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冒険者ギルドの依頼②

 森のさらに奥へとジルヴァが張り切って突き進む。この森、普通に魔獣いるとこなんだけど。ほんと恐れを知らないな、ジルヴァのやつ。


「ナターシャ!この辺りはどう?」


「ええっと、そうですね。いいかもしれません。探してみましょう」


 次は薬草集め。依頼ランクはF。

 薬草集めの依頼ってのは、ほとんどが商人ギルドから冒険者ギルドに依頼されたものらしい。普通の薬草なら農作物と同じように栽培すればいいんだけど、辺鄙へんぴな場所に生えるものや、魔獣がいる場所にしか生えない草花なんかの依頼がくる。

 魔獣と遭遇したら逃げ切れるのが冒険者としての最低ライン。


「フィル、ボサッとしてないであんたも探しなさい」


「へいへい」


 ガキの頃、薬草探しはロアに教わったから結構得意だ。俺はすっと身体の力を抜き、ジルヴァの言う通りボサッと立ち目を閉じる。


 地精霊と風精霊に聞くのが早そうだな。



 一陣の風が吹き、右耳の羽飾りがふわりと揺れる。



 ふうん、あそこか。ありがと。



 精霊に小さくお礼を言って全然違う方の草をかき分けているジルヴァに叫ぶ。


「ジルヴァ!そっちじゃない、向こうの大きな木の陰だって」


 三人で地をいお目当の草を探す。クロスは魔獣が襲ってこないか見張り役。


「あ、これですね!」


 ナターシャが薬草全集と草を見比べながら言う。


「すごいです、こんな短時間で希少な薬草見つけてしまうなんて!」 


「フィル、あんた鼻がいいのね。で、ナターシャ次はどの葉っぱ探せばいいの?」


「えっと、自生地が同じ葉は……あ、これはどうでしょう」


 ナターシャが薬草全集を指差す。尖った葉先以外はなんの特徴もないどこにでも生えてそうな葉っぱだ。でもこれ解毒に使えるってロアが言ってたな。


「よし、それにしましょう。さあ、フィル!匂いで探して」


「俺は犬じゃねえ」


 ジルヴァと言い争っていたその時、何かが近付いてくる気配がした。魔力も感じないし、耳飾りが反応しないところを見ると魔獣じゃないな。クロスも気がついたのか、剣を抜きながら葉陰の奥に向かって声をかける。



「誰だ?俺たちに用か?」


「おや、やはり聖騎士様でしたか」


 木陰から出てきたのは、でっぷりとしたお腹の中年の男だった。兵士……っぽくはないし、普通のおじさん。なんだ?迷子か?迷子にしてはずっとニコニコしてて怪しい。


「これはこれは驚かせてしまい申し訳ございません。私、王都であきないをしておりますリトッツォと申します」


 男が被っていた帽子を脱いでクロスに向かってうやうやしく挨拶する。クロスは慌てて剣を収めた。


「こんなところで何をしていたんです?迷われたんですか?」


「いえいえ、そういうわけではありません。ちょっと珍しいスパイスを採りに森に入ったらあなた方を遠くから見かけたものですから、お声をかけさせていただきました」


 リトッツォが望遠鏡を取り出す。その望遠鏡で俺らを見つけたということらしい。その笑顔が仮面のように顔に張り付いた顔で望遠鏡覗いてたのか。ある意味、変態だな。


「お一人でですか。この辺りは魔獣も出るので危ないですよ」


「ええ、それはわかっているつもりだったんですけどね。今日の昼には王都を出発しないとガラ行きの船が出てしまうもので、時間がないと焦って探していたら、いつの間にか森深くまで来てしまってました」


「ガラって、アジルナ王国のガラのことですか?」


 クロスが聞く。


「ええ、そうです。近頃、王都じゃいろんなスイーツが流行ってるでしょう。だからスパイスを売って、ガラで良質なチョコレートを仕入れてこっちの国で売ろうと思いまして」


「スパイスを売ってチョコレートを買うだけで利益って出るの?」


 話しに割り込んで俺が変態商人おじさんに聞く。

 スパイスってそんなに儲かるんだろうか。わざわざ異国まで行って売買するならそれなりの量が必要なんじゃないのか。

 

「んん?」


 変態商人おじさんは俺に目を向けると、途端に笑顔の仮面から無表情の仮面に付け替えたみたいに表情が豹変した。


「明日からガラでは星降り祭りというのが始まるんだけどな。星降り祭りではチョコレートケーキを食べるのが恒例で、ガラのチョコレートケーキは『至福のチョコレートケーキ』って有名なんだ。王都やシュトーレン貴族の間でも噂になってる。で、そのチョコレートケーキをこっちの国で作るにはガラの良質なチョコレートが必要で、貴族たちがこぞって買い求めてる。チョコレートの売買で儲けるというより、貴族様のお家とお近づきになるのが目的さ。子供にはにはわからんかもしれんが、あきないの世界ではコネが大事なんだよ、コネが」


 変態商人おじさんが面倒くさそうに耳をほじる。クロスと話す時と俺と話す時で話し方も態度も全然違う。わかりやすいな、この人。

 

「リトッツォさん、アジルナ王国で今アンデッドが多発してるって情報は入ってないの?」


「ああ……それか」


「情報通の商人ならもう知ってると思うけど、ラリエット教会からも僧侶が派遣されたよ。アンデッド騒ぎが深刻になったら、ガラの星降り祭りが中止になる可能性だってあるんじゃないのかな。それでも行くの?」


「うーん、まあ、それはなくもないな。実を言うと商人ギルド内ではそれも噂になってる。だから冒険者ギルドの方にも出張して、教会僧侶がいる冒険者をスカウトして取り合いだ」


「なるほどな。だから俺らのパーティに声をかけたのか」


 森で冒険者見つけてわざわざ声をかけて来たのはたぶん冒険者スカウトのため。ちなみに俺は今日、ラリエット教会の僧服着てる。


「ふふん、察しがいいな、少年」


 変態商人おじさんも意味深に答えてニヤリと笑う。


「俺らのパーティには」


 ラリエット教会の僧侶の俺がいるからって言おうとしたら


「そう、君らのパーティに聖騎士がいたのが見えたからな!」


 変態商人おじさんがクロスを指差す。


「王都聖騎士団はみなラリエット教会の祝福を受けていると聞く。武器も聖剣。アジルナ王国に行くのに、護衛にぴったりだ!」



 ……そっちか。どうりでクロスと俺に対する態度が違うと思ったよ。





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