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ETENITY00  作者: Aret
4章・・・不調和
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98話・・・シヴィルノ・戦闘

作品を読みに来て頂き感謝です。


リアム達の成長は、確かだった。

マルペルトでは幹部クラスが相手だったため不甲斐なさに挫けそうになり、救えなかった命の多さに絶望もした。

しかし今は違う。暴動した市民はエンキ達により鎮圧に向かっていた。いくら武器を持っていても、撃ったこともない一般人だ。それを鬼気迫る軍人が「投降しろ」と大声を張り上げるだけでも、身体にジリジリと震え、一人が大人しく武器を置き、頭の後ろに手を回すと、次々と投降していく。


「流石エンキ大尉ですね」


「戦術も凄いけど、怒ると部下もビビるからね。一般人からしたら、顔を見ただけで殺されると思うんじゃないかしら」


「おい、聞こえてるぞ」


エンキがローラを睨むと、ローラはそっぽを向いてべー、と舌を出し知らんぷりした。


「こちらエンキ班。一般市民による暴動は鎮圧に近づいています」


『承知した。私も城内へ向かう』


「…それはまさか」


『あぁ。見つかったんだ。ソイルがな』


先刻のことだった。離れた位置に陣を確保したブラッド班は、マシューのドローン操作で城内を散策していた。そしてまさに、予想通り玉座にソイルがいることを発見。モルガンに連絡が渡ったのだ。


「待ってください。今貴女が外れたら王女は誰が保護するのですか」


エンキが慌てて説得する。


『しかし!』


どうやら因縁があるのか、珍しくモルガンから焦りが見えた。


「落ち着いて下さい。貴女が大将なんだ、この中で誰よりも強い、貴女が陣にいないと、帰還した兵士達に安堵を与えられない。保護された王女の拠り所がない。解りますよね」


『…解った。まさかエンキに説得される日が来るとは夢にも思わなかった!私はここで待っている。その代わり、ブラッド班にリアムを合流させろ』


「了解です」


その伝言は光の速さでリアムに届く。マジックウォッチに連絡が入る。


「シレノ、俺はブラッド班と合流するよう命令が来た」


「うん、行ってらっしゃい。じゃあ、この人たち邪魔だよね?」


まだ歯向かう者や、暴動は治まっていない。道がないなら作ればいい。シレノは地面から巨大な丸太を生やした。城へ向かう道となっている。


「ここから走っていけば最短ルートだよ」


「サンキュー!シレノ。行ってくる」


リアムは丸太に乗り上げ走り出す。高い場所を走るリアムは市民からしたら格好の的だが、邪魔をしようとすれば木の枝が襲い掛かる。木が動くことに慣れていない市民はどこか不気味さを感じ、一歩、また一歩と避けていく。


(作戦成功って感じかな)


ブラッド班との合流…つまり、ソイルがいるのだろう。


「大変だ、こりゃ」


シレノは他人事のように、だけど心の奥底では楽しそうに笑った。



一方マノン達はその場に留まりシアに城内の間取りやクーデター軍について教わっていた。


「クーデター軍はソイルにより唆され、王室転覆を狙った王室専属の私営軍です。何かあった際に逃げる王族専用の逃げ道も把握している上層部も掌を返し、今では敵です」


「王族が逃げる通路は狭いの?」マノンが尋ねる。


「敵に見つからないように作られた通路なので横に二人並べればいい狭さです」


「どうする、ブレイズ」


うーん、とブレイズが頭を捻る。


「俺とマノンの力があれば挟み撃ちにされても太刀打ち出来るかもしれない。敵の配置にもよるな」


もしクローン四姉妹の一人がいたら。戦闘は難航するだろう。ブレイズが恐れるのはモルガン、ブラッドベルの兵士がいることだった。クレアがいる避難室に来る間に手ごたえのある連中には遭遇しなかった。そうなると、侵入を許したことを部下が上に報告するはずだ。そうなれば逃げ道が塞がれ、厳しい戦闘になる可能性が高かった。


「シア、戦闘経験が豊富で実力がある奴がいるとしたらどこだと思う?」


「…避難経路、ですかね。私ならそちらに行くと思います」


「正直、狭い通路の方が敵を狙い打ちしやすいからな。ここは一か八か…マノンとシア、前衛を担ってくれ。俺が殿をつとめる。モルガンクラスの兵士がいたら、狭い中連係プレーぶちかましてやろうぜ」


「承知!」


シアはクレアのスカートにナイフを突きさし、乱雑だが短くしていく。少しでも走りやすくするためだ。ふと、足に目が行った。動きが可笑しい。まるで居心地のいい場所を探しているように蠢いている。


「失礼します、王女」


「シア、ちょっと!」


高いヒールを履いたまま移動したせいで、靴ズレを起こしていた。血が滲み、ストッキングからも滲み出ていた。普段、王女として移動距離が最低限だったから履いていた、トロフィーのような靴。飾られた王女。

だけど、マノンと行動した二年前はパンプスで行動した。その時は足が痛くなることなんてなかった!


「やっぱり、私ってお荷物になるのね」


「自覚があるなら、話が早いです。マノン、殿を変わってもらってもいいか?俺が王女を担いでいく」


「その足じゃあ走れないもんね。ここで登場!デウトさんが特注してくれたサーベルのお披露目よ!」


マノンはサーベルを柄に挿し準備を整える。


「避難経路の脱出口はどこに出る」


「東側です」


「ならエンキ大尉がいるはず!」


ブレイズがクレアを担ぎ上げながらニヤリと笑う。


「勝機が見えて来たなぁ!」


三人は王族専用の逃げ道へ向かい走り出す。

通路、壁、死角。全てに注意を払い、人の気配がしたら速攻で攻撃を仕掛ける。クーデター軍はブレイズ達が想定していたより弱い印象を受ける。国王を殺した達成感から浮足立っているのが見て取れた。クレアを殺したいのは上層部だろう。そして、ソイル。


「あそこに通路があります」シアが指さす場所は壁だった。アナログだが、ある個所を押すと扉が開く絡繰りになっている。


「今の所見張りはいないな」


「中で待ち伏せしているかも」


ブレイズは一旦クレアを下す。


「足の痛みは?少しは自力で走れるか?」


問いかけても返事がない。ブレイズは恐る恐るクレアの顔を覗き込む。心配になったマノンも俯くクレアを見つめる。


「…しい」


「はい?」


「恥ずかしかったって言っているのです!」


小声でバチクソキレていた。


「お、王女、何にそんなお怒りに…」


女性に免疫が少ないブレイズにとって、女性から怒られ、半分涙目で睨まれる状況はこの上なく不味かった。どうすればいいのかさえ分からない。作戦を考え、知恵を振り絞ることができるのに、女性相手だと全く通用しない。


「私は!貴方に担がれたせいでいろんな人…敵にお尻を見られたんですよ!」


「パンツ丸見えじゃないんですから大丈夫ですよ!」


「もうお嫁にいけない…」


「えぇ…王女、その、あはは…大丈夫ですよ!王女ならきっと素敵な人が、求婚しにくるでしょうし」


「私は自由恋愛がしたいの!」


「俺だって自由恋愛したいわ!でも愛しのミラさんはリアムと…ッグ」


ブレイズが自分で自分の傷を広げた所で喧嘩は治まった。


「こんな場所で喧嘩する場合じゃありませんよ。…行きますよ」


これからは三人が三角形の陣営になり、真ん中にクレアを置いて移動することになった。

前にブレイズ。後方にシア、マノン。

扉が開くと、そこには誰もいなかった。


「まずはクリア」


「進むぞ」


そこはほんのりと薄暗い通路だった。オレンジ色のライトがジジジと鳴る。


「待て」


ブレイズの合図で全員が止まる。

前方には、いかにも大将と言った男と、部下二人が外へ繋がるドアの前で待ち構えていた。


「クレア王女の護衛、誠に感謝する。後は我々私営軍が預かろう」


男が手を差し出すと、ブレイズは剣を突きつけた。


「残念だな、おっさん。王女は俺達ティアマテッタ軍に保護を求めてきた」


「言うことを聞け、若造。この国の再建に王女は絶対不可欠なのだ」


男の言葉に、シアが激怒する。


「じゃあ何故クレアを殺そうとした!」


「それは連絡の行き違いだ。保護しろと命令をしたのに、国王を殺したから王女も殺すと間違えたのだろう」


「そんな杜撰な軍にクレア王女を任せるわけにはいきません!」


クレアを守るようにブレイズとマノン、二人が先手を切る。


「聞き分けの悪いガキだなぁ!シア!」


「おっさん!信用出来ねぇことやってんだからしょうがねぇだろ!」


ブレイズが男…クーデター軍の中心となった一人である隊長と剣を交える。


(重い…!この火属性、ただの若造じゃあない!)


ブレイズの剣裁きは眼にもとまらぬものだった。隊長は防御に徹することに必死になると同時に、今まで積み重ねてきた訓練が全て無駄だったのかと苛立ちが募っていく。


(こんな、こんな若造に負けたら私の人生は!クレア殺害後に約束された席は?!そもそも、負けた俺をソイルは許すか?いや、殺される…!なら、ここで!)


「ここで負ける訳にはいかないんだぁあああ!」


隊長が剣を床に突き刺すと、コンクリートが盛り上がり、土が土砂のように襲い掛かる。


「マノン!」


「オッケー!」


マノンは相手していた部下二人に魔弾を撃つと、クレアとシアを抱え、スキル・ブーストを使用する。瞬間、ドアがバン!と破壊され、三人は姿を消した。


「何?!」


水属性だと思っていた小娘がブーストを使って驚いた隙に、ブレイズもブーストを使用し、隊長の正中線に沿うように炎を纏った剣で切り裂く。


「ぐあああああ!」


「隊長!」


隊長から炎が消えると、火傷を負っていた。


「クソ!」


この後、クレアを逃がしたと知られれば、彼等の運命は恐ろしいものが待っている事だろう。



土砂から間一髪で逃げ、ついでに攻撃も出来たブレイズは裏門へ辿り着いていた。


「ふー…逃げるだけのつもりがついでに攻撃まで出来ちまった…。これも成長したってことか?ふふ、ふはっはっはぁ!」


一人で高笑いをしていると、後ろからバシン!と頭部を叩かれた。


「何一人で笑っているのよ」


「ローラ先輩?!てことは…」


ローラの他にもエンキ、ユーリがこちらを呆れた目で見ていた。


「あはは…どうも」


「どもじゃねぇよ。さっさとマノン達の所に行け。今安全な場所に身を潜ませた。お前は引き続き護衛!」


「了解です!」


エンキがブチギれる前にブレイズはそそくさとマノン達が待つ場所へ走っていった。



一方、マノン達はがら空きになり、荒れたてた店の中に身を潜め、逃げるタイミングを見計らっていた。


「ブレイズさんは…無事かしら」


クレアが申し訳なさそうに呟く。


「ブレイズなら大丈夫だよ。そう簡単にくたばる奴じゃないからね」


「そう」


こんな時に、ブレイズの背中が忘れられなかった。自らを犠牲にする覚悟で、マノンがブーストを使えることを知ったうえで、自分達を先に逃がしたこと。あんなにアホ面だったと思っていた顔が凛々しく見えた。頼れると思ってしまった。

今、彼がいないことに不安が積もる。


「あ、ほら来た」


マノンが言う通り、ブレイズが走ってこちらに向かってくる。クレアはすぐさま立つ。


「ブレイズさん、あの…私」


「いやー、無事脱出出来てよかったな!」


「…ありがとうございます。私とシアを助けてくれて。先ほどの無礼、謝ります」


クレアが頭を深く下げる。その光景を見たブレイズは慌てふためく。


「いや?!王女様に、てか、女の子を雑に担ぐのは御法度でしたし!?あの、だから謝らないでください!やめて!俺、女の子からそんな!」


ブレイズの異様なほどの困惑する様にクレアは首を傾げる。


「ブレイズね、女の子に免疫が無いんだよね」


「あっ、そうだったの?」


「うん。挙動不審だけど許してあげて」


真相を知ったクレアが苦笑いする。


「ブレイズ様…本当に、ありがとうございます」


「クレア王女…」


「これからは、マノンと同じようにクレアとお呼びください」


ひと時の安堵の時間が流れる。クレアが醸し出す癒しの雰囲気が、一時の緊張を和らげる。マノンもシアも、二人を優しい眼差しで見つめていた。



暴動していた市民を鎮圧化させていくエンキ班。だいぶ市民も落ち着きを取り戻し、今では項垂れている人々もいる。


「こちら側も暴動の鎮圧化成功です」


「エンキ大尉、こちらも鎮圧化完了です」ユーリが戻って来る。


「ご苦労」


三人が無事合流すると、その威圧感は更に増し、市民は体を縮める。


「しかし…鎮圧に時間がかかると思いましたが、思ったよりスムーズにいきましたね」


ユーリがエンキに話す。


「集団心理もあるだろう。人数が多い方に流れやすい。誰かが…ソイル辺りが煽ったんだろう」


「その通りだよ」


まだどこか幼い、子供の声が聞こえる。しかし、声色の中に潜む殺気にエンキ達は武器を構える。

声のする方を捜すと、そこには目を疑う人物が立っていた。


「やぁ、軍人さん。リアムはいる?」


「お前は…クロノだったか?」


「当たり。俺が入隊試験の時は見抜けなかったみたいだけど、今はバレちゃうか」


「クロノ、あの人と知り合いなのか?」


エンキは眼を疑った。死んだはずのアイオが純粋な眼差しでクロノを見ているのだ。殺気も、嫌悪も無い。クロノを完全に信頼し、愛情を持ったその態度に、エンキは不気味さを抱く。


「あぁ、吃驚した?アイオのクローンだよ。粗暴なアイオもよかったけど、俺に従順なアイオもいいと思ってね。ナノス様に頼んで調教を許してもらったんだ」


「お前等…命をなんだと思ってやがる!」


「ふははは!クローンの心配するの?面白いね、アンタ。ねぇアイオ。俺が死んだらどうするんだっけ?」


クロノがアイオに問いかける。するとアイオは、嬉しそうに答える。


「一緒に死ぬ!当たり前だろ?俺達双子なんだから…ずっと一緒だよ」


「そう…俺達は運命共同体なんだ。アイオ、ずっと一緒だよ」


クロノは剣を。アイオは銃を構えると、市民を攻撃し始めた。


「キャー!」


「た、助けてくれ!」


皆殺されたくない一心で逃げ惑い始める。


「エンキ班、あの双子を殺害する!」


「え?!」その言葉にユーリは動揺を隠せない。入隊試験の時、ブラッドと共に戦ったが殺す指示はされなかった。


「了解!」


エンキの指示にあっさりと従うローラにも耳を疑った。


「エンキ大尉!まだ相手はマノンと同じくらいですよ!更生の余地だってあるはずです!」


「アイツ等は殺人犯だぞ。ナノスの手下だぞ!見た目に誤魔化されるな。今は俺がお前の上司だ、俺の言うことが聞けないならモルガン大佐の下へ帰れ」


エンキの言うことは正しかった。試験時、いや。それ以外でも双子は殺人行為を繰り返していたかもしれない。ナノスに作られた生きた武器…殺人兵器。ユーリは自身の頬を思いっきり叩く。


「エンキ大尉、もし僕が少しでも優しさを見せたら殴ってください」


「解った」


既に戦闘を始めているローラに続き、ユーリはクロノに突撃する。


「お前は!試験の時に片割れが殺されたのに、もう新しいクローンで満足しているのか?!悔しくなかったのか、変わりがすぐに用意されることに!」


ユーリが激高する。簡単に作れる命に、簡単に捨てられる命に。しかしクロノには届かない。


「確かに双子だったけど、死ぬのが悪いんだろう!相手…リアムより弱かったアイオが悪い!」


剣が弾かれ互いに距離が生まれる。


「だからってリアムを恨んでなんかいないよ。会ったら殺すだけ。それが父様…ナノス様の願いなんだからな!」


クロノが一気に距離を縮め抗戦する。


「今、お前の隣にいる奴はアイオの代わりだ!」


「五月蠅い!」


クロノに隙が出来た。その瞬間、木から生まれた巨大な獅子がクロノを丸飲み込みする。


「流石はユーリ!心理戦には強いな」


獅子を出したのはエンキだった。


「クロノ!」


アイオは動揺し、ローラから目を離してしまう。その瞬間をも見逃さず、エンキは二頭目の獅子にアイオを飲み込ませる。


「やったか?!」


「まだだ!」


二頭の獅子が破裂するように木っ端みじんになる。空中に放り出された双子は手を伸ばし合い、手を取ると肩を寄せ合う。


「アイツ等、俺達を殺そうとした」


「許せないよね、アイオ」


「絶対に許さない」


アイオが銃をエンキに向けると、クロノも手を添える。引き金を引くと黒い雷がエンキに向かい落雷する。


「俺に勝てると思うなよ!」


剣を地面に突き刺すと大木が生え、落雷を受け止める。雷が落ちた大木は引き裂かれ、地面へと流れていく。実際は雷ではないため、無属性魔法が地面を這っていく。


「どうだ!少しでも魔力をそいでやる!」


「簡単にやられる訳ないだろう!」


ユーリが叫ぶ。そう。事前にブーツに魔力を溜めていたのだ。これは保険だった。相手が土属性の国なので、地面から来る攻撃を防ぐために魔力を溜め、凌ぐ作戦だった。それがまさか、こんな形で防御になるとは。

建物の上に着地したクロノとアイオは、また手を添え、無属性魔法を発動させる。銃から鞭のような黒い手が生え、エンキ達を攻撃してくる。


「当たるなよ!当たったら魔力が全てなくなる!」


「解ってますよ!」ローラがキレる。


エンキは、この攻撃に既視感を持つ。ブラッドから聞いた話だ。リアムがゲリラ訓練の際に発動し、暴走した形態…。纏ってはいないが、どこか似たような感覚に襲われる。


「ユーリ、援護を頼む!」


「はい!」


魔法を発動し、エンキの周りに土を盛り上げる。エンキは剣を突き立てると龍の頭部を八匹出現させ、猛攻を仕掛ける。八頭の龍相手では、一本の腕では流石に押され始める。


「そっちがそう来るなら、こっちだってやってやる!」


「こっちは無限に腕が増やせるんだからな!」


無数の腕が、エンキに襲い掛かろうとすると、分厚い氷の壁が突如現れる。


「エンキ大尉だけで戦っている訳じゃないわよ」


「そっちが二人ならこっちは三人だ!」


ユーリとローラが加勢する。


「雑魚のくせに出しゃばって来るな!」


攻撃したくても、氷の壁、土の壁が邪魔をして阻害される。しかも、ユーリは器用であったためエンキに魔力を送りながらも自身も攻撃するという、熟練された魔力出量で立ち向かってくる。いくらクロノとアイオの魔力が上回っていても、エンキ+ユーリの魔力量では互角、いや、エンキ側に有利に働く。実際に、腕が一本ずつ消失していっている。


「クソ!アイオ」


「解ってる!」


無数の腕が一本に纏まり、分散していた魔力を集中させる。


「攻撃が来るぞ!」


エンキの一声でローラ、ユーリが壁を作る。氷と土の二重の壁でも、二人分の最大力の魔力攻撃は防げなかった。


「大尉!」ローラが叫ぶ。


「負けるかぁああ!」


エンキも負けじと龍で突撃する。



ドごオオオオオ――


「地震?!」


マノン達が避難していた建物が揺れ、天井からは埃や塵が降ってくる。揺れは一時的ですぐに収まる。


「様子を見てくる」


「お気をつけて。ヘマをしないようにね、ブレイズ様」


クレアが心配そうにブレイズを見つめていた。棘のあったクレアが、急にお淑やかになり、ブレイズはたじろぐ。


「お、おぅ…」と返すので精一杯だった。ブレイズは急ぐように店の外へ出て、屋根へと上る。


「緩急ありすぎだろ、王女様…つんけんしてくれていた方が接しやすい…」


マノンはドストレート、ゾーイは毒舌で話しかけてくるため、この二年でだいぶ慣れたが、他の女性となると困惑や恥じが勝つことが多い。


「なっ!」


ポケットから望遠鏡を出さなくてもわかるほどだった。

八頭の龍と巨大な腕が争っているのだ。


「エンキ大尉だ」



「あっはは!土属性の坊ちゃんが弱くなってきてるよ!」


クロノが高笑いする。

実際そうだった。二つに分散していた魔力が、底を尽きようとしている。土の壁で防御をしても脆く、崩れ落ちる。


「このまま止めを刺そう!クロノ!」


「あぁ、もう終わりにしよう、アイオ!」


二人の魔力が銃に手中する。引き金を引かれたら、タダじゃ済まない気がした。


「撤退!」


「大尉!貴方一人で戦い続ける気でしょう!そうはさせません!」


ローラが氷の城と言ってもいい程の氷山を出現させる。


「女の方もそろそろ疲れてきてんじゃないか?!いいぜ、どっちが最期を迎えるか見せてやるよ!アイオ、引き金を引いて」


「うん、クロノ」


恍惚と、アイオは引き金を引く。



飛行艦にて状況を把握していたモルガンでさえ、思わず外に出て目視したくらいだった。


「…エンキ?」


黒い稲妻が空へ向かい走る。轟音がここまで聞こえてくる。



原作/ARET

原案/paletteΔ

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