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回想③ ナターシャ

 クロスを連れて冒険者ギルドに行くと、ジルヴァが先について待っていた。その隣りにはもう一人女の子がいる。


「初めまして、ジルヴァの友達のナターシャです」 


 女の子が深々と頭を下げる。

 身長はジルヴァと同じくらい、癖っ毛の茶色の短い髪に眼鏡をかけて本を抱えてる姿は頭よさそう。


「友達のナターシャよ。サントーレおじいちゃんの孫娘って紹介した方が親近感あるかしら。図書館にいたから捕まえてきたわ」

 


 ……てか、まさかな。ジルヴァがどんなやつを連れてきても驚かないと思ってたけど、サンじいの孫娘連れてくるとは思わなかった。サンじいがよく人間違いで口にしてたナターシャって孫のことだったのか。

 

「なんだか楽しいことを始めるってジルヴァについてきたけど、何が始まるの?」


 ナターシャが嬉しそうにジルヴァに聞く。何も説明せずに連れてきたらしい。


「ガラにチョコケーキ食べに行きたいのよ。だから冒険者として行こうと思ったんだけど、仲間が四人と冒険者ランクD以上ないと国外の依頼は受けらんないの。だから今から急いで仲間集めて魔獣ぶっ倒しに行くんだけどナターシャ仲間に入ってくれない?」


 ジルヴァがちょっと休みの日に買い物付き合ってくれない?くらいの軽いノリで誘う。

いや、間違ってはいないけれども。すげえ説明の仕方と誘い方。隣りのクロスもあきれている。あ、ちなみにクロスは聖騎士の本部の隣りのカフェにいた。女の子ナンパしてた。


 俺が王都に来た時、俺の動向見張る役割だったのがクロスだ。それから成り行きでクロスを庇護者にしちゃってから、その役割はゆるく続いている。

 王家の遺跡結界の解呪魔法知ってる魔道士が異国で行方不明になったら国は困る。そしたら王家から聖騎士に捜索の命令が下る。だったら最初から一緒に行こうって誘ったら、渋々ついてきた。


「どういうことだ?大司教のお孫さんまで仲間に引き入れたなんて聞いてないぞ、フィル……」


 クロスが小声で俺に聞いてくる。いやそれは俺も予想外。今初対面だって。


「く、クロス様ってあのクロス様!?王都聖騎士団で一番イケメンって噂の!?きゃあ、クロス様っ。お会いできて光栄です!!」


 ナターシャが目をキラキラさせてクロスの手を両手で握る。


「すごい!!カッコいい!イケメン!!ご一緒に旅が出来るんですか?もちろん行きます」


 真面目から一転、きゃっきゃと大騒ぎ。女の子ってのは忙しいな。

 一方でクロスの方は苦笑い。そんなクロスに小声で耳打ちをした。


「ナターシャにはマリアンナ様がアルミラの母親だってこと内緒にしといた方がいいな。紹介しろってうるさく言われそう」


「それを言うならフィルの方が正体バレたら大変だぞ。女性の噂話は一晩で王都を駆け巡る。色んな尾ヒレをつけてな」


 確かに。そう思った矢先、ナターシャが俺の方を向いて深々と頭を下げた。


「初めまして。おじいちゃんがお世話になってます。おじいちゃんからあなたのことはよく聞いてるわ」


「ど、どうも」


 クロスの時の反応とは裏腹に、ナターシャが俺の頭からつま先まで熱心に観察する。

 まさかサンじいから聞いてもうすでにバレてるのか。


「あなたが……ラシール教会のフィルさんなですね。私はてっきりフィルさんはもっとご高齢の方かと思ってました。意外にお若いんですね」


 よりによって一番バレちゃいけないタイプの子に俺が目覚めてることがバレたかもしれない。噂だけならまだしも、顔が知られたのは痛い。俺の自由もここまでか。


「あなたもなのね……」


「な、何が?」


「とぼけなくてもいわよ。あなたもフィリエル様に憧れているんでしょう?おじいさまの話では、フィルは魔道士の魔法も使えるって。ラリエット教会でそんな風に魔道士の魔法も使えるのはフィリエル様だけですもの」


「……?」


 待って。話の流れからいうと俺の正体がバレてるわけじゃない。この子はフィリエルは知ってるけどそれが俺だと分かってるわけじゃない?


「フィリエル様も教会出身の魔道士、賢者様ですもの。私の憧れなの。古代エルフと肩を並べるほどの魔法の使い手だそうよ」


 ナターシャが両手を祈るように胸の前で組み、目をとじる。妄想に突入したらしい。


「それにね、意外に若いらしいの。どんな方なのかしらね」


 どんなも何も、目の前にいるよ。ロアと肩を並べる魔法の使い手ってのはかなり話盛ってるけど。噂どおり若いだろ。


「今はどこか秘密の場所で眠ってらっしゃるって。王子様はお姫様のキスで目を覚ます……なんてね」


 ナターシャが両頬を手の平で覆い、恥ずかしがる。聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ。

 この孫、その秘密の場所がラシール教会ってことまでは知らないのか。何を知ってて何を知らないかわからないからリスクはあるけど……と、とりあえず正体はバレてないってことで良かった。


「ともかく人数はそろったし、あとはランク上げだけね。じゃあ依頼受けてくるわ」


 ジルヴァが受付に向かう。

 そんな感じで俺らが受注した依頼が、王都近辺の森に出るキラーアント退治と薬草集めだった。


 



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