投稿2周年・・・特別編
作品を読みにきて頂き感謝です!
作品を投稿し始めて2年。
2年目は仕事が忙しくて投稿話数が少なくなってなかなか話を進めることができませんでした。
3年目はもうちょっと話を進めれるように頑張ります!
みなさまお付き合いよろしくお願いいたします!
司令官室にて。
モルガンは考えていた。今後の事を。手を組み、頭を回転させ、考える。
「ブラッド、ちょっといいか」
「はっ。なんでしょうか」
「今後についてだ」
その言葉に、ブラッドの気が引き締まる。先日、シヴィルノがクーデター及びアマルティア攻撃により国王制崩壊。勝利で終わったものの、暫くはティアマテッタ監視下、クレア王女を一時保護となった。今後の方針についてとなると、自然と緊張が高まる。
「今後というか…最近、娯楽が無いと思わないかね?」
「…はい?」
聞き間違えか?と思った。今、上司の口から「娯楽が足りない」と発せられた気がした。
「…もう一度お願いします」
「娯楽だよ、ご・ら・く!殺伐とした任務が多いじゃん?特にアマルティア殲滅部隊なんかはさ、国の崩壊を見ちゃったから心配なんだよねぇ。年齢も若いじゃん?メンタルやられてないか心配なんだよねぇ」
「メンタルケアは欠かしておりませんが…。今、娯楽と仰いましたか?」
「おっしゃったよ。たまには羽を伸ばしたいじゃあないか!」
モルガンは腕を伸ばし飛ぶフリをする。思わず、頭を抱えた。
「あの。部下を思いやる気持ちは大切ですが、娯楽とは一体何をお考えになっているのですか」
「娯楽は娯楽だよ。たまにはさ、またメルカジュールの時みたいに楽しいことが欲しんだよ!それは生活の潤いにもなるし、考え込んでいるよりも体を動かした方が良いとおもうんだ。何か面白そうなことはないかなぁと」
マジックウォッチを確認し、検索を掛ける。
「おぉ!ブラッド!今メルカジュールランドでお化け屋敷タイムアタックがやっているぞ!」
「……やるのですか?」
「やるね」
ブラッドの目付きが変わる。
「承知しました。すぐにメンバーを集めます」
「話が早くて助かるね!」
メンバーリストを開き、明日夜、本庁正面玄関前に集合と一斉送信をする。
こうしてアマルティア殲滅部隊のお化け屋敷タイムアタック対決が開催されることとなった。
呼ばれたメンバーはアマルティア殲滅部隊、ミラ、ヘスティア、クレアにシアだ。
「緊急集合って言われたけど…」
ミラがメンバーを見て、不穏な空気を察知する。
「ミラ、言うな。言ったら終わりな気がするんだ」
リアムがそっと止める。
「そうだよね。ごめん…」
「あの、一体これは何の集まりなのでしょうか…」
クレアが不安そうに眉を顰める。
「そうです。私だけならまだしも…クレア様も必要とされるとなると、私も無言で言うことを聞けとは出来ません」シアが物申す。
「そうだよ。クレアやティア姉を無暗矢鱈に外出させるのって、今じゃあちょっと心配だよ」
マノンもシアに賛同する。
「いえ…マノン。このメンバーを、状況をよく考えてみてください。何か重なることはありませんか?」
ヘスティアの言葉に、マノンは改めてメンバーを見る。
リアムにミラ。ゾーイ、マシュー、シレノ、ブレイズ…アマルティア殲滅部隊とは言うが、ローラとユーリの姿が無い。
「ローラ先輩とユーリ先輩は?」
「逃げたな」
「逃げましたね」
リアムとヘスティアがはぁ、と重い溜息を吐く。
「逃げたって、先輩達に限って…。…、あ、解ったかも」
マノンは察した瞬間、複雑な気持ちが押し寄せた。
ブロロロロ!とエンジンをふかした小型バスがリアム達の前に停まる。
「待たせたな、諸君!」
ドアから姿を現したのはモルガン。運転席にはブラッドがいた。この光景を見た瞬間、クレア、シア以外はげっそりとした。前にも似た光景を見ているからだ。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。残念だが、デウト氏とエアル氏がいないが…ついでに言うとナデア女史にも断られた。留守を任されているからとな。これからお化け屋敷タイムアタックをしに行こうと思う。もう二十二時から零時まで貸し切っておいた。銃も剣も使用しない、ザ・娯楽施設!心置きなく楽しめるぞ!」
モルガンがドヤ、と後光がさす。その行動力に動揺したのはクレアだった。
「そんな、お化け屋敷で遊ぶということですよね…。今こんな状況下で娯楽に耽っていて大丈夫なのでしょうか…」
「クレア様。こんな時だからこそ遊ぶのです。幸い、今の所アマルティアに動きはありません。束の間の休息を入れないと、彼等も人間です。息抜きが出来なければ破裂して駄目になってしまいます」
なんだかそれっぽい事を言う。
騙されるな!と何人が思っただろうか。いや、この場に居た全員がそう思った。しかし、クレアとシアは表情を輝かせた。
「なるほど。勉強になります」
「必要な遊びに、私達もご一緒させていただけるなんて光栄です!シア、楽しみましょうね」
「はい、クレア様」
逃げ道を失ったことで、結局皆はバスに乗り込み、メルカジュールを目指して走り始めた。その間、クレアとシアが純粋に「楽しみ」「皆と遊べるのが嬉しい」と語る姿に、否定的な意見を言えずにいたのであった。
到着後、ペア決めが行われた。
くじ引きで決まった組み合わせはこうだ。
リアム・ヘスティア
ゾーイ・シア
シレノ・ミラ
ブレイズ・クレア
マノン・マシュー
の五組となった。
シレノがこっそり「変わろうか?」と交換を持ち掛けてきたが、リアムは断った。別にミラと一緒でいいならそうしたい。だが、そこまでしてミラを独占したとか、恋人でいようとは思わなかった。あくまでもお化け屋敷タイムアタックは遊びなのだ。それにシレノは信頼できる男だ。ミラに変な絡み方をするような奴ではないことを、リアムはちゃんと理解していた。
そして午後十時を針が指す。
「時間だな。ルールだが、この廃墟型お化け屋敷を早く出てきたペアが優勝だ。武器の使用は勿論無し。景品はメルカジュールランド一泊二日チケット二名ぶんだ。平均時間は十五分だそうだ」
一通りの説明が終わる。ペアチケットを貰えると解っていても、盛り上がりが微妙であった。それはモルガンの日頃の行いがさせているものだろう。
「では、最初のチームはゾーイ・シアペア!気を付けて」
モルガンが見送る中、ゾーイは上司でもあるのにガン睨みしながらお化け屋敷へと足を踏み入れるのだった。
シアは少々緊張していた。初めてお化け屋敷に入ったからだ。中は薄暗く、不気味な目玉がぎょろりとこちらを追いかけて来る。いつも、クレアが遊ぶ姿を眺めるだけだったから。護衛として、何かあったら囮になれるように。だから遊園地の楽しみ方など知らなかった。事前に言ってくれれば予習したのにと、内心残念がる。
「ゾーイさん、大丈夫ですか?」
「わ…私、」
「はい」
その瞬間、幽霊がバッと現れる。叫ぶのが礼儀だと
「きゃ、」
「キャー!」
「ゾーイさん?」
「解っているわよ、作り物だってことくらい!でも、怖いって脳が言っているのよ!吃驚するのよ!!」
「なるほど、脳で怖がるのですね。では目を瞑っていてください。私が誘導します」
するとシアはゾーイの手を握る。
「行きますよ」
「え、えぇ」
手を引かれながら、ゾーイは目を瞑る。悲鳴や吃驚させる音響が聞こえて肩をびくつかせることはあったが、眼を開いているよりもよっぽど安心だった。
「お化け屋敷に初めて入りましたが…なるほど、こういう仕掛けなのですね!クレア様がちゃんと歩けるか心配です!」
「なんで貴女は余裕なのよ…鋼の心ね。ところで出口はまだ?」
「あともう少しですよ」
「ゾーイさん、大丈夫ですよ。最後まで手は握っていますから」
「そうよ。ちゃんと、責任取ってよね…」
「そうだ。ここは最後、皆さんの期待通りに出てみるのはどうでしょうか」
「み、皆の期待通りってなによ」
「こういう事です。叫びながら走ってください!」
走り出したシアに手を引っ張られる形でゾーイも走り出す。シアが急に叫び出すもんだから、つられて叫ぶ。
――キャー!
「戻って来ました!」クレアが言う。
二人が出てくると、周りにいた皆が集まってくる。
「怖かった?」
「中の様子は?」
それぞれが質問するが、モルガンが止めに入る。
「事前情報は入れないでくれ!だが、二人の様子を見ると相当だったと見た」
「とっても怖かったです!」
「え、えぇ…まぁ、怖かったわ」
二人を見ていたブレイズが威勢を張る。
「ま、まぁ女子二人だったら怖かっただろうな!俺は平気だけど」
「声が震えているわよ」
ゾーイに指摘され、ブレイズは誤魔化すように笑いだす。
脱出時間、十分二十六秒
「どんどん行くぞ!次はマノン・マシューペア!」
モルガンに呼ばれ二人が前に出る。
「よろしくね、マノン」
「こちらこそ、マシュー…先輩!」
「今は無理しなくてもいいよ」
出会いはマノンがまだ軍人になる二年も前のこと。マノンは癖で呼び捨てにしまうことが軍内にいても少々あった。そのたびにリアムを含め、注意をしてきたが今はオフだ。そこまでかしこまらなくてもいい。
「じゃあ、遠慮なく!マシュー、お化けが襲ってきたら守ってね?」
きゅるん、とぶりっ子のポーズを取るマノンが面白くて、マシューは思わず笑う。
「アハハ!了解」
それじゃあ行ってくるね、と手を振り中へ足を踏み入れる。
早速お化けが出てくると、二人は叫びながら飛び跳ねたため、互いの肩がぶつかった。
「ごめん!痛かったよね」
「ううん、大丈夫」
二人はまた歩き出す。
「ここで言うのもなんだけどさ。マノンはどうして軍に入ったの?入らない方が、自由に行動できたんじゃない?デウトさん達みたいに…」
マシューの想像で、デウトとエアルが二人でいないということは、何か理由があると勝手に思っていた。実際、そうな訳だが。
それを聞いたマノンはうーん、と悩む素振りを見せる。
「理由は、軍に入っていた方がアマルティアに近づけるっていうか、お父さんの仇を取れると思ってさ」
「ぁ…復讐、ってこと?」
「復讐の分類になっちゃうのかな。うん…なっちゃうかも。誰かが我慢しないと復讐の連鎖は続くって言うけどさ。私は私を愛してくれたお父さんを殺した奴をどうしても許せないんだよね」
「…許さなくて、いいよ」
「え?」
「嫌いな人を、無理して許す必要なんてないよ!マノンが思う道を行けばいいんだよ。だけど、復讐が終わったあとの人生のことも考えておいて」
「うん、解った…。それよりさ、マシュー」
「なに?!何かかっこつけちゃったよね、ごめん!」
「いや、その…私達、全然進んでないなって」
周りを見ると、足が止まっていたのでさっきからお化けが同じ動作を何回も繰り返している。
「ご、ごめん!!!!」
「走ろうか!マシュー!」
「うん、走ろう!」
マノンは、まさかマシューに背中を押されるとは思っていなかった。ついでだが、ペアチケットを貰えるなら貰っておきたい。慌てて出てくるマシューと、息を切らすマノンを見て、皆は更に恐怖への期待が高まっていく。
「そんなに怖いのかな」
「ドキドキしてきた」
「マシュー・マノンペアのタイムは…十分七秒!」
それを聞いたマシューとマノンはハイタッチをする。そして小声で言う。
「最初から走っていればよかったね」
「ふふ。それじゃあ面白くないよ」
クスクスと笑う。
暫定一位。マノン・マシューペア
続いて足を踏み入れるのはシレノ・ミラペアだ。
「一位取れたらチケットは譲るからリアム君と一緒に行きなよ」
「ブッ!」
思わず吹き出す。
「変な気遣いしてくれなくていいよ」
「そう?でも僕がペアチケット持っていてもなんの役にも立たないよ」
「いないの?そういう人」
「いないねぇ」
「モテそうなのにね」
「僕は見かけだけで中身は無いからね。彼女達の心を鷲掴みにするような話術も、リアム君とミラさんみたいに強い絆で結ばれた相手もいない。独りでいる方が気が楽だしね、不思議と」
「へぇ。私はずっと、その…リアムのこと、ギャー!」
「ウワァ?!ビックリした…」
ミラに幽霊の布切れが顔に当たり、話に夢中になっていたミラは女性から発せられたのかと疑問に思うほど野太い声で叫んだのだった。
「大丈夫?」
「うん…ここがお化け屋敷だってこと、忘れてたわ…」
「そんな態度、リアム君の前で出したらどう反応するんだろうね」
「理想とかは持たれていないからなぁ。意外とすんなり私の野太い声とか、驚き方は受け入れてくれるよ。いい彼氏なので」
「惚気るなぁ。そうだ。惚気るついでに訊いてもいい?」
「どうぞ?」
どんな質問が来るのか、ミラは少しワクワクしていた。職場の子とする恋バナも楽しいが、男性から質問される恋バナも面白いと思った。
「リアム君がセックスしたことないって言っていたんだけど、本当?!」
「グッハァ!」
ド直球な質問に重い右ストレートを食らった気分になる。
「そ、そうね…。これは、私のせいでもあるんだけどね…」
「うん」
「夢を見たことがあったの。リアムと結婚して、子供がいて、幸せな家庭の夢。でも、それから思い出せないんだけど、子供がママ、ママ、って私を求めて泣いているの。リアムも何故か倒れていてね。それが、現実になりそうで…怖くて。だから、私の不安が解消されるまでは絶対に避妊しようね!って話をさぁ。リアムは拡大解釈しちゃって、私の不安材料が無くなるまでキスまでにしようって…。万が一子供が出来る可能性があるなら避けたいって。リアムも、どこか必死だったな、その時は…」
「夢かぁ。しかも正夢になることを恐れて…。いや、まぁ。ドンマイ」
「だよねぇ」
「そろそろお化け屋敷楽しまない?」
「うん。そうする」
その瞬間、ミラの背後から妖怪が現れ、ホール内にぎゃー!と悲鳴が轟いた。
出口に近づき、ミラ達の声が僅かに聞こえてくる。
「シレノの野郎、ミラさんと一緒になりやがって…」
ブレイズは必死にハンカチを噛み、眼からは血の涙を流す。
「ブレイズ様はミラさんの事がお好きなの?」
クレアがマノンにこっそりと聞く。
「好きだけど、ミラにはリアムがいるから叶わない恋を追い続けている滑稽な男だよ」
「滑稽、ですか…」
恋愛に支配されている、と言われてしまうかもしれないが、ミラのことが羨ましく思った。だって、彼に一途に好意を寄せられているなんて。クレアが望んでも、片思いをしていても、ミラという素敵な女性がいる限り、報われないと、心の片隅が叫ぶ。
お化け屋敷からは「きゃー!」とか「ウワァ!」と恋人っぽいじゃれ合いの気がある叫び声が聞こえてきて、最後は二人共ダッシュでゴールとなった。
「タイムは?」
「九分五十三秒!」
モルガンがストップウォッチを見せる。
「やった!一位だ!」
「これがキープできるといいんだけどな」
ちょっと、恋人っぽい雰囲気をシレノとミラが醸し出す。本人達はいたって普通なのだが、リアムとブレイズから見たら擬似恋人のようだった。
「ミラ、ちょっとこっち来いよ」
リアムがミラを呼び寄せる。それを見たブレイズがまた歯ぎしりが激しくなる。
恋人が拗ねていることくらい、一発でお見通しなのだ。ミラはリアムの耳元でこう囁く。
「シレノがね、ペアチケット譲ってくれるって」
「ッ…?!お、おぉ…、そう、か」
ほら。この一言で全部許しちゃって、嫉妬もどこかへ吹き飛ぶ可愛い恋人を、ミラが裏切る訳がない。シレノはその行動を微笑ましく眺め、ブレイズの顔はもう般若の如くだった。
暫定一位シレノ・ミラペア
「さぁどんどん行くぞ!次はブレイズ・クレアペア!」
クレアは立ち上がると、スカートをひらりと持ち上げる。
「よろしくお願いします。ブレイズ様」
「よろしく。そんなかしこまらなくてもいいぜ、クレア」
「じゃ、じゃあブレイズ…よろしくね」
何とも初心な行動に、モルガンやゾーイは内心ハートマークで溢れかえっていた。クレアがブレイズに片思いをしていることなんてお見通しだった二人は、もう勝手に盛り上がっていた。
「それじゃあ健闘を祈る!」
「ブレイズ、男を見せなさいよ」
声色は不穏だが言葉だけを聞くと応援はされているらしい。ブレイズはひとまず自分が先に中へ入る。
「どうぞ、クレア。足元暗いから気を付けろよ」
「ありがとうございます」
室内はひんやりとしていた。
「寒くないか?」
「はい」
「じゃ、クレアは後からついてきてくれ」
「解りました。ちゃんと最後までエスコートしてくださいね」
「エスコートなぁ。俺、そんなキャラじゃないし」
「ふふ、期待していませんよ」
「なんだと?!」
ブレイズが振り向いた瞬間、二人の間に幽霊が出現する。
「キャー!」
「クレア!」
ブレイズは思わず幽霊を殴りかかった。幸いにも、ここには人が紛れ込んでいることはないため、全て機械で動いている。その精密さはヴェネトラの技術力でもあるのだが。話を戻そう。その緻密な機械を、ブレイズは殴ったのだ。幽霊は変な動きになりだし、それは静かに驚かすモノではなく、呪いが更に増したように苦しむ幽霊に見えるような動きをクネクネとする。
「やーばい、逃げるぞ、クレア!」
「え?!」
ブレイズは咄嗟にクレアの手を取り、走り出す。
「痛い」
「どうした?!呪われたか?!」
「不吉な事いわないで。まさか、走るとは思わなかったから…靴ズレです」
「わりっ、足イテェだろ。背負って行くよ」
「え…ちょっと!」
クレアは問答無用に背負われると、ブレイズはゆっくりと歩き出した。
「俺さ、女の子が大の苦手っていうか、上がり症?でさ。最初の頃はミラさんを見つけただけで浮かれちゃってたわけよ」
「今も浮かばれているのでは?」
「まぁ、好きな子だからかな」
止めて。今はそんな話聞きたくない。
「でも、クレアは不思議と最初から普通に話せたな。マノンのお陰?なのかな。それにクレアは気も強いし…まぁ、女の子見て緊張できる場面でもなかったしな」
「ブレイズ…は、ミラさんのこと、これからも好きでいるの?」
「悲しいけど、諦めないといけないな」
クレアは、思わずきゅっと力を入れる。諦めると聞いて、嬉しいと思ってしまった自分を恥じた。自分の魅力で引き留めるのではなく、諦めがつく時を狙っているこのを。意地汚さに軽蔑した。
(私は、ブレイズを好きでいていいのかしら…)
「クレアは誰か好きな人いるのか?」
「え?!まぁ…」
「そか。俺とは違って、報われてほしいな」
違うの。好きな人は貴方なの、ブレイズ。今言ったら早すぎる。きっと断られてしまう。彼の中にはまだミラがいるのだから。
「私…嫉妬とか、するけれど、いいの?」
「そりゃするだろ。俺だってさっきまで妬んでいたし」
「確かにそうね」思わずふふ、と鼻で笑う。
「鼻で笑うなよ」
「思わずでちゃったの。さ、早く行きましょう。私、お化けが怖いから目を閉じているわ」
「おー、任せておけ」
クレアはブレイズの肩に顔をうずめる。今は、これが片想いアピールの最大限。クレアは、いつか彼が自分にも気づいてくれる日を、ただ待つだけで終わらない。行動で示して行こうと思った。
無事脱出すると、シアがクレアに駆け寄った。
「靴ズレが!手当をしましょう」
「えぇ、ありがとう」
ブレイズから降りたクレアは、シアに支えられるようにベンチへ座る。
(クレア、ずっとしがみついていたけど、怖かったんだな)
軽くなった背中から、温かみが消えていく。きっと彼女は好きな人におんぶをされたかっただろうし、エスコートされたかっただろう。それを奪ってしまったことに申し訳なさを覚える。
(まぁ、仕方ないよな。ペアチケットもらえたらクレアにあげるか。デートしてこいってな)
ブレイズ・クレアペア脱出時間十一分七秒
「最後はリアム・ヘスティアペア!準備はいいかな?」
「はい」
「いつでも」
「では、いってらっしゃいませ」
モルガンに導かれ、最後のペアが、お化け屋敷へと踏み込んだ。
「皆が怖がっていたほど…怖くない?」
リアムが仕掛けを見ていると、ヘスティアが笑う。
「まだ始まったばかりよ。ここで恐怖度マックスにしちゃったら、面白くないでしょう?」
「確かに」
二人は中盤までは想定通り、驚いたり、騒いだり、叫んだりしてお化け屋敷を楽しんでいた。
「ねぇ、リアム。私、エアルには言えてないことがあるの」
「エアル兄に?一体何を」
「もしよければ…エマさんとアイリスちゃんもティアマテッタで暮らしてほしいなって」
「エマ姉親子を、移住させるんですか?」
「二人が良ければね。でも…エマさんもなんやかんや色々ある人だし、ちょっと難しいわよね」
「いい、案だと思います。俺も、エマ姉とアイリスがいてくれたら、もっと楽しくなるなって!」
やはり、昔からの付き合いのある人と一緒に居たいという気持ちは、ここに来てからも変わらなかった。親が死んでから、エマ姉には何回も、何百回とお世話になった。
「来てくれますかね」
「来てほしいわね」
歩こうとすると、幽霊が一人、ポツンと立っていた。
「いつの間に…」
「行きましょう」
「あー、そぼー」
「すげぇ、今喋りましたね」
「だから皆怖がっていたのね。納得したわ」
二人はなんやかんやと話しながら幽霊を置いていく。幽霊は、残念そうにすると、スー…と姿を消していった。
「あ、出てきた!」
「タイムは…十分三十二秒!ということは?優勝者、シレノ・ミラペア!」
モルガンが紙吹雪をまき散らす。
「いやぁ、接戦だったね。ブラッド」
「そうですね。まさか皆が平均タイムを上回るとは思っていませんでした」
「じゃあ、贈呈しよう」
メルカジュールランドのペアチケットを、ミラに手渡す。
「ありがとうございます」
皆の視線が「リアムといくんでしょう?」という生暖かい眼差しで見つめられていることに耐えきれなくなり、ミラは噴火する。
「そ、そんなじろじろ見なくてもいいでしょ?!」
「いやぁ、ほらねぇ」
「同期を弄りたいのよ。ね」
こうして。こうして慰労会と呼べるのか解らない、モルガン発足のお化け屋敷タイムアタックは無事終了することになった。
そしてリアム達はまた日常へと戻っていく。
原作/Aret
原案/paletteΔ




