠しているんだ…お前は」
戦艦に向かい、独り言を零した時だった。ピコン、とロック解除の音がする。
「ッ!なんて書いてある…?」
羅列していた文字に、モアは声が出なかった。これが真実なら、想像以上の事が起ころうとしている。モアはすぐにデウトに連絡を取る。
「デウト、今すぐあの若造と一緒に地下へおいで!」
急遽呼び出されたデウトとエアルは言われた通り発掘場へ五分もしないうちに到着する。
デウトの方が年上のはずなのに、貫禄があるのはモアの方だ。肝も据わっているし、何よりいざという時に強い。動揺してもすぐに現状を受け入れ、把握する。
「モア、何か解りましたか?」
「この文面を見てほしい」
モアが指す文面を二人は読みだす。
――戦争が起きた。未曾有の戦いになる。これから生まれる我々の子孫に希望を託そうと思う。コールドスリープでメイヤーズ女王を眠りにつかせる。いつか、またこの戦争にも劣らない争いが起きるとき、彼女を目覚めさせることが出来るだろう。願わくば、偶然女王を起こしてしまうほど、平和な世界になっていることを祈ってしまう。
読み終えたデウトとエアルは黙り込む。
「……ほ、本当に、約千年前のメイヤーズ家の女王がいるのか…?」
「確かめましょう。モア、コールドスリープ解除を」
「はいよ」
モアは解っていたように、スムーズに手が動く。そしてパネルに浮かぶエンターキーを押すと、戦艦内がカチャコンと何かの鍵が開いたかのように音が鳴る。
「コールドスリープの場所は?」
「こっちだよ」
案内されたのは女王の部屋。以前来た時には無かったカプセルがベッドの上に置かれていた。覗き込むと、冷たい色をした女王が眠っていた。上を見ると、僅かに隙間があった。きっとその上にコールドスリープが仕込まれていたのだろう。
「…おばさん…?」
「おばさん?」
エアルは慌てて説明する。
「ミラの母親です。メイヤーズ家の血筋は父親の方なんですが…。ミラに似ているから、おばさんに重ねちまったのかも…しれません」
ミラがもう少し年齢を重ねれば、きっと女王に似た雰囲気になるだろう。エアルはそう思った。
「で、どうするんだい」
「目覚めさせます」
デウトの決断に、モアとエアルは頷く。そしてデウトが解除ボタンを押す。
『起動。名ヲ申セ』
「デウト・アルフレッド。アルフレッド家当主だ」
『アルフレッド家……解除』
カプセルがゆっくりと開く。眠っていた女王の瞼が僅かに揺れる。そして、酸素がいきわたったかのように血色がよくなる。白く冷たい印象だった唇と頬は紅が挿す。瞼がゆっくり開く。そして王女が目を覚ました時、ゆっくりと微笑む。
「アンナ、ケイン…コールドスリープする約束だったじゃあない。あら、そちらの方は?」
アンナと勘違いされたモアと、ケインと勘違いされたエアルは顔を見合わせた。
「女王陛下。彼等はアンナとケインではありません。コールドスリープから目覚められた女王よ。私が現アルフレッド家当主のデウト・アルフレッドです」
そう説明をされた女王は一瞬悲し気に眉を下げる。だが、すぐに凛々しく振舞う。
「そうでしたか。私の名はスプリング三世・ニコル・メイヤーズ。皆からはニコルと呼ばれていました」
「私はモア・アルフレッド。アルフレッド一族の者です」
「お、俺はエアル・アーレントです。陛下」
ニコルは身を乗り出し、モアとエアルの頬に手を添える。
「まぁ…!ケインとアンナにそっくりなのは当然だったのね。やっぱり末裔なだけあるわ!」
雪解けに咲く花のように、ニコルは笑顔が咲く。そして、スイッチを切り替えるように、表情は険しくなる。
「さて…。ここで一番偉いのは見た限り、デウトのようですね」
「はっ、陛下。現時点では私がここの責任を任されています」
ニコルが手を出すと、デウトはその手を取り、カプセルから出るのを手伝う。カプセルから出る立ち振る舞いすら、優雅だった。
「私が目覚めたということは…この戦艦が必要となったのですね」
「残念ながら」
「いえ…ネイサン家が時を操る能力を持っている以上、それを悪用した者が現れるのは予想しておりました」
昔からネイサン家は危険因子だったようだ。ニコルは解ったように口を開く。
「私がコールドスリープをしたきっかけをお話ししましょう」
「それでしたら、直接聞かせたい人が数名おります。呼び寄せますのでお時間を頂けないでしょうか」
「かまいませんよ。その間、現代の事でも、教えていただこうかしら」
デウトは早急にモルガンに連絡を取った。
ティアマテッタにて。
「今から送る地図に来てほしい?また急だな。まぁ行くからいいのだが」
モルガンのマジックウォッチに地図が送られてくる。本来なら山しかない場所だ。こんな人気のない場所に来させるとは、一体デウトは何を考えているのかと首を捻る。
『リアム君とミラ君は絶対に連れてきてください。では』
本当に手短に話して終わった。モルガンは放送でブラッド、エンキ、リアムとミラを呼び出す。
「呼び出し?シルヴィノから帰ってきたばかりなのに」
「なんだろう、モルガンさんの言うことだから…不安になってきたや」
たまたま、リアムはミラに顔を見せに来ていた。恋人同士だと知れ渡っているため、医療班からの熱い視線が集中する。
「とにかく行こう」
「うん」
言われた通り、リアム達は軽い身支度をすると、集合場所に指定されていた飛行艦の前にやって来る。もうモルガン達は揃っている。
「緊急な召集にも来てくれてありがとう。これからデウト氏が指定してきた場所へ移動する。ここから約五時間だ」
「はい!」
飛行艦に乗り込み、リアム達は指定された場所…テマノスへ旅立っていった。
モルガンをはじめとするブラッド、エンキ。そしてリアムとミラをテマノスに来るよう伝えたのだ。ただし、外部からの人間をあまり好まないテマノスの住民に感づかれないように来てほしいと念を押した。
モルガンはそれをやってのけた。しばらくしてから、採掘場に五人が訪れたのだ。連れて来る役目を担ったエアルが採掘場の出入口前に立っていた。
「よっ、リアム、ミラ。久しぶりだな」
「久しぶり…ていうか、こんな町があったなんて全然知らなかった…」
リアムは辺りをきょろきょろと見渡す。
「早く中に入ろう。ここはあんまり人が来ないとはいえ、住民に見つかるとデウトさんに迷惑がかかるからな」
「では、案内を頼もうか」モルガンが言う。
エレベーターの中で、エアルはテマノスについて軽い説明をした。ここには混血の子が沢山いることを教えた。
「マノンだけじゃあなかったんだ」ミラは驚く。
「彼等が外の世界でも羽ばたけるようにするのが、今後の我々の課題な、ブラッド」
「そうですね」ブラッドが頷く。
「しかし、随分下まで行くんですね」
エンキの言葉に、エアルは苦笑いをする。
「まぁ、飛行戦艦って呼ばれるだけあるんで」
「戦艦か…また物騒な物かこの中に眠っているんだな」
採掘場へ着くと、五人は戦艦を見て息を呑んだ。確かに戦艦クラスの巨大さを持っていた。空洞の中に土に半分が埋まっている状態の戦艦が静かに眠っていた。
「デウトさん、連れてきましたよ」
「ありがとうございます。では紹介させていただきます。こちら現ティアマテッタ軍のモルガン・ハンプシャー大佐。ブラッド・ウォーカー大尉。エンキ・スタイン大尉。リアム・ランドルフ。ミラ・メイヤーズ。以上五名です。陛下」
「ありがとう。私の名はスプリング三世・ニコル・メイヤーズです。リアム、ミラ。貴方達を見ると私の従者を思い出します。とても似ている…」
「ママ…?」
ミラの言葉に、全員そ視線がミラに向く。慌てたミラは、目元を擦り、涙を誤魔化す。
「いえ、人違いでした。すみません…。あの、メイヤーズって、私の親戚ってことですか?」
ミラが恐る恐る尋ねる。しかし返答に皆が驚愕する。
「そうですね。現代の姫君。私はコールドスリ―プで千年程眠っていました」
「ひ、姫君だなんてそんな!私は普通の家庭で育ちました…」
思わずリアムとミラは言葉を詰まらせ、見つめ合うことしか出来なかった。
出で立ちから、ニコルが位の高かった人物であることは解った。過去に一体何があったのか。
「では陛下。過去の事を話してくださいますか」
「はい。私達は…あの日、ここまでこの戦艦で逃げて来たのです」
千年前の出来事だ。
ルナールの民は新たに降り立った土地を開拓するために、奴隷が必要だと考えた。そして生まれたのが無属性以外の属性…火、水、木、土、金だった。つまりは、彼等はクローンとして誕生したのだ。
最初の頃は順調だった。ルナールの民が政権を握り、他属性は生活を営み、働き、休みの日には自由に過ごすという一般的な暮らしをしていた。
ここで問題が起きた。
同属性間で生まれた赤ん坊は健康に育つが、他属性間で生まれた赤ん坊は死産、産声を上げたとしても短命が多かった。他属性と夫婦、恋人になったものは生まれ変わって同属性になれるよう、自殺する者まで現れた。
ひとつの綻びが生まれると、今まで気にしなかったことも浮き彫りになっていく。
ルナールの民は他属性から巻き上げた金で豊かな暮らしをしていることに疑問を持ち始めたのだ。自分達は過酷な労働で、酷い時には死者すら出ているのに。火種となったのは、とある金属性の青年が現場で事故死したことだった。
その日はルナールの民、ネイサン家が視察に訪れていた。青年が作業場に立ち、仕事をしていると誤って落下したのだ。命綱は簡単に切れた。死亡事故を見て、ネイサン家当主はこう言いのけたのだ。
「早くかたせ」
これが限界突破し、他属性の反乱が起きたのだった。不当な扱い、金の吸い上げ。全てに怒り心頭となった。
人口の割合は他属性の方が圧倒的に多かった。このせいもあり、ルナールの民の半分が殺害された。
しかし、希望の光が一筋の救いを与えた。
金属性がルナールの民を助けたのだ。
ニコルは問うた。「どうして助けるのですか?」。金属性の長は微笑んだ。「貴女方は、我々の手を握ってくださり、労ってくださった。それだけで助ける理由は十二分です」
それはニコルも忘れていたことだった。
ある日の視察で、金属性の男の手が、豆だらけになり、土にまみれていた。その手を取り、「貴方のお陰で、私達の生活が成り立っているのです」そう告げた。
ニコルをはじめとする従者や希望者が飛行戦艦に乗り込み、安寧の地を目指して飛び立った。しかし、去り際に受けた攻撃でエンジンが故障し、目的の場所までは辿り着けず、現テマノスの土地に不時着したのだ。
何とか逃げ切ったが、ニコルにはある思いが芽生えていた。
「女王陛下。この争いはいつ治まるか解りません。また、同じように争いが起きる未来があるかもしれません…」
「でしたら、私をコールドスリープにしてください」
元はと言えばネイサン家が傲慢な態度を取ったから始まった戦争。またネイサン家がやらかした時に、それ以上の戦争が起きた時に、過去を知る自分を必要としてくれる誰かが目覚めさせるようにしたのだった。
側近だったアンナとケインは、涙で頬を濡らす。
「女王…本当にこのような選択でよろしいのですか?」
「決めた事よ。私は、未来にも必要だと思うの。気づいているでしょう?メイヤーズ家の子供達がスキルの発動がどんどん遅くなっていることを。遠い未来では、きっと使えないことが当たり前になっている。その為にも、私は未来に託すことにします」
女王の覚悟に、アンナとケインはもう口出しをすることは無かった。
「陛下、準備はいいですか?」
金属性の男が尋ねる。
「はい。最後に…貴方達を目に焼き付けて眠れること、誇りに思うわ」
カプセルが閉まると、ニコルは眠りについた。長い永い眠りに。
カプセルは見つけられない場所に隠された。アーレント家とランドルフ家の活躍があり、やっと戦争は治まった。
そして、現テマノスからルナールの民と、移住を希望した他属性が新たな地に選んだのは旧ティアマテッタだった。
「無属性以外が、クローン…」
振り絞った言葉が、これだった。リアムは心臓がバクバクと鳴るのが解った。こんな事実を突きつけられて、モルガン達は平気なのだろうか。
しかし、それは杞憂に終わった。
「なるほど。我々のご先祖様はクローンだったのか」
「今では無属性と変わらない生活をしている。気にするな」
「そうだぜ、リアム。お前等もデリケートに扱う必要なんかねぇ。生きてるもん勝ちなんだからな」
モルガン達の言葉を聞いて、緊張が解けていく。
「じゃあ、今の混血の子達って短命…じゃあないよね。マノン見てると、凄く元気だし」
ミラの疑問にニコルが答える。
「恐らく、時が経つにつれて適応していったと思います。だから混血の子が生まれても、私達と変わらず生きている…クローンが最初とは言え、もうこれは一つの生命と変わりないのです」
その言葉を噛みしめていると、モルガンが唐突に質問をする。
「ニコル女王。女王はどこから逃げて来たのですか?一体、どこで戦争があったのですか?」
「……それは、アマルティアと呼んでいた土地から逃げて来たのです」
アマルティアと聞き、全員が殺気立つ。
「アマルティアで私達は生活を共にしていました。しかし、戦争が起きたことで私達は飛行戦艦に乗り、本来乗ってきた円盤から脱出したのです」
「円盤?」
モルガンの眉がピクリと動く。
「陛下、そのアマルティアの拠点を教えてもらうことはできるでしょうか」
「私の記憶が正しければ」
デウトは機器を操作して、地図を映し出す。
「ここがテマノスです」
「よかった。ここら辺は地形が変わっていません。アマルティアはここです」
レーザーポインターでニコルが場所を示す。
「ブラッド、データに残せ」
「はっ」
ブラッドは速やかにデータを移行しようとすると、デウトから「外部には漏らさないでほしい」と要注意を受ける。「勿論外部には漏らさない」と約束をすると、ブラッドは紙に地図を描き示す。
「アナログで?大丈夫なんですか…逆に?」エアルが心配そうに言う。
「ティアマテッタに帰る頃にはこの紙は燃えて消えているだろうから心配はない」
ブラッドの記憶力にエアルは苦笑いをする。
そこに、発掘作業を再開するためにモアがやってきた。
「おや。こりゃまた随分大勢だね。あぁあ…秘密事項をこんなに見せて」
「すみません。ここに居る全員が黙っていればバレません」
デウトの考えにモアは肩を竦める。
「じゃあ、軍のお偉いさんみたいなのがいるから丁度いい。ニコル女王の今後をどうするか決めたいんだけど」
そうだ。ニコルをティアマテッタに連れて行くかモアは考えていた。こんな重要人物を小さな村と言っても過言ではない場所で守るには人も足りないし、武器も足りない。
「陛下。我々と一緒に来てくださいますか?最大の警備でお迎えいたします」
モルガンが提案すると、ニコルは困ったように眉を下げる。
「私の意見を聞いてから貴方達で決めてほしいのです。それでもかまいませんか?」
「えぇ、勿論」
すぅ、とニコルが深呼吸をする。そして語り始める。
「出来れば、私はここに残り飛行戦艦の発掘作業を手伝いたいと思っています。陛下と呼ばれることなく」
「それは、一般人と同じように生活をするということですか」
「はい。私はもう、納める土地も、導く民も過去のものです。今、この現代で生きるには女王という称号は重すぎます。目覚め、現在の状況を聞いたうえでの判断です」
モルガンはブラッドとエンキに無言で目配せをする。二人はただ頷く。
「解りました。我々は貴女の意見を尊重します」
「ありがとうございます。モアさん、私も貴女を手伝います。よろしいでしょうか」
「いいも何も、ティアマテッタに行けと言っても聞く耳を持たなさそうな女王様じゃあないか。私もニコルは残るだろうと思っていたよ」
モアがハァ、と溜息を吐く。
「ありがとう、モア」
ニコルはモアの手を取り喜んだ。
「さて。我々は帰るとするか。エアル氏とデウト氏はまだ残るのかな?」
「はい。もう少しテマノスに居ます」
「解った。ここでの出来事には緘口令を引く。もし喋るようなことがあれば、それ相当の責任を取ってもらう」
「あの」
リアムが手を上げる。
「どうした?」
「テマノスの風景を、影からでもいいんです。見てみたいんです」
意見を聞いたモルガンはデウトを見る。
「いいですよ。ただ、本当に影からみるだけですが」
「ありがとうございます。見ておきたかったんです。守る町がまだあることを。そして、混血の人達だって同じ人間だということを」
恐らくだが、マノンが赤ん坊の頃の出来事は黒歴史にすらされていないだろう。聞けば思い出され、「あぁ、あの混血の赤ん坊のことか」と面倒臭そうに返されるだけだろう。そして酒のつまみにされるのだ。馬鹿なカップルがいたと。
それがリアムにとっては、とても腹立たしく許せない事だった。今でも混血がいると知られればマノンとの出来事を繰り返すことだろう。
町にはモアが乗ってきたワゴン車で向かう。車の中から町の様子を見るだけ。そう約束をした。これにはリアムだけじゃなく、モルガン達も同行した。
その最中、ニコルはリアムとミラをじぃっと見つめていた。穴が開く程に。
「あの、何か御用でしょうか?」リアムが尋ねる。
「貴方達がいるなら、話しておこうと思って。ご存じの通り、あの飛行戦艦は逃げてきてここに墜落したのです。その逃げた理由は戦争です。その時に、ランドルフ家にはとてもお世話になったの。今でも忘れないわ…この恩は」
「きっと。ご先祖様が聞いたら嬉しく思ったかと」
「そうならいいのですが…」
そしてニコルは突然、自分の腕を引っかいた。かなり力を込めたのか、薄っすらと血が滲む。
「ニコルさん?!何をしているんですか!」
ミラが身を乗り出してハンカチで拭おうとすると、その傷はもう治癒していた。
「あ…もしかして、ニコルさんは」
「そうです。私はスキルを発動することができます。今の時代に、ヒールを使える者は何人しますか?」
「それは…誰も居ません」
「そうですか…。でも、この力頼りになることは良いとは思えません。よかったのかもしれませんね」
ニコルは微笑んだ後、すっと真顔に戻る。
「今、メイヤーズを名乗るのは何人ほどいますか?」
「恐らく、私だけです。それも、その…ネイサン家の分家です」
「ネイサン家は、私の時代からヒールに目を点けていました。どこかで政略結婚でもしたのでしょう」
あまりよく思っていないのか、表情が険しくなる。それ以上、ミラも、リアムも追及は出来なかった。
町に着くと、モア、ニコル、デウトとエアルが車から降りる。
「あ!モアさんお帰りなさい!」
「デウトさん!今回はどのくらいいるの?」
「エアルのお兄ちゃんだ!ねぇ、ヘスティアさんとマノンちゃんは一緒じゃあないの?」
町の子供達がワーッと群がる。
「いいかい、お前達!今日からこの町で暮らすニコル・メイヤーズだ。世間に疎いから、困っていたら助けてやるんだよ」
はぁい!と子供達が元気良く声を上げる。
「…ゼーロの街とはだいぶ違うね」
「あぁ。ゼーロの街は、あまり他属性の介入を良く思っていないからな」
「いつか。ゼーロもあぁなってくれるのかな」
「人の考えを変えるのは大変なことだからな。上手くいかないかもしれない。でも、根気よくやれば次の世代、その次の世代へと受け継がれて、きっと変わっていくはずだ」
「長い道のりになりそうだね」
「だけど。俺はいつか…マノンや、似た境遇の子供達が大腕を振って、安心してゼーロを歩けるようにしたい」
「うん、私も」
凛々しくなったリアムとミラを見ていたモルガンは、茶化したくてしょうがなかった。次の世代と言うのは君達の子供のことかね?!とか、エアル氏は結局ヘスティア女史とマノン女史どっちが好きなんだ?!と聞きたくて聞きたくて仕方なったが。両脇に堅物な部下がそれを許してはくれなかった。
原作/Aret
原案/paletteΔ




