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ETENITY00  作者: Aret
1章・・・旅立ち
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1話・・・ゼーロの街

読みに来て頂き感謝です。

素人作品ですが、楽しんでもらえるように頑張ります。

2022年12月5日 加筆しました。

この世界には六つの大陸がある。全ての人間が魔法の力を持ち、火、水、木、土、金そして無の六つの力で構成されている。中でも、無の属性は限られた民しか使えない希少な魔力だった。


魔力は一一歳から一三歳の間に覚醒する。日々の暮らし、仕事、世界のすべては魔法によって成り立っている。そう、この世は全てが魔法頼りで、魔法が無いと成り立たない。それは生活だけの話ではなく、戦いにも言えることだった…。



一人の少年が、母親の制止も聞かず、おもちゃのゴム弾の拳銃を持ち、外へ飛び出した。


「コラ、リアム!今日はお父さんがいないから銃の持ち出しは禁止の日よ!」


「後で謝るから!」


「そういう問題じゃないの!こら、リアム!戻ってきなさい!あぁ、もう!」


母親は頭を抱えると、マジックウォッチを起動させ、とあるお宅へ連絡を取る。


このやんちゃ盛りの少年はリアム。


時に落ち着いて大人びた態度を取ったかと思えば、急に年相応な性格を見せたりと、何かと世話が掛かると言うか、主に母親をヒヤヒヤさせていた。何が問題かって言うと、ケンカも強いというところだ。


これもそれも、夫…リアムの父や、幼馴染のエアルがリアムにケンカの仕方やおもちゃの銃の狙いの定め方、撃ち方を至極丁寧に教えたのがいけなかった。


しかし、父は「男子は強いほうが良い!」と笑うだけであまり気にしていない。


エアルは、まぁ兄貴風を吹かせているので、母親は彼の方を頼りにしていた。電話先の相手も、エアル宅だったりする。


リアムが住むのはゼーロの街。ゼーロはエウロパ大陸にあり、人類で唯一無属性魔法が使える民族が住んでいた。


リアムも勿論無属性魔法。


幼馴染のミラも無属性魔法。


慕っているエアル兄とエマ姉のアーレント姉弟も無属性。


当たり前だが両親も無属性。

街の皆が無属性だからリアム自身は気にしていなかったが、他の街からの人間は不思議そうに、好奇な眼差しを向けてくることもしょっちゅうだった。


公園へ行くと、早速獲物を発見する。


「やーい、除け者メイヤーズ~!」


「ミラんちはネイサン家から省かれた可哀想なお家ぃ」


「おいブス!何とか言えよ!」


三人の少年が一人の少女に集っている。


集られている少女はミラ。リアムの幼馴染で、この街の議長でもあるネイサン家の分家でもある家系の少女だった。


「アンタ達、お従兄ちゃん達に文句言えないからって、いつも私にケチつけるのやめなさいよ」


ミラはブスくれ、今にも泣きそうになるのを堪え言い返す。


「うっわぁ!やっぱブスだな、お前!」


ギャハハ!と悪ガキどもが笑っていると、バチンバチン!と一発ずつ、頭部にゴム弾が華麗に決まる。


「ッイッテェ!」


「クソ!またリアムの野郎だ!」


「ちっくしょう…!覚えてろブスミラ!」


三人の悪ガキはリアムにアッカンベーをしながら公園から撤退していく。


リアムはそんな三人の情けない背中を見届けると、ミラに近寄る。


「大丈夫か?」


「うん、へっちゃら!えへへ…リアム、いつもありがとう」


ミラは涙が零れないように手で拭ったのか、目元が少し赤くなっていた。


「ったく。ここはアイツ等もよく来るんだから、これからは俺んちか、エアル兄の家で待ち合わせしようぜ」


「うん…。でも、ここの公園、初めてリアムと会って、遊んだ場所だから」


「思い出の場所ってか?」


「うん」少し恥ずかしそうにするミラ。


そう言われても…と少し困るリアム。


可能なら、イジメられずに自由に遊びたいものだが、ここに来れば高確率でミラはあの三バカにイジメられる。

いつも一緒と言う訳にもいかないし、毎度追い払えるとも限らない。


なら、悔しいがこっちが違う案を考え、避けた方がいいのだけれど。


リアムがうーん、と困り頭を掻いていると、後ろから軽いチョップを食らった。


「あだっ」


「こら、リアム。おばさんから連絡来たぞ。おやじさんが留守で許可してないのにゴム弾持ち出したんだって?」


エアルだ。


エアルはリアムとミラの兄貴分で、ミラのお隣さんでもある。


女の子にモテて、ちょっと女好きの可能性が垣間見え始めた、兄貴分。


でも、これでも頼りになるので、リアム達は慕っている。


「別にケンカでもいいけどさぁ…ゴム弾の方が手っ取り早く追い払えるんだよな」


「そういう事を言ってんじゃねぇって」


もう一発、リアムの頭にチョップを入れた。


これがリアムの住む世界だ。


「俺もあともう少しで魔法が使えるようになる。


そんで、本物の銃が持てるようになる…そうしたら、もっと強くなれるように修行するんだ」


「強い男に憧れるのもいいけど、まずはおばさんのこと心配させないようにするところから始めろ」


エアルの正論に、ミラは頷きながらも、笑ってしまった。



こんな日々が毎日続いた。


十一歳になり、魔力…無属性魔法が使えるようになった。


父から銃の扱いを教わった。


エアルは警官になる夢を追い始めた。


ミラは夢とか目標はなかったが、リアムの傍でいつも応援をしてくれた。


そんな毎日が、続いていった。



リアムは夢を見る。


…両親の背中が見えた。


何かから逃げているようだった。


俯瞰からでも解る。


俺は声にならない声で逃げろ、逃げろと叫ぶ。


親父が魔法攻撃をするが外れる。


そんなことしなくていい。頼むから逃げて、俺の所に帰って来てくれ。頼むから…。


逃げて、逃げろ!

親父、お袋!

手を伸ばしても、届かなくて。


どんなに願ったところで、親父とお袋は無残にも殺された。


心臓を貫かれ、身体にぽっかりと穴が空いて。


二つの死体が転がっている。


「ッわあああ!」


悪夢から醒め、飛び起きる。


カーテンの隙間から朝陽が差し込む。


汗でびっしょりと濡れた身体が気持ち悪い。


肩を上下させ息を整える。


夢と解っても気分が良いものではないほど生々しい夢だった。


リアムは腕で額の汗を拭うと、生活音が聞こえてくるリビングへ急いだ。


「おはよう…」


「おはよう、リアム。あら、折角今日の主人公なのに体調が悪そうじゃない。大丈夫なの?」


よっぽど酷い面をしていたのだろう。


朝食の準備をしていた母親が慌てて近づいてきた。


「大丈夫だよ。シャワー浴びてくる」


「そう…」


リアムがバスルームへ向かうと、母親はキッチンに向かい直す。


「あの子、大丈夫かしら」


「リアムだってもう一六歳なんだ、色々考える事もあるんだろうさ。あの年頃はだんだん語ることが少なくなってくる。余計な心配を小言で言うよりも、俺達両親がどんと構えていたほうが安心するさ…たぶんだけどな」


父親が三人分のコーヒーを淹れテーブルに置く。


「そういうもんなのかしら」


「そういうもん」


「…アナタは、十六の時は物静かだったの?」


「……いや?」


「はぁ、当てになりそうにもないわね」


母は、わざとらしく溜息を吐いた。



朝食を終え、気晴らしに散歩をする。


あの悪夢が離れない。


(気色ワリィ…夢のはずなのに。なんでこんな不安になるんだ)


だんだんと表情が硬くなり、眉間に皺が寄っていく。


考え事に集中しすぎて、周りの音が聞こえなくなり始めた時だった。


「リーアム!おはよう!」


その声にビクッと肩を揺らす。


「おぉ、ミラか。はよ」


後ろから背中を叩いてきたのは、幼馴染のミラだ。黒髪が色白の肌を際立たせている。


「今日お誕生日でしょ。おめでとう。明日お祝いしにリアムんち行くからね」


「はぁ?いいよ、別に。明日から親父達、仕事でティアマテッタに行くから留守だし。おもてなしできねぇぞ」


「だからだよ…」小声でボソリとミラが言う。


「ん?なんて?」


「なんでもない!とにかく、今日はおばさん達、明日は私。オーケー?」


「わかったよ。あれ、ミラ。お前なんか血色良くないか?熱でもあんじゃねぇの」


手を伸ばしミラのおでこに当てる。ミラは更に顔を赤くし声を荒げた。


「熱とかじゃないから!メイクしたの、メ・イ・ク!ローズピンクカラーのチークに今流行りのプリンセスパッションシリーズのラブリーピンクのリップも買ってみたの!」


「あーあぁ、わかった、わかったから呪文みたいな商品名言うな!」


「それで、どう?似合う?今日の為に張り切ったんだけど…」


ミラは視線を下に向け、髪の毛の先を弄り始めた。


リアムは、この仕草に弱かった。


だって、ミラが可愛く見えるから。


「に、あうと思います…」


可愛い女の子が、メイクして感想求めてくるとか、勘違いしたくなるじゃないですか。


ちょっと逆上せていると「あ!リアムおにいさんと、ミラおねえさん!」と元気で可愛い声がする。


エアルの姪っ子のアイリスと、エマが丁度散歩をしていた。


この数年で回りも変った。


エアルは無事に警官になり、エマには子供が生まれた。


「お、アイリス。今日も元気だな」


「おはよう、アイリスちゃん。エマ姉もおはよう」


「おはよう、ミラ。リアムはお誕生日おめでとう」


「おでめとう!」


アイリスはまだ四才のお転婆娘。


今は大人しいが、いつもエマを困らせていた。


…父親はいない。エマは、所謂シングルマザーだった。


「小さかったリアムもミラももう大人みたい。時間の流れって早いのね」


「エマ姉だってお母さんだし、アイリスがもう四才だよ?そりゃ私達も成長するよ」


「そうね。時の流れって早い。あ、リアム。おばさんに迷惑かけちゃダメよ」


「かけねぇよ」


エマはクスクスと笑うと、手を振り公園へと向かい歩いていった。



自宅に戻ったミラは、クローゼットに収納してある衣装ケースを引く。


中身はパステルカラーや、艶やかな色の下着達…。


ミラはパッションピンクの下着を手に取ると「明日こそは!」と気合を入れた。


「…ちょっと派手かなぁ」


改めて見ると、なんか背伸びしすぎというか、あからさまだったかもしれない。



テーブルの上にはリアムの好物が並んだ。


「別にもう喜ぶ年齢じゃないんだから、ここまでしなくても」

「そう言うな。父さん達には特別な日なんだから」


「そうそう。ケーキを用意しなかっただけ良しとしてよ。去年なんかケーキにネームプレート付けて用意したら恥ずかしがって怒っちゃって」


「あん時はまだ子供だなぁって実感したよな!」


「ねぇ!」


両親がキャッキャとはしゃぐ。


「もう忘れてくれ…」


急に恥ずかしくなり耳に熱が集中する。


家族が談笑する。


母親が作る料理はとても美味しい。


もうこの味が好きとか、美味しいとか照れくさくて言えないけれど。


代わりにいただきますと、ごちそうさまは欠かさず伝えていた。


「ごちそうさまでした」


「リアム。十六歳の誕生日おめでとう。これは父さんと母さんからのプレゼントだ」


厳重なケースを渡される。

想像と違うラッピングにリアムは怪しげに顔を歪ませるが、両親から開けてみて、とうい期待の眼差しが痛かったので恐る恐るケースを開けてみる。


「これ…すげぇ!特注の銃じゃん!マジ?!」


「そうよ、リアム専用の銃。おもちゃじゃない、本物の銃。銃を持つことは責任も生まれるし、何よりもう大人として扱われる。母さんたちも助けてあげられないことが出てくるかもしれない。だから、周りの人を助けなさい。それがいつか、巡って貴方を助けてくれるから」


「お袋…」


「その銃は一生ものだ。いつか大切な人や、家族が出来た時、そしてお前を守る武器になる。大事にしろ。だが使い方を間違えれば、その武器はただの人殺しの道具になる。わかったな」


「…わかった」


さ、今日はもうお開きにしようか。


父親が和めば、引き締まっていた場所が穏やかになる。


リアムはそっと銃に触れる。


(俺の銃。俺だけの…誰かを守る、銃なんだ…!)


その日、リアムは興奮して眠れなかった。


翌朝。両親がティアマテッタへ出張に出るのを見送り、二度寝した。


そしてミラとの約束の時間まで寝てしまい、ミラのピンポン連打攻撃で起きるというヘマを踏んだのだった。



それは突然だった。

電話が鳴る。

警察から。

要件は、両親の死亡の報告。

そこからリアムの頭には何も入ってこなかった。

だって今日、連絡があるとしたら。

両親からのこれから帰る、というはずだったのに。



これから警察署に両親の確認に行かなければならない。

重い足取りで進んでいくと、アーレント宅にエアルの車が止まっていた。


中堅刑事のエアルは多忙で、帰って来てもすぐ仕事に行ってしまうから、エマはいつも心配していた。


(エアル兄…帰って来てたんのか)


縋りたい。

会いたい。

誰かに会いたい。

会って、支えてほしい。

傍にいてほしい。

お願いだから、誰か。

エアル、エマ、ミラ…


「それにしても、まさかリアムのご両親が殺されるなんて…ましてや、胸部に穴なんて…」


「俺も発見したとき、リアムが頭を過ったよ。こんな姿のご両親を確認しないといけないなんて。まだ十六だぞ。大人でもキツイのに、辛すぎる」


「ねぇ、最近治安は大丈夫なの?~~…」


聞こえてきてしまった会話に、目頭が熱くなった。


目の前が歪んでいく。


この前みた夢と同じじゃないか。


警察が言うには、道中、賊に襲われた線が濃厚らしい。


じゃあなんだ。


あの時、行くなと止めていれば、両親は死なずに済んだのか?俺のわがままを聞いてくださいと、頼めばよかったのか?

気がついたら、無我夢中に走り自宅に戻っていた。苦しくて息が出来ず、ゼーハーと無理に呼吸をする。


するとインターホンが鳴る。誰にも会いたくなくて無視をしていると、ドンドンと玄関を叩いてくる。


「リアム?リアム!大丈夫?なんかすれ違った時怖かったよ?リアム…?家、入っていい?つうか、入れて。心配だから」


ミラだ。


タイミングが良いのか、悪いのか。


今は会いたくないのに、入れないとずっと玄関に張り付かれそうな気がして渋々開ける。


「なんなんだよ、お前。しおらしいと思ったら、命令口調で」


「なんだっていいじゃん。ねぇ、リアム。大丈夫?顔、ぐちゃぐちゃ…鼻水で汚いし」


「うっせーよ」


「ねぇ、リアム…私がいるから。そばにいるから。おばさん達、今留守だけど、私力になるから。だから、」


ミラがリアムの頬を手で包む。


親指で涙を拭う。


安心させるように、困ったように微笑むミラに、リアムは顔をくしゃくしゃにし、縋るように抱きしめた。


「ミラ…、ミラ!俺…!」


「うん、そばにいるよ」


ミラは、なんとなく察していた。


丁度、エアルとエマの会話が聞こえてしまったのだ。


リアムの両親が殺害されたこと。


物騒な事件が起きている事。


でも、リアムがちゃんと自分の口で話してくれるまで黙って、知らないフリをすることにした。そのほうが、今のリアムにはいいと思ったから。


冷える玄関で、ミラはリアムが落ち着くまで、ずっと抱きしめていた。



リアムはまた悪夢に魘される。


やめろ、やめてくれ。もう、これ以上大切な人達を殺さないでくれ!!


広い場所で、ミラが泣いている。そして横たわっているのは…


「やめろおお!」


手を伸ばすが虚空だった。


両親が死んでから何週間か経った。


葬式も終え、この家にはリアム独りだけとなっていた。


リアムはまたあの悪夢を見て、頭を抱えた。


そして苛立ちから叫び声を上げる。


最悪だ。今度は、ミラの両親が胸部に穴を撃ち抜かれ殺される夢。


「クソ!なんで、どうして…!」


背もたれをゴンと一発殴る。


このままじゃ正夢になる。そう直感する。


リアムは深呼吸し、形見となった銃を取り、決意した眼差しでベルトに装着し、急いでミラの自宅に走った。


「ミラ?おじさん、おばさん!!」


ミラ宅は誰もいなかった。ポツポツと雨が降ってくる。


(クソ!留守かよ!落ち着け、大丈夫。間に合う、間に合う!)


中心街に来たとき、いつもの賑わいとは違う異様な空気が漂う。


(嘘だ…ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイ!)


リアムは人だかりを掻き分け、騒ぎの中心へ駆けよっていく。


「すみません、退いてくれ!」


人だかりの中から、聞き慣れた声がする。その声が届いたとき、リアムの頭は真っ白になった。


「パパ、ママ!ねぇ、パパ、ママァ!いやああああああああ!」


息が止まった。


胸に穴がぽっかり空いた死体に泣きつく少女…ミラがそこにいた。


雨は次第に強くなり、豪雨となる。容赦なくミラの身体に雨粒を打ち付けて、泣き声すらも掻き消して。


血液は水墨のように地面に滲みながら緩やかに流れていった。




この世界は魔法で出来ている。

生かすのも、殺すのも、全てが魔法頼り。魔法は武器に形を変え、簡単に人を殺す。


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