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火の海

 空飛ぶ鳥の視点から見て俺らの舟は爆速で東に向かっている。俺らが出港したサバール港街から目指すアジール国の街ガラは海を挟んで南東の位置。でも東の海域にはAランク魔獣のクラーケンが出るってことで、その辺の海域の航行は禁止されてて、海流の関係やらなんやらで西から弧を描くように遠回りしてガラに行くのが通常航路。


 でも今回、ジェイク船長は時間がなかったから近道しようと思ったらしく、東海域ギリギリを攻めて航海したらクラーケンじゃなくてアンデッド船に遭遇。


 んで俺らは本船をアンデッド船から守るため、本船が逃げる間、おとりとなって引きつけるため東海域に向け爆進中。三隻のアンデッド船に追われている。

と、ここまでが今の状況。ほんと命知らずな行動に見えるよな。


「さて、そろろそかな」


 本船が空に上げる魔光弾が遠くなった。真上に上げたら自分たちの位置がアンデッド船にバレちゃうから、かく乱のため遠くに放っていると思うけど。それでもかなり距離が開いてきた。あんまり離れすぎると、このまま合流できなくなってしまいかねない。俺らは決して捨て駒じゃないんだから戻らなきゃ。


 俺は船の上で立ち上がった。


「おい、危ないぞ」


 ロンが俺の足にしがみつく。


「ちょうどいいや。そのまま俺が海に落ちないように支えてて」


 魔光弾で照らされてなくても集中するとアンデッド船が近づいてくる魔力が風の耳飾りでわかる。アンデッドには会ったことないからはっきりとは言えないけど、この魔力、たぶん黒魔術系の呪術で操られてるんじゃないかな。


 そんなことを考えながら魔法を詠唱。


 風の流れがピタリと止まる。


 大きな魔法を使うときには、俺だって詠唱するしそれなりに時間もかかる。


 アンデッド船が無風の中、ギィギィと不気味な音をきしませ近づいてくる。


「風がなくなった……!?おい、まずいぞ。追いつかれる!おいっ!何してんだ?さっきの風の魔法はどうなった」


 ロンが焦って俺を揺さぶる。

 うるさいな。ちょっと黙っててくんないかな。

 グラッセはオールを手にして舟を漕ぎ始めた。


 風の精霊、そして火の精霊に語りかける。

 力を貸してくれ、と。


 ふと右手の平の上に青白い炎が灯る。その炎が消えないようゆっくりと身をかがめ、海面にそっと置いた瞬間。




 風が、海面に一気に聖なる炎を広げた。




 発火と共に景色は一変した。草原のように青く燃えあがる海。



「なっ……!なんだこれは。何が起きてるんだ……!?」



 グラッセとロンが放心する。グラッセはオールを手から落とし、ロンは俺のズボンを掴んだまま脱力。おい、ズボンが脱げるだろ。


 俺は魔法の詠唱を続けた。

 海面に燃え上がった青い炎に熱はなく一陣の風に巻き取られ、三つの渦を作る。渦の中心は三隻のアンデッド船。アンデッド船は三つの天を突くほど巨大な青い炎柱となった。


 激しさと言うよりしなやかに燃え上がる炎。


 轟々《ごうごう》と渦を巻き海と夜空の間に立ち上る三本の青い柱。炎の中にはアンデッドたちがいる。死して身がちてもなお天に還れず海を彷徨さまようのは辛いだろう。



 俺は途中から魔法の詠唱から教会で使う鎮魂の祈りへと変えた。


やすらかに、眠れ」


 祈りの詞を終え、空を見上げると同時に、青い炎は空へと吸い込まれていった。青い炎をすべて吸い込んだ空は波紋のように大きく波打ち、そして元に戻った。



 星の輝く空。

 そこには静かな海と波の音だけが後に残った。





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