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航海

 船は沖に出ると風に乗ってぐんぐん速度を上げた。


 海と空しかない世界を、帆船が風に乗って切り裂いて行く。

 船乗りたちが帆に受ける風を調整してロープを巧みに操るのを、俺は夢中で見ていた。狭い甲板を身軽に駆け回って働くやつがいるかと思えば、酒瓶片手に生き生きと歌い出すやつもいる。なんか自由でたくましい。

 俺も船乗りになろうかな。


「おいっ、そこの若えやつ!!ぼさっと突っ立ってねえでこっち手伝いやがれ!!」


 はるか上空から男の怒鳴り声が降り注ぐ。上を見ると、帆柱の中間あたりにある見張り台みたいな所に男がいた。


「さっさとこっちこい!!」


「え、俺?」


 周囲を見ても怒鳴る男の視線の先には俺しかいない。来いって言われてもどうやって?


 帆柱を登るかロープをよじ登るかなんだろうけど。そんな身体能力俺にはなさそうなんで、ここは得意の魔法を使う。

 

 常に海風が吹いてるから、地上で浮遊魔法使うよりはるかに難しい。


「呼んだ?」


 見張り台の男の正面に一気に浮遊魔法で現れたら、腰を抜かして驚かれた。


「うおあっ!!なんだお前!?!?飛んだ!?幽霊か!?」


「いや魔道士だよ」


「魔道士!?なんで魔道士がこんなとこにいるんだ!お前、船乗りの見習いじゃないのか!?」


 ああ、そうか。自分が魔道士の格好じゃないことに気づく。


「俺は船乗りじゃなくて……」


 狭い見張り台の上に着地し説明しようとしたちょうどその時、男の背後に広がる景色が目に入った。俺の意識はそっちに奪われた。



「うわあ」



 水平線に日が沈み、空が赤く燃えていた。


 エルフの里に行く途中で見た、山に沈む夕日も綺麗だったけど、海に沈む日も綺麗だな。



「見つけた!フィル!そんなとこにいたのね!下にいくわよ!」


 ジルヴァの声で我に返る。下を見下ろすとジルヴァが降りて来いと叫んでいた。


「俺、船乗りじゃなくてあいつの連れなんだ。この船がガラに行くっていうから一緒に乗せてもらってるんだ」


「そ、そうか。だから魔道士か。ガラは魔法使いだらけだからな」


 ガラといえば魔法と連想するくらい魔法が浸透している国らしく、男が腰を抜かしたまま妙に納得した。


 帆柱に触れながら浮遊魔法を使いながら垂直降下すると、ジルヴァが腕を組んで待っていた。


「フィル、あんたあんなとこで何してたのよ」


「なんもしてないよ。呼ばれたから行っただけ。なあジルヴァ、海って海しかないのな」


 陸から海を見る時は、街や森の向こうに海があって空や雲がある。そんな景色は何度も見た。でも大海原の真ん中から見た海は、どこを見ても海と空しかない。なんていうか、海がこんなに広いとは知らなかった。


「何わけのわからないこと言ってんの。ナターシャたちはもう先に行ってるからさっさと行くわよ」


 ジルヴァの後について梯子で一つ下の層に降りていく。


「私たちの寝床に案内するわ。この船は客船じゃないから狭いし汚いけど我慢してよね」


「へえ、船の腹の中で寝るのか」


「上甲板で寝たいならどうぞ」


 星を見ながら寝たいと思ったけど無理そうだな。寝ている間に波にさらわれそう。


「当たり前だけど食堂とかはないからお腹空いたら自分で勝手に食べてね」


「わかった」


 飯は出港前にパンと果物と水をサバールの酒場で買ってきた。


「ここよ。このハンモックを使っていいって。ちなみに船乗りたちに決まった寝場所はないの。どこでも寝るから」


 寝床といっても天井は低いしドアもない狭い物置きみたいなところだ。

 その部屋の柱に端と端を結い付けた大きな布があってそれをハンモックと呼び、この中で寝るらしい。なるほどこれなら船が揺れても転がることはない。


「つってもハンモックは二つだけ。私とナターシャで使うからフィルは床ね」


 見せつけられただけだった。


 その部屋のさらに奥の部屋の壁際にクロスとゴーフル、ナターシャがいた。


「フィル、やっと来たか。迷子になったかと思ったぞ。俺とゴーフルは船長室に挨拶に行ってくるよ。出港前に挨拶できなかったからな。ジルヴァ、取り次いでもらえるか?」


「いいわよ。でもまだバタバタしてるから後で行きましょ。それまでは大人しくしてて」


「ではガラに着いてからの行動計画を立てましょう。それから、これからは単独行動禁止でお願いします」


 ナターシャが俺を見て言う。昨日初めて会ったばかりなのに、もう俺がどういう性分か見抜かれたみたいだ。




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